王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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ギリギリ今日中に投稿……出来て良かったです。苦笑

沢山の感想、そして評価・いま気づいた9000を越えたお気に入り登録ありがとうございます!
誤字報告もすみません、本当にありがとうございます。
これからも頑張ります。


感想も、この後ゆっくりと返させていただきます。



第67話 青葉城西戦⑦

 

 

 

 

火神からの田中のセットでブレイクし、現在1点差の19-18。

ここで、青葉城西側が2度目のタイムアウトを取った。

 

「さっきのやべー、メッチャ スッキリした! 火神もわかったよな? 【ここに来い】って! 日向のサイン見てぇに!」

「アス! 影山の変人速攻程は流石にアレですけど、見えました」

「うははは! つか、あんなんが来たらオレがドンピシャでも打てねーって」

「田中さんスゲー! せいやもヤベー!! オレもオレも!」

 

コートに戻っていく際、会心の一撃が当たった感覚、その余韻がまだまだ抜けてない田中のテンションはかなり高い。加えて日向も混ざって大盛り上がりだ。

 

「(田中さんが居た位置。切り込んできた位置、それに高さ。……タイミング。全部完璧。……)ぬぅ」

「まーまー、影山。嫉妬心剥き出しにしなくても いいべいいべ。ほら、火神はセッターじゃないんだし?」

「そ、そんなの出してません! ………出してません」

「だべ?」

「いやまさに下克上だね~~。て言うか何度目? もうおとーさんに完全に王座から引きずり降ろされちゃったかもよ?」

「あ゛あ゛!??」

 

菅原が言う様に、色々と複雑な感情を、影山が火神に向けていた。

それを目敏く見ていたのが、煽り屋 月島である。ここぞと言うタイミングを逃さない月島もまさに匠の技、技巧派だ。

 

「……いや、玉座とかそんなの要らんから」

 

煽りに使われるのは正直良い気はしないので、月島にツッコミを入れる火神だった。

ただ、【何度目かのぎゃふん、だな】と1人ゴチたりはしていたのだった。

 

 

「うっし! まだ1点差あるとはいえ、こっちの士気が上々なのはよーく解った。ナイスプレイはどんどん声に出して調子にのっていけ。次が及川のサーブだから、この勢いで乗れるところまで乗るんだ。(……先に20点台にいきたい所ではあるな。精神的に。追うより追われる側にいる方がマシだろう)」

【アス!】

 

後は細かな修正やアドバイス等を考えて居たが、それ以上に指摘すべき所があるので、烏養は すっ、と視線を鋭くさせた。

 

 

「――ところで影山君よ」

「!!!」

 

 

自分の事を言われるのが解っていたのだろう。

影山は名を呼ばれた瞬間、身体がびくんっ! と反応していた。

 

勿論、烏養が言う事は決まっている。

 

「さっきの【ツー】。アレは一体何だね?」

 

ちょっと、……いや、かなり。

あくどい顔で影山に迫る烏養。

 

烏野で言えば東峰と対を成す程の強面なので、相応の迫力がある……が、影山が反応したのは烏養の強面(そこ)ではない。―――自分で雑なプレイだと解っていたから。

火神に止められなければ……。

 

 

「すんませんした!! オレ、焦ってました!! あの火神の声が無かったら完全に捕まってました!!」

 

 

物凄い勢いで頭を下げる影山。

思わず全員がぎょっ、とした程である。

烏養は、ある程度 反省はしているだろう、と思ってはいたがここまでとは思わなかった様で、逆に面食らっていた。

だが、気を取り直し再度注意。

 

 

「……自覚があんならいいや。確かに、アレも火神のファインプレイの1つだな。声掛けは重要だ。出す方もそうだが、聞く耳も怠るなよ(影山の場合、無理矢理聞かした感はあったがな)」

【アス!】

 

ファインプレイ……、と面前で言われて流石の火神も少々照れる。

そんな火神の脇腹をドスドスドスっ、とつきながら労うのが田中や西谷、そして日向である。

 

 

離れてみてた清水は、【照れてる顔もやっぱり良いな】、と誰にも気づかれない様に人知れず考えて微笑を浮かべたりしていた。

 

「んでもって、ツーだ。ツー自体が駄目な攻撃って訳じゃねぇ。攻撃のバリエーションが多いってことを相手に認識させておくのも有効だ。向こうはもう既に存分に堪能してるとは思うが、より引っ掻き回す為にも効果的。……ただ、もう実感してると思うが、ツーは威力が出ねぇ。だから及川が跳んだみてぇに、読まれたらほぼ止められるからリスクが高い。使いどころは慎重に選べよ」

「うす」

 

影山は、解っていたつもりだったが、改めて肝に銘じた。そんな瞬間だった。

 

先程の自分の視野は、間違いなく狭くなっていたと実感している。

 

取って取られての同点、シーソーゲームをしていた頃はまだ、広かった筈なのに、少しの点差でああも狭くなるのか、と自分自身を戒める影山。

 

 

 

そんな影山を見て烏養は続けた。

 

 

「あと影山。何と戦ってんのかを忘れるな。戦ってる相手は【及川】じゃなく【青葉城西】だ。そんで、戦ってんのはお前だけじゃなく、【烏野】。頼る所は頼れ。周りにゃ、居る(・・)んだからな」

「……うす」

 

 

周りに居る。

 

大抵の人にとっては当たり前のことではあるが、その言葉の重みを改めて実感する影山。

 

そうだ―――あの時(中学)とは違う。過ち、挫折してしまったあの頃は、もう超えた。忘れたとは言えないが、乗り越える事が出来たと信じている。

 

もう、味方をも置き去りにするような事は二度と――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても よく気付けたな、火神。影山がツー打つって」

「そうそう。大王様は見抜いたみたいだけど、せいやも解ってたんだな? せいやのあんなすっげぇデカい声久しぶりだったし」

 

話題は影山のツーアタックの事が続いていた。

正直、もう切り替えたい。忘れてしまいたい! とまで思っている影山だったが、気付けた、気付いたその辺りは聞いてみたかったりもしている。

 

「後ろから見ててよく解りました。影山の姿勢(フォーム)が悪くなってるって。多分、レシーバー陣も気づいてた。だから、スムーズに取られたんだと思う」

「うぐっ……」

「いやまぁ、影山が極端に悪かった、とまでは言わないよ。僅かに左手の方が高く、ツーの姿勢だったのが見えたのは事実だけど。そもそも、影山は元がスゲェ読ませないトスだった。だから、ほんの少しでも崩れたのがよりよく解ったっていうのが正しい。対面してた及川さんなら尚更解ったんじゃないか?」

 

影山が苦虫を噛み潰した様な顔をしたので、そこはフォローをする火神。

及川の名を出したのは、やはり付き合いの長さ、の一言だ。加えて言うのであれば、及川は昔から影山をライバル認定し、過剰なまでに反応しているのを火神は知っているから。

 

そして、極めつけは影山のトス技術の高さ。

 

及川じゃなくても警戒しない訳がない。一挙一動には注意をしている。

 

「へぇ~~、んじゃあ、オレも見てたら解るかな?? 見てみよっか!」

「みてんじゃねえ! テメーがやるべきことをやれ!!!」

「うぐっ……」

「俺も影山に賛成。翔陽は全力で跳んで、全力で相手を釣る役割なんだ。だから妙な事を考えるのは反対。……てか、翔陽の方が半減するのが目に見えるから そっちは駄目」

「はぐっ……。うぅ、せいやはっきり駄目って言ったな……」

「いや 当たり前だろ……。折角の翔陽の一番の武器が半減するのを見過ごすとか、どんだけだよ」

 

火神の一番の武器(・・・・・)と言う言葉が気に入ったのだろうか、あっさりと元気を取り戻して飛び跳ねる日向だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、青葉城西側。

点はまだリードしているが、先ほどの1点はまるで逆転されたかの様な感覚に見舞われていた。烏野の雰囲気に比例し、更に思えた。

それ程までに、強烈なインパクトを残したのだ。

 

 

「ふぅ……む。5番の田中君は 元々パワーに定評がある選手だった。後、どんな場面でも崩さないメンタルも良い。……良いタイミングで烏野は攻撃力を上げてきたと見える。1番、澤村君の守備力から5番の田中君の攻撃力への交代……か」

 

烏野の性質、チームのタイプが変わった、と入畑は思えた。

澤村が居た時は攻守に隙が少ないバランス型で田中がそこに入ると攻撃力をより重視する攻撃特化型へと変貌する。

揺さぶるにはもってこいの手であり。及川が言ってた様に控えの層も厚くなっていると入畑も感じていた。

 

 

「あのボーズ君は元気が良すぎる。元気ってのは、そこにいるだけで盛り上げながら皆を引っ張っていくモノだし。まずはどうにかして大人しくなってもらわないと、ですね」

「……うむ」

 

 

現状、一番の効果な手は やはり澤村と言う安定感抜群の選手を抜いた事による穴。

攻撃力を上げたが故に、出来た穴を狙うのが定石だ。

 

攻撃は最大の防御、とよく言うが そう簡単な事ではない。

 

バレーでは 攻撃だけを受け続ける訳ではないのだから。……誰しもが、必ずレシーブをしなければならない場面が来る。

 

お誂え向きだ。

この点を切れば、次のサーブは及川なのだから。

 

 

 

 

 

 

そしてその後、数点確認と修正を話し合い……最後。

 

「最後に、まぁ 何度目になるかわかんないけど…… うん。もう言わなくても解るよね?」

 

及川が次に、最後に何を言おうとしたのか。

もう言われるまでも無い、と言わんばかりに 全員が頷いていた。

 

口に出して言う必要はない。あの火神についてだ。

 

影山がファーストタッチを行った。その後、火神がセットに入った。

 

あの時、あらゆる想定をし、身構えていたら 少なくともストレート側ノーブロックで打ち抜かれる事は無かった筈だ。

及川にしてもそう、あのフロントゾーンで構えていたブロッカー全員が、まだ何処か油断していたとしか言いようがない。

何をしてきても、何を選択してきても、驚かない事。

 

 

 

―――やられた事を悔やみ、修正し、或いは相手を称賛したとしても、もう驚かない事。

 

 

 

それだけを頭に入れた。

 

「んじゃ、後は チビちゃんに注目度合いが集まってたけど、せいちゃんの方に行き過ぎるのも注意。―――せいちゃんは、確かに色々と凄い事をやってのけてるけど、(言いたかないけど)凄い・驚き度合いじゃ、トビオとチビちゃんの変人速攻が一番なんだ。せいちゃんは基本に忠実。ただ出来る事を最大限で最短、無駄のない動きで……………まぁ、それでも怖いのは怖いけどね」

 

 

自分で言ってて何言ってるのかわからなくなりそうだが、その感覚だけは皆に伝わっている。岩泉も口を挟まずにただただ聞いている。

及川が、はっきりと【怖い】と言ったことにも注目して。

 

 

「ただ やってる事は説明できる。出来る事をしてるだけ。ほら、別に超能力使って戦ってる訳じゃないんだし、追いかけ過ぎない注意し過ぎない。烏野には無視して良い選手は居ないからね」

 

 

烏野に無視して良い選手は居ない。

それも身に染みている。

月島のブロック、澤村の攻守共に高い総合力、2人のエースとも思える東峰と田中の強打スパイク、西谷のスーパーレシーブ。

 

 

何処が【堕ちたカラス】だ。

 

 

今まさに全てを喰らって飛び立とうとしている。

だが、それを赦す訳にはいかない。青葉城西は、この古豪 烏野に後れを取る訳にはいかない。

 

 

「レベルの高い相手とはこれまでにも何度もやってきてる。練習してきてる。オレ達がやって来た事は嘘はつかない。オレ達を信じていいんだ(・・・・・・・・・・・)。……こっから更に上げてくよ」

【ウス!】

 

 

 

今日一番の声。

恐らくはまだまだ超えてくるだろうが、それでも今この瞬間は今日一番だ。

それは 青葉城西が更に強く団結した、雰囲気から変わった、と思わせる程だった。

 

入畑もいつもと違う士気の入れ方に少し驚きの顔をしていた。溝口も同様である。

 

 

及川は、全力で全員を信じる。

そして、皆も全力で及川を信じる。

 

 

―――それだけでは足りない。と思ったのだろうか。

 

「仲間だけでなく、自分自身も……か」

 

チームが苦境に立たされた時、最後の最後まで諦めず奮い立つか 絶望し諦めるか。

その2択の場面が来た時、一番影響されるのが自分達の背骨(バックボーン)となる日々の練習だ。

 

 

どんなボールも追いかけ続けた。

気が遠くなる程走り続けた。

数多の強豪と練習試合を重ねた。

 

 

それらが背骨(バックボーン)となり、チームを選手たちを支える。

 

 

【オレ達を信じていい】

 

 

及川が言っていたその言葉。

それは築き、作り上げてきたこれまでを思い出せとも言っているのだろう。

 

 

「……指導者顔負けだな」

「違いないです」

 

 

入畑と溝口は選手らと同様に、これまでの事を思い出し、そして――信じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイムアウトが終了し、烏野のサーブから再スタート。

 

影山は大分頭が冷えたのだろう。2度目のサーブはサーブトスからスパイクまで全てが問題なかった。

 

高威力のスパイクサーブが青葉城西コートに突き刺さる―――のだが、極めて冷静に対処してのけた。

 

花巻のレシーブ、そして流れる様な及川のセット……エース岩泉の一撃。

 

 

「「っしゃあ!!」」

「ナイスー!」

「ナイスキー! 岩ちゃん!」

「ナイスです! 岩泉さん!」

 

 

スコア 20-18。

先に20点台にのせたのは青葉城西。

 

 

淀みが全くない。

気負いも無い。

 

 

 

「……すげーな」

「ああ……。こんな場面って大体調子あげた側がリードし返すって感じだろ……」

 

タイムアウトの前。

あの烏野の攻撃、一連の流れ、あのブレイクポイントを考えれば……。更に 調子を上げた影山の高威力と見事に狙ったコースのサーブなら、このまま同点の流れだったとしても何ら不思議ではない。

 

少なくとも見ている側は獲れた、と一瞬錯覚した程完璧に近かった。

如何に強豪の青葉城西だとしてもだ。

 

だが、淡々と取り返すその姿は圧巻だ。

 

「マジですげぇ。別にスーパープレイした訳でもないのに……」

 

また、更に一段階 青葉城西が変わった。

あえて言うなら……、普通に出来る事、その普通(・・)のレベルを上げた。

 

そんな印象だった。

 

 

 

 

 

「ドンマイドンマイ! 一本切っていこう!」

「サーブ! 次のサーブ気を付けろ!」

 

コートの外で、澤村と菅原を中心に大きな声が響く。

声を出したくもなるだろう。

 

何せ、次のサーブの相手が及川なのだから。

及川のサーブのコントロールは健在。最初の1発を除き、後はリベロの西谷は、一切狙ってこなくなっている。続いてレシーブ力に定評のある澤村は勿論、火神も対象から外し、点を捕れる可能性が一番高い場所をピンポイントで狙ってきている。

 

 

つまり、考えうる ここで一番狙われる可能性が高いのは……。

 

 

「いつも威勢の良いムードメーカーが、大人しくなった時の空気の重さったら無いよね。……途中からの攻撃要因、点取り屋(ポイントゲッター)として入って来たのなら、尚更」

 

 

及川は、定位置に付き……笛の音を待った。

主審からの開始の合図を聞いた後……、ゆっくりとした動作で動き始めた。

 

遠目からでもはっきり解る。

 

間違いなく強力なサーブが来ると。……更に言うなら。

 

 

【1本目より2本目、前より、強いのが来る】

 

 

そう感じざるを得なかった。

そして その想像は間違えてなかった。

 

放たれたスパイクと見紛うかの様な一撃が弾丸となってこちらに迫って来たから。

 

 

「!」

「田中……!」

 

 

 

狙う所は、及川の中では既に決まっている。

点差が2点あるものの、それは最早無いと及川は判断している。

 

 

出てくる杭は、叩き続け、凹ませる。

或いは……へし折る。

 

 

 

 

それは、かつて中学時代 影山に宣告した事でもあった。

 

中学時代の影山は及川よりも2歳年下だから、中学1年だ。

それでも、脅威に感じる程の潜在能力(ポテンシャル)を持っていた。

 

だからこそ、他の1年とは全く違う態度をとり続けた。

教えを乞う影山を必要以上に突き放し、或いはカラんだ。

 

間違いなく後々の脅威になるであろう相手を自分の手で育てる気はない。

 

そして―――叩くなら折れるまで。

 

と。

 

 

 

その時のことを、この刹那の時の中で思い返す。

 

今の烏野は間違いなく脅威。

青葉城西にとっての脅威であり、強敵。……油断や過信の類は一切していないつもりだが、長らく自分達にとっての強敵・脅威は、中学から高校に入り、今日までずっと前を阻み続けた【王者・白鳥沢】だけだった。

自分達は後は王者を超えるだけだった。このIH予選で、そして春高予選でも。

 

だが、今はそんな気は欠片もない。

 

 

する事は、あの日の影山と同じだ。

 

 

【叩くなら――――折れるまで】

 

 

 

強烈な意思をも宿ったかの様な及川のサーブは、これまで以上に強力。

田中自身もレシーブは得意とは言えない。これまででも狙われるが多々あった。攻撃面で期待されていて、レシーブ面ではまだまだだ、と言う事も自覚している。

 

だからこそ、練習中……意識してきた。

影山や火神の強烈なサーブ相手に練習を重ねた。

 

時間は決して多いとは言えないが、強いサーブに慣れる事が出来た、と何処か慢心が、自信ではなく過信があったのかもしれない。

 

 

及川のサーブに反応は出来たのだが、直前でまるで威力が増したかの様に感じ、威力を殺しきる事が出来ず、はじき出されてしまった。

 

ビリビリ……とこれまでで味わった事のない痛みが痺れとなって田中の腕に響く。

 

 

「サァァァビ スェェェェスッッ!!!」

「おっしゃああぁあああ!!」

「ナイッサーーーッッ!!」

 

 

更に1歩、青葉城西が遠ざかる。

 

 

「うわぁぁ……、マジかよ……。二階客席まで飛んだ……」

「いや、今日一番の威力? 上がっていってね……?」

「マジマジ無理無理。あんなの対面したくねぇ……絶対」

 

及川のサーブを見ていた他校の選手たちは揃って顔を青ざめていた。

遠距離(ロングレンジ)で見ていたのにも関わらず、恐怖を叩きつけられた気分だった様だ。

 

「くっそがっっ!!」

「田中さんドンマイ!!」

「落ち着け、大丈夫大丈夫。次切るぞ!」

 

守備人数を増やしても、あのコントロールなら、正確に田中の事を狙ってのけるだろう。……及川がミスする、と言った事は期待していない。そんな事を期待した瞬間から このまま持っていかれる、と思えるから。

 

 

 

及川は、戻って来たボールを手に取り……考える。

 

 

「(1発じゃ……まぁ、静かにさせるのは無理か。思った以上に反応は良いけど、やっぱり主将君に比べたら まだまだ。……サーブレシーブの連続ミスともなれば、精神的圧迫(プレッシャー)になるのは間違いないからもう1本は行きたいトコかな。……どんだけ元気だったとしても、この局面でミスったら絶対静かになる。……そんで、次はエースを折る。そうすれば、後はチビちゃんとせいちゃん)」

 

及川は、火神の方を見た。

火神もその視線に気付く。

 

そして、時間にして1秒程だが……2人の視線が交差した。

 

先に反らせたのは及川。

ふっ……、と笑みを軽く見せた後に、首を横に振る。

 

「(ごめんねー。【オレに来い】ってすっげぇ、目で言ってるけど、このセットは絶対に獲る。……せいちゃんとの勝負も面白そうだけど、今のオレに余裕はない(・・・・・)。……拘ってる場合でも場面でもないからね)」

 

狙いは決まってる。

折れるまで、一番の穴である田中を狙う。

 

 

そして、もう一度だ……! と気合を入れ直したその時だ。

ピ―ッ! と副審の笛の音が鳴り響いたのは。

 

「むむっ。……良いトコだっただけどなぁ」

 

烏野のタイムアウト要求。及川は愚痴りつつ 戻っていった。

 

 

 

「おー、次は烏野のタイムかー。速攻でとったな。予想通りと言えばそうだけど」

「ああ。……さっきの青葉城西側のタイムアウトん時は、烏野の流れ! って感じだったのに、あっと言うまに青葉城西側に傾いたからなぁ……。あの11番のサーブも強いのに、サラッと拾って、サラッとブレイクして……もう21点だ。後4点。……あのサーブなら5連続とか有っても驚かねぇ……」

 

タイムアウトを取るのは仕方ない、と言うのが大方の意見だ。

そして、それ以上に思うのは、田中(狙われてる者)の事。

 

【狙われてるヤツ、可哀想だ。―――この局面での責任は重大だし】

 

 

 

 

 

「よしよし。落ち着いてるな? お前ら。あのサーブはやっぱすげぇ。判り切ってた事だ。だから、とにかく上でいい。それだけ考えてあげる。セッターに返らなくても、上にさえあがればどうとでもカバーできる。そのイメージは 火神(さっき)ので十分出来てるだろ?」

「うす!」

 

一際大きく返事をしたのは田中。

今後も自分自身が狙われている、それを自覚しているから。

 

「(田中を澤村と交代させる……、ってのも手だが、まだ早ぇ。均衡を破る為に田中起用で、攻撃特化にしたのに、ここで代えたら精神的にくらう)」

 

パターンを増やすための手である交代なのに、ただの弱点となってしまっては元も子もない。及川相手だから仕方ない、とも思うのだが……。

 

 

「(我慢だな……、我慢。せめて23点くらいまでは)自信を持っていけよ。あげさえすれば出来る。お前らの攻撃力は高い。絶対負けてねぇよ」

【アス!】

 

 

烏養はそう締めて、皆を見送る。

 

 

 

 

 

その様子を上から見ていた嶋田と瀧ノ上は、ぐでぇ、と手すりに寄りかかっていた。

 

「あのボーズ兄ちゃんを入れたまま、って事は今は我慢タイムって事か……」

「だな。見たところ、あの主将……澤村、だったか。守備力は間違いなくチームのトップクラスだし、ここで戻しても……ってオレも思うけど、またシーソーゲームに逆戻りの可能性も高いからな……。点獲られて獲り返して、じゃ このセット落とす。……それに折角攻撃主体バージョン確立出来たかもなのに、あの兄ちゃんが弱点だ、みたいなのを刷り込まれたら今後にも響く可能性大だ」

 

田中と交代する前は、まさしくシーソーゲームだった。

守備力が高いメンバーが、リベロを除いて2名以上居る状態は堅牢そのもの。

リードされたのも、一応 烏野側のミスがあってで崩された訳ではない。

 

なので、澤村を入れる事で及川のサーブにも対応できる可能性が今よりは高くなるだろう。……が、攻撃力が落ちるのは間違いない。如何に田中の精神力が強靭であっても、弱点だとほんの少しでも敵味方に思わせたくないのだ。

 

 

だが、無情にも点差は広がった。

タイムアウト後の再開。

 

及川のサーブの威力・精度共に一切落とす気配なく、田中に打ち抜いた。

力には力、威力には自分の腕力で強引に飛ばされない様に上げた……が、大きく崩された。

 

「田中さん!!」

 

日向が飛ばされた先に瞬時に先回りし、アンダーハンドで2段トスを上げ、田中がスパイクを打つ。

 

今回の2段トスは、先ほどの火神・田中の時の様なモノではない。

アンダーハンドでのオープントス。

フロントゾーンの3人問題なく全員が揃ったブロック3枚との勝負。

 

「ぬっっ、ぐぅっ!!」

 

田中のスパイクは、ブロックとブロックの間を狙い、狙い通りの位置へと打てたのだが、僅かに開いていた扉をまるで閉じる様に、最初からそれを狙っていたかの様に、金田一がブロック面積を絞った。

 

打ち抜く事が出来ず、そのままドシャットでコートに叩きつけられたのである。

 

 

スコア 22-18。

 

 

 

「ぐぁ~……、居たたまれねぇよ……。繋ぎが命のバレーで、肝心要のサーブレシーブを連続ミスってるあの罪悪感と孤独感は尋常じゃない……。オレもはっきり覚えてるよ……。タイムアウト明けだし、まだ狙われるだろうし。……極めつけはさっきのドシャット。崩れてもおかしくねぇ。……烏養もまだ残ってるラストのタイム取らねぇみたいだし……」

「ああ……。多分、23点目で取るか交代だろうな……。あのボーズ大丈夫か……?」

 

 

やはり、心配になるのは 立て続けに狙われ、点を取られている田中。

瀧ノ上も、嶋田にも覚えがある。あの万力でゆっくりと締められる、若しくは潰されていく感覚はそう忘れられるものじゃないから。

 

 

 

「次、次切りましょう!」

「っおう!」

 

一番傍に居た火神が田中に声をかけ、それに続く様に後ろには日向がいた。

 

「……(田中さん……、こう言うとき、どう言えば……)」

 

田中に対する日向の信頼度は物凄く高い。

部に入る事が出来た切っ掛けの先輩であるし、【コートのこちら側は全員味方】と当たり前の事を改めて教えてくれた先輩。

練習の時も、試合の時も、……タイムアウトで凹み気味だった時も、何か声をかけてくれて支えになってくれた。

言うなら火神の次に頼っていると言っていい存在だ。

 

だからこそ、何かを―――……と、声をかけようとしたその時だ。

 

 

 

「フンヌァァァァァァ!!!!」

 

 

 

田中は奇声? を上げながら、両頬を思いっきり挟み込んだ。

びたーーーんっ!! とかなり大きな音が鳴った。それだけでかなり痛い、と言うのが解った。

田中の真っ赤になった両頬を見て尚更思った。

 

 

「スンマセンしたっっ!!」

 

 

続いて皆に謝る。

 

「いや、しょうがないことも有んだろ龍! 今のはトスはぜってぇむずい。加えて3枚ブロックだ。オレもフォロー出遅れてなきゃフォロー出来た筈「違う!」っ」

 

西谷に最後まで言わせず、田中はつづけて叫ぶ。

 

「今、オレは日向のトス、呼ばなかった!! 他の皆の声、呼んでたのはちゃんと耳に届いてた! でも、オレは呼ばなかった!! 一瞬、ビビっちまったんだよ ちくしょう!! オレが今、何の目的で中に入れてるか、判ってる筈なのに!!」

 

田中が今、コートの中に居る理由。

それは守備よりも点を取る為。

澤村と自分の守備力の差は、諦めるつもりは毛頭ないが、事実として どうしても覆す事が出来ない。

 

なら、自分が中にいる理由。

 

それは1つしかない。

 

 

 

 

「オレが中にいる理由は点とる為だ! なのに呼ばねえとかクソだ!! んな後悔は試合終わってから、試合中の倍以上する! やる事決まったら、やれるまでやる、ってのがオレだ!! それ以上の取り得は無ぇ! 役目忘れてビビって、足引っぱってちゃどうしようもねぇ! 次はぜってぇ決める!」

 

 

 

田中はそう吼えたのだった。

 

 

 

 

 

 


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