王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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もう早くも⑥になりました。
もうちょっとで折り返しになるかな? と思いながら……、中々進んでない状態です……。文字にすると本当に書きたい所が出てくるのが不思議です。かと言って執筆速度も上昇するかと思えば、そうはならないと言う。

ハイキュー‼二次作品で 行き詰った所で 気晴らしに、他の作品(投稿してません……)を執筆してて積み重ねていけば気付けばそちらも1万字を超えてしまいました……。
他の作品は本当に気晴らしになります。メインはハイキュー‼ なのですが。色々と助けられたりもしてます。


書きたいシーンに向けて、何とかこれからも頑張っていきます
よろしくお願いします。


第66話 青葉城西戦⑥

 

 

 

――明らかに影山の姿勢(フォーム)が崩れている。

 

影山のセットアップ。

それは、攻撃の派手さ(主に日向を使った時の)に目を奪われがちになるが、その真骨頂は派手さだけではない。正確無比、超精密に加えて相手に先を容易に読ませない姿勢(フォーム)の良さにもある。

 

スパイカーに注目を集める攻撃。……見る者が見れば、影山を知る者が見れば、その脅威は一目でわかるだろう。

流れる様で寸分違わず、ボールの落下点を即座に捕え、その場所へと移動する移動速度。セッターを少しでも生業にする者なら、それを見れば 思わず【綺麗だ】と口に出すだろう。

 

 

だが、今の影山は普段のそれとはまったく違った。

 

 

澤村の安定したレシーブにより、間違いなくAパスで返されたボール。

ここから先はセッターの領域。

返球が正確であればある程、その次の攻撃の選択肢は多くなり、ブロッカーを惑わせ、留まらせ、欺く事が出来る……が、先刻の印象通り、今の影山は姿勢(フォーム)が今までにない程悪い。

明らかに重心がネットよりになっており、Aパスだと言うのに不自然に外側の手が内側の手よりも先に出ている。

 

つまり、ツーアタックを狙っている。

 

 

「(ここで……!)」

「……!」

 

 

ツーアタックは基本奇襲となる攻撃。

 

上げる先は レフトかライトか、または真ん中のセンターか、そして AかBかCか、はたまたバックアタックか。

様々な攻撃パターンを考え、ボールを捕らえようとする……が、考えれば考える程、頭を固くすればする程、どうしても身構え、硬直したその身体と凝り固まってしまう。

 

その言わば考えすぎによって固まってしまった思考の隙間にボールを落とすプレイ。

故に事前に打つ事を悟られる事が一番不味い。助走も無ければ腕をバックスイングする事もしないので、ボール自体に威力は スパイクと比べたら然程込める事が出来ないから、ブロックと相対すれば高確率で負けてしまう。

 

先刻の及川と火神の対決では結果アウトにはなったモノの、後ほんの少し、限りなく点に近いブロックとなったのを見て解る通りだ。

 

 

 

 

 

「(ツーアタックか……!)」

 

そして、影山のツーアタックの姿勢は、後衛に居る岩泉にも来る、と読まれた。

後衛にも解る。それ程までに解りやすくなっている。

 

 

「(バレバレだよトビオ。まだ2点差。じっくりいっても良い筈なのに 何でこのタイミングで焦んのか。……ま、判んないケド、美味しくいただくね)」

 

無論、及川にもバレている。

これがツーアタックに見せかけて~ のセットの可能性も0ではないが、影山の様子を見るとそれなりに長い付き合いの及川にはよく解ると言うモノだ。

 

これは、ただ単に焦って点を獲ろうとしている事。

日向をなるべく早く前衛に回し、烏野の最強の攻撃ローテにしたいと言う事。

 

そして、何より―――。

 

 

―――1人で何とかしようとし過ぎなんだ。

 

 

影山と言う男の性質。……癖。今はチームメイトに恵まれた事もあってか、鳴りを潜めている様だが、完全に直る訳ではない。たった数ヶ月じゃ、呪縛にも似たその性質は直りはしない。

 

影山は焦る気持ちを抑えきれず、立ちはだかる及川の壁を認識する事も出来ず、そのまま左手で押し込もうとしたその時だ。

 

 

 

 

「か、げ、や、まぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

一際火神のデカい声が響いた。

 

それは 思わず敵味方問わず、ビクッ、と身体が反応してしまう程のモノ。

 

火神にしては乱暴気味な、普段とは らしからぬ感じではあるが、試合中に大きな声を出すのは、意思疎通をする間でも、囮と言う機能を果たす為にも、当然で当たり前の事。

 

でも、何かが違うと及川は感じた。

意思疎通を図る為でも、攻撃をするぞ、と言うフェイントをする訳でもない。

 

「っ!(まさか!)」

 

及川は、一瞬だけ混乱したが、直ぐにその意図に気付いた。

否、また気付かされた(・・・・・・)

 

あの大声は、味方の影山の身体でさえ一瞬の硬直を生んだ。

 

このタイミング、この瞬間に影山はツーを打つ! と読んでブロックに跳躍した及川。タイミングは一切外さない、後は影山の手からボールが離れた瞬間を狙って相手コートに叩き落すだけ……だった筈なのに。

 

影山にとってもあのデカい火神の声は不意打ちに等しかったのだろう。

無意識に身体が声に反応してしまったせいか、一瞬ボールを打つのが遅れてしまう。それでも自陣コートに落とす訳にはいかないので強引に打つ。ツーアタックの軌道が完全に変わってしまった。

直接相手コートに叩き落すような軌道から、山なりな曲線の軌道に。

 

 

 

「クソっ!、なんだよ……ッ!? (及川さん!? 読まれてたのか!?)」

 

 

突然の火神のデカい声、それも狙ったかの様な声に対し、手元が狂ったと影山は憤慨気味だったが、それに助けられた事に気付く。

 

あの声で、狭まっていた視界がまるで開かれたかの様だ。

何故気付かなかった? と自分自身でも思う程、直ぐ横に及川が迫ってきているのを視界の中で捕らえる事が出来たから。

 

 

「くっ! 岩ちゃん!!」

「おうッ!!」

 

 

山なりとなったボールは、及川のブロックを僅かに掠める様にして青葉城西側へと落ちた……が、影山のツーアタックの初動は 岩泉にもはっきりバレており、問題なく掬い上げる。

 

どうにか、ブロックは防ぐ事が出来たものの、続く岩泉レシーブからの岩泉自身のバックアタックにより、点を奪われる結果は変わらなかった。

13-10の3点差。

 

 

「くっそっ……! (位置取りは良かったのに)」

「今のは仕方ない。ブロックに当たって位置が大きくズレた。寧ろボールに触っただけでも凄い。落ち着いていこう」

「アス!」

 

火神は手を出したのだが、澤村が言う通り 味方ブロックの手に当たり、ボールの軌道は大きく変わった。

僅かの範囲内であれば、腕の振り幅でどうにか調整できるのだが、その可動範囲内を超える程のものだったので、当てる事は出来たモノの、フォローが出来ない程大きく弾かれてしまってボールは落下。

 

 

「スミマセン!!」

 

影山も思わず頭を下げる。

自分のツーアタックが殆ど相手に読まれていた事、チャンスボール同然に返してしまった事を自覚しているからだ。

 

「影山もドンマイ! ゆっくり、ゆっくり行こう!」

「……ウス!」

 

自分で考えている以上に慌ててしまっていた事に気付かされた1点だった。……そして更に点差が開く痛手。

 

 

「毎度毎度せいちゃんには ほんっと舌を巻くね。気付くだけじゃなくて、あの(・・)トビオに あんなやり方でブレーキ掛けるなんて。焦った時のツー程美味しいモノはないっていうのに、残念残念」

「なんでこっちの点で残念なんだよボゲ」

「まぁ、気分的な? ………点はコッチが勝ってるんだけど、……どうしても拭えないモノ、っていうのがあるんだよね」

 

及川はすっ、と視線を鋭くさせた。

影山だけが相手なら、まだまだ手玉にとれる自信はある。その性質、そして今までの試合の内容から、烏野のメンバーについて大分洗えたつもりだ。……が、どうしても 読み切れず、洗い出しきれない者も居た。

 

それは日向と火神。

 

日向に関して言えば、変人速攻の打ち分け方や見分け方は見抜く事が出来、上出来だと言えるが、あの囮の勢いは知っていても、理解していても、どうしても脅威の一言。

まるで人間の本能に訴えかけられているかの様に、無意識に反応してしまうのだ。そして、その僅かな反応を見逃さず、影山がボールを捌く。反則だと言って良い。

 

そして、続いて火神。

 

及川にとって、烏野の最大の脅威。

それは以前から薄々と、そしてこの試合で確信するにまで至った。

 

火神は、烏野の脳であり、盾であり、超高性能の矛でもある。

全てにおいてレベルが高いのは最早言うまでも無く、それに加えて運動神経と経験則の様なものが融合して、兎に角 理解し難い事になってしまっているのだ。

 

だが、それ以上に恐いのは……。

 

 

「(なるほど……。多分、対戦した皆こんな感じで思うんだろうね)」

 

 

烏野が加速していく様に感じる事。

 

 

その加速は、……まるで引っ張られている様にも見える。

 

 

ただ、引っ張られているだけではない。まるで、皆に この手綱を掴むか、掴まないかは任せる、と目の前にぶら下がっている。それぞれのプライドに任せると言った感じで。

 

凄いプレイと言うのは敵味方問わず、ある程度は竦ませるモノ。

 

 

【これは取れない】

【これはあの人しか出来ない】

 

 

そう思わす、思わされる。

 

そういう類のプレイヤーとは何度もやり合ってきた。

青葉城西にとって、それを一番体現しているのは、王者 白鳥沢に居る怪物 牛島。

 

だが、火神のは 全く違う。まさに異質。

 

 

【後、ほんの少し、ほんの少しでも反応できれば……】

【後一歩、後一歩出す事ができれば……】

【行ける、アイツがやってるんだから、オレだってやれる】

 

 

味方をプレイで鼓舞する。

凄いプレイをしているんだけれど、自分でも後ちょっと頑張れば出来る、と思わせてくれる。決して奇跡や超能力を操ってる訳ではないのだから。

 

そして……更に稀有だと思えるのは、その作用が対戦相手である自分達にも掛かってる、と感じる事。……敵味方問わず、自分でもやれる、返せる、と鼓舞させてしまう。

 

絶望を与える強者と言うのは何人も見てきた筈だが、……ここまで互いを高め合えるような、まさに好敵手と言って良い様な選手は初めてだ。

 

 

「(チームを、個性の違うスパイカーたちを、それぞれ100%引き出すのがセッター。……だけど、彼は……自分にも出来る、と思わせてくれる。チームの120%を引き出す男)」

 

 

考えてて、そんなバカなとも思ってしまう及川。

ゲームや映画じゃないのだから、と知らなかった自分なら解りそうなモノだけれど、あの日――火神と言う選手を知ってから。

 

彼の最初で最後の試合―――自分の母校である北川第一と戦ったあの試合を見てから、最早否定など出来ない。

 

 

「(しょーじき、トビオみたいに思わない事、……同族嫌悪、って思わないのは、彼は何処だって出来るプレイヤーだから。……どのポジションにも拘りを見せない。ただ、バレーが好き。出来るのならどこでもやる、って所にあるかな。まぁ、一緒にバレーしてみたかったから、っていうのもあるかもね)」

 

 

 

及川は、その後 岩泉に一撃を貰う寸前まで、そこまであからさまではないにしろ、火神の事を見ていた。集中力を欠くな、と岩泉も思わず言いそうになったが、その表情を見たら そこまでは言わない。普段のソレとは比べ物にならない程の集中力を感じたから。

 

そして、及川が感じている事は、大なり小なり、他のメンバーにも影響を及ぼしている。

 

中学時代を知っている金田一。国見ははっきりとは解らないが、もしかしたら。

かくいう岩泉も同様だ。

 

……あの練習試合で気合の籠ったサーブを受けた時。普通なら サーブでふっ飛ばされたら、相手、そして自分自身に怒りを覚えるものだが、それ以上先に、思わず相手を称賛してあげたくなるような不思議な感覚があった。火神と言う男がそれを寄越した。

 

その時から、負けたくない、と強く思った。……白鳥沢に感じるソレとはまるで違うから不思議だ。

 

 

 

 

 

 

その後、取っては取られてを繰り返し、近付く事が出来ず、3点差のまま……烏野側が仕掛ける。

 

前衛に澤村が来た所で、田中と交代の指示。

 

 

「頼むぞ」

「ウッス! ……たまりにたまったもん、全部ぶちまけてくるっス!」

 

びょんびょん、と日向顔負けの飛び跳ね運動? を何度も何度もしていた田中。

何時如何なる時が来ても最高のパフォーマンスを、自分の仕事をする。それだけを頭に入れて。

 

 

 

「3点が遠いな……」

「ああ。すげー長く感じるのは、そんだけ濃密って事なんだろうな。……ちょっと県大会レベルじゃねぇかもって思ってるよオレ」

「ああ。でも、まだ青葉城西が一歩リードしてる。……食らいついて行けよ……」

「ボーズ頭も委縮すんなよぉ~~? このタイミングで主将と交代って結構気負いそうだけどよぉ~~」

「まぁ、その辺は何かオレ心配してないよ。アイツの顔見てたら」

「………だな」

 

 

滝ノ上と嶋田は、この高レベルの試合に当てられているのか、にじみ出る汗や身体の熱に少なからず興奮を覚える。

相手は4強の一角で、文句なしの優勝候補だとしても、烏野に勝利してほしい、と声を送り続ける。

 

そして、場面が動いた。

 

澤村と田中を交代させる意図は読めた。

当初は、重要な場面での交代に少なからず委縮、身体を固くさせるな、と心配もしていたのだが、田中と言う男については、まだまだ付き合いも浅いのだが、ある程度は解っていた。

 

そして、それが間違いない事は直ぐに判明する。

 

 

「ソアァァァァ!!! ハイヤー――!!!」

 

 

強力な田中のスパイクが、相手のブロックを弾き飛ばし、そのままディグをする事も出来ず、コートに着弾。堅さも無く、後数点全力全開で行ける! と証明、宣言しているかの様な気持ち良く、重い一撃だった。

 

 

「「っしゃあああああ!!」」

「「ソイソイソォーーイ!!!」」

 

 

賑やかな田中が入った事で、烏野の空気もまた変わった。

その元気さは、周囲も思わず笑ってしまう程だ。……【うるさいな】とも言われているが、うるさくても声出してなんぼである。

 

「スゲーパワー。さっきの主将より攻撃力がありそうだなー、あの兄ちゃん。加えてうるさいし」

「だな。良いタイミングの交代だって事かも? 攻撃型へのシフトに加えて、賑やかなのが入ったら畏縮なんかしたりしないだろうし」

 

田中の采配は早くも効果覿面を思わせてくれる程、気持ち良いスタートだった。

 

 

「層が厚くなったね~、烏野……。ものすっごい厄介だ」

 

まだ第1セットではあるが、その中盤から終盤は 少なからず疲労も出てくるタイミングだ。

ここで思い切りがあってパワータイプの選手投入で烏野の攻撃力は明らかに増したことを及川は感じた。

 

だが、攻撃力重視にする、と言う事は……。

 

 

「(……あの主将君の守備力が高いのは、練習試合の時で解ってた事。あの元気の良い子に主将君程の守備力があるとは思えない。……まぁ、あちらを立てれば、こちらが立たず、っていうのは基本だし、如何に見極めて行くか、だからね。……十分承知の上だと思うけど)」

 

及川は、田中の攻撃力は認めつつも、間違いなく澤村と言う守備の軸の1人が抜けた穴は出来たと睨んでいた。

 

その為にも……自分がする事はひとつだ。

影山同様、ローテを回す事。……自分のサーブが来る様に。

 

 

 

 

「トスくれーーーっ!!」

 

「(【くれ】の時はリードブロック。……トスを見てから、跳ぶっ!!)」

 

 

日向のブロックにも対応しだした。

金田一は元々長身である事に加え、ブロックに定評のある選手だ。あれだけ回数を熟し、且つ球種が解ればいつ叩き落しても不思議じゃない。

 

 

「「!!!」」

 

金田一の速さは勿論、これで如何に鈍感な男であってもバレているのが解っただろう。

 

「ふんぬっ!!」

 

日向は、どうにか打ち下ろす前に気付いて軌道を変えた。

威力こそは半減するものの、誰も居ない所に落とす事が出来たので、これでこちら側の点数。

 

「……これで確定か」

 

影山の表情が更に険しくなる……が、そこを考えすぎない様にするのが火神やら田中だ。

 

「さっき言った事忘れんなよー、影山。ほれ、次サーブだ!」

「う、ウス」

「影山。及川さん、お前の表情もきっちり見てる。出来るだけ、ポーカーフェイスだ」

「…………?? (ぽーか?)」

「ああ、っと。顔に出すなって事。研磨さんの時を思い出して。一瞬でも見られてる、ってあんとき翔陽にいってただろ?」

「……ああ」

 

ポーカーフェイス……などと、ちょっぴり難しい?? 事言ったせいか、余計に影山を混乱させてしまいそうだったので、どうにか引き戻す火神。

それを見て、思わず月島が笑ったのは言うまでもない。

 

 

気を取り直して、影山のサーブ。

 

 

今日の成功率は影山にとってみれば不服不満だらけ。サービスエースは火神に圧倒的に負けているし、納得のいくコースにいってない。

 

 

「(……今度こそだ。……集中しろ、集中……)」

 

 

「影山君! リラックスですよーっ!」

 

 

影山の様子は、外から見ていても大体わかる。

火神や田中、時折日向や他のメンバーが上手くフォロー出来ているようなので、まだタイムアウトをとったりはしてない……が、やはりプレイ間での短いやり取りでは不十分。一度何処かでタイムを……と烏養は考えている。

田中の采配がまだ決まっているので、直ぐには取らないが。

 

 

そして、笛の音が響く。

 

影山は、ほぼ笛の音と同時にボールを上げた。

この時点でやはりまだ焦りが残っているのだろう。サーブは8秒間ある。影山は打つタイミングをズラして翻弄するサーバーではなく、ただただ強力なサーブを叩き込むだけだ。加えて相手のレシーブが好調なのもあり、成功率も決して高くない。今焦ってズラすメリットは少なく、こういう焦りのプレイは新たなミスを誘発する。

 

 

「! (くそっ!)」

「(サーブトス、ちっと前過ぎか……。やっぱ らしくねぇぞ影山)」

 

 

 

力が入り過ぎたせいか、あげたボールはやや前気味。届かない距離ではないが、普段より前方に跳ばないといけないのと、バランスの乱れで力が入らない。

 

だが、そこは影山。

 

「(これ以上、無様な事が出来るか!)」

 

ピンチをチャンスに変えるべく、咄嗟に力が入らないサーブにしかならないのであれば、軟打へと切り替えた。

 

影山のサーブは両チーム合わせてもトップクラスに入る威力を誇るのは周知の事実。

加えて火神の様に2種の緩急自在のサーブを操るスタイルと言う訳でもないので、青葉城西側は身構えていたのを逆手に取ったと言う訳である。

 

 

「よし!! 上手く切り替えたな! 影山!」

 

烏養も思わずガッツポーズ。

不幸中の幸い。狙いはバッチリ嵌った。元々強打サーブを直前まで打つ気迫だった事も功を成した様で、青葉城西側は軟打に切り替わった事に対応しきれていなかった。

 

「前前前っ!!」

「くっそっ……!!!」

 

 

どうにか飛び付き、サービスエースこそは許さなかったが、完全に乱した。

花巻のレシーブフォローに岩泉が加わる。この時点で相手のアタックは無くなり、チャンスボールで帰ってくる可能性が極めて高い。

澤村がやっていた不安定ながらも、強引に打つやり方も有るが、それは 当然 跳躍し、打ち放つ為にある程度のボールの高さも必要となってくる。

今回の乱れは、高さが全くない。

 

「チャンスボールっっ!!」

「まさに怪我の功名っ!」

「うっしゃああ!」

 

 

チャンスボールに備える烏野……だったが。

 

「及川ラスト!」

「はいっ。……そう簡単にはっ」

 

そこは様々な局面で経験を重ね、仲間を活かす力も技術も磨いてきた及川。どんなスパイカーであっても100%を発揮する、と言う事は、それだけ視えている(・・・・・)と言う事でもある。

味方の癖だったり、苦手な事、逆に得意な事……等々。

 

そして、今。及川は視えている。―――相手コート、烏野の守備位置を。

 

 

チャンス(・・・・)にしてやんないよ!!」

 

 

それは狙いを定め、強めに放つオーバーハンド。

狙った先に居るのは攻撃の起点であり、烏野の司令塔である影山。

 

普通のチャンスボールであれば、セッターである影山をフォローし、他が取るのだが、及川の返球速度はチャンスボールのソレではない。

影山を取らせまい、と考える隙さえない。

 

「っ!!」

 

そして 影山は取るしかなかった。

 

 

「ああ! 影山君がファーストタッチ……! これじゃ、トスを上げられない!」

 

武田が思わず声を上げた。

数ある選択肢の中で、最も最善の手を及川は打った。

一見すると地味かもしれない。……だが、咄嗟の機転で、チャンスボールを献上するだけ、失点につながるかもしれない場面を、逆にブロックで仕留める事が出来る可能性が高いチャンスへと変える。……それが、本番で(・・・)出来ると言う強さ。

 

あらゆる意味で、及川徹と言う選手の実力は高い水準にある。

 

「おっと、先生……。焦んな焦んな」

「え?」

 

烏養は、武田の様にあの咄嗟の判断で選び、実行した及川に舌を巻く思いだが、目の前に横切る影を見て それを直ぐに払拭する事も出来た。

 

確かに、影山からの攻撃は削いだのは事実だ。正セッターである影山のトスワークが烏野の攻撃起点であり、最善にして最強のセットアップだと言える。

 

 

―――だが、烏野はその1枚(・・)だけではない。 もう1人(・・・・)居る。

 

 

「田中さん!」

「!」

 

影山が取り、あげたボールの落下点へと素早く入る影。―――火神である。

まるでセッターの動きと見紛うかの様なスムーズな動きで落下点へと入り、跳躍した。

 

 

「アイツの万能さくらいわかってんだ! 止めるぞ!」

「おう!」

 

そして、青葉城西も、……及川もそれくらいは解っている。

補填してくる事くらい解っている。

 

だが、確実に攻撃力は削いだと判断している。

 

影山が取り、火神があげる。この時点で 2人の強力なスパイクは無い。影山が咄嗟にレシーブからスパイクの流れまでを組み、それに合わせられるなら 影山の攻撃参加もあり得るかもしれないが、現状ではまず無いと断言できる。

 

更に及川の返球に顔色を変えた所を見てもそうだ。

 

加えて火神は 田中の名を呼んでいる事もある。

 

勿論、それも囮の可能性も捨てきれないが、ボールを見て動くリードブロックであればある程度は対応できる。

 

数ある選択肢の中、ここは無難なレフト側に居る田中へ。

 

 

 

ここまでのシナリオは完璧だと言って良い。

事実、火神自身も田中に上げる事を特に意識していたから。

 

だが、あの一瞬。田中の目が見えた。

 

 

【来い、火神】

 

 

そう言ってる様にも見えた。

加えて、フロントゾーンにはきっちり3人ついている事も見えた。オープントスでは十中八九捕まるだろう事も。

 

それらは、田中にも見えていたのだろう。だからこそ、強く念じていた。普段は声の方が先に出そうな田中だったが、この圧縮でもされた時間の中で取れるのは声ではなく、アイコンタクト。それが最大限の自己主張だ。

加えて、火神から田中へのセットはどちらかと言えば多い分類に入る。影山を除くとなると火神が一番だと言える程に。

 

それらも有り、火神は……決めた。

 

 

「入って!!」

「しゃああ!!」

 

 

時間が動き出したかの様。

火神は、流れる様な動作で跳躍する。

 

ボールを見て動こうとしている3人を置き去りに、低く速いトス。レフトへの平行トス。

 

その離れた場所から、ましてやセッター以外からの平行トスなど、流石に想定してなかった。

 

「―――くっっそっっ!!!」

「レフトっ!!」

「急げっっ!」

 

一歩、出遅れてしまえば、ボールには追いつくのは難しい。

日向・影山の変人速攻ならまず間違いなくブロックに跳ぶのに精一杯でボールに手を当てる事すら出来ないだろう。

 

田中は、何の迷いも疑いも無く、跳躍した。

ブロックを視界の隅に感じるが、問題ない。クロス側に打てば手に当たるかもしれないので、狙うはストレート打ち。

 

「うらぁぁっっ!!」

 

田中の思い切りのスイングは正確にボールを芯で捕らえると、そのまま叩きつけた。

ストレート側にレシーバーは構えては居たが、全力フルスイングのスパイクに反応出来ただけでも凄い。

 

ボールは、腕に当たって、景気よく外へと弾き出されていった。

 

 

 

「よっしゃ!」

「「しゃああああ!!!」」

「田中ナイスキー!!」

「ナイス田中さーん!! ナイスせいやーーっ!」

「ナイスキー!」

 

 

大盛り上がりの烏野。

火神は、田中、そして日向と大きくハイタッチを交わした後。

影山の前にまで行き、そして告げる。

 

 

「影山をファーストタッチで狙う事はこれからも絶対あるだろ。……そんで、そこで迷うくらいならオレに全部くれ影山。ツーでもセットでもするから」

 

 

その火神のセリフを聞いた瞬間……静寂が流れる。

数秒間の突然の静寂の後。

 

 

【か、かっこいいいぃぃぃ!!】

 

 

ずぎゅーーんっ! と田中、日向、西谷辺りに特大HITした。

 

「頼もしいなぁ……ほんと」

「旭さんもアレくらい言ってくれても良いんですよ」

「あ、いや、オレはやっぱさ……」

「はいそこ! 猫背にならない!」

「あ、ウス」

 

 

まだ点差は1点ある。

たった1点、と思うかもしれないが、実力が拮抗していると言っていい今、遠く遠く感じられる点差だ。

だが、はっきりと光明が見えた瞬間でもあった。

 

 

 

 

「及川の今の影山への返球を見て、試合の慣れ方が違う、っつって オレは一瞬ビビっちまったが、身内にもヤベーのが居るって再認識したわ。先生」

「……はい。凄いですね。僕は影山君が取っちゃったから、その……早い攻撃は出来ないだろうなぁ、って思ってたんですけど……」

「その認識で間違いないぜ。青葉城西の連中も、絶対感じた筈だ。影山と日向の変人速攻を嫌って程見せられてるから尚更だ。……なんでも熟す火神だったが、まさかハイセットだけじゃなく平行トスもかよ。搭載武器ヤバイねぇ、ほんと」

 

ニマニマ、と笑う烏養。

ここまでくると驚きより、最早誇らしい事極まれり、である。

 

そして、横で見ていた清水も、スコアノートに記入するのも忘れて、手を止めて魅入っていた。

 

「………凄い」

 

ただただ、そう呟いて。

セッターの難しさは知っているつもりだから。遅い山なりのオープントスならまだしも、速い攻撃ともなれば、選手間でのコミュニケーションは勿論、それなりに阿吽、積み重ねてきた練習や信頼感がモノを言う筈だ。

でも、火神はそれを飛び越してしまった。

 

影山は、技術でそれを全て埋めた印象だったが、火神は何かが違う。

田中であれ、誰であれ……よく見ている(・・・・・・・)と感じられた。

 

 

「やべーやべー。オレのポジション争いライバル、影山だけじゃなくて火神とか。……マジカンベンしてほしいスわ」

「あ、いや……菅原さんと火神が争う訳じゃないと思いますよ……?」

「あはは。……まぁ、それはまぁな。どっちかと言えば今、大地と代わってるんだけど、基本は田中だと思うし、解ってはいるんだけど、なんだろうなー。……ほんと凄いんだけど、凄い以上になかなか出てこないんだけど、それ以上に思う事があるんだ」

「?」

 

 

菅原の言葉に、月島も含めた全員が注目した。

何だか菅原はまるで 目を輝かせている様にも見えた。

 

 

 

―――オレも、一緒にプレイしたい。

 

 

 

菅原は強く、強くそう思っていたのだった。

澤村も、そして月島も何だか伝わったのだろう。

 

自然と菅原と同じように、コートの中へと視線を合わせるのだった。

 

 

 

 


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