「影山……」
ついに、ここまで来た。
日向に会えたことも嬉しかった。
だが、やはりハイキュー!!の世界と言えば、この男なくして語れない。
まるで機械の様な精密で正確無比なトス。
そして、勿論それだけでなく 全てのプレイのレベルが極めて高い。
圧倒的なセンスの塊であり、更にその余りある才能に胡座をかくような真似はせずに容赦なくストイック。
バレーに限りではあるが、極めて完璧に近い選手だと言えるだろう。
……だが、勿論完全無欠と言うわけではない。弱点と呼べるものはしっかりとある。
【コート上の王様】
今の彼も、その異名で呼ばれているのなら、現時点でほぼ間違いなくチームプレイと呼べるものは出来ていないと推察できるから。
それが、あの北川第一のチームにおいては致命的な弱点となってしまう。
そして、今は知る由もない事だが、後に訪れる彼にとってのトラウマとも言える出来事にも繋がってしまう。
「それを理解するのは まだ先か。今のままでも力量は十分すぎると思うけど」
色々と火神は考えていたが、よくよく考えてみれば相手側の心配をしてる暇などない。今はただの読者ではない。バレーボールプレイヤーなのだから。
「おおーい、誠也! 何とかしてくれよ、翔陽のやつが固まっちまってる!!」
「まあ、緊張はわかるけどね。わかんないのは、せいちゃんが何でそこまで慣れてるのか、って所かなぁ」
日向は勿論、関向や泉、他の1年のみんなも等しく緊張していた。
そのなかで悠々としている火神。
やはり、普通に考えたら不思議でならないのだろう。勿論、緊張とは無縁な者もいるとは思うが、火神は日向と同じで、今回が初めての公式戦なのに、と。
「やーっぱ、緊張してるか~。翔陽は」
カラカラと火神は笑っている。完全に日向とは真逆だった。
「うえっ!! ……そ、そんなことは……ない、のかな?」
「……いや、聞かれても困るんだけど、みた感じはほぼ間違いないよ。まあ、あれだ。手のひらに人って書いて何度か飲み込んで頑張れ!」
「うう~……」
火神に言われたように、ばか正直にまじないをする日向。それを笑みを浮かべながら見守る火神。
「ほら。翔陽が、全員分の緊張を引き受けてくれてるんだ。俺たちはいい具合に力抜きつつ、適度な緊張感をもって頑張ろう」
自分自身以上に緊張している者が居れば、自然と緩和されるというものだ。
日向には悪いがそういう感じで頑張ろ、と声をかけると、日向ほどでは無いが緊張の色を隠せなかった皆の顔も自然と綻んでいった。
「ほんと、翔陽より誠也がキャプテンの方がよかったんじゃね?」
「あはは……。なんか、せいちゃんが歳上って感じがするよ。ほんとに頼りになる」
関向が、なかなか日向に辛辣な意見を口にし、泉がなかなか鋭いところをついてきた。
精神年齢は、色々とこの世界に来てはっちゃけているところはあるが、それでも皆よりは上であるという自覚はある。
それに、何といっても、火神はある意味高校3年までは過ごしてたのだ。身体は別として中身は歳上!
それは兎も角……、火神はいろいろと傷つくことを言われている日向の肩に手を回しながら、言った。
「ばーか。翔陽がいなきゃ、ここまでこれてないだろ? 俺は手伝ってるだけだ。翔陽以上に皆を上手く纏められる奴はいないって」
「はぁ~。マジで保護者だ。若しくは先輩。OB?」
「ふふふ。2人で1人って感じで良いね?」
「お、俺だってやるぞ!! せいやにだってまけねーー!!! っっ!?」
【北一!! 北一!! 北一!!】
日向が改めて気合いを入れ直していたところで、相手側の、即ち北川第一の応援団が一斉に声を上げた。
「うおっ!? なんだ!!」
北一コール、まさに大合唱。
音が圧力となって身体全体を叩いてくる。
市立体育館では、他にも出場しているところはあるというのに、流石は優勝候補の一角だ。
ベンチ入り出来てない部員も数多くいて一斉に声を上げる。
コート全体が北川第一 一色に染まり、そしてその主役たちが姿を表した。
「うわっっ で、デカイのが多いっ!!」
「火神が普通にみえる!!」
「………」
「よっしゃ! とりあえず、翔陽息しようか?」
圧倒的な体格差もあり、威圧感もある。一気に縮こまってしまったうえに、日向は完全に固まって息さえ止まっていた。さすがに息しないのは不味いので、手早く頭をチョップして、活を入れた。
「ちょっと待て! あれ何だよ!? 何ででかいのがあんなにいるんだ!!」
「あそこはスポ少の各チームからチェックとスカウトしてるから有望選手が集まるんだよ。バレーは高さが有利なのは当たり前だし、まあ、あんな感じになるのは必然じゃない?」
「それはわかるんだけど なんかずるいって思っても別に良いよね? ………ここまで差があったらさ」
強い部がある学校では大体してる事ではあるが、やっぱりここまでの差があったら、ずるいと思ってしまうのは仕方ない事だ。
そこで、漸く日向が復活。
「だ、大丈夫だって! 俺はジャンプ力には自信がある! どんなノッポでも打ち抜いてやる! それにせいやの秘密兵器もあるから、絶対勝てる!!」
「絶対に勝てる? 誠也」
「ん~……99.999%厳しいかな?」
「……せいちゃんが必死に頑張っても?」
「無茶無茶。だってバレーは1人でじゃ絶対出来ない球技だから。だから皆も頑張ろう! 難しいけど、やって100%絶対勝てないとも言えないし。と言うわけで翔陽、はやく号令かけて……ってあれ? 翔陽??」
ちらりと振り返ると、そこには誰もいなかった。
「きゃ、キャプテンならトイレに行きました……」
「「「またァッ!?」」」
もうウォームアップの時間も迫ってるのに、日向は本日3度目のトイレに行ったらしい。
「はぁ~~~。ゆき、こうじ。軽く身体動かしててくれない? 翔陽つれてくるから」
「いやいや、副キャプが仕切ってくれって。俺が翔陽に着いてくから!」
「んん、悪いが俺に行かせてくれ。とりあえず、翔陽の緊張、ほぐしてくるから」
火神は軽く拳を握って、ポキポキと鳴らせた。
「ほぐすって、物理的に!?」
「はは、ちがうちがう。まさかこの直前の直前、トイレにまた駆け込む程、緊張でガチガチとは思ってなかったから。ちょっと考えてた秘策を試してくる。すぐ戻ってくるし、その間軽くパスしてるくらいでいいから」
火神がそういうと、何とか納得してくれた。1年生たちもボールを運んでくれて、準備はOK。
因みに火神は緊張緩和の秘策は持っていない。
ただ、この先に何があるのかが気になるから見に行きたいだけだった。
そう――影と日が邂逅するかもしれないその瞬間を。
日向がトイレへ、そして火神がその後を追いかけていた丁度その頃。
「(自販機自販機……、えっと確かここにも在ったはず)」
烏野排球部と書かれたジャージを身に纏っている女性が1人、下へと降りてきていた。
まだ、公式ウォームアップが始まるくらいの時間で、試合開始まで時間が少しあったから、飲み物を買いにきたのだ。
「……みつけた」
自販機が目に入ったので、軽く走って向かう。
「あっ……!」
「……ん?」
偶然なのか必然なのか、日向を追いかけてトイレに向かってた火神と出会い、目が合った。
数秒間……、互いに目をそらすことはせず、暫く見合った後、火神が軽く頭を下げて会釈した後 早足でその場を後にした。
「……??」
「あ、潔子さん発見っス! 申し訳ありません! 自分が遅れてしまったんで、御詫びに奢らせて下さい!」
「……別にいいから。もう買ったし」
「なら、俺が運びまっス!」
「いいから別に」
華麗に後から出てきた男をスルーして、脇道に去っていく女性の名は烏野排球部2年 マネージャーの清水潔子。
火神誠也と清水潔子、この出会いが切っ掛けでとある運命が決まったのだった。
「……(さっきの、一体なんだったんだろ?)」
清水は目が合って固まっていたことも、軽く会釈をした理由もいまいち解らず、少しだけ心に引っ掛かっていた。
ただ、すぐ後ろを着いてくる男、田中の様な気配は全く感じられないということだけは、理解していたのだった。
烏野スタメン落ちアンケート
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まだまだレギュラーは早い 火神
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チームの大黒柱 澤村
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リードブロック月島
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強メンタル田中
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サムライ兄ちゃん東峰