王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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すみません遅くなりました。
よろしくお願いします。


第60話 全国に向けて

青葉城西vs大岬

 

 

試合の内容は青葉城西が圧倒している、と言っていい。

今もまた、及川が強烈なジャンプサーブでサービスエースを決めていた。

 

青葉城西は 第1セットを先取し、その後の第2セットに入っても勢いは全く衰える事はない。

 

気付けば、第2セットも21-10と大差をつけていた。

 

試合は最後までわからない、マッチポイントを、最後の25点を取るまでわからない、と言うのも確かだが、ここまで点数と実力に差があると、ここからの逆転はほぼ不可能だと言えるだろう。

 

だがしかし、大岬も数居る1回戦を突破してきているチームの1つだ。

 

意地の1つでも2つでも見せてやりたい、と言う気持ちは見ている側にも伝わってくる。誰一人として諦めていないのもわかる。……が、その意地もプライドも全て粉砕するのが及川のサーブだった。

 

 

「ギャーッ! またっ……!!」

「これで及川の4本連続サービスエースか……」

「……………」

 

 

烏野のメンバーは固唾をのんで見守っていた。

 

やはり、この青葉城西で第一に特筆すべきポイントは及川だろう、と結論。

 

「確かに、威力は言うまでもねぇ。コントロールもえげつねぇこと極まりない。……が、あんまビビり過ぎんじゃねぇぞお前ら」

 

選手達の後ろで全体を見ていた烏養が、丸くなってる背中を押すように答えた。

 

「うちにだって強ぇサーブ打つ火神(ヤツ)は居るんだ。パワーは、見た感じじゃ まだ及川が上。だが 精度、コントロールに関しちゃ引けを取ってねぇよ。終盤でも衰えない所もな。……それに加えて、ジャンフロの事も織り交ぜりゃ、性質が悪いのは火神の方だって睨んでる。……てな訳で、強サーブの打ち合いになったりしたら しっかり頼むぞ、火神」

「アス!! ……でも、性質悪いって言われるのはちょっとアレですが……」

「かっかっか。最高の誉め言葉じゃねぇか。外から見てても、取りたくねぇな、って思わすサーブなんざな。おう、影山も同じだ。お前のサーブの威力も充分やべえ。だから、気合い入れてけよ」

「ウス」

 

名指しで呼ばれると流石にむず痒いものがあるのに加えて、言葉じりを取ってしまったので、いつもの声よりやや小さかったりするのは気のせいじゃないだろう。

 

今日の試合疲れがあるから、と言う事にしておこう。

 

影山は、やや火神にライバル視線を向けていたのだが、烏養の言葉を聞いたので返事をかえした。

 

 

「オレも思うぞ、誠也。まぁ、及川のサーブ(今の)が全開だったら、って話になるが。お前のサーブでオレらは練習してんだ。間違いねぇ! つーか、誠也のサーブもぜってーもっと捌ける様になってやるからな」

「っ! アス!」

 

西谷から色々な意味で背を押される火神。

だから、今回はしっかりと返事をした。

 

「あっれ~、やっぱり影山君悔しそうですね~~」

「うっせー、ボゲェ!! 他人の事 言う前に、テメェはテメェのへなちょこサーブちっとはまともにしとけってんだ!!」

「っっ~~!! お、オレはこれから! その……、そう! だ、台木万歳(だいきばんざい)型なんだ!」

「あぁ!? 何言ってんだボゲ! ニホンゴで喋れ!!」

 

レベルの低い争いをする日向と影山。

傍にお父さん役である火神が居ないので、なかなか止まらない様子。あまりに行き過ぎる様なら、一番近くに居る澤村から叱責があると思うが、彼らをとりあえず止めたのは、実は月島。

 

「それを言うなら 【大器晩成(たいきばんせい)】デショ。成ってないTシャツ持ってるのは知ってるケド、成る様に覚えた方が良いんじゃない? 王様も王様でツッコむトコそこじゃないデショ。間違いを指摘しなよ」

「はぐっっ……」

「ぐっ……」

 

痛烈なツッコミを受けたので、日向はとりあえず萎んだ。影山もちょっぴり。

 

大器晩成については、以前(第40話 おまけ より)に文字Tシャツを部員全員分購入した時に、その四字熟語と意味を知った日向。勉強苦手な日向だが、意味だけ(・・)は頑張って覚えていた様だけど、肝心の所をやっぱり【成ってない】と月島に言われてしまって大ダメージ、なのである。

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

話題は青葉城西戦に戻す。

及川のサーブはいまだ健在で、サービスエースこそはさせないものの、返球で精一杯な様だ。

 

 

「ふぐっ……、あのサーブ、なんとかすれば……! いや、してみせる!! オレもサーブで決めたり!?」

「へなちょこサーブにションベンレシーブが」

「うっせっ! だから頑張るんだよっ!!」

 

大岬に少なからず同情はしつつも、日向は及川のサーブを受けてみたい! と目を輝かせ、影山に駄目だしされた。

 

「……オレは及川さんのサーブもそうなんだけど、それ以上に、セッター及川さんが率いる青葉城西にもっと注目したい」

 

楽しそうに見る火神の答えに菅原も頷いた。

 

「だよな。確かにサーブも脅威だけど、セッターとしての及川はオレ達にとって完全に未知の存在だし。あの練習試合の時に……って今更だけど思ったりするなぁ」

 

菅原の言葉を聞いて、烏養が後ろの席から身を乗り出しながら聞く。

 

「そういや、お前ら青城と練習試合したんだっけな。及川は出なかったのか?」

「あ、いえ。2セット目のラストに、ライトの選手と交代でピンチサーバーに入っただけです。あの時は、確か2年生セッターが代わりに出ていたと入畑監督から伺ってます」

「……そうか」

 

烏養は、乗り出した身体を元の席に戻すと、頬杖をつきながら青葉城西を観戦する。

 

以前 練習試合とは言え この青葉城西に勝った、と聞いていたが、やはりこの及川がチームの大黒柱であり、ビックサーバーであり、時にはポイントゲッターでもある。その及川が居ない青葉城西と今の青葉城西は格段に違うのは間違いない。

バレーはチームプレイだ。チームプレイである以上、コートに入る6人が強い方が強いのは明白。優秀な選手との1対1で決まるわけではないのだか。

 

だが、それでも菅原の言う通り、練習試合の時の相手と今の相手。及川が居ない青葉城西を基準に考えるのは不味い。そう思わせるだけのものを持っているのだから。

 

 

「セッターってのはよ。【オーケストラの指揮者】みてぇだと思うんだよ。同じ曲、同じ楽団でも、その【指揮者】が代われば、【音】が変わる。……まるで別モンだ、って言って良いくらいにな」

 

 

23点目の攻防。

それは、大岬が漸く型に嵌った攻撃を出来た後、それを一蹴した場面。 ブロッカーがスパイクを殺し、レシーバ―がそれを拾い上げ、そして及川が攻撃へと指揮する。

最後に、岩泉が渾身の一撃で沈めてみせた。

 

一連の流れが全く淀みがない。

 

それは、決してチャンスボールだけではない。

攻撃されて多少崩れた程度ではその流れは止まらない。

 

 

「大差で勝ってるから余裕と落ち着きはあると思うんですけど、それでも大岬のあの速攻からカウンターまでの流れは、やっぱり圧巻ですね。及川さんのサーブを切れた? って一瞬思ったんですけど……。それに4番の……岩泉さん、迷うとか、一切無いって感じでした」

 

あらかじめ決められていたかの様に滑らかだった。最初から、相手の攻撃(カウンター)がこの場所に来る、と言うのが判っていて、それでいて及川が岩泉に上げる所までもが。

勿論、最初から判っている……などと言うのは、火神と言う唯一の例外を除いたら、ありえないと言える。

それを可能にするのは膨大な練習時間。積み上げてきた練習と、チームへの信頼だ。

何処に攻撃が来ても絶対に上げてくれる。……そして、上がったのなら、絶対にこっちに来たのなら、必ず決める、と言う強い意志。

それらが可能にするのだろう。

 

「……だよな……。なんつーか、全体的に すげー滑らかな連携って思う……」

「及川さんと岩泉さんは小学校のクラブチームから一緒らしいです。……阿吽の呼吸ってヤツです」

 

 

それらは、青葉城西を見ている全員が感じた事だった。

中でも岩泉と及川の連携に関しては 影山が言う通り、チームの中でより長く積み上げてきたモノがある、と言う事だろう。

 

「ふーむ……。練習試合ん時の2年セッターのレベルが低かった、とかじゃないだろうな。この辺は間違いない。青城っつう強豪校に入ってる時点でな。……そんでもって、あの及川ってヤツは、紛れもなく……」

 

烏養は言葉を切ると 火神の方を見ながら言った。

 

「火神と同種だ。及川は【味方を活かす能力】が極めて高い」

「ええ!? い、いや、俺はその……」

 

サーブの時同様、あまりストレートに言われるのはやっぱり気恥ずかしいので、【そんなとんでもない! オレなんてまだまだです!】と言わんばかりに否定しようとする火神だったが、最早言うまでもない事だし、誰もが認めているモノだった。

殆どのメンバーが、うんうん、と頷いていたから。

因みに 【活かす】と言う方面においては 影山も月島もそう思ってる様子である。

 

「謙遜すんなっての。最初、あのオレら町内会チームと一緒にやった時から薄々、んでもって 俺だって今日まで見てきたんだし、解るってなもんだ」

 

かっかっか、と笑う烏養。

武田も、うんうん、と頷く。だって、普通に考えて色々と問題児の多い1年を纏めている事もそうだし、普段の様子を見てみても最早一目瞭然、である。

 

武田の隣に居る、清水も小さく頷き、そして笑っていた。

問題児は、何も1年だけじゃない。……2年でも問題児たちは居る。何だかんだ面白おかしくしながらも、最終的には纏めているんだから。

 

火神は最終的には何だか気恥ずかしくなって黙ってしまう。……これもまた珍しい光景である。

 

「とまぁ、それはそうと。火神とは違う所も当然ある。勿論、及川は3年だ。キャプテンとして【青城】っつーチームを長らく率いてきた【時間】と【実績】、そして仲間達の【信頼】だな。味方の最大値を引き出す。100%を引き出す。チームの全てを熟知してたとしても不思議じゃねぇ」

 

烏養の言葉を聞きながら、改めて青城戦を見た。

応援色も伊達工業のそれに十分匹敵し、場の空気も青葉西城一色。その空気に背を推され、瞬く間に点を稼いでいく。

 

 

「うおおお! 大王様すっげー! せいやを上から見たら、あんな風に見えるのかぁー! せいやにも負けねぇ! 試合もしたい! すぐしたい!!」

「おお! さっきのサーブもやべぇぞ! どんどん強くなっていってるみてぇだ! とってみてぇ! オレ、狙ってくれねぇかなー!」

「ノヤさんもかっけーー! せいやとどっちが強そうですか!?」

「おお! それも確認しねぇとだな!」

 

 

険しい顔をしている者が殆どだったと言うのに、やっぱり普段の自分を崩さないのは 日向と西谷。スーパープレイを見て、カッコイイ選手を見て 眼を輝かせている様子は、子供のソレだ。

頼もしさを覚えるのと同時に、幼さも際立つ。

 

「っ、っっ…!」

 

間近も間近、まさに特等席で2人を見た火神は、頑張って笑いを堪えていたのだが……。

続くもうワンシーン。青葉城西の試合を撮影していたテレビ局の人に

 

【コラ~ そこの中……小学生かな? 少し静かにね?】

 

と言われた場面を目撃し、笑いを堪えるなんて無理だった。

高校生なのにあろう事か、中学生よりも更に下である小学生にまで間違われていた日向&西谷は放心してしまっていた。

心中察しはするが 我慢なんて出来もせず、する気もないかの様に火神も他の皆さんと一緒に盛大に吹き出し、そして 放心状態から解放された西谷と日向に飛び掛かられるのだった。

 

 

 

 

 

その後は順当に青葉城西が勝利。

 

セットカウント2-0

25-14

25-12

 

 

それを見届けた後に、烏野高校は撤収するのだった。

 

 

 

 

 

帰りのバスの中で、メンバーもれなく全員が爆睡。

 

「……さっきまで騒がしかったのがウソみたいですねぇ……」

「ああ。まぁ2試合したし、当然と言えば当然だ。伊達工っていう相手の影響もあるだろうしな。……だが、こっからだぜ先生。明日以降も勝てば日に2試合な上に、更に強くなっていく。毎回気合入れ直さねぇとな」

「ハイ。そうですね。……っと、そろそろ到着です。皆を起こさないと……」

 

 

烏野高校が見えてきたのを確認。

ウインカーを出して校門から学校専用バス駐車スペースに向かう。

 

そして、バスのドアを開け 武田が下りたその時だ。

 

 

「武田せんせーー! お疲れ様でーす! バレー部、テレビに映ってますよーっ!」

 

 

職員室から大きな声が聞こえてくる。バレー部が帰ってきたのが窓から見えたのだろう。武田が、強引な手もそこそこに(主に土下座)、より部活に気合を入れていたのは、先生の中では結構有名になっているからこそ、早く知らせてあげたかった様だ。

 

 

「え? 本当です【テレビ!!!!】っっ!?」

 

 

【テレビ】発言効果は絶大だった。

つい先ほど、テレビ局の人を見た、カメラを見た、と言うのも効果を更に上げるコトになった様だ。爆睡していた筈なのに、速攻で目を見開き、我先にとバスを降りていった。

 

勿論、筆頭は日向、西谷、田中の3人である。

 

職員室に大所帯で乗り込んでしまって、申し訳なさがやや出てしまうのは火神。

 

「火神はテレビ、気にならないの?」

「え?」

 

テレビに映る……ともなれば、日向や西谷、田中の様にテンション上がるのは別に不思議ではない。普通の感性の1つだと言える。勿論、月島の様に冷めた様な者もいるので一括りには出来ない事ではあるが、ちょっと聞いてみたかったので、清水が声をかけた。

 

「はい。気になりませんよ! ……って言ったら嘘になっちゃいます。やっぱり。伊達工に勝てましたし、次はより注目されると思いますし。……でも」

「? でも?」

 

火神は苦笑いをしながら、清水に言った。

 

 

「あまり映ってないんじゃ? って思うんですよね」

 

 

と、火神がそう言った丁度その頃、テレビでは【伊達工業をまさかのストレート勝ちで降し、勝ち上がった 古豪・烏野高校!】

 

とテレビで言う煽りの様な説明が聞こえてきた。

自然と視線がテレビの方に集まるが……、期待に胸を抱かせていた皆が意気消沈してしまう事になるのである。

 

画面いっぱいに映されたのは、伊達工業でなければ烏野高校でもなく―――及川だったから。

 

何で?? って思うのが普通かもしれないが、事実 映っているのは及川ただ1人である。

 

及川の方が圧倒的にネームバリューが高いと言う理由もあるし、次戦で戦うのが青葉城西だから、烏野高校に対する印象を質問されていたのだ。

 

「やっぱりまだまだ、この区画(ブロック)の注目は青城、って事ですよ」

「……みたいね。練習試合の事を知ってれば、多少は……って思うけど」

 

火神が言っていた事が当たった事にやや驚く清水。知ってたが故に、職員室でもやや後ろで全体を見る様に火神は居たのだ。

 

でも……想定外が起きた。

 

 

 

Q:3回戦の相手、烏野高校について。

【いいチームですよね! あのチームには ボクが認めた方の(・・)天才君も居るけど、手は抜かず、全身全霊でぶつかりますよ。ですから、是非とも全力で当たって砕けて(・・・)欲しいですネ!】

 

 

Q:え! 及川さんが言う天才くん、とは!?? 烏野高校の選手の誰ですか!?? 誰に注目してるんですか!??

【それは、明日の試合を見ていただければわかるかと思いますので、こうご期待を。すごく良い子ですから】

 

 

及川のインタビュー内容について、だ。

知っている(・・・・・)内容と大分違うから想定外。

 

勿論、100% 隅から隅まで知っている訳ではないから、ある程度の心構えは出来ていたつもりではあった。ここに生まれてから高校生になるまでの期間があるんだから、そのくらいは当然。

……でも、完全に想定外。

 

「公共放送で一体何を発言してくれてんですか、及川さん(あの人)は ほんともう……」

 

及川ばっかりで、烏野(自分達)が映ってないテレビ内容に茫然・沈黙している空気の中、不意に、思わず口に出してしまったのが火神である。

 

ローカル放送だと言う事は判っているが……、それでも公衆の面前で一体何を……、と。期待させておいて、肩透かしな事になれば大変だ。上げられれば上げられる程……下がる時が果てしなく下がる事が世の常だから。―――無論、負けるつもりは更々ないが。

 

 

「………テレビを使って大々的に宣戦布告、みたいな感じかな。影山以上にライバル視してる感じ?」

「それなら、テレビじゃなく直接言って欲しいです。……い、いや 今のきっと影山の事デショ?? きっとそうですよ!」

「私は そうは思わないけどね」

 

クスクス、と笑う清水。

 

そして、きっと明日には―――今後は大々的に放送されるだろう、と思った。

 

今は げんなりしているこの大型新人君(スーパールーキー君)がきっと揺るがせてくれる、と。天才と言う言葉を好ましいとは思わない様だが、紛れもなく天才に分類されるこの火神と言う子が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、テレビの騒動? が終わってミーティング時間。

 

「さてだ。気を取り直して今日の事だ。……聞け、お前ら。今日の伊達工との一戦はな。【言わばビールの一口目】だ!」

 

あまりにも堂々と言う烏養。

高校生にするたとえ話ではないだろう。……流石の火神も重ねた体感時間、体感年数はゆうに20年を超えているが………20歳は超えた事無いので知らないし、判らない。

 

「あれだ! ビールの一口目の美味さは格別! ……が、そっから先は惰性になっちまうってなもんなんだ。最初だけの特別な美味さって事だな!」

「……烏養君。未成年にもわかるようにお願いします」

 

してやったり! 上手く出来た! って思ってる烏養だったが、武田に諭された。

 

「つまりだ。ウチの武器の中でも1番ビックリするのが【変人速攻】。その初お披露目だったからこそ、相手の意表をつく事が出来た。個人技を含め、続く色んな武器も十分機能して畳みかけるコトが出来た。……が、青城とはお前らは一度戦っているんだ。つまり、ある程度手の内を知られているって事でもある」

 

練習試合とは言え、4強の一角でもある青葉城西がいきなり烏野と練習試合を組んできた。

その条件が影山と火神の2人を出すと言う事。……全てがここに繋がっている。

全て予定通り、想定通り、と言う訳ではないだろうが、あらゆる手を取るのが監督陣。格下相手だとしても、要注意人物は常にマークし対策を練る。そういう面でも、やはり烏野はまだまだ劣っているだろう。……が、それでも負ける訳にはいかない。

 

「それでも、お前たちの攻撃力が高いのは確かだ。絶対負けてない、ってオレは見ている。及川のサーブやあのチーム力を見ても、な。……だが、これまで以上の攻撃力が来る、と言うのは間違いない。良くも悪くも流れを作るのがサーブっていうプレイだからな。―――でだ。今はサーブは基本、セッター以外の全員でとるフォーメーションになってるが、今回は―――」

 

ホワイトボードにマグネットを使いながら 書き込み、説明を続けた。

 

MB(ミドルブロッカー)の日向・月島はサーブレシーブには参加せず、攻撃のみに専念する。んで、凹むんじゃねぇぞ? これは分業だ。守備と攻撃に専念する為のな」

「「ハイ」」

「うっし。んじゃあ、お前らコートに入れ」

【オス!】

 

全員にコート内に入る様に指示。フォーメーションの位置取りを再確認する為だ。

勿論、レギュラー陣のみじゃない。それぞれのポジションの選手全員に頭に叩き込まなければならない。まさに全員一丸、である。格上と戦う為には必要な事だ。

 

「んで、お前ら。今日の青葉城西見て【あ、やべぇ強ぇ】って思ったろ?」

【……………】

「ま、そりゃ当然の感性だ。4強だし、文句なしの優勝候補の1つだからな。………でもよ、例えば伊達工の試合を もし同じように観客席で見てたら、【なんだよあのブロック、マジ怖い、勝てない】って怯んでたって思うぜ? 今日青葉城西を見た時のまんまの感性だ。……でも 戦えた。お前らは勝てた。それもストレートで下したんだ。だから自信を持て。お前らも間違いなく強い。―――明日も勝てる」

 

烏養のエールは皆の頭の中に、心の中に響いてきた。

確かに、青葉城西戦を見て間違いなく臆した自分が居るのを自覚している。

 

練習試合で青葉城西に勝つことが出来た。……だが、それはあくまで練習試合(・・・・)だ。練習は本場で発揮されねばならない様に 10回練習試合で勝てたとしても、本番の試合で勝てなければ意味はないのだ。……練習に意味がない、とはあまり言いたくはない。

全国大会を意識したら、……全国に、春高に行きたいのなら やはり本番で勝たなければ意味はないのだ。

 

だからこそだ。戦う前から気圧される訳にはいかない。

 

 

【っしゃあああ!!】

 

 

だからこそ、怖気を振り払う様に腹の底から声を出した。

 

 

「よっしゃ! んじゃ、軽くフォーメーションの確認するぞ!」

【オース!!】

 

 

明日に向けて 今出来ることを全てする、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

 

「すみませんコーチ」

「ん? おお、火神か。今日はあんま残んなよ? 明日も大変なんだからな。他のメンバーにもそれとなく言っといてくれ」

「あはは……。その辺は大丈夫ですよ。澤村さんが先手打ってくれてましたから。……影山辺りがまだソワソワしてて、オーバーワークになりそうだったので」

 

今日は2試合した上に明日も試合なので、ただのフォーメーションチェックとミーティングだけだったのだが、そのあとクールダウン? の為ボールを触っていた。

ちょっと触ってただけなのだが……、徐々にハードになっていってるので(主に影山と日向)、澤村が止めた形だ。

 

「まぁ……無理も無ぇか。影山と及川に何か確執みてぇのがあるのは、オレにも判るし。その辺は やっぱお前さんは判ってるみたいで安心するってもんだ」

「やぁ……、まぁ 一応1年纏めないと、なので。視野は広くしておかないと、です」

「頼りになるぜ全く。……んで、どうしたんだ? 何かあるのか?」

「あ、はい。さっきチラっと見たんですが、あの町内会チームの森さんが来てくれてたじゃないですか。ひょっとして、受け取ったのって今日の青葉城西の試合の映像ですか?」

「おおそうだ。森の事も覚えてくれてたんだなぁ。火神がもっともっと大物になった時、アイツらの名前出してやれよ? 喜ぶから」

 

OBの1人の森。

他の嶋田や滝ノ上は比較的時間が取りやすいらしく、応援に来てくれてるが、森に関しては大学生。まだまだ取らなければならない単位がある様なので、会ったのは あのたった1日の練習試合だけ。

しっかり覚えてくれてる事が何だか嬉しい烏養だった。

 

「あ、あははは……。まぁ それは置いときまして、青葉城西の試合、オレにもDVDコピーしてもらえないですか、って思いまして」

「なるほどな。……お前さんのその姿勢も正直驚きモンだが、条件がある。……夜更かしなんざすんじゃねーぞ? 寝不足でコンディションが悪い~、なんて洒落にならねぇからな」

「勿論です! ………あの及川さん達が相手なんですから」

 

火神は笑みを浮かべながらそう言う。

何処までも頼りになる男だ、と烏養は思いつつも あまり負担をかけ過ぎる訳にもいかない、とも思っていた。

 

烏野の攻撃の要が、あの影山と日向なのは間違いない。

あのとんでもない速攻は、全国でもそうあるもんじゃない。実際に、長くバレーを見てきた自分だが、アレと同等のモノを見た事が無いからだ。

 

だが、火神もそれは同じ。全てが高密度でオールラウンダーとして攻守の要だ。

 

もし、日向と影山の速攻が無ければ、間違いなく囮としても攻撃としても守備としても超一級。烏野の大きな光となっていた事だろう。

 

そして、明日の試合も期待せずにはいられない。

堕ちたと言われた烏が大空に舞う王者の鷲に届き得る場面を見せてもらえると。

その前に下すべき相手は青葉城西。

 

「んじゃあ、帰りにオレん家に寄ってくれ。コピーしとく。……どーせ、アイツらもオレんトコに来んだろ?」

「みたいですね。中華まんとピザまん、って声が聞こえてます」

「はぁ……、ったく、用意しとくよ」

「宜しくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その後ある程度の片付けが済んで解散しようとしている時だ。

 

「……………」

 

眉間の皴をずっと寄せている影山。

つい先ほどまで、火神と明日の事を話していたのだが……、話が終わり、気を抜けば考え込んでしまう。

 

当然、明日の相手―――及川についてだ。

 

何度も何度も影山の頭の中に現れる及川。

 

【オレはこの――――クソかわいい後輩を公式戦で同じセッターとして正々堂々叩き潰したいんだからさ!】

 

あからさまな宣戦布告。

及川と言う男のことをよく知っている。あの軽口とは裏腹に、その実力の高さもよく知っている。……あの練習試合で、及川が出てくる前に勝とう、としていた影山だったが、よく考えてみれば、あの一戦でもっと及川がセッターとして出場している青葉城西と戦ってみたかった、とも思ってしまう。たら、れば、をいえばきりがないのだが。

 

そんな影山のピリピリムードは他のメンバーにも当然伝わっていた。

澤村や菅原も、主将・副将として何かしらフォローを、と考えていたのだが、北川第一時代の確執や及川との付き合いの長さを考えてみれば、安易に踏み込むのはどうか……と躊躇もしてしまう。

 

それでも、言わなければならない時は言うので、早めに……と思っていた時だ。

すすっ、と前を横切って影山と火神の間に入り込んでいく男が居たのは。

 

 

「影山くんは、ビビりモードですか?? それに10代半ばにして眉間の皴が取れなくなるかもしれねーから、寄せ捲るの止めといた方が良いぞ??」

「ッア゛!?」

 

 

こんな状態の影山にここまで強引に突っかかっていけるメンバーは限られている。言うまでもなく日向だった。

そんな日向を見て、横で笑うのは火神。

 

「あっはは。翔陽に心配されるのって、結構情けないぞ? 影山」

「うぐっ……」

「な、情けないってなんだよっ! せいや!!」

「胸に手を当ててよ~~~~く考えてみるコトだな、翔陽。特に中学時代(・・・・)とか」

「………………………」

 

日向と影山が同時に意気消沈した。

 

 

「わー、日向に王様の2人してノックアウトじゃん」

「うわ……。あんなの出来るのって、火神くらいだよね……」

 

月島は笑っていて、山口は相変わらずの手腕? に舌を巻いていた。

 

 

「ただ、明日は勝つって事だけ考えてれば十分。……そうだろ?」

「!」

 

火神は日向の背を軽くたたき、沈んでた日向を叩き起こした。そして、影山の方にも。

 

「おう! 明日大王様を倒してテレビにも映るんだ!! ……そんでもって、影山。そんな顔してたら損だから、爽やかな顔の練習もしておいたほうが良いぞ?」

「!!? 余計なお世話だ!! ……試合には勝つ。勝たなきゃ先に進めねぇんだからな当然だ!」

「うっしゃああ!!」

 

今度は打って変わって、意気消沈から大盛り上がり。

舵取りも流石で、いいように遊ばれてる様にも見えるが、やっぱり手腕は流石の一言。

 

「頼もしい限りだなぁ」

「………ほんと、頼りになるよね」

「清水にそう言って貰えるなんて、その辺も流石だな……。田中とか西谷が聞いてたら騒がしくなりそうだけど」

「ははっ。……今ばっかりは、騒がしくはならない様だ」

 

明日の事が頭の中に渦巻いているのは何も影山だけではない、と言う事だ。

2年生たちも当然そうだ。青葉城西と言う強敵を相手にする、ともなれば。

 

 

「……明日も生き残るぞ」

「「―――おお」」

「………(がんばれ……)」

 

 

強い決意を胸に、その決意の強さが背中に現れている。

そんな3年の後ろ姿を見て、後ろにいた2年生たちもより力が入った。

 

 

「……行くぜ、3年生と全国。……このメンバーで全国に」

「「「おお」」」

 

 

 

それぞれが、負けられない想いを強く胸に抱き、明日に備えるのだった。


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