王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第54話 伊達工戦①

県予選の会場、広い広い体育館。

そこは まさに伊達工一色と言っていいだろう。

1回戦でも、伊達工色が出ていた、と言っていいが 2回戦はそれ以上だった。

 

強豪であるが故に、部員数も多く ベンチに入る事が出来なかった選手達が一斉に声を上げてエールを送り続ける。

 

【いずれは、自分があの場に立って戦いたい!】

 

と言うそれぞれの想いも秘めつつ、そしてそれ以上に、今年こそは全国へ行く! と言う意気込みがレギュラー関係なしに1つとなり、より声援に力を込められていた。

 

その声援が、戦っている選手達への力にもなっている事だろう。

 

コートに立つ事が出来なかった選手達の分まで、伊達工業と言う大きな存在の中の代表である誇りを胸に、今度こそ 全国への道を切り開いて見せる、と威風堂々とコートへと歩を進めていた。

 

 

あまりの威圧感に、日向は気圧されてしまっていたが、何とか持ち直す。

一緒のコートに居れば、並の選手であれば この雰囲気に呑まれてしまう事だろう。地鳴りのような声援に続き、より一層大きく、強く声を上げる伊達工業レギュラー陣。

 

 

「伊達工————ファイッ!!!」

【オオ゛ィ!!】

 

 

選手達の円陣により、更に場が盛り上げていた。

 

それは選手のみならず、大人でさえ圧倒されそうになる程の圧力。

武田も、思わず後退りしてしまいかねない程に圧されそうになった。生唾を飲み込みながら、場を再確認。

 

 

「何と言うか……、コート全体が、【伊達工色】って感じがしますね……」

「………ああ。(伊達工にストレート負けしてからたった3ヶ月か……、チームは確実に進化していても、2・3年の中にはまだどっかに負けるイメージが居座ってるのかもしれないな)」

 

 

試合前のアップをしながら、烏養は選手達の顔色を確認していく。

 

しっかりと声は出ているものの、何処かぎこちない所もあった。

この圧倒的な物量の差、と言うのもあるからか、どうしても伊達工の方が遥かに大きく見えてしまう。考えまいとしても、嫌でもこの空気に呑まれそうになってしまう。

 

―――考えまい、意識すまい。

 

そう思っている時点で既に呑まれている、はまっているといっていい。

3ヶ月前、……たった3ヶ月前に 敗北を喫したから……でなくても、これは その場の雰囲気だけで呑まれてもなんら不思議ではない。

 

「(……んで、そんな中で コイツ(・・・)だけはとびっきりの笑顔に見えるんだよなぁ。こういう時の雰囲気って、日向よりガキなんじゃ? って思っちまうよ)」

 

 

烏養は、半ば呆れそうになるが、それ以上に頼もしさを感じていた。

選手だけでなく、大人でありコーチでもある自分が、そして武田が呑まれそうな雰囲気を感じ取っているというのに、目の前でレシーブを受けた男、火神は笑顔だった。

いや、実際には そんなあからさまに笑ったりはしていない。……どうにか、どうにか抑えている。そんな印象が頭の中に浮かぶ。

 

そんな様子を見たら、普段は高校生じゃないだろ、と思える程 大人びているというのに、いつも何処でも元気で飛び回ってる日向よりも幼い様に見えてしまうから不思議だ。

 

掛け声も同じく堂々と行っているそんな様子の火神に少なからず影響を受けているんだろう。他の選手達は固さはまだあるものの、表情の方は柔らかくなってきていた。

 

……が、まだ足りない。

 

「(敗北を知る2,3年の全員が火神(コイツ)みたいになれ、なんて土台無理無茶な話だ。……んでもって、幾ら常人離れしてる火神とはいえ、まだ1年。プレイで引っ張るならまだしも、試合前に皆を鼓舞し、この空気を変えるなんて大役は流石に難しいだろうな。……難しい、って言ってもいられねぇ。どうにか空気を変えねぇと―――)」

 

 

その時だ。

烏養がボールを打った瞬間に大きな大きな声が聞こえてきたのは。

 

 

「んローリングッ、サンダァァァァァァ!!」

 

 

ここの空気に全く呑まれていない声。腹の底から湧きだした様な大きな声。

その主は勿論、烏野の守護神、リベロの西谷だ。

声の内容は兎も角、見事な回転レシーブは 烏養からのボールを完璧に捕えて返球。そしてボール籠の中に吸い込まれる様に入っていって、それを横目で見届けた後。

 

 

「アゲインッ!!」

 

 

の最後の声でしめた。

 

 

一瞬、場が静まり返る。……まだまだ伊達工! の声で騒がしい筈なのに、ここの空気が、空間が変わったかの様だった。

 

そして、固まっていた全員が一斉に動き出した。

 

 

「ノヤっさん! ナイスレシーブ!! キレッキレじゃねーか! うん! 技名以外は!」

「ああ!? 技名もキレキレだろうがよ!」

 

 

「スゲースゲーー!! ローリングサンダーすげーかっけぇぇ!! アゲインも教えてえええっ!!」

「翔陽は、アゲインの前に まず、【ローリングサンダー】の方が先じゃない? 前転は上手くなってたケド、肝心のレシーブの方がまだまだじゃん」

「と言うか、前のと何が違うんだ? ………違うんですか??」

 

 

「「また西谷は……、今のは普通に拾えただろ!」」

「こらこらこらこら西谷! また大地に怒られるよ……!」

 

 

「「ぷっすーーーー!!」」

 

 

固まっていた空気は一気に弛緩したのを感じた。

烏養と武田は苦笑いしていた。……自然と、もう大丈夫だ、と思えたからだ。

 

そして、もう大丈夫と言うその考えが間違いない、と断定出来たのは次だ。

 

 

「よっしゃあ! 心配することなんか何も無ぇ! 皆、前だけ見てけよぉ!!」

 

 

盛り上がっていた皆を鎮める様に西谷は強く体育館の床を踏むと、両手を広げて宣言した。

 

 

「背中は、オレが護ってやるぜ」

 

 

一体誰がここまではっきりと言えるだろうか。

人によっては、そんな恥ずかしい事言えない! と思ったり、そこまで自信満々に言えない! と思ったりする事だろう。

 

だが、西谷 夕と言う男は言い切った。そして、言い切るだけの器量も実力も有り、皆を納得させるだけの物を持っている。

 

そんな男が、【背を護る】と言ったのだ。 最早、安心して任す以外は無いだろう。

 

 

―――カッコいい~~っっ!!

 

 

と約数人悶えていたのは当然の話。

正直、此処まで格好いい男がこの世に居るだろうか?? とも思えてしまうからだ。

勿論、そう心から思うのは火神。伊達工相手、と言うのもあるが、それ以上に西谷に熱く熱く、身体が滾っていくのを感じた。

 

 

「い、今のオレも言いたい!!」

「ばーか! 3年はええよ!」

 

 

小さい身体でとてつもない頼もしさ。守備だけではないリベロの重要な仕事の1つは、コートの後ろからの鼓舞だ。

 

例えスパイクを止められても、拾ってくれる。例え強烈なスパイクやサーブを打たれたとしても、拾ってくれる。

 

その安心があるが故に、前を向く選手達は全身全霊で前へと進み続ける事が出来るのだ。

 

 

「っ~~~!! かっこいいス! 西谷先輩っ!!」

「おおっ! そーかそーか! 誠也もそー思うか!? 先輩だから当然だ! がーーっはっはっは! 景気よく勝った後はガリガリ君奢ってやるぞ!」

 

 

散々な駄目だし喰らっていた方が多かった西谷だが、火神からの羨望の眼差しには日向以上に嬉しかったのだろうか、更に気をよくした。

火神自身も、混じりっけなしの100%正直な気持ちだったからこそ、ストレートに伝わったのだろう。

 

「アス!! オレも、西谷先輩に負けないです! オレも拾ってやります! 何本も、何本でも!!」

「お? よっしゃあ! 何本拾えたか勝負するか誠也!」

「アス!!」

 

そして、当然だが守備をするのはリベロだけではない。

全員がコートに立つ以上、自分の守る範囲に打たれた場合、そして自分のボールだと判断した時は、きっちりと拾わなければならないからだ。

 

「オレもオレも!! 勝負する!!」

「レシーブ ドヘタクソの癖に張り合ってんじゃねぇよ。10年はええ」

「うぐっっ!! き、気合の問題なんですぅーー!! てか、10年は流石にヒドイ!!」

 

西谷だけじゃない。

此処まで何度も何度も西谷に負けずとも劣らないレシーブ力を見せてきた火神も居る。

 

この激戦ブロック 第1関門、鬼門を前にして笑顔で2人して競い合う姿を見れば、そして それに続く様に周りに来る1年達を見れば、もう誰が過去を振り返るだろうか。

 

澤村も菅原も……そして東峰も。頼もしい男たちに負けない様に気を入れ直すのだった。

 

 

「なんと! 実に素晴らしいですね! 皆の空気もいつも通りになりました……!」

「おう。……実際すげーよ。こんな引っ張り方もあるんだ、って見せられた気分だ。……本当に優秀なやつらだな」

 

 

単純に考えれば、レシーブ力がチームの中でも極めて高い水準に位置している西谷が、全力で守る! と宣言した。そして、それに負けずとも劣らない程の好レシーブを何度も見せている火神が相乗して乗っかった形だ。

これを心強いと捉えなくてどうするというのだろうか。

 

そして、何よりも……。

 

「(1,2年が気張ってるんだ。……応えなきゃだよな? 3年)」

 

 

澤村、菅原、そして東峰。

3人の表情を見て、烏養はまた笑うのだった。

 

 

「…………(格好いいかどうかは、置いといて)」

 

そして、同じく敗北を知り、皆と悔しい気持ちを共有している清水はと言うと。

西谷の【ローリングサンダー】と見事な決め台詞に関しては、可もなく不可もなく、と言った表情をしていた……が。

 

 

 

「………期待、してるから。………がんばれ」

 

 

 

チームの誰にも聞こえない程の大きさの声援(エール)

大きな声を出して皆を鼓舞する、と言うのは苦手なので、これが今 出来うる精一杯だった。それに、何よりもチームの士気は向上し、最大値を更新し続けている様にも見えるので、十分に思えた。

 

 

そんな時だ。

 

 

本当に偶然。偶然、火神が振り返った。丁度、日向を抑える形、ではあるが 丁度振り返って、日向を抑えつつ……、清水と目が合った。

清水は、火神から目を逸らせずに、じっと 見つめて、こくんっ、と頷く。

火神も、清水が言わんとしている事、精一杯のエールを送ってくれている事、……皆の背をしっかりと押してくれている事を理解して。

 

清水への返答として、ぐっ、と拳を握り締めて見せるのだった。

 

 

 

 

 

そして―――ピー―ッ! と言う笛の音と共に 公式WU終了を告げた。

 

そして 試合開始直前。

 

 

集合の号令がかかり、―――そして、コートエンドラインに整列する。

 

 

【お願いしァーーース!!!】

 

 

―――第2回戦。 烏野高校 VS 伊達工業高校の試合が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いか! お前ら! 確かにあの烏野10番の速攻には驚いた! だが、それはあの身長だったからだ! あのバネはすさまじいが、やっている事は普通の速攻と変わらん。見た目に惑わされるなよ! それと、1回戦でお前らも見たと思うが、特に警戒すべき点は、あの11番の強烈なサーブだ! ストレートで勝った試合とはいえ、序盤から終盤にかけて、全く精度・威力共に衰えてないあのサーブは脅威の一言! ……だが、お前らは常に上を目指して、全国を目指して練習をしてきた! ブロックもスパイクも、そしてレシーブもだ! ルーキー1人に戦況を覆されんように練習を思い出し、そして何より! プライドを持ってあげてやれ! 徹底的に拾い、そして徹底的に止めてやれ!!」

【オス!!】

 

 

伊達工業高校 監督 追分(おいわけ)

 

彼は当初、この区画(ブロック)で特に警戒すべきチームは、青葉城西だと思ってきていた。勿論、油断をするつもりは毛頭なかったが、それでも 4強の1角である青葉城西と比べてしまえば、どうしても霞んでしまうというものだ。それに加えて、つい最近この烏野高校にはストレート勝ちをしているのも記憶に新しく、拍車をかけていた。

 

だが、今はそんな気は全くない。

 

1回戦での戦いぶりを目に焼き付けた時からだ。

 

あの10番と11番が特に目立っていた。目が眩む程の光を、異彩な光を放っていた。

それを見た瞬間から、情報には無い10番と11番のプレイを目に焼き付けてきた。

それは、選手達も同じだろう。慢心・油断してる者等この場には居ない事が、それぞれの表情を見たらよく判るから。

 

 

【鉄壁の名に相応しい試合をする。スパイカーに何もさせない】

 

 

絶対の自信だけは揺るがさず、それでいて警戒心だけは怠らず。選手達をコートへと送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、烏野サイド。

コーチの烏養の声もどんどん大きく、荒くなっていく。

 

 

「――1回戦見た感じだと、1発目は強烈なサーブが来る筈だ!」

 

 

そして、1回戦でベンチ入りスタートをし、目の前の試合に注視しつつも、誰よりも伊達工に勝ちたい気持ちが強いかもしれない菅原が特に隣の試合を見ていて付け加えた。

 

「サーブで崩して、確実にブロックで仕留めて出鼻を挫く、っていうのが伊達工の立ち上がりのパターンっぽいのは、3月の時と変わってなかった!」

「まずは1本目だ! レシーブしっかり上げてけよ!」

【アス!!】

 

菅原の説明を聞いて、烏養の言葉に全員が頷く。

 

 

「確かに、向こうの壁は強固だ。でも、それを抜けさえすれば、勝機は見える! 音駒みたいに、なんでもかんでもレシーブで拾っちまう完成された守備力を持つチームなんてそうそう居ないからな。……で、わかってんな? 影山」

「……ハイ」

「よっしゃ。……んじゃあ………!」

 

 

烏養は大きく大きく息を吸い込んだ後、思いっきり吐き出す。

 

 

「【鉄壁】を崩してこい!!」

「烏野ファイ!!」

【オオオッスッ!!】

 

 

 

 

選手紹介(スターティングオーダー)

 

 

 

烏野高校

 

WS(ウィングスパイカー)3年 澤村

WS(ウィングスパイカー) 3年 東峰

WS(ウィングスパイカー) 1年 火神

MB(ミドルブロッカー) 1年 日向

MB(ミドルブロッカー) 1年 月島

Li(リベロ) 2年 西谷

S(セッター) 1年 影山

 

伊達工業高校。

 

WS(ウィングスパイカー)3年 笹谷

WS(ウィングスパイカー) 2年 二口

WS(ウィングスパイカー) 2年 小原

MB(ミドルブロッカー) 3年 鎌崎

MB(ミドルブロッカー) 2年 青根

Li(リベロ) 1年 作並

S(セッター) 3年 茂庭

 

 

 

 

 

 

 

フォーメーションとして前衛に日向と火神、そして影山。後衛に澤村、東峰、そして月島(西谷)を配置した烏野。

1回戦の時とは少しローテを変えてきた様だった。

 

エースである東峰が後衛からのスタートであり、強烈なサーブを持つ火神も最初に配置していない。初っ端強烈サーブが来ると踏んでいた伊達工業だったが、少しばかり当てが外れた様だ。……それでも、ローテーションを回していけば、関係はなくなってくるが。

 

 

そして、伊達工業のサーブからスタート。

 

 

試合前に警戒していた通り1番鎌崎の強烈なサーブが、澤村目掛けて襲い掛かってくる―――が、青葉城西の及川のサーブ、そして影山や火神のサーブを見て、受け続け、練習を重ねてきた今。

 

「大地さん!!」

「オレだ!! ッシ!!」

 

それらを超えるサーブは今の所、体感はしていない。

それらの経験が活きているからこそ、澤村は何一つ慌てず、冷静にボールを処理した。

 

 

「オッシ!!」

「「「ナイスレシーブ!」」」

 

 

コートの内外で歓声が上がる。

理想的なAパスが、影山に返球されたからだ。殆ど動かずに上げる事が出来る返球。……そして、影山自身のトスのスキルも合わさった事により、攻め方も多彩。より強力なセットが組める。

 

 

 

「(なるほど……。綺麗なフォームだ。トスがどこに上がるのか、容易に読めない。……だが)」

 

10番、11番……日向や火神ばかりに注視していた追分だったが、一目みただけで、セッター影山の技量の高さがわかった。

それでも、心配は無かった。

 

 

影山はライトサイドに、日向が居る側にトスを上げた。

 

直前で漸く上げる場所が分かった伊達工業サイド。

日向にマークしていた二口がブロックを構え、青根は振り切る事が出来たか? 1対1、即ちスパイカーに極めて有利な状況に持ち込めたか? と思えたその時だった。

 

空中に居る日向の視界の中に、大きな大きな塊? が突如入ってきた。……迫ってきた、圧迫してきた、色々な表現が頭の中に過るが、答えは1枚だった筈のブロックが2枚になった、と言う事だ。

大きく迫る手は、思わず打つのを躊躇わせる程だったが。

 

「!! ふ、ふぐぅっ!!」

 

日向はボールを打ち切る刹那、コースを変えた。

腕と手首を使っただけの手打ちスパイクになってしまったため、殆どフェイントだったが、どうにか相手のコートに落とす事は出来た。

 

 

「ナイスコース翔陽。今の咄嗟によく躱せたな?」

「――――うん。……イキナリ出てきてビックリした」

「……はは。翔陽に対して相手が思ってる様な事だな、それ」

 

 

日向は、火神と手を合わせながらも、あの突然視界に入ってきた青根のブロックには正直度胆を抜かれた気分だった。

 

日向の素早さも、相手からすれば ちょろちょろと動き回るので、場合によっては突然視界の中に飛び込んできた、様に錯覚させる事だろう。

 

だが今のブロック―――青根のそれは、日向のとは少し違う。

ただ最短にして最小の動き、無駄のない最善の動きで迫ってくる。そして何よりも早くただでは通さないという圧力が半端では無かった。

 

 

 

「一歩がデカい。加えてあの反応速度……。成程、これが鉄壁か」

 

 

火神は、それを見た瞬間 零れる笑みを止める事が出来なかった。

 

あの時———伊達工業と対面した時から、ずっと体感してみたいと思っていた。心から楽しみにしていた。

 

前回の敗北を胸に雪辱を果たす! と意気込みを強く出していた2,3年生たちには少々申し訳なくも思うが、それでも仕様が無かった。

 

それとは 言うまでも無く、伊達工の鉄壁と呼ばれるブロック。

 

伊達工業の鉄壁のブロックは、漫画的表現がかなり満載に出ていた。鉄壁が、鋼鉄の扉がそのままネットを挟んだ先に現れて、1人、2人と増えるごとに、その強く巨大な鋼鉄の扉は一切の隙間なく完全に締まってしまう。何処にも打てなくなってしまう。

 

……実際に、そんな反則みたいな壁は出てくる訳はないが、少なくとも 鉄壁と呼ばれる所以は一度だけではあるが、しっかりと体感する事が出来た。

壁が実際にある訳ではない。ただ……大きく、速く、そして何よりもボールを必ず止めるという強い意思が、彼らのブロックには備わっているのだ。

 

それが、鉄壁を対戦相手の脳裏に叩き込まれてしまい、最後には何も出来ず呑まれてしまう事だろう。

 

 

 

 

「……っし。空中でなんとか避けれるな」

「様子見の一本、って感じだけどな」

「……ああ。判ってる。向こうもコッチと同じって訳だ」

 

影山も自分のセットが読まれた訳ではない事、そして日向が相手のブロックを躱して打ち、点を決めれた事に一先ず及第点を付けた。

そして、火神が【様子見】と言った言葉の意味をしっかりと頭に入れる。

 

打つスペースがなくなり、日向の様に、そこを(・・・)打つしかない状況にされてしまえば、後は容易に止められてしまうだろう。打つ場所を読む駆け引き、相手の手の位置や視線から、それらを読んで そして壁の微調整を行う。ただ、動きが早くて高いだけでは、鉄壁とは呼ばれないだろう。

相手との駆け引きも間違いなく鋭く上手いだろう事はあの青根の雰囲気からでも十分わかった。

 

 

その青根のブロックに関しては、外に居る烏養達にも十分に伝わってきた。

 

「はぁぁ……、向こうのブロック一歩遅れたと思ったんですけどねぇ……。あれが火神君も試合前に言っていた【リードブロック】ですか……。トスを見てから動いて跳ぶという」

「おう。今までの対戦校は基本的に【コミットブロック】つう、【トスをある程度予測して跳ぶ】ブロックが多かった。火神が時折使う【ゲスブロック】とはまた違うブロックだな」

 

烏養は、改めて青根を見る。

眉なしが、更に迫力を高めている様だ。高校生とは思えない。………と言うやや失礼な感想はさておき。

 

「伊達工は、先生も聞いた通り。徹底したリードブロックだ。トスがどこに上がるか見てから跳ぶって事は、囮にはなかなか引っかかってくれないつーこと。その分、1歩出遅れるって事だが、あの7番……、それを一気に詰めてきやがる。踏み出す一歩もデケェ上に反応も速ぇ」

「そ、それは恐いですね……」

 

ブロッカーとボールの動きとでは、圧倒的にボールの方が動くのが早いのは言うまでも無いだろう。だからこそ、トスを見てからボールを追いかけても、当然置いて行かれる事が多いと思うし、何より追いついても、ガムシャラに跳んだだけのブロックになり、それはスパイカーにとって打ちやすいブロックになる。……が、青根はしっかりと隙間なく、面積も広くブロックを揃える。あの速さを見れば、生半可なボールだったら全て止められてしまいそうに思えてしまうだろう。

 

 

 

 

 

そして、烏野サーブから再開。

 

 

影山が最初のサーブだ。

初っ端のサーブだから、思いっきりいけ! と言うのは影山には無用の産物。一番最初のサーブだろうが、どれだけ追い詰められた状況だろうが、関係なく強サーブを打ってのけるからだ。

 

ボールを高く上げ、そして踏み込み―――イメージ通りの所作で跳躍。そしてフルスイング。

放たれた弾丸サーブの威力は申し分なし―――だが、打たれた場所に構えていたのはリベロの作並だ。

 

 

「ッ!!! チッ!!(リベロんトコに打っちまった!!)」

 

 

如何に強烈なサーブを打てたとしても、守備を専門とするリベロの位置に打てば、勝算は低くなるだろう。それが、強豪と呼ばれるチーム相手であれば尚更だ。

 

………烏野には、好んでリベロにサーブを打つ男が居るが……、それはまた別の意味で打っているので、影山のとはまた違った。

 

 

 

「んん。威力に関しちゃ、影山も全然負けてない……が、精度が明らかに火神君に負けてるな」

「ですね。本人めっちゃ悔しそうにしてます。アレ、多分相手じゃなく、火神の方を見てますよ」

 

入畑と溝口は上から見て率直な感想を言い合う。

あれだけの強烈なサーブを打つ事自体、称賛に値する事ではある、が、言った通り精度、コントロールがまだまだ乏しいのが影山だ。

 

「お手本に出来て、且つ最高のライバルともいえる相手が直ぐ傍に居るんだ。……コントロールが身に付くのも時間の問題な気がしてきた」

「……恐いスね、それは」

「ああ……。実にな」

 

影山の強烈なサーブにコントロールが身に付いた時、烏野のサーブ力は全国クラスになるだろうな、とも思えるのだった。

 

 

 

 

 

そして、試合は続く。

 

 

影山の打ったサーブをセッターにAパスで返球し、それをセンターからの速攻(クイック)で攻撃してくる伊達工。

それに反応し、ブロックに跳ぶ火神と日向だったが、流石の日向も反応は出来ても、助走が出来ないブロックのジャンプに関しては、跳躍時の到達点が低くなってしまうので、そのままブロックの穴になってしまった。

 

そこに狙いを定め、打ち抜かれた。このまま得点か!? と思われたのだが、それを見事に拾ってのけるのは西谷。

 

【うおっっ!? 今の拾った!?】

【すげーー反応!!】

 

どんな攻撃より、どんな強烈な攻撃が決まった時より、歓声が上がるのはスーパーレシーブが上がった時だ。

西谷のレシーブはまさにそれ。ブロックに触れさせずに打ったボールを見事に上げて見せ、場を騒然とさせた。

 

「チッ! みじけぇ……!! スマン、カバー頼む! 誠也!!」

「オーライ!」

 

火神は即座に反応し、落下地点へと入って跳躍。

例え、セッターまでに返らなくとも、例えセッター自身がレシーブをしてしまったとしても、それを補填する。

火神は視野を広く、広くもった。この状況で誰を使うか、と。レフト側の澤村が控えている。日向もブロックを跳んだあとだというのに、直ぐにも体勢を整え、十分に助走距離を確保できている。

そして、火神が選択したのは―――。

 

 

「バック!!」

 

 

センターで構えている烏野のエース 東峰だった。

誰よりも声が大きかった事、そして 並々ならぬオーラがその姿に見て取れた事。

それらが火神の中の迷う余地をなくし、東峰に高く上げた。

 

 

「東峰さん!」

 

 

そして、バックアタックはこれまでの試合ででも一度も見せていない。前回の時も確か打ってなかった筈だった。

火神のバックアタックを見て、そして 烏養にも攻撃の、戦術の幅向上にと勧められ、練習を重ねた攻撃だ。

 

だが、この攻撃法は 相手にも守るだけの猶予を与えてしまう事になる。

真ん中を打ち抜こうとするが故に、相手も3枚きっちりと揃えてブロックを跳ぶ事が出来る。

 

 

3枚揃った伊達工業のブロックは、まさに鉄壁。

 

 

東峰の渾身のバックアタックは、見事に止められた……が。

 

「んんんっッ!!!」

 

トスをした火神ただ1人、そのブロックで弾かれたボールに対して反応を見せた。歯を食いしばり、思い切り飛び込み、手の甲でボールを上へとあげた。

 

 

【うおおおお!!!】

【やべぇ! 今のマジヤベェ!!】

【デカいのに、レシーブメチャクチャうめぇ!!?】

 

 

沸き起こる大歓声。

丁度、ボールは後方へと弾き飛んでいったが、まだ範囲内だ。

 

「影山!! 頼む!!」

「ッッ!!」

 

フォローの声とほぼ同時に、影山も反応を見せ、大きくアンダーで上げた。

 

「澤村さん! ラスト!!」

「おう!! (チャンスボールにしてたまるか!)」

 

 

体勢は不安定気味だった……が、跳躍し 澤村はほぼ振り向きざまにボールを打ち放った。

 

ここで獲る1点の重みは通常の点よりも遥かにデカい。ここが流れを持ってくる場面だ、と判断したからだ。

相手が止めた! と思ったボールを上げてみせ、尚且つ点を決めたともなれば、鉄壁に少なからず、【動揺】と言う名のヒビを入れる事が出来る。

 

あの超反応を見せた火神には脱帽ものだったが、最後は主将として。……前回の悔しい借りを返したい者の1人として。此処で必ず点を獲る。

 

ボールに込めた想いの強さ、そして あのブロックに反応した事により、伊達工業に動揺と言う名のヒビに付け込む事が出来た事。

 

それらが合わさった事により、澤村が強引に狙って打った変則スパイクは、エンドラインギリギリの見事なコースに突き刺さり、点を獲る事が出来た。

 

 

カウント2-0。

 

大歓声が上がった瞬間だ。

 

 

「大地さぁぁぁぁん!!!」

「大地ナイスっっっ!!!」

 

コートの外からも大歓声。

 

「火神!! このやろう、ナイスフォローだ!! どうやって取った!? どうやってあれに反応できたってんだよ、このやろう!! 未来でも見えてるってのかよこのやろう!!」

「おおおおお! すごい、すごいです!! ナイス!!」

 

試合は始まったばかりの序盤だというのに、まるでセットを取ったのか? と思える程の盛り上がりだった。烏養と武田は思わずスタンディングオベーション。立ち上がって拍手を送った。

 

「澤村さん! ナイスコースです!」

「スゲーー! 凄い角度から打ったスパイクかっけぇ!!」

「おう! ……無我夢中ってああいう時の事を言うんだろうな。あそこは無理に打たず、取りにくい場所に返すだけっていう選択肢もあったんだが……、寧ろミスする可能性を考えたら そっちの方が良い筈だったんだが、西谷や火神のすげーの見せられて、オレも力が入っちゃったよ」

 

澤村は、にっ、と笑いながらそう言っていた。

西谷や火神も【アス!】と返事を返した。

 

凄いプレイ、ファインプレイ、スーパープレイと言うのは、チームの士気も上げる効果もある。力が入り過ぎるのはよろしくは無いが、今のプレイは心と体が見事に一致したが故に、出せたのだろう、と澤村自身は推察をしていた。もう一度やれ、と言われたら……、正直首を横に振るかもしれないから。

 

「誠也もナイス!! スゲーぞ!!」

「アス! まずは一本! これからですよ。バンバン拾いますんで!」

「おう! オレも負けねぇ!! って事で、旭さん!! ビビんないでくださいね! こっからもバンバン拾い捲ります! 旭さんはバンバン打っちゃってください! 勿論、大地さん、翔陽も!」

 

 

あの伊達工の速攻を見事に拾った西谷。

そして、東峰の強烈なスパイクをドシャットされ、高速で跳ね返ってくるボールを見事に上げて見せた火神。

 

スーパーファインプレイを見せた男たち同士で にっ! と笑いながらそう言われたら、こちらも力を入れずにはいられない。

 

 

「おう! お前らスゲェよ。ほんと。……オレも、負けないからな。次は決める!」

 

 

東峰は、自分には心強い味方が居る事を胸に、次は決める! と更に意気込みを見せるのだった。

 

 

 

 




正直……、あの東峰さんのバックアタックに対しての伊達工の3枚ブロック・ドシャットをフォローしてのけるのは無理無茶だと思ってます。苦笑
ブロックされて、何処にボールが来るのかわかってない限り……(笑)

まだ2点しか取れてないのに結構な文字数になってしまったので1話分として投稿しました。次回からはもうちょっとテンポよく頑張ろうと思います。

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