王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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本当にありがとうございます!
これからも頑張りますので、よろしくお願いします。



後……誤字報告も本当に感謝です。沢山の誤字、すみません……。

ありがとうございました!


第72話 青葉城西戦⑫

 

 

 

「ブロックアウト!!」

「旭さんナイス!!」

 

 

東峰のブロックアウトで、烏野は点を取り戻す。

 

まさに出足絶好調で連続ポイントを重ねていた烏野だったが、流石にタイムアウト後は青葉城西が息を吹き返し、無難に取り返してきて更なる連続ポイントを阻止。

そして 今に至る。

 

東峰の強力な一撃が、金田一のブロックの手に当たって、そのままブロックアウトだ。

東峰のパワーが金田一のブロックに勝った形ではある……が。

 

 

「(……ブロックしっかりついてくるな。タイミングも合ってきてる)」

 

 

それは決して東峰が気持ちよく打てた訳では無かった。

後ほんの少しのズレや遅れで止められていても不思議ではない際どいモノだった。

 

烏野の菅原セットも決して悪くはない。

日向が居ない状態ではあるが、こちらの囮には何人か入っていたし、分散も出来ていたと思える。それに 速い攻撃を言えば、日向程はなくとも高さを兼ね備えた月島の速攻もある。

 

つまり攻撃枚数もバックアタックを含めると今は十分多いローテだった。

 

だが、それでも的確に必要な情報だけを掬い取って 東峰に焦点を合わせてきていた。

対応が早いのも流石の一言だろう。

 

 

「おっけー金田一! 攻撃読めてきてるじゃん! 次行けるよ! 次次!」

「あっ、オス!!」

 

ブロックで止めれず点は決められはしたものの、及川のフォローも有り、後少しの手応えも有って、金田一は火神の時の様に熱くなり過ぎたりはしていない。

無論、火神とマッチアップした時も、冷静か? と問われれば一概には言えないかもしれないが、少なくとも、東峰と対面し ブロックに跳んだ時、及川の目には冷静沈着でコース・タイミング等を読めているとみれた。

 

そして、もう1つ――。

 

 

「(あの2番君……、何だか爽やかな せいちゃんの先輩だから、爽やか先輩(・・・・・)かな? ……対面してみてわかる。彼も決してレベルは低くない。トスの精度も良いし、周りも信頼してるっていうのがよく解る。味方を見る力、コミュニケーション能力は、当然だけどトビオよりも圧倒的に上。……でも)」

 

及川は、その後火神の方をチラリと見た。

 

「(型破りな事はやってのけない。あくまで彼が組み立てるのは教科書的な攻撃。無理無茶はしない。無難に凌ぐセットアップ)」

 

菅原の基本に忠実なプレイをそう評する及川。

確かに、基本、基礎能力が強いチームは強い。土台がしっかりしているからこそ、出せる地力と言うものがあるからだ。

 

だが―――そこまでだ。

 

 

「烏野の基礎攻撃力が高いのは確かだ。それ以外でも個人技(主に火神(せいちゃん))でも 思わず うわわ! ってなっちゃう攻撃だってあるから、警戒しなきゃなトコは多い。……でもね。驚かず、一つ一つ対処していく事を忘れない様にしよう。それに基礎攻撃力が高い(・・・・・・・・)チームとなら、今まで何回も戦ってきたんだ」

 

驚かない様に、と及川は言うが、驚く部分は必ずある。

それが、個人技と称した火神だったり、突然現れるブロックや影山が居なくとも、神業速攻じゃなくても、普通の速攻でも驚く跳躍を見せる日向だったりする。

 

そこに驚くだけなのはもう止める事が大事だ。

おかしなプレイをしている訳でも、ましてや超能力を使ってる訳でもない。

対処法を一つ一つ冷静に上げていけば、防げない攻撃じゃないから。

 

 

「―――さぁ、こっから追い上げて、逆転と行こうか」

【おう!】

【はい!】

 

 

及川の号令の下、青葉城西は再び逆襲に打って出る。

 

 

 

 

 

 

その後は、最初に菅原が危惧していた通りだ。

 

月島と菅原のブロックなら、当然菅原を狙われやすい。

最初は、直前のスイッチ・ブロックで奇襲に成功したが、一度見せてしまえば対応してくるのが青葉城西と言うレベルが高いチームだ。

冷静に、菅原が居る所目掛けて打ってくる。

 

それならばレシーブで、となるが 例え良いコースに入っていたとしても―――、やはりワンタッチ無しの叩きつけられたスパイクを拾うには難しい。西谷や火神、澤村も飛び付いて、触ってはいるが 最後の繋ぎ(・・)にまで至っていないと言うのが現状。

 

 

 

「なんとか一進一退だな。………でも、上手くリードはまだ出来てるんだけど」

「ああ。青城のスパイクが、烏野のセッターのとこ、抜かれる事が多くなってきてる気がする。……あそこまで冷静になられちゃ、スイッチしても狙われるだろうな……」

「レシーバーにとっての邪魔(・・)になる可能性も高いからな。スイッチしても菅原(セッター)を狙って打ってるのは見て取れるから。くっそー、火神意識してて熱くなってたっぽいのに、見事立て直したな、青城のキャプテン!」

 

 

上から見ていてもリードは保っているのは保っているのだが……、後ほんの少し、ほんの少しの切っ掛けで流れが変わりそうな感じが拭えない。

所々、烏野もナイスレシーブをしているのだが……ブレイクにまでは至ってない。

 

 

「これってシーソーゲームだよね~」

「……あれ? そう言えば バレーって時間制限あったっけ??」

「知らな~~い」

「「「……………」」」

 

 

ここでもルールをいまいち把握しきれてない青葉城西ファン(及川ファン)の女性陣達が困っていて―――。

 

「あの~…… なんどもすみません」

「いえ! 何度でも!!」

 

烏野を心配し、険しい表情を作っていた筈の滝ノ上だったが、そんな顔も何処へやら………。

女の子たちに頼られる事がこの上なく嬉しい! 珍しい! 最高!! 感を出して嬉々と教えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青葉城西ベンチ側にて。

先ほどのタイムアウトの際、菅原に対する過小評価をしていた自分を戒めていた時よりは入畑も溝口も表情は落ち着いていた。

寧ろ、まだ点差はあるが 今は安心感がその顔にはにじみ出ていると言って良いかもしれない。

 

「ふむ……。レフトサイドを使う事が多くなってきたな」

「はい。そう思います。センター側の本数が明らかに減ってます」

「うーむ……、まぁ 烏野のレフトはどっちも強力だからな。でも、10番にちょこまかと動かれるよりは戦いやすいと言って良い。あの10番の囮が十全に働いた状態で、火神の攻撃も加わるとなると、青城(ウチ)のブロッカーが大変だからなぁ」

 

 

強力なスパイカーを据え置くチームとは、及川が言う様に幾度も幾度も練習試合を重ねている。県内で怪物と呼ばれる王者白鳥沢の牛島を焦点に考え続けてきたのだから当然だ。

無論、下を見る事を疎かにしていた訳ではないが、———練習をやって来た、と言う自信と自負は全員に備わっている筈。こちらの目に焦りが無い限りはまだ安心なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……! 火神! 頼む!!」

「ッ!!」

 

 

烏野は、サーブで乱され、菅原の二段トスとなった。

 

「(っ……! 短い!)」

 

上がったボールの不出来具合に苦虫を噛み潰した様な表情をする菅原。

 

二段トスとはネットから離れた場所からスパイカーに上げるトスだ。

崩れた時に起こるプレイなので、普段の時より精度が落ちるのは何ら不思議ではない……が、それでも菅原は歯ぎしりをしてしまう。

 

 

ここで、影山だったなら(・・・・・・・)―――と不意に思ってしまったから。

 

 

でも、そのマイナスな考えを直ぐに振り払う。

 

 

「(……リバウンドっ!)」

 

火神は、故意に軽く相手のブロックに当ててこちら側へボールを戻した。

 

 

 

それに反応し、西谷がボールを高く拾い上げた。

 

返ってくるボールを、仕切り直しのそれを見たら――自分を卑下にしている場合じゃないし、影山と比べる様な事もしている場合じゃない。……そもそも目的(・・)がはっきりと決まっている今、比べる事なんてないから。

 

影山に出来てなかったことを自分がする為に。……そして、それは影山自身も解っている筈だ。

 

 

「(ああ―――、自分の首が締まっていくような、この感覚は前もあったな。………そうだ、あの時(・・・)の伊達工戦だ。あの時と似てる)」

 

 

それは烏野が嘗て大敗を喫した時の伊達工の事。

菅原は、何度も何度も止められたと言うのに、東峰ばかりを頼ってしまったあの時の事を思い返していた。

或いは、東峰以上に司令塔(セッター)としてあるまじき組み方をしてしまったことを悔いてしまっていたあの時の事を。

 

 

でも、圧倒的に違う所はあった。

 

 

「(連想しちゃってるのに、オレは今落ち着けている。あの時とは全然違う。………焦ったり、集中が濁されてはいない。……影山の事は考えちゃったけど)」

 

自分で自分を嘲笑しつつも丁寧に、丁寧に 再び仕切り直してくれた火神に、色々と小難しい事を考える事が出来る程、柔らかく、高いタッチをしてくれた西谷に、皆に感謝を込めてボールを両手で上げる。

 

 

 

 

その先輩の……そして、皆の戦いを外から見ていて 影山は 普段よりも増して思う。

 

影山は、自分がベンチへと下げられると言う事は、それ即ち 自分がもう用済みである、と言われた証拠だと思っていた。

それは、中学時代の最後の最後の試合。県決勝戦での試合で下げられた時もそうだと思った。

 

 

「(でも、……違う)」

 

 

影山は、菅原が言っていた事を再び頭の中に思い浮かべる。

 

 

――今は後ろにお前が控えてる。それが凄く頼もしい。

 

 

用済みではない。

後ろに誰かが居てくれる。……上げた先にボールを待っていてくれる者が居る。

それだけで、どれだけ救われたか自分でもわからない程だ。

 

 

「(オレと菅原さんの出来る事は違ぇけど、……多分、目的は同じだ)」

 

 

恐らく全選手に共通する想い。

何ら不思議ではない。誰もが通ってきた、誰もが思ってきたモノ。

 

 

【出たい!】

 

 

 

 

―――出たい、出たい! 試合に出たい! ボールに触りたい! 戦いたい! コートの中の緊張をくれ! 息苦しさをくれ! そこに立たせてくれ!!

 

 

影山だけじゃない。

ボールを追いかけ続ける菅原も同じだ。

 

 

―――もっとここに居たい。仲間(こいつら)と一緒に戦っていたい! 自分の手でトスを上げたい!!

 

 

何度でも出たい。上げたい。共に戦いたい。

抑えられないその気持ち。

 

ならば、それを叶える為には、どうするれば良いか。……決まっている。

 

そう――目的(・・)は同じだ。

 

 

 

 

【今、、目の前の試合に勝て!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合はまさに佳境。

流れがどちらへ転ぶか解らない第2セットの重要な局面。

 

徐々に迫る青葉城西をどうにか振り払おうとする烏野の構図だったが……。

 

「(烏野はレフトからの攻撃が続いている。……さっきのリバウンド後を除けば、ほぼレフト。そろそろ、センターの速攻を挟んで―――)」

 

冷静に見極めた金田一の手により――――。

 

「来る!!」

「――――ッッ!??」

 

 

日向のセンターからの速攻を1枚で止めて見せた。

 

「っしゃあああああ!!」

「ナイスブロック! 金田一!」

 

 

15—14。

 

この第2セットで、初めて青葉城西がリードを奪った。

 

 

「不味いな……、流れを持っていかれるぞ」

 

最強の防御であり、最速の攻撃でもある。

更に打った本人は勿論の事、そうセットアップした司令塔であるセッターの心にもヒビを入れる上に、味方の士気をも高める。

 

それがブロックだ。

 

 

今のは たった1枚で完全に止めてのけた相手を称賛、金田一を称賛して良い場面だと言えるが、そう割り切れたモノではない。

特に菅原は、点差が徐々に無くなり、同点になってしまった時からずっと思っていたから。

 

 

出たい、とより強く。

 

 

 

「悪い日向。今の速攻少しゆっくり過ぎたな」

「あっ、えっ、イエっっ!」

「ドンマイドンマイ! 今のは向こうのブロックすげーで良いと思う。翔陽が読み負けたって感じだったから」

「うっ……、た、確かに、打つぞ!! って思った方に手が来た……」

「なら、次は負けねぇ! で良いぞ! 一本取り返そう」

「おう!!」

 

図星を指摘され、少々項垂れる日向の背を軽く叩くのが火神。

 

相手が良かった、こちらは最善だった、読み合いに負けてしまった。

 

遠回しではあるが、菅原の肩を持った形になっており、それに菅原も気付いていた。勿論、そう言ってくれるのは嬉しい限りでもあるが、それでも悔しさが拭える、消え去る訳ではない。

 

そして、その想いをも解っているからこそ、今回は直接言わずに火神は遠回しで言葉を選んだのではないか、とも思えてしまうのだ。火神は言葉こそ選ぶが、思った事、言うべき時は直接言うのを知っているから。

 

 

軈て、火神が言葉を選んだ理由、それを察してしまう様に、烏野ベンチに動きがあった。

 

 

「あ、烏野の9番が呼ばれた。セッター交代っぽいな」

「リードされちゃったしなぁ……」

 

 

影山が烏養に呼ばれているのが目に入ったから。

 

 

「(ったく、どんだけ視野が広いんだよ火神。コートの外まで届いてんの……? ったく……(一応)後輩なのに 気、利かし過ぎだべ、まったく……)」

 

 

流石に本気で 影山が呼ばれる事に既に火神が気付いていた訳ではないだろうが、要所要所では、実に的確で正確に動き、声も出す火神だ。

仮に、本気で解ってました、と言われたとしても、別に驚かない。

 

ただ、出来過ぎる後輩をもって幸せだ、とだけ思う。

 

 

そして――。

 

 

「(あと、1プレー……かな)」

 

 

 

始まりがあるものには必ず終わりがある。

終わりがないものなど存在しない。

寂しさはあるし悔しさもある。……それでいて、繋ぐ事が出来た、役割はしっかりと果たす事が出来たとも。

 

それでも―――どうせ交代なら……。

 

 

「スガ!」

「!」

 

 

急に名を呼んだのは東峰。

 

 

「次の一本。オレに寄越せ。―――絶対に決める」

 

 

こちらも、まるで自分の思考を読んでいたかの様だ。

考えていた事、思っていた事。

 

 

―――どうせ交代するなら、点を決めたい。自分の手で上げたボールを決めて貰い、コートを去りたい。

 

 

そう考えていた。

 

「おう!!」

 

 

そして、それに応えてくれると約束してくれた。……烏野の東峰(エース)が。

 

全てはエースに繋ぐ為。

 

全身全霊で澤村はボールを上げた。

緩やかな回転、弧を描く軌道。全てが完璧だった。

 

前衛で攻撃に打って出てきている囮たちも、同じ気持ちだ。

全てはエースの道を作る為。

 

菅原は、澤村から託されたボールを、後衛で構えている東峰へと上げた。

 

仲間たちから託されたボール。

それはまるで、あの伊達工戦の最後の時の様に 東峰に集中を与えた。

 

必ず決める。

 

強い意志、そして相手を委縮させる程の覇気。

 

 

「―――……ッ!!」

 

 

それは、先ほどのブロック同様、攻撃を読んでいた金田一にも届いた。

ほんの僅かな時間。一瞬の空中での攻防。

東峰の気迫に気圧された。

 

それが結果となって現れる。

 

 

ドオンッ!

 

今日一番とも思える轟音。場を黙らせる一撃が、金田一の腕に当たり、そしてその腕を吹き飛ばす勢いでボールは弾かれ、青葉城西のコート内へと叩き落された。

 

 

 

 

同点に戻す一撃。

 

 

決まった瞬間、一瞬 場に静寂が流れた。

 

全てを圧倒するかの様なパワー。それは相対するブロッカーだけでなく、見ている者までも。

 

 

【すっげー……】

 

 

しん―――と静まり返った場で、ただただそう呟く声だけが小さく響くのだった。

 

 

 

 

 

 

そのまるで時が止まったかの様な静寂の空間を動かしたのは、主審の笛の音。

 

 

烏野高校 選手交代の合図。

 

 

 

 

 

2番、菅原のプラカードを持ったのは9番の影山。

それを見て、菅原は軽く微笑みを浮かべると、コートの中の全員とタッチを交わし、そして影山の元へと向かう。

 

 

「……ちょっと悔しいんだけどさ」

「?」

「オレのトスとお前のトス、打ってる時の日向の顔が違うんだ」

 

 

苦笑いをする菅原。

それもある意味当然とさえ思える。

何も考えず(と言ったら日向に失礼かもしれないが)、ただ信じて全力で跳んで全力でフルスイング。必ずボールが来る。自分の持てる全てをボールにぶつける事が出来る。

どんなセットプレイでも、100%スパイクだけを考えて打てるモノは限りなく少ない。

 

ほんの僅かでもボールが流れたり、高さが足りなかったり。

ほんの僅かでも跳ぶ高さが足りなかったり、ボールを目で見たり。

 

大なり小なり、互いに補い合って成立するモノだ。

 

だが、日向と影山の変人速攻(あのそっこう)は違う。

 

だからこそ、日向が変人速攻を打つ時の顔が違うと菅原は思ったのだろう。

 

 

「あのさ、影山。……もう、解ってると思うけど、うちの連中はちゃんと皆強いからな」

「! ………ウス」

 

 

そして、菅原は 影山へ最後のバトンを渡した。

影山も受け取った。

 

受け取る事が出来た(・・・・・・・・・)のを確認した菅原は満足そうに頷く。

 

 

「よし! 勝—————……ッ」

 

 

最後の一言。

 

【勝てよ】

 

そう言おうとした瞬間、その寸前で菅原はその言葉を飲み込む。

自分が出た時の点も、これから影山が出る時の点も、同じ烏野の点なのだから。自分で言った事を自分で違える訳にはいかない。

 

言葉を飲み込み、一呼吸おいて 影山の肩を叩いた。

 

 

「勝つぞ」

「――――ウス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

役目を終えた。

影山もきっと復活するだろう。先ほど、視野が狭くなった状態だったが、外から見ていて、頼りになる仲間たち、強い仲間たちを見て、きっと本来の姿へと戻ってくるだろう。

 

菅原はそう確信していた。だからこそ、役目を終えた(・・・・・・)と思えていたのだ。

 

―――だが。

 

 

「青城と互角に渡り合ったじゃねーか! やるな! 菅原」

「あはは…。うちの連中は強いですから」

「でも、アレだな。次ん時はもっとセンター線を積極的に使っても良いかもな。今は日向のあの変人速攻無いからって、明らかに火神マーク状態だった、ってのもある状態。つまり 日向居ない時も火神(アイツ)が囮として機能出来ているって事だ。ブロッカーを存分に振り回せる可能性が広がるぜ。んでもって、その裏の裏をかいて、逆に火神がセットアップ、みてぇに、どんどん戦術の幅も広がる」

「――――……!」

 

 

違った。

終わってなかった。

また、間違えそうになった。

 

 

自分も本当にまだまだ未熟だ。……そして、何より。

 

 

「ハイ!!! ありがとうございます!!!」

「っぉ!? お、おお」

 

 

何よりも嬉しかった。

 

まだまだ、終わってないと言う事が。

 

菅原は、戻っていく時にはもう既に次の事、次の機会。

今後どう攻めるか、攻めのパターン、幅を増やす事を考えるのだった。

 

 

「……なんだ?」

「あはは。菅原君にとって、次っていうのはスゴク嬉しい言葉なんじゃないですか?」

「……あぁ。成る程。確かにそうだな。 ぁ~~、オレも指導者として全然未熟だよ、全く」

 

ガリガリと頭を掻きむしる烏養。

菅原と同じで、ずっとレギュラーじゃなかった自分の時の事を思い返せば当然の感情だ。

 

次があるからこそ、よりもっともっと頑張れる。あるのと無いのとの差は果てしなくデカい。

烏養は、そのことも改めて菅原から教わった、と感じるのだった。

 

 

 

菅原も今後の事、そして今の試合の事を考える。

今、目の前の相手に勝つにはどうすれば良いのかを。

 

 

「(次のパターン。日向と火神を贅沢に使って……、それに皆も合わせて………。そうだ。オレでだって 皆と一緒に戦えば……青城と互角に戦えた。……ちゃんと戦えた。でも、やっぱりそれよりも先に進む。一歩先に進むには、最強の囮(・・・・)が100%機能する事が必要不可欠。―――それが出来るのは、お前だけだ影山)」

 

 

自分にしか出来なかった事がある様に。

そして、影山にしか出来ない事がある。

 

全てを出さなければ、この強敵青葉城西には勝ち切る事が出来ない。

もう遠く離れた影山の背を押すかのように、菅原は影山を見ているのだった。

 

 

 

 

そして、そのバトンを繋がれた影山はと言うと。

菅原と同じ様に、菅原の事や日向、そして火神の事を考えていた。

 

コミュニケーションが大切。

ただ仲良しこよしをするのではない。相手を見て状態を知って、最高の手を考えてあげる。

その為に必要な事は、菅原が示してくれた。 そして影山にとってはムカつくだろうが、日向にも指摘されていた事だ。

 

【顔が怖いんだよ】

 

と。

そんな顔をしていたつもりは毛頭ないが、……話しかけづらい顔をしているのなら、是正すべきだ。自身の中で手本とする火神も、その辺りは明らかに自分より出来ていたのを外から見ていてよく解った。共にプレイしていた時には 解らなかった事も、外に出て視野を広げてみてみれば、解った。

 

 

 

さぁ、解ったのなら後は実行あるのみ。

菅原の仕草、顔。を思い描きながら 皆の傍へといき――――。

 

 

 

 

にぃ……………。

 

っと、影山渾身の笑顔?

 

 

 

【!!?】

【!!!】

 

 

 

頭の中では、菅原の様に。

或いは火神が笑顔で話したり、鼓舞したりする様に。

 

自分の中では100%本気の……顔 をしていた。勿論、周囲にその意図が伝わるかどうかは別として、である。

 

 

周囲に伝わったのは、怪しさ満点、凶悪極まりない、まさに般若な顔。

 

 

それは、敵味方問わず畏縮させ、畏怖させる程の強烈なモノであり……。

 

 

「お、お、お、お前っ! 何企んでる!?? そうはいかないぞっ!!」

 

 

日向は、かつてない危機感に身体が反応したのだろう。

日向の中にあるであろう野性の反応。思わず飛びのいてしまった。

 

「コラコラ翔陽。これからも試合すんのに味方に何企むっていうんだよ。戻って来い」

 

凄く離れていって、試合放棄しそうな勢いで離れていく日向を連れ戻す火神。

 

「そうだぞ、翔陽! これは企んでる顔じゃなくて、笑顔だぞ笑顔。……多分!」

 

西谷もフォローに入る。

ぜんぜんフォローに成ってない気もするが。

 

「多分とか言うんじゃないよ! 西谷! 多分じゃなくて、きっとだよ!」

 

東峰が逆に西谷を戒めていた。

これも珍しい事だ。

 

そして、影山 渾身の笑顔を 良からぬことを企んでる顔、と評価した日向に向かって、今度は 相手にも100%伝わる顔に変えて。

 

 

「日向ブットバス!!!」

 

 

と怒りの面を向けるのだった。

 

「おお……。(あの影山が笑顔を作る努力を……)」

 

澤村は、これまでの問題児っぷりな発言が、まるで走馬灯の様に脳裏に過っていた。

様々な暴言から、果ては6人でやるバレー、繋ぎが命なバレーなのに【全部1人でやれば良いと思ってます】と言う頭が良いとは言えない発言。

 

「ははは! 心機一転! 新生影山だな」

 

日向を連れ戻していった火神が戻ってきて、その肩をぽんぽん、と叩く。

勿論、とびっきりの笑顔で。

 

 

 

 

「おーい、影山~~。火神のその顔が良い笑顔ってヤツだぞ~~。屈託のないってヤツだ。ベストスマイルってヤツだ。練習しとけよ~~~」

「プス~~。王様には難しいんじゃないですかぁ、田中さん!」

「プス~~~~!!」

 

「うっぐっ……!」

 

 

ついに、コートの外からも茶々入れられてしまった。

 

「…………ふふ」

 

勿論、普段は田中の意見には(主に自分関係)同意する事が無い清水も火神の笑顔については全面的に同意し、同じく笑っていた。

 

田中は自分の発言で、清水の笑顔を得られた(内容は兎も角) ある意味大金星なのだが……、当然ながら試合に、皆の方に集中していたので、今回ばかりは清水関係の面白パワーは発揮できず、二度と知る機会には恵まれないのだった。

 

 

 

そして、コートの外からも色々と指摘される影山。

位置的に、自分の顔は見られてない筈なのだが……、大体外にも理解されている事にまた気恥ずかしくなっていた。

 

 

「コラコラ、お前らも茶化すんじゃないよー!」

 

 

澤村も笑顔になりながらも、直ぐに気を引き締めていた。

場面はまだ同点になったばかりだ。それに第1セットは取られている状況。

 

「こっからだ。―――勝つぞッ!」

【オス!!】

 

澤村がそう締めて、烏野は改めて始動した。

 

 

「影山。読まれてる声のサインから、ハンドサインに変えた事、菅原さんに聞いたか?」

「ああ。セット間に聞いた」

「ウシ。翔陽、声と手のサイン。2つも相手を攪乱出来る武器がある。……どう上手く操るかは翔陽にも掛かってるぞ」

 

火神は、今度は先ほどの様な笑顔、ではなく 所謂企み顔になっていた。

これなら怖くない日向は大きく頷く。(元々火神が怖い訳ないが)

 

「よっしゃあ!! 沢山あるからって、混乱するんじゃねーぞ! 影山君!」

「誰に言ってんだボゲ。……こっからガンガン行くぞ!」

「おおよ!」

「おう!」

 

3人で拳を合わせて、相手にしたら厄介極まる3人組も改めて起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………」

 

コートの中でも外でも色々な事を考えていた菅原は、ここに来て漸く一息つく様に大きくため息を吐いた。

 

「? 菅原さん?」

「おーい、不思議そうな顔すんなよ、山口。こう見えてもけっこう緊張したんだからな? だってオレは去年のIHまでは当然3年生がいたから、公式戦はまだそんなに出てないんだよ。悔しいけど、その辺りも考えたら影山の方が場数多く踏んでんじゃないかな」

 

1年からいきなりレギュラーを勝ち取れる方が難しいものなのだ。

仮に部員不足気味でなくて、全盛期な烏野だったら もっともっと難しかった事だろう。……が、それでもあの3人ならレギュラーを勝ち取ってそうではあるが。

 

 

「――――の割には大分テンパってましたけどね影山。火神も色々手ぇ焼いてましたし」

「お、おう。……なんか、月島が影山や火神の事を名で普通に呼ぶと違和感あるな……」

「っ……! いや、別に……」

 

 

影山に対して毒吐いたつもりだった月島だったが、変な形でしっぺ返しを食らった。

でも、当の本人たちは聞こえてる訳ないので、気を取り直す。

 

 

「……まぁ、アレですよ。さっきまでテンパってた王様、早速のサーブですけど、大丈夫ですかね? って言いたかっただけです。流石にサーブの時は1人だから、おとーさんも手は貸せませんから」

 

 

影山(王様)火神(おとーさん)を何だか無理に戻してきた気もしなくもないなぁ、と菅原は思っていたが、そこは口にチャック。

 

今は、月島が言う様にサーブに注目する場面だと思ったから。

 

15-15。 

同点で回ってきた影山のサーブ。

まだ同点、と言いたいところだが、第1セット取られていて、このセット失うとそのままゲームセットなのが烏野だから余裕はない。

 

それはチームとして見れば、の話だ。

 

フラストレーションをコートの外で貯め込みつつ、視野を広げた影山。

何よりも出たい、と言う気持ちがより強く出ていた時間が、体感時間が異常に長く感じたので、この状況が―――出れている状況が当たり前だと思わずに単純にとてつもなく嬉しい。

 

影山は、ボールを手で操りながらも、湧き上がる笑みが抑え込めずにいた。

傍から見たら、ボールもってニヤニヤしている怪しい男の完成。

 

 

「……せいや。影山……ヤバくない? アレ。めっちゃニヤニヤしてる……」

「んー。普段なら、心配するかもな。サーブ打つなんて、普通の事だし。……ひょっとしたら、翔陽の後頭部思いっきり狙ってやる! かもしれないなぁ。……普段だったら」

「ヒェっ!??」

 

 

カラカラと笑いながら火神がそういうと、日向は思わず両手で後頭部を押さえていた。

続いて 慌てる日向の額にデコピンをする火神。

 

「あれは 誰よりもオレ達が知っている感性だろ? ……試合に出たい。出たくて、出たくて、出たくて……、全然公式試合に出られなかった中学(あの頃)。漸く出れた時の感覚だ」

「あ………」

 

 

時間にすれば、そこまで長いとは言えない。

例えほんの少しの時間であったとしても、試合に出たい、と思ったりするのは日向も解っている。

日向だって思い続けているから。後衛に回って西谷と交代した時。

外から試合を見る時、応援する為に声を出す時、日向も思っていた事だ。

 

早く試合に出たい―――と。

 

影山もそれと同じ。

 

 

「………でも、オレはあんな怖い顔はしないけど」

「そこん所は目ぇ瞑ってあげなさいっての。ほれ、前向け前」

 

火神は日向の背を叩いて、前を向けさせる。

今の影山を心配する必要性は皆無である、と言う事は火神もよく知っているし、……解っている(・・・・・)から。

 

 

 

そして、そんな影山のサーブ打つ前のニヤニヤ顔はコートの外、ベンチ側にも十分見られている。

それを見て思わず苦笑いをしてしまう。

 

「影山嬉しそうだなー」

「ですね」

 

日向と違って菅原には、そして相槌を打った縁下も直ぐにピンと来ていた。

 

「なんか、アイツ見てると安心する」

「え? 何がですか?」

「ほら、どんな選手でも、試合に出る時の誇らしさみたいなのは、同じなんだろうな、って思ってさ。例え天才だろうと凡人だろうとさ」

「……ですね。なら、次は同種な火神の時を楽しみにしておきますか」

「だべ!」

 

影山と同種―――と呼ばれるのは正直複雑な気分だとは火神は思うかもしれないが、きっと同じだろう、とも思っていた。

バレーが好きなら、一分でも一秒でも長く試合はしていたい筈だし、出る事が出来たなら、きっとその顔は、先ほどの笑顔と何ら遜色ない筈だから。

 

寧ろ、もっともっと光ってる笑顔だろう事が解る。目に浮かぶ。普段は 周りの世話をするお父さんな火神が、年相応な笑顔を見せるだろう……と。

 

 

「影山君! リラックスですよーーーっ!!」

 

 

嬉しい事は武田にも伝わっているが、あまり興奮し過ぎてて力み過ぎるのも良くない、と思った武田は、影山に声を掛けた。

 

様々な音が渦巻くこの場所での武田の声は、決して大きいとは言えないし、ひょっとしたら 届かない、聞こえてないかもしれない、と思う程のモノ……だったが、影山の耳には十分届いていた。

 

武田と目が合い、そして、ゆっくりと頷いていたから。

 

それを見て、もう一度か二度は声を掛けようかと思っていた武田も、大丈夫だ―――と、腰を深く椅子に沈める。

 

 

 

今の影山にそう言った不安要素はない。

ただ、試合に出れる事の喜び―――そして、勝つために何をすれば良いかだけを考えている。

 

今、この場面ですべき事は1つしかない。

 

自分の持ち得る全てをボールに込めて打つだけだ。

 

 

影山は大きく鼻から息を吸い―――そして、ボールを額につけながら、小さく長く―――息を吐いた。

そして、ゆっくりと目を開く。

 

 

「!!」

 

それは、相対している者であれば誰もが感じた。

離れているのにも関わらず、はっきりとその視線が、雰囲気が伝わってきた。

 

「一本で切るよ!!」

【オオ!!】

 

影山のサーブの威力は、青葉城西側なら誰もが知っている事だ。

だから、勿論警戒していたのだが、今 あの目を開いたあの一瞬で、何かを感じ取り、及川の号令の下、その警戒心のレベルを更に上げた。

 

 

主審の笛の音が鳴り―――、そして影山は始動。

 

 

ボールトス、助走、跳躍……。

全てが完璧で、試合に出る時に何度も何度も描いた頭の中のイメージ通り。

 

ただ、惜しむべきは1つ。相手のリベロの方へと打ってしまった事だが、それも功を成す事になる。

 

 

「ッッ!?」

「渡!!」

 

 

その影山の強烈なサーブは、リベロの渡も捉えきる事が出来なかった。

及川の声で、警戒心を上げていたが、影山のサーブの威力はまさに想定以上だったから。

渡はすぐさま謝り、そして岩泉が 気にするな、と立て直す様に前を向かせた。

 

思考も身体も、後ろ向きなままだったら あのサーブは獲れない。

 

そう思えたから。

 

 

「うおおお!!」

「サービスエース!!」

「リベロから獲った!!! アイツも獲った!!!」

 

 

一気に大歓声が沸き起こる。

 

【ナイッサぁァ―――っ!! 逆転し返しだぁッ―――!!!】

 

烏野のベンチ側も例外ではなく大盛り上がり。

一歩先にリードされていた青葉城西を再びリードし返す1点。

 

 

「っしゃ!」

「ははっ! 影山ナイッサー! あー、でも、 サービスエースの本数はまだ、オレが勝ってるぞ? もう一本もう一本!」

「ぬぐっ………!!」

 

 

苦虫を噛み潰す顔、とはこの事。

リベロ相手に打ち切った事もテンション上がる要因の1つだったが、生憎……。試合の序盤、自身は特大ホームランサーブになってしまったが、火神はきっちりかっちりサーブで決めた。リベロ相手に。……それを覚えているからこその反応だ。

 

勿論、火神は煽るだけの為に、影山の所にまで来た訳ではない。

にっ、と笑顔を見せると同時に、右手を挙げた。

 

それが何を意図しているのか、影山にも勿論理解出来た。

色んな意味で、負けたくない相手ではある……が、火神も菅原と同じ。目的は同じ。

 

「ナイス!」

「おう」

 

影山は表情を戻し、真剣な顔つきのまま―――高く出された火神の右手にハイタッチを決めた。

 

 

 

 

影山の一連の流れを見て、(ハイタッチには)少々面食らう事はある……が、やってる相手が相手なので、納得する者が殆どだった。

 

 

 

「影山! も一本ナイッサー!!」

 

「一本切るぞ! サッ来い!!」

 

 

 

続く2度目のサーブ。

火神の煽りが余計な力みになるか? と少なからず危惧した者も居たが、直後のハイタッチで程よく解れたのだろう。このサーブも完璧だった。

火神は、影山の対抗心を燃やさせた上で、更にあのハイタッチで力みを解したのか! とか色々と考えてしまった者も居たが、それは流石に考えすぎである。

 

 

「よっしゃ!! もう一本いけぇぇ!!」

 

 

最初のサービスエースと何ら遜色ない威力の一撃を見て、思わず烏養は身を乗り出す。

 

放たれたボールは、今度はリベロの所へはいかず。

 

「岩ちゃん!」

「ふっっ!!」

 

岩泉が捕球した。

だが、それでも影山のサーブの威力は凄まじく、芯で捕らえる事が出来ずに弾き出されてしまう。

 

「スマン!! 渡カバー!!」

「ハイ!!」

 

岩泉から渡、そして 二段トスをする余裕も無いボールだった為、最後も無難に返すしかなかった。

即ち―――。

 

 

「崩した! 帰ってくるぞ!!」

 

 

烏野のチャンスボールである。

 

 

「チャンスボール!」

 

西谷の捕球から影山のセット。

前衛には火神と日向、澤村の3人。

 

それぞれが動き出す―――が、ここで青葉城西側のブロッカーが惑わされる。

 

 

「(クソ!! どっちだ―――!?)」

 

 

日向が、【来い】とも【くれ】とも言ってないのだ。

先ほどの菅原とのセットは、神業速攻はあり得ないと判断したから、ある程度判断材料不足であっても対処出来ていたが、今回は違う。

影山の超精密トスワークが復活した上に、前衛には厄介な火神は勿論、澤村だって備えている。

入畑が言っていたブロッカーが大変、と言っていたのはまさにこのシチュエーションだ。

 

思考の波に呑まれてしまい、ボールを目で追いかけるのが一瞬だけ疎かになり―――そして、たった一瞬でも油断してしまえば、捕える事が出来ないのが……。

 

 

ドパンッ!!

 

 

日向と影山の神業速攻である。

 

今回、金田一は跳ぶ事も出来なかった。

考え込み過ぎていたからだ。

 

「(くそ!! 今度は何も言わず、あの速攻やりやがった……!!)」

 

 

 

「出たよ、あの無茶苦茶な速攻。……マジ意味わかんね~」

「さっきの2番のヤツん時はやってなかったから、やっぱあの9番有りきなんだろうな……」

「うわぁぁ、あの2番のセットをやった後に、あの速攻されたら、体感倍増しになるだろ……。頭痛くなりそう」

 

 

金田一の気持ちをまるで代弁しているかの様な意見が飛び交う。

 

 

 

「「ナイスキィィ!!!」」

「しゃああ!! リード広げた!!」

 

 

 

15—17。

 

点差が広がる。更にもう1歩、勝利へと近付いた。

 

 

「翔陽ナイスキー!」

「日向ナイスナイス!!」

「アザっっス!!」

 

見事に決めてのけた日向へ称賛の言葉を送っている時。

影山は じっ……と日向を見ていた。

 

この時、日向が言っていた事を思い返していた。

 

 

【菅原さんて、決めるとスッゲー褒めてくれんだぜ!】

 

 

簡単に褒めたくはない。

寧ろ、もっともっとヤレ、ヘタクソボゲ! くらい言ってやりたい気持ちも大きい。

……が、今は違う。今はそういう場面じゃない事くらい、影山だって解っている。

 

「……おい日向」

「??」

 

だから、日向の所へといって。

 

 

「…………」

 

 

少々複雑そうな顔をしながらも、意を決した。

 

 

「よくやった」

「上司か」

 

 

そして、そんな2人の間に割って入るのが火神。

そのやり取りは、火神の中ではこの青城戦名シーン(笑) の1つ。前の記憶がどれだけ薄れたとしても、忘れられない場面。

 

 

「やっぱ、さいっっこうだな!? お前らっ!!」

「ぐっっ!!」

「ふぐっっ!!」

 

 

わはは、と笑いながら2人の肩をバンバン叩くのだった。

 


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