王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第19話

 

 

 

3対3の試合が終わった後。

日向は月島に握手を求めていた。

仲間であることの自覚を、と言われた一件から過敏になってしまっているためだ。

 

勿論、それとなくスルーしようとしてる月島だが、事 強引さにおいては日向には敵わないようなので、半ば強制的に握手させられたのだった。

 

 

それだけ見ると微笑ましい光景でもあり、面白味さえも出てくるんだけれど、ここから先は少しばかり頂けない。

 

 

「おい日向! 休んだか!? 休んだな!? もっかいさっきのクイックの練習すんぞ!! 感覚残ってる内にだ!! ゆくゆくは、コースの使い分けとかも考えねぇと、ブロックも来るし、火神みたいなレシーブ上手い奴には取られる! まずは100%出来るトコから始めんぞ!」

「おおっっ!! やる、やるやるっっ!!」

 

 

あの試合で体得した速攻……変人速攻の感触を忘れない内に反復練習する事は確かに良い事だ。オーバーワークではないか? とも思えるが、2人の体力は群を抜いているので、その辺りは問題ない。……問題あるのは、ここからだ。

 

「ちょいとお2人さん。キャプテンの言葉、もー忘れたのかい?」

 

ちょんちょん、と2人の肩を叩きながら聞く火神。

その質問は聞こえてない様で。

 

「火神! ボール出し頼む! それにお前ともちゃんと合わせてやっとかないといけないから、入ってくれ!」

「うぉぉぉ!! 誠也とスパイク練習なんて、すげーーー久しぶりだーーー!!」

 

お構いなく、練習に引き込んでくれる。

勿論、非常に疲れたのは間違いないけれど、練習するのは何ら問題ない。昔から日向と練習に付き合ってる火神からすれば、スタミナ面は全盛期の前の自分には及ばなくとも、少なくとも高校1年の時よりは増している筈だと感覚で分かっている。

 

影山とのセットアップは、勿論やってみたいし、楽しみでもあるのは事実だが 澤村に託された以上、妥協する訳にはいかない。

 

連れていかれそうになる前に、2人の肩を叩いた手、今度は肩を握ってニッコリ微笑みながら伝える。

 

 

「澤村さん、今日の体育館使用時間に制限あるって言ってなかったかな?? かな?? 今日は午前まで、って言ったよね?? 早速なんだけど、主将の言葉はちゃんと聞いて、覚えておくもんだよ??」

「「うっ……うっす……」」

 

 

興奮冷めやまぬ状態なのは判る。でも、決まりは決まりだ。午後に何処が使用するのか、何に使用するのかは判らないが、いきなり予定を変えるなんてそんな迷惑掛かる事出来る訳ないだろう。

 

「まぁ、感覚残ってる内に もっと覚えこませたいって気持ちも判るけど、聞くべき所はしっかりしてくれよ? ……頼むから」

「わ、わかりました……」

「うす……」

 

しょぼん、としてる2人を見て 横で笑ってるのは月島。

 

「良いじゃん良いじゃん。もいっかい主将を無視(シカト)して、また教頭のヅラでも吹っ飛ばせば。次は退部かもしれないけどネ」

「今煽るの禁止な月島。別に勧めてもいいけど、その結果 連帯責任取られても俺、流石に知らんから。教頭ってねちっこいらしいし、1度目つけられて、2回目ともなると大変になるのは月島も同じかもしれないぞ? 同じ1年だし」

「…………ちっ」

 

自分も被害を被るのであれば、そこは回避したいので これ以上何も言わず下がっていった。

 

月島は 本当に時計みたいに舌打ちが出てくるんだな、と違う意味で火神には感心があったりもしていたのは別の話。

 

 

「ははははっ! 早速いい仕事するなぁ、火神」

「……思った以上に大変で、早速後悔してる所でもあります……」

 

日向や影山の様に、しょぼんと頭を下げる火神。

 

「まぁまぁ、あんま気を張りすぎずにな。……ただ、教頭に目を付けられる様な展開だけは二度とゴメンなんで、その辺は力入れてほしい」

「―――……了解であります」

 

自分が怒られてる訳じゃないのに、リーダーと言う仮役職をつけられてしまったからか。或いは澤村の表情・言葉には威圧感が含まれているからなのか、判らないが ますます火神は両肩を落とした後、頭もごとっ、と音を立てて下がるのだった。

 

 

「ははっ、入って1週間でこれは大変すぎんべ、流石に。なぁ清水、大地にやったみたいに労わってやったらどう? 真面目で頑張る可愛い可愛い後輩の為に」

「はぁ……、菅原さんも変な事言わないでくださいよ……」

 

菅原の提案を聞いて、火神の中では疲れた事以外の感覚が廻った。

それは 清水の行動で起こりえるイベント類だ。記憶の引き出しから正確に映像化され、頭の中を盛大に駆け回る。

 

清水の激励で 1年を除いた部員全員が涙し、収拾がつかなくなった事。

日向が固まってしまった事。

男女問わず魅了してしまった事。

 

これらは極々一部に過ぎない。

 

そして言えるのは、清水は言われたから了解、と言ってやる様な事は滅多にないと思うし、日向の時は 【マネージャーからの一言頼む】から派生したものだ。【労い】と指定があったら、何をするのか興味が尽きないが、今は疲れの方が勝ってる部分があるので、後々に想像して楽しもうと、火神が考えていた矢先だった。

頭に感触があるのを感じたのは。

 

 

「ほんと頑張った。お疲れさま。これからもよろしく」

 

 

二度、三度と頭をぽんぽん、と触られた感触の後、さわさわ……とこれは撫でられてる感触だった。

 

完全に想定外の出来事である。

 

 

 

「ッ、え、えっと…… さすがに恥ずかしいですよ……? いい歳して頭撫でられるのは。あ、それに汗いっぱい搔いてるから汚いです!?」

「まだ高校に入りたてでしょ? いい歳って言うのは早いと思う。それに汗でそんな事言ってちゃ運動部のマネなんて務まらない」

「それもそーでしたね……」

 

 

清水に頭を撫でられる、と言うのは非常に恥ずかしい。

それと同時に物凄く光栄だったりもする。云わば不可侵領域(サンクチュアリ)っぽさを感じていた清水から、サプライズを受けたのだから。

 

ただ、この清水の労い行為が何を齎すのか それを考えるのが一歩遅れた。失念してしまっていた。

 

 

 

 

「かぁぁぁがぁぁぁぁみぃぃいぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

疲れてる筈の田中さん。

体力完全回復でもしたのか? と思える勢いで迫ってきたから。

首根っこフン掴まれて、空いた方の手で頭をわしゃわしゃとかき回された。

 

 

「おれがいたわってやる!! 撫でてやるぞぉぉ!! どんどんしてやるぞぉぉぉおぉ!!! かゆいとこ、ありませんかぁぁあぁ!!」

「い、いたたたたた、た、たなかさんっ! かみ、髪抜けますって!! イタイイタイ! はげちゃいますってっ!!!」

「うるさい、お前だけズルい!! ああ、俺にも潔子さんの香りをっっ!!」

「い、いや 汗ほんとひどいんで、そんなのツイてないです! それに絵面が酷いことになってますよ!?」

「潔子さんの香りをそんなの(・・・・)だとぉぉぉ!!」

「わぁぁぁー!」

 

 

火神は少しの間玩具にされてしまった。言い出しっぺの筈の菅原や、主将の澤村でさえ 抑えようとせずに混ざろうとしてたので、そこは清水が止めて、最終的に田中も清水が止めた。

 

清水に田中もして欲しい、と懇願したが これも勿論華麗にスルーされてしまう。

 

 

 

 

そして 今回のこの事件(笑)は、【火神は潔子さんに聖なる施しを受けた激運者(スーパーラッキーボーイ)】と囁かれ、後のとある清水信者にも羨望の眼差しを向けられる事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで色々と収拾がつかない状況を改善? してくれたのは、新たな来訪者のおかげである。

 

 

「組めた!! 組めたよーーっ!!」

 

 

勢いよく体育館の扉を開けて入ってきたのは眼鏡をかけた男。

ジャージの下のワイシャツがグチャグチャ、ネクタイひん曲がり、汗だく。もの凄く急いで、更に興奮しているのが一瞬で分かった。

 

 

その興奮している理由も勿論ある。

 

 

「練習試合っ!!! 相手は、県のベスト4!! 青葉城西高校です!!」

 

 

粘りに粘った結果、名のある強豪校と練習試合を組めたからだ。

 

「ええっ、青城!?」

「ゲッ……、そんな強いトコと どーやって組んだんだろ……」

 

 

混沌としていた現場が一気に終息していく。非常にありがたい事に。

 

「おおっ、4強と練習試合!!」

「燃える……!!」

 

闘志を燃やす面々を一通り眺めた後に、ばっちりと目があった。

 

「おっ! 君らが問題の(・・・)日向君と影山君かぁ、話は色々と聞いてるよ。今年からバレー部顧問になった武田一鉄です!」

「「……………おす」」

 

何を色々と聞いているのか、は聞かなかった。

2人は、いろいろとやられてグロッキーになってる筈の火神が、それを聞いて突如回復、ぐるりと首を45度回して見られたので、思わず姿勢を正して、返事をしていた。何やら釘をさされた様だ。これ以上 問題を起こさないように、と。

 

 

「バレーの経験は無いから、技術的な指導はできないけど、それ以外の所は全力で頑張るから宜しく! いやはや、それにしてもほんと良かった。練習試合のお願いにあちこち行った甲斐があったよ。でも、体育館(こっち)に顔出せなくてごめんね」

「い、いえいえ。そんな強いトコと組んでくださっただけでも! と言うか、どうやって……? まさか、また土下座を……!?」

「ははは。してないしてない! 土下座得意だけど、してないよ、今回は!」

「………せんせい。今回は、って」

 

 

ここまでしてくれる先生はこの学校では、この武田先生だけだろう。感慨極まって泣ける澤村。

 

「はぁ……、烏飼さんが来られなくなったっていうのは聞いてましたが、今は武田先生ありきで烏野バレー部が支えられてるんですね。ここでバレー出来るのも先生のおかげ。感謝です……」

「ななっ、そんな大層なものじゃないよ!! 僕は、バレーの事ほんっと全然わからないから。出来る事を全力でやるだけだって。君たちが全力でバレーしてるみたいにね? 大人だし、応えないと」

 

【せんせぇ~~……】

 

 

感動で包まれている最中、武田は懐から一枚の紙を取り出していった。

 

「あーっと 聞いて。青葉城西との練習試合の件だけど、条件があったんだよ」

「条件?」

「うん。【影山、火神両名を必ずフルで出す事。影山はセッター。火神は任す】との事だよ」

「「!」」

 

 

感動で包まれていたのに、今度は静寂に包まれてしまった。

それを打ち破ったのは、田中だ。

 

 

「な! なんスかぁ、それ。烏野自体は大した興味はないけど、影山と火神はとりあえず警戒しときたいってことですかねぇ……?? なんなんスかぁ? 烏野(ウチ)のことナメてんスかぁ。ペロペロですかぁ……?」

「い、いやいや、そういう嫌な感じじゃなかったよ、確か。えっとねぇ」

 

 

イラついているのは判るが、武田先生に当たらなくても良いだろ、と思うのはきっと少なくない筈だ。

困ってる所を助け船……ではないが、身に覚えがある火神は手をそっと上げた。

 

 

「多分……ですけど、俺が指名された方は 青城からの勧誘を断ったせい……な気がします」

 

 

申し訳なさそうに手を上げてる火神。その声に一気に注目が集まった。

 

「火神やっぱ青城から来てたのか? 確か、あの中学の時 青城関係者っぽい人いたもんな。それに他にもいた気がするし」

「はい……。来たのは白鳥沢と青城の2校だけでしたけど」

「うええっ!? 白鳥沢も来てたのかよ、火神!」

 

 

澤村らは驚きつつも納得し、怒りの表情も驚きで覆いつくされるのは田中。

県内ベスト4の2校が火神に注目していたのだから、驚くのが普通だ。それも名もないも同然な中学で。

 

 

「う~~、スカウトかぁぁ、羨ましいなぁ、誠也ぁ……」

「なんだよ、翔陽。そのまま 他んトコ行った方が良かったって?? あんなに烏野烏野いってたのに」

「いやいや、そんなこと言ってないんです~!! でも、な~~んか妬けちゃうんです~~っっ!」

「正直な感想をどうもありがとね」

 

 

 

そして、火神の言い分には大体理解出来た。

来てほしい、と直訴されて それを蹴って烏野ともなれば 注視し警戒するのも仕方がない。火神と影山。あの2人が間違いなくあの1回戦の時の注目選手だったから、その2人が同じ高校ともなったら……尚更だ。バレーは2人でするものじゃないんだが、それでも警戒心を剥き出しにしたって不思議ではない。強い所程 慢心からは程遠く隙が無いものだから。

 

 

「ぷぷぷ、それにしても 影山と誠也の明らかな差はここだよなぁ、お前、強豪校いって落っこちたって言ってたもんなぁ」

「うるせぇ!! ボゲ日向!!」

 

 

そんな中で日向の暴言が影山のプライドと言う急所を抉ったので、盛大に投げ飛ばされていた。そして、澤村には疑問が残る。

 

「え? 影山にはスカウト来なかったの?」

 

 

火神に来たのであれば、影山に来たって全然不思議じゃないし、寧ろ能力の高さだけを鑑みたら、間違いないと思うのだが。チームワーク面は 追々仕込めば良いとも思えるし。素材を見たら超一級だから。

 

「……ウス。白鳥沢は落ちました。試験が意味不明だったので」

「ぷっ、王様は勉強は大したことないんだネ~~」

「チッ!!」

 

 

今度は月島とひと悶着ありそうだった。

流石にそろそろ時間も迫ってるので、武田先生が手を叩いて注目させる。

 

 

「はいはい。条件は今話した通りだよ。……それで、どうする?」

 

 

武田の視線が少しだけ、低くなっていた。

火神と影山を入れるという事は、即ち試合に出られるメンバーが限られてくる。

1年には、日向や月島と言った有望選手がそろってるので、更に厳しくなる事間違いないだろう。強い方が残る、と言うのは決まりきってる事だ。それが全国を、更に上を目指すチームであるのなら尚更。

 

その武田の意図に気付いたのか、菅原はすぐに返事をした。

 

「……良いんじゃないでしょうか。こんな4強の一角とやれるチャンスなんてそうそう無いと思いますし」

「ッ、いいんスか、スガさん! 火神は兎も角、影山はセッター指名。烏野の正セッターはスガさんじゃないっスか!」

「…………」

 

菅原は、少しだけ黙る。目を閉じて数秒間考えた後に目を開いて答えた。

 

 

「俺は、日向と影山のあの攻撃が、そこに火神が加わったこの烏野のチームがどこまで通じるか、見てみたいんだ」

 

菅原は、確かに1年にレギュラーを取られるのは悔しい。でも、期待感も同じくらい持っている。【堕ちた強豪、飛べない烏】と呼ばれている烏野。その不名誉極まりない名を払拭する機会に立ち会えるかもしれない、と。

 

田中は、まだ納得しかねる様子だったが、菅原の意思が固いのを悟った澤村は頷いた。

 

 

「……先生。詳細の説明をよろしくお願いします」

「! ……うん。ええっと、日程は急なんだけど来週の火曜。土日はもう他の練習試合で埋まってるんだって。それに短い時間だから1試合だけ。学校のバスを借りていきます。時間等のスケジュールは後でまた纏めたプリントを清水さん経由で皆に渡してもらいますので、確認してください」

 

 

 

 

 

こうして、今日の練習は終了となった。

 

 

 

 

 

 

終了後、影山は菅原に宣言した。

【次はちゃんと実力でレギュラーを取る。負けない】と。菅原も笑って受け答えをして、同じく【負けない】と言っていた。

 

その他にも色々とあって 最後には澤村が皆に肉まんを奢ってくれるという嬉しいご相伴に与れる。

 

 

 

 

 

 

話題は青葉城西と影山の話。

 

「でもさ、影山。青葉城西って北川第一の選手の大部分が進む高校だよな?」

「ああ、まぁ そうっスね」

「いや、その~~ 元チームメイトだし、やりづらい面があるのかなと思ってさ」

「? ……同じチームだったら考えるかもしれないけど……。戦うなら、ただ全力でやるだけです」

 

影山の顔を見たら、少しだけ心配していた菅原が取り越し苦労だと解って笑った。

 

「俺にとっても好都合だったりしますね、菅原さん」

「え? なんで火神が好都合??」

「あ、俺だけじゃなくて、翔陽もですけど」

 

肉まんの袋を受け取ってる日向の方を見て、火神は笑いながら言った。

 

雪ヶ丘(うち)は北一に負けましたから。烏野(こんど)は負けないって所見せてやれる絶好の機会って思ってます」

「……ははははっ、4強相手にそう言えるのはやっぱ大物の証拠だよ、火神。いっくら謙遜してもさ」

「あはは……。性分でして。でもバレーでは正直な気持ちでいたいとも思ってるんで。ああ、それと影山にはぎゃふんって言わせましたけど、他のメンバーには言わせてませんので、その辺りも頑張ろうかなとも思ってますよ」

「だから、ぎゃふん なんて言ってねぇだろ!」

 

 

楽しそうに絡む火神と影山。

ちょっと前まではネットを挟んだ敵同士だったのに、何だか不思議な気分だった。

そんな中で、上下関係の礼節を特に重んじる、舐められない様にする事を大事とする田中はやっぱりまだ引き摺っていた。

 

「でも、俺やっぱり納得いってないっスよスガさん! ……良いんすか?」

「そりゃな。俺だって悔しいさ。あんなすげぇ試合みせられたとしても 悔しい。でも、それ以上にワクワクしてる。火神を何としても取っておくべきだったなー、って相手に思ってやんのと、あの中学ん時のメンバーに、あの時の3人が揃ってるって事、影山がそん時と同じじゃないって事。見せてやりたいじゃん!」

 

悔しそうな寂しそうな、そんな顔を見せる菅原だったが、最後は笑顔だった。田中は その笑顔を見たら それ以上は何も言えず黙るしかなかった。

そして澤村も同じだった。

 

「そうだな。それに、怖いのはご指名の2人だけじゃない。こっちにはまだワイルドカードってヤツがいることを見してやろう! なぁ、日向!」

「……MOGMOGMOGMOG。あっ、オふっ!!」

 

 

 

話を何にも聞いてなかったのだろうか。或いは、動きに動き回って極限まで腹が減った飢餓感ゆえに、袋から駄々洩れしてくる香ばしい美味しそうな肉まんの香りに抗えなかったのだろうか。……と言うか全然気にせずただ食べたかっただけなのだろうか。

 

兎も角、日向は結構大事な話をしているのにも関わらず、奢ってくれてるのにも関わらず、いの一番に袋の中身の肉まんを頬張っていた。

 

 

勿論、そんなの許す訳ない。

 

「お前ナニ先に食ってんだよ日向!!」

「フザけんな!! 先輩に奢ってもらって待てねぇってどーいうことだ!」

 

 

「……澤村さん。翔陽は部活のちゃんとした上下関係みたいなの中学で学んできてないので、粗相してしまいまして……」

「あ、あははは……、わかってるわかってる。と言うかわかんないのは、なんで同じ境遇の火神はそんな成熟してんのか、ってトコなんだけど。まぁ その辺もいいや。一先ず皆で食うぞ」

「おっす! ありがとうございます!!」

 

 

 

その後―――店先、つまり 澤村が肉まんを買った商店の店番?店主に騒いでいた自分達は注意され、どうにか日向は解放されるのだった。

 

 

 

「あぁ、影山、それに火神も。それ食ったらちょっと良いか? 試合のポジとかメンツとか相談したい。坂之下商店でスペース貸してもらえるからそこで頼む」

「オス」

「了解です」

 

通常それらを考えるのはコーチや監督の仕事……なんだけど、烏野には顧問の武田しかいない状態。なので、澤村や菅原がその辺りを考えてきたのだが、今年から経験豊富で有望な選手がきたという事で、意見を聞きたいのだ。

 

 

と言うわけで、商店内に入っていこうとしたその時だ。

 

 

「澤村。肉まんありがと。後、ちょっとまって」

「? どうした清水。何かあるのか?」

「ん。火神をちょっと貸してほしい。聞けてなかった事があるから」

「???」

 

 

何やら、清水から話があるらしい。

何の話だろうか、と疑問を浮かべてる所で 田中が乱入。

 

色々とまたもみくちゃにされてしまう事になるのだが、話が先に進まないので清水がそれを一蹴してくれるのだった。

 


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