王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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メチャクチャいそがし———————いですが、がんばりますぅ・・・・・・


第180話 青葉城西戦Ⅱ⑯

威力・精度

 

それを何対何に振り分けて打つか。

 

威力重視でいけば精度が当然甘くなる。

獲りやすいコースに打ってしまったり、そもそも入らずアウトになる事だってある。

 

逆に精度重視でいけば当然威力が甘くなる。

如何に獲りにくいコースだったとしても、威力不足であれば守備専門(リベロ)には通用しない。そもそもリベロじゃなかったとしても、県内トップレベルのチームには通じない。

 

 

だからこそ、どっちを取るか慎重に見極める必要がある。

 

 

少しだけ悩み……そして及川は決めた。

 

 

「―――俺、こう見えて結構欲張りなんだよね。事、バレーに関しては特に……さ」

 

 

 

【どっちも取る】

 

 

及川はそれを決めた。理想的な一撃を決める、と。その不敵な笑みは熱気渦巻くこの体育館に寒気を齎せる。

 

 

—――ゾワッ!!

 

 

この瞬間烏野レシーバー陣全員は、中心に居る及川の顔がハッキリ見えた気がした。

口角を上げて、ニヤリと笑う顔がハッキリと見えた気がした。そして背中に走る寒気+雷に打たれたかの様な衝撃があった。

 

 

だからこそ、チームを己を鼓舞する為に、即座に声を上げる。

 

 

「強いの来るぞ!!」

【アス!!】

【おお!!】

 

 

戻ってきたばかりの澤村が真っ先に声を上げた。

澤村は自分の役割が何なのかをハッキリと自覚し、先を見据えているからこそ誰よりも早く、誰よりも大きく声を上げたのだ。

 

守備の要が1人として。

烏野主将として。

 

誰が相手でもどれ程強くても,集中力を全開にして必ず上げる気概を持つ。警戒心もMAX以上、120%まで引き上げる。

烏野も澤村に呼応する様に続いた。それはまさにチーム一丸。青葉城西最大最強の大砲を前に誰一人臆する事なく構えた。

 

 

これこそが澤村の真骨頂とも言える武器である。

 

 

精神的支柱である彼の声はチームによく通り、脳に響き、チームに一本の筋を通す。

最大級に信頼を寄せている主将だからこそ、チームはより1つにまとまるのだ。

 

こればかりは、交代をしていた田中には厳しい。

技術云々よりもまだまだ日も浅く主将と言う大役を担っていなかった田中には中々に出来ない事だろう。

 

「……………」

 

攻撃面で勢いを齎す、ムードメーカーとしてチームを引っ張る事は出来たとしても、こうやって【強く結束したチーム(one・team)】に纏め上げるのは……まだまだ無理だ。

それは本人も自覚していた。

 

一瞬の出来事だが痛感したのだ。今、ベンチで控えている田中は澤村の姿を見て、その肌で感じていた。

 

まだまだデカいあの背中を、その目に焼き付けた。

 

それでいて、自身に出来る事を、チームの為に何が出来るのかを第一に考え続けた。

どう頑張ったってタイプが違う。実績も経験も劣っている。だから澤村にはなれない事は解っているから。

 

 

 

 

烏野の圧を身に受けるが及川は一切動じない。

ただただやるべき事を定めている、決めたから。

 

 

 

——威力も精度も良い所全部使う。

 

 

 

欲張り過ぎればどれも決まらない。

そんな話はバレーに限らず幾らでもある話だ。

 

でも、そんな考えは今は一笑する。

 

認めたくない……と未だ何処かで思っている節がある及川だが、その実、とっくの昔に及川は認めている、と言う事も頭では解っている。矛盾をしているが解っている。

今大会で、トーナメント表を見て王者白鳥沢と当たる前にやる、必ず上がってくると確信していた烏野と言うダークホースの強さを。

 

嫌でも目立つ、腹立たしくも思うが今大会一番目立っていると言って良いあの突然変異的な強さ、もう知っている。

 

そんな相手に、後ろ向きな姿勢で勝てる訳がないのだ。

だから及川は覚悟を決めて渾身の一撃(サーブ)を振るう為に始動した。

 

徐々に上げてきてこの終盤で確実にものにした。出来た。

ならば、後必要なのは勇気だけ。恐れず前へと踏み出す事。

 

 

 

——あ……またきた(・・)

 

 

 

そして、その勇気は報われる。

(ボール)を上にあげた瞬間、動き始めた瞬間、その動作1つ1つの瞬間、自分が自分に教えてくれる。

 

絶好調であり、このサーブは会心の一撃である、それを打てると教えてくれる。

 

 

ドギャッッ!!

 

 

先ほどもあった、覚醒状態(ゾーン)に入った感覚のままに、ブロックと言う壁に阻まれない強烈無比な一撃を放つ。威力と精度両方の良い所どりを実現させた。

 

本日、最高を更新。

 

空間を切り裂く様な及川のサーブ。それは確実に威力を向上させている。

加えて狙った場所、その精度も鬼の一言。エグイ事極まりない。

 

インなのかアウトなのか目算で難しい軌道(コース)。それも着弾地点は(コーナー)

そして、それらを脳が処理、考えていたら到底身体は間に合わない。

 

 

 

 

「~~~~~~んんんッッ!! がぁぁぁぁぁァッッ!!」

 

 

 

だからこそ、考えるよりも先に澤村は動いていたのだろう。

 

交代してからずっとやってきた。声出しを必ず行い、それでいて逸る気持ちを抑え、試合に出たいと言う欲求も最小限に抑える。自分自身がコートに居る事を意識して見続けてきた。

 

そして澤村が何よりも一番に考えていた事は情報収集。

 

ベンチから見ていた及川のサーブを目に、脳裏に焼き付け、自分ならどうやって取るかをイメージし続けてきた。

此処へきて威力を更に上げてくる及川には舌を巻く。それでもノータッチエースだけはさせない。主将としてのプライドがそれを許さない。

 

捕えきる事が出来ずとも身体の何処かに当たれば良い。

少しでも高く、少しでも上にあげれば後は仲間たちが、信じられる仲間たちが、頼もしい仲間たちが必ず繋いでくれる事を知っているから。

だから、ただただ本能のままに、反射だけを頼りに体を動かした。

 

 

そして、それは見事功を成す。

 

 

及川同様、澤村にとっての賭けも勝った。2人とも賭けに勝ったと言う矛盾がここに生まれた。いや、それを矛盾にしない為、更に一歩前に出る為に動き始める。

 

 

「大地さん!!」

「くそッッ! 大きい!」

 

 

「交代直後の初っ端! 凶悪無比なあの一撃を!! 最高だ澤村!!!! 繋げろ!!」

 

 

今のは決まっていてもおかしくない。責められない。相手を褒めるの一言に尽きる。

でも、それをヨシとしなかった澤村に最大級の声を上げる。

烏養は当然ながら、それ以上に驚いていたのは青葉城西側の入畑だ。

 

 

「(間違いなく、この試合……いや、過去最高の一撃だった。……それを、コートに戻ってきた途端に反応してみせるか……!)」

 

 

入畑は及川を十分以上に評価していたが、どんどん進化を続けている様なあのサーブに舌を巻く———思いだったが、今回に限っては澤村に目を奪われてしまっていた。

 

あの威力を、あの場所に打たれたなら触っただけでも敵味方問わずに褒めたくなると言うモノだ。

 

でも、上がった先はネット真上。

ここからどう転ぶかで、この先の流れが決まる。そんな予感がした。

 

 

【押さえろーーーー!!】

 

 

だからこそ、互いのチームが声を張り上げた。

 

 

「頼む!! 旭!!」

「「東峰さん!!」」

 

「叩き落とせェェェ!! 旭ぃぃぃ!!」

「「東峰さぁぁぁぁぁん!!」」

 

 

ネットを挟んだ空中戦へと突入した。

東峰vs金田一

 

高さは金田一に分があるが、パワーは間違いなく東峰。

単純な押し合いじゃ負ける……、と思った金田一は此処で決断する。

 

 

「ぐっっ!?」

 

 

押し合いの最中、力の向きを変えたのだ。加えて烏野側に押し込むのではなく、自陣のコートに落ちる様に促した。

咄嗟の判断で精密に動く事が出来る自分に驚いた金田一だったが、及川の一発が、チームが1つに纏まったあの感覚が、金田一の集中力を更に一段階上げたのだ。

 

視野も広がり、落とした先に誰が居たのかも確認済みだ。

 

一瞬の判断力とその視野の広さ。

これまで、今までに無かった金田一の開花した武器。触発され引っ張り上げられたのは及川や岩泉だけじゃない、と言う事だろう。

 

 

「オレが獲る!!」

 

 

勿論、リベロである渡。

ブロックフォローに入ってた事もあって余裕を持って拾われてしまった。やや山なりにレシーブをした事で、カウンター速度は多少鈍るかもしれないが、チームに一呼吸を与える事にもなった。

 

だからこそ及川も余裕を持って戻れてセットに入る。

実質青葉城西のチャンスボールだ。

 

 

そしてここでも金田一が魅せる。

 

 

空中戦をたった今終えたばかりなのに、着地するや否やもう助走距離を確保して移動攻撃(ブロード)に入り込んでいる。ここへきて速度も上がったかの様だった。

 

 

『(——金田一。お前はいけるよ(・・・・))』

 

 

セットの刹那の時間、及川と眼が合った。

金田一は、及川の眼を見て、自分が積み重ねてきたあの練習の日々、……そしてあの時の事(・・・・・)を思い返す。

 

 

それはセット練習で、及川と何度か合わなかった時の事。

 

 

及川はセッターとしての技術は非常に高い。本人は影山に対して劣っている~なんて謙遜をする事はあるが、遜色ないと贔屓目無しで言いたくなる。時にはミスしないのでは? と思ってしまう程のレベルの選手だと思っている。

 

それでも何度かやって合わない。まるで意図的に上げる位置を変えているかの様。

 

 

『要求がある時は遠慮せず言う!』

 

 

それは及川が常日頃から言い聞かせている言葉。

先輩後輩としてある程度の節度は大切だが、そればかりに気にかけ、プレイに影響するのであれば本末転倒と言うモノ。コミュニケーションと言うのはどんな分野でも重要なものだ。

 

それに誰とでも分け隔てなく話せる人柄(一部例外アリ)も相合わさって、及川とのコミュニケーションは基本全く問題ない。それは全員が同じであり金田一も例外ではなく、なるべく遠慮はせずに、思っている事を及川に告げる。

 

セット練習、現在の軌道と速度、及川の(ボール)に合わない事を告げた。

だから少し変えて貰える様に提言した……が。

 

 

『う~~ん。わかったんだけど、まだ変えずに行ってみない?』

『!? 変えず、ですか?』

『ん! この及川さんが言うんだから間違いない! 中学ん時だって短かったけど見てた! お前はまだまだ跳べる!』

 

 

他人の事だと言うのに自信満々に告げる及川。

でも不思議とそこには説得力がある。

誰よりも見てくれていると言う事実が、説得力を持たせてくれる。身を委ねて大丈夫である、と思わせてくれるから。

 

 

『―――お前の打点は、まだ先! あと(ボール)1個分先にいけるよ(・・・・)!』

 

 

たった1歩。……されど1歩。僅か数十センチレベルの世界の話ではあるが、それが劇的に変わる。

 

相手にしてみれば、今まで届いていた筈なのに届かなかった。

自分にしてみれば、攻撃の幅が広がった。

出来なかった事が出来るようになった。

自信につながった。

 

そして何より、大事な場面で結果を出す事が出来た。

 

 

ドパンッ!!

 

 

烏野のブロックの要と言っても良い月島を置き去りにした。

視野が広がった為か、ブロックの無い空中では相手コートが更によく見える気がした。

正確に、レシーバーが居ない場所を狙って打ち抜く事が出来たのだ。

 

 

金田一の最も高く最も早いブロード攻撃は相手の(ブロック)を切り裂いた。

 

 

ただ、壁を抜けたからと言って必ずしも決まるとは限らない。

 

 

「ふんっっっ!!」

「!!?」

 

 

烏野の守りは、紛れもなく今大会トップクラスだから。

守備の要が1人、火神誠也の超反応である。

 

 

「拾ったァぁァァァ!!」

「火神ナイスっっ!! 繋げェェェ!!」

 

「クッソッッ! 今の拾うとか!!?」

「―――――ッッ!!」

 

 

青葉城西側にとってみれば、サーブ・ブロードと間違いなく会心の一撃だった攻撃2連発を防がれてしまった結果になった為、状況は最悪だ。

これは嫌な流れを生む。これで決められたら2点ビハインドになる上に流れを持っていかれる。それは誰しもが感じていた事だろう。

 

烏野は必ず決める。

青葉城西は必ず止める。

 

違いの意地と意地がぶつかり合う。

 

 

「東峰さん!!」

「おおおおお!!」

 

 

ここでセッター影山が月島を囮に、東峰のバックアタックを選択。

澤村が、火神が魅せてくれた、繋げてくれた(ボール)を必ず決めて見せる! と跳躍し全力で打ち抜いた。

 

 

ドンッッ!!

 

 

それはまるで爆発音だ。

両チーム含めて最も強い攻撃力(パワー)を誇る東峰の一撃が青葉城西のコートを襲う――が、それでも決まらない。

 

 

「―――――がァァッッ!!」

 

 

青葉城西のエース、岩泉渾身の体当たりレシーブ。

右肩~腕付近に当たりコートへの着弾を阻止した。

 

 

「ナイス岩泉!!」

「繋げ—————ッッ!?」

 

 

そして、ここで更に魅せてくるのは京谷だ。

野生の勘か、或いは狙っていたのか、それは定かではないが、岩泉が上げた鋭角の(ボール)は、丁度京谷が走り込んだ付近、ネットギリギリの位置にまで跳んできている。

まるで、示し合わせていたかの様に入り込んできた京谷がツーアタックを叩きつけた。

 

 

「うぎっっ!!?」

 

 

流石にこれは想定外の一撃。

西谷も咄嗟に反応する事が出来たのだが、反応出来ただけだ。(ボール)を捕えきる事が出来ずに、そのまま後方へと飛ばされてしまった。

 

 

15-15

 

 

まさに起死回生の一撃である。

 

 

【うおおおおおお!!!】

【いいぞいいぞケンタロウ!! 押せ押せケンタロウ!! もう1本!!!】

 

 

まだまだぎこちないが、それでもチームの輪の中に入りガッツポーズを見せる京谷。今この瞬間もバレーボーラーとして強く成長していっているかの様だ。

 

 

「うおおお! よく打った!! よく打ったぞ! 京谷!!」

「グッッ!!?」

「今のは流石の及川さんもビックリだ。よく打ってくれたよ、ほんと」

 

 

バンバンッ! グリグリッッ!! と岩泉の強烈過ぎる抱擁と眼をまんまるにさせて脱帽気味な及川。

間違いなく野生の嗅覚に加えて、その強靭な身体を自在に動かす運動神経、センスがあってこそのプレイだ。

そう何度も出来る事じゃないかもしれないが、欲しい場面、ここぞと言う場面で決めてくれたのは非常に大きい。

 

 

「ちょい凹み気味だったけど、上手い事狂犬ちゃんがやってくれたね、金田一」

「っス。決めきれずすみません」

「いやいや。……も、どっかで仕方ないって思っちゃってる自分もなんか悔しいケド、次は決めような。……互いに」

「! ウス!!」

 

 

ここぞと言う場面で決める~と言うのは、あの金田一の普段より一歩、(ボール)1つ分先へ跳んだ金田一だと及川は思っていたのだが……、アレを拾われてしまったのは密に気にしている。

決まった事を喜び、流れのままに行くのが正しい姿勢だと思うが、やはり火神は日向・影山を退けて烏野最重要人物(及川談)。

どんな場面でもしっかりとマークしなければならないだろう、と改めて認識した。

 

じゃないとさっきの攻防で少しでも凹ます事が出来た? と思った自分が恥ずかしく思ってしまうから。

 

 

 

「火神」

「!」

 

 

影山が火神に声をかけた。

先ほどの攻防の件で思う所があるからだ。

それは、京谷のあのツーアタック……ではなく。

 

 

「さっきの金田一のブロード。……何か感じなかったか?」

「キレがIH予選()と段違い。……多分、最高到達点も上げてきてる」

 

 

火神は考える素振りをほぼ見せず、影山の思った通りの答えを出してきた。

気のせいではない。明らかに搭載した武器の強さを上げてきているのだ、と。

 

 

「そりゃ、強烈なライバル(・・・・・・・)が直ぐ傍に居たら、気合の1つや2つ入るだろうし、俺じゃなくたって ぎゃふんっ! って言わせたくなるってもんだよ飛雄」

「!」

 

 

グイっ、と火神は汗を拭った。

圧倒的に付き合いが長い影山程ではないが、火神も金田一がレベルを上げてきている事くらい体感で解っている。

練習試合の時より、IH予選の時より、強くなっている、と。

 

 

「―――お互い様だな。強くなってる(・・・・・・)って言うのは。次、獲り返そう」

「……おう」

 

 

勿論、強くなっているのは相手だけじゃない。

だからこそ、負けられないのだ。

 

 

 

 

「青城ブレイク!! 後半に来て追い上げてきてるぞ! 青城!!」

「しかも及川のサーブだ! 次で逆転の可能性が出てきた!!」

 

 

 

リードをしていた烏野の背を確かに掴んだ。

後はその背を追い越し、只管走り続けるだけだ。

 

及川はもう一度精神を集中させる。

 

今さっきの感覚をもう一度。今以上の力でもう一度。

だが、早々上手くいくものでも無いらしい。

 

 

「んぎっっ!!!」

 

 

今度は西谷の方に向かってしまったから。

 

「くそっ———」

 

威力は申し分なし―――だが、精度が甘くなってしまった結果だ。

でも、乱したのは間違いない。西谷が拾った(ボール)は緩やかに、大きく、ネットの真上高くに上がっていたから。

 

 

つまり、ネット際の攻防。

 

金田一VS月島だ。

 

 

「「月島頼む!!」」

 

「「金田一!! 押し込め!!」」

 

 

高さは金田一。パワーも金田一に軍配が上がる……が、月島の一番の力は高さでもパワーでもない。この疲れが出てくる終盤戦。誰もが大なり小なり乱れてくる筈の思考。

それを意に介していない、と言わんばかりの冷静(クレバー)さ。

 

高さとパワーで押し込む事だけしか考えてない金田一の表情をハッキリと見た月島は極めて冷静に、そして巧みに金田一の手に引っ掛けつつ、相手コートサイドライン外へと弾き出した。

 

 

16-15

 

 

再び烏野リード。

 

 

「サンキュー! 月島!!」

「ぐっっ!!」

「ナイス! ツッキー!!」

「くっっ!!」

 

西谷と火神が同時に背中を叩いた。

 

 

「いや、なんで俺の方睨むの? ツッキー呼びなら止めないよ」

「ふんっ。(………ずっと凹んでた方が良かったかもね)」

 

 

内心でそう毒吐きつつ、月島はサーブを打つため下がっていった。

西谷がコートを去り、日向が入ってくる。

 

 

「うっしゃあああ!!」

「点獲れよ、翔陽!!」

 

 

ばちんっ! と火神とハイタッチを交わしつつ、定位置へ。

日向・火神が前衛に並ぶ烏野の中でも攻撃力が高いローテ。月島が下がるし、西谷も外に出ているので、守備面では劣ってしまうかもしれないが、ここぞと言う場面では期待できる。何かをやってくれると思わしてくれるローテだ。

 

 

「それにしても、大王様ってやっぱスゲーな!」

「うん。まぁ、及川さんが凄いのは今に始まった事じゃないけどね」

 

 

日向&火神が及川を褒める。

ぴくんっ! と及川の耳が何だか大きくなった? 様な気がしたのは気のせいだろうか……。

 

 

「火神は兎も角、おめーにもわかんのか?」

「ともかく、とかいりますか!? わかるよ!! なんとなく、だけど解るよ!!」

 

 

サーブ、レシーブ、ブロック、全ての面で高いスキルを有しており、日向以上とも思える程癖の強いあの京谷を操る手腕。金田一の高さを引っ張りだした事。

凄い部分を上げればキリがない。

 

 

「ふ—————……」

 

 

影山は少し深呼吸をした。

そして、火神が言っていた事を思い返す。反芻する。

 

そう、及川が凄い事は今に始まった事じゃない。

影山からすれば、もっと昔から知っていた事だ。一番長く見てきたのだから、わかりきった事なのだ。

相手が強くても、どれだけ強かったとしても、呑まれず、自分自身を貫け———と。

 

 

「だがしかーーーし!!」

 

 

日向は、色々と考えを巡らせている影山に対して、声を上げた。

 

 

「今、後ろには誠也が居る! 俺は存分に跳べる!!」

「あ?」

「???」

「だから————」

 

 

どんっっ! と胸を叩き、高らかに言った。

 

 

「オレ()が居れば、お前は最強だ!!!」

「!!!!」

 

 

影山以上に、火神はこの時、フラッシュバックした。

本能のままに、積上げてきた練習の全てを発揮する事だけを考えてきた。それだけを考えて、バレーをしてきた。

だから、思い返す~様な事は出来ないし、そもそも考えてられなかった。

 

でも、あまりにも強烈なセリフ、強烈な場面だったから、視界が一気に広がった様な、光でいっぱいになったかの様な、そんな感じがしていたのだ。

何より……嬉しかった(・・・・・)報われた気もした(・・・・・・・・)

 

 

 

 

「―――いや、あいつらかっけぇな、オイ」

「ははっ。………まったくだよ」

 

 

 

日向のセリフに思わず注目したのは烏野側だけではなく、青葉城西側も同じだった。

ああも、自信たっぷりで、ああも幼稚な事を全く疑いもせず恥ずかしいとも思わずスッパリ言い切る。

だからこそ、格好良いと思った。そして、それ以上に厄介だと思った。

 

付け入る隙の1つが精神面だ。

そこをも補填されるとなれば、より難攻不落となってくる。

 

 

「……拾われまくりが何言ってやがる」

「なんだと!!?」

「そもそも翔陽? 攻撃する気満々って感じだけど、オレだって今は前衛。攻撃参加するし。ずっと守って貰える~~なーんて、甘えたはナシにしてよ」

「わ、解ってるよ!!」

 

 

場の空気を変えるこの3人は、やはり色んな意味でとんでもない。

思わず笑みが出てしまう程に。

 

 

「イイネイイネ! 日向! その根拠のない自信! 最高ッ!!」

「田中と同類だな!!」

「あ、それオレも思った」

「何でだよ!??」

「例を上げるとすると、清水先輩関係? 根拠のない自信で一方通行! って感じじゃん」

「~~~~~ッッッッ!!」

 

 

コートの外でも大盛り上がり。

これで京谷が魅せたスーパープレイから出てきた青葉城西への流れ、烏野にとっての嫌な流れも、完全に払拭した、と言える。

 

 

だから次のターン……期待せずにはいられない。 

 

 

月島のサーブ。

威力はナシ。でも、狙った場所は外さない。岩泉を牽制するサーブを打ち———そして京谷が打ってくる流れとなる。

 

 

「フッッッ!!」

「「ッッ!!」」

 

 

火神・日向のブロックが京谷のスパイクに触れた。

 

 

「ナイスワンチィィィィ!!!」

 

 

京谷のスパイクは強烈だが、威力を完全に削ぐ事が出来た為、問題なく(ボール)を処理。

連続得点(ブレイク)のチャンス到来だ。

 

 

「オレに持って来オオオオオオオ—————!!!」

「レフトぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

烏野1年親子(コンビ)が共に駆け出す。

一体どっちをマークすれば良いか解らなくなってくる。頭が痛くなってくる。

だが、それこそ今に始まった事じゃない。何度も何度も見てきている。

 

だからこそ、何度も何度も止めてやる!! と気合を入れたその時だ。

 

 

「やあああああああ!!」

 

 

ここで日向がコースを変えた。

Aクイックに入ってくると見せかけて……斜め右へと跳躍(ジャンプ)。つまりCクイック。

こうやって目の前で突然動かれる、突然情報量を増やされる事の不快さは言うまでもない。

 

 

「クッソがッッ!!」

 

 

それでも対応して見せる、と金田一は目で追いかけた……が、ここで妙な事に気付く。

 

 

「(日向(アイツ)、ネットに近過ぎだろ!?)」

 

「(前に跳び過ぎた!!? ネット近えッ!?)」

 

 

後ほんの少しでも前気味に跳んでいたら、間違いなくタッチネットで相手の点になってしまうそんなギリギリの位置に日向はいた。

如何にスピードがあるとはいえ、あんな場所で有効なスパイク打つ事なんて出来る筈が———。

 

 

「翔陽!! 打てる(・・・)!!」

 

 

ここで声を上げたのは火神だった。

火神も攻撃姿勢に入っている。ここで日向相手に声を上げるのは、相手に自らが囮である、と知らせる様なモノだろう。

 

だが、それは一般的な話。火神がするからこそ、相手を惑わす結果にも繋がった。

この優秀な火神がそんなミスを犯すだろうか……? と、相手にコンマ数秒を要する情報量を植え付ける事が出来たのだ。

 

 

そして、その火神の声に反応した日向は……とある光景を思い返していた。

 

 

それは中学時代の記憶。

 

 

女子に混じって練習をさせて貰ったあの日の記憶。

 

 

『よ、よっしゃ!!?』

『翔陽くん凄いね。今、真下(・・)にいったよ!?』

『全く……、打てたから良かったけど、前に跳んだら危ないじゃん翔陽。それにネットに当たってたら即失点、ってルール解ってるよね?』

『わ、解ってるし!』

『ふふふ。(誠也君も大変だね。でも、本当に楽しそうにしてる)』

 

 

スパイク練習をさせて貰った時、前に出過ぎた。前に跳び過ぎた事が有った。

何とか手を伸ばして、手首のスナップだけで打つ事が出来たけど……普通にネットに触れたので、実際の試合だったら失点だ。

 

 

でも、確かに打てたんだ(・・・・・)

 

 

練習で出来たのだから、きっと試合でも出来る筈なんだ。

 

 

影山も、火神の打てる、と言う言葉に反応した。

信じるに足る。十分過ぎる程に信じるに足る言葉であり、更に意表を突く攻撃にも繋がる、と確信が持てた。

 

だからこそ、照準を合わせて日向に上げた。

 

 

「誰も居ねぇ!!! 打ち下ろせ!!!」

 

「前だ!!!」

 

 

意図が分かった及川も声を上げるが、流石に間に合わなかった。

火神の攻撃に意識を少しでも向けてしまったのが痛かった、と言える。ほんの少し、後一歩、(ボール)1つ分―――間に合わなかった。

 

 

ダンッ!

 

 

威力はほぼ無いが、相手が居ないアタックラインの内側に叩き落とす事に成功した。

 

 

17-15

 

 

烏野、リードを広げる。

 

 

 

「おおおっしゃあああ!! ブレイクううううう!!」

「よし! よしよしよし!! 点差広げた!!」

「凄い! 日向凄い! アタックラインより前に打った……!?」

 

 

息も詰まる攻防が続いたからこそ、点を決める事が出来たからこそ、上から見ていたメンバーらは一気にお祭り騒ぎを起こす。

上から見ていたから解るあの一連の攻防の流れ。それを解説メンバー(嶋田若しくは滝ノ上)が説明に入った。

 

 

「今のは手首のスナップだけで打ってるから威力は弱いけど、谷地っちゃんが言う様にあのアタックラインの内側じゃ拾えないよな……。影山は意図的に日向に合わせたのか? でも、あの時火神の方も空いてたから寧ろそっちの方が良いんじゃ? って思ったのに、ミスったのか?」

「火神が日向に打てる!! って声出してたヤツも良い具合に相手へのフェイントになったんだろうな。……ひょっとしたら、ああいう練習してたのか? ねぇ谷地っちゃん」

「い、いえ! 見た事なかったっス! 初めてみたっス!」

 

 

練習でやってた、と言う訳ではなさそうだ。

でも、日向は打てると確信がある様に火神は声を出し、躊躇う事なく影山は日向を選んだ。

全てが説明できる! と言う訳じゃないが……。

 

 

「心底信頼し合ってる、ってヤツなのかねぇ。さっきのオレらが居ればお前は最強(名言)と言い。まさにザ・青春!」

 

 

眼下で精一杯戦ってるメンバーを見て、あまりにも眩しい……と思わず目を細めてしまう年長組だった。

 

 

「ほぇぇ~~それにしても、あんな前だったら拾えないって言うならいつもやれば良いのに!」

「やーやーそう言う訳にゃいかないよ! あんなネット際の(ボール)を下に叩いたら普通にブロックで叩き落とされるから! 逆に!」

「あ、ああ~~……確かにそうですね……。で、でも今見たいにブロック躱す事が出来たら……!?」

 

 

谷地が指をさしながら言うと、滝ノ上は頷いた。

 

 

「日向の攻撃パターンがまた1つ増えた。警戒しなきゃならん事が増えた。……これは相手にとってすれば痛いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うおおっっしゃああああ!!」」

 

 

バチンッッ!! と日向と火神はハイタッチを交わした。

 

 

あの時(・・・)みたいにネットに当たらなくて良かったよ、全く」

「つまり、オレはせいちょーした!! だよな!!? 誠也!! うおおっ!! うおおおおッッ!!」

 

 

テンションが更に上がってびょんびょん跳び回る日向。

火神はその後影山に対して手を合わせる。

 

 

「咄嗟に良く合わせた飛雄! 流石! ナイス!!」

「お前が《打てる》って言ったからな。打った事があるんだと思った。だから、トスも近づけた。上手くいって良かった」

「それでもあの一瞬で、お前らどんだけだよ!! 声と身体の反応がヤベーよ!! ナイスだナイス!!」

【オェーーーーイ!!!】

 

 

コート内外から声が飛び交い、そして声に合わせて全員で円陣を組み直す。

勝つぞ! と強い決意を込めて全員で声をあげた。

 

 

 

 

そんな烏野を見て及川は呟いた。

 

 

「……今のでも解ると思うけど、飛雄は色々考えてるっぽく見えても、実際はただのバカで単細胞なんだ」

「!」

 

 

及川の毒吐きに少し驚く金田一と呆れる岩泉。でも、口を挟む事は無かった。

 

 

「だってそうでしょ? チビちゃんが前に跳び出たから、そこに上げてみました~ってスゲー安直な考えじゃん? まぁ、それを強引にも実現させれるだけの技術は天才っぽい、って言わざるを得ないけどね」

 

 

及川は自虐的に笑う。

あの技術は自分も喉から手が出る程欲しい……と思った。セッターとして負けない、総合力では負けてない、と幾ら思っても、幾ら周りがそう評価しても———欲した。 

 

 

「まぁ、バカで単細胞。だからこそ(・・・・・)————天才っぽくなるのかもしれないけどね。普通に考えれる頭持ってたら躊躇う。そんな道でも飛雄は迷う事なく突き進む。例え良い方向でも悪い方向でも」

「………………」

 

 

金田一は知っている。

悪い方向へと走っていた事を、知っている。

あの時、間違いなくチームは分断した。もう、影山が進む方向へ誰もついて行かなくなったのだ。

 

 

「バカみたいに夢中になって周りが見えなくなって———結果、誰もついて来てなかった事に気付けなかった。―――独裁者な王様だったころ(・・・・・・・・・・・)飛雄(アイツ)がまさにそれだ。………でも」

 

 

だった(・・・)、だ。過去形なのだ。

 

今現在は違う。

 

及川は目を細めた。

 

1人きりだった影山の周りに確かに居る存在。

異彩な光を放ち続ける2つの大きな存在に目を向けた。

 

 

「飛雄の先を行くバカが現れて……更にそんなバカ達を纏めて導ける男も現れてしまった」

 

 


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