王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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もうバレバレだと思いますが、更に解ると思います。
私がハイキュー!!でどの試合が特に好きだったのかを・・・苦笑


第24話 青葉城西戦③

サービスエースを決められたその時、皆に謝罪しつつ――岩泉は冷静に考えていた。

 

 

強烈なサーブ。

 

 

それは別に珍しい事ではない。自分のチームにも打てる男がいる。

それに中学から高校に上がった時にも、それは何度も体感した。一味違う高校の世界でのサーブ。本当にスパイクをそのまま打たれているのか? とも思えて驚いたものだ。

 

――そして今も驚いた。

 

強かった頃があったとはいえ、もう過去のものと言われている烏野と言うチーム。

影山と言う天才が入ったという事は知っていた。そして、勿論 もう1人(・・・・)の存在も知っていた。その男はウチで取ろうとしていた事も知っていた。

その男は想像を超える選手なのだろう、と言う事も判った。監督が狙った理由も、そして――勧誘する為に複数(・・)で行った事も。

 

「……すげぇな。あの1年。及川と変わんねぇんじゃねぇか?」

「そんな事ないっス! 及川さん程じゃ絶対にないッスよ!」

「いや、アイツを別に庇わなくても良いって金田一。こんな時に余計な怪我したバカって頭に入れとけば。……後、これは素直な賞賛ってヤツだ。実際 徐々に上げてくるならまだしも、初っ端のサーブであそこまで出来るってのは大したもんだ」

「中学の時より、当然の様に増してる、か。厄介極まりない……」

「国見も何度か貰ったんだってな、アレ。……ふぅ、気ぃ入れ直すわ」

 

ぐっ、と力を入れ直す岩泉。

サービスエースを取られた事。自分のミスで取られた事。いつもならメチャクチャムカつく所だ。相手にも、相手以上に自分自身にも。

ただ、今はどうだろうか。

岩泉は、言葉にしにくい感覚があった。確かに自分自身のミスは腹が立つし、修正しなければならない事だ。同じ様にはならない、と心に決めつつ 皆への謝罪。

 

でも、腹が立つではない。言うなら褒めてやりたいような感覚。

 

これは岩泉にも初めての感覚だった。礼儀正しいから? と一瞬思ったが 今日出会ったばかりの対戦相手なんだから 当然と言えば当然なのだが。

 

「……これが及川からのサーブだったら、安心してムカつけるんだけどな」

「は? なんで? ってか、安心してムカつくってなんだ?」

「あー、全力でムカつけるって事だ。ほらムカつくじゃん。サーブ受けた後にもれなくついてくるドヤ顔とか」

「……わからなくもない、か」

 

ふふっ、と軽く笑った後に 彼らは引き締めなおした。

 

 

「良いの一発貰っちまったからな。直ぐに取り返す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神はサーブを決め皆と円陣組んだ後、再びボールを手に持った。

先ほどの一球は会心の一撃とまではまだ言わない。

意識して70~80%で放ったサーブだ。

それでも狙いは間違いなく狙った所に飛んだしコントロールも問題なし。まだ絶好調! と称せる程自信はないが 出足は好調だ。

 

「(岩泉さんを狙った。……一番、及川さんとの付き合いが長い人だし、あの人のサーブを見て、それに受けてる筈。……つまり、及川さんにも負けてないって少しくらいうぬぼれても良いって事かな)」

 

磨きに磨いたサーブ。別次元の選手達を見て、追いつきたくて、頑張ってきたサーブだ。それが通用しているとなれば、物凄くうれしい事だし、感動もの。

 

基本火神も調子は徐々に上げていき、終盤に体力が続く限りトップギアを継続するスタイルなのだが、ここに来てそうでもないらしい。

 

「(オレは所謂、喜んではしゃいでる子供って感じだな。……なんか良いな、それも)」

 

自分で自分の事を子供と称しているのに、何だか嬉しくも思えてしまってる自分にこれまた笑える。きっと全てを受け止め包み込んでくれる所に来れたからだ。

 

 

火神は、エンドラインから6歩離れて向き合った。

 

 

次は拾ってやる! と言う岩泉の熱烈な視線を受けたのが、申し訳ない。次に狙うのは別と決めていた。

 

主審の笛が鳴り、数秒後に打ち放つジャンプサーブは、正確に勢いよく―――背番号6.金田一の方へと向かっていった。

 

「さぁ、憧れタイムも もう終わり。まずは中学ん時の借りを今返すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狙われた事に対しては問題ない。強烈なサーブは この青葉城西に来てから何度も体感した。これが初っ端のサーブなら金田一は面食らってしまうかもしれないが、上手く覚悟は決めれた様だ。

 

「ぐっ、おおッ……!?」

 

何とか追いつく事が出来たが、レシーブは完全に乱れ、後方へと飛んだ。

 

それでも火神のサーブは強烈無比。中学の時とはやはり違った。

岩泉の言葉を否定した金田一だったが、そう評していても何ら不思議じゃない、と感じたのだ。ただ、彼のプライドが……尊敬する先輩を思う気持ちが優勢だったからの言葉だった。

 

だが、今は彼を尊敬―――まではしてないが、強敵と完全に認めている。無名中学の異端児から、影山とはまた違った倒すべき強敵へと。

 

「くっ、国見! カバーだ!!」

「はいっ!!」

 

火神のサーブに身構えていた青城のメンバーは若干下がり気味の配置だった為、そのままボールを落とす事はせず、追いつきアンダーで上げる事に成功。

ただ、完全に乱されてしまったので、攻撃には移れず、相手にチャンスボールを与える事になってしまう。

 

だが、点をこのまま取られるよりは断然良い。二回連続のサービスエースは許さない、と思っているから。

 

 

国見から岩泉へ繋ぎ、……そして 烏野のコートへと還ってきた。ボールを高く上げて返してきたその位置はアタックラインのやや外側。

 

 

「チャンスボールだ!」

 

 

澤村が声を上げた。

そして……打ち合わせたプレイの絶好の状況、そしてタイミングでもある。

 

 

「影山ッ!!」

 

 

火神が影山に声をあげた。

 

影山はセッターだ。ファーストタッチをセッターが取れば、トスを上げる者がセッター以外になってしまうから、基本的にセッター以外の者が取れる事に越したことはない。……が、影山の名を出して、それに何ら迷う事なく落下地点へと影山は入った。

 

「オーライ!」

 

影山のそれはレシーブではなく、ファーストタッチからのセットである事に気付くのに時間はかからなかった。……影山から火神のバックアタックだと。

 

「ツーで来るぞ! 金田一!!」

「はいっ!!」

 

見極めるのが早いのは流石の一言。

チャンスボールだから、基本的に丁寧にレシーブ・トス・スパイクの流れでも良い筈なのに、いきなりのセットで驚いたりはしない様子。

青城は流れるような動きで、ブロッカーが揃い、影山から火神に上げられたトスに間に合った。

 

そして――助走からジャンプ、スパイクを構える空中姿勢を……火神は空中でキャンセル。

 

 

「「「はぁっ!?」」」

 

 

火神は自分にセットされたボールを再びセット。完全に青城のブロックをフルことに成功。

コートの端でそれを待っているのは田中。狙い放題である。

 

 

「ブロック―――ゼロッ!!」

 

 

勢いよくコートに全力スパイクを叩き込んだ。

ブロックだけでなく、レシーブも完全に火神からのバックアタックだと備えていた為、田中はノーマークだった。

ボールに触る事さえできず、コートに叩きつけられ後方へと弾き飛ぶ。

 

逆転の1点だ。

 

【よっしゃああ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、いきなりではなく事前に打ち合わせをしていたプレイでもある。

それは試合前、火神が提案した物。

 

 

【このチームで一番ビックリするプレイって、影山~翔陽のあの速攻だと思うんです】

 

 

その火神の言葉に全員が頷く。

日向は 《ビックリする》つまり《スゲープレイ》《天才》と頭の中で都合よく変換した様で目を輝かせつつ頭を掻いて照れたりもしていた。月島は 頷きはしたが、ビックリより変態的なプレイだな、と言う意味でもあったというのはまた別。

 

 

【なので、翔陽が後ろに居る時、あの速攻は出来ませんから 後ろにいる間もビックリしそうな攻撃をしたいと思ってます】

【考えは大体わかった。畳みかけたら倍増するもんだからな。驚きタイムの継続は良い。相手のミスにもつながる。……それで、方法としては奇襲をかけるって事か?】

【はい。その通りです澤村さん】

 

火神はその後、サーブで崩し チャンスボールが返ってきた時の展開。

それも出来ればネットに近い所に返ってきた時の事を想定して案を出した。

 

それが今回のプレイである。

 

【勿論、それでも奇襲になりますし、影山からのセットでフリーなら 俺がそのまま打ちます。ただ、青城のブロックも優秀なのは間違いありませんから、ブロックが反応してマークされたら、セットし直しますので、狙ってください。使いどころは 序盤辺りが望ましい所です。中盤から終盤は翔陽との速攻が活きると思います。トリッキーなプレイは驚きますし、何より―――】

 

火神は、影山の背中を押して前にやる。

 

【相手は影山を見る(・・・・・)って言ってるんですから、存分に息があってるトコも見せたいと思ってますから】

 

にっ、と笑う火神を見て 皆自然と笑顔になった。

 

【問題は王様がちゃんと従ってくれるかだケド?】

【あ゛あ゛!!?】

【はいはい、月島ステーーイ】

 

ここぞという時の毒舌入れも忘れない月島だが、しっかりと菅原がフォロー。

 

【はっは、やってみんべ。決まったら相手もビックリするかもだけど、寧ろ俺らがビックリだな。見た事あっても やったことないヤツだ】

【かーー、オールラウンダーかよ。ムカつくわー】

【ムカつかないで田中さんもしっかり狙ってくださいよ? ……勿論月島も。なるべく空いてそうな所に飛ばすから】

【はーい】

【勿論だな! わははは!! 決まりゃ最高に気持ちいいぞ!】

 

 

 

 

 

そして―――決める事が出来た。序盤の日向ビックリタイムの前に。

警戒相手として、まずサーブで火神が前に一歩出た。続いて今回の起点になった事でその警戒心が更に増し、その体が更に大きく見える様になった。

 

日向の動きで攪乱する前に、小さな小さな烏が空を飛ぶ前に、大きな烏が威嚇をしてくれた。

 

 

まだ序盤戦だが、たまらずタイムアウトを取るのは青葉城西サイド。

影山後頭部アタック事件で、なし崩し的に取った烏野の時とは違う。警戒心を更に強めたのは監督側も同じだったから。

 

 

 

「うはーーー、きんもち良いな!! 格別だなこりゃ!!」

「ナイスです。田中さん!」

「おおよ!!」

 

 

一番チームの中でお祭り騒ぎをしてるのは、点を決めた田中。

 

そして冷静に、いつも冷静に、毒舌こそは忘れないが それでも極めて頭を使ってる月島は今のプレイを頭に焼き付けていた。

 

「(……出し抜くのは良いとして、抜かれるっていうのは嫌だな。ドシャットできなくても、あんな風に振られたら……… スゲーー腹立つ)」

「ツッキー、なんで火神睨んでるの?」

「うるさい山口」

「ゴメン、ツッキー」

 

月島の精密なブロックは、ひょっとしたら此処から上がっていくのかもしれないな、と火神は人知れず思いつつ、次は日向の元へ。

 

「次は翔陽だぞ。影山も」

「おうっっ!!」

「いや、まずは火神のサーブだろ。終わってないんだから」

「ぶー――、せいやはそんなつもりで言ったんじゃねーだろー!」

 

影山と日向がまた小競り合いを始めてしまうので、火神はさっさと澤村の方へと戻る様に促すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青葉城西側では、烏野側が目論んだ通りビックリタイムに見舞われている。

 

「おいおい金田一~。あんな事してくるんなら、もっともっと大袈裟にでも言っててくれても良かったじゃねーか。一番厄介だけとか足りんっすよ~」

「いえ、厄介以上の言葉が見つからなかったんですよ……。あのセットは俺も初めて見ただけで……。それに影山のヤツとあんな上手く合わせるなんて思わないですもん」

 

金田一に非があるワケではないのは重々承知の上だが、それでもやってきた強烈サーブからのカウンターでのスーパープレイ。やられた側はたまったもんじゃないのだろう。ボールを目で追うだけでも疲れてしまいそうなレベルだったから。

 

「ふぅむ……、それは少し違うぞ金田一。影山に上手く合わせてるとは言い難い。アレはそんな付け焼刃なセットじゃない。………言えば信頼だな。信じてるからこそ出来るプレイだ。信じてるから火神の声に反応し、直ぐにセット出来た。火神なら決める、若しくは上げる。だからこそ迷わず躊躇わず綺麗に上げた。影山は自己中心的でプライドが高く、勝利に人一倍貪欲。……それ故に1人で走ろうとする。……そこにあの火神と言う男がブレーキであり、つなぎ役になってる様に見える。チームプレイをする為にな。……無論、まだ始まったばかりだ。決めつけるのには少々早いが、独善的なプレイスタイルは今のところ見せていないぞ」

 

青葉城西の監督 入畑。

彼は火神を獲得しようとしていた監督たちの1人。火神の事を あのたった一戦だけの試合で注目していた。そして、どんな能力を持つ者なのかも察した。自身のチームキャプテンと似たようなスキルを持っているのだろう、と。

 

「…………影山が信頼? 信じてる?」

 

一瞬だけ耳を疑った言葉ではあるが、それでも何だか納得してしまっている自分も何処かにいた。

影山単体では不快感しか記憶に残っていないが、火神と言う男は そういうものを持っているんだと思えたのだ。影山でさえ吸収し、昇華させてしまう何かを。

 

「あの連携攻撃は確かに厄介だ。影山ほどとは言えないかもしれないが、火神のトスも見事だったからな。セッターが2人いる、と思っても良い。ブロックはふられたとしても、しっかりレシーブをしてあげろ。……後、あのサーブだが、火神はジャンプサーブの他にもジャンフロもある。その事は頭に入れておけ。……それと、アイツはまだ入ったばかりの1年。歳を出すのは大人気ないかもしれんが、ルーキーに負けないようにプライドを見せてやれよ」

【はい!】

 

 

 

ここでタイムアウト終了の笛が鳴った。

 

どさっ、と疲れた様に腰を掛ける入畑の傍にいるのはコーチの溝口。

 

「いや、火神はやはり凄いですね。たった数プレイで目を見張らせられるなんて思っても無かったです。……ウチで獲れなかったのは痛かったですよ、ほんと」

「うん。まぁな。行く先は個人の自由とはいえ、確かに痛い。……ウチに来てくれたら、と思う事は今もたまにはある、が今日限りにするつもりだ」

「ははは……。影山と火神が合わさったらどうなるか。正直想像したくないです」

「ふむ………。成績は近年2回戦から3回戦止まりの烏野。……今年は全く分からなくなりそうだ」

 

 

 

烏野と青葉城西。

 

試合はまだまだ始まったばかりだ。

 


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