王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅れました……、ちょっと色々と忙しくなってきましたので……。仲間が1人ダウンしてしわ寄せがめっちゃ来てる状態、と言う。苦笑

でも、何とか出来ましたので投稿します。
……この話で色々と動きます。物凄く悩みましたが……、やっぱり、こんな感じになってしまいそうです。

これからも頑張ります。 
ありがとうございました。


第76話 青葉城西戦⑯

「あああーーッッッ! やっぱ せいちゃんは 一瞬も油断しちゃダメな相手だって事、改めて痛感させられたよ、もーっ! くっそーー! 手ぇ出すんじゃなかったー!」

 

 

青葉城西側にて、タイムアウトの最中、及川は わざとらしく頭を抱えて唸っていた。

 

火神に対して及川の反応は 大体こんなもんだろ、と思いがちではある。……だが、それは先ほどの様子、反則(オーバーネット)を取られた時の及川の様子を見ていなければの話だ。

 

それを見ている岩泉は、とりあえず及川の背中を軽く叩いた。

 

「軽口言える程度には頭冷えたみてーだな」

「うぐっ……(岩ちゃんだって……)」

「……あ? んだよ?」

「いえ、なんでも無いっス」

 

及川は、岩泉も十分熱くなり過ぎてた、と一瞬反論しようと思ったが、今回のに限ってはあまりに的確に図星をつかれてしまった為、何も言い返せず ただ軽く呻くだけに留まった。

 

 

 

そして、及川は改めて大きく深呼吸をする。

もう落ち着いているつもりではある、が念のためだ。

 

 

 

「はぁ……、解ってると思うし、解ってたつもりなんだけど せいちゃんは、普通のエースとはまた違った意味で凄いね。個人技だけで十分勝算が高い勝負できる選手。背丈(タッパ)もある方だし、力だって同じく。さっきの場面で どの選択をしようと、十分勝負できるっていうのに、数ある選択肢の中、選んだのは まさかの―――だよ」

 

必ず決める、必ず止める。

相手が 強い力で押してくるならば、それを上回る力で押し返したくなるモノだ。

それが、この獲られてはヤバイ場面、是が非でもブレイクが欲しい場面ともなれば尚更。

 

 

取った火神の手段は 実にいやらしく、巧みで、強かだ。

そして、何より脅威に感じるのは 本当に直前まで解らない(・・・・)と言う点に尽きるだろう。

 

「そんで、反則誘い(アレ)を警戒し過ぎてたら、きっと今度は そのまま押し込まれそうだしね。適度に冷やしていかないとドツボに嵌りそうだ」

 

あからさまに、今の攻撃を警戒し過ぎていれば、そのままツーで決められる展開が目に浮かぶ。

 

「……だから、岩ちゃんの言う通り、頭は大分冷えた。熱くなりっぱなしじゃ、勝てるものも勝てない。烏野の元の攻撃力の高さに加えて、……そう言う所(・・・・・)も確実に突いてくるんだからね。……試合終盤、疲れが出てきてる場面で、まさかの頭の痛い心理戦みたいなのする羽目になるなんて、正直勘弁して~な気分なんだけどさぁ。……でも、勝つためには やるしかない。こっから逆転するよ!」

【おう】

 

 

及川の改まった正直な心の内を聞いた全員が頷いた。

 

あの場面で、まさかの反則(オーバーネット)誘いをされたら、及川じゃなくたって混乱するし、何よりあそこは まさに点を獲らなきゃいけない場面だ。

ブレイクされたら離されたら特に不味い3セット目の中盤から終盤で熱くなったりもするだろう。

 

そして 自分達の主将が普段通りを、平常心をどうにか取り戻そうとしている。

そんな主将に自分達が続かなくてどうする、と。

 

 

「それにしたって、渡—及川(お前)のセットアップを初見で見破ってきたってどういう事よ?」

「あー、うん。それオレも思った。攻撃回数や決定率とか考えたら、絶対に岩ちゃんマークする、って思ってたんだけどさ。あそこで、烏野のブロッカーの頭が冷えた訳も、せいちゃんの【ステイ】だよね」

「あの10番なんか、あからさまに反応してたよな。あの11番の声に」

「せいちゃんの声に脊髄反射っぽく反応したみたいだね、そこもまぁアレだよ。単純だからってヤツ? ……でも、その後の神業速攻への反応の速さは本人の意思ってヤツだね。アレも存外厄介極まりないんだけど、あんまり捕らわれすぎはよくない。あくまでチビちゃんは優秀な囮だから」

「んでもって、烏野の司令塔(セッター)は 影山の筈だけど、火神は頭脳(ブレイン)って感じか……」

「うん。それも異議なし。……でも、だからと言ってあっちの主将君を無視していいか? って聞かれれば駄目だよ。そりゃ、1年トリオに比べてみれば目立ってないケド、要所要所は的確に指示出してるし、油断ならないのは間違いない」

 

 

 

 

場面はまだまだピンチだが、極端に焦る事はない。

今、このタイムアウトの時間を有意義に過ごす。意味もなくあたふたして無駄にする訳にはいかないのだ。

 

話題に上がるのは当然火神が中心だ。

 

 

そして、中でも渡が考えるのは やはり あの及川へ上げたセット。

意表をついたつもりだった。ただのトスではなく、より難易度が高いバックトスを選んだのもそれが理由だ。

 

 

「(僕のトス、彼は初見って訳じゃない。……確か1セット目にも僕がトスを上げのを見てる筈。……その時見た姿勢(フォーム)とかで、ある程度 何処に上がるとかの見切りをつけた、って事……? 更にあの一瞬でブロッカーへの声掛けまで同時進行……? そうなのだとしたら、視野が広いどころの話じゃない。観察力・対応力、……本当の意味で全てが半端なく高いって事になる。……まだ、1年なのに)」

 

 

渡は、先ほどのプレイを、そしてこれまでの事も思い出して、ぎりっ……と歯を食いしばった。

 

烏野の天才リベロ 西谷の守備力。

そして それに勝るとも劣らない守備力を持つ火神。

 

何度も魅せる烏野の守備は リベロとしての実力が明らかに負けている、と思わされる程だ。

 

それもリベロ以外の選手に、更に1年に。

 

 

強豪校・青葉城西の守備の要(リベロ)

それに選ばれた渡。誇りは、少なからず持ち合わせていた。

 

だが、試合を重ねるにつれて、自分は西谷に そして火神に守備で(・・・)圧倒されている。

 

そんな中で、認めている中でも 決して負けない、負けていない武器が先ほどのセットアップだった。

相手に意表をつく事とセッターである及川が攻撃に加わる事。

それらを可能にするトスの技術。

自信を持って武器としていた渡だったが、上げられ 逆に点を獲られてしまったのだ。

 

 

 

 

 

渡の表情が沈んでいたのは、周囲にも伝わったのだろう。

岩泉が、渡の肩に手を回して言った。

 

「ミスなら悔やんでいいが さっきのはミスじゃねぇ。反応した相手に、取りやがった火神の野郎に称賛だ! そんでもって、オレ達も(・・・・)置いていかれないように頭冷やしていくぞ」

「!! は、はい!」

「ぐぅぅ…… 岩ちゃんにセリフ取られた……」

「おめーが、相手に称賛とか言うかよ。つーか、説得力がまだ色々足りてねーわ」

「はぐっ……」

 

渡は、この時 3年生たちに、プレイも精神的にも支えてもらっている事を自覚した。

悔みに悔み続けて、このままで良い訳がない。

 

アレは自分のミスではなく、自分以上の相手へ称賛。

その上で、絶対に負けたくない。

 

渡は、両頬を思い切り叩き挟み込む。

 

それを見た周りも頷き、そして円陣を組んだ。

 

 

「絶対勝つよ!」

【おう!!】

【はい!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面は変わって烏野側。

わらわら~ と火神の周りには人だかり? が出来ていた。

 

 

「お前 さっきの反則(アレ)狙ってたのか? (及川さん相手に………!??)」

「この土壇場で、狙ってやったってーのか!?」

「ツーの押し合いになると思ってたのに、スゲーぞ! 誠也!!」

「すげーー! せいやすげーー! 今の、オレもやる!!」

「いや、日向は打つ方をやれよ……」

 

 

火神の前で人だかりが出来るのは良いと思うし、仕方がないと言うか何と言うか…… 互いに欲しくて欲しくてたまらなかったブレイクポイントを得たのが火神だから、当然の光景だと言える。

 

でも。

 

 

「いや、皆さん。とりあえず ちょっと座りません?」

 

 

タイムアウトと言う貴重な時間。

悪い流れを物理的に切る為、そして 何より貴重な休憩・給水の時間でもある。

興奮冷め止まないのは仕方ないのだが、時間は有限なのでとりあえず座りましょう、と火神は促す。中々興奮しっぱなしで話聞いてくれてる人は3年組と月島だけなのが悲しい所だ。

 

 

「うっし、おらおらお前ら! 火神の言う通りだ! こっからはスタミナ勝負って面もある。休める時に休め! 座れ座れ。んでもって、水分補給もきっちりやっとけ」

 

烏養が、ベンチをばんばん、と叩いて座るよう指示。

何度も拭っては流れる火神の汗の多さには、烏養も気付いている。

表情には出ていないし、動きのキレや跳躍も一切落ちていないのは事実だ。……だが、間違いなくチームでトップクラスに動いている内の1人なので、休ませれる時には休ませないといけないだろう。

ここから更に万全を期すためにも。

 

「ドリンク」

「タオル!」

「「おう、サンキュー!」」

 

山口は、清水と手分けして、タオルとドリンクを皆に配る。

 

先ほどまでは、確かに火神のファインプレイで皆興奮状態だった様で 気にしてなかったのだが……、烏養に言われてから漸く思い出したかの様に それぞれが汗を拭い、そして喉を潤していた。

 

 

「(1、2セット目より断然ラリーが続く様になってる。……しんどいんだろうな。……でも)」

 

 

山口の胸に沸く思いは1つ。

 

 

「(いいな)」

 

 

コート内で死力を尽くしている皆に渇望する。羨ましいと思う。

 

自分も中で戦いたい、共にボールを追いかけ、コートの中で喜びや悔しさを仲間たちと分かち合いたい。だが、今の自分は力不足である事も認識している。

試合には出たい。……だが、今出ている皆より秀でた部分があるか? と問われれば なかなか首を縦には触れない。

1年の中で 一番経験値の浅い(と思われる)日向と比べたとしても、やはり あの最強の囮、そしてあの得点力を鑑みると、負けたくないが、今はまだ勝てない。

 

 

「(火神みたいにサーブで………)」

 

 

不意に山口は火神の方を見ながら、考える。

出来るとするなら、1年の中で、特に月島や日向に負けない部分があるとするなら、サーブに尽きる。

練習中も練習を終えた後も、サーブは磨き続けてきた。使い物になるか? あの火神の様な完成度はあるか? と問われれば、これまた首を縦に振りにくいが、もしも――チャンスが来るのであれば。

 

「(オレにも……!)」

 

手のひらを じっと見た山口は 自分の出番が来るかどうかは解らないが、それでも田中や菅原の様に イメージする事だけは続けるのだった。

 

 

「よっしゃ、お前ら。調子に乗ってけよ! 間違いなくコッチが押してる! 中に切り込む攻撃は向こうも慣れてきてる様だ。だから攻撃は出来るだけコートの横幅めいいっぱい使ってけ!」

【ハイ!】

 

 

全力の青葉城西に、セットを獲り返し、更に最終セットで1歩リードした事。

それがどれだけ選手達を高揚させることだろうか。

練習試合ではない。公式戦でベスト4…… 否、県No.2である青葉城西に勝つ。

 

ただただ、それだけを考え続けている。

 

 

 

 

「―――火神、いけんのか?」

「おう! って、だーれに言ってんだ? 影山。全然余裕!」

 

 

火神はタオルで顔半分見えないが、笑いながらサムズアップをして返答した。

 

だが、流れる汗はまだ留まる事を知らない様子。

何度も拭って拭って、そしてドリンクを口の中に、身体の中に流し込んで、まだ拭っての繰り返し。

 

そんな火神の姿を見て、影山は軽く声を掛けた。

 

これも、スパイカーとのコミュニケーションと言うヤツだ。言われた通り、選手の状態を把握する事もセッターとして、司令塔として必要な事だから。

 

影山に聞かれた火神も、まだ動くには問題ない、最後まで行けると思いつつも、疲れてきているのは事実だ。

でも、表情に出さない様にしていた……が、影山にそれなりには的を射た事を言われてしまう。

まだまだ体力が足りてないと思いつつも、選手の状態をしっかり把握しようとする影山には感激した。

 

 

「――しないと思うけど、オレに遠慮なんかいらないから」

「――無いと思うなら言うんじゃねぇ。しねぇよ」

 

 

優秀なスパイカー、ポイントゲッターは そこに居るだけで囮となるもの。

次も来るのでは? 次こそは止めてやる! と頻りに相手を前のめりに誘い出す。

 

だが、それらの効力も当然 攻撃姿勢に影響されるのは言うまでも無い。

疲労状態で入ったとしたら? 

殺気に似た気迫を纏っていた筈なのに、それが明らかに消失していたとすれば? 

効果は著しく減少してしまうだろう。

 

影山は、声こそはかけたが、それはあくまで烏養にも言われたコミュニケーション。

心配など端からしていない。

 

それに、影山は知っているから。

あの中学時代にもう知ったのだから。

 

 

 

 

――雪ヶ丘中の男たちは 諦めると言う単語を知らず、そして体力も無尽蔵なのだと。

 

 

 

 

中学の時。

優勝候補と呼ばれた北川第一と弱小校と思われた雪ヶ丘の対戦。

大方の予想を裏切り、まさかの雪ヶ丘中の逆襲を受けた。

 

スコアから見れば2-0のストレート勝ちだし、接戦だったのは1セット目だが、数字以上に内容が濃かったのも事実だ。

 

そんな中学に居た男が火神と日向。

あの試合でどんな場面でも、どんなに劣勢でも、どれだけ動いても……、最後の25点が決まるまで走り続け、跳躍し続けていた。

 

だからこそ、自分も、自分達も負けじと奮い立った。2セットしかしていなかったが、かつてない程の疲労感と躍動感に満ち溢れていた。

向上していくのが解る。……だからこそ終わってほしくないとも何処かで思っていた自分も居た。

 

そして、現在。

烏野高校と青葉城西高校の対戦。

 

影山の予想通り、いや 予想以上の実力を火神は見せ続けている。想定を更新し続けている。

例え、及川を始めとした青葉城西の面子の並々ならぬ圧力を何度受けようとも、この目の前の男いる限り、————負けない。

 

 

 

「うほーーー! せいや、さっきのヤツ教えてっっ!! オレもやるー!」

 

そんな時、間に割り込んでくるのは、同中の男 日向。

火神と同じ中学だが、跳躍力・体力だけ(・・)は、引けを取らないだけ。それだけだ。と影山は頭の中で一蹴した。

実に辛辣である。

 

そして、火神もこうやって日向が強請るのは、毎度毎度の事なので。

 

「いやいや、翔陽は そんなの覚えなくて良いって。まずはネット際の攻防、正攻法から学んでいきなさいよー」

「ドヘタクソのドチビに出来る事じゃねぇ。そもそも ンなモン覚える前にする事やる事 山のようにあんだろうが」

 

火神はやんわり、諭す様に日向に伝える。

このおねだりは、1人時間差の時と同じだ。

日向の今の一番の武器は 何よりあの最速の攻撃。コースの打ち分けやフェイント等ならまだしも、反則誘いは考えない方が良い。空中戦で難しく考えるのは、もっともっと後で良い、と。そもそも頭の容量(キャパシティ)増やしてから新しい事を始めてもらいたいものだ。

 

と言うワケで、諭す火神の姿は、駄々こねる子供に言って聞かせているので、やっぱりお父さん的な絵面である。

 

 

そして、影山は当然ながらかなり強めに一蹴。殆ど暴言である。

 

 

あの及川を出し抜いた火神に対抗意識メラメラと燃やしている中での日向突入だったので、日向に飛び火した形だろう。

 

色々と事実なので仕方ないのだが……、やはり影山の言葉は棘どころか槍だ。

 

 

 

「ふぐっっ!! か、影山は もうちょ~~~っとでも、優しくするって事も学んだ方が良いですっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイムアウトも終わり――試合が再開される。

 

 

明らかに部員数が多い青葉城西側の方が応援数でも、声援量でも、烏野を上回っている筈だが 試合に魅せられた者も多いのだろう、現在は声援は五分五分だった。

 

特に、火神が取ったブレイクポイントでこのセット最大2点差をつけた時には、これまで以上……いや、現在も更新中ではあるが、一番の大声援に包まれれていた。

 

 

そして 場の雰囲気も烏野寄りだと言って良いのだが、青葉城西は動じない。

 

 

続けて3点目は許さない、と言わんばかりに即座に獲り返し、点差を縮める。

 

 

獲って獲られてを繰り返す。

 

 

青葉城西が押し戻すと、観客側も当然騒ぐ。大いに騒ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕にも解ります。烏養君」

「………?」

 

試合を見守っている武田も、手に汗を感じながら、興奮しながら続けた。

 

「きっと、試合()までは、チームとして強かったのは青城(向こう)だったでしょう。4強と言う実績も有り、ここ数年での戦績も烏野より遥か格上だと言って良い。………でも、今は違う」

 

武田の目の前で死闘を繰り広げている選手達。

 

彼らが躍動しているのがよく解る。

武田は形ばかりの監督ではあるが、それでも 監督の前に教師として、子供たちが成長をし続けていく、リアルタイムで成長していく姿に目を奪われていたのだ。

油断をすると、呼吸さえ忘れてしまうのでは? と思ってしまう程に。

 

 

「勝負って言うのは、真剣勝負っていうのは、常に自身の持ちうる全て、100%の力を出し続ける事が理想です。……でも、ふとした時の油断、場の雰囲気、緊張感、力み等の影響で70%になったり、はたまたその逆120%に跳ね上がったりしていきます。そういうのが真剣勝負だと僕は思ってました。……でも、今の皆は凄い。こんな勝負もあるんだと、僕は目から鱗です。―――まるで、まだいける、まだまだいける、と どんどん加速して言っている様に見えるんです」

「……ああ。解るぜ、先生。そんでもって、それは青城(相手)にも言える事だな。意地と意地のぶつかり合い、と言えばそうなんだが、試合中に成長していくなんざ、オレはこれまで見た事ねえよ。つーか、こいつらと出会って、そんな事ばっかりだ」

 

 

烏養も武田の言葉を肯定した。

 

そして、コーチになる前の事を思いだした。

 

武田には何度も何度もコーチの依頼を頼まれた。

だが、その都度断り続けてきた。理由は武田に話した通りだ。

 

高校時代に汗水流し、只管ボールを追いかけ、飛び込み続けたあの体育館に行きたくなかった。青春の全てが詰まっている場所。好きな場所だったからこそ、行きたくなかった。

どれだけ近くに行っても、体育館の中に入ったとしても、自分が、自分達が居た場所とは全く別物なのだと思ったから。近くに行けば行くほど、遠ざかってしまう様な気がしてならなかった。だから、戻りたくない、と烏養は言った。

 

だが、結局コーチを引き受ける事になる。

切っ掛けは音駒高校。

数年ぶりに、因縁の相手が烏野に来る、と聞かされた。

 

ほんの些細な切っ掛けではあるが、それで烏養は嘗て自分達が居た場所とはまた違う烏野へと戻る事になった。

 

その日から、驚きの連続だ。

 

凄い1年が居る、と言う事は武田から口酸っぱく聞かされて最早耳ダコだった。

そして、それは間違いでは無かった。

実感している。―――今も。

 

 

「(……感謝してるぜ、先生)」

 

 

あの青春の日にも負けないくらい熱い思いをさせてくれた切っ掛けである武田に、烏養は心の中で感謝を告げるのだった。

 

 

 

 

そして、止まる事のないラリー。

強烈なサーブを、スパイクを上げ続ける両チーム。

 

 

 

延々と続く排球(ハイキュー)に、魅せられた武田はポツリと呟く様に言う。

 

 

 

 

「―――個人的な想いではありますが、僕は……出来る事なら、出来る事なら、この両チームの戦いは 県大会と言う比較的小さな枠組みではなく、もっともっと大きな舞台で競って欲しかったです。それと……いつまでも見ていたい……です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武田の想いとは裏腹に………、次の点の流れで突如として事態が動くことになる。

 

 

 

それは、これだけ高揚し、互いに高め合ってると言って良い両校どちらにとっても良いとは決して言えない事態に―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在。

20点目を烏野が獲り、青葉城西が追いかけて20—19。

 

 

「ストレート!!」

「ふっっ!!」

 

 

青葉城西の攻撃、花巻のストレート打ちを火神が上げた。

上がった先は アタックラインよりややライトよりの外。

 

何度目か解らないブレイクチャンスだ。

 

「(あー……、低い。もっと、もっと行けた筈だろ……ッ)」

 

火神は、今あげたレシーブでは満足する事は無い。

スパイクを拾って見せた時点で、ナイスレシーブ! と言って良いが 妥協はしない。周りがどんどん加速して言っているのを火神も感じているから。

 

「((ブロック)だけじゃない。(レシーブ)でも、スパイカーのストレスになれ……、もっと、もっと……!)」

 

只管、追い込みを続けていく。

 

そして、火神だけに留まらない。もれなく全員が必死そのものだ。

 

当然だ。負けたくないと言う気持ちは誰もが持ち得ている筈だから。

 

 

【負けてたまるか!!】

 

 

一球一球上げる度に、まるで頭の中に響いてくるかの様だ。

 

 

 

「東峰さん!」

「おおッッッ!!」

 

 

影山が選んだ手は、東峰のバックアタック。

今、日向が外に居る状況、そして火神もスパイクをレシーブした影響もあってか、攻撃に加わるのが遅れていた。

それでも、火神の攻撃姿勢は、闘志は、一切萎える事が無く剥き出しになっている。

 

それを利用して、影山が選んだのが東峰のバックアタック。

 

長くラリーが続いているが、東峰の決定率は決して悪くは無い。触発されてこのセットから調子を上げている様にも見える。

 

選んだ手としては決して間違いではないが、東峰の前には壁が立ちはだかっていた。

 

 

「クソっ……!!」

 

 

「んんッッッ!!」

「ワン、タッチぃぃィィッ!!!」

 

 

渾身の当たりではあったが、及川と松川のブロックに威力を削がれる。

 

青葉城西も負けていない。火神に一歩、その気迫に時間を奪われたと思っていたが、リードブロックは徹底して行った為、東峰のバックアタックにも追いつけた。

日向が居ない、即ちあの神業速攻が無いのだから、よりボールに集中できる。

 

 

「渡!!」

「オーライ!!」

 

 

ワンタッチのボールを、渡が繋ぐ。

ふわりと高く上がるボールは、選手達に、司令塔(及川)に一息つく時間を与えた。

 

 

視線を向ける先に居るのは……岩泉。

 

 

「(岩泉さんのバックアタックか!?)」

 

 

その及川の視線に、影山が真っ先に気付いた。

 

 

「(飛雄相手でも、ちょっとわざとらしすぎたか、な……?)」

 

 

だが、その視線もフェイクでは無いか? と疑惑も頭にあった。

長く続き過ぎたラリーは、考えることを放棄し、本能のままに動かそうとするが、影山は懸命にそれに抗う。

 

まだまだ目の前のあの男は動き続けているから。

 

あからさまに視線を送った及川は、それをフェイントとする―――事は無い。

 

 

「(でも、そのまま行くんだ!)岩ちゃん!!」

 

 

向けた先に、正直に上げるのも、また1つ選択。影山の様に深読みをしてしまえば、ハマってしまう手だ。

 

 

「バックアタック!」

「ブロックだ!」

 

「くっ!! (一歩遅れちまった!?)」

「ッ……!!!」

 

 

影山は出遅れたが、日向の様に、横っ飛びをする事で、打点こそは普段より低めだが何とか月島との2枚ブロックを揃える事に成功した。

 

月島も、体力的に厳しい所ではあるが、この男にも等しく意地と言うものはある。

それに、後衛では西谷と交代していて、実質半分しか出ていないのに 全て出ている男の背を、月島も静かに見ていたのだ。

 

 

「(影山側(クロス))オラぁぁッッ!!」

 

 

横っ飛びブロックの為、打点も低いし、何よりブロックの面積も狭まってしまう。

ストレート側に流れてきているので、当然クロス側を打ちやすくなる。

 

岩泉は、そこを狙って思いっきり打ち下ろした。

 

クロス側には西谷が控えている。どんなボールだろうと、必ず取ってやる! と構えていたのだが……。

 

 

「!!」

 

 

ドカッッ!! と打ち放たれたボールが当たったのは、白帯。

岩泉にも疲れが出ていて打点が低かったのか、或いは打ち下ろし過ぎたのかはわからないが、ブロックにではなく、白帯に当たってしまったのだ。

 

だが、それが青葉城西側にとって幸運になる。

岩泉のスパイクは、ネットに阻まれた―――訳ではなく、スパイクの威力は十分にあった為、帯が捲れ 烏野側へと落ちたのだ。

 

強打を警戒し過ぎていた為、ほぼネット真下に落ちるボールに、レシーバー陣が反応出来る訳がない。出来るのは フェイントフォローに回っていた者か、若しくは……。

 

 

「ッッ!!」

 

 

ブロックに跳んでいた者、影山だった。

遮二無二に跳んだが故に滞空時間が短かったがこの時は功を成した様だ。ボールよりも早くに着地すると、すぐさま ブロック時とは反対の脚に力を入れて、ボールに飛び付いた。

 

右拳を思いっきり伸ばし、ボールを掬い上げようとする……が、ボールまでの距離が足らなかったのか、ボールを掬い上げるどころか、拳の先端がボールに当たった為、更に外へと大きく弾き出してしまった。

 

「(クソッ……!!)」

 

これは繋がらない、と影山は諦めかけていたその時だ。

 

 

「ふっっッ!!」

 

更に外へと弾き飛んだボールに向かって飛んだ火神が視界に入ったのは。

 

その光景は、まるでボールに先回りをしていたのか、或いはボールがそこに飛んでいくと言うのが解っていたのか? と思う程だった。

影山の様に片手ではなく、両手を使ったアンダーで、大きく掬い上げた。

 

そのボールが上がった先に居るのが、月島。

 

 

 

 

【ラストォぉ!!!】

 

 

 

 

全員の声が一点に集中する。

そして、全てを託された形になった月島だが、焦りは一切見えない実に冷静(クレバー)

 

ブロックに伸びていた手に引っかけて、見事にブロックアウトで点を取る。

再び2点差の21—19。

 

喜びを爆発させる烏野。

1点1点が遥か遠くに感じるが故に、点を獲った時の喜びと言うもの果てしなくデカい。

 

 

 

そして―――得点をした事に対する喜びを、大きくさせ過ぎたせいもあってか……、気付くのに遅れてしまった。

 

 

 

 

――起きてしまった異常事態に。

 

 

 




異常事態とは………??

解りやすすぎですかね……。
次も頑張ります

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