王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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メチャクチャ遅れてすみません……。物凄く忙しかったです………。
でも、ちゃっかり世界バレーは観ていたのを告白しつつ……謝罪します。苦笑

凄いですね!! 男子バレー! 最高ですね!! 興奮しっぱなしでした!!


そしてそして、狙った訳ではないのですが………この話で使っちゃいますw


何とか、更新頑張ります!


第175話 青葉城西戦Ⅱ⑪

 

 

青城、京谷の攻勢はまだ続く。

京谷が青城3人目のビッグサーバーとして今覚醒したとでも言うのか、或いは青城の流れに烏野が気圧された事もあるのか、京谷から放たれた強烈な一撃は―――。

 

 

「ぐッッ————!!」

 

 

烏野でもトップクラスの守備力を誇る澤村をもってしても、抑えきるに至らなかった。

 

澤村が受けた(ボール)は大きく放物線を描きながら跳んでいく。それは明らかに大きい、大きすぎた。

 

 

「くそ!! すまんっ、長いっ……!!」

 

 

澤村は京谷が放った(ボール)が腕に当たった時、いや拾うその寸前でもう理解していた。

この返球は抑えきれない、と。そして考えたくなかったが思った通り、レシーブで上げた(ボール)は大きく孤を描きながら相手のコートへと入ってしまう勢いだ。それを待ち構えていた松川が跳躍。

 

 

「ッ!! 跳び付け翔陽!!」

「うおおおっっ!!」

 

 

松川の一撃、ダイレクトで返ってくる。

そう判断した瞬間に、火神は最もネットに近い日向に向かって声を上げていた。

 

日向もそれに呼応する形で咄嗟に跳躍した。

反応速度は流石の一言。高さもその身長からは考えられない、十分過ぎる程までに跳ぶ事が出来ているが……やはり、1対1では分が悪い。それが極めてスキルが高く、そして老獪な青葉城西の3年生、松川を相手にするなら猶更だ。

 

 

「松川!!」

「ダイレクト!!」

 

 

的確に、冷静に日向と言う(ブロック)を見極めて、壁の無い方へと打ち抜いた。咄嗟に手を動かし、追いかけてくるだけの技術が無いのも見越して。

 

結果、日向のブロックは相手の打ってくるダイレクトの一撃に触れる事なくコートに叩きつけられてしまった。

 

 

「うがッッ!!」

 

 

それにも反応を見せた火神は手を伸ばしてコートと(ボール)の間に割って入り、片方の手を伸ばす―――が、触れる事は出来ても上にあげる事は出来なかった。

当たった場所が悪かったようで、そのまま鋭角に弾かれてしまい青葉城西の加点。

 

 

22-18

 

 

「うおお……、何か後半に来て青城が出てきたな。あの16番がノってきたからか?」

「ミス多いかもだけど、調子に乗せると怖いタイプ……か」

 

段々と青葉城西の()が……領域が広がっていく様に感じるのは、得点板係をしている者たち。

第1セット獲った時から、烏野がおしている、と思っていた。京谷の投入は訳が分からなかった。……でも、ここへきて考えが変わった。

 

第2セット終盤、先に20点台に乗られた上に4点ビハインドは烏野にとってはかなり痛い筈。

仮に、このセットを落とすにしても嫌な流れは断ち切っておきたい。

少なくとも、絶対に……絶対にまだ不安定な所がある筈の京谷の調子をこのままのせてはいけない。

異端な男の剥き出しの牙。その危険度は改めて推して図るべきだろう。

 

 

だが、烏野はまだまだ冷静さは失われていない。

 

 

「今ん所見た感じ、完全なパワー型だな。もう少し守備位置下がるべ。……今のこの勢いで、意表をついて前に落として~とか来る様なタイプじゃないだろ」

「うん。そうだな」

「アス!」

 

 

澤村がミスをした。流石にミスをした本人だ。如何に主将と言えども熱くなり、視野が狭くなってしまっていても不思議じゃない。

だからこその東峰。彼がカバーをする。エースとして点を獲る事も大切だが、コート上の誰よりも一番付き合いの長い澤村の心理的なフォローをする事だって大切だ。

ガラスハートと呼ばれる事だって多々あるかもしれないが、ここ一番では漢を見せれる。見せれる様になる。

一度逃げ出してしまった身かもしれないが、復帰したあの時からそんなエースを目指しているのだから。

 

 

「―――っし、次はミスらん! 切るぞ!」

「おう!」

「「アス!!」」

 

 

京谷の強打はもう何度も見せて貰った。

だから―――次へ進もう。

 

 

笛の音と共に京谷は始動。

勢いそのままに、スパイクを叩きこむ様に100%の力で小細工なしに真っ向勝負を仕掛けてくる。

その相手に選ばれたのは。

 

 

「火神!!」

「フッッ!!」

 

 

コース取りは完璧。

強打に合わせて腕・膝・体幹の全てを脱力させて攻撃をいなす事も出来た。

 

 

「チっ!!」

 

 

何よりもう何度も見せて貰った。

これ以上の連続得点(サービスエース)は無い。

 

恐らくは狙って打たれたであろう火神だったが、的確に冷静にその一撃を処理してみせた。勿論Aパスだ。

 

それは京谷も思わず舌打ちをしたくなる程、完璧に拾われてしまった。緩やかな回転と勢いが完全に死んでいて、影山は余裕を持って入れる。

 

 

「……うん、せいちゃんを狙うのは止めといた方が良いね狂犬ちゃん」

「弱気な発言すんなボゲェ! 前見ろ!」

 

 

少々高めに(ボール)が上がったから、滞空時間が長く余計に及川は考え、それを口に出してしまっていた。勿論、岩泉が言う様に弱気になっていると言う訳でもない。

 

京谷のこの感じは絶好調……くらいはあるだろう。

 

ひょっとしたら、このセット京谷のサーブで行けるかも? と考えていた自分の認識が甘かった、と及川は痛感。

でも、結果を見れば拾われてしまったが、悪い手だとは思ってない。

あの場面で、火神を狙って―――もし点を獲る事が出来たとすれば、もっと大きな流れに、波に乗れる。間違いなく次のセットでも。

 

嘗て、及川が初っ端のサーブをリベロの西谷に打ち放った時と同じだ。多分———京谷はそこまで考えてないだろうが。本能のままに、強者へと向かっていった。岩泉に対抗心を燃やして突っかかっていった感覚と同じだろう。

 

 

そして、嫌な流れなのは間違いないのに、流れなど関係なく京谷のサーブを上回ってきたのだから、火神には脱帽ものだ。

 

 

 

流れる様に影山から日向への速攻(クイック)

 

 

「!!」

 

 

松川が迎撃態勢に入っていて日向に向かって跳躍した……が、日向の攻撃はCクイックに入ってくる~~と見せかけて斜め跳びDぎみのクイックだった。

流石の3年の玄人、松川もその横幅には対応出来ずにノーブロック状態で打ち放たれてしまう。

 

それは、まるで先ほどのダイレクトのお返し~と言わんばかりにである。

 

 

「っしゃああ!!」

「翔陽ナイス!!」

「火神ナイスレシーブ!!」

 

 

随分長く感じたが、漸く1点返す事が出来た。

苦しかったのが目に見えて解るかの様に、コート内外問わず一際大きな声が湧き起こる。

 

 

そして、その声援に押される形で烏野は新たに仕掛ける。

このままの流れにさせない為に、ここで仕掛ける。

 

 

「あっ! あの子って、確か――――!」

 

 

烏野のメンバーチェンジ。

一番最初に気付いたのは観客の内の1人だった。

 

ピンチサーバー 山口が日向に代わってコートIN。

 

そしてもう1人。

 

 

「っしゃああああ!!! やったれ、龍!!!!」

 

 

冴子が大きく、大きく声を振り上げる。

それもその筈、山口だけでなく田中龍之介も、澤村に代わりコートIN。

その瞬間を目を輝かせて見ていた。コートの中へと足を踏み入れた瞬間声が出た。

まだまだピンチな場面での2枚交代。何より最愛の弟。より一層声が出てくるのも仕方ない。

 

 

「おぉ……、烏野の2人目のジャンフロ使い! ビビりピンサーか!」

「ビビってる割に、決めた印象の方が強いって言う」

「IH予選の終盤か……、アレは声出たわ」

 

 

山口の活躍に関しては、記憶に残ってる者達も居るらしい。

最後の最後でサービスエースを決めた男なのだから。……ただ、口に出している様に最初は物凄く緊張していた姿も覚えているので、一部不名誉な呼び名となってしまっているが当の山口は気にしてない様子。

そして――――。

 

 

「烏野の元気ボウズ!」

「アレも結構ヤバめなスパイク打ってたんだよなぁ! 覚えてる!」

 

 

田中に関しても言わずもがな。

火神が途中退場してしまった後、負けてしまったとはいえ、見事な活躍を見せた。攻守共に魅せた。プレイ時間は短かったかもしれないが、あの終盤の攻防は記憶に刻まれる程。県大会にしておくには惜しい程の熱があったのだから。

 

 

「田中センパイ!! お願いします!!」

「オオッシャぁ!!」

 

 

ばちーーーんっっ!!

 

外へと出る日向と田中は思いっきりハイタッチを交わした。

手が痛い気がするが、今回ばかりはお構いなしだ。

 

 

「山口!! 10点獲れ!!」

「え!?」

 

 

続いて、ぐるりと首を回して日向は山口の方を見ると、10点獲る様に指示を出した。

それを聞いて、きょとん……とする山口。そして現在のスコアも確認する。

22-19だ。ここで10点を獲るとなると――――。

 

 

「それ、試合終わらない?」

「そもそも、10点も取れないデショ。計算大丈夫?」

「月島細かい事うっせーな!! オレが許すって言ってんの! 10点獲ってこいよ! 山口!」

「………ふふっ! うん!」

 

 

ピンチサーバーはどう頑張っても緊張する。

でも、日向のこの無茶ぶり、月島との絡み、それらは良い具合に緊張を解してくれるようだった。

 

 

「もう、何も言わなくても大丈夫そうだけど―――……いったれ! 山口ッ!」

「! おう!!」

 

 

拳を向ける火神に、山口は拳を向け返した。

 

 

「思いっきり行けよ」

「ハイッ!」

 

 

日向と同じくコートを去る澤村は山口にそう言って肩を叩き、そして田中の方へと向かう。

 

 

「……烏野の攻撃特化型だ。思いっきり魅せてこい、田中!」

「うおぉぉぉぉスッッ!!」

 

 

ばちんばちん!! と皆がハイタッチ。それは宛らお祭り騒ぎ。点を獲った時に匹敵する程に盛り上がりを見せていた。

田中も自分自身の頬を思いっきり挟み込む形で叩く。気合十分、闘魂注入だ。

 

 

 

「コレ、ミスったら青城が一気に行きそうだな……。明らかに流れを変えようとする布陣だろ」

「うん。烏野の主将、安定感は抜群だけど、それを捨ててくるって事は攻撃力を上げてくるって感じだもんな……。獲りきれるか否か、それで試合の行方を左右されるって感じか」

 

 

スコアボードをつけている他校の選手は食い入る様に戦況を見据えていた。

点を捲る度に、そのチームの流れが見えてくる。今は間違いなく青葉城西側に良い流れが向いている。それを止めて、流れを自分達に向ける様に烏野が仕掛けている。

それが成功するか否かは、今からの攻防に掛かってくる。

 

 

 

 

「んじゃあ、声を合わせて―――せーーのっっ!」

「「「「山口一本ナイッサーブッ!」」」」

 

「!!」

 

 

声援も受けた。

後はただ……決めるだけ。

 

 

山口は、この瞬間 熱いモノを背に感じつつ嶋田に言われた事を思い返していた。

 

 

 

『サーブが打てる持ち時間、解ってるよな?』

『8秒間、ですね』

『そ。その通り』

 

 

 

サーブの弟子である山口にアドバイスを送る為に試合前に嶋田が山口に声をかけたのである。火神がいる~~とか何とか嶋田は言っていたりしたが、やっぱり気になる様で、ちょっとしたお節介だ。

勿論、山口はお節介等とは考えてないが。

 

 

『笛が鳴ってからサーブを打つまでの猶予。それを有効活用するんだ。……まぁ、器用にタイミングずらしたり、攻撃力を最大限に上げる為に活用してる火神(ヤツ)見てると、色々と錯覚しちゃうかもしれないが、今の忠には自分を落ち着かせる為に8秒を使う方が良い』

『自分を落ち着かせる為………』

 

 

サーブ自体は火神のを真似る事はあっても、その他の過程までは山口は意識してなかった。だから、嶋田に言われて改めて凄い……と思い直す。

笛の音が鳴った直後に打ったり、逆にたっぷりと時間を使ったり……、多種多様な芸当をみせる火神が。

今回に限っては山口は意識してなかった様だが、傍に居ると、自分も出来るのでは!? と思いがちになっても不思議ではない。

勿論、それが一概に悪いとは言わない。出来る! と思う事はプラス思考であり、成功に繋がる秘訣の1つであるから。

 

ただ、タイプによって善し悪しが分かれるのも事実。

影山の様に、負けん気が抜群に強い男は間違いなく前者。たまにミスをする事も勿論あるが、圧倒的に成功率が高い。

 

でも、山口の場合はまだまだ後者。

 

 

『たまに、笛聞いてビクッっ! ってなってるもんな? あんま慌てるなよ?』

『……はい』

 

 

そう、まだまだ自分はビビりである事を自覚しているから。

 

 

『練習と経験、お前は日に日にそれらを糧にして、目を見張る勢いで成長していってるよ。俺ん時とは大違いだ』

『!』

 

 

そう言うと嶋田は自虐的に笑った。

自分の時はここまでになっていただろうか……? いや、なってない。若さが眩しく羨ましい、と思いつつ今尚足掻き成長せんと上を目指してる後輩に想いを告げる。

 

 

IH予選の時のお前を超えていけ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場は最高潮に近い。

試合会場全体が声援の渦に包まれ、コミュニケーションを取る事も難しいのでは? と思ってしまう程に。

 

でも、山口は一切聞こえていない。

 

ただただ、この一投に想いを乗せる。やってきた事の全てを乗せる。

それだけを考え続けている。

 

 

 

「………あぁあ、ほんとヤダな。どいつもこいつも雰囲気変えて来やがって」

「………………」

 

 

 

及川の呟き。

普段なら、さっきまでの岩泉なら、そんな弱気発言に思いっきり駄目だしとツッコミを入れるだろう。

でも、今はそれどころではない。

烏野がまた変わった(・・・・)気がしたからだ。

無論、選手交代はチームに変化を齎す事は良く解っている。

 

だが、烏野でトップクラスに要注意人物である囮の日向。誰が見ても解る烏野と言うチームを土台から支え続けている澤村。その2人が変わったとなれば、正直戦力が偏る、若しくは守備の要の1人が変わった事と、リベロが不在な現在のローテでは、つけ入る隙がより大きくなる……と頭の何処かでは岩泉は思っていた。

 

甘く見ているつもりは一切なかった。

第1セット目を獲られているのだから尚の事。

 

でも、認識が甘かった、自分の考えが甘かったと言わざるを得ない。

 

 

「気ぃ、引き締める」

「! ……モチ」

 

 

ピリッ……とした岩泉の一言。

そして、それを肌で感じ取った及川と他の面子。

 

点差がある事等、もう頭の中から消した。

 

 

 

 

山口は、(ボール)を受け取りサーブ定位置へと下がる。

一度、二度(ボール)をコートに打ち付けつつ感触を確認。そして準備万端であるのを確認すると同時に、主審の手が真横に動いた。

 

 

ピ—————ッ

 

 

笛の音がコートに響く。

今の今まで喧しかったコート内が嘘のように静寂に包まれた。

まるでその集中力が、緊張感が、会場全体に伝わったかの様。そしてもう今は自分の心臓の音しか聞こえない。

 

 

与えられた8秒と言う時間を目いっぱい使った山口は、始動開始。

イメージ通り、自分の中の最高を思い描いて(ボール)を両手で上にあげ緩やかに助走。

二番煎じかもしれないが、この瞬間は自分こそが中心に居る。それを自覚し自信にもつなげる。

 

全てを、この一投に――――。

 

 

静かな一発だった。

豪快なサーブが飛び交っていた今までのとは違う静かな一発。

それは、決して早い、勢いがある、とは言えない目でみてハッキリと解るコースで青葉城西へと迫り、丁度京谷と渡の間。

 

 

「(この軌道は――――)」

 

 

他のサーブに比べたら緩やかだった事が災いとなる。

ハッキリと軌道を見てしまったからこそ、その先を、(ボール)が行き着く先を、先読みしてしまったのがミスだった。

 

 

「アウト!!!」

 

 

渡の目測。

通常であれば、それは間違っていない。更に言えば火神のジャンフロはこの試合ではよく伸びてきた(・・・・・)。その球種が頭の中に残像として残ってしまっていた為、判断を急いでしまったのだ。

 

山口が放ったジャンフロは、火神の伸びてきたそれとは違い直前で落ちた(・・・)

それも、エンドライン上で。

つまり、判定はIN。

 

起死回生のサービスエースである。

 

 

 

「う―――――」

『おっしゃあああああああああああああ!!!!』

 

 

 

これまでの静寂さが一気に反転。

爆発したかの様に一気に盛り上がりを見せる。

 

 

「良いぞ山口ぃぃぃい!! 龍も続けぇぇ! いったれぇぇぇ!!」

「や、やったぁぁぁ! はいったぁぁぁぁ!!」

 

 

やんややんや! と観客側も大はしゃぎ。

特に、サーブ練習を重点的にしている山口の姿をよく見ていた谷地は、感極まって思わず涙ぐんでしまった。

 

 

「―――――よしっっ!!」

 

 

嶋田は、愛弟子のサービスエースに自身の姿を被せる。

一気に試合の中心に躍り出た様なあの感覚。もう二度とは起こる事の無いと思っていた嘗ての感覚が脳裏によみがえり、思わずガッツポーズをしたのである。

 

 

 

「……今のすげぇ落ちたな。手元で伸びてくる火神のヤツがあったから、正直今のアウトだと思った。てか、IH予選(前ん時)の再来じゃん」

「これがあるからジャンフロは嫌なんだよ。流石にせいちゃんのヤツ、これまで意図的に伸ばしてきて、落ちるサーブの匂いけしをした~なんて事は無いと思うけど。それでも今のは仕方ないよ」

「ああ。当然だ。ドンマイドンマイ。次切るぞ」

「すみませんッッ!!」

 

 

ジャンフロは魔球と呼ばれる球だ。

IH予選の時に火神が山口に言った事がある。

まだまだ、火神にサーブでは及ばない事を嘆き気味にしている山口に対して、ジャンフロだけは違う。威力は兎も角(ボール)の軌道は夫々の打つ手によって変わる。

火神のジャンフロが青葉城西にとっての残像となり、山口が穿った形となったのだから、尚更解るだろう。

 

他の誰かの武器じゃない。紛れもなく自分だけの武器になる、と。

 

頭では解っていても、身体が反応するかどうか、はまた別の話だ。前回の時も同じ様に山口が決めた。忘れていた訳じゃないし、侮っていた訳でもない。……山口のサーブが前回以上で、青葉城西の防御を破った。それだけの事なのだ。

 

 

「山口ナイッサー!!」

「ッ! うんッッ!!」

 

 

火神は、山口に向かって拳を向けた。

届かないと思いながら練習を重ねていき、すればするほどその背の大きさを思い知らされる事も多かったが………、今この瞬間だけは肩を並べる事が出来た。届いたんだ、と思った。

 

それはそれとして……。

 

 

「翔陽出てこようとしない! ステイ!! それに、西谷センパイも!!」

 

コートの外、待機場で盛大に盛り上がりつつ、一緒にハイタッチをしたい、しにいく! と暴れている日向&西谷が視界の中に入ったので、慌てて静止する様に手で促した。

勿論、その辺りは菅原&縁下がガッチリと抑えてくれてるので、コート内への乱入と言う反則行為は起こらずに済んでいる。

 

 

 

「別にそんなに驚く事ないデショ」

「おいコラ! 遅れてやってきたヒーローに向かってお前は「この5ヵ月」!」

 

 

交代して早速点を決めた山口に対して、ちょっぴり嫉妬心が湧き上がり且つ、自分自身も暴れなければ!! と闘志を燃やしている田中だったが、月島の少々冷ためな一言を聞いて憤慨する―――が、直ぐに止めた。

 

 

「サーブだけは、誰よりも貪欲に、誰よりも練習したんだから」

 

 

それは月島だからこその激励だったから。

月島だからこその賞賛だったから。

表立って盛大に~~なんてキャラじゃない。ぶっきらぼうかもしれないが、だからこそ心に刺さる。

 

 

「ッ、ッッ!」

「てめっ! このっっ!! 言うじゃねぇか!!」

「いたっ、いたっっ!! 田中さんは試合でその力発揮してください!!」

「! おうよ!! 任せとけぇぇ!!」

 

 

腹パンを何度か入れた後に、田中は山口とハイタッチ。

 

 

「俺の分も残しとけ!! って言いたいが、このまま決めちまっても良し! だ!! 日向に賛成!」

「っっ! はいっっ!!」

 

 

 

22-20

 

20点台に烏野も乗った。

まだまだ2点ビハインドだから、劣勢なのには変わりない―――が、それでも今のサーブで確信出来た。

 

 

「―――流れを変える一本、ですね」

 

 

見ていた武田はそう感じた。

つい今し方まで、嫌な流れが見えていた。

あの京谷が調子を上げて思う存分暴れる姿は、まさに影山&日向のそれと似通っている。そして、及川&岩泉が まるで烏野で言う火神の様に上手く操縦して更に乗せている様にも見えてしまった。

 

ゲームの流れ。

 

まだまだ素人に毛が生えた程度しか解らないけれど、武田はそれを見て、感じる事が出来た。

だからこそ、確信を持ってそう烏養に対して呟いたのだ。

 

 

「ああ」

 

 

そして、烏養もそれを肯定する。

 

 

「反撃の狼煙の一本だ」

 

 

 

烏養は、じっと山口を見た。

前回とほぼ同じパターン。スコアこそは違うが、火神の軌道と山口の軌道の違いで揺さぶり、点を獲った。

だが、ここからが本番でもある。

 

 

「(さぁ……2本目だ。落ち着いてけよ)」

 

 

前回、山口は最初の1本で精根使い果たした……とまではいかないが、会心の当たりは続かなかった。ジャンフロの一番の武器である無回転。それが1つのミスで緩やかな回転が掛かってしまい、冷徹に処理された。

 

でも、だからと言って消極的になってしまっては元も子もない。

 

 

 

「(思いっきりだ。思いっきり行けよ~~~、山口~~~!)」

「……大丈夫だと思いますよ」

「?」

 

 

念を送る菅原に対して、縁下が声をかけた。

 

 

「山口とのサーブ練、一番付き合ったの俺なので」

 

 

ここで後ろ向きな思考に陥る可能性だって当然ある。

前回のミスがフラッシュバックしても不思議じゃないから。

正直ミス……と言う程のミスではないが、それでもこのレベルでのそれは命取り。ただのチャンスボールにしてしまったあの場面は山口の脳裏に刻まれている。

 

 

「サーブで逃げるくらいなら、前のめり。………よく、そう言ってました」

「そっか……。ま、サーブ以外も逃げるのは止めだべ。後でしんどくなる」

「それは……耳が痛いですね」

「ふふ」

 

 

縁下も菅原も本心では山口の事を心配していない。

ただただ、エールを送り続けるだけだ。コートの外であっても力になれる様に。応援(エール)だって、気休めかもしれないが、力になれる筈だから。

 

 

 

そして―――山口は深呼吸を1つした。

 

このバレーボールと言う競技においてサーブとは唯一の個人技であり1人舞台。

その舞台では光にも影にも慣れる。……光輝けるか否かは己の力量次第だ。

今、この瞬間だけは後ろ向きな考えは一切しない。ただただ、決める事だけを考える。

決まった光景を目に焼き付ける。

 

 

「――――もう、一本!!」

 

 

山口は先ほどとまったく同じ、イメージ通りの動作でサーブを打ち放つ。

唯一変えたのは、狙い目。……如何に先ほどサービスエースを取れたとて、向かった先が守備専門(リベロ)なんて以ての外。

 

狙いは、攻撃の要であり調子を上げている男であり、尚且つ―――勢いを削ぎたい相手でもある京谷だ。

 

 

 

「入った!」

「間違いなくIN!」

「京谷だ!!」

 

 

 

―———狙い通り……いった!?

 

 

 

あまりにも出来すぎてる!? と自分自身でも驚きそうになるが、どうにか噛み殺し、相手の出方を窺う。

 

京谷はじっと(ボール)を見据えて補足する。

先ほどの軌道もハッキリと頭の中に入れていく。絶対に捕る! と気合を入れたその瞬間。

 

 

「!!?」

 

 

つい先ほどまでは、落ちる方に強烈に変化した(ボール)が、急激に伸びてきた。それもインパクトの瞬間に。

 

 

「ッ———!! くっそがぁ……!!?」

 

 

伸びる(ボール)に対して、接地面積の狭いアンダーハンドは不利だ。京谷の肩先を掠める形で飛んできて、そのまま後方へと弾きとんでいった。

 

つまり――――

 

 

 

『サービスエース2本目————ッッ!!』

「―――ッッ!! よしっっ……!!」

 

 

 

烏野本日初。

火神も、影山も成していない連続サービスエース、山口が今成し遂げた。

 

 

22-21

 

 

「おしっっ、おおっしっっ!!」

「おおおお!! やりましたぁぁぁ!!」

 

 

コート内外問わずに大はしゃぎ。

烏養も何度も何度もガッツポーズをし、武田は両手を上げて万歳三唱。

日向と西谷はまた出ていきそうになったが。

 

 

「「解る!! でも、学習しよう!!」」

 

 

菅原&縁下コンビに遮られて、更に先ほどよりも勢いがついてたので、成田も参戦して足止め。結果2人はコート内に突入する事なく、その場で足をバタつかせるだけに留まっていた。

 

 

山口のサーブの上達速度はまさに目を見はるモノがあり、声を出しつつも同じ種のサーブを練習を続けている木下は息を呑んだ。日向や西谷の方には目を向けず、ただただ山口を見て思う。

 

 

―——俺も、絶対……。

 

 

山口は後輩かもしれないが、それでも憧れの視線を向けずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごっっ!!? なんなのっ!? 誠也のサーブと似てるケド何が違うっての?? どう凄いのっ!?」

 

 

冴子はただただ点を重ねた事に驚き、喜びつつ疑問も口にする。

ジャンフロに関しては、火神も同種のサーブを打つので初見と言う訳ではないが、連続サービスエースを見て、改めてあのサーブの特性が気になった様だ。

 

 

「忠や火神が打つジャンプフローターサーブって言うのは、(ボール)を無回転で、尚且つジャンプで勢いをつけて打つサーブ……って所まではOK?」

「もち! OK」

「んじゃ、続き」

 

 

そして解説おじさんとなった嶋田がここで説明に入ってくれる。

 

 

「あのサーブの最も凶悪な所は、無回転で迫ってくるから軌道が変わったりブレたりする所なんだよ。……んで、火神のジャンフロと山口のジャンフロの差は、体格的にも打点的にも火神の方が上手だから基本的に威力かな? ……そのサーブで今まで慣れてきた所に、忠の様な威力の違う、それでいて最高に嫌なブレを起こすサーブが来たら……? そりゃ、手元だって狂うよ。野球で言うチェンジアップみたいなものか」

「おおっ!? つまり、同じサーブでも中身が全然違って、忠のサーブに相手が慣れてない、って事か!」

「そ。そんな感じ。……ぶっちゃけ、俺も受けたくない。火神の連発された後に忠のって……」

「だな……。つっても、練習試合ん時受けなきゃいけないが……」

「うへぇ……」

 

 

町内会チームとして、何度も練習に付き合ってる嶋田や滝ノ上の2人だからこその感想でもある。

 

火神のジャンフロも当然取りにくい。最高に取りにくい。気づいたら目の前だし、スパイクサーブの事も考慮しなきゃダメだから猶更だ。

でも、ここへきて山口の球速の劣るサーブは、良い具合に相手を惑わす事が出来ている。

 

たら、れば、にはなるかもしれないが、山口の1球目のIN。アレがもしも火神の勢いのジャンフロだったとしたら、アウトになっていたかもしれないし、リベロの渡もジャッジをするよりも獲る方を優先させていたかもしれないのだから。

 

 

 

 

『山口ぃぃぃ!! もう、い゛っっ ぽォォォォン!!』

 

 

 

 

 

熱が上がるにつれて、更に背を押される感覚がする。

この熱に身を委ね、怖れる事なく前へ進め……。

 

 

山口は再び8秒間たっぷりに時間を使って(ボール)に思いを乗せて、打ち放った。

 

無論、熱を帯びるのは烏野だけじゃない。

これ以上離されてたまるか……! と言う凄まじい圧が、青葉城西にも発せられる。

過小評価していた訳じゃない。前回、同じく山口にサービスエースを決められた苦い記憶が頭を過るが、決して後ろ向きには考えない。

 

 

『サッ、来ォォォォォイ!!』

 

 

必ず獲る。それだけを考える。

ジャンフロの攻略法を改めて認識。

京谷は、まだまだ経験が浅かった。凶悪無比な火神のジャンフロを受け続けてきたんだ。この山口も同格だと思って迎え撃つ。

 

 

「俺———だ!!」

花巻(マッキー)ナイス!!」

 

 

ジャンフロの攻略法。

あの魔球的なブレが始まる前に、面積の大きいオーバーハンドで(ボール)を包み込む様に取る。威力が火神のソレと違って無い分、弾かれる事も無い。渾身の力を指にこめて、迎えこむ。

 

 

それはまさに完璧なレシーブだった。

最高の形で青葉城西の攻撃が始まる。

 

乱す事なく、及川と言う司令塔に正確に返球され、高揚し、攻勢を強めていた筈なのに、あっという間に命を狙う側から狙われる側に回ったかの様な恐怖に見舞われる。

 

 

―——恐怖??

 

 

一瞬頭を過ったが……、直ぐに空想上、想像上の山口(自分)は笑い飛ばした。

 

 

この程度の恐怖なんて――――あの時のアイツ(・・・)に比べたら児戯みたいなものだ。

 

 

 

及川がここ一番で、点を獲って流れを断ち切りたい時に使う相手は誰か?

決まっている。

 

松川、花巻の速攻を見送り―――後方にて走りこんできた岩泉に上げる。

 

 

『バックアタック!!』

 

 

声に反応して、月島と田中がブロックに跳んだ。

リードブロックを徹底していた為、フラれる事なくマークする事が出来たのだが、極めて岩泉は極めて冷静に、月島より比較的高さが低い田中の方を狙い撃つ。

 

ドンッッ!!

 

豪快に放たれた岩泉の一撃は、2人のブロックを切り裂き、コート上に叩きつけられる――――筈だった。

 

 

「うグッッっ!!」

 

 

でも、その未来は訪れない。

乱暴に、極めて強引に、その強烈なスパイクに対して立ち向かった男が居たから。

そう、山口だ。

お世辞にも、レシーブが得意と言う訳ではなく、エース級相手のスパイクをノーブロックで拾い上げるなんて、狙って出来る訳がない。でも、臆せず前に出た。……思いっきり前へ前へとツッコんだ。こうなれば技術もクソもない。

身体の何処かに当たれば良い、と言う判断で時速120㎞はありそうな豪速球(スパイク)を前に、一切躊躇せず、身体ごとぶつかりに行ったのだ。

 

 

「―———かっ……(ま、まだ。……まだだ!)」

 

 

現状、自分が輝けるのは、力になれるのはピンチサーバーの時。

サーブを打つこの瞬間だけ。

だからこそ―――。

 

 

『まだ、サーブ権は渡さない!!』

 

 

 

 

熱の籠った一球だった。

身体の芯が熱くなる。……まるで雷が直撃したかの様に、烏野の誰もが痺れた瞬間だった。

 

 

『ああ、解る。その通りだ――—!』

 

 

そして、その熱い熱い渾身のプレイに応える様に動き始める。

 

 

「ナイスレシーブ————」

 

 

その熱い想いを、繋げる為に……得点に繋げる為に、前へと駆け出す、……飛ぶ。

 

 

 

「―――忠ッッ!!!」

 

 

 

山口が上げた(ボール)に向かって駆け出したのは火神だった。

上がった(ボール)の位置は、丁度コートの真ん中(センター)。アタックラインの外側。本来であればセッターである影山がセットアップに入る所だが、影山自身も何かを感じたのか、火神の判断に任せた。

 

助走し、跳躍———つまり、ここでバックアタック。ツーアタックで返すつもりなのだ。

 

まさに意表を突く攻撃、奇襲と言える。

山口が上げた場所が偶然火神が一番近く、程よい高さだったからこそできる強襲。

 

 

でも、山口の渾身のレシーブが齎した熱が作用したのは何も烏野側だけじゃない。

あの気合の入った、いや根性入ったレシーブ、それも今日調子を最も上げていると言って良い岩泉の一撃(スパイク)を上げたのだから触発されない訳がない。

 

 

「返ってくるよ!!」

「ブロック!!」

 

 

誰もが警戒心Maxだ。

花巻も、松川も、及川も、全員が一致団結して目の前の強襲を止めようと集まり(ブロック)を作った。

 

3枚ブロックだ。間は抜かせない、ワンタッチ狙いにも十分注意。……絶対に止めてやると3人共が意識を共有したその刹那の時、確かに見た。

 

 

「――――――」

 

 

火神の口元に笑みが浮かんだのを、確かに見た。

さっきの山口のレシーブに感じたソレとはまた違った感覚が……、ゾクリ———と冷たいモノが背に走った瞬間だった。

 

 

火神の口端が緩やかに上がる。ハッキリ見える。まるで世界がスローモーションになったかの様に。

スパイクフォームで跳んでいた筈の火神の空中姿勢が徐々に、確実に変わっていく。それは今から一撃(スパイク)を放つ為の動作(モーション)……と言う訳ではなさそうだ。

 

さいっこうに、嫌なモノを……また(・・)魅せられる。

 

 

振りかぶっていた右腕が、前面に構えていた左腕が、夫々が示し合わせたかの様に合流を果たすと、山口に託された(ボール)を打つのではなく、緩やかに優しく包み込む様に両手で包んだ。それがフェイクセットである、と悟った時にはもう遅い。

 

火神と同じく、或いはそれ以上。熱を受け、コートの外で餓えて餓えて餓えて――――暴れたかった男が、打ち合わせなんかしておらず、サインも出していないのにも関わらず、入ってきていた。

ライト側へと走りこむその姿を視界の中で火神は捕えていたとでもいうのか、鮮やかなセットアップは、まるで吸い込まれるかの様にそこ(・・)へと放たれる。

 

 

『田中!!!』

 

 

ドンッッ!!

 

全てを置き去りに、渾身のフェイクセットの最後を彩ったのは、最高に餓えた烏、田中。

 

 

 

22-22

 

 

 

この第2セット終盤。

烏野、青葉城西に追い付く。

 




使ったモノ、それはフェイクセット!
懐かしいです! 確か、田中センパイと決めたのも青葉城西戦でした!!


……でも、流石にあの圧巻なアンダーフェイクは………苦笑


これからも頑張ります!!

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