王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第47話 音駒戦⑤

 

「はぁー……、あの9番に初球を取らせる、って作戦はハマったと思ったんですが、見事に返されてしまいましたね。……いやはや、ほんっと器用貧乏、じゃなく器用裕福ですね。彼は」

「ふぅむ……」

 

直井は 今しがたの攻撃を見て 最早驚きはもう無く、半ば呆れかえる思いを持っていた。

 

言った通りの策だ。セッターである影山を狙ってレシーブさせて、正セッター不在でミス等を誘発させる。攻撃力は高くとも、そこまでの繋ぎが不十分であれば十分にあり得る………つもりだったのだが、見事に火神がセッターのようにあっさりとあげてしまっていた。

 

それも、これまでに何度かあったオープンを狙った2段トスではなく、正セッターと見まごう如きなクイックトス。

 

改めて思う。何度でも思う。多芸は無芸、それは全く当てはまらない。

 

「此処からは、ツーセッター戦術で来ると思いますか? あの9番の攻撃力と器用さも申し分なしですし」

「む……、いや 今のはそういうの(・・・・・)じゃない、な」

「え?」

 

猫又は頬杖を突き、猫背のままで静かに火神を見ていた。

その視線は細く……そして鋭い。

 

「勿論、彼がセッターをするとなると、戦術の幅が今ので広がったのは間違いないだろう。……だが、まだ完璧に合わせれるか? と問われれば、まだ付け焼刃な部分もありそうだ。……10番との連携は見事だったがな」

「あの11番がですか? 付け焼刃…… あんまり連想しにくい言葉ですね」

「ああ。無論、今までの9番セットが凄過ぎて 普通のセットじゃ物足りねぇって思ってるだけかもしれねぇけど」

 

猫又は、ほっほ、と笑いながら もう一度火神を見た。

 

「あのツーセッターの戦術。その狙いはおそらく――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音駒側も、見事に日向に抜かれた事、そして影山を封じた戦術があっさり返された事に少なからず動揺が生まれていた。

 

その後のブレイクポイントを3度も奪われて今日最大の4点差がついた所を見て、猫又はタイムアウトを指示。

猫又は、まずは落ち着いて上げること、繋ぐ事を指示。後は孤爪を芯に添え、選手間でのディスカッション。

 

 

「くっそーー! 最初のヤツは止めれたヤツですっ!! くやしいーー!」

 

勝負の流れ、前半の流れは間違いなく 火神・日向の攻撃だろう。あれから波に乗り そのままブレイクポイントを立て続けに許してしまった。

勿論、それは言い訳に過ぎないので、一度落ち着いてきっちり次に向かう事が一番だ。

 

そして 犬岡は憤慨しているものの。それでも日向への賞賛の意思が強かった。

 

あの最初の日向との攻防。……犬岡は 最後の最後まで、しっかりと視ているからだ。追いかけて、追いかけて 日向の正面まで、とはいかないが 体格で勝る分 そのリーチの長さで追いかければ間に合う所まで。

 

だが、日向の視線ははっきりとブロックを躱そうとしているのが判った。そして 案の定見事に打ち抜かれてしまった。

 

片手で面積が少ないとは言え、先ほどのはこれまでに何度かあったタイミングが合わなくて殆どフェイントな手打ちスパイクになっていたのだが、今のは完璧に打ち抜かれた。

 

「ふー、最初のアレだな。とにかく 9番セッターを牽制した、って思っても油断大敵ってことだ」

 

黒尾は 流れ出る汗を拭いつつ メンバーに改めて告げる。影山は紛れもないバケモノで、超精密、色々と人間離れしている、……が、それを牽制した所でやっぱり恐ろしい程器用な火神が居る事を忘れてはいけない、と。サーブやレシーブに目が奪われがちだが、トスもかなり綺麗だったから。

 

黒尾の言葉を聞いて、全員が頷いた。疲れが見えてきているが、それでも全く折れてはいない。

夜久に至っては僅かに頬を緩ませ、笑っていた。

 

そんな時、今の一連の流れをしっかりと観察していた孤爪が声を掛ける。

 

 

「……うん。それに今、翔陽は さっきまでしてた 単純にブロックがいない所に真っ先に突っ込んでく……って事をしてなかったよね。……ずっと、動き回って 型に嵌らない攻撃をしてた翔陽だったけど、……誠也からのセットは普通のAクイックだった。………今まで出来てなかった普通の攻撃を翔陽は出来るようになった事と、誠也はあの9番セッター程の無茶なトスワークは出来ないって思っていい、と思う……」

 

 

孤爪の見解を聞いて、ややげんなりしてしまうのはトラだった。

普通の攻撃かあの超速攻の変人攻撃か、考えただけでも頭が痛くなりそうな案件だらけだったからだ。

 

「あの10番を犬岡が 追いかけまわさない方がまだ良いって事か? 一発決まっただけで、もう完璧にできる、とは流石に思わねーけど、アイツ、さっき犬岡のブロックを躱して打ったぜ?」

 

日向を追いかけていたメリットとしては、1人が集中する事で、周りは釣られない様にできる事。更に言えば1人であっても止めれる可能性が高い攻撃だったからこそだ。

マークせず そのまま様々な攻撃パターンを織り交ぜられてしまうと日向の囮としての本領も発揮してしまう。

 

リードされ続けていた第1セットの前半がそれだった。

 

囮として極めて優秀、一級品な状態で日向を無視していたからこそ、前半は他のスパイカーたちの得点率も高かった。

今は日向を追いかけた所で、マンツーマンであれば 躱されて点を取られる可能性が高くなってしまっているのだ。犬岡は憤慨し、次こそは! と意気込んでいるが、明らかにスパイカー側が有利な勝負なので仕方ない。

 

「チビちゃんが普通に攻めてくるってんなら、デディケート(これ)を変える必要もあるか? 研磨。これまでのリードブロック主体に戻すか?」

「ん……。ちょっと待って」

 

孤爪は少しだけ考えた。

確かに犬岡のマンツーマンのブロックは 躱されつつあるのは間違いない。片手のブロックであれば、スパイカーからすれば躱しやすい事極まりないのも事実。

だが……。

 

「確かに上手く躱せるようになっていってるけど………、翔陽のあの速攻を無視するのは危ない……と思う。とりあえず、犬岡には止めれないにしても頑張ってもらってレシーブで何とか上げる、と言う方が勝算ある……かな。ブロックを対処する打ち方は兎も角、まだ、レシーブのいない所を狙って打つ(・・・・・・・・・・)事は、多分……出来ないと思うから」

 

孤爪の一言でレシーバー陣は頷いた。

ボールを上げろ、と言う指示は音駒にとっては十八番も同然だ。

 

「ぅよしっ。んじゃ、後はあの11番セッターのパターンも増えてくる可能性が高いから、そっちも注意だな。研磨が言う通りあの無茶速い速攻を11番も使えたら、もう あちゃー、だが 今んとこそれは無さそうだし。とりあえず1本返していこう」

「ん………」

「うん? どうした? 研磨」

 

黒尾がそろそろシメの言葉を~としていた時、孤爪が少し首を横に振った。

11番セッターのパターンも増えてくる、と言う点。そこに見解の相違があったから。

 

 

「向こうの正セッターがレシーブした時、とか乱れた時、仕方ない場面はあったとしても、そんなに誠也のセッターパターンは増えない……と思う」

 

 

孤爪の言葉を聞いて、全員が首を傾げた。

 

「彼がセッターのパターンも結構有効な手だって敵ながら判るけど、研磨は違うのか?」

「海と同じ。つか、烏野さん。攻め攻めばかりせんと、ちっとは落ち着いてほしいって思う今日この頃」

「因縁あったっつっても、俺らは今日あったばっかだろ? んなもん相手に求めんなよ」

 

孤爪のやり取りを横で聞いていた猫又はにやっ、と笑った。

どうやら、自分が感じた事を……恐らく孤爪も感じた様だと思ったからだ。

そして、その考えが間違えでは無かったと直ぐに判明した。

 

 

 

「たぶん、誠也は レベル上げ(・・・・・)をしたんだと思う。誠也自身じゃなくて、9番(パーティーメンバー)に」

【??】

 

 

 

孤爪がゲームの事(恐らく)をたまにごっちゃにして言葉に出す事が多いのは音駒の皆は よく知っている。

 

□ 外周する時に、オープンワールド系のゲームの景色が見える。

体力(HP) 精神力(MP)全部0です。

□ 強いボスとやりたいからレベル上げは嫌いじゃない。

 

等々……。

 

だから、今回もいつものが出ただけ、とは思ったんだが……なかなか言っている意味、根幹部分までは理解しきれていないのだった。

だが、直ぐに改めて孤爪は説明し直す。

 

 

火神は、影山にトスを見せた(・・・)のだと。

孤爪の言う通り 日向と影山の両方のレベルアップを図ろうとした、と言う事を。

 

そして、その成果は着実に表れていると思われる。影山程の超が付くバケモノなセッターなら、一度手本となるようなプレイを見れば、直ぐにでも修正・再現してしまうだろう。

 

 

孤爪の言葉を聞いて、【んな馬鹿な……】と思いたかった音駒側だが、色々と無茶苦茶な面があまりにも多いので、その言葉は飲み込む。

 

猫又も孤爪の考えと同じようなので、無言の笑顔で頷いて、肝に銘じるよう送り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイムアウト、烏野側。

第2セットの滑り出しは理想的だった、と皆が皆を称賛し合う烏野……だったが、やっぱりと言うか、当たり前、と言うか 影山の機嫌がナナメ気味。月島がまた煽ったからと言うワケもあるが。

 

「とりあえず、オレが知ってる範囲内ではあるけど、オレが今まで上げてた時に翔陽が一番打ちやすそうにしてたのはあの辺だ~って事だけ頭ん中にいれてれば良いから。てなワケで、オレは影山からセッター取る気なんてぜんっぜん無いから、そろそろ機嫌直せ」

「誰も機嫌なんざ悪くなってねぇよ!! つーか、上手いヤツがいる事でいちいち機嫌悪くなんざなるか!」

「ええ~、全然見えないよ~~? 王様の地位奪われちゃって下克上とか面白いね」

「……オレがあげるとき、月島君にもトス回数増やしちゃおうか??? もっと今以上に動く??」

 

煽り攻撃が延々とON になったままの月島。第1セットでへばりまくってたのにも関わらず、影山が弱みを見せれば途端に元気になるその神経にはある意味賞賛だが、そろそろフォローが大変なのでいい加減にして欲しい、と言う火神の念を込めた発言が、他の澤村達にも届き得た。

 

【色んな所で月島に頼っちゃうよ?】

 

って感じの視線。

月島も大概負けず嫌いなので、上げられたらちゃんと攻撃するが、それをブロックされたりレシーブされるのは腹が立つ。

だからといって、そんな場面が沢山来るのは嫌、と言う事で、色々と冷静になった所で 疲れがまたぶり返してきたので、そそくさと離れ気味になっていった。

 

「よし。火神セッターも良い具合にハマったじゃねぇか。やった事は普通の速攻だが、向こうにとっちゃ十分奇襲になったな! こっからは、【影山に取らせても火神が補填する】って刷り込められたなら最高だな」

 

落ち着いた所で烏養が講評。

火神のセッター(本格的な)は、今日初めての試みであり、点に繋がる事も出来た。一番初めのプレイと言う事もあって、烏養の言う通りに音駒側にすり込めた可能性は高いだろう、と判断している。

こうなれば、チャンスボール等の返球で、影山を狙われた場合でも、僅かにでも動揺せずにプレイが出来る。動揺した事で 慌てて攻撃、に繋がり失敗したり単調になってしまったりするような負の連鎖を知らずの内に最初から克服できた、と言う事になるだろうから。

 

 

「だが、だからと言って油断できる相手でも、して良い相手でもねぇ。常に相手に見られてるってことを頭に入れておけ。いいな?」

【アス!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

澤村の円陣の元、再びコートに戻っていく両チーム。

 

 

その先は一進一退。

 

ブレイクポイントを返され、それでも食い下がったが、再び同点に追いつかれてのシーソーゲーム。第1セットの展開をそのまま見せられているかの様だった。

 

 

「……一筋縄ではいかない、ですね。日向君の攻撃も実に見事に決まってます。最初の連続得点で波に乗れたと思ったのですが……、気付いたうちには……」

「アレが、チーム力、地力の強さ、或いは総合力の差ってヤツだろうな。僅かに音駒が上だ。正直、出来たばっかのちぐはぐ烏野が此処までやれるとは思ってなかった。チームのレベルで言えばウチは出来たばっかだし、レベル1。そんで相手は10や20は上だってな。此処まで出来てりゃ及第点どころじゃねぇよ。……それでも、まだ相手が僅かに上だ。……音駒は兎に角昔からレシーブ力が半端ねぇ。極論すりゃ バレーはボールを落とさなきゃ負けねえからな。ずっと取り続けりゃ負ける事がねぇんだ。……前に火神が【完成された守備ほど怖いものはない】って言ってたが、まさに今 あいつらが味わってる所だろうな」

「完成された守備……ですか?」

「ああ」

 

烏養は、ゲームを再び見た。

 

澤村がレシーブをし、影山からエースの東峰へのセットアップ。

得点率の高い攻撃パターンの1つだ。東峰のパワーもチームNo.1。生半可なブロックでは弾き飛ばされてしまうだろう。

そんな強力な東峰からのスパイクも、……拾う。

 

月島のブロック。チームNo.1の高身長に加えて、恐らく最高到達点も同じくNo.1だろう。加えて頭脳勝負も決して負けてない。体力はまだまだ置いておいて、だが……。

兎も角、そんな月島のコースを見切った上でのブロック。見事にドシャットをしたかに思えば、これまた音駒側の見事なブロックフォロー。

 

火神や影山の強力なサーブも回数を重ねるごとに返球精度が増していっている。

 

ボールが落ちない。

 

 

「……体感しているだろうぜ。上がっていく守備力に加えて、繰り返し拾われるっていうストレス。攻撃が好きだってのがよーくわかる烏野(うちら)側からすりゃ、半端ねぇストレスだろうよ。それに加えて次は疲労だ。さっきの第1セットは 下手すりゃ数試合分の価値があるだろうし、互いのテンションが上がりに上がってて忘れ気味になってるだろうが、その分確実に疲労は溜まっていってるんだ。……ふとした時にそれは思い返しちまうと致命傷になりかねない。……攻撃は威力は勿論、精度をも求められ続ける。じゃなきゃ拾われるからな。必要以上に音駒側の守備を意識し続けりゃ……」

 

烏養が言葉を切ったその時、東峰のスパイクのタイミングだった。

チャンスボールからのオープントス。

 

だが、狙う場所が無い。コートには6人しかいないのに、まるで全て埋め尽くされてる様な感覚。全員が満遍なく守備の範囲が広いからだ。

 

そして 全員が視線を鋭くさせ、どんなボールでも見逃すまい、と構えている。オーラの様なモノが東峰には見えた気がした。空中に浮遊している時間はほんの刹那の時間だと言うのに、体感時間は必要以上に存在している事だろう。

だが、それは永遠に続くワケではない。最後には必ず打たなければならない。狙いに狙って東峰の打ったストレート。……無情にも、そのボールはコート内に落ちる事はなかった。

 

 

「――――ミス(・・)が起こる。加えてレシーブだけじゃなくブロックだって甘くない。此処まで来たなら、【守備の完成系】と言えるだろうな」

 

 

選手程ではないが、烏養も額に流れる汗を止められないでいた。手に汗握る展開とはこの事だろう、と思う。

前半あったリードはもうその貯金をとうに使い果たし、今は相手リードの24-23のマッチポイントだ。

 

 

 

 

「…………(正直、此処まで疲労する様な試合は、今まで一度も無かった、って思う。キツイ練習は何度も見てきたけど、試合は私が知る限りじゃ今日が初めて。……でも、凄い)」

 

スコアノートに記録を続ける清水。

誰がどう点を取ったか、どんな展開だったか、可能な範囲ではあるが克明に記録を続けていた。

記録を続けるが故に感じる事はある。

 

試合が始まる前と今。

選手達の力量が、スキルが、向上し続けていっているのではないか? と。

 

確かに気の持ちよう1つで変わる事だってあるのは知っている。中学の陸上の時も 気分の善し悪しひとつで大きく結果に反映する事だって何度か見てきた。

 

でも、これは……言うならばやりすぎ、行き過ぎ、下手したら異常、とまで言われてしまうのではないか、と思ってしまう。

 

これまで、清水はマネージャーをやってきて尽力してきたと自負している。コートに立てるわけでもなければ、ボールの扱いはしてもバレーを直接する事だって無いに等しい。

 

それでも、今日ほど手に汗を感じ、胸が熱くなる想いは初めてかもしれない。

 

そんな摩訶不思議とも言っていい舞台の中心で、大きなカラスと小さなカラスが楽しそうに遊んでいる様に見えた。

 

 

「かーー、アイツは 【完成された守備程怖いものはない】っつった癖に、怖がるどころか、めっちゃ楽しんでるじゃねぇか!!! ナイスブロックだ火神!!」

「アス!!」

 

 

火神のブロックが決まった。

音駒側のキャプテン、黒尾の一人時間差を止めたのだ。

 

ここぞと言う場面のとっておきだったのは、傍から見てよく判る。止められた黒尾は勿論の事、あまり、疲れ以外を表情に出ない感じがするセッター孤爪も、止められて明らかに表情が歪んでいるから。

 

楽しそうにガッツポーズをしている火神。

それに皆が集まる。小さなカラス……日向を筆頭に。

捻くれてるカラスたちも渋々と。

 

 

そして、コート内外問わず、たくさん待ち望んでいた(・・・・・・・)カラスたちも。

 

もう二度と――落ちた(・・・)、と言わせたくないカラスたちも。

 

 

光たちに呼応されるように集っていくのが見える。

 

 

「凄いね。……切っ掛けは、君たち。……いや、私は()だって思う。そんな感じがする」

 

 

清水はふっと頬が緩むのを抑えられないでいた。

自然と、暫くの間 大きなカラスに目が奪われていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かぁぁぁ!! すげー可愛くねぇな!? 烏野1年火神誠也君!!! かーー! 色々拾ってくるし、止めてくるし、ウチに欲しかったって思っちまうよなぁ! くわわーっ!」

「……クロ。一人時間差(さっきの)止められたからって、キャラ崩壊しないようにしてね。切り替えるんデショ?」

「ちょっとくらい いーじゃん! それに研磨だって今日は珍しく悔しがってるじゃん。寧ろ今だってそうじゃんっ!」

「…………………………別に」

「全然見えねぇよ! どーせ、頭んなかじゃ、チートズルい! とか思ってんデショ! …………まさに、私が今そんな心境です」

 

24-24に戻した所で、音駒側の最後のタイムアウトを実施していた。

ここぞ、と言った瞬間まで待ちに待って使った黒尾と孤爪の連携攻撃。その 一人時間差(とっておき)をまさかの初見で止めて見せたのは火神。

疲れが出てきて、本能でもう飛び付いてしまいたい筈なのに、極めて冷静で、そして理想的なリードブロックだ。

 

「そして、あれが、最後に笑うリード・ブロックです!」

「あの火神直々に教えてもらったなぁ? 上級生君?」

「ハァ~~~?? うっさいですよ? やっくん。やっくんこそ、火神誠也君にやられたの根に思ってんじゃないの~? 1年生相手に大人気ないよぉ? 上級生君??」

「うるせぇ! アスタキサンチン!!」

「ドコサヘキサエン酸だっつってんだろ!!」

 

「うんうん。雰囲気は上々」

「……そースか?」

「下手に意気消沈ってなるよりは全然良いよ。こういう接戦をものにするには、やっぱり最後は精神力がモノを言うから。山本もその辺は大丈夫かな?」

「も、もちろんっス海さん!! ……特にあっちのボーズ頭には負けらんねぇっスから」

 

体力0につき、撃沈された月島に変わって、実は田中が入ったりしてる。

 

最初であった時から、同族嫌悪? を感じてたトラにとって、負けられない相手だった。

無論、フル出場のトラより、体力面では圧倒的に田中が有利なので、何度かブロックを飛ばされたり、ブロックされたりしたが、そこは音駒の守備が得点を防いでくれてるので、どうにかもっている。

 

何より、フルだろうが途中出場だろうが、そんなのは言い訳にはしたくない。負けたくない相手、負けられないと思わせる相手が居る。それだけでトラには十分だった。

 

 

 

今 音駒は今1セット目を取っている。

これを取れば勝ち。

仮に取られたとしても(体力的にアレだけど……)第3セットもある。まだ余裕があるのは音駒な筈、だが……、この第2セットで仕留めておかなければならない、と言う気配を背後に凄く感じる。

 

 

空から追いかけてくるカラスは、大地を高低差関係なく自在に泳ぐ様に動きまわるネコでも掴みかねない。そして、何より逃げの思考は排除している。全員が集中し、虎視眈々と隙を狙っているカラスを見据えた。

 

 

これは、練習は練習でも【ゴミ捨て場の決戦】の練習だ。

 

 

例え練習であったとしても、ゴミ捨て場を奪われる(負ける)訳にはいかなかった。

 

猫又はそんな選手達を笑顔で送り出すのだった。

 

【引き続き しっかり繋ぎなさい】

 

そう一言を添えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしよし、今のは火神を褒めてやれ。ありゃ、外で見てたオレも引っかかった」

「アス! ……皆さん?? とりあえず一斉に頭撫でに来ないでくださいよ」

 

烏養が指名したベストプレイヤー? として火神の名が挙がった。火神は勢いよく良い返事を返すと同時に、何だか色々と気配を感じられたので先手を打って牽制する。

うぇぇい! と声が聞こえてきたから。

 

……牽制しても、もみくちゃにはされてしまったが。

 

「レシーバー陣の粘りも良い。だから 日向。ビビらず打っていけよ」

「アス!!」

 

日向も大きく返事を返す。

影山との普通の速攻。火神と日向のコンビネーションを見た時から完璧に目に焼き付け、極めて正確にボールを供給し続けている。日向の目には火神からのトスである、と錯覚してしまう程にだ。

 

火神との信頼関係と比べたら、無に等しい影山だが、殊 バレーにおいての信頼は決して負けていない。影山ならボールは必ず持ってくるんだと。

 

 

烏養は、それからも色々と出来る範囲での細かな指示を伝えた。守備位置や狙いどころ等、外から見て判る所を。

そして最後に一言。

 

「有り体に言うぞ。細々言ったがこっからは精神面での勝負だ。お前らが今持ってるモン、もれなく全部ぶつけてこい! パワー、スピード、全部ガンガンでだ!」

 

烏養の言葉を、突然の大声を聞いてびくんっ! と身体が反応する。

中でも一番反応したのは田中だ。

 

「力でねじ伏せろって事だなぁ……!! うっしゃぁぁ、ごらぁぁぁ!!」

 

まだまだ体力が有り余ってる故に、雄たけびを上げる。

普段なら、誰とは言わないが【田中うるさい】と一蹴する事だろうが、今回は誰も止めたりはしない。そういう(・・・・)場面だからだろう。

 

「うぇ……なんかソレ、悪役っぽくないスか……?」

「ははははっ、 確かに! ネコとカラスじゃ……ねぇ?」

 

黒一色なカラスと多種多様な色を持つネコ。……動物で比べるワケではないが、何となく連想されるのは仕方ない事だろう。烏養も分かっていた様に笑っていった。

 

 

 

「いいじゃねぇか! 悪役!! 言う通り、カラスっつーのも何か悪役っぽいだろ?? まだまだ粗削り、未完成! 上等じゃねぇか!! そこを力業で何とかする! 今、お前らが出来る最高の武器だ。どんだけ拾われても拾われても、攻めて攻めて攻めまくって来い!」

【アス!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ、はぁ……、はぁ………」

 

月島は、あの火神のリードブロックを目に焼き付けていた。

終盤、疲れてきた場面、それでも冷静にボールのみを追いかける姿勢。決して個人技狙いだけのブロックではなく、味方を活かすブロックも時折見せている。

MBとして負けられないのと同時に、目で見て学ぼうとしていた……が、直ぐに首を横に振る。

 

「(ナニマジになっちゃってんだよ。どんだけやったって、……後で(・・)、辛くなるだけだろ)」

 

ぎりっ、と歯を食いしばる月島。

頭ではそう思っていても……、この試合最後まで付いていけなかった事に対して腹立たしさがどうしても拭えない。

 

「ツッキー大丈夫?? はいポカリ」

「……………」

 

山口からのドリンクを無言で受け取ると、暫く月島は自問自答を繰り返し続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは、烏養の言う通り力とスピード、何よりガムシャラに攻め続けた。

何処を打っても上げられる、そんなストレスは忘れてただ只管に攻め続ける烏野。

対して、音駒も負けてはいない。何度でも拾う、と言わんばかりにボールを上げ続ける。繋ぎ続ける。

火神のサーブで弾き出せた、と思えば皆が飛び付き、カバーし、返球してくる。

決まった! と思っても実はまだ続いている、が連発してくる。

最後の1点はどちらも譲らない。25、26、27………と第1セットを彷彿させるような、繰り返すような展開が続いた。

 

 

「例え不格好でも攻撃の形にできなくても、ボールを繋いでいる限りは負けはないんだ」

 

 

そんな選手達を見ながら、猫又は口ずさんだ。

それは音駒の信念でもある。何度でも何度でもボールを拾ってやろうと言う強い信念。

勿論、猫又はそれをよく知っている。何度も教え続けてきたから。それこそが音駒の血だ。

だからこそ、猫又は笑顔を見せた。

 

 

「―――どっちも言われるまでもねぇ、って顔してるな」

 

 

途切れた筈だった烏野からの縁が再び引き寄せられたこの試合。高揚し、興奮し、何より心地良い。

繋ぎ続ける選手達を目に焼き付け続ける。

 

不意に―――烏野総合運動公園の球技場で行っている練習試合な筈なのに、……沢山の観客たちが見えてきた気がした。そして数多の感情が渦巻くあの場所……、ピカピカでキラキラのでっかい体育館。

 

そう――全国の舞台が見えた気がした。

 

 

 

 

 

繋ぎに繋いで、攻めに攻めて、どちらも譲らない一進一退の攻防だった……が、それは決して永遠に勝敗がつかないわけではない。バレーにおいて引き分けと言う決着のつき方は無いのだから。

 

 

……何処か、いつまでも続いてほしいとさえ思っていた試合は、とうとう終わりを迎えたのだった。

 


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