王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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3話目なのに、まだ点数が進んでません……。
基本的にハイキュー‼を読みながら執筆してますので、あっという間に点が動く場面も出るかと思います。
少々長くなると思いますがどうかよろしくお願いします。


第63話 青葉城西戦③

 

まだ始まったばかりだと言うのに場を騒然とさせる程白熱する烏野 vs 青葉城西の試合。

 

選手のプレイのひとつひとつに触発され、高揚し、諸手を挙げて自分もと皆が続いていく。

 

そしてそれは、互いのチーム全体を通して言える事だ。

 

相手に向かって強い力で押そうとすれば、より強い力で向こうもこちらに押し返したくなるものだから。

 

それらがもしも、勝負中に止まる事があるとすれば相手に屈し、まだ負けてもないのに試合を諦めた時だけだろう。

 

 

 

――そして この場に試合を諦め、放棄をするような選手は誰一人としていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷め止まぬ衝撃を与えた立ち上がり後。

ブレイクを譲らず青葉城西に取り返されシーソーゲーム。

 

「松川! ナイッサー!」

 

そして今は青葉城西のサーブ権。

松川のフローターサーブで試合再開。

 

「西谷!」

「オーライ!」

「ナイスレシーブ!!」

 

松川が放ったボールが西谷の守備範囲内だった為、問題なく処理。理想的なAパスで影山へと返球した。

 

そこで、青葉城西が………否、どの対戦相手も厄介極まりなく、嫌がるであろう選手、日向がその体躯には似合わない威圧感と存在感を持って突っ込んでいく。

 

 

「持って来ォォォイ!!」

 

 

小さい男が、突如倍もの体躯にでもなったのか? と錯覚する程のモノだった。

それは火神と言う脅威を初手から身に染みた結果、注視し過ぎていたのだ。だからこそ 日向の囮の効果がより増していく結果となった。烏野ビックリタイムの継続である。

 

日向が縦横無尽に動き回るのは当然嫌にでも目に入り、気を削がれる事になるが、だからといって火神と言う脅威をそのままにする訳にはいかない。

 

 

現在の火神と日向が前衛に来ている場面が烏野の最強攻撃ローテである、と青葉城西は理解していた。

 

 

日向と影山の変人速攻には リードブロックでは到底間に合わない。それは伊達工戦を見れば尚更だ。……かと言って、コミットで日向をマークし、追いかければまさに相手の術中に落ちる事になる。火神以外にも強力なスパイカーは居るのだから。他に狙われる、決まる可能性が更に高くなる。

今の烏野は まさにブロッカー泣かせ。………まるで地獄の漁業(・・・・・)である。

 

 

「(あのチビ、いや火神か……!?)」

 

 

注視し続ける岩泉。

偽物か本物か、本当に来る寸前でないと判らないのがキツイ所ではあるが、だからと言って何もしない訳にはいかない。

及川も同じ気持ちなのだろう、日向は他に任せ 火神の方をマークし続けていた。

 

「(今度は逃がさないよ)」

 

手に力を籠め、そして如何なる時でも動けるだけの視野・柔軟性を忘れず対峙する及川。

 

だが、そんな護りに集中した青葉城西を更に乱そうとするのが烏野である。

 

日向の影に隠れ、静かに……それでいて着実に嘴を、爪を磨いている大きな烏、東峰が構えていたからだ。日向を囮にした東峰の渾身のバックアタック。―――即ち。

 

「(パイプか……!? 金田一!)」

「っっ!!」

 

日向相手に跳んでいた金田一だったが、例え一度つられても、二度跳ぶ気概を見せた。止められなくても、触って威力を少しでも削ぐ! と気合を入れる。

 

 

そんな様々な思考が、思惑が混ざり合った気の読み合い、高度と言える駆け引きの最中。

 

 

それらをまるで嘲笑うかの様に。

それでいて【自分もいるぞ!】 と存在感を出し、自己主張を激しくする様に。

 

影山が柔らかいタッチで、ボールを青葉城西側へと落とした。

 

 

それは丁度手のひら1つ分程 金田一から離れており、反応できても届かない。落下場所にも誰もおらず、構えてもない。

 

まさに鮮やか。ストンッ 静かにボールを落とした。

 

影山のツー炸裂である。

 

 

 

 

「おおおお!! 今度は烏野のセッターのツーだ!!」

「青城のツーアタックをやり返した!? いや、烏野の方がスゲーぞ! 青城、今の触れてねぇもん!!」

 

 

 

影山がツーを放った一瞬、何が起こったのか理解しきれず、僅かに遅れた後、一気にどよめきだつ体育館。

それは、勿論味方側の烏野にも言える事だ。

 

 

「いいぞー もっともっとやってやれー!」

「負けず嫌いだねぇ。向こうのセッター完全に意識したデショ今の。あ、後こっちの火神の事もかな」

 

 

欺き方で言えば、つい先ほどの火神のフェイントも度胆を抜かされたと言って良い。

それを真横で、間近で影山は見ていた。……何とも形容しがたい表情をしていたのを月島は見逃してない。

 

影山は 対抗心を強く持っている。これも敵味方問わず(及川&火神)にである。

対抗心を強く持っている敵側の選手―――及川の方を見て、今度は影山からの宣戦布告。

 

 

「―――なんかオレの事忘れてるかもしれないスけど、ちゃんと警戒してくださいね。次もやるんで」

「……この可愛くねぇクソガキ」

 

 

流石の及川もこの時ばかりは笑顔ではいられない。

影山を可愛いとは思った事等一度もない……が、可愛い後輩(仮予定)だった筈の火神の存在を知ってから、更に倍増し憎しになってしまったりしているのは、影山にとってはいいとばっちりだ。色んな意味で憎めないのを纏めて全て影山へとぶつけているのだから。

 

 

 

「いーぞいーぞ! もう1本だ影山~!」

「優男ぶっつぶせ~~!!」

 

 

コート内外でやんや、やんや、と影山への檄が飛ぶ。

 

及川に対する印象は烏野にとって、正直良いとは言えない。

及川の事を凄い選手だ、そしてチームも強い、と言う事は嫌と言う程理解している。でも、それとこれとは話が別なのだ。

 

何故なら あの及川テレビ事件(・・・・・・・)があったから。

 

つまり尾を引いたのは、何も火神だけでなく、もれなく烏野の皆と言って良い。

何故なら烏野が出るシーン(だと思っていた)で及川がド・アップに映った挙句にあのインタビュー。……今日は割り増しで印象悪くなってしまっているのである。

 

 

 

 

 

 

「すげーな。今年の烏野って。1年がヤバイだろ。出てる1年もれなく全員おかしいって」

「メチャ動く1年とメチャ上手い1年。おまけに多分一番デカいのも1年だし、あの1年はあの(・・)及川に張り合ってる」

「今までは、あの11番や10番ばっか見てたけど……」

「アレみたら、ザ・セッター対決、って感じるよな」

 

 

その雰囲気、空気感は見ている観客側にも伝わってきた様だ。

互いに火花を散らせているのが。

 

 

「ナイス影山。今のはオレも騙された」

「オレもオレも! 気付いたら落ちたって感じだ! 大王様に負けてねーぞ! 影山!」

 

火神と日向が影山に近づき、激励の声をあげると 影山は軽く頷いて及川の方を見た。

 

「……及川さんの実力はよく知ってる。多分、総合力じゃNo.1って言ってもおかしくねぇ。……でも、セッターとしては負けねぇ!」

「ははっ。そりゃ 及川さん(向こう)も思ってるよ絶対。セッターはチームの司令塔で指揮者なんだから」

 

にっ、と笑う火神に対し、喜びを爆発させてた日向は逆に冷静になった。

 

「そういや、さっき影山、【次もやる】って大王様に言ってたけど、次はサーブだろ? 後衛に行くんじゃ、ツーアタックは反則になるんじゃね?」

「!!」

 

まさかの日向のツッコミ、正論に思わず影山も狼狽えてしまった。バレー知識も正直日向はまだまだだと思っていた節があったのにも関わらずの直球返しだったから。

 

「ははは! 確かに! んー でも、バックアタックは出来るから一概には反則って言えないがな。後衛で無理にツーで打つくらいならこっちに上げてくれ」

「あ、オレもオレも! オレも打ちたいぞ!」

 

ちょっとした助け舟を出す火神だったが、影山の恥ずかしさは消えたりはしない。

 

「うっせえ!! 次、っつーのは、次の前衛(・・・・)って事だよ! 次に回ってきたらやる、って事だよ!」

「ぷすーー! ぜってー違うしー うそつけー!」

「うっせえボゲ日向!!」

「OKOK。からかって悪かった。判ってる。ほれ、ボール返ってきたから。次サーブ」

 

火神は影山を落ち着かせ、サーブをと促しつつ、定位置に戻っていった。

 

澤村と日向、火神が前衛に上がり、打点が低い日向側、つまりレフトかライトに上がったらストレートではなくクロスを狙われる可能性が高くなる……などなど、次のセットをイメージしながら、青葉城西側へと向き直る。

 

 

そして、影山はボールを受け取るとエンドラインへと歩を進めた。

 

 

その間、思い描くのは火神のサーブ。負けねぇ! ……ではなく及川のサーブだ。

1回戦の時のサーブは勿論、あの練習試合でのサーブ。目に焼き付けたつもりだった。

 

その威力に、そして精度に負けない様に ボールに念を込める。

 

主審の笛が鳴ったのとほぼ同時に、ボールを高く上げた。

助走から跳躍、サーブトスの高さ、全て問題なかったのだが……、ボールを打つその瞬間にアクシデント発生。

 

「(あっっ!? ヤベッッ!!)」

 

ボールを打つ瞬間、スイングする手に触れてボールを思い切り叩いた瞬間に判った。

このサーブは……。

 

 

 

「アウトアウトー」

「OKラッキー」

 

 

コート内どころか、コートより遥か後方にある壁にまで届いた大暴投になった。

ダーーンッ! と景気の良い音が響く……が、残念ながら得点にはならない。線審も宣告するまでも無いが、ちゃんとしなければならないので、しっかり旗を上に振ってアウトを宣告。

 

「ありゃりゃ。影山君らしくないですね。力んじゃったのかな?」

「いや、初っ端はそれくらいが良いんだ。良い具合に発散できたって考えりゃ良い。ここぞと言う時のミスに比べりゃ遥かにマシだ」

「確かに! 影山君! ドンマイです!」

「そうだ! 今は良い! 思いっきり行っとけ!」

 

影山のサーブ威力・精度はチームでも間違いなくトップクラス。

その影山が初球からミスをする、と言うのは実はここ最近の試合では無い。だからこそ、武田は珍しい、と思ったのだ。力が入り過ぎていると言うのは、あのサーブを見たら一目瞭然だった。

 

 

 

そして、影山のサーブの威力の事は十分承知である青葉城西側も 一先ず安心する。必要以上にビビる必要はないし、苦手意識も持ってない。自分に来たら上げてやる、と言う気概は大体のメンバーが思ってる。

それでも、烏野の強力なサーブの内の1つが初球からミスになったのは 正直有難い、と言うのが本音だ。

 

「盛大にフかしたなー」

「なんて凄いホームラン(・・・・・)だ! トス以外は まだまだ甘々ちゃんだな、トビオは」

「まぁ、ありゃ絶対及川(お前)火神(アイツ)を意識し過ぎたせいだろ。……まぁ、あれだ。他校(あっち)の1年に迷惑かけんのはバレーの試合だけにしとけよ」

「何それ! 別にいっつも迷惑なんかかけてないでしょ!」

「ウッセー。さっさと次行け。向こうの大砲(・・)はまだ控えてんだ。取れねぇとは言わねぇがな。……まだ序盤とかこっから徐々に上げるとか考えてねぇ。今このタイミングで この辺で景気よくブレイクが欲しい所だ」

 

戻ってきたボールを、バンッ! と思い切り及川の胸元に押し当てる岩泉。口に出さずとも、【頼むぞ】と及川には伝わった。

 

そのボールを受け取った及川はゆっくりと頷いて移動をした。

 

 

「―――任せといてよ。それじゃあ、お手本(・・・)といきますか」

 

 

威風堂々とはこういう時に使うのだろうか。

及川がボールを手に、サーブを打つ位置にまで歩く後ろ姿が、堂に入っていると感じた。

感じたのと同時に、戦慄もする。

 

 

――来た。

 

 

あの1回戦で最高4連続のサービスエースを叩き出した及川の強サーブ。それは紛れもなく県内トップに位置する威力を持つサーブだ。

 

 

【(及川のサーブが……来る!)】

 

 

ぴんっ、と空気が張りつめ、その直ぐ後に主審からの開始の音が鳴らされる。

 

及川は ボールを高く上げて助走。そして跳躍から空中の姿勢、それらに要する時間はほんの僅かだが、全てが申し分ない事が遠目からでもわかる。

それはまるで、自分自身のサーブコンディションが打つ時に絶好調だと解る様に、他人のサーブが好調である事を理解させられた(・・・・・・・)

 

 

打たれる瞬間、全員が予感がした。

このサーブは外れない。まず間違いなく、確実に、必ず入ってくる―――強烈なサーブが。

 

 

後は誰を狙ってくるかだったが、それもすぐに判明する。

 

ドゴッッ! とボールを手で叩く最上級の轟音を響かせ 及川のサーブは一直線に烏野の守護神の元へと打ち放たれた。

 

打たれた西谷は、その時速100kmは余裕で超えているサーブ、普通は考える様な時間などない筈なのに、時の矛盾を感じながらも いつの以上の集中力、そして極めて冷静に及川のサーブを見定めていた。

 

 

「(オレか。やったぜ。速い。多分……誠也より。ドライブもすげぇ。空気を切り裂くみてぇに来てる。まさに弾丸。でも、正面だ。……いや、このドライブの仕方は……)」

 

 

威力は西谷の中では贔屓目に見たとしても火神のサーブより上だと評価。

それでいて、以前火神のサーブを受けた時のドライブと同種だった。

 

だからこそ、着弾の刹那のタイミングで……。

 

 

 

「曲がる!」

 

 

 

サーブの軌道を正確に読み取る事が出来た。

ボールの芯を捉える守備の会心の手応え。ミートする寸前に組んだ手首を下方向へとグッと押し下げ、強力なサーブの威力を殺す。

勢いを殺せた事を証明するかの様に、及川が打った時の轟音とは程遠い程、音も小さく低くなっていた。

緩い回転と十分な高さ。返球位置は影山の位置。セッターが殆ど動かなくて良い程の完璧なレシーブを見せ、西谷は不敵に笑った。

 

 

「おおおおああああっ!! 及川のサーブを一発であげたぁぁぁ!!」

「やっぱ烏野のリベロはスゲーー!!」

 

「ああ~~、及川さんのサーブ、取られちゃった~~」

「凄かったのにー」

 

 

サーブで魅せ、そしてレシーブでも魅せる。

レベルの高い試合とはまさにこの事だ。

 

「あいたーっ、やっぱ凄いなぁ。会心のヒットだと思ったのに~」

「ゴラァ!! 何が【お手本】だカッコつけ男が! 普通に拾われてんじゃねーか」

「うへへ」

「……………」

 

口では文句を言う岩泉だが、実を言えば あのサーブを完璧に上げて見せた烏野のリベロ、西谷を称賛していた。

見てなくても、あのサーブが 及川の言う通り会心の当たりだったのは判っているから。ボールの音、相手コートに迫っていく光景、それらの全てで判る。

それを見事に拾ってのけたのは称賛、脱帽。本人のセンスや集中力等もあるが、それ以上により良い練習を積み重ねてきた成果だろう。

 

だが、称賛タイムは持続はしない。

 

こちらのポイントゲッターであり、強力な武器の1つを最初から拾われてしまったのだから。

 

 

「来いやぁっ!!」

 

日向は大きく叫ぶと同時に、地を蹴って走った。

日向の静止した0の状態から一気にトップスピードまでもっていく敏捷性(アジリティ)はやはり凄まじいの一言だ。近くで見ればより解る。

ボールが宙に居る僅かな時間、アッと言う間にネット際まで到達し跳躍したのだから。

 

だが、金田一とて負けてはいない。

日向と影山が繰り出す常識外れな速攻を知っているし、何より MBと言うポジションを任されていると言うのに、何度も抜かれているから必ず止めてやる、と言う気概は誰よりも持っている。ブロックに必要なのは技術や高さは勿論だが、時にはそれ以上に【必ず止める】と言う気概が重要になってくる事もある。

 

必ず止めてやる、と言う気合十分に日向をマークしたのだが、ブロッカーの目を欺き、スパイカーに道を作るのがセッター。

 

「!」

 

影山は、不意にライト側に視線を向けた。

その先に入ってきているのは火神だ。その前衛での存在感で言えば紛れもなくチーム1。影山がそんな男に視線を向ければ、当然ブロッカーも意識してしまう。

日向を注目していた筈の金田一もその視線誘導を受けてしまい、ほんの一瞬ではあるが、日向から目を離してしまった。

 

そして、影山はその一瞬の隙を逃さない。

 

「(見たな(・・・)!)」

 

背後に居る金田一がつられたのを直感で悟った影山は、即座に視線と向きをレフト側へと戻すと、全く淀みない動きで正確無比に日向が突っ込み、フルスイングする最高到達点へとピンポイントでトスを上げた。

 

ドパッ! と言う音が響いた時にはもう遅い。

跳ぶ事さえままならず、そのまま金田一は見送ってしまった。

 

「よしっ!」

「っしゃあああっ!」

「ナイスキー!」

 

コートに叩きつけられ、点を獲れたのを確認すると、全員は集まって手を合わせる。

 

「例え、翔陽と影山の変人速攻を知ってても、あれじゃ 止めれないな」

「……おう。日向(コイツ)についてこられなきゃ当てられはしても簡単には止められねぇのは間違いない。……勝負は対応し始めてからだ」

「OK。成るべく日向ビックリタイムが長く継続する様に、オレ達もガンガン入っていこう」

【アス!】

 

日向と影山の速攻はまさしく烏野の最速の武器。

だが、日向の本質は武器である事よりも囮にある。

 

「良い具合に火神と日向につられてくれば、オレ達後衛もバックを狙える。正直、苦手だって思ってるが、旭だけでなく、オレも使ってくれ」

「ウス」

 

澤村のバックアタックは、これまでの試合ででも一度も見せた事が無い手だ。

練習でもお世辞にもまだ上手いとは言えないが、ここ一番での集中力の高さと、愚直なまでの丁寧さでは澤村も決して引けを取っていない。

 

烏野の戦術として、当初は縦横無尽に素早く動き回る日向を最高の囮として~ と言うのが前提に立った考え方だった。だが、嬉しい誤算があった。

それは日向だけじゃなく火神と言うスパイカーが相手に与えるプレッシャーも半端ではないと言う事だ。鮮明に見えてきた。

サポート役に徹する万能型選手、1人で止めて見せるブロックや多種のサーブを操る派手な部分に注目を集めそうではあるが、スパイクに関しても紛れもなくその技術はチーム1だ。

 

青葉城西にもファーストスパイクで、それを脳裏に刻む事が出来たとも思える。

攻撃の手が増えれば増える程、分散する事ができ、あの変人速攻も更に映えるのだ。

 

それら無数の手の内の最適解を導き出す為には、影山の腕の見せ所ではある……が、それに関しては誰も不安はない。

 

 

 

 

 

 

「見たな、アイツ。ライトの方」

「おう。見たな」

 

影山に対し、不安や心配ない、と言う意見は観客側も同様。

滝ノ上と嶋田は、先ほどのプレーの内容をニヤニヤと笑いながら思い出していた。

 

「視線でひっかけるのは、音駒のセッターがうまくやってたな。そういや」

「おう。そうだったな。アレもすげー自然にやってたから 意識持ってないと絶対釣られるって。確か、烏野の月島(メガネ)君もそれでフラれてたな。確か」

 

思い返すのは音駒との練習試合。

孤爪がやって見せた視線のフェイント。何気ない動きだが、一瞬一秒を逃すまいとするブロッカーにとって、それらは十分すぎる程迷いとなる。勿論 過剰で演技掛かった動作なら読まれるかもしれないから、なるべく自然に、自然につい上げる方を見てしまった、と思わせなければならない。

こういう事をしてくるぞ! と言う印象を、相手の選択肢を増やす事にもなる。

 

「それに加えてライト側には火神が入ってた。あの初っ端の二段トスからの一撃を食らって、かな~~り相手が警戒してたの上からでもわかったし。効果倍増だ。いやぁ、チビちゃん&火神の囮とか、想像しただけでゾッとする。つええよ烏野」

 

ぶるっ、と震えるのは滝ノ上。

あの町内会チームの練習試合の時とは比べ物にならない程チームのレベルが向上して言ってるのがよく見てわかる。

後輩の成長が間近で見れて嬉しいのなんの、である。

 

「老婆心だしてんじゃないのって。……まぁ、その辺はオレだって同感。でもやっぱ 今のに関しちゃ あのスゲェトスだな。あの寸分の狂いもないトスだけでも十分凄いってのに、一瞬ボールから目を離した後にするって。やっぱスゲェよ。あのトスの技術は」

 

注目を集めやすいのは当然攻撃者、スパイカーたちだ。

強力な攻撃が決まれば場が沸きあがるだろう。エースと呼ばれる選手が攻撃を決めたら尚更盛り上がる。……だが、見る者によっては、それらを指揮するセッターにこそ注目が集まると言っても過言ではない。

 

嶋田が改めて感服したのは影山のトスの技術だった。

 

 

 

 

 

影山のトス(それ)に関しては、色んな意味で敵対心、ライバル心剥き出しにしている及川も認めている。

嶋田に合わせた訳ではないが、あのトスワークをまた見て…。

 

「あんな神業トス反則だよ、まったく!」

「……………」

 

 

思わずそう愚痴っていた。

岩泉も自分達のセッターがまたそんな事を言うので、一喝してやろうか、と身体を疼かせたが、一先ず保留にした。もう一度言ったら……と考えたりはしている様だが、今は取り返す方が先決だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野のベンチ側もほっと、一息ついていた。

あの及川のサーブを1発で切ったのだから当然と言えば当然だ。

 

 

「及川君のサーブはやっぱり凄かったですね。火神君や影山君のサーブを見て、ある程度耐性? みたいなのを身に着けたつもりだったんですが……」

「まぁ、単純に及川の方が火神や影山よりも体格がある。高校生っつう発展途上な子供の中で、1年と3年っつう歳の差は やっぱりデケェからな。……それにしても、初っ端サーブであの威力か。先生じゃねーけど、相手にも居たんだ、って改めて思い知らされた。やるのは良いが、やられると溜まったもんじゃねぇな。お手本っていうだけの事はある」

「あ、でもそれは西谷君の方へと飛びましたし、失敗だったのでは? 西谷君は烏野の守備専門の選手ですし」

 

武田の問いに対し、烏養はゆっくりと首を横に振った。

 

「いや、失敗じゃねぇ。西谷を狙って打ったんだと思う」

「え? で、でも 西谷君はリベロで上げられてしまう可能性の方が高いのでは?」

「確かに先生の言う通りだ。リベロってのは サーブにしろスパイクにしろ、例外は除いても基本的に狙うのが避けたいポジションだ。……だからこそ(・・・・・)だよ」

「??」

 

烏養の言っている意味がいまいち理解できていない武田だったが、この後の説明で直ぐに理解する事が出来る。そして、及川の老獪さも改めて認識させられる事にもなる。

 

「守備専門、守護神って呼ばれるくらい上手ぇ西谷が取れない、って事になりゃ、当然ほかの面子に与える精神的ダメージもデカい。脳裏に刻まれでもすりゃ 振り払うのも大変だ。多分、その辺を狙ったんじゃねぇかな。攻撃力の前に守備力を削ぐって形で。………が、ウチのリベロがその上をいったのは最高だ! ファインプレーだぜ」

 

誇らしく笑う烏養だったが、内心冷や汗ものだった。

あの場で西谷が取れなかったら……? と。直前に凄まじいドライブで軌道が横から見ても解るくらい曲がった強烈サーブだった。

だからこそ強く思う。

 

――よく上げてくれた、と。

 

 

「………はぁ、成程。……ってことはつまり」

 

 

及川の老獪さは理解した。

それと同時に、理解したのはあの強力なサーブを狙った所へ(・・・・・)と飛ばせる事実。

 

 

もう、今後取られる可能性が高いと解ってる西谷(リベロ)に打ったりはしないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…… すみません。また、オレ引っかかって」

「いやいや、オレもせいちゃんのライト側を注目しちゃったし。それに前の試合、あの伊達工を翻弄した烏野だよ? イキナリ対応出来たら、花丸もんだって。……でもまぁ、とりあえずちょっと待って見て。たっくさんあって鬱陶しいとも思える烏野の武器の1つ……あの小さいけどデカい武器。糸口は見えてくる。たぶん、もう直ぐ」

 

視線を鋭くさせる及川に金田一は身震いした。

口調こそはいつも通りの軽さだが、こういう場面では決して嘘は言わない。あの驚くべき速攻の対処法がたったこれだけで判ったと言うのなら、及川も金田一には十分化け物に見える。

 

 

「反省は忘れず次に活かす事だけ考えて切り替え。ほらほら、あっちからヤバイサーブが来るんだし、気を引き締めないとね? そう、この及川さんのサーブが向こうからくるって構えておいた方が良いよ」

「っ! ウス」

 

チラッ、と見た先に居るのは、次のサーブの準備をしている火神。

コート内でボールを受け取り、エンドラインまで歩いて行ってる姿。

 

及川が相当気に入ってる事は最初から金田一も知っていたが、それ以上にあの強力なサーブの事はしっていた。

 

その印象、金田一の脳裏には恐らく青葉城西の誰よりも刻まれている事だろう。

 

中学時代から経験している事だから。あまり深く考えない国見よりは間違いなく。

 

「オレのサーブだって1発で切られた。……こっちもせいちゃんのサーブ1発で切っちゃおう。そんでもって、オレがしっかりと証明してやるよ」

「? 何をですか?」

「ほら、中学時代 飛雄はお前の事【あんま使えない下僕】 とか思ってたかもしれないじゃん? でも そうは思わせませんよ。この及川さんが、あんな神業速攻なんか使えなくても、【金田一はちゃんと凄いんだぞ】って証明してあげようって事。だから、サーブ取ったって分かったら、安心して とぶ事だけ思っとけよ」

「! は、はい」

 

正直、使えない下僕、辺りは余計な一言だと思ったが、それ以上に信じられると思った。

及川と言う男が、【安心して跳べ】 と言うのなら そうするだけだ。

 

 

――勿論、問題のサーブをクリアしてからの話ではある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダン、ダン、と二度程ボールを叩いた後、火神はエンドラインに立った。

 

「ふぅ……」

 

大きく深呼吸をしつつ、身体の力を抜くイメージを忘れない。

良い具合に力が抜け、肩に脱力感さえ覚えた所でゆっくりと歩を進めた。

 

 

「!」

 

 

及川は、その後ろ姿をじっと追い続ける。

まるで射貫くかの様に鋭い視線を火神に向けている。

 

【(まさか、もう気付いた(・・・・)……!?)】

 

その視線は、烏野メンバーにも十分伝わる程のものだった。

火神の一挙一動、どんな動作の機微をも見逃さない及川の表情は、先ほどの笑っていた物とは全く別次元だった。

どちらを選択し、どちらを打つのか。

それに関しては事前に火神から聞いている。ルーティンにしているのだと言う事も聞いている。それを看破したのは今まででは 音駒高校の脳、孤爪だけだったのだが……。こんな早くに知られるのは想定してなかった。

 

 

「火神ー! 落ち着いて行けよ!」

「「一本ナイッサー!!」」

「せいやナイッサー! 必殺サーブっ!!」

 

 

もしやの事態、及川の視線に当てられ、思わず大きく声を上げる烏野の面々。

 

火神は、歩を止め、ゆっくりと振り返った。

 

 

「アス!」

 

 

気合の入った返事を火神から受け取る。

及川の視線に圧されかけていたのだが、その頼もしさを感じる声を背に受けながら、改めて落ち着く。

 

 

 

落ち着いたのと同時に、火神が以前言っていた事を思いだしていた。

気付かれた時はどうするか? と言う話をした時だ。

 

 

 

それを聞いた時の火神は―――ただただ笑っていた。

 

 

 

これ(・・)がバレちゃったとしても それはスタートラインの様なモノですから、大丈夫です】

 

 

 

気付かれる事は考慮している。

 

 

―――例え気付かれたとしても、それだけで簡単に攻略させる程 甘いサーブを打つつもりは無い。

 

 

以前に説明した時も、そして今も。

火神の目はそう言っている様に見えるのだった。

 

 

 

 


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