王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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沢山の投票ありがとうございます。
オリ主である火神を除いて、他の選手たち間でかなり競るだろうと思ってたのですが、まさかの田中が火神もおさえてのトップと言う結果。やはり、原作に衝撃が走ったから……といった感覚なのでしょうか (笑)
そして一番少ないのが澤村さん。強すぎました。
稲荷崎のような感じもありかな、とは思ってたのですが、強すぎです。

アンケートは終了します。ありがとうございます。
参考にさせていただきます。


第7話 北川第一戦④

北川第一にサーブ権が渡ったままの状態で現在のスコアが 24‐19。

 

一時は、追いつきかけたのだが、差がまた広がってしまった。

 

「(やはり、強さの密度が違う……か)」

 

流れ出る汗を腕で拭いながら、火神は考える。

 

 

仮に、中学生チームとして5段階評価、 6つの原作でもある ありきたりな項目

《パワー、スピード、テクニック、頭脳、スタミナ、バネ》

これらでチームの力を表すとすれば、北川第一は 影山という飛びぬけたプレイヤーがいるのを見越したとしても、満遍なく高いだろう。

 

その6角形の形は限りなく円に近くなるだろう。

 

だが、こちら側は、どう贔屓目に見ても形は歪。尖ってしまうのは目に見えている。

 

これが、チーム力の差。絶対的に自分達は力不足だ。善戦はできたとしても勝てる可能性なんて殆ど無い。

 

「(って、普通に考えたらそうなんだけど、な……)」

 

客観的に かつての記憶を蘇らせ、読み手側に立って見てみたら 何度でもそう評する。

だが、今は違う。

 

あの時と違って誰一人目が死んでいない。誰一人俯いていない。

 

 

誰一人、ボールを追わない者などいない。

 

 

 

「(頼もしいよ。心底)」

 

 

云わば、全員が 《日向翔陽化》していると言っていいかもしれない。

戦い続ける絶対的な理由は まだ 負けていないという事。

 

 

 

【――まだ、負けてないよ?】

 

 

 

あのセリフを聞く機会はこの試合では、或いはもう二度と無いかもしれない。

だが、それでいい。それがいい。

ここは、あの世界ではない。もう似て非なる世界なのだから。

 

 

「(他の奴らが、100%の力を発揮してんだ。……ズルしてるも同然な俺が120%出せなくてどうする!?)」

 

 

 

火神は すっと視線を狭めた。穏やかで静か……いろいろな音、声が響く体育館。煩い筈なのに、静けささえ感じる。凄まじい集中力。

これに背中を押される。びりびり、と電気のようなものが走る。チーム全員、誰一人例外なく感じた。

 

 

 

「高い壁。絶対打ち抜いてやる………」

 

 

 

日向も、それに呼応し集中力を高めた。まだまだ発展途上。殻を破ってもいない。卵のままと言っていいのだが、土壇場で見せる集中力は、敵側にとって……特に密接している前衛にとっては寒気さえ醸し出すだろう。

 

全員が一丸となる。その切っ掛けは火神。……背中で鼓舞をするというのはこういう事だ。

 

 

 

 

【さぁ、来い!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ここで決めなければ、またあの2番のサーブ……)ここで決めろ!! とどめをさせ!」

 

北川第一の監督からの激も飛ぶ。

まだ、5点差もあり中盤は別にして終盤は連続得点で圧倒していると言える。

だが、拭えない得体のしれない何かを感じていた。振り返れば、直ぐに背中を掴まれそうな。……油断をすれば、小さな、それでいて得体の知れない獣に食われそうな、そんな気配。

 

 

「……勿論です、監督」

 

 

影山は、ボソリと呟いた。

この得点差は無いものとして、プレイをしてきた。

今回、珍しくもチームメイトへの苛立ちは普段より圧倒的に少ないのも影山にとっては追い風である。

敵味方問わず、士気を高め、鼓舞までしてしまったのは決して狙ってやった訳ではないのだが、火神にとっては誤算だろう。

 

 

サーブは、影山。

 

 

今までは、普通のフローターサーブだった。

だが今、違う事をしようとしている。

 

決して、勝算の無いぶっつけ本番ではない。

練習を幾度も続けていたし、決める自信は十全にあった。

 

今でこそチームで浮いている影山だが、彼にとって吸収すべき、畏怖しつつも尊敬できる先輩はいたのだ。その先輩から、ブロックを、サーブを、タイミングを、そして威力を。目で見て盗めるだけ盗もうとし覚えた。努力を重ね続けた。

 

 

 

そして、今―――ひょっとしたら、自分の知る先輩以上のサーブを目の当たりにした。自分と同じ歳の男がだ。

 

 

 

 

「(そうか……、強さってこんなに心地いいものなんだな。敵だろうが味方だろうが)」

 

ふっ、と体から力を抜く影山。

皆がついてこれない現状で募りに募った苛立ちは、あろうことか敵相手に発散する事が出来た。

後で、監督に怒られてもかまわない。今ここで、今できる影山自身の全力のサーブを。

 

 

「お前に、ぶつける……!」

 

 

 

 

 

いつもよりも距離をとる。

構えを変える。高くボールを上げる。助走からの踏み込み。

 

 

「(……いい感じだ)」

 

 

跳躍し、最高打点で最高の一撃を放つ。

 

突然の影山のジャンプサーブに、少なからず敵味方問わずに動揺が走るが、それは一瞬。決して、火神のサーブに劣らない程のサーブが確実に相手コートに入ったのだから、瞬時に切り替えた。

 

普通なら、ノータッチエースの手応え、たとえ触れても弾き出される。

サーブレシーブのレベルが低い雪ヶ丘に取れるボールじゃない。

 

……だが、今回は違った。正確無比なコントロールを持ち、高校になっても即通用する影山のサーブだが、今回限りは違う。それは、初めて公式戦で使ったという事により、威力は上々でもコントロールはまだまだだという事。

 

 

 

 

つまり―――。

 

 

 

 

 

「ふっ!!」

 

 

「せいやっ!!」

「せいちゃん!!」

「誠也!」

「「「火神先輩!」」」

 

 

 

唯一、高いレベルのレシーバーである火神の元へと飛んでしまったのだ。

或いは、影山はあえて火神を狙ったのかもしれない。

何度も打たれた火神に挑んでみたかった、と。

 

その結果、綺麗なAパスでとられてしまった。

 

 

「完璧なレシーブ。流石だなッ……!」

 

 

威力を殺すため腕と体全体を使う。

まさか、影山がこの場面でジャンプサーブを放つとは思ってもなかった事ではあるが、こちらも極限まで集中できていた事で完璧に対応する事が出来た。

 

 

「(いや、くるのがわかってた様な気がする。……そういう目をしてたんだ、影山は)」

 

ニッ、と笑みを見せて影山に応える。

悔しそうする影山。まだまだ上をと貪欲さが出てきていたのだが、そんな中でも少しは満足感もあったようだ。

初めてのサーブにしては上手くいった、と。

 

 

 

 

そして、次は雪ヶ丘の攻撃。

 

とっておきのサーブを見せてもらった礼、と言わんばかりに火神はレシーブしつつも、即座に駆け出した。

 

 

「ゆき!!」

「ッ!」

 

絶対に決める。このセットを取れなければ、もう後はない。

 

 

火神は、ここで秘密兵器その3を使用。

 

 

経験のない泉とも合わせられる攻撃を、今この場面で。

 

 

 

 

 

それは今日初めてのセットアップだった。

 

今までは日向か火神へのオープントスが主体。

大体がレフトサイドで、何球か泉がミスをして、センターに、ライト方面にいったりもしたが、持ち前の素早さで日向が決めていたりした。

そういうミスもあって狙ってもないブロード攻撃になったりして得点を奪えたりしたが、今回は違う。

 

まだ、トスがあがってもないのに、火神が入ってきたのだ。クイックを使う場面は今まで無かった。

 

 

 

【2番を止めろ!!】

 

 

 

全員の意識が火神へと向かった。

日向や、見掛け倒しではあるが関向も入ってきてはいたが目もくれない。

 

ただ、あの2番、火神を止める為の3枚ブロック。

 

「止めてやる……!!」

 

3人が揃い、全力で跳ぶ。意表を突く速攻ではあるが、追いつく事はできた。最早2番の火神は、相手にとって大エースになっていたからだろう。

 

タイミングも完璧、どんな速攻を打とうと必ず触れる。シャットアウトできなくとも、ワンタッチを取り、必ずカウンターで決める。

 

誰もがそう思っていたが、これは火神の……火神たちの想定範囲内。いや、狙った通りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、試合途中、タイムの際のやり取り。

 

「基本的にゆきが、上げる相手の名を呼んでトスをしてくれていい。だけど、ここぞという時。……俺がレシーブして上手く捌けた時、ゆきの名前全力で呼ぶから、俺にあげてくれ」

「おおっ、それなんかカッケーな! 俺も呼ぶ!!」

「とりあえず、翔陽は今まで通りにしてくれって。相手の意表を突きたい」

「ぶーぶー。ま、いいか! ぜってー後で教えてくれよ!?」

 

日向は 少し不満だったようだが、最後は納得していた。腕をぶんぶんと振りながら 元に戻る。

 

「でも、せいちゃん。俺あんな感じのトスしかあげれないよ? ほら、あっちみたいな攻撃はちょっと……」

「ははは。そりゃそーだよ。ほら、バスケだってそうだろ? 練習してもないシュートとかドリブルの技?とか出来ないし。その辺はバレーだって変わらないから」

「ならどうするの?」

「なに単純だし簡単だ」

 

 

火神は笑って答えた。

 

 

【いつも通りに、俺や日向にあげるみたいにあげてくれれば良い。あとは俺が合わせるから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入ってきた火神につられて跳ぶ3枚ブロック。

それこそが火神の狙い。

寸前まで、本当に跳ぶように見えた。残像のようなものまで見えた気がした。そこまで気迫がこもったものだったから。

 

「(なっ……!)」

「(跳ばねぇ!?)」

「(フェイント……!)」

 

普通、経験のないセッターならば 火神が飛び込んできた事で慌てて手元が狂ったり、思わず別の所へとボールを上げたりしそうだが、泉は火神に言われた通りに実行できていた。経験はなくても、火神を信じて自分にできる事をする。その一点だけを集中していたからだ。関向も同様。日向と火神、関向が跳ぶからブロックカバーが手薄になってしまうが、今はそんなことは考えてはいない。

 

 

ただ、信じて、そして頼られ信じられているから、全力で決めるだけだ。

 

 

ジャンプすると見せかけ、深く沈んだ状態で一回止まる。後は泉のトスの高さに合わせて、それでいて相手が2度目のジャンプした時の対策をも考えて、跳ぶ。

 

 

 

「一人時間差だ」

 

 

 

完璧なレシーブからの理想的な攻撃パターンで意表を突く攻撃。素人セッターである泉のトスにも完璧に合わせた。

完全に裏をかいた火神のスパイクは、見事に相手コートのど真ん中を打ち抜いた。

 

 

 

【いよっっしゃあああああ!!】

 

 

 

何度目かの大歓声、……というよりほとんど怒号みたいな感覚だ。腹の底から声を上げてるのだろう。

皆が火神に集まってくるのでもみくちゃ状態。

最早セットを取ったと言っていい感覚である。

 

 

 

「あの攻撃おしえてーーー!! そんで、俺が次するーーー! 絶対するーー!!」

「一人時間差な。あれは何度も通用するようなものじゃないから。フェイントはよく見たらわかるし、ボールの高さは大体一定だから、無理して跳ぶ必要もない。俺が、思いっきりフェイントをかけたから、何とかつられてくれただけだ。……一度見せた以上、警戒されるし、止まってジャンプだから、打点が低くてブロックに捕まる。んでもって、ほんとナイストスだったよ、ゆき。それにこーじも」

「いやいや、俺ただ走りこんだだけだしなぁ~。ま、ナイスと言われたらいい気分だけど」

「いやいや、俺はただガムシャラに上げただけだって。せいちゃんを信じてね?」

 

2人して、シンクロでもしてるのか?と思うくらい同時に手を横に振っていた。

 

泉にしろ関向にしろ、火神を100%信じていた。

トスの事、無駄になるかもしれないが、アタック打つように跳び込め、といった事。

 

信じる事が普通は難しいのだが、そこは火神は深く言わなかった。

 

日向はその後も、あのスパイク、一人時間差を打ちたいとごねるが、あの日向の跳躍は、助走があってこそ。一人時間差は、成功すれば相手のブロック欺き、攻撃する事が出来るが、当然一度止まるので、助走の勢いを殺してしまったりもする。

その場でジャンプしてみた日向だったけれど、やっぱり現時点では助走無しじゃきつい。

 

それを日向も分かったのだろう。苦々しくネットを、……高さを睨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まじかよ」

「クソ……」

「…………」

 

 

完璧に捕らえたと思った。間に合ったと思った。あの火神が攻撃するのだと思った。そのまっすぐしか見れてない視野が、あのフェイントに引っかかってしまったのだ。

素直に相手を称賛したい、とも思えるが、そこは中学生。やられてしまった、負けてしまった感は拭えない。

 

「これで分かった。クイックはほぼ無い。……狙ってできるのはアイツが合わせられる範囲、届く範囲の攻撃手段しかない。あの1番のブロードもビビったが、一度だけしか使ってない。……つまりイレギュラーだ。となると、もう手段はアレだけだ。今回はしてやられたが、常にリードブロックを忘れるな。つられそうになるかもしれないが、最後まで我慢だ。粘り負けるなよ」

 

北川第一のキャプテンの指示。

横っ面を引っぱたかれたような衝撃を受けたが、そのおかげで冷静さを取り戻す事が出来た。冷静に、状況を分析する事が出来たんだ。

そのあたりは、こちらも中学生らしくない。

決められた直後だというのに、もう復活を果たしているのだから。

 

 

「…………。ここで一本きっちり返してやれ」

 

腰が浮きかけていた監督だったが、冷静なチームを見て、再び下ろした。

 

ここが勝負所。

あのキャプテンの指示を、チームの皆の顔を見て、取り乱す様に声を上げる場面ではない、と判断したのだ。火神の事は確かに驚いた。化け物とすら思った。

だが、凄いサーブを、スパイクを、……凄いプレイをした方が勝つのではない。

 

ボールを落とした方が負ける。最後の25点を取った方が勝つのだ。

 

 

だからこそ、すべて、教え子たちのゲームプランに託したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後―――火神のサーブで24-23まで追い上げるも、最後の最後でネットに掛かり

セットカウント 25-23 で北川第一。

 

 

 

この時、火神は皆に詫びたが……、逆にミスをするんだと安心されたりもした。

それは敵味方問わずにだったりする。

 

 

 

 

 

全ての手札を曝け出した今、本当の意味での総力戦は第2セットから。

 

北川第一の作戦、戦術は変わらない。徹底的に火神をマーク。そして 日向の事も決して忘れないし、侮らない。いや――

 

 

決して個人個人だけではない。北川第一は雪ヶ丘を決して侮らなかった。

 

 

 

 

そして、約1時間にも及んだ試合は、幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 




最後正直急ぎ足になりましたが、
そろそろ先に行きたかったので進めてしまいました。



……第2セットサボってすみません。

烏野スタメン落ちアンケート

  • まだまだレギュラーは早い 火神
  • チームの大黒柱 澤村
  • リードブロック月島
  • 強メンタル田中
  • サムライ兄ちゃん東峰

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