王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅くなりすみません!
本当に忙しすぎです………非常に贅沢な悩みだとは解っていても、12月は……… 苦笑

でも、何とか文字数目標超えましたので、投稿します! と言うより、この話は15000を超えちゃってるのでちょっと長いです。
原作沿いで物語的にはあまり進んでないのは申し訳ないですが。
次の話くらいで、王者を出せたらなぁ、と思います。頑張ります!


後!

お気に入り登録者数10000超え!! 達成してました!!

本当に、この王様にぎゃふん! を読んでくれてる皆様のおかげです!
沢山の登録・評価・感想、そして、誤字修正、報告まで 本当にありがとうございます!
これからも頑張ります!!

そしてそして、もう1つ達成! 投降後に気付きました。(笑)
 
こちらは目標にしてました!!
平均文字数10000字以上も達成!! 
はい、完全な自己満足です。苦笑





P.S

10000超え記念に、活動報告でも ちらっとあった(ウソとありますが(笑))《特別》な話を……………考え中だったりするとか、しないとか………(笑)
あまりに忙しすぎるので、まだまだ全然未定です。苦笑


第88話 扇西高校戦

「じゃあ 今日は練習見学だね。緊張しなくていいからね」

「シャチ!!!」

「(シャチ………??)」

 

 

勉強を見てあげた結果が日向に反映出来た事に喜んでいた谷地だったが、一先ずその喜びは横に置いておく。

これからは、初めての練習(見学)だ。どんな事であっても初めて(・・・)が付く事は、誰だって緊張してしまうものだ。それが人一倍敏感な谷地なら尚更。

 

初めてという事で清水もある程度は傍に居るのでとりあえずは大丈夫だろう。

 

「(来た! シャチ返事……!!)」

 

傍で聞いていた火神が思わず口を押えて吹き出そうとしてるのを必死に我慢してたのはまた別の話。勿論、誰にも気付かれない様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、でも流れ球には気を付けてね? 結構凄い威力だから」

「ハイ!! ……ん?(……ながれだま?? はっ!! まさか…… 流れ……()!?)」

 

清水から唯一の注意事項を受けた谷地。

流れ球を……流れ弾、と勘違いしてしまった様で、思いっきり震え上がった所で、周囲をキョロキョロと見渡す。

 

 

「(火神君とも清水先輩とも話し過ぎたが故の……暗殺!? 狙われる!??)」

 

 

 

暫く谷地は、練習の内容より、外から狙ってる暗殺者に気を配り続けるのだった。

 

 

 

 

 

だが、そんな気持ちは直ぐに消し飛ぶ事になる。

 

最初は準備運動、ランニングから柔軟体操を経て、本格的なバレーの練習。

凄い威力のサーブ、スパイク、そして硬い体育館の床に飛び込んでのレシーブ。

 

どれもこれも、谷地には初めての事だった。

 

体育でバレーはしているけれど、そんなのは足元にも及ばない。まさに象と蟻だ。

腕が捥げるのではないか? と思いそうなボールを打つ人が居れば、決して捥げたりせず、上げて見せる人もいる。

あまりの光景に谷地は目を奪われてしまう。

 

 

「んんッッ!!」

「火神ナイスレシーブ!」

「山口ブロック! ちゃんと止まって上に飛べ! ブロック面積広く! でも隙間は空けない! バンザイ(・・・・)になってた!」

「ゴメンっ!!」

 

「田中! 隙間狙ったまでは良しだ! だが、絶対さっきの火神がコースに居たの解って打っただろ!? パワーだけで押し切れると思うな! コースも考えろ!」

「スンマセン!! 見えてました!! 力任せでした!!」

 

 

まず音が違う。

ボールの勢いが違う。

 

身体中に伝わってくる熱気が違う。

 

 

「声出せ! 声!! 上げていけ!!」

「おお!!」

「最後まで追いかけ続けろよ!! サボったら一発で解るからな!! その1発でまた泣く羽目になるぞ!!」

【アス!!】

 

 

大分コートから離れた位置にいると言うのに、谷地は全身を何か見えない風圧の様なモノに叩きつけられる感覚に見舞われていた。これはいつもの過剰反応とはまた違う。本当の本物だった。

 

そして、清水の言う流れ球の意味をよく理解する。

 

目にもとまらぬ勢い、超剛球で何度も何度も迫るバレーボール。

その都度、選手達が拾い続けてはいるが、それでも何球か拾い損ねるモノはある様で、谷地の傍、ほんの後数mの距離の位置で着弾したり、頭2~3個分右側の壁に当たったりと、思わず目を閉じてしまう場面が何度もあったから。

 

 

「大丈夫??」

 

 

ボール拾いや、その他 清水もマネージャーとしての仕事をしつつ谷地にも気を使う。

流石に常に守ってあげる様な事は出来ないので、ある程度慣れて貰わないといけない。

 

「アッ! ハイ!! 体育じゃないバレー、こんな近くで見るの初めてでして……! ほんと、凄い迫力です……!」

 

なかなか自身の持つ語彙力では表現しきれないかもしれない。

それでも、思った事をそのまま口に谷地はした為、清水には十分伝わってきた。

 

清水は、まだまだ続く流れ球を、まさに貫禄ある! と言えるブロックで防ぎつつ、谷地の方へと近付くと笑顔を見せながら言った。

 

烏野(ウチ)は 攻撃力も守備力も県内でもトップクラスだと思うよ」

「うへーーっ! あの威力なら確かに……。そ、それに 今の凄い一撃、腕がヒドイ事になりそうなの、さらっと取ってましたよね……」

「うん。凄い威力の攻撃は確かに見栄えは良いけど。……目立たず、極普通に拾ってのけるのも同じくらい凄い事なんだ」

 

清水はちらっ、とコートの方を見た。

丁度、東峰の強烈なスパイクが打ち放たれる寸前、山口と菅原が東峰を止めるべく、ブロックに跳んでる場面。

 

 

「ブロック2枚!」

「旭!」

 

 

東峰の空中姿勢、トスの高さ、そしてブロック。

 

山口と菅原のブロックタイミングが合ってきているのだろう、ブロックの上から叩かれる事は無い、と瞬時に判断。

ストレート側もほぼ、閉まってる。精度重視するなら アンテナに当たらない様に打つ事も出来ると思うが、東峰はどちらかと言えばパワー型。より打ちやすい方へと全力で打ち込むエース。

 

十中八九、打つ場所はクロス側。

 

 

「ッッ!!」

 

山口も東峰がクロスに打つ、と言う事を察したのだろう。

控えとはいえMB(ミドルブロッカー)と言うポジション。日向達に負けたくない気持ちは大きい。あの青葉城西戦でよりそれは強く感じていた。

確かに東峰には敵わないかもしれないが、それでもパワーに屈する事なく、止める! と言う気持ちは強く持ち、大きく腕をサイドへと振った。

 

東峰の威力、球速の方が山口の腕を振る力よりも圧倒的に上だったからか、当てる事は出来たが、威力は殆ど変わる事なく、ボールの軌道だけが変わった。

 

 

「んんんんッッ、がっ!!」

 

 

ディグに控えていたのは火神。

クロス側の可能性が極めて高い事、そしてストレート側には 守備No.1と言って良い西谷が居る事。それらを総合的に判断して、コース取りをしていたのだが……、山口の手に当たった事で軌道が変わった。

 

だが、ほんの刹那の時間だったが、久しぶりにバレーが出来る事に対する喜びで普段よりも集中力が増していた事もあってか、東峰のスパイクを拾い上げて見せた。

 

勿論、Aパスなんて贅沢なレシーブは出来なかったが、落下地点はエンドラインよりやや外。威力は十分に削ぐ事が出来ており、次に繋げる事が出来る。

 

 

「火神ナイスレシーブ!!」

「(やっぱ旭さんの、すげぇ痛ぇぇ、ケド、足ん時に比べたら、色々と(・・・)全然マシ!!)んッッがっ! やまぐちぃ!! 間に合わない、ってなったら 無理に腕振り回さないでくれ!! 今の捕れたのほぼ偶然だ!」

「くっそ!! ゴメン火神!!」

 

 

「もう一本行くぞぉぁぁ!」

「旭!! 決めるまで、影山に上げさせるからな!!」

「おう!! 次は決める!!」

 

 

谷地にとって、東峰の容姿も合わさり……人でも十分に殺せそうな程の剛速球を上げて見せた火神を見て。

 

「うひぃっ!?」

 

と思わず変な声を上げてしまっていた。

それと同時に、自分にボールが当たった訳でもないが、思わず腕を摩ってしまう。

 

 

「ね?」

「は、ハイ!!」

 

 

清水は丁度スーパーレシーブ場面を見せれる事が出来たタイミングの良さと火神のレシーブ力に感謝しつつ、谷地に笑顔を向ける。

谷地自身も、清水に言われた事100%を理解しきれたワケではないのだが、十分に凄い、と言う事は理解出来たのでとりあえず良しとした。

 

 

「うおおお………!! 潔子さんがしゃべっとる……! 笑っとる……! お口動いとる……!!」

「旭さんのスパイク上げやがった! やるな、誠也! って、マジか龍!! マジだよ龍!! あれがガールズトークってやつなのか……!!」

 

 

キツイ練習の筈だ。

もう春高予選まで……否、東京まで後僅か。気合が入ってない訳がない筈だ。

頭痛の種であるテスト関連も、バレーで思う存分身体を動かしてる時は忘れられる筈だ。

 

そんな出来うる環境での最善にして、濃密な練習の時間であっても、決して揺らぐ事が無いのが、田中や西谷の清水目視(レーダー)

 

 

清水が 笑っている姿を見る事は、彼らの中では希少(レア)中の希少(レア)

 

 

どれだけ苦しくても……、視界の中にその御顔が映ったのならば、即座に反応する。

そして、苦しい練習の中で反応してしまえば……。

 

 

 

 

「ふわふわしてんじゃねーぞ!! ゴラァァァァァ!!!!」

「「ぎゃーーー!」」

 

 

 

 

鬼となった烏養コーチにシゴかれるのである。

 

 

 

 

そんなことは軽くスルー。

耳に入ったとしても、そのまま右から左へと受け流す清水は、そのまま谷地との話を続けた。

 

 

「烏野はね。昔は全国大会に行けるくらい強かったの」

「ぜんこく………!」

「でもね。ここ数年は連敗中。……優勝争いからも脱落しちゃって【落ちた強豪、飛べない烏】なんて呼ばれてた」

 

 

昔強かったが、時代の流れ故にか嘗ての力を失い、衰えていく……と言う事は別に珍しい話ではない。これまでに 運動部には縁のない人生だった谷地であっても、それくらいは知っている。

 

ただ、今の烏野が当事者である事は知らなかった。

目の前で繰り広げられてる凄まじい光景。これよりも更に上が居るのか……? と思わず震えてしまう。

 

そんな時、清水の表情が変わった気がした。

 

 

「……今度こそ、行くんだ。全国の舞台……! 次こそはきっと行ける、って私は信じてる……!」

 

 

その表情、谷地は見た事がある。

 

そう、きっとこの場の誰よりも見ている気がする。

 

同じクラス(・・・・・)に、こんな表情をする人が居るから。

 

 

「凄いなぁ……、私とは違うなぁぁ……!」

 

 

谷地は、触発されたワケではない。

ただただ凄いと思い続けるだけだ。

 

そう、自分とは全く違う部類の人間たち。

まるでテレビの中の人達に憧れの視線を向ける様に。

入部するとするなら、谷地は清水とは立場は先輩後輩はあれど、同じ筈なのに、何処か他人事。

そんな視線をこの見学中ずっと向け続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習も終了。

 

武田から連絡事項があった。

重要な部類のものだ。

 

 

 

「えー、明日ですが。急遽 扇西高校から練習試合の申し入れがありましたので、お受けしました。IH(インターハイ)予選を見て是非との事でした」

【おおお!!】

 

 

この時期、予定されていた高校との練習試合以外に別の所からの依頼(ラブコール)など初めての事だ。烏養前監督との繋がりを失っていた頃を考えたら尚更。

 

そして、この練習試合はただの練習試合じゃない。

青葉城西に負けた烏野にとってみれば、いわば敗戦後の復帰戦。

 

 

「―――青城に負けた。その悔しさも苦さも全部ひっくるめて忘れるな」

 

 

その辛さが、苦しさが……今の自分達の原動力。

次は負けたくないからこそ、練習を続けるのだ。

 

 

だが、今、自分達に必要なのはそれだけではない。

要らない物(・・・・・)がある。

 

 

「でもな、お前ら。……負ける感覚(・・・・・)だけは要らねぇ! とっとと払拭してこい!!」

 

 

負ける感覚(・・・・・)

敗北したあの感覚。

それも練習ではなく、もう一回が無い本番で得てしまった(・・・・・・)あの感覚。

 

 

前に進む為にも。

二度と負けたくない、と誓った時から必要な事。

負けを味わうのは、もう要らない。

 

 

【オオオオオオオ!!!】

 

 

 

だからこそ、今日一番の雄叫びを全員が上げ、士気を高めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

着替えて荷物纏めて、部活後のちょっとした勉強会も終わり、後は帰るだけ……と言う時間。

 

「谷地さん、お疲れ様」

「あ、火神くん……、そ、その……すごかった!! めっちゃすごかった!! なんか、ぐわーーー! ってきた!!」

「お、おう!(この谷地さんの感性って 翔陽っぽいなぁ……やっぱ)」

 

清水と話していたのか、或いは先生たちとか。

そんなに時間はとっていないが、いつもなら、4バカの勉強時間には切り上げていたマネージャーの清水と谷地は残っていた様だ。

体育館前に佇んでる谷地を見かけ、火神は声を掛けた。

 

「もう暗いし、一緒に帰る? 送っていくよ」

「ふぇ!?? いいい、いやいや、私なんぞの為に、そんな、火神殿まで(・・)!!?」

「はははは………(今回は、【殿】か。まぁ、色んなバリエーションがあって面白いな)」

 

慌てふためく谷地を見て、そのリアクションの大きさを改めて見て、そして何より日向と勉強の成果を喜び合ってた所も見て、やはり日向に通じるモノがあるな、と火神は笑っていた。

 

長年付き合いが長い日向に似ているからこそ、色々と火神も思う所があるのだろう。ただただ笑っていた。

 

 

「いやいや、それに帰りに「谷地さーーーんっっっ!!」そうそう、翔陽も居るんだ。ちょっとでも勉強の復習出来たらな~とか思ってたり……」

 

火神が日向も居る、と言う事を言おうとした時、凄い勢いで日向が入ってきた。

丁度良いタイミングと言えばそうなのだが、日向にはもう少し落ち着いてもらいたい、と思う自分も居たり、そのまま、ありのままで良い、と思う自分も居たり 色々と矛盾が頭の中で渦巻いてた。

 

 

「ねぇねぇ! 谷地さんマネージャーやる!? よね!!?」

「お、おう!??」

おう(・・)!? つまり、やるって事だよね!!」

「あ、あーー! そ、それは その……えっと……、Oh……」

「こらこらこら、翔陽。勢いで押し切らない。谷地さん引いてるから」

 

 

谷地も何処となく小動物ッポイ装いではあるが、目の前でぴょんぴょん飛ぶ男こそ、火神にとっての元祖小動物。

とりあえず首根っこひっ捕まえて大人しくさせた。

 

入部してくれるのは非常に嬉しい事で、恐らく入ってくれるだろうけれど、それは本人の口から言ってもらいたい事だし、強制と欠片でも思って欲しくないから。

 

「ひ、引くなんて!!」

 

谷地は、火神の言葉に思わず両手をパタパタさせて、【とんでもない!!】とやや大袈裟気味に否定する。

その言葉を聴けて火神はやっぱり嬉しく、改めて入ってくれたら嬉しい、と言うやんわりとした言葉を返そうとしたのだが………、我らが偉大なる先輩方の方が行動が早かった。

 

 

「ヘイ1年ガール! ヘイ!」

「ヘーイ!」

 

 

何処かのバレー部のキャプテンの様な口癖から、にゅっ、と割って入ってきたのは田中と西谷。

 

「君、是非烏野バレー部に入ってくれたまえよ」

 

「えっ!?」

 

上級生からも歓迎の言葉を承るとは、なんて恐れ多い! と谷地は恐縮しっぱなしだった。

だが、火神は2人の原動力、その理由を知っているので、ただただ苦笑い。

 

 

「ああ。希望するぜぇ。……何て言ったって、君が居ると潔子さんがよくしゃべる!」

 

 

そう、全ての原動力は清水一択。

谷地と一緒に話している清水の表情は、やはり笑顔のソレ。

普段の会話からは、中々お目にかかる事が出来ない神々しいとまで思えるその御顔を、谷地が入った時から、いつも拝めるとなれば、2人にとってこれ以上ない至福だ。

 

「あ、はぁ……、じゃなくて、はいぃっ!? (あ、あんな美人と話してた事、バレてる!!? ひょっとしたらヤバイ!!?)」

「ヤバく無いから落ち着いて」

「ひゃいっっ!?」

 

1人盛り上がってる谷地。

その横で火神がそれとなく読心術?? を使って谷地を落ち着かせる。

読心術……、なんて大それたものではなく、谷地は恐らくこの世界で誰よりも解りやすいから。ある意味、日向や影山よりも、現時点での谷地は非常に解りやすいから、火神には造作も無いことなのである。

 

しれっ、と心の中を読まれた谷地は、びくんっ! と身体を震わせつつ、とりあえず火神の言う通り気を落ち着かせた。

 

 

「そんな勧誘があるか馬鹿!!」

 

 

気を落ち着かせている間に、澤村がやってきて、2人に拳骨のお灸を据える。

正直――――誘い文句としては最低の分類に入るから。本人じゃなく、清水。引き立て役の様に見られてるも同然だから。

 

ただ、谷地は 常日頃から自分の役割については、思う所があるので 全く気にしていない様だ。

 

 

「ゴメンねぇ、コイツら馬鹿だからねぇ。うん、マッタク」

「い、いえ!! その……、うれしいですから」

「「「??」」」

 

 

正直、断られたって仕方が無い程ヒドイ勧誘の仕方だったと思ってた菅原は、谷地のうれしい、と言う言葉に首を傾げた。他のメンバーも似た様なモノだ。……田中&西谷の勧誘の仕方については、特に考えてない様だが。

 

菅原の謝罪を聞き入れつつ、谷地は自身の考えを、思ってる事をそのまま伝える。

 

 

「私、自分から進んで何かをやったりとか、逆に何かに必要とされたりすることって無かったので………」

 

 

谷地は、苦笑いをし、頭を掻きながら やや下向きだった視線を前に向けた。

そして、ふと 火神の事を見る。

 

 

クラスでの、彼の姿を思い出す。

 

 

まだ入学して間もないと言うのに、コミュニケーション能力の高さか、或いは天然なのか。クラスに溶け込むのに時間がかかった様子は一切なかった。

瞬く間に、同じ生徒から そして教師からでさえも、色々と頼りにされてる面もあった。

 

勉強もでき、バレーをしている所を見ても、体力もかなりある。

 

勉強&運動最強。

 

 

 

 

主役(ヒーロー)かっっ!?】

 

 

 

と、1人で盛り上がった時だってある。

 

そんな彼を見ていたら、より強く思ってしまうのだ。

 

 

「それに、劇とかやっても、絶対【その他大勢】の1人なんです。村人Bとか木とか」

【(木!?)】

「あっ、そういやー、誠也も木の役やってたよな?? 小学ん時」

「ん? あー、確かに。猿蟹合戦の劇の時だったっけ?」

「えええっっ!??」

 

 

谷地は、日向の言葉を聞いてぎょっ! とした。

自身の中では一切揺らぐ事の無い頂点に位置する主役。それが火神に対する印象だったのだが、人に歴史ありか……、まさかの火神も脇役中の脇役である、オブジェの役割を担っていたとは……。

 

 

と、軽いショックを受けていたのだが、よくよく思い返してみると、日向は小学生の時の話をしているのだ、と軽く頭を振って、気を落ち着かせつつ……、続けた。

 

 

「え、えと。そう、高校生にもなって村人Bの私を。バレーの経験も知識もない私を、清水先輩や火神くんにあんなに一生懸命誘ってくれて凄くうれしかったです。――――でも、やっぱり私ではお役に……」

 

 

どうしても、後ろ向きなことを考えてしまう事。

それこそが脇役である所以―――と谷地は何処かで思っていた様だ。

 

奮い立つ切っ掛けの様なモノがあるから。そして何より、立ち上がる事が出来るからこそ、火神(主役)になれるのだ、と。

 

それは、絶対的に自分に足りていないモノである。

そんな自分が入った所で迷惑をかける……と、谷地が言おうとしたその時だ。

 

 

「わかるぜ、その気持ち」

「!」

 

 

菅原に叱られた後、沈黙を貫いてた田中が答えた。

 

「オレも、潔子さんに【君からお金騙し取るからついてきて】って言われても付いて行く」

「漢らしいぜ! 龍!!」

 

自信満々に、それでいて清々しそうで、自信たっぷりに田中はそう宣言。

西谷も賞賛の言葉をあげる。

 

 

「そ、そんな事言ったら、清水先輩に怒られますよ?? 例え話だったとしても、先輩が騙す(・・)なんて言っちゃ……」

 

 

田中&西谷の感性については最早一般常識レベルで知ってはいる。

大真面目で言っている事も解っているし、ある意味バレー部のネタになっちゃってるのも当然知ってるのだが……、やっぱり 清水の繋ぐ姿勢(・・・・)を知っている、見ている火神は つい口を出してしまった。

 

「違うぞ、火神! オレは それ程までに潔子さんは魅力でいっぱいだ、と言いたいのだ! オレは便宜上、騙すと言う言葉を使ったが、オレにとっては、それは最大のお褒めの言葉! 賛美の言葉なのだ!! あぁ、素晴らしきかな、潔子さん……」

「おう! 右に同じだぜ龍! 誠也、オレ達が、本気で、潔子さんを貶める様な発言をするワケねぇだろ!? オレ達の女神を………!」

「お、おおぅ……、なるほど……(難しい単語使ってる……、清水先輩関係になったら、学力向上もするのかな……?)」

 

 

便宜だの賛美だの、貶めるだの……、赤点組とは思えない国語力に火神は思わず目を見開いた。

 

 

「田中がま~た 何か言ってるなぁ~~」

「つーか、意味解って言ってんのかな? ちょいちょい難しめな単語出てきた気もするけど。……雰囲気??」

「わーー! 2人ともなんかかっけーー!」

「(チガウ……、何かチガウ……)」

 

 

色々な感想が夫々各々の中で完結していた。

 

 

 

「あっ! そう言えば忘れてた!! これ見て下さい!!」

 

 

日向が、何かを思い出したのか、カバンからごそごそ~ と何かを探し そして見つけて取り出した。

 

取り出したソレは、携帯電話。

 

折り畳み式の携帯電話を ぱかっ、と開くとディスプレイが光る。

メールの画面の様だ。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

From  孤爪 研磨

Subject 無題

 

一次予選は突破。

今週末二次予選。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

実に簡素な文面。

必要最低限以上のやり取りは、面倒だからしない―――……と、孤爪らしさが滲み出ているメールの内容だが、烏野の面々にはそれで十分。

 

宿敵、ゴミ捨て場の決戦相手、音駒高校(ネコ)が 激戦区である東京の一次予選を突破したと言う連絡なのだから。

 

 

【!!!】

【うおおおおお!! 燃えてきたァァァあァァァ!!】

 

 

日向を中心に、雄叫びが上がる。

 

それを横で見ていた谷地は、そんな姿が羨ましいのか、或いは もうさっきの様な言葉を言う空気ではない、と悟ったのか、口をぎゅっ、と噤んでいた。

 

 

「まださ、1日目じゃん?」

「っっっ!?」

 

 

 

そんな姿を察したのか、火神がいつの間にか谷地の隣へと来ていた。

 

「結論を出すにはまだまだ早計だと思うんだ。……勿論、谷地さんが嫌だった、って感じてたなら話は別だけど」

「や、嫌なんてそんな!! 嬉しくあっても嫌だって思う事なんてぜんっっっぜん!! お、恐れ多すぎてめまいが……」

「そっか。なら良かった! って、めまいは危ないって流石に」

 

火神は、谷地のオーバーリアクションに、ニッと笑って返す。

 

「翔陽達が騒いだら、中々帰るまでに時間かかっちゃうけど。どうする? ほんとに送っていくよ? ほら、もう随分暗くなってきたし。(まぁ ちょっとでも アイツらの勉強の復習も兼ねれると思うし)」

「ふぇ!? わ、私なんぞの為に、そんな、恐れ多いっっ!!!」

 

 

大分日照時間が長くなってきたとはいえ、ガッツリ練習して 結構遅くなった時間帯。空は夕日、黄金色の空はもう顔を潜めており、すっかり暗くなってしまっていた。

そんな中、女の子1人で帰らせるのは……と、火神なりに気を使ったのだが、谷地がいつも通りの過剰反応。

 

 

「あははは………、いや オレ達同級生でなんならクラスも一緒だし。別に恐れ多いなんて事無いから。オレは別に構わない「私が送ってくから大丈夫」っっ!?」

 

 

笑ってる火神の背後から、突如感じるのは凄まじい圧力。

 

その圧は、火神限定に調節でもしていると言うのだろうか、火神が一瞬震えあがった程の圧力だったのにも関わらず、直ぐ隣にいる谷地には全く感じてない様子。

 

火神の送っていく発言に、気がやっぱり動転している様で、余裕が無かったのかもしれないが………、清水にとって 谷地は大事な大事な後輩となるかもしれない女の子だ。

無意識に圧力を抑え、限定していたのかもしれない。

 

 

……………真偽は定かではないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、谷地は清水と一緒に帰る事に。

 

 

 

 

2人きりで帰るワケではなく、日向と一緒(ひょっとしたら影山も?)に~と言う話も火神はしていたのだが、日向の家は皆が知っての通り、山奥の更に奥。山を2つ程超えなければ到達出来ない。

他の生徒たちにとっては、ある意味秘境に住んでるも同然なので、寄り道せず早く帰って、と言う意見が出た。

 

 

火神は昔から日向の家に遊びに行ったりしてたので、少々あの遠さに慣れてしまっている。

だから、ちょっとばかり感覚が鈍っていたのかもしれない。

 

 

とりあえず、火神は別にどうしても谷地と一緒に帰りたい! と言ったつもりは無く。(日向と一緒に、と言ってる時点でも) 

 

ただ純粋に谷地1人では 夜道は危ないから、と言う心配面での行動だったようなので、清水も許した?? 様だ。

それに、明るい道だから大丈夫だと。この辺の治安が悪い! みたいな話も、ここ10年は聴かない話なので大丈夫だと。

 

 

 

 

清水と谷地が帰っていくのを見送った後、火神達は直ぐに帰宅――――出来たりはしない。

 

 

 

 

「ヘイ火神へーい!」

「潔子さんと1年ガールたちを勧誘しに回ったって話は本当かーい? 誠也くぅぅぅんっっ??」

 

 

「「部活以外の時間でも潔子さんと親密になれたと言うのかぁぁぁぁぁい???」」

 

 

 

 

先ほどの谷地の説明の中で出ていた事。

 

 

【清水先輩や火神くんに】

 

 

と言う部分から、2人の妖怪は連想させた様子。

そもそも、谷地と火神が同じクラスである事はもう知ってる筈だし、色々言われていたことなんだが…………、清水関連の話題に関しては引くことを知らない猪突猛進型の妖怪。

 

 

その後、澤村に怒鳴られるまで、火神が解放されたりはしなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

本日は急遽入った、嬉しい嬉しい練習試合日。

扇西高校のメンバーが来るまで、体育館を整えておかないといけないので、普段よりもやや忙しい。

 

ネットを張り、得点板を用意し、自分達と相手が座るパイプ椅子も全て自分達で用意するから。

 

 

「じゃあ、仁花ちゃん。手前のコート脇にパイプ椅子並べてくれる? えーっと、……8脚!」

「ハイ! 解りました!」

「手伝うよ!?」

「いいよいいよ!! これは、私の仕事だから!」

 

準備は全員で行う。

マネージャーも勿論、せっせと働いてくれている。

 

清水も、普段は男所帯であるこのバレー部に谷地と言う同性の子が居て、心なしか普段よりも笑顔が増えている様だ。忙しい筈なのに、教える時の姿はいつも笑っている。

 

 

「―――潔子さんが笑っている」

「世界は今日も平和である」

 

 

「こら、田中西谷!! 4時半に此処に来る予定なんだから、止まってないで用意! 働け!!」

「「う、ウオス!!!」」

 

 

 

田中と西谷も尻を澤村に叩かれながら……働く。

 

 

「誠也!! 練習試合だな!!」

「それ、もう10回目。もうちょい落ち着け。初めての練習試合、ってワケじゃないんだから」

「いいじゃんいいじゃん! めっちゃワクワクするから仕方ないじゃん!! それに………… ふんっっ!!」

 

 

日向は、ぐっっ、と力を手に込めると、勢いよく両手で両頬を挟み込む様に叩く。

 

びちーーんっ!! と大きく乾いた音が体育館に響く。

 

なかなかの強さで叩いたからか、日向の両頬は 暫く赤く染まっていた。

 

 

絶対(ぜってー)負けねぇ……」

「おう。……それはいつでも、いつ考えてても良い」

 

 

日向と火神はガッ、と腕を当て合った。

 

それを直ぐ横で見ていた谷地は、突然の破裂音? 炸裂音?? に驚いたが、日向の決意の方が気になった様で。

 

 

「あの……、今日って練習試合、だよね?」

「? うん」

「扇西との練習試合かな。予選でも当たった事の無いトコ」

 

 

練習(・・)試合だ。

即ち、本番ではない、と言う事。

勉強で言えば、今回のは期末試験じゃない。遠征にしてもそうだ。あくまで練習する。本番のテストに向けての練習。……普段の授業や小テストと同じ。いつもいつも本番バリに気合を入れて挑む……なんて谷地には到底できないし、思えなかった。だから疑問だった様だ。

 

 

「その……遠征に行くための勉強も、本番じゃない試合も……どうしてそんなに頑張れるのかなーって……」

「えっ? 強くなって勝ちたいから……? それ以外ある?」

「んー。全く同じなチームって無いからなぁ。色んなチームと戦って 経験しておけば。自分達の引き出しも増えていくワケだし。臨機応変に対応も出来る……って、翔陽には難しいかな?」

「むっっ!! ば、バカにすんなよー! わかるよ!! ………なんとなく。りんき、ほーへん……」

臨機応変(りんきおうへん)ね。……因みに、これ昨日やったから。月島大先生も居たし、覚えてないなんて言ったら、普段の10倍マシで嫌味が飛んでくるぞ。今聞いてないみたいだから良かったケド」

「ふぐっ……」

 

2人のやり取りを見てて……、日向の学力向上はなかなか難しいなぁ、と思った事と、それなりに理由を考えてくれて教えてくれた火神にも感謝をしつつ、谷地は結論した。

 

 

「な、なるほど。そっか。きっと、まだまだ語り切れてない色々な理由があるんだね!」

「?? え? 理由? 勝ちたい、って事の理由?」

「あっ、うん」

 

 

日向は本当に解らない、と言った表情をする。

それは、勉強の内容が、中身が解らない、と言った時のソレではない。

真剣で、比較的他のメンバーに比べたら明らかに小さい身体な筈なのに、谷地には大きく見えた。

 

 

 

「負けたくない事に、理由って要る?」

「ッッ!!」

 

 

 

日向の名言の1つがここで飛び出す。

知っていたつもりであっても、火神は感嘆した。

 

 

「まぁ、アレだよ、谷地さん。男ってのは往々にして単純。負けず嫌いが性分なんだ。……理由をつけるとすれば、そんな感じかな」

「ッッ、な、なるほど……」

 

 

固まっていた谷地だったが、火神の言葉でどうにか始動。

日向の圧に気圧された事も忘れる事が出来た。

 

 

「(……ほっ、やっぱ火神が居てくれて助かったな。日向って 時々凄い威圧感出すからなぁ……。間を取り持つ所作はやっぱ凄いよ。……日向との付き合いの長さか、若しくは火神自身の資質か……、両方だな)」

 

 

そんな3人を見て澤村は安堵する。

慣れてない、普段の男所帯、体育会系の挨拶でさえ、驚き、委縮してしまう谷地だから。自分達も驚く日向の時たまに見せる威圧感に心配したが……。

 

 

「やっぱりお父さんだな~~」

「「??」」

 

 

澤村は腕を組んで、うんうん頷いているのだった。

 

 

 

「あ、影山にも聞いてみるか。おーい、影山」

「あ?」

「負けたくない理由ってわかる?」

 

 

日向自身も威圧感は出しつつも、聞かれたからには答えなければならない、と軽く使命感があったからか、火神の様に言葉にしたくて、そして参考にもしたくて、直ぐ傍にいた影山の意見を聞く事にした。

 

そして、影山の意見は、これまた単純。

 

 

「知るかそんなもん。ハラが減って飯が食いたい事に理由があんのか?」

 

 

つまり、人間が持つ三大欲求と同義だと言う事。

 

「いや、飛雄。それ理由になってんじゃん。【ハラが減ったから】それが理由だろ? 飯食うって話にすれば」

「む! ………むぅぅ………(確かに……腹減った。食いたい理由だ……)」

「お、確かに誠也の言う通りだ。……う~~ん、負けず嫌いが理由、ってのは誠也が言ってたしなぁ、もっとこう、別の何かを………」

「いや、変な所で張り合わなくて良いから。後、飛雄。あんま考えすぎんなよ。頭から湯気出てる」

「で、でてねーよ!」

 

 

 

谷地にすれば、ただ聞いてみただけ~ の単純な疑問だったのに、ここまで真摯に考えてくれてる事にちょっと罪悪感を覚える。

 

 

「(でも、影山君にとっては………、食欲と同じレベルって事なんだ……?) こほんっ! ごめんごめん! 愚問だったね!」

「「グモン? ……どっかで聴いたような……」」

 

 

谷地が不意に出したちょっぴり難しい単語【愚問】。

頭の中で、何だっけ? と浮かべるにとどめてたら良かったモノを……、日向が影山にまで意見を求めたりしてたから、それなりに目立って、月島の耳にも届く様になってしまってた。

 

 

「【愚かな質問、また自らの問いをへりくだって言う言葉!!!】 昨日やったじゃん!!」

「そ。確かに昨日やったよね~、お2人さん? 因みに、国語は月島大先生が見てくれてたでしょ? ちゃんと覚えとく事」

「「ぐっ!!」」

 

 

 

 

日向や影山の国語の勉強のおさらいをしている最中。

 

 

【失礼シマス!!!】

 

 

がらっ、と体育館の扉が開いたかと思えば、烏野の皆にも負けずと劣らないデカい声の挨拶が響いてきた。

 

そう、扇西高校が到着した様だ。

 

 

「集合!!」

【オエーース!!】

 

「あっ、仁花ちゃん。私たちも整列するよ!」

「!! ハイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

場面は変わり烏野高校校舎内。

 

扇西高校、監督・コーチ陣は 体育館には向かわず、まずは職員室の武田の元へと向かっていた。

 

扇西高校バレー部 三谷コーチ、柏崎監督。

 

 

「今日の相手は、烏野ですか。……アレですよね。(堕ちた強豪、飛べない烏……?)」

 

流石にその高校の不名誉な異名を口に出すのは正直憚れるので、なるべく小さな声で三谷は柏崎に聴いた。

 

その異名を聞いて、柏崎は一笑する。

 

「ハハハ。そういやぁお前は試合見てなかったもんなぁ。青葉城西、それに伊達工との烏野を。……その呼び名、正直もうそぐわないと思うぞ」

「???」

 

三谷は、首を傾げる。

今年最初の試合でさえ、確か烏野は目立った成績を出せてない筈だ。

それにIH予選でもそう。確かに対戦を見たワケではないが、紙上で記すとすれば、烏野の成績は、3回戦敗退。

 

嘗て、全国へまで行き 常にトップと熾烈な王座の奪い合いをしていたあの頃に比べたら、どうしても見劣りしてしまう……、と言うのが三谷の意見。

 

 

「大学の用事、だったな」

「はい。……どうしても外せない用事がありまして……」

「烏野は、青葉城西相手にフルセットだ。最後はデュースで競った結果……敗北した」

「マジですか!?」

「ああ、だが、ただの敗北じゃない。……烏野の主力と言える選手が、終盤に足の怪我による退場。残った選手達の事を考えれば、あまり大きな声では言えないが、明らかに戦力ダウンした。それでもデュースまで競い合ったんだ」

 

青葉城西とは勿論言うまでも無く優勝候補の一角。

それに、今年の予選では、王者白鳥沢を後一歩まで追い詰めていたのは、記憶に新しい。王者交代か? と最後の瞬間まで思えた程だから。

 

 

「烏野がそんなに……。確かに、千鳥山の西谷や北川第一の影山が居るから……? いや、でも、あの青城を……」

「うむ。その2人も勿論脅威的だ。……だがな、それだけじゃない」

「?? 先輩??」

 

 

険しい顔をする柏崎を見て、三谷は首を傾げる。

 

「さっきも言った様に、怪我で途中退場した主力。……オレが言った主力ってのは、まだ1年の男。……11番だ。……烏野のWSに凄まじい技量を持つ男が居た。チームプレイであるバレーにおいて、個人技で相手を、それも強豪とも言える相手を、完成に近いチーム力を持つ相手を追い詰める事が出来る程、バレーは甘くない。……だがな、スパイク、ブロック、レシーブ、サーブ。……すべての面で隙が無い、そんな印象だ」

「そんな1年が………、名前に関しては影山や西谷しか聞きませんが……」

「ああ。何処で燻ってたのか、凄いヤツが出てきたもんだよ。……それに、まだいる。同じ1年だ」

 

ふぅ、と深くため息を吐く。

11番――――火神の事だけでも、冷や汗が出る程のモノなのに、まだもう1人トンデモナイ1年が居る事を思い返してみると、最早一周回って呆れてしまいそうになる程だった。

 

 

「10番。……烏野のセンターには 凄まじい運動能力の男が居る。……技量に関して言えば11番の足元にも及んでないだろう事は、外から見ていても解るんだが……、それを補って余りある体力。終盤だろうが劣勢時だろうが、関係ない。一切パフォーマンスを落とす事はせず。……何よりも 時折見せる、ゾッとさせるような存在感が脅威だ。凄い技量の1年ばかり見てたら、見えない角度から仕留められる。………オレの勘だ。今年から、勢力図は一変する」

 

 

青葉城西を追い詰めた。

そして、その青葉城西は王者白鳥沢をあと一歩まで追い詰めた。

 

全ては、烏野が変わったから、と柏崎は思っていた。

 

 

 

何より――――その脅威の選手はまだ1年。

 

 

影山も1年、西谷は2年。……来年以降の事を考えても、脅威と言う言葉では足りない程のものを内包している。

 

 

 

「烏野は化けるぞ」

 

 

堕ちた筈だったカラスは、より力を蓄え、更に大空を舞う。

 

来年とは言わない。青葉城西との試合を鑑みると、十分可能性はある。

 

進化した烏たち。

黒いあの漆黒の翼が、大空を舞う鷲を打ち砕くかもしれない―――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面は再び体育館へ。

 

各チーム、ウォームアップは終了し、試合の時が近づいてきた。

 

「そろそろ始まるから着替えとけよー!」

「オアース!」

 

ここで谷地は違う意味でぎょっとする。

顔が物凄く赤くなる。

 

 

何故なら、目の前で男子たちが上着を脱ぎ、着替え始めたから。

上半身とはいえ、同い歳の、歳が近い男の人の裸など見た事がなかった。

 

 

「ごめん。……慣れてね」

「ぅあぃ………」

 

 

目を覆いたくなる……が、しっかりと谷地は指と指の隙間から、男子の肉体美(笑)を見ていた。顔を赤らめながらも興味津々。不快と言う感じは一切なさそうだ。

 

運動部だけある。あれだけ凄まじいとさえ思える練習をしているだけはある。皆筋骨隆々と言って良い。

身体の小さい日向でさえ、十分すぎる程引き締まっていて、贅肉って何の肉? になってる。

 

 

腹筋が割れてる、筋肉が盛り上がってる。力を入れる度に動く。

 

 

肉体に見惚れてしまうとはこの事か! とこれまた1人で盛り上がっていた。

そんな最大クラスの賛辞を受け取っていると言うのに……、日向はユニフォームが後ろ前反対、と言うありきたりなボケをしていた。

 

 

 

「おお! 旭さん、アタマカッケー―っス! ひも!?」

「ひも……? ああ、ヘアバンドね。うん。そうか~~、西谷に言われると自信つくな~~」

「おいコラ、猫背ヤメロ」

「いたっ!」

「旭さん、イメチェン、スか?」

「この前、清水に【東峰、いつもピッチリ結びで将来ハゲそう】って言われちゃってさぁ」

「ワハハハハハ!」

「なるほど! オレも気を付けなければ」

「モテるハゲも居ますよね」

「田中さんユニフォーム着ないんですか?」

「………………………」

「うおおおおおおおお!!!!」

 

 

そろそろ纏まらないといけないタイミングなのでは? もう向こうもユニフォームを着なおして、きっちりきっかり集まっていろいろとしていると言うのに、烏野は各々がおしゃべりをしていた、それにツッコム者もいたり、精神統一でもしてるのか、目を瞑って周囲に耳を貸さずいる者もいて、吠えて気合を入れてる者も居る。

 

一貫性が無いとはこの事か。

 

 

「烏合の衆………」

 

 

不意に谷地がそう呟いてしまうのも無理はない。

規律も統一も無く寄り集まった群衆の意味。……彼らを見てると、反射的にそう感じてしまう。

 

 

「ふふっ、烏合……、確かに。()だしね」

 

 

それを横で聞いていた清水は、思わず吹いて笑った。

 

「でもね、試合になるとけっこう息が合うんだ。……それに、規律はしっかりと視てくれる人、いるから 大丈夫だったりもするの」

「え?」

 

 

清水が指をさした先に居るのは……着替えた後、コートに残ってた最後のボールを拾っていた火神だ。

 

「そろそろ纏まって気合とか入れません?」

 

手をぱんぱん、と叩いてそう言う火神。

 

そこから徐々に纏まりを見せていく。

 

「ね?」

「あ、はい。……凄いですね。同学年とは思えないです……」

「まっ、皆のお父さん(・・・・)だし?」

「Oh……、オトーサン」

 

最初は1年リーダーを任命されていた事も有り、基本的に見てるのは1年だけだったのだが、要所要所、所々で的確なツッコミを入れてくれるので、主将である澤村も大いに助かったりしているのだ。

 

一体どっちが主将なのか、と清水は苦笑いもする。……勿論、要所要所。いつもそれ(・・)をしろ、となったら火神にかかる負担(笑)が大変な事になりそうなので、全力で拒否すると思う。そんな光景が目に浮かぶから、また笑ってしまう。

 

谷地も、火神の渾名みたいなのは聞いていたし、クラスでの姿も見ているので、連想しやすかったりはするのだが……、流石に 上級生相手には無理があるだろう、と思っていたのだが、今日この瞬間に納得できた。

 

 

「烏野ファイ!!」

【オア゛ァァス!!】

 

 

纏まりを見せた烏たち。

そして、もう1つ……谷地は納得できた。

 

清水が言っていた【試合になると息が合う】と言う点だ。

 

 

この試合に勝つだけ。

日向が言っていた勝ちたい事に理由はない、負けたくない事に理由はない。

 

それがはっきりと解る。

 

烏たちは、ただ【勝つ為】に纏まる。

 

 

皆の――――表情が変わった。

 

 

そして、笛の音が響き渡り―――谷地にとって初めての練習試合が始まる。

 

 

 

 

【お願いシアーース!!】

 




サブタイトル詐欺になりました………。 すみません。練習試合の中身までは行けませんでした。

この試合の、次の話の描写はあっさりする予定です。

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