王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第4話 北川第一戦①

北川第一 VS 雪ヶ丘

 

 

優勝候補の初戦ということもあり、他の試合よりも観客の人数が多かった。

 

そして、そのなかには、高校生も混じってきている。

 

未来の対戦相手になるかもしれない相手を見るために。

つまり、ほとんどの者達の目当ては北川第一なのだ。

 

 

「清水」

「……」

「清水?」

「………」

「おーい、清水!」

「っ……なに?」

「ほら、ちゃんと蓋締めれてないって。お茶零れそうだぞ」

「あっ… ごめん。ありがと」

 

 

烏野高校もそのうちのひとつだった。

だが、その1人である清水は違った。

北川第一ではなく、雪ヶ丘の1人の選手に注目していた。

 

「なんか、珍しいな。清水が、ここまで集中して見てるなんて」

「そんな潔子さんも素敵っス!!」

「……菅原。あの子、知ってる? 雪ヶ丘の2番」

「ガン無視最高に興奮するっス!! 」

「田中、ちょっと前を塞がないでくれって。ええっと……雪ヶ丘の2番?」

 

菅原は、清水に興奮して身を乗り出した田中を押し戻すと、改めて眼下のコートを見た。雪ヶ丘は無名のチーム。情報も殆どなく、噂ではバレー部ができたばかりだとか。

だから、正直 北川第一の肩慣らし程度にしか考えてなく、注目も殆どしてなかった。……が、珍しくもいつも真面目に仕事をこなすマネージャーの清水が、声が耳に入らない程集中して見てるので、菅原が改めて見てみたのだ。

 

「んーっと、おれは知らないな」

「……そう」

「どうしたんだ? 清水」

「潔子さんに無礼でも働いたんスか!? おれ、シメてきましょうか??」

「中学生にシメるとかいうなよな、田中。大人気なさすぎんべ」

 

やいのやいの、と賑やかになる烏野のメンバー。

 

清水は、もう一度だけ雪ヶ丘の2番……火神の方を見た。

 

何度か見て、考えてみるがやはり身に覚えはなかった。

 

 

 

「あの子、私のこと知ってる風だったから。バレー関係で会ったことがあるのか確認してみたかっただけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始のホイッスル。

互いに礼をし、始まるバレーボール。

この緊張感、高揚、興奮。何ものにも代えることが出来ない。

 

あの時から、今日まで。試合に出ることが出来なかった時間は、日向程ではないかもしれないが、火神もあった。

燃え尽きた、と思っていたかもしれないが、それは誤りだった。

 

「……久しぶりだ」

 

自然と笑みが溢れる。相手は中学生ではあるが最強の一角。今の自分に、自分達に不足はあるはずもない。

 

 

 

ーーさあ、楽しもう。いや、楽しむだけじゃなく、全力で自分達の出来る最高のバレーボールをやろう。

 

 

 

 

 

「っ……」

 

チリッ、と火花に似た何かを、まるで得体のしれない何かを感じ取ったのは影山だけだった。

他のメンバーは、雪ヶ丘を完全に舐めきっており、大した警戒をすることもなかった。

 

「おい。サーブは向こうの2番のヤツ以外を狙え」

「お、おう。(王様がセット以外で、それも初っぱなから口出すの珍しいな。……そこまで警戒する相手か? まあ、2番は身長はあるみたいだけど)」

 

サーブ権を得ているのは北川第一。

 

影山は中でも、先程のやり取りもあって、更には今の得体のしれない威圧感のようなものが決定打となって火神を最大限に警戒していた。

 

あそこに打てば間違いなく拾われるだろう。まだ、リベロを狙った方がマシだ。

 

そこからどう攻撃をしてくるのかは、データが無いのでわからないから、修正が必要になってくるが。

 

 

 

 

ホイッスルと同時に打たれたサーブは勢いよく関向の方へ。

 

 

「(俺かよ!?)」

「コージー!!」

 

 

バレーは完全な初心者ではあるが、運動神経は折り紙つき。何とか、拙いレシーブではあるが取ることに成功する。腕が痛いと悶えそうになったが、気合いで我慢。

 

「よっしゃ!! 上がった!! イズミン」

「よーし(最初はしょうちゃんに上げるっ!) しょうちゃん!!」

 

 

泉は作戦通りに、日向へとトスをあげた。

 

これは火神が提案したことで、余裕があれば最初は日向へと決めていたのだ。

理由は、火神は身長があることからマークされる可能性が高いこと、そして 日向の様な小柄なプレイヤーに上げるのは少なからず奇襲にもなるし、――なにより。

 

 

――俺は、翔べる! この脚で、どんな高い壁も飛び越えてみせる!

 

 

常人離れした日向の跳躍は、間違いなく初見では驚く筈だ。

 

日向は、ただただ緩やかな放物線を描き自分に上がってくるボールに合わせて持ち得る最高の跳躍をみせた。

小さな体が勢いよく宙に舞うと同時に、体育館内がどよめいた。

 

小さな体が大きく宙を飛んだのだから。

 

「(ちっ、コイツ、ハッタリじゃなかったか)ブロック、クロスを締めろ」

「!」

 

一瞬呆けてしまっていたが、影山のお陰でなんとか反応することに成功、そして追い付いた。

日向の跳躍には驚いたが、ただのオープントス。速攻ではない。タイミングを見誤らなければ問題ない。

 

それでも影山が声かけをしてなかったら、ほぼ間違いなくブロックは追い付かなかっただろう。

 

 

 

日向はネットの向こう側目掛けて、フルスイングする……が、そのスパイクはブロックに阻まれてしまった。

 

大きな大きな高い壁は、自分の全てを防がれてしまう、と錯覚しかけたが直ぐに振り払うことができた。

 

「っっ、と!」

 

良い位置で構えていた為、火神がブロックフォローする事に成功。それが見えたから。

 

「(あれに反応した!? レシーブ上手えな、コイツ……!)」

 

確実にブロックポイントを得たと思っていた自分の詰めの甘さを戒める影山。

 

 

 

 

 

ただ、ボールは生きているが後方へと飛び、1年コンビがお見合いする結果となって、コートに落下する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっっ!! あの2番アレとんのかよ! あの身体ですげえ早い反応だな」

「あっちの1番もすげえ跳んだ。寄せ集めの感じがするチームっぽいけどあいつらすげえよ。俺、とれたかわかんないし」

 

 

たった1度のプレイで体育館が沸く。それを魅せられ、思わず声を上げるのは烏野のメンバー。

 

 

1年生たちは責任ゆえにか、オーバー気味に謝っていて、それを2番と1番、が中心に宥めて立て直している。繋ぐのがバレーボール。誰か1人のせいなんてあり得ない、と言葉を強めながら。

 

 

 

 

 

 

 

その後は、ビハインドが続くが、何とか食らい付いていった。

 

北川第一のゲームプランは変わらない。徹底的に2番をかわし、他を攻めている。小細工を弄せず、正面から叩き潰してこそが格上だと思うが、それを、させないなにかがあるのだろう。

 

 

「……キャプテンはあの1番だが、上手くチームを纏めてるのはあの2番だな。要所要所は確実に押さえつつ、それでいて自由にやらせることで、素人っぽいメンバーたちを最大限に活かしてる。あれは一朝一夕で出来ることじゃないぞ。スポ少か何かで培ってきたのか……」

 

食い入るように見つめてる彼の名は澤村大地。

彼は烏野のキャプテンだ。

後の対戦相手になるかもしれない優勝候補の北川第一、それも有名な影山を見にきたつもり……だったのだが、今は徐々に雪ヶ丘に、火神に注目していた。

 

「やべえな。俺も頑張らないと」

「大地さんの方がよっぽどっスよ!! なんか、気に入らねっスね、アイツ! 俺よりでかそうなところとかも!」

「田中、中学生相手になにいってんだって。絶対、身長とかじゃなくて清水の事で張り合ってるんだべ?」

「お、俺は別に中坊相手になんかしてねっス! ……」

 

ちらっと、田中は視線を清水の方に。明らかにいつも以上に集中して見てる(田中推察)清水をみて、更に嫉妬するのだった。

 

「おっ! 次は2番のサーブだぞ」

 

菅原の声に反応したかの様に、視線が一気に火神に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スコア16ー10か。(皆頑張ってるな。関向がスパイクを足で上げたときはほんと、俺も驚いたよ。さすがサッカー部)」

 

予想以上のプレイに、自分達のチームを自画自賛しつつボールの感触を確かめる。

 

 

 

 

 

少しだけ、ズルをしてるような気もしていた。

 

 

スポーツや他のトレーニングにおいて、明確に理想のイメージをする事ができて、練習が出来るかどうかは、そのスキルやパワーにかなり影響される。

 

自分自身の過去を持ち合わせている火神は、かつての自分を鮮明に思い返す事で、昔の自分を取り戻そうとすることで、よりよい練習ができた。

(前の)自分には出来ていたのだから、また出来ると暗示する事も出来た。

だが、限界もある。今は中学生の身体であるということだ。以前の自分は高校の、それも3年間鍛え上げていた体だ。それにはどうしても及ばない。

だから、足りない筋力を何とか技術で補う。百、千、万と繰り返した練習を思い出して、少しでもあの頃に届くように。

 

 

「よっしゃ! せいや、頼むぞ! いったれー必殺サーブ!」

 

 

日向も声をあげる。

 

回ってきた日向の言う通り火神のサーブ。

 

 

サーブとは仲間と繋ぐ事が重要なバレーボールにおいて、唯一孤独なプレイであり、そして、唯一1人で点を稼ぐことが出来るプレイでもある。

 

チームプレイがまだ初心者もいいところの雪ヶ丘においても、それは例外ではない。

 

サーブは、ブロックに阻まれることのない究極の攻撃。

 

 

「さて、何点稼げるか……」

 

 

火神は、エンドラインから6歩離れた。

このルーティンは、勿論今恐らく高校1年生であろうとあるプレーヤーをリスペクトして、昔から真似たものだ。身も引き締まるし、より集中することも出来ると火神は感じていた。昔も、そして今も。

 

 

自身が打つサーブのイメージも出来た。時間いっぱい使って、ボールをトス。

 

サーブトスもイメージ通り。

 

回転のかかり具合、高さ、そして助走の感じも全てが申し分なし。

 

 

 

 

 

「(まさか……!!)」

 

影山は目を見開く。

そして、コンマ数秒後にそれはやって来た。

 

放たれたジャンプ(スパイク)サーブは、まるで弾丸の様。ネットを越えて、エンドラインギリギリのノータッチエース。

 

 

 

 

線審でさえ、何が起きたの?と放心しかけていた。

 

 

 

 

それも仕方ない。全くの無名校が強烈なジャンプサーブを打ちはなったのだから。

 

「……70%。危ない。もう少し力入れてたらアウトだった」

 

小さく軽くガッツポーズを見せると同時に、雪ヶ丘のチームは大盛り上がり。

 

 

 

 

秘密兵器その1炸裂である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強烈なジャンプサーブが決まって大盛り上がり。

 

「……マジ? 今時の中坊ってジャンプサーブ打つの?」

 

観客の田中は思わず身を乗り出した。

 

「これは、本当に驚いたな。王様を見にきたつもりだったのに」

「下克上でも起きてるのかよ……。民衆が立ち上がったってやつ?」

 

末恐ろしい中学生の誕生に、暫く動揺がつづくのだった。

烏野スタメン落ちアンケート

  • まだまだレギュラーは早い 火神
  • チームの大黒柱 澤村
  • リードブロック月島
  • 強メンタル田中
  • サムライ兄ちゃん東峰

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