王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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どうにか投稿出来ました………。
ちょっと区切りが良い所見つけるのに時間が掛かってしまったせいか、大分文字数が長くなってしまってます……。18000に迫る……苦笑


兎に角 投稿できてよかったです。
これからも頑張ります。











P.S

近日(今年中??) 番外編が…………………………


第89話 戦え村人B

烏野高校 vs 扇西高校

 

 

近年での戦績は、互いに3回戦止まりの高校だ。

ネームバリューは烏野の方があると思われるが、ここ最近の戦績を見比べてみると 恐らく五分五分だと予想されるだろう。

 

 

―――だが、それは机上の論、データだけを見た者の意見である。

 

 

 

烏野は今化けようとしている。

今年入った若いカラス達が、まるで宮城の空を支配していっているかの様だ。

空を……そして地でも。

 

 

「月島ブロック!」

「!」

「(この姿勢(フォーム)、視線―――)フェイント! 前!!」

「任せろ!!」

「西谷ナイスレシーブ! 影山!」

「はい! 東峰さん!」

 

 

空に意識し過ぎると、地が疎かになる。

 

烏たちは その隙を一切見逃してはくれない。

 

結果 扇西は良い様に翻弄され続けていた。

 

翻弄され、意識が散漫になってしまえば、烏野の大砲を防ぐ術は最早無い。

 

「シッッッ!!」

 

東峰の強烈なスパイクで仕留められる。

 

烏たちが……烏野が攻守共に完全に扇西を圧倒していた。

 

 

 

 

 

「スゴい……、あんなの、触ったら腕もげる……」

 

谷地にとって初めての試合。

本当の試合(・・・・・)

 

バレーボールと言うのは、あんなにも早く動くのか。

あんなに強く打っても破裂しないのか。

 

 

――バレーボールと言うのは、時として これ程までの弾丸(凶器)にさえ成りうるのか。

 

 

 

それが谷地の率直な感想である。

得点板をぺらっ、と捲りながら 凄いとは思いつつも やはりあまりの迫力のせいで青ざめていた。

 

 

「もう、10点目だ………」

 

点を捲っていた時にふと思い出す現在のスコア。

試合は始まったばかりの様な気もしていたんだが、気付けば烏野は10点台に突入。

扇西はまだ3点しか取れていない。

 

烏野が圧倒している。

 

 

 

 

「うわ……、今の反射もやばい……!」

 

 

相手のブロックで跳ね返されたボール。

それも山なりのボールではなく、逆に打ち返されたのでは? と錯覚してしまう程の鋭角に叩き落されるボールだ。

 

それを、見事に拾い上げたのは、勿論……。

 

 

「ナイスカバー! 火神!!」

「ごめん短い!! 飛雄たのむ!!」

「おう!!」

 

 

火神だった。

谷地は、単純にスパイクは背の高い選手が有利だから、コートを守るレシーブは、小柄な選手の方が有利では? とフワッと考えていたのだが、火神のレシーブを見て覆される結果になった。

西谷の反射も凄いが、火神も決してそれに負けていない。

身体はあんなに大きいのに……、動きが早い。落下する前に、ボールとコートの隙間に手を伸ばして拾い上げるなんて、人間業じゃ……と、谷地は驚く。

 

 

「……凄いレシーブでも、スパイクに比べたら、やっぱりあまり目立たない、っていうけど。……冷静に見てたら、凄いでしょ?」

「は、はい! 未来でも見えてるの!? って思っちゃいます!」

 

同じく点をつけていた清水に、興奮しながら話す谷地。

彼女がバレーに興味を持ってくれてるのが解る表情だったので、清水もやはり嬉しくなる。

 

 

そして、試合もドンドン進んでいく。

 

 

レシーブの精度もスパイクの精度も、徐々に上げて行っているのが解る。

戦ってるのは、扇西な筈なのに…… まるで烏野側も 負けてたまるか、と言う気迫が見て取れる。対戦相手だけではない。――――身内にも。

 

ミスが無いワケではないが、どれだけ点差がついていても、全く妥協する事が無い。常に貪欲に上へ上へと羽ばたいていく様だ。

 

 

 

 

 

「(凄い安定感だな………。攻守において隙が見えない)」

 

主審の役を行ってくれてる扇西のコーチ三谷。

間近で見て本当によく解ると言うものだ。

 

監督の柏崎が、【烏野は化ける(・・・・・・)】と言い切った理由が。

 

伝え聞いた通りかなりレベルが高い。

 

レギュラーの半数以上が1年。

だから烏野は1年を中心としている若いチーム、と言っていい。

 

だが、若いチームにありがちなぎこちなさ、ミス、コミュニケーション不足等の要素が今の所見られない。

 

かなりレベルが高く熟練されているとさえ思う。

 

青葉城西と言う県No.2相手に後一歩まで迫ったと言う実力はまさしく本物だ。

 

 

特筆すべき点は、幾つかあるがまず11番。

 

あの火神は 前衛でも後衛でも点を獲る事が出来ているのに加えて、リベロ顔負けなレシーブも魅せてくる。得点率が高いから決して無視できないスパイカー故に囮としての効力も脅威の一言だ。

 

そして、周囲もそれに負けじと突き進んでいる。

 

主将はあの1番 澤村だし、要所要所重要な点で声掛けを常に行い、コミュニケーションを短い間でも密に取ってる所を見ても、精神的支柱になっているのは間違いないが、あの火神は 言葉ではなく姿勢で、プレイで、引っ張ってる様にも見えた。

 

【火神が拾ったのだから、次は自分も拾う】

【火神が繋いでくれた一球、必ず決める】

【自分も負けられない】

 

 

相乗効果で上がっていく様に見えた。

元が高いスキルを有する烏野だ。

あの西谷は勿論、エーススパイカーである東峰や烏野の壁である月島、多彩な攻撃陣を自由自在に操れる影山。

 

それらが、更に勢いを増してやってくるなんて、最早恐怖を感じてしまう。

 

 

 

【堕ちた強豪、飛べない烏】

 

 

 

などと練習試合前に揶揄してしまった自分が恥ずかしいとさえ思うレベルだ。

 

そして、それだけではない。

 

 

「(レギュラー陣だけ……ではないな。控えの選手も、何ら遜色ない――――)」

 

 

次に目に入るのは 交代して入った選手の存在。

 

その中で一際目立つのは、やはりあの5番、田中だろう。

 

主将の澤村と交代で入った田中。

確かに澤村の方が攻守共に安定感抜群で、総合力が非常に高い選手だと言える。

だが、田中の特徴は攻撃力特化型な所。

 

完全なパワー型だ。

 

 

まさにチームが万能型タイプから攻撃力特化型タイプへと変わったのだ。

 

 

そして、勿論 無視出来ない、忘れてはならない。

やはりあの男(・・・)も脅威の一言。

 

 

 

「ラァァァァッシャイ!!」

 

 

田中の一撃が相手ブロックを弾き飛ばし、そして点を入れた。

 

 

「うわぁ……、田中さんの音もすっごい……。ハデですね~~!」

「ふふふ。だよね? ……それだけじゃないんだ。確かに烏野(ウチ)には凄い選手が多いよ。背も決して低い方じゃないと思う。それに前も言ったけど攻撃力だって守備力だって県内トップクラス。……でもね。目立ってる選手ばかりに気を取られてると――――」

 

 

清水はニヤッと笑いながら言った。

 

 

小さな烏を見失う事になる(・・・・・・・・・・・・)

 

 

丁度、その時。

日向が超高速セットアップ つまり変人速攻を決めた瞬間だった。

 

強いパワーを持つ田中やオールラウンダーの火神、そして 烏野1のパワーでエースの東峰。彼らに何度もやられた扇西は、それらを当然強く意識するだろう。

 

その結果―――清水が言った通り、小さな烏を見失った。

 

その身長からは考えられない程高く飛び、誰よりも先に一番高い所へと到達する。

 

 

「(……そうだ。この10番だ……ッッ)」

 

 

三谷も主審で至近距離で見た故に、突然現れたかの様に思えてしまった。

 

誰も止める事が出来ない。いや、ブロックに跳ぶ事さえできてなかった。

 

 

「あの日向に、一歩出遅れたら、もう捕まえられないんだよ」

「――――――スゴイ!」

 

 

谷地は、自分は単純だと思っている。

だから、背の高い人が高い位置から打ち下ろしたり、強い攻撃を出来るんだろう、と漠然と考えていた。

 

だが、日向は違う。

 

恵まれたとは言えない体躯なのに、今 あの瞬間だけは どんな背の高い選手よりも遥かに高い位置から打ち下ろしている。

 

 

「翔陽! 今の跳躍(ジャンプ)、打点が落ちてる気がするぞ! もう、へばったか!?」

「っ!? へばってねーよ!! まだまだ高い打点で打てる!! 影山、もっと高い位置にくれ!」

「おう!」

 

 

そして―――今の一撃でも、相手にボールを触らせなかったと言うのに、悔しそうに歯ぎしりをしている。

決めた方も、見ていた方も、一切妥協を許さない。

 

 

「――――全く、満足していない………」

「ふふっ、その辺も()みたいでしょ? もの凄く貪欲。………あの、負けた日から より貪欲さが増した気もするんだ。……勿論、他の皆も」

 

 

日向・影山・火神の会話を聞いて、より一層気が引き締まった感じがするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

セットカウント 2-0

 

25-10

25-13

 

勝者:烏野高校。

 

 

 

 

 

 

全部終えた帰り道。

扇西の柏崎と三谷は、想像を超えていた光景を目の当たりにし、まだその余韻に浸っていた。

勿論、扇西の選手達も勝つつもりで来ている。誰一人として、点差をどれだけつけられても諦めたりしてない。

 

 

 

「烏野……、すげぇ強くなってる。去年とは比べ物にならない……」

「くっそ……、でも、触れた。指先に、触る事が出来た。後ちょっと、後ちょっとあれば………」

「全然フロアを意識出来てなかった。闇雲に打ったフェイントじゃ捕られて当然だ……!」

「冷静に見れば、もっと隙があった。……サーブ、もっともっと磨いて次こそは……!!」

 

 

 

負けた後は、悔しそうに歯を食いしばっている。

 

それこそが、より強くなる為に必要なプロセスである。

 

修正すべき点を模索し、今後に活かす。

次こそは止める、と選手達からの声を聴きながら、烏野についての事を話していた。

 

 

「―――凄かったですね」

「ああ」

 

 

まず最初に出てくるのは、呆れてしまう程の称讃の言葉。

 

「烏野に勝った青葉城西や、その上の白鳥沢も凄いとは思うんですが…………」

「ああ。解ってる。……遜色ないよ。その3つ共にな。相性ってのも少なからずあると思うが……、今日やった烏野が例えその2校に勝った、と聞いても何ら驚かん」

 

つい最近のIH予選の結果だけを見れば、烏野よりも更に上が居るだろう。

だが、最早この2校の何処が勝っても白鳥沢に対して番狂わせとは思えなくなっている。

青葉城西も本当にギリギリまで王者を追い詰めた事実もあるのだから。

 

 

「――――さて、だからと言って、指を咥えてみてるだけ、と言うワケにはいかんな」

「……はい。勿論です」

 

 

考えれば考える程、げんなりしてしまうかもしれない。

 

ただでさえ、全国でも常にベスト8以上に食い込んでいる白鳥沢やそれに遜色ないレベルにまで上がってきている青葉城西。……そして、今日体感した進化した古豪:烏野。

 

考えれば考える程――――大変だ。

だが、だからと言って戦う前に諦めてる訳ではない。

今日、その一角を体感する事が出来たのだ。

 

そして、選手達の戦意も決して堕ちていない。諦めた者など1人もいない。

 

今日は2セット、1試合分しかできなかったのが悔やまれる、と言う声すら出てきている。

 

 

今後の選手達の更なる飛躍を期待しつつ、帰路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、烏野では。

 

 

 

「すごい! すごいね!! すごかった!!」

「おおお!! ほんと!? そーでしょ! そーだよ! そーだよね!?」

 

 

日向と谷地の2人が盛り上がっていた。

あの日向の小テスト結果を聞いた時の様に。

 

 

「私、見てるだけだったのに、こうっ、その、こうっっ!!」

「わかった!! ぐわあああっ! だ! ぐわあああっ!! ってキた!?」

「そう!! ソレ!! キタ!!」

「じゃあ、マネージャーやって!! 谷地さん!!」

「!?」

 

 

常人には理解できない事、それはきっと世の中には幾つもあるのだろう。

それがたまたま、ここ宮城県の一高校。……烏野高校に集中しているだけだ。……きっと、たまたま。

 

 

―――と、何処か遠い目をしてみていた月島がとうとう口を開く。

 

 

「……意味不明だよね。会話がね」

「日向のノリについていけてるのが凄いのか、それとも元々持ってたモノなのか……」

「ハハハ、盛り上がってるよなぁ、あそこ」

「通訳してあげれば? 皆 多分困惑してるよ」

「大丈夫大丈夫。本人たちが解ってれば」

「流石お父さん。寛容だねぇ~いろいろと」

 

 

山口や火神と話す月島。

日向語を解読できるのは、今の所火神だけだと思っていたが、きっとあの谷地も通じるモノがあるみたいで、新たに増えた気分だ。……あまり喜ばしくないかもしれないが、日向と言う理解が追いつけない者を、火神と共に御する事が出来るかも? と思えば悪くない気もする。

 

 

 

「―――あっ、でも…… こんなスゴイ部でスポーツ自体に疎い私じゃ足手まといになるし……」

「足手まといって?? あっ、それよりも谷地さん! 聞いて聞いて!?」

「Oh!?」

 

 

谷地の悲痛な面持ちが……、日向の勢いにかき消された。

 

「強引さは翔陽が圧倒してるねー」

「……それで良いの?」

「良いの良いの。ストレートに来られたら、中々逃げれないじゃん? 谷地さんにだって色々伝わるものがあるよ」

「……そういうもんなのかなぁ」

 

2人のやり取りを火神が解説。

月島と山口は……、とりあえず火神の説明だから、とある程度納得していた。説得力有る無しの違いと言えるだろう。火神以外の他の人だったら、こうもあっさり納得はしなかったと思われる。

 

 

そして、日向はと言うと。

 

 

「オレね! やった事あるんだ! 【村人B】!!」

「ええっ!?」

「そんでもって、主役より目立とうとして怒られた!」

 

 

それはいつか谷地が言っていた事だ。

自分は村人Bである、と言う自虐的なネタ。

 

それを日向は思い出していたのだ。……勿論、自身の過去の役と一緒に。

 

それを聴いた谷地は驚いていたが……、次の言葉はより驚く事になる。

 

 

「日向が……??」

「うん! それにオレだけじゃなくて、誠也もだよー!」

「ファッッ!? 火神君(しゅやくきゅう)が!?」

 

 

今日一番のビックリかもしれない。

あの迫力満点な本物のバレーの練習試合よりも………ある意味。

 

 

「あー、そう言えばそうだな。オレはBじゃなくCだったけどね」

「へー……、なーんか意外と言うか、そうでもないと言うか」

「基本的にやりたい人が挙手で、だったし。やりたい、ってヤツ多かったから(演劇に興味無かったし、それに さ、流石に 精神年齢的に 劇をやりたい、って思えなかったし……)」

 

火神も思い出したかの様に呟く。

高校生2回目である精神年齢が高い火神。流石に率先して挙手してやりたい! と主張するのは控えていたのである。

 

山口も意外だったのか、少々気の抜けた返事だったが、火神の説明でとりあえず納得。

月島はこれに関しては興味なし。

 

「へっ、お前ら 村人Bって……」

「あっ!? 影山コラ!! 今バカにしただろ!? バカにすんじゃねぇよコノヤロー! 村人Bには村人Bのカッコ良さがあんだよ!! それに影山はどんなのやったんだよ!」

 

日向が村人Bに対して力説している時でもやっぱり、気になるのは火神の村人B……ではなくCくらい?

 

「んーー、オレ 村人Cより、確か……猿蟹合戦? の劇でやった 木の役の方が印象に残ってたかなぁ」

「へっ。村人Cの次は木かよ」

「ん。てか 飛雄、翔陽が待ってるぞ」

「そうだぞ!! 影山は何やったんだよっっ!」

 

マウント取った気分なのか、勝ち誇ってるのか解らないが、にやにや笑いをしてる影山は兎に角スルーして、日向の方を指さす火神。

 

影山に対して、何をやった事があるんだ? と聞いたのに、スルーされた気分だったのだろう。異様に近づいてきていた。

 

そんな日向を片手で抑えつつ、更に一段と凶悪な笑みを浮かべながら答える。

 

 

「―――【月】とかだな。夜のシーンで出てくる」

「!!!!」

 

 

スケールが違いすぎる! と日向は感じたのだろうか、大きく仰け反っていた。

日向と火神は、人間……木……に対して、あろう事か影山は地球から宇宙へと飛び出して、夜を象徴すると言って良い月の役目だ。

 

「くっそっっ、かっけぇ……!」

「火神も影山もだけど、その役いるの?」

「ああ、オレの場合は 柿の木だから 猿担がなきゃいけなかったんだよ。んで、クラスの中じゃオレが一番デカいし、力もあったから、選ばれたってワケ。(脇役だし、丁度良かったよなぁ……)」

 

日向は、影山に対し、負けた―――と思ったのかもしれない。

 

その点、火神は普通に劇について思い出しながら説明。

 

 

「へぇ、蟹をイジメる猿を日向がやったとか?」

「うんや、悪役は別のヤツ。そん時も日向は村人Bだった筈」

「―――……猿蟹合戦で人って出てきたっけ?」

 

 

ここらで、澤村達3年生も混ざってきた。

 

「へぇ、火神のそれって結構大変そうだなぁ。オレも馬やってたから、結構疲れた記憶がある」

「「馬っ!!」」

 

 

 

 

その日の練習試合終了後。

 

何故か、今日のバレーの試合………敗北後の初勝利である練習試合の話題よりも、劇の話題で盛り上がり続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日の部活前。

 

 

「谷地さん、体育館行く?」

「ぅあい!??」

「も、そろそろ慣れてよ。流石に」

 

学校の授業も終わり、後は部活を残すのみ。

帰宅部以外はもう教室に誰も残っておらず、部活に入ってる生徒たちもチリヂリ。

 

火神は谷地を誘ってバレーに、と思い 声を掛けたのだが……やっぱりまだまだ相変わらず慣れてない様である。

火神はただただ苦笑いしていた。

 

 

とりあえず、部活に一緒に行く事になった。

谷地は過剰反応気味だったが、そろそろ慣れて、と言う火神の言葉がそれなりに効いた様で、ぎこちなさはあるものの、だんだん頑張ってくれていた。

 

谷地の様子が昨日と違う事は当然火神も解っている。

 

100%とは言えないが、恐らく―――――高い確率で、母親に色々言われたのだろう事も。

 

「えっと……その……、火神君。ちょっと、いいっすか?」

「?? うん。大丈夫。どうしたの?」

「えっと……、昨日、バレーのこと、母に言われた話で……」

 

 

谷地は火神に話をした。

 

火神が考えていた通りだ。

谷地仁花は、母親である谷地(まどか)と話をしていた様だ。

 

 

バレー部のマネージャーに誘われた事を母親に報告して……その後、母親から言われたことを火神に話した。

 

 

母は最初は普通だったんだけれど、烏野が全国大会にも行った事がある強豪校、だと言う認識を母は持っていた様で、そこから厳しくなった。

 

 

【本気でやってる人の中に入って中途半端やるのは一番失礼な事だから】

 

 

そう母に言われた。

 

谷地はずっと考えていた事ではあった。

足手まといになるのではないか、と。……練習試合の時もただただ圧倒されただけで、何も得られてない、と思ったから。

 

これから勉強していけば良い―――と、何処かで思っていたのだが、あまりにも凄かったので、全部母が言う様に中途半端になってしまうのではないか? とも思ってしまったのだ。

 

 

「ん―――なるほど。……無責任にあんまり人の事言うもんじゃない、って思うけど……」

「お、オス。覚悟してるっス」

「多分、谷地さんのお母さん、谷地さんの事待ってるんじゃないかな?」

「……? 待ってる?」

 

谷地は思ってた事とは違う答えが返ってきて、首を傾げた。

 

「うん。まぁ、オレの想像だから。話半分に聞いてね? ―――谷地さんに、自分の言葉を跳ね返すくらい、言い返してもらいたい。応えて貰いたいんだと思うよ。だから、ちょっと厳しめの事、言ったんじゃないかな? ほら、【自分を超えていってみろ!】みたいな感じで」

 

火神は人差し指をぴんっ、と立てながら自分の考えを説明。

 

「お母さん……。そう、なのかな?」

「うん。きっと、ね。だから 勇気を出して自分の気持ちを伝える! っていうのも良いかな? って感じかなぁ」

「そっか。……そっか」

 

沸々と小さい灯ではあるが、胸の中に確実に灯った火種を谷地は感じた。

 

「あ、オレだけじゃなくって、他の皆の意見を聞いてみるのも良いと思うよ。翔陽とか、清水先輩なら、谷地さん話しやすいでしょ?」

「ウス! 了解でありますっ!! っと、後もう1つ良い、かな?」

「OK」

 

谷地は、敬礼していた手を下ろすと……ほんの少しだが勇気を出して、踏み込んだ質問をした。

 

 

「火神君は、スゴクバレー上手だけど、最初の切っ掛けとかはあったのかな? ……って。劇的な切っ掛けとか。プロからのスカウトがきてたり! 人命救助の結果!! とかだったり!?」

「うんうん。谷地さんが通常運転になったのが何だか嬉しいよ」

 

 

言ってる事がかなり変なのだが、谷地の事は同じクラスである事も含め、良く知ってるつもり。だから、火神はある意味安心できたのだ。……言ってる事が結構脈絡のないムチャクチャではあるが。

 

 

「う~ん……、まぁ ご期待に沿えるような劇的なのは無いかな? 子供の頃、バレーボール触ってみて、小学校の時にスポ少があったから入ってみて……、うん。普通、かなぁ。やっぱ、最初は勢いっていうのも大事だよね」

「へぇ………。そ、そうなんだ………」

「あの、谷地さん? 本気で驚いてる訳ないよね? プロとか人命救助とか、本気で思ってたりしないよね??」

 

谷地の言う事が起きてたのだとしたら、最早火神は神童と言って差し支えない男だろう。

 

ご生憎様ではあるが、バレーで注目されたのは、当然 あの北川第一の時のインパクトだ。それ以前は当たり前だが無名の存在。時折、女子バレーを手伝ったり、他の部の手伝いをしたり、程度である。

 

 

「いや、火神君って主人公だから……」

「結構凄い事、素で言ってくれるね!?? 主人公って何?? オレ、劇の話も 木とか村人Cだって言わなかったっけ??」

「う、う~~ん」

「怪しんでる感じ!? 嘘ついてないから!」

「や、や、そんな滅相も無い! 怪しんだり、ウソだなんて……、ただ、ちょっと驚いてるだけで……」

 

谷地は、両頬をぎゅ~~っとつまんで引っ張った。

どうやら、夢じゃないか、と確かめてる様だ。

それ程までに、衝撃的だったのだろうか……。

 

谷地の中で、自分はいったいどんな奴なんだ? と火神はこの時ばかりは驚いた。

 

 

「ははは………。まぁ、アレだよ。成り行きで始めたもの(・・・・・・・・・・)が少しずつ大事なもの(・・・・・・・・・・)になって行ったりする事だってある(・・・・・・・・・・・・・・・・)んだよ。オレのほんとの(・・・・)スタートは 好奇心からだった。ボールを触った事(・・・・・・・・)からだった。そこから、………色々とあって、思いっきり頑張ろう、って思う様になったんだ」

 

 

ウソ偽りのない事だ。

 

 

ここで少しだけ―――火神は薄れ霞んでいる前世の記憶を遡った。

バレーのほんとの切っ掛けについて。

 

確かに、バレーの影響を物凄く受けたのは、当然 ハイキュー‼だ。ハイキュー‼が切っ掛け、と言うのも間違いじゃない。

でも、バレーに興味が無かったら、ハイキュー‼にだって出会えてなかった。

 

 

一番初め、本当の本当の最初は……、祖父にバレーボールを貰った事が切っ掛け。

小さなチームの監督をしていたから、バレーボールを持っていたんだ。その辺りは、烏養前監督に通じるモノがあるかもしれない。

結構熱血的な祖父だったから。

 

バレーを知り――――そして、バレーを題材にした大ヒット作品があることを知った。

 

小学校の低学年の頃……だったと思う。

興味を持ったタイミングとハイキュー‼と言う作品に出会えたタイミングは、殆ど一緒だったので、ここまでのめり込んだ切っ掛けはハイキュー‼。

 

生憎、こちらの世界で

 

 

 

この世界(ハイキュー‼) に憧れてバレー始めました! 影山(王様)を是非ともぎゃふんと言わせたいです!】

 

 

 

的な発言した所で、聞かされた相手に通じるワケもなく、ただただ疑問符を沢山頭に浮かべるだけになるだろう。……そんな事は絶対に言わないし、言えないけど。

 

 

谷地は、まだ漠然とした様子だった。

 

「まっ、悩んで悩んで、1人で答えを出すのが難しいなら、視野を広げて、色んな人の意見を聞いてみるのも良いと思うよ。……烏野には 聞いてくれる人は沢山いる。そこは保証するから」

「う、ウス!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、女子更衣室。

当たり前だが、火神とは別れている。

 

火神の言っていた事を思い返しながら……谷地は入部届の紙を眺めていた。

 

 

「……仁花ちゃん。何か迷ってる?」

「ッッ!!」

 

 

考え込んでいたせいか、直ぐ後ろで着替えていた清水の事をすっかり忘れてしまっていた。

どうやら、谷地の仕草や雰囲気で、それを読取ったのだろう。

 

「あっ、その……」

「因みにだけどね」

「!」

 

火神に言われた事を思い返し、谷地は清水にも意見を貰ってみよう……と思ったのだが、清水の方が早かった。

 

 

「私は元々スポーツはやってたけど、バレーもマネージャーも未経験だったよ。……何だって始める前から好きって事無いじゃない?」

 

 

次の清水の言葉に、谷地は驚きを隠せれなかった。

 

 

「何かを始めるのに【揺らぎない意志】とか【崇高な動機】なんて無くていい。――――成り行きで始めた物が(・・・・・・・・・・)少しずつ大事なものに(・・・・・・・・・・)なって行ったりする(・・・・・・・・・)

 

 

それは、ついさっき―――火神が言っていた言葉と同じだったから。

 

 

「だから、後はスタートに必要なのは、チョコっとした好奇心くらいだよ……って、仁花ちゃん?」

 

清水は振り返って最後まで言おうとした時。谷地が固まっている事に気付いた。

緊張して固まってる事はよくあるが……、この表情はそれとはまた違う、と感じたので、清水は軽く手を振り、そして肩を叩いた。

 

 

「どうしたの?」

「あっっ!! い、いえ、スミマセンです!!」

「??」

「あ、いや……その。さっき―――」

 

 

谷地は清水に伝える。

先ほど 火神が言ってた事、そして今清水が言った事が同じだった、と。

 

 

それを聴いた清水は、少し―――驚いていたのと同時に、いつも以上に穏やかで朗らかで、優しい笑顔を作る。

 

「そう……、火神が私と同じだったの」

「ウス! 何でも切っ掛けは小さいころバレーボールを触ったからだと――――……」

 

 

その後は、何故だか、火神関連の内容の談義に花を咲かせる事になった。

クラスでの火神の様子等を次第に根掘り葉掘り聞かれてしまったので……、部活時間ギリギリになってしまったのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、部活の休憩・給水時間。

 

 

「翔陽、ちょっと良いか?」

「おー! どしたー!」

「谷地さんが話あるって」

「??」

 

火神は日向を呼んで、谷地に引き合わせた。

 

谷地は、日向相手にはそれなりにフランクに接する事が出来る様で、緊張する事も特になく、一連の内容を伝える。

 

日向は、うんうんと頷きながら…… 迷わずストレート。

 

 

 

 

 

「じゃあ、お母さんに言われたから迷ってんの?」

「おぐっ……!!」

 

 

 

 

 

結構デリケートな問題だった。

谷地にとって、意思の弱さやこれまでの引っ込み思案、その他諸々が重くのしかかっていた問題だった。

 

だからこそ、日向のあまりにも直球ストレートの言葉が谷地に突き刺さり……身体が くの字に 曲がる。

 

 

「オレなんか、もっといろいろと大変だったよ? ほんと。なぁ? 誠也」

「そこでオレに振るか。……ん~~……」

 

火神は、とりあえず 日向の歴史を振り返ってみた。

中学時代は一先ず置いておこう。あの時はバレー部は無く漸く集まったのが中学3年。最後の年だったから。

 

高校での、日向の歴史―――たった数ヶ月の波乱万丈な物語……。

 

 

 

 

「烏野来て、毎日の様にバレー部!! って、違うクラス(オレのクラス)に乗り込んできてたよな? 知らん顔の方が圧倒的に多いのに。それで、入ったのは良いけど、何かいきなり飛雄と一緒に教頭のヅラすっ飛ばして出禁喰らいかけたり、飛雄の後頭部にフルスイングサーブぶつけたり……んー、後は田中さんの股間にゲ〇入りエチケット袋を引っかけたり………、かな? デカいトコは」

「そうそう! そんな感じ!!」

「んな、元気よく言うな!! 後始末めちゃくちゃ大変だったんだぞ! 色々と! 何か、オレが1年纏め役になっちゃった原因の8割近くは翔陽だからな!」

「んぎゃっ!」

 

ニコニコ顔で自信満々に頷く日向の頭に、ゴツッ☆ と軽く拳骨を入れる火神。

 

谷地は、ただただ青ざめていた。

 

火神が言ってる言葉を、頭の中で想像して、映像化して――――更に真っ青に。

 

 

「それ、色々と無事だったんですか……? (命のやり取りしてると言っても過言じゃないのでは……?)」

「うんにゃ? 色々とお仕置き(・・・・)はしてるよ」

 

ニコッ、と笑ってる火神。

 

……笑ってるんだけど、何だか笑ってる様に見えない。そんな矛盾してる表情を見て、谷地はびくっ!! と身体を震わせた。

 

「とりあえずさ!」

 

 

拳骨喰らって沈んでいた日向だったが、即座にリカバリーして跳び起きる。

 

 

「オレ、色々迷惑かけちゃったし、中学ん時も合わさったら、一番誠也に迷惑かけてる!!」

「自信満々に、ンな事言わないっての!」

「でも! オレは今も無事バレーやってるんだよ! 谷地さんもやりたい事、やれば良いと思うよ。……バレー、やりたいんでしょ?」

 

 

最後は真っ直ぐ谷地の目を見て問う日向。

いつも馬鹿な事をしてる時が多いし、実際にテストの点数だって馬鹿だ。

 

でも、真剣な時だってある。真摯に、真剣に、息をする様にバレーに打ち込んでる日向の言葉は、想像以上に重い。そして、時折見せる迫力もきっとそこから来ているのだろう。

 

 

「………うん」

 

 

谷地は、正面から受け止めつつ、しっかりと頷いた。

あやふやにはせずに、はっきりと。

 

それを聴いた日向はただただ笑顔。

 

 

「じゃあ やればいいじゃんっ!!」

 

 

単純明快。

 

やりたい事があるなら、やれば良い。

 

谷地がバレーのマネージャーをしてくれると、自分達も嬉しいし、谷地自身がやりたいと思ってるのなら、悪い所は1つも無いではないか。

 

 

「基本猪突猛進に加えて単純一途を真っ直ぐに突っ走ってるからね、翔陽は。だからかな、ほんっと色んな意味でストレートに頭ん中に入ってくるんだ。………だからか たまに、自分が悩むのが馬鹿らしい、って思っちゃう事さえあるんだよね。谷地さんもそんな感じ、しない?」

 

にっ、と苦笑いをする火神。

 

 

谷地は、ゆっくりと頷いた。

 

 

「あははは……。うん。確かに」

「谷地さんの最後の背を、押してくれるのは翔陽。……何だか、そんな感じがするよ」

「そ、そっスか?」

「そっス! そっス!」

 

 

にこやかに話をしている間に、ヌッ、と入ってくるのは清水。

 

「……火神。澤村が呼んでる」

「っ! っとと、了解です」

 

 

火神は清水に言われて、立ち上がると澤村の元へと駆け出した。

 

この清水の表現が中々しにくい迫力。

谷地は、日向の言葉や火神の言葉で、今は頭いっぱいだった様で、聞けてなかった様だ。(意図的に声を小さくした可能性有)

日向とはまた違った意味で、ストレートに頭の中に入ってきたのは言うまでもないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、部活も終わり帰り間際の事。

 

 

「マジかーー」

「? どうしました? 菅原さん」

 

菅原が、何やらスマホを見ながら驚いた顔をしていた。

 

「ほれ、コレ見てみ。【ウシワカ】が載ってる」

「ウシワカ……、牛島さんですか……、えーっと」

 

火神も菅原のスマホを見せてもらう。

確かに、そこには牛島若利の名と写真、そして出身校・ポジション・身長体重と全てが載っている。

 

牛島程のレベルの選手になると、その手のHPは幾らでもあるので別段おかしい事ではないが、菅原が見ているHPがまたスゴイのだ。

 

 

「ユースに、選ばれてます。やっぱり凄い!」

「だべ? 今見たけど ヤバイ事だよ、コレ。宮城じゃ、ウシワカしか選ばれてないし……」

 

「ユース?」

「世界ユース。簡単に言うと、19歳以下の日本代表」

 

 

菅原と話してる所に、山口と月島が入り、そして月島の日本代表と言うワードに日向が飛び付いた。

 

 

 

「日本代表に、ウシワカ!!?? ジャパンだ!! ジャパン、って書いてる!!」

 

 

 

菅原のスマホを食い入る様に見つめ、一点に集中。

やはり、代表が着る服、胸に刺繍されているJAPAN の字に反応した。

 

勿論、影山も例外ではない。

世界の頂点を目指してると言っても過言じゃないから、先に居る牛島は 影山にとってみば、ポジションこそ違うが、その舞台へと行けた選手の1人……超えるべき存在なのだ。

 

牛島を倒す事が出来たのなら、その先の舞台も自分達が進む事が出来るかもしれないから、と。

 

 

「宮城、ってスガは言ってるけど、それどころじゃないよな。……牛島(コイツ)は、宮城……と言うより 東北で唯一の代表(・・・・・・・・)だ。春高でコイツを倒さないといけないワケだ……」

 

 

澤村も、菅原の様にげんなりと顔を顰めていた。

春高に必ず行くつもりではいる。必ず。

 

だが、立ち塞がる壁の高さを、改めて認識させられる思いだ。

 

世界ユース、と言う肩書は 十分過ぎる程威力を発揮しているのだから。

 

 

 

「強ければ強い程、燃えますね! あの及川さん達よりも強い相手です! ……やってやりましょう、澤村さん! 菅原さん!!」

「…………」

 

 

 

自分が気圧されている時、3年が気圧されている時、この1年の火神は笑顔だった。

勿論、火神だけじゃない。

 

 

 

 

「ヤベー ヤベーー!! 気合入る!! スゲーー入る!!」

「ユース……。セッターは 何処のどいつだ……???」

 

 

 

 

月島と山口を除く、1年3人は大いに盛り上がってる。

対抗意識を燃やしてる。

 

 

 

 

19歳以下の日本代表(・・・・)を相手に、である。

 

 

 

 

 

「っはは……。影山も日向も。それに火神だって十分ヤバイか。それに、こういう時に歳相応の顔ってヤツをすんだよなー 火神は。普段はアレ(・・)なのに」

「って、アレ(・・)ってなんスかアレ(・・)って」

「わははははは! 頼りになる顔、って事だ!」

「だべだべ~」

 

火神の肩に腕を回す澤村。

菅原もそのわきに拳を入れる。

 

何となく納得できない火神だったのだが……。

 

 

 

 

 

 

「じゃあさ、言えば?」

「え?」

「谷地さんのお母さんが働いてるトコ、解る?」

「え? え? えと、解る……けど?」

「じゃあ、行こう!!」

「へ? わぁっ!!?」

 

 

 

 

 

 

何だか周囲が騒がしくなった。

日向が谷地の手を引っ張って走り出したのだ。

 

 

 

「わっ、わあっ、は、はやっっ!! せ、押す、じゃなく、て、ひっぱられてるーーーーっっ!!?」

 

 

日向に手を引かれる谷地。

 

女の子の手を引っ張って一緒に走るのは、まるで少女漫画の様に絵になる―――――事は無かった。

 

日向は結構気合入れて走ってるから。

恐らく、ウシワカ(ジャパン)の影響が少なからずあるのだろう。

 

 

「何処行くか知らないケド、気を付けて行きなさいよー?」

 

「アス!!」

「ふぁ、ふぁぁぁぁいぃぃぃ!」

 

 

 

 

 

 

そして、2人はあっという間に見えなくなってしまった。

 

 

 

「んで、何処行ったんだ? 日向は」

 

菅原が火神に聞く。

火神は軽く笑って答えた。

 

 

「多分……。いえ きっと、谷地さんの為に。最後の一押しをしに行ったんだと思います」

「「???」」

 

 

勿論、火神のその言葉を理解できるものは此処には居なかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして 暫くして――――烏野高校にて。

 

 

 

 

 

「かぁぁがぁぁぁみぃぃぃぃくぅぅうぅぅぅんっっっっ!!」

「ふぉっ!?? ナニゴト!??」

 

 

 

 

 

汗水ダラダラ流しながら、髪ばさばさと乱暴に靡かせながら、もの凄い形相で迫ってくる影が1つ。

 

ほんのつい先ほど、烏野から飛び出していった谷地である。

 

女の子がそんなはしたない~ とお母さんが見てたら言いそうなくらい、取り乱してる。

火神の眼前にまで、ずっしゃあ!! と急ブレーキ込みでやってきて、膝をついて必死に息を身体の中へと入れよう入れよう……と、咽ている。

 

 

「ぜーーっ、ぜーーーっ、ぜーーーっっ!」

「ど、どうどう、落ち着いて落ち着いて…… 水でも買ってこようか??」

 

 

火神の心配を他所に、谷地は大きく……これまた髪が降り乱れてもお構いなくぶんぶん左右に振り回して、告げた。

 

 

「が、がわれだ!! わだじ、いえ゛だ!!」

「大丈夫大丈夫、ゆっくりで良いから、オレまだ帰らないから。―――ほら、もっと深呼吸して。大分聞き取りにくいから。何言ってるかわかんないから!」

 

 

火神に促され、谷地はもう一度、二度と深呼吸を繰り返し、嗄れ声だったのをどうにか元に戻すと。

 

 

「言えた!! 私、自分の口で言えた!! 【村人Bも戦えます!! マネージャーやるから!!】って、お母さんに言えたっっ!! 勇気だして、伝えれた!! ヘタレなかった!!」

「お、Oh……!」

 

 

ずいっっ、と顔を近づける谷地。

火神もあまりの迫力に仰け反らせてしまう。

 

 

丁度その時、武田に用事があって 離れていた清水だったが、戻ってきてこの場面を目撃。

殆ど至近距離、眼前にまで迫ろうか、と言う谷地と火神を見て、ピクピクーーンッ! と清水センサーが色々と働いたのだが……、今回に限っては何もアクションしなかった。

 

何故なら、谷地の言葉の方が早かったから。

 

 

 

「私!! もいっかい言う!! 烏野バレー部のマネージャーやるからぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

大きな大きな声で、入部する、と決めてくれたから。

凄く嬉しくなり、清水も駆け寄ってきた。

 

 

 

「ほんとっ!?」

「あ、はい!! 清水先輩っっ!! 村人Bもしっかり戦える事、示して見せまっス!!」

「(村人B?)仁花ちゃん、ありがとう!」

 

 

 

 

ぎゅっ、と清水に手を握られると……やっぱり色々と緊張してしまう谷地だったが、この時ばかりは精神がかなり高揚しているので、問題なさそうだった。

 

 

 

「やったぞー! 誠也――! マネージャー2人っ!! 強豪みてぇ!!」

 

 

 

谷地の迫力は、驚く事無かれ、【最強の囮】である日向のそれを上回る程の存在感であり、今の今まで谷地と日向は一緒にいた筈なのに、完全に掠れていて 今更ながら気付けたのは火神。

 

とりあえず、日向に驚きつつ――――軽く拳を向けた。

 

 

「翔陽。強豪みたい(・・・・・)じゃないよ。……オレ達は強い。強豪だ、って事を次の公式戦で見せてやろう。……もっともっと上に行ける、ってな?」

「!!! もちろんだーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、更に時間は流れていく。

 

 

 

 

 

練習を重ね、合間合間に赤点組は勉強も頑張り、文武両道、日々無駄なく充実していた。

赤点組はどうしても、不安が過ってる様だが、サボってる者は誰一人としていない。

 

 

 

 

谷地も頑張った。

 

 

 

 

【村人Bの快進撃】

 

である。

 

 

 

 

「武田先生!」

「ハイハイ!」

 

谷地も、初めての運動部のマネージャーとして、出来る事をやる。自分が出来る事を……と、考えた時、1つ浮かんでいた。

 

 

「あの、私遠征の資金が足りないって話 聴いちゃって……、そのことでちょっと良いですか?」

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に、――寄付金を募る1枚のポスターが商店街に掲示される事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒のユニフォームを纏った男が、宙を飛び―――ボールを今、打とうとしている姿。

スパイク姿勢(モーション)の日向の姿だ。

 

ポスターの題はこうだ。

 

 

 

 

 

【“小さな巨人”再来。烏、再び全国の地へ】

 

 

 

 

 

初めて、烏野が全国の舞台へと駆け上がった時に、湧きに湧いたのが小さな巨人だ。

それが再び復活―――ともなると、当然興味を持つ者も出てくるだろう。

 

 

 

 

「ははっ、谷地さん凄いな? 翔陽」

「うん。……すっげぇ………」

 

数枚印刷された内の1つが、ここ烏野高校にもある。

谷地が体育館に持ってきてくれて―――皆が驚いた。主役は日向だが、それに対して文句言う者は殆ど居ない。羨ましそうにしてる男たちは若干いたが。

 

そして、ポスターの前で思わず魅入ってしまっている日向。

 

これに関しては、モデルが自分自身である事に十分酔っても構わないと思う。

それ程までに、会心の出来だと思えるから。

 

「はは、日向だけで良かったのか? 火神。おとーさんとして、一緒に映ってあげた方が良かったんじゃない?」

「いえ、………こういうのはやっぱり翔陽が一番ですよ。……間違いなく。最強の囮なんですから、思う存分に目立ってもらわないと。こっちは 背を押してやるくらいじゃないと」

 

菅原の言葉に、火神は首を横に振る。

 

その姿はまるで、息子の晴れ舞台を見守るかの様な――――――。

 

 

 

 

 

 

「お、おとうさん………」

 

 

 

 

 

 

不意に、谷地もそう呟く。

それを聴いた、他の面子が、一斉に吹き出す。

 

 

「うわっはっはっは! だよなーー!」

「そうだべなーー、火神はおとーさんだよ、間違いなく。谷地さんも認識しちゃったよ」

「すっごい自然に出てたなー、おとーさんって」

 

 

盛大に笑われて初めて、谷地がお父さんと、自分の事を言ったのに気が付いた火神。

 

「谷地さん!?? オレ、同じクラスだからね!? クラスメートだからね!? 年齢詐称なんてしてないから!!」

「ふぁっ!??」

「はいはい、落ち着いて、火神。……澤村から正式な発表があるから。皆も。ジャージ着て並んで」

 

清水の号令で、お祭り騒ぎだった場に規律が生まれた。

烏合の衆が、しっかりと管理されている。

 

 

 

「(おかあさん??)」

 

 

 

火神がお父さんなら、清水はお母さん? と谷地も、日向と同じような印象を清水に持った。

 

 

そんな事は清水は露知らず。

持ってきた新品のジャージの上下を手に持つと、澤村の方を向いた。

 

 

「よし、お前ら。……今日から谷地さんが、マネージャーとして正式入部となった。……ということで―――――」

「ん。ハイ、仁花ちゃん」

「!!! うおおおお……!!」

 

 

澤村が清水に頷き返すと、手に持ったジャージを谷地に渡す。

背中には、ばっちり【烏野高校 排球部】と描かれている。

 

これで、正式な仲間となった。

 

まるで、村人Bが勇者パーティーに入れて貰えた様な、そんな感覚。

あり得ない、とさえ思える興奮を谷地は顔に思いっきりだして喜んでいたその時。

 

 

澤村が最後の〆にと声を出した。

 

 

「せーのっっ!」

【ようこそ!! 烏野高校排球(ハイキュー)部へ!!!】

 

 

ノリの悪い月島以外は、全員が背中を向け、親指で部の名を刺繍している部分を指し、谷地を最大の歓迎で迎えた。

 

 

「ッ~~~!! よっ、宜しくお願いシャス!!」

【シアーーース!!】

 

 

もう、大きな声で、ビビる弱弱しい村人Bなんかじゃない。

谷地にとっては、勇者のパーティーであるこのバレー部に受け入れてもらえたのだから。

 

 

新たに気合を入れつつ……胸を張った。

 

 

「よし。東京遠征まで、もう少しだ! ……んでもって、まだ最後の関門があるぞ」

 

 

先ほどまで、テンションMaxだった4名が一気に消沈する。

情緒不安定だと思われるかもしれない勢いで。

 

 

「――――勿論、テストだ。……解ってるな?」

【……………】

 

 

 

まだまだ万全とは言い難い。

万全なんて――――本当に言えない。

 

 

「せ、せいやぁ……!」

「乗り掛かった舟。ちゃんと最後まで付き合うって」

 

ひしっ、と抱き着いてくる日向の頭をとりあえず抑えながら、火神は了承。

すると、日向は 火神に抱き着きながらも、ぐるんっ、と首を回して 谷地の方を見た。

 

 

「や、谷地さんも助けてっっ!!」

 

 

火神1人体制だった時と、火神&谷地の2人体制だった頃を比較してみると――――勉強嫌いな日向や影山でもどちらが有意義だったかくらいは解る。

谷地のノートは物凄く解りやすかった、と言う事もあった。

 

 

「いいよ~~」

「!! あ、ありがとう!!! か、影山君も、しっかりお礼言いなさい!!」

「アザス」

「何だか、翔陽が飛雄の保護者っぽい発言だな、今の」

 

 

日向に続いて影山も頭を下げた。

 

バレーに関しては、影山は 幾らでも努力するし、セッターの自分に対し、どんな要求が来たとしても最大限に答えて見せる自信もある。

 

 

―――が、勉強に関しては当然ながら話は別。

 

 

日向に何ムカつく事を言われても、今は背に腹は代えられない。

万全とは程遠いのは影山に最も当て嵌まるかもしれないから。

 

 

「どこでする!?」

「じゃあ、私ん家でどうかな? お母さん居ないし」

 

 

日向の案に対し、谷地がそう答えたその時だ。

 

「ちょっと待って、仁花ちゃん」

「え?」

 

清水が、不意に声を掛けた。

 

谷地を手招きして、何やらボショボショ~ と小声で話しをしている。

 

谷地の顔は、最初は真剣そのものだったが、軈て赤くなり、爆発し、そしてコクコク、と頷いていた。

 

そして、清水に連れられて、谷地は3人の元へ。

 

 

「仁花ちゃんの家の傍に、市営の図書館があるから、皆そこに集合で。場所は解る?」

「「「???」」」

 

 

谷地の家で~ と決まりかけていた所に清水の場所変更のお知らせ。

 

今の短い時間に何が? と思ったが 深く考える事なく 3人は頷いた。

場所を調べるくらいなら……きっと簡単だから。

少なくとも、火神が居ればその辺は大丈夫だろう。

 

以前、日向がロードワーク中に道に迷ってしまったが……、別にこの周辺は、そこまで知らない土地と言うワケでもない。

 

 

 

 

 

 

因みに、清水が言ったのは 当然谷地に対して無防備(・・・)になり過ぎない事。

 

家に親が居ない状態で男を――――知っている間柄とはいえ、女のコ1人に対して男を3人も家に上げるのは止めといた方が良い、とだ。

 

勿論、火神! ……日向や影山、3人が何かをするとは思ってないし、信じているが まだ知り合って間もないのも事実だから、それとなく忠告したのである。

 

谷地はそんな事一切、一寸も、完全に全く頭の中には無かった状態なので、よくよく考えてみたら、確かに初っ端から色々とフレンドリーな日向に対して耐性は一瞬で出来たかもしれないが、同じクラスの主人公である火神や正直、まだまだ慣れてない影山も一緒に家の中へ………と、冷静に考えたら恥ずかしくなってしまったのだ。

 

部屋の中とか見られることを考えたら更に。

 

 

 

 

 

色々と悶えてる谷地とテストに向けて、勉強をと言う3人の傍らで、清水は 何故だかホッと胸を撫でおろすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テストが一番の関門であり、大きな事件の前触れとも言えるだろう。

日向や影山にとってみれば尚更だ。……強大で巨大な敵。それがテスト。

 

 

 

 

 

だが――――、それを超えんばかりの大事件と言うものは、いつも唐突にやってくるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

翌日―――。

 

 

 

 

「―――オレに何か用か?」

 

 

白鳥沢学園 バレー部主将 牛島 若利。

 

高校ジャパン! に出会う事になったから。

 

 


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