王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第39話 烏野町内会戦③

【日向をブロックと真っ向勝負させる】

 

そのやり取りは結構大きな声でやり取りをしていた為、相手側 町内会チーム側にも筒抜けだった。

つまり、火神が言う様にお願いするまでも無い、と言う事である。

2セット目も 日向に関しては、あのえげつない速度で切り込んでくる速攻を警戒し続けていこうと言う方針だったのだが、まさかの真っ向からの勝負。それも作戦? を明かしたうえでだ。

それを聞いて 正直な所甘く見られてないか? とも思えてしまう。

日向のスパイクは 西谷に取られた事はあったものの、それでも 他と比べたら かなりの確率で決まっている。なら、例え指定・指名されても問題なく決められる、と?

 

「ちびっ子とオレらと真っ向勝負? 挑発って訳か? それでも簡単に抜けるって思われてるってことかあ!?」

 

ギラっ、と睨みつけられてしまった。

少なからずプライドを刺激してしまった様だ。確かに練習とはいえ試合(・・)でそういう提案は少なからずそう思われても仕方がない事だ。何度も一緒に練習をしている間柄なら話は変わってくるが、今日初めての相手なのに。

 

「すみませんっ! 結果的に挑発になっちゃいますよね!? 先輩方を見縊ってる訳でも、ナメてる訳でもないって事は判ってほしいです。でも、ほんとすみませんっ!!」

「!?」

 

間髪入れずの火神からの謝罪に少々面食らったメンバー。

元々、菅原情報で火神は【良い子】である、と言う事を少なからず知っていた事。そして、今の日向が抱えてる事も烏養の声もあって大体把握できている事。それらもあって正直本気で挑発と捉えては無かったりする。

それに思わず笑ってしまっていた。

その真っ直ぐな視線。決して逸らせず、ただただ前を見てるバレーボーラー。そんな後輩たちを見るのは悪い気はしなかった。自分達の青春を、……昔を思い出すから。あのボールを追いかけ続けたあの日を思い出すから。生意気だったのは自分達の方だろう。あの頃に比べたら、ダントツで優等生な部類に入る。……それでいてスキルが高いのだから 正直嫉妬気味でもあったりするが割愛。

 

「プハッハッハ! バーカ。言ってみただけだってーの。なのにバカ正直に謝るとか、お前ほんと面白ぇな! よっしゃ! おっさんたちにドンと任せとけ! 存分に付き合ってやるよ! ロン毛兄ちゃんもそれで良いよな?」

「っ!? あ、ハイ」

 

と言うワケで、早速日向をマークしてもらうと言う事になった。

日向は囮面でも物凄く優秀なのだが、今回に限っては囮は無し。そもそも本当に騙しでこの状態で囮を使うのは流石にヒドイ。本番ではなく練習なんだから、思う存分試すべきだ。

 

 

「……ええぇ、せいや。わざわざ攻撃を教えてどうするんだよ……。あんなでっかいブロック、オレじゃ打ち抜けないって」

「そうだな。普通(・・)なら捕まる事の方が多いだろ」

 

火神はにっ、と笑った。そして影山の事もチラリとみてみる。影山に関しては大体判ってる様で、小さく頷いていた。それはそうだろう。日向の機能の全てを使う事に徹している影山は、裏を返せばどう動ければ決めれるか、どこに入って打てば決まるか、どれが一番確率が高いか、を瞬時に頭の中で計算し、インプットし続けているのだから尚更。バレー脳に関して言えばまず間違いなく偏差値トップ。IQもきっと高い。……学力面は置いといて。

 

日向は、いったい何の事だ? と首を傾げていた。そして、火神がその後親指をおっ立ててベストスマイルで言う。

 

「でも 問題なしだ! なんといっても翔陽は普通(・・)じゃないから。だから大丈夫!」

「お、おう! ……おう? ………おう???」

 

間違いなく、日向なら出来る! と発破かけてくれたと思うのだが、言葉のひとつひとつを頭の中で確認しリピートしてみると、なかなかどうして、結構ヒドイ一言だと感じる。

 

 

「ぶほっっ!!」

「ぷはっっ!!」

「な、なかなか毒舌だな。火神も……今の結構ヒドイぞ」

 

 

月島&田中は盛大に吹いていた。

澤村も今回は苦笑いするしかなかった。

 

 

「って、コラーー! せいや、それぜんぜん褒めてないだろ!?」

「ん? あー、いや うん。そうだな。別に褒めたつもりも褒めるつもり無いかな。事実を言っただけって感じで……」

「ナニそれ! なんかせいや、何気にヒドクない!?」

「だって今、翔陽メチャクチャ贅沢な所で悩んでるし。そもそも似た様なやり取り中学時代(むかし)も何度かしただろ? ……その都度納得したってオレは思ってたんだけどなぁ」

「ぅ…… だ、だから、さっきゴメンって言ったんだって!」

「いや、だからそこを謝る必要は全然ないんだけど」

 

最終的には火神は自分の事を慰めてくれると思ったのに! と最後に日向が言いそうになった、その時だ。

 

「普通じゃねぇっつーか。オレに言わせれば、お前はただの【ちょっとジャンプ力があって素早いだけのヘタクソ】ってだけだ」

「うーわっ!! なんか影山まで入ってきた!?」

 

追い打ち受けて日向のダメージは計り知れなくなっちゃったが、一先ず置いとこう。

重要なのは 【普通じゃない】と言う所だから。その真意を伝える為にも早くゲームの続きだ。

 

 

 

少し中断してしまったが、給水を取って2セット目を始める準備は整った。

そして、始まる直前。

 

「少し言葉足らずだったけど、翔陽だけじゃない。影山とのコンビがそう。お前らがもれなく普通じゃないんだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)。あんな無茶な速攻見た事無い、その速攻を成立させるトス技術も。それに加えてあんな突然視界に入ってくるバネと跳躍持ってるヤツもオレは翔陽以外に見た事ない。そんなのが集まったら 普通(・・) なんて言葉使えないって判らないか?」

 

 

火神の言葉に今回は結構な人数が同調したのか、自然と頷く者たちが多かった。影山も普通じゃない、と言われたのだけれど、今は別になにを言うワケでも、抗議する訳でもなくただただ日向を見ていた。

 

因みに、月島は3対3の時の事を思い出してるのか嫌な顔してる。でも気持ち的には同じ事だろう。

 

「いや、でも火神も大概だろ?」

「田中。今は聞こう。オレも同じ気持ち」

 

火神も十分ヤバイ部類だから正直自分の事棚に上げてない? と思えたが澤村が言う様に今は聞き手に回った方が良いと判断し、それ以上は言わなかった。

 

 

 

「仮に、解りやすく数値化するとしたら、影山と翔陽のコンビの力は、【足し算】じゃなくて【掛け算】だってオレは思ってる」

 

火神が続けざまにそういう。

それを横で聞いてた澤村、そして相手側にいる菅原も大きく頷いてた。それこそ影山のドンピシャトスではないが、考えていた事にドンピシャだったからだ。

 

「え、えーっとつまり……?」

「翔陽は十分凄いって事だ。力や高さを羨ましいって思うのは仕方ないし、仕様がないし、どうしようもない。でも、それを補って有り余るもんを翔陽は持ってる。確かに、東峰さんのスパイクは凄い。3枚ブロックだって打ち抜ける。西谷さんが1ヵ月サボった~って言ってたけど、……ぶっちゃけ 東峰さん。サボってなかったらどーなってたんだろ? って感じだよな」

 

 

「………あ、いや、流石に毎回は無理だよ?? 後、サボってて ゴメンなさい……」

「旭さん! 動揺しすぎっス!! 1年に言われて動揺してどーすんスか! 後、これを機会にもうサボり無しっスからね!」

 

 

 

東峰や西谷のやり取りは一先ず置いといて、火神は続けた。

横で聞いてた影山の肩を持ちつつ 日向を見る。

 

「ほら、思い出してみろよ。あの速攻。翔陽が打てるようになって、影山の精度も完璧になって、ドンピシャピンポイント変人速攻が完成して、そこからブロックに捕まった事ある?」

「!?」

 

日向は今までを思い返していた。

確かに高さへの渇望は今も持ってる。でも、何度思い出しても 影山のトスは物凄くて、何度も何度も気持ちよく打たせてもらっている。ネットの向こう側がはっきりと見える様にもなってる。―――東峰に自分が言っていた言葉だ。

 

影山(コイツ)のトスは何処にいたって飛んでくる、って翔陽さっき烏養さんに言ってたじゃん。……何処に跳んでも、来る(・・)んだろ? なら、どう戦うか、どう戦えば良いか見えてこないか? 例え、攻撃をバラしたとしても、簡単に翔陽を止められたりしないって」

「?????」

 

 

日向はまだ頭の中で整理がついてないのか、考えがまとまってないのか、首を傾げていた。

事細かに説明しても良いが、まずは実践あるのみだろう。……と言うよりやってみる精神である。

なので、長く休憩を取ってしまったことを詫びつつ、2セット目を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初のサーブは町内会チーム側から。

 

とんできたボールは、火神が処理し、影山の元へAパスで返球出来た。

それは理想的な攻撃パターン。此処からの選択肢は数多くあり、そう止められるものではないだろう。

 

でも、今回に限っては ここで上げるのは日向だと決まっている。

だから、相手側もきっちり3人揃って待っていてくれてる。敵味方問わず日向に注目が集まっていた。

 

「(ブロック……でっかい……、戦いかた? みえてくる?? いったいどうやって……)」

 

色々と思案している最中、檄がとぶ。

 

 

「お前は1から10まで言われなきゃ理解できねーのかボゲェ!」

 

 

轟っ! と轟く影山の怒声。

 

「お前が出来んのは動いて躱す事だろうがボゲ!! ブロックが嫌なら躱せ!! 全力で相手を躱せ!! ボールはオレが持っていってやる! お前がどこに跳ぼうがそこに上げてやる!」

 

 

日向にはまだ迷いがあったが、影山の一言で視界が広がった。

 

目の前に立っている3人の高い壁……自分より大きな大きな3人。確かにこのまま前に進めば捕まってしまうだろう。―――打ち抜けない。……ならばどうするか。

 

「躱す」

 

直前まで跳ぶ姿勢だったのだが、その寸前で跳ぶのを止めた。

 

何処に跳んでもボールが来る。それは火神に言われるまでも無い。自分自身がよく判っている筈だったから。目を瞑って思いっきりスイングしたら、ボールは当たる。

それは何処からでも飛んでくる。影山がどこにいても、日向がどこにいても、ボールは飛んでくる。

 

全力で日向は、身体全体でフェイントを行った。火神がやっている様な1人時間差とは訳が違う。跳ぶのを一度止めて、溜めてからジャンプしアタックするのが1人時間差。日向の場合は跳ぶのを止めて、までは同じだが、寸前で跳ぶ場所を変えたのだ。

持ち前のバネと速度で相手を翻弄する。勢いも全て、本当に跳ぶ筈だと相手に錯覚させる程のものだった。

 

「!?」

「ハァ!?」

 

一度、日向のその攻撃に引っかかってしまえば、もうブロックでは追いつく事は出来ない。追いつくのは――。

 

 

【影山があげるボールだけ】

 

 

火神は地を駆け、空を翔ぶ日向を見て、にっと笑った。

 

ブロッカーとスパイカーの距離はネットを隔てたほんの少しだけの距離。

至近距離で、日向の様な動きをされたら、誰もが面食らってしまう事だろう。見ようによっては視界から突然消えた? とも思われるかもしれない。そこから第2第3の矢を放てば更に相手を攪乱させる事が出来る武器となる。

 

 

日向は動き続けた。自分の出来うる力。最速にして最短距離を突き進み続けた。全力で駆ければ、目の前が開ける。

確かに、よーいドン! でジャンプし合えば負ける事が多いだろう。それがスパイクであれば尚更。……でも 脚があれば、相手を振り切る事が出来れば……。

 

 

【高い壁の……向こう側】

 

 

その景色が見える。

後は、ボールを打ち放つのみ。一度放ったボールはそう取れるものじゃない。

日向の打ったボールは見事、相手のコートに突き刺さった。

 

 

「アイツがお前を贅沢だって言ったワケがわかったか、ボゲ」

 

 

唖然と見ていた相手が、そして味方でさえ殆どが止まっていた時に響くのは影山の声。

 

 

「高さとパワーが無ぇ分、お前はそのスピードとバネがあんだろうが。そこにオレのトスがあれば、どんなブロックとだって勝負できる! 自分の持ってるもんを自覚しろ」

 

 

影山の言葉に身体を震わせる日向。

そこに火神も来た。

 

「オレが決めたサーブやスパイクの1点も、それに東峰さんが打ち抜いた1点も、……さっき翔陽が躱して決めた1点も、皆もれなく同じ1点。25点中の1点だ。」

「そうだ! それに例えエースって冠がついてなくても誰よりも沢山の点を叩き出せたとしたら? 相手はお前に注目する。徹底的にマークする! そのお前が囮として機能すれば他の奴らの目も眩んで、更にスパイカーから気が削がれる。お前の囮のお陰で自由になる。エースもだ! エースの道を、お前が切り開くんだ!」

 

影山の熱弁を横で聞きつつ、視線を田中や澤村の方へと向けた。

ね? とジェスチャーをしてみると、大体悟った田中もぐんぐん前にやってくる。

 

「そうだぞ日向。お前の囮があるのと無いのとじゃ、オレたちの決定率が全然違う。例え日向が点を取ってなかったとしても、間接的に取った様なもんじゃねーか。ね? 大地さん」

「ああ。勿論だ」

 

 

全員の視線が集まってくる。

 

 

「どうだ? まだ翔陽の囮……、存在がカッコ悪いって思う? まだまだダメか?」

 

 

 

 

「…………思わない! もう、二度と思わない!! 今、オレが出来る事を全力でする!! 出来ない事も出来る様になるために全力でやる!! 前しかもう見ない!!」

 

 

日向の言葉を聞いて満足、と言わんばかりに頷いた火神……だったが。

 

「でも、昔似た様な宣誓されたような気がするんだけどなぁ……。安い気がするなぁ……」

 

中学生の時の記憶を掘り起こす。

イイ感じで〆れそうだったんだけれど、流石に数度目ともなってるので簡単に終わらせないのが火神である。ちょっとは忘れず覚えとけよ、と。

 

そこにあくどい顔しながら間に入ってきたのは影山。

 

「次やったら一発入れるってのはどうだ?」

「ふぐっっ!!」

「それヤメテ。オレまで怒られるかもだから」

「……火神君? 僕、そんなに怒らないからね?? 怒らないからね???」

 

 

そんなこんなでとりあえず纏まる事が出来た。日向もやるべきことをやるだけ、その精度を高めて、もっともっと出来る事を増やすと 前を向く決心を改めて持ち直したので、とりあえず暫くは大丈夫だろう。……1度ある事は2度、3度……なので、完璧に大丈夫、とは言えない火神だった。

 

 

「あー、オレからも良いか? えっと日向」

「あ、アスッ!」

 

 

ネットを挟んだ先の東峰が日向を呼んだ。

憧れられてるのには何だかむず痒い気持ちがあるが、それ以上に日向には思う所があるあから、ただ飾り気無く、裏表もなく思った事だけを伝えた。

 

「今の一発。凄かったよ。アレは止められない」

「!! あ、アザスっ!!!」

 

うんっ、と東峰は頷いたのと同時に、澤村の方も見た。

 

「……もうちょっと皆に(主にオレに)優しくな?」

「…………なんか言ったか? アサヒ」

「いいえ、ナンデモナイデス」

 

 

 

 

その後、また試合を中断させてしまったので、もう一度盛大に詫びた。

勿論、日向が先頭に立っての謝罪と、続きのお願いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を今回は一切口を挟まず見守っていた烏養。日向を、影山を、そして火神を見て思う所があった。

 

「……なぁ、先生。あの火神とちっこいのは同中ってのは解ったが、あの影山は違うのか?」

「ちっこい……って。ははは。日向君ですね。ええっと、火神君と日向君は 雪ヶ丘中学で影山君は北川第一中学。違いますね。最初は火神君しか認めてない、って大変だったみたいです」

「………そうか」

「――――……? 烏養君?」

 

 

烏養は、もう一度あの3人をじっと見た。

 

内2人は紛れもなく天才に分類されるだろう。そして、日向は天才とは程遠いが、そのバネやスピードは驚愕ものだし、何より大器晩成。まだまだ底が見えない得体の知れない何かを持っている様に見えた。言うなら小さな怪物(リトルモンスター)。小さな巨人に憧れていると言うのは聞いたが、それ以上の何かを感じ取れた。

 

凡人が天才を見ればどう思うか……そんなのは解りきっている事。

自分自身も経験が無いとは言えないことであり、天才は凡人がどんだけ積み重ねてきた事があったとしても、それを容易く超えてくる理不尽さを持っているものだ。

 

今の話に限ってみれば、日向の手に入る事のない渇望も綺麗に纏まっている。……だが、彼らはこれから先も続く。その先を考えたら―――烏養はこうも思ってしまうのだ。

 

 

「……現実ってヤツはつくづく非情、だな」

「えっ? どういう事ですか??」

「………いいや、なんでもねぇよ。ほれ、先生。続き始まるぜ」

 

 

烏養はそれ以上は言わず、武田に試合を見る様に促した。

自分とあのチームとの付き合いは このGW合宿の音駒との試合までだと割り切る。そこにベストのメンバーを持っていく。戦える様に。今までの音駒との一戦、歴代のゴミ捨て場の決戦に負けない様に。

 

――今はただ、それだけに集中するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

試合も佳境。

 

カウント23-21で烏野チームがリードで迎えて町内会側のサーブ権。

 

「ふぅ……、負けちゃいそうだ。なかなかやるなぁ高校生! ってか、あっちのコは高校生じゃないよね? 年齢詐称するのは頂けないなぁ。おっさんは許しませんよ?」

 

嶋田は、ぐいっ と汗を拭いつつ愚痴る。

これまでも、主将の澤村を中心に据えて、粗削りな所はあるが要所要所では的確に、しっかりとハマっていた。それに加えてここぞと言う場面で的確な指示やら配置、更にはフォローに回る的確さも見せていて、それはまるで 全体を陰ながら支えている様にも見えていた。どれをとってもかなりレベルが高い。とてもついこの間まで中学生だったとは思えない程だ。

 

「でも顔は詐欺れないだろ?」

「いや、童顔おっさんも居るくらいだし、世の中探せば幾らでも……」

「嶋っち! 次サーブだって!」

 

 

色々と言いたい放題された火神だが、苦笑いするしかないのだった。……何せある意味合ってるんだから。

 

「ププっ。火神くん童顔だって」

「……詐称してない証拠になって何よりだよ。何なら生徒手帳でもみせるか」

「試合終わってからにしような。1年のお父さん」

「誰がお父さんですか……」

 

月島やら澤村に一通り弄られた後、嶋田が漸くサーブ位置についた。

 

「さてさて、おっさんもこっから本領発揮だぜ!」

 

嶋田は両手でボールを右斜め前にトスを上げた後、バックスイングを行わずジャンプ。その姿勢だけではっきりと判った。次にやってくるのは ジャンプフローターサーブだと。

 

威力はジャンプサーブに比べたら落ちるが、その厄介さはボールの威力よりも軌道だ。

 

「日向!」

「よっしゃ!!」

 

真っ直ぐ飛んでいく先に居るのは日向。

勿論、ジャンプフローターの予備知識が無ければ、良いように翻弄されてしまうのがオチだが、生憎と日向には 中学時代から一緒の相棒その①の存在がある。

 

「(【ジャンプフローターは、オーバーで】……だ!)」

 

日向は一歩前に出て、両手を上にあげて取ろうとしたその時だ。

 

「!!? う、わっっ!」

 

寸前でボールが伸びた。

ボールの軌道が目の前で突如変わる。落ちる事もあれば伸びる事もある。魔球と呼ばれる球は いつどうその軌道が変わり、牙をむくか判らない。下手なジャンプサーブよりも凶悪で、取りにくいサーブだ。

 

「わははは! みたか! ジャンフロと言えばこの嶋っちよ!」

「さっきアイツにジャンフロで取られた時、【なぬーー!】って言ってた癖に」

「うぐっ……」

 

 

火神にやられた事をやり返しただけ、みたいに取られちゃった嶋田。正直図星な部分もあって、思いっきり言葉の矢が突き刺さってしまっていた。

 

そして、見事点を取られてしまった日向はと言うと。

 

「くっそーー!」

「どんまい翔陽」

「クソションベンレシーブ」

「なんなの!? お前にはレパートリーってヤツはないのっ!?」

 

罵倒されたり、励まされたり、だった。決してレシーブはまだ上手いとは言えない日向だが、球種によってはしっかりと位置取りを掴めたりはしている。どうブレるかは流石に寸前にならないと判らないので、後は経験と勘がモノを言う所もあるだろう。

 

「咄嗟にアンダーじゃなくオーバーで拾おうとしたのは及第点だ。身体の接地面がアンダーは狭いから、ちょっとズレるだけで変なトコに行くから。緩そうに見えても侮るなかれってな」

「うぐぐ……、せいやのサーブ何本か取れたことあるのに……!」

 

日向も火神のサーブで練習はしている。

……でも、サーブ練習等が出来る様な環境が完璧に整ったのは高校からなので、絶対的に練習量は足りてないのが実情。火神も日向と同じ条件なのに? と疑問が幾度も上がったが、それはもう そういうものだ、と皆納得したりしてるのはもう当然の話。

 

 

 

「うわぁ……、火神くんがやってた、えっと……ジャンプフローターサーブですか。今度は自分達に牙をむくって考えたら 大変ですよね」

「まぁ、な。どう軌道がブレるか取る本人にも直前まではっきりとは分からねぇ。当たる寸前にボールの軌道を見極めて捕まえきれないと、ああやって外に弾かれたりする事もある。今のは完全に手元で伸びた。アイツにはボールが浮いた様に感じたんじゃないか?」

 

烏養が解説をしていた。武田もジャンプフローターに関しては、最初に聞いていて大分取りにくい事は理解できていた。なので、それを武器とする火神が頼りになる! と息巻いていたのだが、敵側にも使い手がいないとも限らないのが常だ。その取りにくく、頼りになるサーブが今まさに自分達に向けられている。ならば、対応していかなければならないだろう。

 

 

……だが。

 

 

その後、1球、2球と連続サービスエースを取られた。

オーバーで捕まえるのが成功率が高い、と言う理屈は判るが、実行に移すのは難しい。

そもそもオーバーで獲るにはボールの下に入り込まなければならないのは当然で、勿論 中に入り過ぎれば日向の時の様な軌道になれば 捕えきれず弾かれてしまい、かと言って下がり過ぎてしまえば今度落ちる軌道になったら 取れないだろう。実に嫌らしい変化のしかただった。

 

「う~ん…… 嶋っち、前より上手くなったんじゃねぇか? 狙いどころ抜群だろ……。(いや、コイツらに感化されたってのが正解かもな)」

 

相手が強ければ強い程こちらも強くなる! ……なんて事はそうそう無い話だが、相手が強かったらこちらも相応の力で返したくなるものだ。それが歳下であれば、プライドを刺激される。余計に力が入ってミスを犯してしまう可能性も否定できないが、程よい緊張感と、今までのやり取りもあっていい具合に力は抜けている様だ。それでいて、狙いどころは抜群。まだ、レシーブが得意ではないであろう位置に向かって的確に攻めていた。

 

「これで3本か。1年には目を見張るヤツが居て凄いのも判ったし、ビックリもしたが、やっぱりレシーブか。特に1・2年」

 

 

24点目を取った所で、嶋田はこのまま25点決めちゃおう! と意気込んでいた。

でも、この時ちらっと火神と目が合った。合ってしまった。

 

最初に火神からジャンプフローターで点を取られてしまったのは嶋田だ。その後、こうやって何本か返す事は出来たが、全部 苦手であろう選手を狙っての事。………つまり、やられっぱなしと言うのは性に合わない、と言う事だ。

 

「おっさんの本気サーブ、受けてみるかい?」

「っ! おっすっ!」

「……嬉しそうな顔しちゃって」

 

バチバチ!! と火花が散るような展開を期待してた嶋田だったが(青春っぽくて良いから)、まるで玩具をねだるような子供。目をキラキラと輝かせている子供の様に見えて、思わず笑ってしまう。

 

なので、火神を狙う事にした嶋田。大人げない、と言われてもかまわない。渾身のサーブを火神に。

 

手に捕えた感触・感覚も文句なし。回転も全くかかってない。理想的なサーブだった。……が。

 

「っ、っし!」

「なぬ!!」

 

イメージとしてはボールを待ち構えるのではなく、こちらからボールを迎えに行く。

ブレる前にボールを包み込むようにオーバーで捕まえる。言うは易し行うは難し、ではあるがしっかりと返球出来た。

 

「んぎゃうっっ!」

「ぎゃうっ、じゃないって。アイツだってジャンフロ使えるんだから、取る方も得意かもしんねぇだろ? 嶋っち!」

「でも取り返したいじゃん!!」

「判らんでもない!」

 

色々と反省をしたり理解をしあったりしているが、そんな暇がないのは日向がまだ前衛にいる攻撃ターンだから。囮としても何度か機能しているから注意しているんだけれど、存在感抜群の動きでコート内を駆けるその姿を見てしまえばそうそう無視する事など出来ない。リードブロックでは間に合わないから、最初から追いかけないといけない、と言う理由もある。

そんな日向を美味しく使うのが影山だ。

 

「ナイスレシーブ。……田中さん!」

「よっしゃ!!」

 

日向につられたブロック陣。

そこを待ってました、と構えるのが田中だ。

 

 

「ドーモ! ゴブサタしてますっ!!」

 

完全にフリーでスパイクを打ちこむ田中。1点返せて24-24のデュースに! となる筈だったが、そう簡単にボールを落とさせてもらえないのは、西谷の存在。

田中のスパイクを見事にスーパーレシーブ。

 

「甘いぜ、龍!」

「ぬぁぬ!?」

 

しかもAパスと言う完璧なレシーブだった。

 

「スガ!!」

「旭!」

 

そして、菅原が最後を託す相手は1人しかいない。エースの東峰だ。

3人ギリギリ揃ったとはいえ、日向にはまだまだ東峰のスパイクをブロックしきる力も、身体を中でも支えれるだけの体幹もまだ無い。故に、手に当てる事は出来ても、そのまま打ち抜かれてしまう。………これにて試合終了! となると思った筈だったが、そうはいきません。

 

「んんっっ!!」

 

今度こそ、と言わんばかりにボールに飛び付いたのは火神。

日向の手に当たって多少予想していた方とは違ったが、微々たるものだ。そのまま何とか今度はボールを上げる事ができた。

 

「おお!!」

「うおっ!!」

「あげた!!」

 

西谷も東峰も菅原も思わず声を上げてしまう。

非常にレベルの高いレシーブの応酬だ。

ただ、火神のレシーブはセッターに完璧に返球! とは出来ず、丁度日向の真上付近に上がったので、表情は険しいものだった。

そして、日向が落下点に居るから、影山も上げる事が出来ない。

 

「日向! 上、上!!」

「あ、うっ えっ!?」

 

ブロックに跳んで、着地した直後の事だったから瞬時に判断して行動! は中々難しいだろう。それに加えて最後の東峰の一撃は、【やられた!】と思っても仕方ない威力だったから。……それでも、日向は反応の良さはぴかいち。【上】の言葉に反応して、僅かに遅れながらも上を向きながら身体を戻そうとしていた。……が。

 

「……あ゛っ!」

 

恐らく、汗だろうか。長く続いたラリーもあり 多くの汗がコートにあり、運悪い事に丁度日向の足元が結構濡れていた。それに足を取られてしまって……そのまま後頭部がネットにイン。おまけに日向はじたばたしちゃってたせいか、手もネットに絡まっていた。

 

「漁業か!?」

 

と田中を始めとして、結構な人数に突っ込まれたのは言うまでも無く…… 勿論 相手側の点。第2セット23-25  セットカウント2-0で町内会+α チームの勝利である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ~~、日向スマン!! 完璧にオレ、フリーだったのにっ! ノヤっさんにやられちまった!!」

「えっ、いえ でも 最後の最後で失点しちゃったのオレでしたし……」

「ありゃイレギュラーで、しょーがねーって。汗で滑ったんだからな。なぁ? 火神」

「ですね。変なこけ方して翔陽が怪我しなくて良かったって思った方が良い。捻挫とかしたら、音駒と試合出来なくなるし」

「うっ、怪我は嫌だし、出られないのはもっと嫌だ……」

「ねーねー。ネットに上手く獲られる方法教えてくんない~? 日向君~。なかなかネットに絡まれるのって見れないよね~」

「うぎっ……!」

「ボールから目ぇ離すんじゃねぇよ。最後のブロック、やられたって半ば諦めてただろうが。反応遅れてたの判ったぞ」

「うぐっ……!」

「はいはい。お前ら。反省会は礼が済んだ後な」

 

 

 

何はともあれ、エースの復帰と期間限定ではあるがコーチの就任。対音駒に向けてかなり前進出来たのだった

 


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