王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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まさかの1話約1万字で、両チームの得点数トータル2点と言う……。
書いてみたい事が多過ぎて大変ですが、頑張ります。よろしくお願いします。


第62話 青葉城西戦②

 

 

 

信じて、信じられて、青葉城西の士気は申し分なし。

 

 

 

「行くぞ!」

【オオス!!!】

 

 

 

 

 

 

 

その試合前の及川のたった一言。

 

 

【信じてるよ、お前ら】

 

 

それは、青葉城西にとっては及川が主将となってからは恒例の儀式の様なもの。

本当にたった一言。試合前の何気ない一言なのだが、それは普段の及川が口にするとまるで冗談の様に聞こえる、或いは……脅迫の様にも聞こえてくる。

いつも何処か掴ませない飄々とした性格な及川だが、チームの誰もがこれだけは断言出来る。

 

 

――こればかりは、何の裏も無い真摯な気持ち。

 

 

そんな男が、全力で自分達を【信じる】と言った以上、他のメンバーがする事は決まっている。

 

【全力で、及川を信じる】

 

 

 

 

 

 

 

 

「(さて……、チームの士気も上々。前回 練習試合とはいえ敗北した時の気負いも無い。くしくも敗北したからこそ、油断等一切せず万全のコンディションで臨んでいるともいえるな。……白鳥沢()ばかり見ていると、足元を掬われる、様な事も無いだろう。――――だが)」

 

 

入畑は、視線を烏野側へと向けた。

 

 

 

「烏野!! ファイッ!!」

【オオスッッ!!】

 

 

 

丁度、烏野側も円陣を組み、士気を高めている様子が伺える。

……烏野の中で特に注目するのは、やはり11番の火神だ。

無論、10番の日向 9番の影山の超速コンビも脅威の一言で決して無視できるようなものではないが、それ以上に脅威に感じるのがあの火神だった。

練習試合の時から、それを申し出る前から注目していた。

 

 

入畑は、中学時代より影山の事を知っている。

 

 

北川第一のチームは、あろう事か全中予選の決勝戦、最も大事と言っていい場面で内部崩壊した。

 

その原因にあるのがあの影山。

自己中心的で横暴と蔑まれ―――コート上の王様と揶揄されている男だ。

 

中学時代の影山は他を全く寄せ付けない程の圧倒的、類稀なる潜在能力(ポテンシャル)を持っていた。才能に胡坐をかく事もなく 向上心も人一倍あり、ストイック。……誰よりも勝利に飢えていた。

ただ、それらが強過ぎるが故に 自身を苦しめる程の葛藤もあった。そして、繋ぎが命であるバレー。そのチームの指揮者(セッター)としてはあってはならない孤独感も。

 

……それらが、影山の悪癖とも言える最悪の形となった。

影山と言う男を形成していたのだ。

 

それが高校に入った途端に変わるなんて到底思えない、と言うのが普通の考えだ。

寧ろあの中学時代の最後の仲間たちからの拒絶―――。

如何に天才と言われても、如何に実力で群を抜いていたとしても、彼はまだ中学生だ。単なる挫折とは違う。並の人間なら心的障害(トラウマ)を抱えてしまっても不思議ではない。

 

だが、それらの考えは杞憂。間違っていたというのは今の影山を見れば一目瞭然だった。

 

その変化具合は、影山に対し 人一倍嫌悪感を剥き出しにしていた中学時代のチームメイトである金田一や国見が驚く程に。(特に驚いていたのは金田一である)

 

それらを成したのが、救い上げたのが、恐らくあの中学時代の初戦の相手、雪ヶ丘中学と言う無名校に居た2人。―――火神と日向の2人だろう。

 

どちらも影山に勝るとも劣らない底知れないモノを持っていると思っていた。

そして、その2人のどちらかを選ぶとすれば、入畑が特に注視し、警戒している火神となる。

 

 

「(……自分と同等、いや それ以上の男が現れた。そして、様々な意味で自分より先に行く男。型に嵌らない男が現れた。烏野高校に集った。―――これぞまさに、環境に恵まれた、と言う事か)」

 

 

対戦する相手としては、正直ゴメン被りたい相手だと思える。

だが、片や中学時代に強烈な拒絶を受け、敗北した。

片や初戦で敗れ日の目を見る事無く姿を消した。

 

そんな才能を発揮する場が無く、埋もれ続けた逸材たちが頭角を現していくと言うのは、どこか指導者として好ましくもあった。

 

 

 

だが、これ以上考える事ではない。

 

今はただ、選手達を信じ、全力で目の前の相手を倒す事だけを考える。一つとして見逃さない様に目を光らせる。

 

 

「………はっは。やはり、君は笑顔(・・)なのだな。笑顔が似合う」

 

 

入畑は、見逃さずに火神の方を見ていた。

この場において、殆どの者が表情を強張らせているのだが……、そんな中で数少ない笑みを見せる者が居た。言うまでも無い。……警戒している男だ。

 

 

―――楽しみで、楽しみで、楽しみで 仕方ない。

 

 

と言う種類のものだろう。

無邪気さもここまでくれば、狂気にさえ感じる入畑だった。

 

 

 

 

 

選手紹介(スターティングオーダー)

 

 

 

 

 

 

 

烏野高校

 

 

 

WS(ウィングスパイカー)3年 澤村

 

WS(ウィングスパイカー) 3年 東峰

 

WS(ウィングスパイカー) 1年 火神

 

MB(ミドルブロッカー) 1年 日向

 

MB(ミドルブロッカー) 1年 月島

 

Li(リベロ) 2年 西谷

 

S(セッター) 1年 影山

 

 

青葉城西高校

 

 

WS(ウィングスパイカー)3年 岩泉

 

WS(ウィングスパイカー) 3年 花巻

 

WS(ウィングスパイカー) 1年 国見

 

MB(ミドルブロッカー) 3年 松川

 

MB(ミドルブロッカー) 1年 金田一

 

Li(リベロ) 2年 渡

 

S(セッター) 3年 及川

 

 

 

 

今――試合開始の笛の音が響き渡る。

 

ファーストサーブは月島。

無難にフローターサーブでコート奥、リベロ以外を狙って打つサーブ。精度はそれなりにあるが、如何せん普通のフローターサーブなので、変化したり威力が強力だったりする事はない。

 

良く言えば、狙いどころに打ちやすくミスする可能性が極めて低いサーブ。

悪く言えば、入れるだけの弱いサーブ。

 

である。

 

 

月島の今後の課題の1つ―――ではあるが、他にも伸ばすべき所が沢山あるので、まだまだサーブ強化は先の話。

 

 

 

月島のサーブは、丁度後衛の花巻と国見の間付近に飛んだ……が、お見合いをする事は無く。

 

「国見!」

「ハイ!」

「ナイスレシーブ!」

 

声掛けは確実・完璧に行い、国見も問題なくレシーブしてあげて見せた。

セッターへの返球は完璧なAパス。選択肢が極めて多く まさに理想的なセットだ。

 

 

国見が取る・取ったのを確認すると同時に、セッターである及川以外の前衛2人が飛び出した。

 

 

 

「お! 前衛2人が早速飛び出してきた!?」

「誰使うんだ!?」

 

青葉城西を率いる及川。そのチームと戦うのは今日が初だと言って良い。

最初のセットアップ。……緊張するな、と言う方が無理だった。 

―――特に、影山は。

 

 

「(及川さんのセットアップ。……間近で見るのは久々だ)」

 

昨日の様に観客席から……上から見るのとネット挟んだ間近で見るのとでは、全く違う。強敵・強豪である青葉城西。まさに強者から発せられる圧力の様なモノが、普段より身体を委縮させられ、堅くなる様にも感じた。

 

それは、影山が及川に対して苦手意識が高いから、と言う理由があるだろう。

 

そして日向が 影山を【王様】、及川を【大王様】と呼ぶ理由。

それはただ単に、中学時代の先輩後輩だったからや凶悪な影山が及川を見て学んだ、と言っていた事から連想しただけでなく、及川を前にすると普段の影山からは考えられない様な様子だからこそなのかもしれない。

 

 

だからと言って、臆する訳にはいかない。

影山は個人の総合力ではまだまだ及ばなくとも、セッターとしては勝ちたい、と言う気持ちが強いから。

 

 

「!!」

 

 

及川の動きを誰よりも注視していたからこそ、影山は気付けた。

 

 

このセットアップは―――!

 

 

 

 

「(最初は奇襲が一番、ってね!)」

 

 

サーブレシーブは完璧。綺麗に返ってきて前衛の2人も申し分なく入ってきてくれて、無数に選べるセッターとしては最高のパターン。この形なら速攻(クイック)を使うのが一番無難であり、ベターだと言えるだろう。

だからこそ、裏をかいての攻撃。

 

及川は、トス動作(モーション)から、身体を捻りながら跳躍し、振りかぶった。

ツーアタックの構えだ。

 

横目で確認したところ、対面している日向は反応できていない。寧ろ何をされるかまだ分かっていないと思えた。

身体能力は脅威だとしても、バレーを長年して積み重ねる事が出来る経験則がまだまだ不足しているのが解る。

 

そのまま、日向の上を打ち抜こうとしたその時である。

 

奇襲を選択し、攻勢に打って出た及川に、戦慄――走る。

 

 

「(なッ!?)」

「んんッッ!!」

 

振りぬくその寸前、日向を押しのける様に両手が視界の中に出てきたのだ。

 

青葉城西内で もしかしたら一番見ていた筈だった。一瞬一瞬の判断ミスが命取りとなる場面で、裏をかいて狙った筈の奇襲だったのに、まるでその奇襲を最初から読んでいた。……判っていた(・・・・・)かの様に、眼前に両手が出てきたのだ。

 

烏野側に叩き込む筈だったボールは、バチンっ! と言う乾いた音と共に阻まれ、跳ね返され、自陣コートへと戻ってきた。

 

それは、器用に身体を横に曲げながらのブロック。……日向をかばったが故に、万全の態勢では無かったから、もしも 日向を押しのける勢いだったのなら、完全にシャットされ、叩き落されたかもしれないと思える程の堅牢なブロック。

 

一瞬、脳裏にあの伊達工の鉄壁が頭を過った。

 

 

 

 

 

 

そして、青葉城西側に跳ね返ってきたボールを、後衛に居た花巻が懸命に追いかけるが、届かない。

だが。

 

 

「ッッ~~! アウトぉぉぉ!!」

 

 

追いかけてる視線、その目測では判らない程エンドラインギリギリだった。

 

アウト! と叫んだが、それは決して入っていてもおかしくない。寧ろミスジャッジであると錯覚した。

だが、丁度ボール1つ分程アウトエリアへと着弾し、線審もアウトと判定。

 

青葉城西は 初っ端の奇襲成功とはならず、まさかの幸運(ラッキー)で失点を免れた結果になったのだった。

 

 

 

「うわわわわ!! いきなりのツーで驚いたけど、あれを止めたのもビビったぁぁぁ!!」

「つーか、読んでたのかヨ! 普通、アレ速攻とか使ってきそうな場面だろ!??」

「どっちに驚いて良いのかもうわかんねぇぇぇ!!」

 

 

場が騒然としたのは言うまでもない。

 

及川のツーアタックは間違いなく虚を突いた奇襲と言える。それはもしかしたら敵味方問わずに。

 

烏野の誰もが唖然と見送ってきた可能性が極めて高い光景だった筈だ。

 

そんな中でたった1人、その攻撃に反応し飛び付いた男がいたから。……無論、そんな男とは当然……。

 

 

「くそっ、今の遠慮しないで翔陽を思いっきりブットバス勢いでぶつかってたら、シャット出来たかも」

「うひぃっ!?? 思い出しただけでひゅんっ! ってなったっ!!」

「翔陽、今の攻撃もあるかもしれないから、頭に入れとけよ?」

「お、おう!」

 

 

言うまでも無い火神である。

 

及川の奇襲攻撃(ツーアタック)に驚き、それを止めて見せた火神にも驚き、そして ほんの僅かの差でアウトになってしまった事にも思わず胸を撫でおろし―――色々と感情が追いつかなくなってしまってる状況である。

 

それも、最初の最初、ファーストセットでこの調子だ。ここから先、一体どうなってしまうんだろう……誰もがそう感じていたりもした。

 

 

「へぇ………やってくれたじゃん、せいちゃん。うーん、気持ちよく決まったと思ったんだけどね~」

「ミスっちゃってるので、偉そうには言えませんけどね。……でも、オレのサーブを結構警戒してると思うんですけど、ブロックも勿論磨いてます。なので以後よろしく、です」

「やっぱ、生意気に育っちゃったネ。及川さんちょっぴり複雑だ」

 

今のがアウトである事をスコアを見て再確認する及川。

あの一瞬、戦慄が……寒気が走ったのは言うまでもない。完全に虚を突き、行ける! と思ってしまったその時こそ、最大の隙が生じてしまうものだ。

及川はそれを失念していた。

マッチアップは日向だったと言う理由も少なからずあった事だろう。跳躍力は凄くても圧倒的に体格が劣っているので、この場面での高さ勝負は及川の方に遥かに分があるから。

 

加えて火神の言う様にブロックに関しても見事に尽きる。

種類の数で言えばサーブよりもブロック、リード・コミット・ゲスの3種を操って より適した場所でそれらを選び行使してくる事を考えたら、実に相対したくないブロッカーへと早変わりだ。

 

「(厄介極まりない……ね。まさに、どんなものでも食らうカラスの雑食ブロック。臨機応変過ぎで反応もメチャ早い……。それに今のブロック 一瞬、アイツ(・・・)の顔が浮かんだ) ほんっと気合入ってるみたいだね。やっぱ昨日の激励が結構効いたって事かな?」

 

及川が皮肉たっぷり気味に火神にそう言ったその時だ。

 

さっきまで、いつも通りの表情だった火神の顔が―――変わった。

厳密に言えば、そこまで言う程変わりはしないが、間近で接してみれば、火神の事をある程度知っていれば、誰でも察知できると思える程の変化。

 

 

一瞬―――真顔になった後の笑顔。……とても良い綺麗? な笑顔。

 

 

 

「――――……いやぁ、及川さん。……昨日のテレビ出演は、本当におめでとうございます。 激励、と言うより何だか色々と含みあるのを匂わせてくれちゃったお礼も兼ねて、頑張って練習したブロックで返礼って事にしておきます。アウトになっちゃいましたが。……以後よろしくおねがいします」

 

 

 

いつも通り? に火神は笑顔で返答。及川にお礼をと綺麗な笑顔で更なる返答。

 

………物凄く寒気がして、さっきよりも遥かに戦慄を及川が覚えそうなベストスマイルで返答。

ぶるっっ、と身体の芯が震えたのと同時に及川は慌てていった。

 

「ぜんぜんお礼って思ってないよねっ!?? ヤメテその笑顔! ってか、マジで喜んでくれると思ったんだけど!? せいちゃん間違いなくこの先も活躍すんだし、ちょっと早めジャン! 一躍有名人ジャン!」

「……ボク、正直そういうの良いんで」

 

魅せるのは試合だけで良い。

試合内容だけで良い。

 

正直な所、以前(前世)の時も春高出場・全国大会優勝と言う実績も有り、色んな媒体に出演した事だってある……が、どうにも肌が合わない、と言うのが正直な感想だ。

日向や田中、西谷がテレビに映りたい! と意気込んでいるが……、やっぱりなかなか。

大事な場面、ピンチの場面、色んな状況を 恐らくは此処にいる誰よりもある意味では経験している火神なので、変に気負ったりはしない方だけれど、あの昨日の及川の言葉で騒がれるのは正直、変なプレッシャーが掛かってしまうものなのである。だからと言って、パフォーマンスが発揮できない、落としてしまう、と言う事はない様だが……。

 

それは兎も角、あまり試合中に話をし過ぎると主審から注意を受けるので早々に終わらせた。……岩泉が。

 

「オラ! こっちのサーブだボゲ! これではっきりしただろ空回りボゲ!」

 

と、首根っこひっ捕まえる勢いで及川を引っぺがした。

色々と火神には同情する面もあり、試合を抜きにしたら心情的には完璧に味方なのである。と言うより、ある意味 火神をこれ以上怒らせるな、と思ったのかもしれない。

 

何処かの主人公よろしく、パワー数倍アップしてきそうな気もするから。

 

 

 

 

 

 

「火神ナイスブロックだ!」

「いえ、アウト取られちゃいましたし、ナイスとはまだまだ言えないですね。寧ろ後ろに任せた方が良かったかもしれません」

「今の抜かれてたら取れてたかわかんないって」

 

火神に労いを言う澤村と東峰。

一通り受け取ると、火神は影山の方を向いた。

 

「影山、いろいろと気負い過ぎ。絶対周り見えてないだろ? 及川さんばっかりで」

「うぐっ……」

 

影山は火神に図星を突かれて苦虫を噛み潰した様な顔をしていたが、完全に自覚しているので、直ぐに頭を下げた。……何よりもあの及川を震えさせた? 火神に少々気圧されたのかもしれない。……火神なら有りうる、とも自覚していたが。

 

「さ、サーセン!!」

「うんうん。肩の力抜いて抜いて」

「「ぷすーーっっ」」

 

あの横暴な王様な影山が頭を下げた事で、思わず吹き出してしまうのは、日向&月島。

月島は、西谷と交代なので、笑いながらコートから出ていったので、手は出せない。(出したら駄目)

なので、いろんな怒りは日向へGO! である。

 

「日向ボゲェ!! 火神! 今の日向(コイツ)ブットバス勢いで跳んだらドシャットいけたんじゃないのか!?」

「あー、うん。確かにそれはあるかな」

「うひぃっ!? ブットバサないで! せいや! オレも頑張って跳ぶから!!」

「いやいや その辺はオレも色々反省点だって事だよ。翔陽も跳ぶのは良いとしても、色んな攻撃手段を頭に入れとけよ? ツーは助走をしない跳躍(ジャンプ)だから翔陽の反応の良さなら絶対追いつける。ボールに触る事が出来たらこっちのモンだから、頭に入れとく様に」

 

やんややんや、と賑やかな1年達。

声が大きく出てて申し分なし、と思うし、必要な事も言っているんだが、如何せん影山日向コンビがそろそろ静かにしないと主審に目を付けられる。

と言う訳で、澤村が助け舟を出す為もう一度声を掛けた。

 

 

「ハイハイ。反省会はその辺でいったん止めて、今後直すべきトコは直していこう。まだ始まったばっかだし、及川が要注意だって事を改めて頭に入れ直せよ」

【ハイ!】

 

 

 

 

 

 

烏野ベンチでも、安堵のため息が漏れていた。

それは、コーチ陣も控え陣も同じだ。

 

「く~……やっぱりスゲェな。結果はアウトだったが、入っててもおかしくなかった。読みは完璧だと言って良い。……やっぱアイツは未来でも見えてんのかよ」

「堂々としたツーアタック、って思いましたけど、目の前で見てみると一瞬の事、ですよね……、頭と身体の連携が火神君はやっぱり速いです」

「ゲス・ブロックな。直感に完全に任せて跳んだ。んでも、さっきみてぇに、自分の直感に頼る面が多くなるから、他のブロッカーに当たったりして危なっかしい面もあるし、レシーバーからすりゃ、ブロックが分散したら穴が多くなっちまう。正直デメリットもデカい種類のブロックだって思ってるんだが……、火神の勘の良さもハンパねぇから ハマりゃ 個人で言えば伊達工も真っ青だ。それに、ウチにはもう1枚(・・・・)、強固と言えるブロックはある。……攻守共々、楽しみだなこりゃ」

 

点を獲られたのは間違いなくこちら側だが……、色々と期待値を相変わらず上げてくれる、と烏養は笑うのだった。

 

 

「オレがあそこに居たら……、アレは見逃してしまうな」

「なーに弱気な事言ってんだよ、龍」

 

コート内へと入ろうとした時、田中の言葉を聞いて西谷は立ち止まって振り返った。

そんな西谷を見て、田中は真剣な顔つきで言った。

 

「いや、弱気になった訳じゃねぇよノヤっさん。出来ないことを確認した。だから、出来る様になるまでやるだけ。後はやるだけだから、簡単だ」

「! それでこそ龍だぜ。かっけぇ!」

「!! ノヤっさんに言われると何か更に元気でるっ!!」

 

田中も試合は勿論の事、火神の事をしっかりと目に焼き付けている。

澤村と交代し、攻撃面と守備面の強化で使っていく、と言う事は烏養から言われているが、自分自身の出来る幅(・・・・)を増やしたいとも思っていたのだ。

 

「………オレも負けない」

 

菅原もそんな田中を見て触発される。

 

「……………」

 

直ぐ横で見ていた山口も言わずもがな。今、主に注目しているのはサーブではあるが、それでも何処か、身体の芯がアツくなる感覚があった。

 

 

良い具合に連鎖していく。

チーム力向上の気配。

 

火神は及川と同種、と言ったが それ以上かもしれない、と烏養は思えていた。

影響力の範囲が広く、更に言えば敵味方問わずに士気向上させてしまう、と言う可能性も十分ある。

 

その証拠に、控えでチームを支えているメンバーの試合を見る目がどんどん変わっていっているのがわかる。

 

正直 色々と忘れ去られそうな気もする烏野の控えメンバーたち全員も(縁下、木下、成田……) 一挙一動、そのプレイを目に焼き付けていた。 田中の様にストレートに口に出すのは難しいかもしれないが、田中の言う様に自分に出来る幅を増やす為に。

特に縁下もどちらかと言えば田中とポジション争いをする間柄だ。……バレー部に居る以上は、やっぱりバレーで負けたくない気持ちもある。どんな凄い一年が来たとしても、どんだけ天才が来たとしても、そういった気持ちは常に持ち続ける。

 

青葉城西以上に、ひょっとしたら 味方の方をよく見ていた。

自分が何を出来るのか、そして何をすべきなのかを考えながら。

 

 

そんな貪欲な視線、気配は烏養にも伝わってくる。

烏養にしてみれば嬉しくも有り、悩みどころでもある采配ではあるが、頼もしい仲間たちが背に控えてくれている事がどれだけ心の支えになるか、今後先、1年、2年後を考えたらどれ程多くの引き出し、出来る幅となるか。

 

「……こっちはメリットばっかだな」

 

烏養はそう呟くと、改めて試合を見直すのだった。

自分の責任の重さを再認識しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合は再開される。

サーブ権が烏野から点が移った青葉城西側へと代わり、松川のサーブ。同時にリベロの渡が金田一と交代となったので、守備面は先ほどよりは落ちたと言えるだろう。

早々に点を獲り返さなければ、と影山は両頬を挟み込む様に叩いた。

 

笛の音が響き、松川のサーブ。

ボールは丁度澤村と東峰の間……だったが。

 

「オレが取る! オーライ!!」

 

声をかけて自分が取る、と言う意思表示全開にする澤村。

それを聞いた東峰は一歩離れて澤村に託す。自身は攻撃に移れる様に体勢を整えながら。

 

澤村が綺麗に返球出来たのを確認すると。

 

 

「Bクイック!」

「オレに来ォ――い!!」

 

 

前衛の火神と日向が飛び出した。

日向の速攻の事は絶対に頭の中に焼き付いて離れないだろう。それでいて、火神の攻撃も油断にならない事は良く知っている筈。

どちらを選択されても、青葉城西にとってはよろしくない最悪の攻撃パターンだった。

 

 

「おっ! 10番か?? 来るか!?」

「あんなのが突っ込んできたらやっぱビックリするんだろうな。遠目で見てもメチャ早いし!」

 

否が応でも注目されるのは日向だった。

火神の事も十分注目に足ると言えるのだが、やはりインパクトの強さに関しては日向であり、注目が集まっている。

これで、青葉城西も日向に注視し続けてくれれば囮として最大級に発揮できるのだが……、生憎そう簡単にはいかない。

 

「(翔陽が目を瞑ってるのを見越してるのかな?)」

 

火神は助走しつつ、青葉城西のブロッカー陣を見て考えていた。

 

音駒の時の様に無理に日向を追いかける様な事は青葉城西はしていない。

ブロッカーの範囲内に来れば跳んだりするだろうけれど、基本的に日向はブロッカーが居ない所を狙って走り込んでいるだけだ。日向が優秀な囮であるからこそ、必要以上にかからない様にしている様だ。

 

だが……。

 

「(目の前でこれだけ動き回られたら、考えるより先に身体が動いてしまいそうだけど……、やっぱり凄い)」

 

予想通り、このセットでは日向に対してブロッカーはマークしていない。

そのままノーブロックで打ち抜く事が出来た。

 

高確率でこちら側の得点……になるが、今回のコレは、普通の速攻ではなく目を瞑って打つ変人速攻。ブロッカーも見てなければ相手レシーバーも見ていない。

 

 

 

 

「あーー!レシーバーの正面かっ!?」

「んん!!? おい、青城のセッター、またツーで打つ気か!? さっきの忘れちまったのかよ!?」

 

 

日向の速攻を綺麗に上げられてしまった。

そのボールは見事にAパス。……ややネット際高くに上がり,見方によれば最高のトスに等しい。

そこに飛び込んできたのが及川だ。今度は助走有りの跳躍、そしてアタック動作(モーション)

 

 

「さっきより 明らかにあからさまだ!! 真っ向勝負か!?」

 

 

ぐわっ! と思いっきり振りかぶってくる及川。

その気迫はまさに本物だった。

 

「くっそーー! 今度はオレも止める!!」

 

日向は一度目の完全に反応出来なかった事が尾を引いているのだろうか、今にもボールに食らいつきそうだった。そんな日向の背を思いっきり叩く火神。

 

「翔陽! 慌てず頭を柔らかく!」

「!」

 

「(バレてる……!? いや、まだどっちでも(・・・・・)選択は出来る!)」

 

及川は、視界の中に居る火神に意識を集中。

ほんのコンマ数秒、一瞬の世界の話ではある、が確かに見た。火神の両足に力が籠った瞬間を。強力なブロッカーの脚を、ほんの一瞬奪ったのを確認。

 

それを見て及川は、空中姿勢をキャンセル。……走り込んでいるレフトの岩泉にトスを上げた。

 

「翔陽! 追いかけろ!!」

「ふぎっっ!!」

 

まだギリギリ地を蹴ってなかった日向に檄を飛ばす火神。

持ち前の速度を活かして、コートの幅、めいいっぱいダッシュ。普通はボールに追いつける筈もないのだが、速攻のトスではないオープントスだと言う事もあって、ギリギリ追いつく事が出来た。

 

……その横に居た影山にぶちかます勢いで。

 

「ふんぬっっ!!」

「ぐっっっ!!」

 

 

思いっきり、日向は、ブロックに跳び、宙に居る影山の脇腹付近に体当たり。影山は思わず呻いたが、そこは日頃からトレーニングを欠かさない男、影山。見事な体幹の強さで崩れることもなく日向を支えきった。

 

 

「!!(いきなり出てきやがった!?)」

 

岩泉にしてみれば、ブロック1枚の絶好のチャンスだったのに 突然ブロックがもう1枚現れたようなものだ。

突然、と相手に思わせてしまうほど、日向の素早さにやはり度胆を抜かれる。

 

そして今回のコレは、あのツーアタック同様、虚をつく攻撃の筈なのに追い付いてきたのも驚きだ。

 

「(チッ! 忘れてたよ! 烏野もこういうトリッキーなの十八番だったっけなぁ!!)」

 

岩泉は、この一瞬で まるで走馬灯でも見るかの様に 嘗て自分達がやられ、そして伊達工もやられたスパイク動作(モーション)からのセットアッププレイを烏野も行っていることを映像として思い返していた。

……序盤、腹が立つ程見事に打ち抜かれたのを覚えている。

 

 

だからこそ、お返しと言わんばかりに岩泉は振りぬいた。

日向の登場には驚いたが、構う事なく真っ向勝負。

 

バチンッ!! と乾いた音が響き渡る。丁度影山の手のひらにボールが当たり、大きく後方へと飛んだ。ブロックアウト! と一瞬頭を過ったが。

 

 

「西谷ァッ!!」

「!!」

 

 

それは、烏野の守護神により阻まれる。

日向にも負けずと劣らない反応・速度を見せ、後方へと弾き飛んだボールに食らいついた。

 

 

「カバーー!!」

「旭!!」

 

「オーライ!」

 

 

西谷の上げたボールは、エンドラインより、やや外側。

だが、十分の高さを出してくれたので、直ぐ傍に居た東峰は十分に追いつける。

 

 

「ラスト!! 頼む、火神!!」

 

 

東峰の二段トスで上げられたボールは、完璧――――とは決して言えないが、十分の高さ、そして位置へと上げてくれた。

火神は十分の助走距離を確保した後、一瞬だけ東峰の方を見て小さく頷いた。

 

「(――十分です。東峰さん!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めるよ!!」

「たりめーだ!!」

 

 

及川と岩泉の2枚 vs 火神の構図。

 

火神は跳躍しつつ――その僅かの時間で、コート内を最低限確認。

レシーバ―の守る位置、もう1人は前衛フェイントフォローに来ているかどうか、僅かの時の中でドコを打つべきかを、点を取れる可能性が一番高いのはドコかを確認。―――そして、決めた。

 

 

宙で思いっきり振りかぶって打ち抜く姿勢を貫く火神。

 

及川と岩泉も、決して飛ばされない様に弾き飛ばされない様に、ブロックの面積を広げつつ、しっかり締めるべきところは締めて迎え撃つ構え。

 

そして、2段トスと言う決して良いセットとは言えない状態ででも、強烈な一発が打てる! タイミングも完璧に合っている、と確信出来た。

 

 

―――敵味方問わずに(・・・・・・・)

 

 

打つ、強打を打つ。

自分自身も、相手もそう認識出来たのを感じ取れた。

 

そこから火神は、まるで嘲笑うかの様に――かます。

 

 

「っ!! このやろっ……!!」

「う、ぐっっ!!!」

 

 

火神は、まさに今! 強烈な一撃を打つ、そのインパクトの刹那 強引にスイングを止めた。……引き留めた。

 

ボールに伝わる筈だった衝撃は、8割以上緩和され、柔らかいタッチとなり、ふわりと緩やかに、弧を描く軌道でブロッカーを躱した。

 

ストレート側に居たレシーバーも、フェイントフォローについていた筈の者も、……その他で守っていた者たちも、あの一瞬で強烈な一撃が来る、と思い込んでしまって、身構えすぎてしまい、一歩……出遅れた。

 

遅れてボールに飛び込むも、間に合うはずもなく、コートに落ちた。

 

そして カウント 1-1 のイーブン。

 

 

 

「っしゃああ!!」

「ナイス火神!!」

「ッ……(強打だと思った。……打つ寸前まで)」

「ふおおお! 今の教えてぇぇ!!」

 

まだファースト得点、最初も最初なのに、お祭り騒ぎになる烏野。

もう、そこには先ほどまではまだあった筈の固さ等微塵もない。影山にさえ、及川に対する固さもとれていた。

今の得点、一撃は 流れをこちらへと引き寄せる様な一発だと思えた。

 

 

そして 火神の一撃(フェイント)を受けて、悔しそうに地に這う青葉城西。

 

まさに、カラス(・・・)に引き摺り落された感覚だ。

 

 

「はいはーい。……今のは向こうが上手かったね。何度目かわかんないけど、せいちゃんには驚いちゃった。だから、こっから落ち着いていこうか。………一本で切るよ」

「……だな。アレも頭に入れつつ修正」

「……おう」

【ハイ!】

 

 

及川は軽い口調ではあるが、その表情は強張っているのがわかる。

 

全員が改めて認識した。

 

今の一撃は確かに驚いた。

ブロックに捕まりそうだからフェイント、と言う まるで逃げに走った様なフェイントじゃない事も明らかだ。

 

そして、その攻撃にまで繋げる先ほどの一連の流れもそう。

岩泉の攻撃はブロックに当たったと言っても、十分ブロックアウトになってもおかしくない程ボールは飛んでいった筈だった。

 

それに追いつくリベロの反射神経、そして、あの位置からアンダーで、これまた見事に上げて見せた2段トス。西谷と東峰。

 

確かに烏野には凄い1年達が入った、と言う事は知っている。以前の練習試合ででも十分過ぎる程堪能してしまった。―――ただ、決して烏野はそれだけではない。

 

とんでもない1年だけじゃない。全員が等しくレベルが上がっている。

伊達工業と言う強敵を倒し、3回戦まで勝ち上がってきた故に、更にレベルが上がっている。

去年までの成績なんか関係ない。いつも今までも、バレーは6人で強い方が強いのだから。

 

 

 

だからこそ青葉城西の全員は再認識した。

相手は 古豪――― 烏野(強敵)である、と。

 

 


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