王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第5話 北川第一戦②

バレーボールとは、1人でするものじゃない。

それは解ってる。でも、それでも常々思う。何度だって考えてしまう。

 

 

 

――……レシーブもトスもスパイクも、全部俺1人でやれればいい。俺ならとれる。俺ならあげられる。俺なら打てる。

 

――勝ちたいのなら、もっと早く動け、もっと高く跳べ、もっと正確にとれ。

 

 

ずっと思っていた。負けそうなとき、負けてしまったときに。

 

だが、バレーボールっていう競技はボールに触れるのは一瞬で、1人が続けて触るのが駄目だって事は。解ってるんだ。1人じゃ絶対に勝てないと言うことが。

 

「なんなんだ……!? お前は」

 

影山は、あの強烈なサーブを受けて、いやもしかしたら試合前から、得体の知れない何かが、興奮し、高揚する何かが体から湧いて出るのが止められなかった。

 

確かに、あの1番の跳躍も凄い。動きも素早く、運動神経抜群と呼べるものをもっている。が、それだけだ。バレーボールの評価をするなら、素人、初心者。

他の者達も運動神経だけで、学校の体育の延長程度だけだ。

-

 

そんな中で、そんなチームで、どうしてだろうか…?

 

 

「しょうちゃん!!」

「よしっ……!!」

 

 

どうして、こうも点を、とられてしまうのだろうか。影山は、ただただあの男を、火神を睨み付けるように見ていた。

 

真剣な顔はしているが、時には笑顔で、時には怒るような仕草で、それでいてボールを繋いでいく。

 

 

今も、火神のサーブをうまくレシーブできず相手にチャンスボールを与えてしまい、打たれた。

日向1人だけだったら、ブロックで対応は出来る。だが、あの火神を無視する事など出来るわけがない。どうしても出遅れてしまう。だから……。

 

「ワンタッチ!!」

「触った! フォローだ!」

 

完全に叩き落とすことなど出来ない。素早い日向の方が早く打つ。ブロックが完成する前に打たれ、ワンタッチは取れたが、大きく飛ばされてしまった。

 

そして、そのボールは落ちた。

 

「おい! 最後まで追えよ! 楽してんじゃねえ!!」

「わ、悪い。でも、あれは無理だ」

「無理だと!? そんなもん落ちるまでわからねえじゃねえか!!」

 

 

いつも以上に、影山は勝ちたいと思った。

 

たった1人に。負けてたまるか、と。

 

影山には、火神が理想を体現している様にも見えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめのタイムアウトは、リードをしている北川第一だった。試合前、これを一体誰が予想できたと言うだろうか。

 

 

 

「翔陽、さっきのよく打ち切ったな? それにゆきもナイストス」

「へへへ! せいやのサーブはもっとすげーよ! それにイズミンもめちゃ打ちやすかった!」

「へへ。せいちゃんがしっかり上げてくれたおかげだって。向こうのセッターみたいに上手く動けないし、トスも出来ないし」

 

ハイタッチを交わしながら集まる雪ヶ丘チーム。

 

「いや、向こうのセッターに合わせることなんてしなくていい。ゆきはゆきが出来ることを全力で。って、最初も言ったろ?」

 

火神が拳を笑顔で向けた。少し恥ずかしがる素振りをみせつつも、最後は同じく笑って拳を合わせて答えた。

 

 

「おーい、翔陽? すげー! すげー!はもういいから、せっかくのタイムなんだから 色々と指示してくれって」

 

スパイクを決めることが出来たことの興奮と、初めてのブレイク、火神のサーブと……、色々と有りすぎてまた小動物のように動き回ってる。

 

一応、これでもチームキャプテンです。

 

と苦笑いしながら指差す関向。

 

「まったくだ。しっかりしてくれよキャプテン」

「う、解ってるよ! よーし、ここから逆転するぞ皆っ!!」

「それ、最後の締めとかじゃん。違うやつ、もっと具体的なやつ、よろしくどーぞ」

「うーむ。よし、せいっち! 頼むぞ!」

「大したキャプテン指示だこと」

 

 

呼んでたアダ名を突然かえたりと、調子がいい様子な日向。だが、今は、少なくとも今はそれでいいと火神は判断。これは、自分自身が導きだした結論ではなく、後付けにはなるが、日向は少なくとも今は纏め役には向いてない。

 

日向は、プレイで魅せ、そのバレーボールに対する姿勢で魅せる。

 

 

――日向翔陽はそれらで皆を惹き付ける。皆を鼓舞する。

 

 

苦しい、止まってしまいたい、そう思った所で踏み出す一歩。そして、苦しいときこそ、心が折れそうな時にこその笑顔。

 

それが如何に難しいことかは、厳しく辛い練習を続けてきた火神にはよくわかっていた。ただ、バレーボールが好きなだけじゃ到底たどり着けない。色んな挫折を経て、そして幸運もあって、辿り着くことが出来る場所。

 

「兎も角。次のサーブも任せろ。なんとか出来る所まではやるから。リベロの鈴木と川島、森はもう半歩、下がって守ってほしい。翔陽とゆきのブロックも機能してるし、抜かれるより吹き飛ばされる方がきっと多い。だから、怖がらずに手は出してくれ。抜かれたら、それはもう仕方ない。コージのキックレシーブに期待しよう」

 

簡単にでは、今自分で考えられる有力な手を説明。1年生の3人ももう固さは無い様だ。さらに言うなら、目をキラキラと輝かせている。優勝候補相手にここまでできていることに興奮してる様だ。凄い跳躍を魅せた日向に、何より火神にも改めて憧れの視線を向けていた。

泉と関向、特に関向は異議ありな視線だった。

 

「いやいや、期待されても困るわ! あんなの何回もできてたら今頃サッカー部でエースストライカーで、引く手数多でウハウハじゃん!」

「う、うーん……ブロックってめちゃ痛いんだよね……」

「そんなこと言うなよ~! 頑張ろうぜイズミン! コージー! それに1年の皆も! よっしゃ! 行こうぜ! 円陣組んで組んで」

 

肩を組み、勢いとあわせて皆で大きな声を。

 

最初は日向や火神以外は、正直勝負にすらならないと思っていた。相手の体格、それに技術。勝負になるのは体力?くらいの、ものだと。

だが、今は誰1人そんな事を考えるものはいない。

 

 

 

「勝つぞ! 雪中~ファイっ!!」

【おおおおおお!!!】

 

 

気合いも十分。これでまだまだ戦える!と思ってたそのとき。

 

「翔陽なんで涙目?」

「うわっ、どしたのしょうちゃん!?」

 

なぜか、気合いが入り、燃える場面で目をうるうるさせていたのだ。火神は一発で理解した。

 

「これ、やってみたかったんだ~~、みたいな感じだろ? でも泣くタイミングじゃないと思うぞ?」

「泣いてねーよっ! でも! チームって良いよな!」

「オーケーオーケーわかったわかった。最後にとっとこう。ほれ、喜びのヤツで」

 

 

そして、皆の背を火神が押す形でコートに戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よりあの2番だ。あのジャンサー強打にはこの試合で慣れるしかない」

 

北川第一のタイムアウト間の指示の内容はほとんど火神対策だった。日向の跳躍にも驚かされ、突如視界に飛び込んでくるブロックも十分すぎる程驚異ではあるが、何よりも火神。強烈なサーブもそうだが、ほぼ初心者で構成されているであろうチームを支えているのは紛れもなく火神だ。

その対策を。

 

「デディケート・シフトで2番に圧力をかける。1番に対しては徹底的にリードブロックだ。おそらく向こうのセッターに速攻はない。冷静に対処しろ」

【はい!!!】

 

監督の指示を耳には入れてはいるが、何処か上の空なのは影山だった。

王様と呼ばれる所以、その悪癖こそ少なくはなっていないが、いつもより口数は少なかった。

 

「……影山。何度も、何度でも言うぞ。個の技術より、スパイカーを活かす事を考えろ。あの2番に負けたくないのならな」

「っ……わかってます!」

 

監督は、ここで少し賭けに出ることにした。影山の様子の変化は明らかに向こうの火神、そして少なからず、日向の事を意識しての為だとわかっていた。

個人では勝てないと悟り、チームプレイに集中して欲しいと。

 

影山に対しての不満は積もりに積もっているだろうが、それでも、勝ちたいという気持ちは皆同じなのだから。

 

火神は皆の最大を常に発揮できるように立ち回っている。そのなかで、一番自由に泳げているのが日向だ。

 

「(あの2番。影山とは違った意味でバケモノだ。長年子供らをみてきたが、末恐ろしい。……相当な実力が、経験があってこその芸当だ。技術もそうだがその統率力。あんな選手がなんの頭角も現さず、埋もれていたとでも言うのか?)」

 

雪ヶ丘中学は間違いなくここ数年は公式戦に出てない。部員不足で消滅した学校だったはずだ。それに、部員がいたときも成績は強豪とは呼べない弱小校だった。

 

そんな学校に、突然変異、化学反応、色々な単語が浮かぶが、そんな感覚だ。

 

でなければ、いきなりあんな選手が現れると思えない。

 

「今のリードは忘れろ。全力でいけ。決して相手を格下と思うな」

 

そう言うしかなかった。

 

 

影山は理解出来なかった訳ではない。でも、それ以上に思ってしまうのだ。

 

 

 

「お前は、なんなんだ……? ひとりで、たったひとりで俺たちを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「16-12か。(まだ、2本。びっくりはしないが慣れてないとは思う。……が、ここで更に揺さぶる)」

 

続く火神のサーブ。

更に、おもしろくハラハラする試合にしてやる、と火神は睨んでいる(様に見える)影山を見据えた。

 

 

 

「いったれ火神!」

「せいちゃんナイッサー」

「必殺サーブかませー! それとあとで教えてーー!」

「「「火神さんナイッサー」」」

 

約1人、願望が入ってる様子。火神は苦笑いしつつ手をあげた。

 

こうも期待されると頑張らない訳にはいかないだろう。

 

火神は改めて思うが、こんな気分は久しくなかった。

春高の時、全員が非常にレベルが高かった。エースは他にいたし、信頼はされても頼られることは少なかったから。

 

 

 

「さあ、行くぞ」

 

 

 

 

エンドラインからゆっくり離れる。

 

そして、今回の歩数は………4歩。

 

勿論、彼を意識している。……火神は彼らに会うのも楽しみにしているのかもしれない。

 

そして、そんな些細な違いを北川第一が、その監督がわかるはずもない。

サーブトスで初めて理解する。そして、それは決して入れてくるだけのサーブではないと言うことが。

 

トスは両手。緩やかなボールは 火神のやや右斜め前に上がる。バックスイングを行わずにジャンプ。

美しい姿勢を崩さず、腕をふる。そして決してフルスイングすることなく途中で止めるイメージ。

 

ボールに回転を伝えない。それでいて、少しでも勢いをつける。

 

 

 

秘密兵器その2発動である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャンフロ……!!ここで!?」

 

思わず、北川第一の監督が立ち上がった。

あの強烈なサーブがまだ脳裏に刻まれてるはず。そして、見た感じでは完璧だった。まだ、2、3回は続けても何ら問題ない。と言うより、他のサーブがあるとは思えなかった。あれだけの完成度の高いサーブが、もう1つもあるなど……。

 

 

 

 

 

 

 

動揺しているのは監督のみだ。

他の選手は敵味方問わず拍子抜けしていたのが多かった。

先程の高速サーブとは比べ物にならない程、威力に差があったから。

 

……そのサーブの凶悪さは、受けた者しかわからない。

 

 

「アウト!!」

 

1人がボールの軌道から、エンドラインを越えると判断し、両手をあげる。

普通に飛ぶ軌道であれば、確かにボール1球分は外に出ているだろう。

 

だが、このサーブは違う。ボールは綺麗な放物線ではない。この軌道は変化する。エンドラインギリギリに落ちる。勿論、イン。

 

3点目の得点。2本目のノータッチエース。

 

 

 

放心したのは今回は一瞬。

 

 

 

【うおおおおおお!!!!】

 

 

 

2回目の火神にたいする大歓声。

 

 

 

 

「メチャクチャ変化した」

「アウト……だった筈なのに」

 

ぎりっ、と悔しい表情を見せる。

そんなメンバーに恫喝したりは今回に限りは影山はしなかった。

ただ、悔しそうに手を握りしめていた。

 

 

 

「ジャンフロ、無回転サーブ。アレはオーバーで捕まえるんだ。位置はAパスじゃなくていい。兎に角上げろ! だが、ジャンプサーブがあることも忘れるな! 出すぎると撃ち抜かれるぞ!」

 

 

 

監督の指示が檄の様に飛ぶが……、正直無茶な要求だと思った。直前まで読ませない程の互いの完成度。その二種のサーブを操る強者。

 

「バケモノめ……」

 

 

依然3点はリードしている。だが、そんな点差は最早誰もあるとは考えられ無かったのだった。

 

 

烏野スタメン落ちアンケート

  • まだまだレギュラーは早い 火神
  • チームの大黒柱 澤村
  • リードブロック月島
  • 強メンタル田中
  • サムライ兄ちゃん東峰

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