王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

182 / 182
某アニメ映画のワンシーンを連想しつつ……書きました……。何度見ても思わず泣いちゃうシーンを………。

因みに、ハイキュー‼ ゴミ捨て場の~ ではないです(笑)
ハイキューでも勿論思わず泣いちゃいましたがw


原作16巻終了となりました。
まだまだ先は長いですが…… なんとか頑張ります!


第182話 青葉城西戦Ⅱ⑱

 

【ここで――――……】

【マジかよ………】

【クソッッ!!】

 

 

 

 

不意にそう呟く。

それはTO(タイムアウト)を取り、烏野最高援護:清水潔子(がんばれ)を貰い士気120%に上がった矢先の出来事。

 

落胆の声、烏野のコート内外問わずに、ほぼ全員同じ気持ちだった。

 

 

「ッッ………!!」

 

 

そして、その中でも一番悔しそうに拳を握りしめていたのは月島だった。

 

 

 

「うおおおおおおおお!!」

「「「おおっしゃああああ!!!!」」」

 

 

 

ここへきて、最終局面で青葉城西の逆転。

及川の連続サービスエース。

 

 

23-24

 

 

マッチポイントを先に握ったのは終始リードをしてきた烏野ではなく青葉城西だった。先行く背に手を伸ばし、捕まえた瞬間だった。

 

及川の執念が烏野の堅牢な守備(清水の声援(バフ)有でさえ)を打ち破ってみせたのだ。

 

 

 

 

 

「マジかよ。ここに来て及川(アイツ)はほんとどんだけ……。ちったぁ勘弁してくれても良いだろうによ」

 

 

 

この場面で決めて見せた相手に、及川に惜しみない賞賛を送りたい気持ちはある烏養だった……が、流石に今はそれは出来ない。そんな気分になれない。

でも間違いなく対戦相手じゃなかったら、ただの観客だったとしたなら、拍手喝采(スタンディングオベーション)をしている所だろう。

 

 

「(もう後がない。……どうする? 何が最善だ……?)」

 

 

TO(タイムアウト)を取った直ぐ後にまたTO(タイムアウト)は……と正直思った。

次を獲り返して同点(デュース)に持ち込む。それだけの力が、今を立て直す力烏野(うち)には無い……とは思ってない。

あいつらがここで折れる訳がない。絶対に、間違いなく、心から信じている。

 

 

ただ―――この場面だ。もう一度くらい息継ぎの時間が欲しいのも事実だろう。

 

 

まだTO(タイムアウト)の権利は後1つ持っている。

この極限の場で自身が力を貸せるとすれば、もうそれしか無い。

 

烏養は、ほんの一瞬だけ迷うと直ぐに行動に移った。

 

 

烏野高校2度目のTO(タイムアウト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、あれだ。正直オレも騙された。最後の最後、撃つ瞬間まで気づけなかった。―――つーか、この試合、もれなく全弾フルスイングだった及川が突然、それも強打モーションの直前に軟打(・・)に切り替えるなんざ、正直あの極限状態で頭に入れてられねぇよ。おまけに運まで(・・・)味方につけた。だから仕方なし、と相手を称賛して切り替えろ」

 

 

そう、烏養が言った通り及川がこの終盤で魅せたサーブはまさかの軟打。

サーブの一連の動作を見ても……最後の最後まで解らなかった打つ直前で力を抜く軟打。

 

烏野は色々と有って気合は十分。固く堅牢な地の守備が完成に近づいているのは間違いない。ただの揺さぶりだけでは通じない可能性の方が寧ろ高い、と及川は思っていた……が、ほんの少し――――ほんの少しだけ、烏野のその堅牢な守備に穴が開いているのを見逃してはいなかった。

 

 

 

それはあの嘗ての練習試合の再現である。

 

 

 

レシーブ技術の拙さを指摘し酷評し、煽りに煽ったあの時。

何度か狙い撃ちした月島に対して、この場面で狙いを定めたのだ。

 

確かに月島は烏野の空の防壁の一翼としての機能は練上がり、あの練習試合からIH予選から更に仕上がり一級品につつあるが、以前指摘した通り地の護りの方はまだまだ発展途上。

 

何より、それをカバーする烏野の守備陣形が3枚揃っていると言う安心感こそが最大の精神的な罠。及川はそこを(・・・)突いたのだ。

コンマ数秒レベルの世界では一瞬の気後れ、判断ミスが命取りになる事を十分過ぎる程知っているから。

 

 

 

 

「ほんっと、お前ってヤツは性格悪いな」

「あっはっはっは~~。……なーに? やっちゃ駄目だったって? 岩ちゃん」

「アホか。ンなわけあるか。よくやった!!!」

「おう!!」

 

 

ばちーんっ!!

 

 

青葉城西側では盛大に岩泉と及川がハイタッチを交わした。

及川の味方をも欺く精度のサーブフェイント。ただのフェイントに非ず、強気強気で攻め抜いた結果……運をも手繰り寄せる結果にもなった。

 

 

「いやいや、正直俺はあっちの眼鏡くんにも同情するよ。いきなり軟打に切替&狙われ~に加えて、まさかのネットイン(・・・・・)だもん。それも絶妙な位置に落ちてくんだもん。さっきやられた10番のフェイントもムカついたけど、それ以上にムカつきそうだ」

「まぁ……及川の強打をイメージした後に、アレやられたら……反応出来ねぇわな。それこそ、向こうの守備スペシャリスト、西谷(リベロ)澤村(1番)、……火神(アイツ)でも無い限り」

 

 

松川、花巻もあのサーブには舌を巻いた。

サーブ時に背中越しに感じていたあの凄まじい及川の圧力。絶対打ち抜くと言う殺気にも似た圧力。……それは正面ではなく背中からですら感じる程練りあがっていた。

 

その十分過ぎる程伝わる程の強烈な圧力を前にしたら当然強打が来る! と連想させてしまうだろう。だからこそ烏野には、狙われた月島には同情を禁じ得ないのだ。そして及川に対しては岩泉と同じ気持ち。ある程度弄りつつも……。

 

 

ばちーーーーんっっっ!!

 

 

岩泉に倣ってハイタッチを交わして軽く抱擁した。

 

 

「正直、ネットインはオレも驚いたけど、運も実力の内だよ、ってね」

 

 

渾身の笑顔に全員が湧く。

あの位置、あの陣形的に考えたら前衛位置に居る月島を強打で狙うのは非常に難しいが、意図的に威力を抑えて狙う事でそれは可能となる。

 

当然、威力を抑えているから拾われる可能性は高くなるから、サーブで点を獲れるとは希望的観測に過ぎなかったのだが、ここで及川に向かって風が吹いた。

花巻や松川の会話で有った通り、及川のサーブはネットインとなったのだ。

 

強烈に刷り込まれた及川の強打に加えて、更なるアクシデント。例えレシーブが苦手だと言ったとしても、これは獲れなくても仕方ない、と言われるレベルだった。

 

 

 

 

青葉城西が歓声に沸く中、当然やられた側は、烏野は正反対な気分だ。

 

 

「ッ………!!」

 

 

確かに、あの場面を考えたらどうしようもなかった。相手を称賛する、と言うのも頭ではわかっても、どうしようもなく悔しいと感じるのもまた事実。

月島は今まさにその最中だった。

自分でも獲れる威力の(ボール)だった事が更に拍車をかける。

及川のスパイクサーブを正面からレシーブで受けるのはまだ自信がないが、それでも身体の何処かに当てる。上にあげる気概は持っていた。

なのに―――――このザマだ。

 

 

「オレは月島に対して【らしくないんじゃないの?】なんて言わないよ」

「ッ!?」

 

 

そんな時、火神が月島の背中を叩いた。

ニヤリ、と笑う火神を見て眉間に皺を寄せて目を吊り上げていた月島の表情が少しだけ和らぐ。呆気に取られてしまった為に和らいだ。

 

 

「冷静に、淡々と分析して、あまり面に出さない様に。システム的に考える月島も凄いって思うし、そっちの方が月島らしい、って思うけど、オレは今の方が良い。――――やられた分、やられた以上にやり返してやろうぜ! 月島!!」

 

 

がしっっ、と肩を掴んだ。

 

 

「ッ………ふん」

 

 

そんな火神を見て月島は今自分がどういう顔をしているのか、どういう思考に囚われているのかを思い出したかの様に顔を背ける。

 

 

「意趣返し、のつもり?」

「そんなつもりは毛頭。……ただ、(年上・先輩だけど)やってくれたな、って感じてる。あの時みたいに。オレも反応遅れたから凄く悔しい。……だからこそ、だ」

 

 

火神は笑顔なんだ。

でも、その笑顔の奥には確かに熱い炎が見えて取れる。熱気さえも伝わってくる。

 

 

「火神の言う通り。オレもめっちゃ悔しい。だからこそ次獲るしかない」

「右におなーーーーじ!!! オレも反応遅れた!! スゲーーー悔しい! 頭入れ直す!!」

「うらーーうらーーー! 上げてけよお前らぁぁぁぁ!!! 清水のがんばれで気合もエネルギーも120%だろぉぉぉ!!」

「おおぅ……、菅原さんが更に猛ってる……」

「(………流石及川さんだ。でも、オレも負けねぇ……)」

「影山は黙ると怖いからなんか言いなさい!」

「誰がだボゲェ!!」

 

 

纏まりが無い烏合の衆。いつか、谷地が言っていた通り……今もまさにそんな感じだった。

清水も自分の名前が使われた上で盛り上がってしまってるので思う所が無い訳ではないが……、特に水を差すつもりは無い。

自分が選んで、決めて、このタイミングでエールを送っただけなのだから。

 

 

「―――次は及川さんは強打で来ると思います」

 

 

そんな時、色々と話をしている最中火神がそう言った。

 

 

「おう、オレもそんな気してる。こんきょ、ってヤツは無ぇけど」

 

 

西谷も頷いてみせた。

軟打にも注意しなければならない、と頭に入れている間に、まさかの球種判断に少々面食らうのは外で見ていた武田である。

 

 

「裏の裏を突いてくる可能性も………と言えば泥沼にはまってしまいますか……」

「及川は素で優秀な上に、狡猾な面も持ち合わせてる勝負師だからな。先生の言う通り安易な決めつけはある意味危険だと思うが……対面してるあいつらが自信をもって言ってる以上、背を押すだけだ。……それに、例え軟打に切り替わったとしても大丈夫だろ、って安心感もある」

 

 

それに火神と西谷の意見だ。盲目に信じると言う訳ではないが、ある意味それだけで説得力や根拠がある、と言っても良い具合である。

 

 

「最後の最後は全力で。フルMaxで来る、って思ってます。精度・威力共に今日一番のサーブが。……オレは、及川さんと付き合いが長い訳ではないですが、何となくわかります」

「土壇場で強い。チャンス〇ってヤツね。……まぁ、精度も威力も試合中ドンドン上げて言ってる感あるし。説得力MAXだ」

「……誠也が言うなら、間違いない。アレ以上が来る……」

 

 

ピリッ……といい具合に緊張感が走る。

ただでさえ及川のサーブは凶悪。球種にも対応しなければならなくなってしまったし、火神や西谷が言う様にこの場面でも更に威力を上げたサーブで来る事も十分あり得る。

 

最後の最後だからこそ……自信と主将としての責任、……何より烏野・白鳥沢を倒して今度こそ春高へと言う想いの全てをぶつけてくる。

サーブミスしたとしても同点……と言う状況を鑑みても自信を持って全力で打ってくる。

 

 

「だからこそ―――オレの方に(・・・・・)来て欲しいですね」

 

 

そして、あの及川のサーブを目の当たりにしておいて……更に強力に凶悪になって打ってくるサーブを前にして、不敵に笑って見せた。

 

再びピリッ―――――と空気が弾けた様な感覚に見舞われる。

 

 

「誠也に先言われちまったな。……オレもだ」

 

 

西谷もそう。

警戒されるリベロだから、避けられる事が多いからこそいつも思っている。全部オレの方に来い……と。

 

 

「頼りになり過ぎる後輩2人がギラついてるんだ。……オレも、と言わん訳にはいかんな。……オレもレシーブは、譲れない」

 

 

そして、最後に澤村も続いた。

 

あの凶悪なサーブを前に怯むどころか、喰い散らして糧としてやる、と言わんばかりな面々を見て烏養は身体が震えた。

 

自分の教え子は一体何処まで高く飛ぶのだろうか……。見事飛んで魅せた、飛びきった姿を見たいとも思った。

 

 

それらの熱が他の面子にも伝わり、この場で一切マイナスな思考を持たずただただ前を見据えて居る。……心底安心する。

 

 

 

 

「よしっ。なら大丈夫だな。……次は拾ってこい。――――全員でだ!」

【アス!!!】

 

 

1人1人の顔を烏養は観て、そして最後に澤村を見て言った。

日向が何だかオレこそが~~~と大はしゃぎで跳び回って、影山が毒舌と共に〆ると言う光景。

月島も眉間に皺を寄せて歪ませていた表情は消えて良い具合に力が抜けている。引き摺ると言う事も無さそうだし、何より精神的にやられていない。

 

 

「もうひとつ、先ほどの様な清水さんの方からの激励が必要でしょうか」

「…………」

 

 

武田は横に居る清水に対してそう言った。

彼女の激励がチームに齎すモノを、武田も肌で感じて実際に見てきている。

それが少しばかりギャグ要素な感じが有ったとしても、精神面は紛れもなく選手らの力になっているのは事実だから。

 

今し方の及川のサーブに関しては、もう相手の実力以上に手繰り寄せる運により屈した形になったが、次こそは絶対に行ける、と信じている。

 

 

「大丈夫ですよ。……皆は、負けません」

「………そうですね」

 

 

清水のその言葉を聞いて、武田は大きく頷くのだった。

そう、大丈夫なのだ。強く―――強く、信じている。

 

皆の事は勿論……あの時の約束(・・・・・・)を清水は信じているから。

 

 

「うっし……お前ら!!」

 

 

そして、烏養は最後にもう1つだけ―――必要な事があるだろう、と声を上げた。

 

 

「ここらで一発、円陣(・・)エンジン(・・・・)かけ直そうぜ、主将(キャプテン)

 

 

最後に必要な事。

チームが改めて1つになる為の円陣。それを烏養の渾身のダジャレと共に……は、正直寒いと思った。

折角の熱が~~~と。

 

でも、寒いからと言って籠りに籠った熱が逃げる様な生半可な代物ではないので、ただただうまい具合に肩の力を抜いてくれた、と解釈。

後で、武田に弄られるのはまた別な話だ。

 

 

「正直、オレ達は困難ばっかりだ。もう一度春高(あの場所)へ行くって決めてから。きっつい練習試合ン時も似たような場面ばっかり。後がない体験も何度もやってきた」

 

 

澤村は全員を集めて更に続ける。

 

 

「それでこの最後の最後で及川のサーブ。いや、最後にするつもりもさせるつもりも全くないが強烈なのは事実で変えれない。捕らなきゃその時点で終わりだ。……今までで一番のヤツが来る未来が見える感じがするよ。……でも、オレ達なら乗り越えれる。苦難上等。その道突き進んでこその烏野だ!」

 

 

 

 

「行くぞ!! 烏野ファイッッ!!」

【オェェェェェェス!!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青葉城西側は、ちらりと烏野の方を見た。終盤戦、逆転までされても尚、一向に衰える気配が見えない。寧ろ闘気が増している様にも見える。

 

本当に、烏野と言うチームは恐ろしい。つい最近まで圧倒的に格下だった筈なのに……烏は化ける。

 

 

「……厄介。ほんっと厄介」

「いや、お前が煽った結果でもあるだろ」

「あぁ~~~。……確かに、だね」

 

 

烏野側から飛ぶ怒声に似た掛け声。

なんの気後れも、後ろめたさも無い、ただただ前へとつき進む事だけを考えている様な姿勢。

恐いと感じるのは……多分、後にも先にもあの烏野に対してだけだと言えるのかもしれない。

 

だからこそ、ここであの化け烏を倒したとすれば……もっともっと高い所に行けると確信出来る。県予選に収まる器じゃなく、全国で羽ばたく事が出来る。

 

 

 

「んじゃ、オレ達もやっちゃおうか」

 

 

 

及川は、烏野から視線を離して手をプラプラさせながら皆を呼んだ。

 

 

「最後の勝負。もう一度気合入れる。それともう言われるまでもないけど、これだけは皆に言っとく」

 

 

全員で肩を組み、姿勢を低くし、告げる。

 

 

「信じてるよ。お前ら」

 

 

いつも通り。

及川は言うといつものキャラ故か冗談に聞こえなくもないが、及川をより深く知っていればいる程……その言葉の重みが解る。それは京谷であっても例外ではない。

脅迫の様に聞こえる。無慈悲な程の信頼。そこに裏も表も無い。

 

信じて、信じられて。そうして青葉城西はやってきた。

確かにそれだけじゃ超えられない壁はあり、何度も跳ね返され続けたが……、今日と言う日を超えて、その先へ必ず行く。

 

及川の様に皆も全力で及川の事を信じる決意の目をしたその時だ。

 

 

「………でもね」

 

 

肩に力を入れていた及川が、すとんっ……と力を抜いて脱力。

すると同時に、雰囲気とは180度逆な陽気な声で皆に更に続けた。

 

 

「ここで、オレがアッサリ決めちゃって肩透かしさせたらゴメンね。皆!!」

【許す!!!】

 

 

最後の最後いつもの及川節が飛んだ。

だが、全員のその答えは決まっている。示し合わせた訳じゃないが皆心は1つに言い切った。

 

 

【信じてるぞ。主将(キャプテン)!!】

 

 

全員が及川の事を信じているから。

及川が皆を信じている様に、それ以上に。

 

 

「ほいじゃあ―――――青城ぉぉぉぉぉぉファイッッ!!」

【オェェェェェェス!!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、最終ラウンドが再開する。

 

 

 

 

 

各チームの応援にも熱がこもる。

大反響となり、今日一番の大声援が飛ぶ。

 

なのにも関わらず……まるで静寂に包まれた様な感覚だ。

そして、もう後戻りは出来ないし、後退も出来ない。背後の床が削れて、崖の様に形成されている。つまりまさに崖っぷちだと言う事。

 

恐怖を感じる者だっている事だろう。

 

だが、それ以上に皆が思う事。

 

 

それは【負けない】

 

 

と言う気持ち。

 

だからこそ、あの高校生離れした剛腕から放たれる豪速球を前にしても一歩も退かないのだ。

 

 

そんな息もつまりそうな世界で、火神誠也は考える。

 

 

この舞台に立てた事。コートを挟んでやり合える事。何もかもが嬉しくて嬉しくて、楽しくて楽しくて仕方がない。

 

だから、それらを全て力に変えよう……と言う訳ではなく、精神面を考えれば実に贅沢な感情()だけど今はそれらを全て封印した。

 

 

ただただ一点だけを考える。

 

 

今この瞬間……自分の一番の強みはなんだ?

他の誰にもない、自分だけの強み。

 

 

それは反応速度? 反射神経? 固い守備力?

 

 

否。どれも違う。

この場の誰にも持ちえない自分だけの特性をもう一度だけ……、もう一度だけ思い返す。

今の烏野(・・・・)の力になる為に。

 

 

 

 

 

『…大丈夫』

 

 

 

 

他の誰にも無い、自分の強み。

 

それは皆が生まれる前からバレーボールをしてきた事。

肉体が生まれたのは同じだとしても、もう覚えてない事の方が多いけど、バレーボールは魂にまで刻まれている。バレーボールだけは明確に覚えている。

 

 

 

『……大丈夫』

 

 

 

あの世界でのバレーボールは通じる。

憧れの世界に、通じる。そして――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

及川は(ボール)を高く上げた。

もう、考えるまでもない。これは搦め手ではない。全力中の全力で叩きつけてくるのだ、と。

 

 

 

「勝てる!!!」

 

 

『負けるな!! 誠也ッッ!!!』

 

 

 

キッ!

 

眼を見開いた瞬間には、もう目の前に剛速球が来ていた。

プライド、前後で培ってきたモノ、そして何よりも背に受けた声。

 

『負けるな!』

 

そう、背を強く押してくれる声。

予め何処に(ボール)が来るのかまるで解っていたかの様に、その一撃のコースを完璧に捕らえた。

ただ、それだけでは駄目だ。想像を超える威力である、と想定。腕の力だけでなくインパクトの瞬間に身体全体の力を抜いて脱力をする。

可能な限り、(ボール)の勢いを殺す為に。

 

及川が打った時は張り裂けんばかりの轟音が体育館内に木霊したと言うのに、まるで正反対。静かだ、と思える程に……完璧に勢いを殺して見せた。

 

 

つまり、及川の今日一を完璧に拾って魅せたのだ。

 

 

 

【うおおおおおおお!!!】

 

 

 

ドッッ! と場が湧く。

小さく、そして何よりも強く……拳を握りしめる者もいる。

先ほど、思わず呼んでしまった(・・・・・・・)事を忘れて何度も何度も拳を上下に振り、ガッツポーズをする。

 

そしてコート内でも一斉に動き始めた。

 

烏野側は、誰であっても拾う。必ず上にあげると信じて疑ってなかった。

事実、火神に打たれ……そして軍配が上がる。一切の憂いを捨ててただただ前を向いて動き始めた。

 

 

青葉城西側は、及川なら決めると信じていた……が、それ以上に今の烏野であれば上げてもおかしくない、とも思っていた。及川には悪いが五分五分以上には思っていた。

だからこそ、一切の動揺は無い。

 

 

ただ、この攻防。ここにきて厄介極まりないと歯ぎしりをするのは青葉城西側。

 

何故なら烏野にはもう1人の天才————影山が居る。

 

あの男が100%パフォーマンスを発揮できる場所に、火神はあげてみせた。

緩い回転と程良い高さ。相手に猶予を与えるか与えないかのギリギリの速度を保てる高さ。……そして極めつけは影山自身が一切動かなくて良い場所に上げたのだ。

間違いなく疲れが見えるこの終盤で、ここまでのお膳立てをされて奮い立たない訳がない。

 

トスにだけ集中させてくれるこのセッターにとっては有難すぎる返球に思わず影山は笑みが零れていた。

 

 

「――――クソ」

 

 

岩泉は思わず悪態をつきたくなる。

それも仕方がない事なのだ。

 

 

「(一切————何1つ読ませてくれねぇ(・・・・・・・・)!!)」

 

 

それは現在の青葉城西の前衛は岩泉、そして金田一、京谷の3人が等しく思った事だろう。

影山のその一糸乱れぬトスワーク。思わず見惚れてしまう疲れを感じさせないフォームに歯ぎしりしてしまう。

 

 

日向が居ない状況だと言うのに。

及川が決めないのであればブロックで仕留めるチャンスだとも言える場面なのに、此処へきてコレ(・・)

火神がレシーブで魅せた様に、影山はセッターとして……張り合っている様にも見えなくもない。

互いに高め合う……のではなく、恐らくは真正の負けず嫌い(影山)。

 

厄介極まり過ぎて、最早笑ってしまう。

 

 

前に跳び込んでくる月島、そして拾ったばかりだと言うのにもう始動してる火神。

後方ではエース東峰と……主将の澤村まで助走し入り込んできている。

 

リベロを除いた全員でシンクロ攻撃を仕掛けてきている。

 

日向が居なくて攻撃力は確実に下がっている筈なのに……。

 

 

 

東峰(後ろ)だよ!!!」

 

 

 

及川の声、そして上げる瞬間まで見極めて動き始めて、どうにか跳び付いた……が。

万全とは程遠い(ブロック)で対抗できる程、烏野のエースは甘くはない。日向や影山、そして火神が強い光を放っていて、目が眩みそうになるかもしれないが、その影で確かに力を付け、力を溜め、研ぎ澄ませている。

 

獲れる1点を確実に獲る為に。

 

 

 

ドガンッ!!

 

 

 

東峰の一発は岩泉・金田一の2枚ブロックをぶち抜いた。

 

(ボール)は2枚の壁に当たっても尚、威力は衰えずそのまま青城のコートに叩きつけられる。

 

 

「「「「ッシャアアアアアアアア!!!」」」」

 

 

東峰、西谷、澤村がまずはハイタッチ。

そして遅れる形で互いに傍に居た火神は影山、巻き込む形で月島の2人と抱き合う。

 

 

絶体絶命だった場で、及川の最大最高をも跳ね返し、もぎ取ってみせた1点。

 

 

24-24

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ……、今の、獲っちゃったよ……」

「鬼だったよな? 今の及川のサーブ(ヤツ)。コースも威力も。……なんか、簡単にあげたようにみえたけど、鬼、だったよな……?」

「いや、間違いなく鬼だよ鬼。…………でも、気持ちは分かる」

 

 

東峰の一撃にも当然注目が集まるのだが、それ以上に集まったのは火神のレシーブ。

 

強力無慈悲だった筈の及川のサーブを完璧にあげてみせたあの一発は、周囲に錯覚をさせてしまう、及川のサーブを疑わせてしまう程だった。

 

 

 

 

「よし! よしよしよし!!!」

「頼りになり過ぎるぜ!! 及川のサーブ凌いで見せた!!」

「デュース!! デュースだっっ!!!」

「ううおおおおお!! じゅーすってなんだぁぁぁ!!!??」

デュース(・・・・)! 2点差つくまで延々続くって意味!!」

 

当然、烏野応援団もお祭り騒ぎになる。

 

ここへきてノリに乗っている青葉城西の攻撃を食い止めて見せたのだから当然。

 

 

でも、散々騒ぐ応援団と違って烏養は一瞬沸騰したが、直ぐに冷静に戻った。

 

 

 

 

 

「――――さぁ、正真正銘最後の勝負といこうか」

 

 

 

 

 

烏養が出すカード。

 

烏野のメンバーチェンジ。

 

 

IN 日向

OUT 西谷

 

IN  菅原

OUT 月島 

 

 

 

 

 

「戦術的ワンポイントツーセッター!!」

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。