王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第83話 もう一度、あの場所へ

 

 

宮城県IH(インターハイ)予選決勝。

 

 

白鳥沢 vs 青葉城西

 

 

 

「……………………」

 

「……簡単に勝てる相手とは思ってない。けど、それは そっちも同じ(・・・・・・)だ、って思っといてよね」

 

 

 

 

 

 

 

第1セット

カウント25‐23

白鳥沢。

 

 

第2セット。

カウント29-31

青葉城西。

 

 

 

決勝戦。

 

第1セット白鳥沢先取。

第2セットを青葉城西が獲り返し、1-1のイーブンの互角の展開となっていた。

 

 

青葉城西は 安定性、柔軟性、そして何よりも臨機応変にそれぞれの選手が対処していく。

例え未知の相手であってもそれは変わらない。自分達が出来る事、対処できる手段、あらゆる事を瞬時に想定し、対応してくる。

 

突出した攻撃力や守備力がある訳でもないが、常に高い位置でキープし続ける所が青葉城西の強さだ。

 

 

それに加えて、青葉城西は3回戦で戦った烏野との戦いを、その身体で覚えていると言う点もあるだろう。

 

 

白鳥沢は確かに強い。

 

現宮城県内最強であり、全国大会でも十分優勝を狙える優勝候補。

全国に注目される一校だ。

 

 

それに、強さ(それ)は 何度も何度も行く手を阻まれ続けた青葉城西が、宮城県のチームの中で一番解っている。

 

 

試合で白鳥沢主将 牛島は超高校級プレイヤーと称され、今年の全国高校3大エースと呼ばれている。

その力を、この試合中も如何なく発揮してくる。

 

3枚ブロックについても吹き飛ばしてくる。

ブロックの上から打ち下ろされる事だってある。

 

どれだけ崩しても、高いボール1つあれば良い。速攻など使う必要が無い。

オープントスからの単純攻撃で 強引に力づくで点を奪っていく。

 

これまでも何度も喰らって喰らって……、勝負を投げ出すような事は一切ないが、それでも心の底では 折れかけた事だってあった。

 

 

その度に、強い一撃が来る度に、何故か烏野との一戦を思い出す。

 

 

 

 

―――青葉城西はもっと凄い。こんなものじゃない。もっと凄い、もっと強い、………もっともっと……。

 

 

 

 

烏野との一戦。

それを思い出すのと同時に、あの男(・・・)が何度も何度もそう言っている様に感じた。

 

あの牛島の攻撃であっても 青葉城西ならとれる。

繋げられる……と、言われている。

 

 

 

そして、その青葉城西と点を重ね合うにつれて、白鳥沢の大エース 牛島にも変化が徐々に表れていた。

 

それは静かに、それでいて間違いなく。

 

そして、その変化は 牛島を知る白鳥沢の選手たちにもなかなか見る事が出来ないものだった。

 

 

 

いつも 無表情に近い牛島が、まるで屈託のない自然な笑顔(・・・・・)を見せはじめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は坂ノ下商店。

 

バレー部は当然今は授業中なので、烏養も今はしっかりと店番中だ。

そこに空いた時間だったのか、滝ノ上が訪れていた。

 

話題に上がるのは当然、昨日の試合の事。

 

 

「―――にしてもだ。めっちゃ惜しかったよな~。ほんと後一歩だった。……その一歩をもぎ取った青葉城西。やっぱ 強かったな」

「ああ。強かったよ。スゲェな。……正直、運も実力の内とはよく言ったもんだ、って思っちまった自分も居るが……、それでも青葉城西(アイツら)は強ぇ。バレーは6人でやるもんだから、1人抜けたから、総崩れになる、なんてことは そうそうあってたまるか、って話だわ。メンバーが足りなくなる、ってんならまだしもよ。……考える時点で、最後まで全力で戦い抜いたアイツらに失礼って思っちまう」

「ああ。………オレだってそうさ。アイツ(・・・)が最後まで出てりゃ……って。こんだけ外野であるオレが思ってんだ。他の奴らが、本人が思わない訳がない。でもな。それでも アイツが抜けたから負けた、なんてことも思いたくねぇ。ちっとは 考えちまった事は否定できないが、最後まで見た後はもう本気で思っちゃいない。最終セットの終盤、それ程、神懸ってたからな」

 

 

滝ノ上と烏養は、思い出しつつ苦笑いをした。

 

確かに正レギュラーがトラブル、怪我等で抜けて、補欠選手が入ったからチームがパワーダウン……というのは当然ある話。

重要視される選手であればある程、精神的ダメージはより比例し、大きくなっていくだろう。

 

 

だが、あの時は、その大きいダメージを、大きい穴を埋めるだけの気概、気合、根性を間違いなく感じた。

試合中に実力が向上していってるのも同じくだ。

 

 

そんな中で……例え負けてしまったとしても、それが原因だとは思いたくない。

 

ただ、青葉城西が強かった。―――それだけだ。

 

 

「今回、確かに惜敗だった。……良い勝負が出来た、じゃない。ほぼ互角と言って良い。でも、次また戦った時、同じくらい出来るか? って聞かれたら正直解らねぇ」

 

 

烏野も間違いなく強い。

ポテンシャルは県内1だと言って良いし、若いチーム故に伸びしろも半端なく長い。

だけど、それを踏まえても 青葉城西の強さが光っていたのも事実だ。

 

「青城は同じだけの強さ、あの強さを安定して発揮してくる。……加えて昨日の出来具合をそのまんまいつも通りのプレイ(・・・・・・・・・)として安定されちゃ溜まったもんじゃねぇよ。それに、向こうのTO(タイムアウト)中の様子見たか?」

「! ……ああ。上から見ててもよーく解ったよ。殆ど、選手だけでミーティングが成立してた。監督たちは後ろから様子伺って……、そりゃ助言はするんだろうが、殆ど選手同士だけだったな」

 

どんな世界でも、学業だろうがスポーツだろうが、果ては社会人だろうが同じく共通して言える事がある。

 

【ただ、指示を待つ側だけでは 決して大成はしない】と。

 

 

「……選手が常に考えて、試合の中で臨機応変に対処していく。例えそれが未知の相手でもする事は同じなんだろうな……。自分達が出来る十全を最適で、ってか。安定性に加えて、柔軟性だ。言ってて頭痛くなってきた」

 

烏養は深く椅子に腰掛けて後頭部を両手で支える様に組む。

 

ある程度のレベルの戦いにおいて、絶対に勝てない、100%勝てない相手なんて同じ高校生で滅多にない。

限られた手、限られた時間、限られた情報の中、最善を導き出し、自分達の力を十全に発揮して戦えば、どれだけ険しい道のりであっても光明はきっと見えてくる。

 

理想論・精神論になるかもしれないが、それが出来たのなら、相手のミスだって誘発する事が出来る。

 

「――だけど、その青城の上に居る白鳥沢っつーのは、どんだけー! だよなぁ」

「まぁ、昨日の青城の強さは、ここ最近の映像全部見た中で最高だと思う。白鳥沢に負け続けてるってのは事実なんだが……、まるっきり勝算が無いとは思えねぇよ。白鳥沢だって、ウシワカだって同じ高校生だ。調子の善し悪しで変わる事だって十分考えられる。昨日の最高状態の青葉城西と白鳥沢なら………。うーん……」

 

 

烏養は、自分達を打ち負かしたチームだから、やや贔屓目に見てしまっている面もあるかもしれないが、それでも、それを踏まえても青葉城西は強かったから、非常に悩ましい所だと思えた。

限りなく客観的に、客観的に…… 私情を一切挟まずに考えてみても…………。

 

 

「……白鳥沢のここ最近の映像も見てるが、どっちが勝つか、はっきり言えねぇ」

 

 

予想が出来なかった。

 

 

 

烏養が全く予想がつかない、という両校の決勝戦。

単純に考えれば、引き分け同時優勝が無いのだから 半分の確率で当たる。

 

でも、当て推量になってしまうので、それはしたくなかった。

―――本当に解らなかったから。

 

 

 

その両校も丁度――雌雄を決する。

 

 

 

 

第3セットも接戦が続いた。

20点台に互いのチームが乗り、更にデュースに縺れ込む。

 

王者陥落か!? と場の盛り上がりの最高潮を何度更新したか解らない。

無論、白鳥沢も負けてはいない。場を沸かすプレイを幾度となく魅せた。

 

その援軍、両校共に、大応援団が場を沸かし続ける。

 

 

及川の強烈なサーブでブレイクをもぎ取れば、牛島の強烈なスパイクで獲り返され、更に逆転を許してしまう。

 

このほぼ互角と言って良い戦いに終止符を打ったのが……。

 

 

 

 

 

「ライトだ!! 絶対ライト!!」

「止めろ!!」

「来るぞ!!」

 

 

 

 

もうこの試合何本打ったか解らない程の数を打ち続けている牛島。

打点・威力共に一切落ちない。

もう 1人で何点獲っているのかが解らない程だ。

 

対する青葉城西の壁……ブロックの要である、1年の金田一も試合中、根競べの様に 懸命に食らいついてはいたが、最後はスタミナ切れを起こしたのか、或いは絶対王者、全国を戦う大エースの圧に、とうとう呑まれてしまったのか。

懸命に阻んできた青葉城西の壁が、崩壊させられた。

 

最後の攻防も3枚揃えたブロックだったが、ど真ん中。丁度金田一が打ち抜かれ……。

 

 

試合終了。

 

 

 

 

 

「……まぁ、久しぶりにウシワカちゃんから、1セットとったし? 大健闘だったとは思うけど、やっぱり関係ないよね。コートにボールを落とした方が負けだ。……負けた以上、全国()へは進めない」

 

 

 

 

 

―――それが すべて。

 

 

 

最後の点が白鳥沢に入るのを見届けた後、及川は唇を噛みしめながら、此処まで戦った仲間たちを引き連れ整列。

 

 

 

 

 

セットカウント 2-1。

25-23

29-31

28-26

 

 

 

ここ数年で一番の大健闘を見せた青葉城西。一番白鳥沢を追い詰めたと言って良い。

 

―――だが、決勝で姿を消した。

 

 

 

IH(インターハイ)宮城県予選 優勝 白鳥沢学園。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は、烏野高校職員室前。

 

火神は授業中に配られた数学のプリントを受け取る為に職員室まで足を運んでいた。

足の怪我を考えれば、数学の竹内先生から 直接1年5組までもっていく、と言われていたのだが……、動きたい気持ちを抑えられない、と火神は首を横に振ったのだ。

 

足は使えない(もしも使ったら…………………)。

 

けど、自分には 代わりとなってくれる松葉杖がある。この為に借りてきたのだ。

動かない部位はとりあえず安静にさせて、他の部位をきっちりイジメ抜く。腕力だけで移動して見たり、負荷を思いっきりかけてみたり……と、松葉杖が壊れない範囲で。

 

日向や影山のように思いっきり体育館で暴れられなかったので、せめてもの抵抗? だ。

 

 

「……これなら怒られない……よね? 無理なんかしてない、よね?」

 

 

誰に聞くワケでもなく、火神は呟く。

教室の外の行動は、何だか見られてる気分にもなってしまうのだ。

実際に見られてる訳ではないのだが……。

 

それと、大なり小なり、怪我を抱えてしまい 復帰する時、動かせない部位を前と同じように動かす為に、一歩前に踏み出す瞬間は勇気がいるものだ。

 

以前の様にちゃんと動くのだろうか、また怪我はしないだろうか、色々と頭の中を巡るだろう。だからこそ、大丈夫だ、と言い聞かせ 前へと歩む為の勇気が必要。

 

 

―――だが、今の火神に、この怪我した足を踏み出す勇気はない。

 

 

痛みに立ち向かう勇気と気概は勿論持ち合わせている。自信はある。

 

でも、それとは比べ物にならない程のモノが必要だから。

 

 

【無理しないで、って言ったよね? 了承したよね?】

 

 

あの笑顔? を乗り越えるだけに必要な勇気?

そんなの得る事なんか出来ないので、最早これは不可能ゲームなのである。

 

 

だから、火神は大人しく、医師の指示に従ってこの1週間、足関連は大人しくするだけなのである。

 

 

 

 

 

「失礼しま――――」

 

ガラッ、と開けたそのタイミングで、大きな声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「おれ! オリンピックで金メダル獲るまで、何回も後悔すると思います!」

 

 

 

 

職員室の中で……まさかのオリンピック発言。

知る範囲内ではあるが、この学校、烏野高校出身のオリンピアンは居なかった筈だ。

県大会優勝! 全国大会優勝! という言葉なら、まだ現実味があると言うものかもしれないが……。

 

 

 

でも、声の主が誰なのか、声しか聞こえてこないが直ぐに解ったので、火神は苦笑いするだけに留めた。

 

 

その後も、モゴモゴと言っている様だが、一先ず自分の用事は手早く済ませよう! とひょいひょい器用に移動をしていた時。

 

 

「あ! 誠也! 良いトコ! グッドタイミングっ! こっちこっち!」

「おう。………おう?」

 

 

声の主――日向に呼び止められて、手招きされた。

 

 

因みに いつもの日向なら、火神の腕ひっ捕まえて、引っ張ってくぐらいの強引さが日向にはある(主に火神関連)………が、今は違う。

 

清水の迫力に恐れおののき、怖気づいているのは、何も火神だけではないと言う事だ。

日向が火神を よく引っ掻き回してるのを清水は見てるので、日向にも厳命しているのである。

 

 

【無茶させないでね】

 

 

と。

言葉短いが、そこに全てが詰まっていた。

つまり、この日本語(・・・)を更に詳細な日本語(・・・)に訳するとこうなる。

 

 

 

【―――もし、無茶させたら解ってるよね?】

 

 

 

日向はとてつもない殺気を肌で感じた。

とんでもない圧力を感じた。

下手をすれば命に関わるのでは!? と思ってしまう程に。

殺される! と思ってしまう程に。

 

 

※ あくまで日向の感覚であり、清水が実際に、殺気? 殺意? を感じさせる程の気を込めたかどうかは解らないので、あしからず。

 

 

美女の迫力と言うものは、物凄い。

日向が初めて会った時の影山や物凄いサーブを打ち、影山と言う王様の先輩―――大王様の及川も、霞んでしまう程。

 

 

【は、はひぃっ!】

【??】

 

 

火神同様、脊髄反射で背筋をぴんっ! と伸ばしながら了承する以外の返事が無かったのは言うまでもない事である。

そんな日向の反応、何処か怯えている意味が解らない清水は、ただ首を傾げるだけだった。

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

火神は、自分の用事よりも先に、日向の方を先に済ませようと、方向転換して、日向と武田の元へ。

 

 

「どうした? 翔陽。……オリンピック~とか金メダル~とか聞こえてきたケド。次は オリンピック一緒目指そうぜ! って話? ………烏野に一緒に来ようぜ! の延長的な?」

「違う違う! まぁ、違うことはないけど、今肝心なのはその部分じゃない!」

「(日向君……。火神君も、そこまで(・・・・)来る事を全く疑ってませんね)」

 

 

普通だったら、日向も火神もまだ高校1年生だ。

オリンピックの単語を聞いて、ただ視聴するとかではなく出場する、と言う会話を聞いたら……。

 

 

【んな無茶な……】

 

 

と思ってしまう場面。

中学の頃の自分だったら、日向が烏野へ行き、あの白鳥沢までも打ち破って全国へ羽ばたく事を知っていたとしても、【んな馬鹿な……】と笑ってスルーしていたかもしれない。

 

でも、今は違った。

 

共にバレーをしているから。

本気でバレーをしているから。

 

 

もしも―――知らない先にあるのが、行きつく先にオリンピックの舞台があるのであれば、行ける所まで上り詰めたいと思っているから。

 

 

―――それに、よくよく考えてみれば、高校で影山と出会ったばかりの頃、世界‼ というワードが出てるので、オリンピックと言われてもそう驚く様な事でもない。

 

 

 

 

「えっと、3年生たちの話で……。武田先生が、何年か先、5年でも10年でも、後悔しない方の道を選んでもらうしかない、って言ってて……」

「ふんふん……」

「一番後悔するのって何かな? ってオレ、考えて………えー、っとえーっと……」

 

 

頑張って頭の中纏めようとする日向。

言いたい事は大体伝わっている。元々知ってる事を抜きにしたとしても、日向との付き合いもいい加減長くなってきたのだから。

 

 

「武田先生。差し出がましいかもですが、オレの考えも言っても良いですか?」

「!? 勿論ですよ。……寧ろ、お願いします」

「? はい。ありがとうございます」

 

 

何故だろうか、ただ、武田の事を火神が呼んだだけなのに、ぴんっ、と背筋を伸ばした様に見えた。……が、特にツッコム事なく火神は日向の意見を踏まえた上での自身の考えを口にする。

 

 

「オレは、オレ達はまだ、きっと本当の意味じゃ解ってないかもしれませんが……、それでも【あの時、こうしてたら良かったな】と言う後悔はしたくないです。……絶対しない、とは言えないですが……、やっぱり あまり残したくないって考えてます」

 

火神は、そう言いながら……昔を思い返した。

 

自分は何故か、ありえない2度目(・・・)を体験出来てはいるが、厳密に言えば全くの別物だ。

 

1度目をもう一度やり直すなんて絶対に出来ないから。

 

その時の事を、その時しか出来ない事(・・・・・・・・・・)を、そして、何よりも自分がやりたい事(・・・・・)を、出来なかったなら、出来た筈なのに 自分自身がやらなかったとしたなら、きっと後悔すると思う。

 

何せ、前の自分はしっかり高校3年まで通いきった筈だ。

それに たしか進路相談的なのも何度かしたような気がするから、高校の最後まではきっと居た筈。

 

うろ覚えではあるが、断言できる事はある。

それらは決して周りに影響されたり、指示されたりして選んだ道じゃなかった筈だと言う事。

自分の心に従った事。

 

 

だからこそ 火神は、あの時の自分の選択に悔いは無いだろう、と思っていた。

―――もう存在しない世界線での話にはなるが。

 

 

でも、胸を張って言える。

その気持ちを込めて しっかりと目を見て聞いてくれている武田に言った。

 

 

「バレーは、これからも出来ます。例え年齢を重ねてもバレーは出来ます。でも、高校バレー(・・・・)は、今、この3年間だけしかできません。―――春高も。……澤村さんや、菅原さん、東峰さんもきっとそう思ってるとオレは思います。勿論、オレもまだ3年生たちと一緒にバレーをしたいです」

「そうです!! オレもそうです! 一番後悔するのは、二度とバレーが出来なくなる事で!! え、えーっと、高校出てもバレーはします! オリンピック出て、金メダルだってとります! でも、今は、この今だけはっ! えっと、その――――」

 

「……………」

 

 

武田は、じっくりと2人の話を頭の中に入れる。

選手達に……、生徒たちにとっての最善を模索するのが教師の役目だ。

 

 

他の先生たちの話も聞いた。

東峰は進学コースじゃないので、面談をしていないが 現在、澤村と菅原は個別面談をし、進路について話をした。

 

2人とも、日向や火神が希望する通り、春高まで部活を続ける、続けたいと言う意見だった。

 

そして、先生たちは 学業に専念し、より選択肢を広くさせた方が良い……という意見だった。

 

 

澤村たちの話を聞いて、一時の感情ではなく、先を見据えた話を、顧問である武田にもしてもらいたい、とも言われた。

 

 

でも―――― 一時の感情で決める事が本当に悪い事なのだろうか?

 

 

大人になれば解る。

この瞬間は……高校と言うこのたった(・・・)3年しかない時間は、本当にあっという間だ。長い人生を振り返れば。

 

明らかに誤った道を歩もう、進もうとするならば 止めなければならないが、今回に限ってはそうは言えない。

勿論、この時―――続けると言う選択肢を選んだせいで、大事な時期に大きな怪我をしたりする可能性だって否めないから、本当に一概には言えない。

 

 

でも、やはり思うのは 火神の言う様に、後悔を残してほしくないと言う事。

 

 

「(…………難しい問題、だよね)」

「「??」」

 

 

武田は苦笑いをした。

その表情の意味がいまいち解らなかった2人は首を傾げ……そして。

 

 

【武田せんせー! お電話ですーー!】

 

 

2人との話は中断する事になった。

 

 

「し、失礼しました!! 誠也! また部活でな!」

「おう。武田先生。失礼しました」

 

 

2人は軽くお辞儀をして、日向は飛びだす様に職員室から出て行き、火神は 元々用があった竹内の元へと向かい、そして職員室を後にする。

 

 

 

 

 

 

後は3年生である4人が決める事だ。

 

仲間とはいえ、進路はそれぞれ別々になるのだから、将来の事を考えると これ以上首を突っ込むワケにはいかないだろう。

 

日向は、3年の教室まで様子を見に行く、と張り切っていたが、火神は遠慮した。

 

 

 

武田の言葉、澤村達3年生の想い、それらを合わせてどう決めるのか。

 

 

 

―――決めるのは、先輩たちだ。

 

 

 

「でも オレは 何にも心配してませんからね。……ですよね? 清水先輩」

 

 

授業の為 あの後戻った1-5の教室から見える空を見上げる火神。

間違いないとは思うが、予定通り100%確実かと言われれば結果が出るまで解らないのが実情。

 

何故なら、本当に予定通りになると言うなら……、青葉城西に負けた後、病院まで付き添ってくれた清水の行動は予定外と言う事になる。

 

 

本当に予定通りにことが進むと言うなら、あの居酒屋で皆と一緒に飯を食べていた筈だから。

 

 

それに 清水はあの時……自分の情けない顔を見せたあの時、はっきりと言ってくれた。

恩を返したい、と言った自分にはっきりと言ってくれた。

 

 

【春高まで繋げば良い】

 

 

そう言ってくれたんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――学校の授業も終わり部活の時間がやってくる。

 

 

 

 

 

部活開始の時間は―――もう、過ぎている。

 

 

日向も影山も……そして、火神も何処となく緊張している様子だった。

 

 

「……3年生、来ねぇな………」

 

 

田中のその言葉により、緊張感が更に増していってしまう。

もう、このまま引退してしまうのだろうか、と 悪い風に考えてしまう。

 

 

火神は 座っていたパイプ椅子から立ち上がり、外へ様子を見に行こうと、体育館の出入り口の扉に手をかけたその時だ。

 

 

「やばいやばい! 遅刻だぞ、早くしろ!」

「ッ!」

 

 

待ちに待っていた人達の声が聞こえる。

軈て、体育館の扉が左右に開かれ、一番乗りをした菅原と目が合った。

 

 

「こらこら~ 無理して動いてちゃ、清水に怒られんべ~~?」

「や! こっちの足は使ってないですっ! 無理なんかぜんっぜんしてません!! ぜんぜん、まったく!!」

「いや必死か! はっはっは、無理してないなら良し! だべ? 清水」

「……ん」

 

菅原の直ぐ横には清水が居た。

ちゃんと松葉杖を使ってる事もしっかりと確認してもらえた様だ。

 

菅原の声に全員が反応。

皆が集まってきた。

 

 

「行くぞ、春高!」

 

 

笑顔でそういう菅原。

そして、それに続く澤村と東峰。

 

 

【おっしゃああああっ!!!】

 

 

緊張感が一気に霧散したのと同時に沸き起こる感情を爆発させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、烏養も含めてメンバーが揃った所でミーティングから開始。

烏養を中心に皆 座って話を聞く。 ※ 火神はパイプ椅子に着席中。

 

 

「オレ達は、優劣を決める試合で負けた。どんだけ惜しかったとしても、惜敗だー、勝者に近い敗者だー、って言われても同じ。負けは負けだ。チーム内で、どんなトラブル(・・・・)が起きたとしても、それは勝負する相手には関係ない。……ただ青城は強かった。オレ達はそれに劣った。それが結果で事実だ」

 

事実は変えられない。

負けた事を再認識するのは悔しいものではある、が胸に刻みつける事によって、より強く前へ足を踏み出す事が出来る。烏養は少なくともこの烏野ならあの敗北を乗り越えられると信じているのだ。だからこそ、続けた。……まだ、()がいると言う事を伝える為に。

 

 

「―――んで、今日のIH(インハイ)予選決勝。優勝は白鳥沢、準優勝は青城だ」

 

 

 

自分達を倒した青葉城西よりも更に上がいると言う事実に、皆顔を顰める。

 

「スコアは競った。2-1だ。最終セットもデュースの末に青城の負け。まぁ、お前らと同じだ。惜敗ってヤツ。………だが、これも関係ねぇよな?」

 

青葉城西と白鳥沢の1戦。

確かに、青葉城西があっさり負けてしまえば、その青葉城西に負けてしまった自分達より、はるか高みに白鳥沢が居る、と思ってしまったり、逆に 互角の勝負、ギリギリの勝負だったと言うのなら、自分達も同じレベルに居る、と思ったりするだろう。

 

 

だが、烏養の言う通り関係ない。

 

 

自分達は負けたのだから。

どれ程 綺麗事を言われてもその事実は変わらないし、これからする事だって変わらない。

 

 

「お前らが、白鳥沢も青葉城西も倒すってんなら、――――強くなるしか無ぇ。そんで次の目標はもう、解ってると思うが 春高だ。高校バレーの大会ではIH(インハイ)に並んでデカい大会だ」

 

 

全日本バレーボール高等学校選手権、通称:春高。

当然この場の誰もが知っている事だし、誰もが憧れている場所だ。

 

嘗て、この烏野高校も、そこへと羽ばたいた時の事は、この場の誰もが知っているだろう。

 

 

「春高が1月開催になって3年も出られるようになってからは、出場する3年にとっては文字通り【最後の戦い】だな。………オレん時は、3月開催だったから、3年は出らんなかったんだよ。ああ、クソ羨ましい」

【…………】

 

 

途中でやや私怨が混ざった気もしたが……、まぁ時代が時代なので仕方ない、と苦笑い。

 

 

確かに昔は3月開催していた。

そして 色んな問題点・課題が浮き彫りとなったので、結果 烏養が言う様に1月開催に決まった、と言う歴史があるが………、それも今の選手達には関係ない事だろう。

ただ、運が良かった、と言うだけで……。

 

 

何にせよ、おかげで 3年生でも挑戦する権利が得られている。

 

 

「よし。じゃあとりあえず、ここは主将に一発気合を入れて貰おうか」

 

 

 

烏養に促され、澤村が皆の方へ向き直す。

1人1人の顔がはっきりと見えるし、自分の事を見ているのも解る。

 

後は主将として、恥ずかしくないだけの決意を見せるだけだ。

 

 

 

「………昔、烏野が一度だけ行った舞台だ。――――もう一度、春高(あそこ)へ行く」

 

 

 

力強く、はっきりと宣言した。

言うは易く行うは難し、と昔から言われているかもしれないが、澤村が吐いたこの言葉は、決して易いとは思わないし、思えない。

 

 

「東京、オレンジコートだ。――――必ず!」

【うおおっ!! しゃああああ!!!】

 

 

もしかしたら、口では否定していても、一番心配だったのが、田中なのかもしれない。

澤村達3年が来た時も、そして今も、一番誰よりも声を上げているから。

 

そんな田中に皆も続く様に声を張り上げる。

 

 

気合は十分。士気も問題ない。

 

 

 

後―――問題があるとすれば、技術面。

 

 

「(今のままじゃ駄目だ……、あの大王様だって負けた。……上にはもっと上が居るんだから……)」

「(何が起きても動じない。それでいて、冷静に。絶対(・・)なんてモノは無い。そう思ってしまうのは、出来る全てを やって来た自信が オレには無かったからだ。……それに勿論 怪我しない身体作り。やる事成す事が多いな)」

「(烏野(うち)連中(スパイカー)は強い。……そのスパイカーに道を切り開くのが(セッター)だ………。それに もっと飛び道具を強化する。熱くなり過ぎない。アイツら(・・・・)を十分活かせるだけの冷静さも意識する。………やってやる)」

 

 

それぞれの決意がその目に宿っているのは、皆を見ていた烏養が誰よりも解っている。

 

だが、ここで現実問題にも直面していた。

 

 

「(とにかく試合だ。……練習試合が、全然足りねぇ。先生がなんとか組んでくれた分でも、正直まだ全然だ。………どうする? 町内会は安定して人集まんねーし……、こう言う時に伝手の無さが悔やまれるってもんだ。………ジジイともっと話しとくべきだった)」

 

 

練習試合程、効率が良く 更に自分達の課題も見え、そして向上出来るモノはない。

だが、かと言ってどんな相手でも良いと言うワケではない。それなりに強豪相手に練習試合を重ねなければより良い効果は見込めない。

 

重ねてきた強敵たちとの闘いが、自分達の背骨(バックボーン)となり、心身ともに支えてくれるのだから。

 

だが、こればっかりは こちらがやる気満々だったとしても 相手が居ないと出来ないので難しい課題だ。

烏養前監督の時は、様々な伝手があった。関東にもあったし、白鳥沢とも確か練習試合をした事だってある筈だ。

 

だが、現在 その様な伝手は無く、どうにか色々な所と交渉出来たとしても、了承してもらえるかどうか妖しい。

 

 

 

どうしたものか―――、と考えていたその時だ。

 

 

 

バァンっっ!!

 

 

と勢いよく体育館の扉が開いた。

 

【!??】

 

思わず振り向いた先には―――武田が居た。

なぜか解らないが……ヘッドスライディングした様で、突っ伏している。

 

勢いよく突入してきたは良いが、段差に足をとられて倒れてしまった様だ。

 

結構大きな音がしたので、それなりに痛い筈だが、そんなの関係ない! と言わんばかりに武田は、這うようにして頭を上げた。

 

 

「い、行きますよね!??」

 

 

何の話だろう? と疑問を浮かべる。

 

「え?? 何処に!?」

「って、大丈夫ですか?? 先生! オレの(コレ)使います??」

「それは駄目。私がイス持ってくるからじっとしてて」

「先生鼻血出てます!」

「大丈夫かよ、武ちゃん先生!?」

 

 

ざわつきながら、尋常じゃない気配を纏ってる武田の元へと皆が集まる。

その手には、くしゃくしゃになっている紙切れが見えていた。

 

 

その紙切れを見せようとしたのか、或いはたまたまそうなったのかは解らないが、拳を突き出す様にこちらへと見せて言う。

 

 

 

「東京!!」

【!!】

 

 

 

 

さぁ―――大きな大きな祭りが始まる。

 

 

 

 

 


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