王様をぎゃふん！ と言わせたい

第174話 青葉城西戦Ⅱ⑩

遅れてすみません！
何とか1話分出来ましたので、いつもより少々長いですが投稿いたします。



GWは超忙しかったデス…………

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「烏野……ここへきてまだ新しい事をしてくるか。……正直厄介だぞ」

「ああ。元々火神がいる時点で常にツーセッターの役割も果たしてる感があったけど、生粋のセッターであるあの菅原(2番)が入るとまた違うな。影山がスパイカーで積極的な攻撃参加をしてくるとは思わなかった」

「うんうん。………ほんと、面倒くさいよね」

「面倒くささで言や及川には負けるがな」

「そうそう」

「以下同文」

「って、どっちの味方なのさ！？？」

IH予選(あの時)、火神と言う大きな大きな存在が抜けた穴を突けば崩れる、と頭の何処かでは思っていたのに、決して気を抜くなと言っていたのに、最後の最後までと口に出してはいたのに……それでも目を血走らせた獰猛な烏は止まらなかった。

今も同じだ。

相手が1セット目を獲ってて有利な筈なのに、そんなのは一切関係ない。

前を少しでも飛ばれる事を極端に烏は嫌う。

そして、次の瞬間にはまた新しい何かをして首を狙ってくる。

「菅原(2番)を入れた意図とその狙いが分かった。攻撃も厄介。……じゃあ、今する事は？」

「うん、それは勿論。―――外すわ」

「だな。頼んだ」

でも、何をしてこようとも こちらには関係ない事だ。

前回同様に飛ぶ烏を、この化け烏たちを落としてみせるだけなのだから。

1点差へと迫った怒涛の連続得点に沸き立つ。

青葉城西は流れをきる為にタイムを獲ったが、期待値は高い。

菅原の起用はウマく嵌り、烏野の強さの幅が変わってきたのが良く見えた場面でもあった。

最早言うまでもないが、OBとして滝ノ上も嶋田も強く思う。

ベンチ要員は単なる補欠じゃない。

チーム一丸となって戦う。コートの中と外、共に強くあれ。と。

ただ、青葉城西もただ黙っている訳でもなければ、連続得点(ブレイク)に動揺している訳でもない。

ただ淡々とすべき事を熟す。それでいて外には見せない熱い炎をその身に宿らせる。

負けてたまるか！！　と言う強い強い想いを。

「スガさんも1本！　ナイッサァー！！」

「「「ナイッサぁァァ！！！」」」

タイムアウトも終了し、菅原は定位置へと戻った。

球(ボール)を受け取り、澤村や東峰、火神、日向、影山とアイコンタクトを取り再び集中する。

自分のサーブで相手を崩す。嫌な所に打つ。強烈なサーブを打つ事は出来ないし、魔球みたいな変化球を打つ事も出来ない。それでも、出来る事がある。今持ってる力と頭を駆使して出来る事は必ずある。

二度、三度と球(ボール)を打ち付けつつ集中力を高め―――主審の笛を待った。

ピ―――……と鳴り響く笛の音を耳で確認すると深く深呼吸をして、改めて狙う場所を視認。

そして、フローターサーブで狙いを定めて打ち放つ。

無論、狙う箇所は京谷がいる方向。

今の青葉城西の攻撃の起点の1つであり、主力にもなりつつある京谷の初動をサーブで牽制、そしてイラつかせたり等の雑念をも植え付ける。元々繊細なプレイヤーではなく本能の赴くままにするタイプであるから、ちょっとした切っ掛けであっても効果はある筈だ。

それが狙いだったのが……。

「よっしゃ、俺だ俺！　オーラァイ！！」

京谷は一歩引き、サイドラインの外へまで出て、守備から外れ、その代わりに花巻が守備の穴を埋めるべく動いた。

「（……思ってた通り。16番をサーブレシーブから外してきたか……。それでも対応が早ぇなやっぱり！）」

タイムアウトの際に、青葉城西がどう対応してくるか、についてある程度話はしていた。

京谷を狙う作戦こそは変えないが、あの青葉城西がそれを易々と許し続けるか？　この連続得点でより集中力を挙げて対応、対処してくるのではないか？　と言うのが大方の予想。

でも、もう少し位は打たせて貰いたかった、対応するのが早い！　と言うのが菅原の心情。

そして、そのレシーブの穴を承った花巻には花巻の強い思いがある。

どんなに練習を積み重ねても、ある程度以上に突き抜けるには、どうしても持って生まれたモノがモノを言う。悔しいがどんな綺麗事を言おうが、時間は等しく平等である以上、同じく練習をしている以上、才能や恵まれた身体と言う理不尽な言葉で片付けられてしまう。

自分達だけでは、まだまだ攻撃力が乏しい。

白鳥沢は勿論、間違いなく烏野も攻撃力では間違いなく県内トップクラス。

そんな相手に追いつくには、京谷に実力を発揮して貰わないと困る。

自分はこれ以上あげる事が出来ない、と暗に認めてしまうのは正直腹立たしいし、悔しい。

でも、それはそんな考えは試合前までの話だ。

今はチームの為に。勝つためにしか今は考えていない。

「――――アァッッ！！」

「くっっ！！」

「ぁっ！！？」

京谷と言う新たな刺激。

攻撃の為に入ってきたのだから、存分にそれを発揮させてみせる。

活かしてみせる。

烏野の得点はここまで。

京谷の強烈なクロスが烏野のコートを穿ち、青葉城西の得点。

「オッシャ！」

「―――っス」

【いいぞいいぞケンタロウ！　押せ押せケンタロウ！！　もう1本！！】

それは嫌な流れも、嫌な空気も全てを吹き飛ばす。

花巻もそうだが、京谷自身からもそれを感じられる。そんな勢いと気持ちの籠ったワンプレイだった。

「青城の全体的な対応の速さもそうだが……、やっぱ3年ともなれば、1つ1つの何気ないプレイでも、球(ボール)に乗せる並々ならぬ思いっつーのが解るもんだよな」

「確かに………まだバレーに携わった日の浅い僕でも、それは解ります」

今日を最後にしたくないのはお互い様ではある。

青葉城西は白鳥沢に負け続けてここまで来ているのだ。因縁の長さで言えば自分達烏野よりも長い。

京谷への球(ボール)を処理したのは花巻。

菅原のサーブは精密さはあれど威力は見込めない。青葉城西の総合力の高さを以てしてみれば、容易に上げる事が出来るだろう。ただ、何気ないサーブレシーブにしか見えないかもしれないが、烏養は勿論武田にも芯の強い決意が見えた気がしたのだ。

でも、負けられないのはこちらも同じ。

こちらの3年生たちも同じ。

落ちた強豪と呼ばれ、敗北を重ね、涙を堪え、歯を喰いしばり前へと進み続けてきたのだ。

「翔陽、今のブロック間が結構あったぞ。飛雄はストレート閉めてたから、翔陽がもっと寄るべきだ。間もっと閉めてこー！」

「うっがっっ！！　ごめんっっ！！」

「ああ、でも横っ飛びするくらいなら真っ直ぐ上に跳べよ？　それか俺の時みたいに、飛雄にぶつかってく勢いでも良い。……飛雄はそれでもいけるだろ？」

「当たり前だ。そもそも、こんなチビにぶつかられるくらい何でもない。鍛え方が違うんだよ」

「！！！」

3年の澤村を中心に築き上げてきた烏野と言う土台に、本当に頼りになる最高の仲間たちが集った今こそが最大の好機なのだから。

それはそれとして、影山の(余計な、或いはいつも通りな)一言で、バババババ！！　っとやり合ってる2人。

感慨深い烏養達の事など知る由もない。

勿論、苦笑いをしつつもそんな2人をキッチリ引き締めるのは火神だ。

「ここ、勝負所だぞ………！」

落ち着けているのは良い。

気負いも見たところ無さそうだ。

期待せずにはいられないが、それでも青葉城西の背はまだ遠く感じる烏養だった。

菅原は苦虫を噛み潰した様に顔を顰める。

此処へきて京谷が確実に調子を上げてノってきているのに、こちら側が委縮する訳にはいかない……要らぬ心配ではあるだろうが、どうしても思ってしまう。

そして何より……。

「くそ……、同点までは持っていきたかったな……」

もっともっとコートに居たかったと言う気持ちも強い。

菅原はここでお役御免となったからだ。

月島と交代してコートを離れた。

※月島は更に西谷と交代してベンチのまま

どうしても悔いは残る。あと少しでもサーブの威力が強かったら？　もう少しサーブの狙い目が際々だったら？　と悔しそうに、18-16となっているスコアボードを睨みつけていた。

それに菅原の想像の中では、シミュレーションの中では同点～逆転の流れまで出来上がっていたから。

「スガさんナイスっス！！」

「「「ナイスでーーす！！」」」

西谷を始めとする2年生全員がそんな菅原を労う。

飽く事の無い試合への欲求に尊敬の念を向けながら。

そして続くは青葉城西・岩泉のサーブ。

『いけいけハジメ！』

『ナイッサーーー！！！』

「―――――ふぅ」

この試合中で覚醒でもしたのか？　まだまだ先があると言うのか？　と見紛う威力。回を増してく事に威力・精度共に上がってきていると錯覚してしまう。

間違いなく岩泉の調子は良い。それに加えて及川への負けん気もプラスされてより凶悪な代物へと変貌しつつあるが、もう何本も見て体感して、そして修正しつづけてきた。

攻撃力が増してきているのであれば、こちらも守備力を上げれば良い。……それだけの事なのだから。

「(1本で―――きる！！)」

サーブ一連の動作がしっかりとハッキリと見える。……解る。

そして、打ち放たれた強烈なサーブは、澤村渾身のサーブレシーブによって阻まれた。

「ナイスレシーブ！」

「うおおお！！　ナイスレシーブ！！」

『ナイスレシーブ！！』

岩泉のハジメ声援(コール)を全部ぶんどって横どった、と言っても全然かまわないレベルの大声援が澤村へと向けられ、送られた。

渾身の当たりだったのだろうか、当然面白くない岩泉は、思いっきりイラつく顔を見せたが、それでも直ぐに引っ込み守備位置へと戻った。

「さぁ――――――」

烏野の攻撃が此処から始まる。

影山へとＡパスで返った以上、いや影山の超精密なトスは多少崩れた所で問題なく強引且つ正確に何処へでも上げてくるので、選択肢が多すぎて頭が痛くなってしまう展開だ。

本来ならば前衛で駆けまわっている日向へと意識が多少は向けられる。

囮にかき乱されて、ある程度は耐性が付いてきて対応できる様に青葉城西もなっているが、完全に無視する事なんて出来る訳がないから。

だが、今回ばかりは多少勝手が違う。

『やり合おうよ』

―———ゾクッッ

勝手が違うのは前衛の京谷の意識。

今回、日向には意識が向かず、眼前の突っ込んできている火神に意識が無理矢理向けられてしまったのだ。

非常にこの上ない好戦的な目。常に並走してマラソンさせられている様な奇妙な感覚。そして何よりも、この男には負けたく無い、とどうしても思わされる感覚。

京谷の野生な感覚は、火神のその誘いに対して無視できるわけもなく、殆ど球(ボール)を確認する事もなく、直感(ゲス)で火神に対して喰らいついた。……喰らいついてしまった。

「ぐッッ―――！！！」

その時間にすればほんの僅かな時の狭間ではあるが、影山は見逃さない。

まだ自分の手から球(ボール)が放たれていないのであれば尚更。

確かに日向を囮にして、火神に上げるのがベストだと考えていたが、この一瞬で選択を変えた。

「――――ァァ！！」

「くそっっ！！」

そのまま突っ込んでくる日向に対してトスを上げたのだ。

金田一がそれにどうにか気付いて跳び付くが、1枚ブロックになってしまった以上日向の方に分がある。

そのままブロックに掠る事なくコートに叩きつけられてしまった。

「おっしゃあああ！！」

「日向ナイス！！」

「ナイスキーーー！！」

18-17

これ以上離されまいと青葉城西へと追い縋る。

「翔陽ナイス！」

「おうよっ！！」

火神と日向もハイタッチを交わした。

そんな火神の横姿を影山は目で追う。

あのセットの瞬間……、最後の最後まで迷った。

この試合中初めて、日向よりも火神の方が囮として機能しているのでは？　と影山は思ったからだ。日向の気迫が衰えている訳ではない。寧ろ、あの京谷が入ってきた事で何等かの意識が向けられ、向上していってると言っても良い。だからこそ、攻撃が綺麗に決まっている、嵌っているのだから。

火神は規格外。自分も認める同級で最も凶悪(失礼)なプレイヤー。

それはセッターにさえ球(ボール)を持ってこさせる(・・・・・・・)。

改めて実感する。

「――――――フッ」

影山は笑った。

今はまだ圧に呑まれそうになってる自分も居るが……それをもし自在に操れるとすれば……？

想像するだけで楽しくて、楽しくて仕方ないのだ。

そんな影山の笑み？　を見た日向は身震いして『こえーーよ！！』とツッコミ、影山は自分が笑っている事に気付かなかったのか、突然の日向の怖い発言にムカつき突き飛ばす。

「………ああ、よく解るよ、チビちゃん」

そんな影山の笑み。

気付いたのは日向だけじゃない。

及川も同様だ。

「怖いし、ほんと気持ち悪いよね」

続く烏野のサーブ。

今度は烏野のビッグサーバー連発だ。

1発目は影山。青葉城西にとっては頭を悩ますローテ。

そして青葉城西とある意味構図が似ている。

影山も負けん気が強く、そして理想的とも言って良い競争相手が直ぐ傍に居る。

そんな男を見続けているから、より高くより強く、回数を重ねるごとに凶悪な代物になっていくのだ。

ならば、青葉城西側はどうする？

考えるまでもない。答えはもう決まっている。

する事は、烏野と何ら変わらない。

澤村が上げて見せた時と同じ。

相手の攻撃力が上がり高まり続けているのであれば、こちらも同じく守備力を上げ続ければ良いだけの事。それ以上の気概と気合を以てぶつかるだけ。

何処までも付き合ってやる、と言う事だ。

「岩ちゃん！！」

「オオッシャアア！！」

放たれた影山の弾丸サーブ。

腕に感じる痛みは、及川のソレと比べても遜色ないと評価しても良いかもしれない。

だが―――。

『甘ぇ！！』

コースが甘い。これでは気合が入ってる岩泉を崩すまでには至らない。

「ナイスレシーブ！！」

「狂犬ちゃん！　こい！！」

及川が敢えて京谷の名？　を呼ぶ。

それは声のフェイントか？　と一瞬考えたが、そうではなく真っ向勝負で京谷が切り込んできた。

「次は触――――ぃっ！？」

相対するは日向。

でも剥き出しの牙が見えるかの様な京谷に対して、日向は一瞬だが怖気づいてしまう。

殆ど一瞬だが、その一瞬が明暗を分ける。

日向の反応速度ならワンタッチを取れたのでは？　と思えた火神・日向の2枚ブロックは日向側を打ち抜かれてしまった。

それは意図的にストレートを閉じてクロスに打たせた、と言う訳ではないから良いとは言えない。

「ぐっっ！！」

「旭さんナイス！！」

「旭、ナイスレシーブ！！」

でも、それをキッチリフォローして見せたのは東峰。

澤村の気合の入ったレシーブを見て、同学年として気合が入らない訳がない。

エースは攻撃だけじゃない。攻守ともに出来てエースなのだから……と東峰自身言い聞かせたい。

「くそっっ！！　すまん！　カバー！！」

「オレだ！！」

東峰のレシーブは見事Ａパス……と言う訳にはいかず、ネットを越えそうな勢い＋サイドラインを割ってアウトになりそうだった。

それを食い止めたのが澤村だ。届かない高さじゃない、と瞬時に判断。

助走し、ツーアタックの要領で跳躍、手を伸ばして球(ボール)に触れた。

そして、その球(ボール)は軌道を変えて、青葉城西側のコート内へと入る。所謂フェイント攻撃と言う形になったのだ。

「及川ぁぁ！！」

「うがっっ！！！」

フェイントに跳び付いたのは及川。

澤村の反応の良さを見て、もしやと思って身構えたのが功を成した。

もしも、アウトだと高を括ってしまっていたら、追いつけなかっただろうから。

強烈なサーブを捕る。

強烈なスパイクを捕る。

そしてフェイントもそう、後一歩、届くか届かないかのギリギリの距離、手を伸ばしてどうにか拾い上げたレシーブも、派手さは欠けるかもしれないが十分スーパーレシーブ。

それらを拾い上げる時、会場は一気に盛り上がる。チームの士気も上がる。

そして、チームに良い流れを齎す。

「渡っち！　頼む！！」

「ハイッ！」

そして流れる様に、及川なら絶対に獲ると確信していた様に、セッター出身リベロがアタックラインからの跳躍・セットアップをしてみせた

そして当然上げる相手は―――。

「翔陽。ビビるなよ」

「ッ！！　解ってる！！」

京谷だ。

不自然な程に京谷に集めているのは最早一目瞭然。セットは確かに上手いが渡は堅実なセッター。本職じゃないから仕方ないかもしれないが、ある種読み易い。

だから、淀みなく流れるセットで合っても、決まる！　と寸前まで想ったフェイントが拾われた衝撃が多少あったとしても火神と日向の2枚ブロックが追い付く。

そして、日向の本心部分をしっかりと読んでた火神は釘を差した。

例え2mの巨漢であったとしても、高さ勝負ならば、真っ向勝負ならば望むところ！！　な精神であるのは間違いないが、どうしても獰猛なオーラ？　怖い顔のヒト？　と言った京谷系統の圧力は日向にとってはある種の天敵なのかもしれない。

ブロックしている時、顔が強張り目を殆ど閉じかけていたのを火神は見逃さなかったのである。

「せーーーのっっ！！」

「ふんがぁっっっ！！」

今度こそ、日向はしっかりと京谷を睨みながらとんだ。

眼前の光景はまさに狂犬。今にも噛みついてきそうな眼光を向けられる。

最初こそ、狂犬って異名かっけーーー！　とテンション上がっていた日向だったが、その嚙み殺してきそうな顔面を至近距離で受けるのはキツイ。跳躍した時間は殆ど一瞬な筈なのにその眼力は脳内に叩き込まれるかの様だった。

でも、発破をかけられたのにも関わらず未だに怖気づくなんてあり得ない。

決死の覚悟で手を前に出し、目を瞑らず逸らさず、止める勢いで手を出したのだが……。

ガ、ガンッッ！！

例え逃げずの真っ向勝負だったとしても、まだまだ腕力は勿論、ブロックに関しても高さ重視だけで粗が目立つ日向のブロック。強引な京谷の一撃を抑え込む事は叶わず、そのまま日向の手に当たり、烏野内コートに叩きつけられてしまった。

『いいぞいいぞケンタロウ！！　押せ押せケンタロウ！！　もう1本！！』

影山のサーブを1発で切った。

相手に連続得点(ブレイク)チャンスを与えてしまったが、それを見事に跳ね返して見せた。青葉城西にとっては良い風が吹く良い流れだと言える。

「いや、今の見ても確信したわ。青城(向こう)絶対16番に攻撃集めてるよな？　不自然なくらい」

「……ああ。オレも思った。青城のリベロがトスワーク他より断然上手いのは解ってっけど、あの場面で敢えて背面(バック)トスだもんな。普通にレフト、センター線も空いてたのに」

試合の全体を上から見ていたからこそよく解る。

どの場面でもそうだが、他にも選択肢はあった。なのにも関わらず京谷に集めている傾向が見て取れる。

確かに存在感は、これまでの青葉城西の中でも異質だと言って良いモノを持っているし、攻撃力が高いのも頷けるが、だからと言って止められない訳ではないし、強引に撃ってくる感があるので、ミスも見られる。

それでも尚、京谷に集める理由……。

「あの及川の事だ。16番に注目させといて他を活かすって手段を取ってくるだろうな。……それがどのタイミングかは解らんが。今でも結構ピンチだろうに。1セット獲られて、1点差まで追いつかれてるし」

「……かもな。確かに。日向とも火神とも違ったインパクトがある。身体能力で魅せてビックリさせる、高等技術で魅せてビックリさせる、そんで注目を集めるのがあの2人だ。……でも、16番は何って言うかこう……野生？　ってのを感じるな」

「捕食者だ～～！！　ってか？　そりゃ、日向は思いっきり釣られそうだ。…………気ぃ、引き締めてけよ」

青葉城西の真意、及川の真意はまだ解りかねるが、一挙一動を見逃すまいと言った勢いで、冴子や谷地に対しての解説をも忘れて、滝ノ上や嶋田は試合を見据えるのだった。

「次、次見てろよ誠也！　どんなに狂犬に球(ボール)が集まってきても逃げねーし、騙されねーからな！！」

「おう！」

パンっ！　と手を叩き合い、守備位置に着く。

【サ、こぉぉぉい！！】

次のサーブは金田一。強烈なサーブが順次続いてきたから箸休め……とは考えない。

如何に威力が無くとも全身全霊、集中力ＭＡＸで対応する。

「火神！」

「オーライ！」

火神を牽制する為か、威力は無くとも狙う精度は高い金田一のフローターサーブは火神の方へと飛んでいった。

初動を抑える役か、と思わなくもないが。

「飛雄！」

「！」

ただ狙っただけのサーブで牽制出来る。

狙った相手に獲らせる事で牽制出来る。

―——それだけで抑えられるとは限らないのだ。

それをここで証明しよう。

火神は敢えて深め位置で陣取っていた、金田一がサーブを打った瞬間も位置を僅かだが調整。そして助走する勢いで金田一のレシーブに向かって前へと出たのだ。

アンダーで球(ボール)を捕らえつつ、勢いも良い具合に殺す。加えてその助走の勢いは決して殺さない。上半身と下半身の巧みなバランス操作。

「「「！！！」」」

皆の視線を置き去りに、火神は跳躍。

機先を制し、速攻は無いと勝手に思っていた為、反応が遅れてしまった様だ。

影山はその姿を見て、誰を使うか寸前まで悟られない様に努めていた筈なのに、あの一瞬で火神に上げる事が最適である。ここは火神に上げるのが最高である、と考えるよりも身体が先に反応した。

そのまま入ってくる火神に対してAクイックで球(ボール)を託した。

ドパンッ！！

と打ち抜いた球(ボール)は、サーブを打った金田一自身の傍で着弾。

牽制する為に、火神からの攻撃手段を単調化させる為に狙った筈だったのに。あまりにも鮮やかで滑らか、華麗で柔軟。ただただ言葉を失う。

だが、周りはそうはいかない。

『うおおおおおお！！』

『自分で獲って自分で速攻かました！！？』

「っっかーぁぁぁぁぁ！！　自分潰しに来たの逆手に取ったな！　今！！」

「すげーーすげーーー！！　助走とレシーブ、同時にやっちゃったって事かよ！？　いや、打った瞬間の後ろ下がったあの位置取り(ポジショニング)とかも最高かよ！？　幾ら威力は無いっつっても、空間認識能力半端ねーな！！　相変わらず！！」

「え！？　えっ！？　なになに？？　どゆこと！？」

「か、かがみくん、ナイス！！」

やんややんや～～！　と場が盛り上がりを見せた。

それは青葉城西に向いた嫌な流れ、嫌な空気をまた引き戻した様な感覚だった。

ここでも、解説おじさん(お兄さん)ポジションを忘れてただただ興奮して叫ぶ滝ノ上と嶋田。

置いてきぼりな冴子と谷地は、よく解らないながらも声を上げ続けるのだった。

「スゲェっ！！　スゲェぞ火神！！　ナイスだ！！　よく勢い殺さず打ち抜いた！！」

ガタッ！　と思わずベンチから立ち上がってガッツポーズと拍手喝采を向けるのは烏養。

本来、レシーブ直後の助走とは困難なモノでワンテンポ遅れが生じるモノだ。

だが、火神は助走とレシーブを同時に行った。セカンド・サードテンポの時間差攻撃であれば問題ないが、ファースト・テンポで攻撃参加して決めてしまうのは並じゃない。

絶妙な体幹と腕の力、技術、そして何より攻撃意欲が高い事、全てが高い水準じゃないと成立しないだろう。

「すげーな！　火神！　今のメチャ難しくないか！？」

「オレ、今のヤツ、テレビで見た気がするわ！　アレやろうとするとレシーブが覚束なくなって助走どころじゃなくなるし、真似しようなんて思えないよ」

「自信満々に自信ない事言うなコラ、エース！　アレお前もやれ！　旭(エース)もサーブで牽制される事あるだろ！」

「うへぇ……」

澤村と東峰、そして火神もそれに応える様にパンっ！　とハイタッチ。

「いえ。らっきょへ……こほんっ。金田一があからさまに視線や体勢でオレの方を狙ってきてるのが分かったので。威力も然程ですし、……ちょっと裏掻いてやってやろう！　って。普通じゃ難しいと言うか、正直条件整ってないとムリですよ。それが整ったから出来た事なので。……ってそれより、飛雄サンキュー。いきなりで、合わしてくれたな」

「ッ……。いや、全く問題ない」

「ほほーう。謙遜してくれるな、ウチの1年リーダーは。エースと大違いだ。(今火神、金田一(アイツ)の事らっきょヘッドって言おうとしたな？)」

「やっぱ凄い。無理って言ったにしても十分凄い。オレも自信無いって思っちゃったけど、大地に言われるまでもなく、やらないとって気持ちがより強くなってくよ。(多分、日向の影響だろうなぁ……。火神が日向に影響受ける事って……まぁ、やっぱりある事はあるんだ)」

火神は確かに凄い。

正直、これまでのどの攻撃よりも度肝を抜かされたと思う。単なる威力じゃない。全てが揃ってないと出来ない鮮やかで華麗な芸当だから。

でも、それでも火神自身が評価するとすればやっぱり影山がヤバい、と言う結論になる。

今日初めて見せた速攻の形をああも寸分も違わずに手元まで球(ボール)を持ってくるのだから。

実の所、影山自身も驚いているので、修正すべき事だと認識している。

今のは自分で考えてあげたトスではない。セッターが司令塔ではなかった。スパイカーが主導した。思わず上げてしまった、と言う方が正しい。

……いや、それはそれで、あの精密さを維持するのだから十分凄いし、修正も何も無いのだが。

19-18

点差はまだ縮まらない。

後1点が遠く、先に20点代に乗られてしまうとより重圧を背負ってしまう。1セット目を獲った事実なんてもう考えてない。

でも、良い流れは生んだと思う。それくらいは調子に乗っても良いと思う。

後ろ向きになるくらいなら自惚れろ精神だ。

「ふぅ―――――………」

ここで火神のサーブ。

「さぁ、強いの来るよ！　一本で切る！」

【おおっしゃああ！！】

先ほどの一撃は、確かに度肝を抜かれた。

でも、それは一瞬で直ぐに修正に入る。

火神を狙って攻撃の手を遅らせる手段は有効。ただ、狙いを定め過ぎて安易で緩やかな球(ボール)にする事はNG。少なくとももっとコートの奥行を狙うべきだろう、と話はまとまった。

精神的な気落ちは一切ない。

ただ、獲られた事は仕方ない、と淡々と手を合わせあって切り替えてる。

頼もし過ぎてちょっと主将としてはちょっぴり悲しかったりするが、それはそれ、だ。

「(…………全然動じてない、か。やっぱり流石ッ！)」

そのチームの雰囲気は火神も感じていた。

サーブを打つ為に、相手コートを隅々まで見るが……その目を見れば十分伝わるから。

今の守備陣形は渡に岩泉、及川と高い守備力を誇る面子を後ろに揃え、京谷は守備不参加と言わんばかりにあからさまに距離を取っている。サイドライン、ギリギリの位置に居るから。仮にこの状態で京谷を狙ったとしたら……そのままアウトになる可能性が極めて高い。完全に攻撃に備えろ、と言う青葉城西の意思そのものだろう。

かくいう本人としては、どうやら不本意なようであからさまに表情を歪ませているが、その鬱憤を攻撃で発揮する事が出来るタイプなので、これも厄介極まりない。

さっきの火神のプレイも有ってか、熱烈な視線を向けてくるのもある意味では厄介。

厄介だからこそ―――良い。最高に良いとも言いかえれる。

「(さっきがジャンフロ。その前がスパイク。タイミングずらしも見せたし、小細工は使ってきた。もう、大分見られてる……か)」

この状態で安易にサービスエースを狙えるとは思えないし、そんな欲はそもそも無い。

発破をかけると言う意味では多様する事は会っても、基本的に彼らはもっと凄い(・・・・・・・・)と思い続けている火神にとっては、全力は出すと思っていても、その一撃で終わる様には元々思えないのである。……ある意味難儀な性格だろう。

それに加えて、青葉城西の守備は回数を重ねるごとに精度を増していく。まさにあの【守りの音駒】と同様のモノだ。

つまる所、後半になればなる程より厳しく難しくなってくる。

だからこその――――。

「火神ナイッサ――！！」

「ナイッサー！！」

正面突破。

火神はエンドラインより6歩進んで、技よりも力を全面に出すスパイクサーブを選択した。

そして、その動作を見た及川が軽く手で指示。

火神のスパイクサーブに備えて。

「(オレに来い、オレに来い、オレに来い、オレに来い！！)」

岩泉は自分に打ってこい、と目で火神を挑発する。

「(はぁ～～、せいちゃんターンってほんっと頭使うからしんどいんだよなぁ。………まぁ、負けないけどネ)」

及川もその独特な煽りフェイスで挑発する。

挑発の類は火神には正直暖簾に腕押しであると思っているが、それでも込める。

絶対に捕る、と言う絶対の自信を以て臨まないと、この男に喰われてしまう事を知っているからだ。

喰われる訳にはいかない。抗い、化け烏を仕留めてみせる。

「――――んァァァッッ！！！」

火神のサーブは文句なしな手応えだった。自分自身で満点に近い数字を与える事が出来るくらいの感覚だ。

球(ボール)トスから助走から跳躍から、何から何まで粗もムラも無かった。

青葉城西のコートへと勢いよく放たれる弾丸サーブに対し、青葉城西側は。

「―――渡ぃぃぃぃ！！！」

「くッッッ！！！」

渡が好反応を見せた。

文句なし、と謳った手応えだった火神の一撃を見事に拾ってのけたのはリベロ渡。

殆ど満点だと思っていたが、そもそもリベロに向かった、と言う時点、満点ではなかったか、と上げられた光景を見て火神は歯ぎしりをした。強く打つ事を重視していたのは確か。それでも修正すべきだと反省する。

僅かに乱れたが、殆ど許容範囲内。アタックラインよりやや外側、ライト寄り。高さは十二分あり。

この条件下であれば及川のトスワークは一切問題ない。

寧ろ最高だ。

「ナイス渡っち！　カンペキ☆」

思わず震えそうにもなる程に。

渡のスーパーレシーブを魅せられて、魅せてくれて、繋げてくれて、これでチームがノらない訳がない。応えない訳がない。

「！！」

そんな青葉城西のメンバーの中で特に異彩を放つのは京谷。

レシーブでお預けを喰らってしまった。

別にレシーブが不得手である、と言う事ではないのに、外されてしまった事に対する不満も何もかも全部を乗せて、そのまま全力で突っ込んでくるのだ。一回り大きくなった？　と錯覚してしまう程の勢い。

その圧力に対して、ピクリっ！　と京谷に反応を見せるのは日向。

でも、その刹那、松川が移動攻撃(ブロード)に走るのも同時に視界に捕らえた。

——京谷(16番)か松川(2番)か……一体どちらが来る……？

京谷の圧の中で、それに隠れる様に流れる様に動き出す松川。

悩みに悩んだ結果……日向は何処を意識して良いのか一瞬解らなくなってきてしまった。

リードブロックの基本、球(ボール)を追いかけると言うのを忘れてしまって。

それらの日向の思考をまるで見透かした様に及川は京谷を使う。考える思考を戻させない為に、最短にして最大の力を上から叩きつけさせる為に。

「くぅっっ！！！」

ヨーイドン！　で跳ぶ訳じゃないブロックに置いて、幾ら最高到達点が並み居る選手の中でも比較的高い位置に分類する日向と言えど、一瞬でも遅れてしまえばもう追いつけない。

ドパンッッ！！　と球(ボール)に触れる事さえ出来ず、京谷渾身のスパイクが叩きつけられた。

「ぐ――――ッッ！！！　(クソッ！　前出過ぎた！？？)」

外でブロックカバー・ディグに構えていた火神だったが、どうやら思った以上に角度があったようだ。

一歩前に出過ぎていたとも言える。だからこそ、中途半端な身体の位置で京谷の一撃を受けてしまった為、上手く捕らえる事が出来ず、そのまま外に飛ばされてしまった。

「…………………」

ジロリ、と火神を見下ろす京谷。

それは、あからさまなメンチ切りである。先ほどの攻撃の意趣返しか。……別に京谷を狙った訳じゃないんだけど、と火神は苦笑いしつつ手を挙げた。……こういう圧を、バレーボールの中で生まれる圧を向けられる事に関しては、嫌いではない。

何だかんだ言うが、火神だって負けず嫌い。意地と意地のぶつかり合いは、大好物だから。

「くっそ――――……！！」

今回は日向も目をハッキリ開けて見ていた筈なのに、釣られない様に気を付けていた筈なのに、完全に出遅れてしまったと歯を喰いしばった。

もし、今のスパイクに触れる事が出来て居れば、あの位置の火神は獲る事が出来たかもしれない。

もし、を考えだしたらどうしても悔しくなってくる。

「オッケーーオッケーー！　慌てない慌てない！　火神も今のナイスサーブだったぞ。今日一だった！　……んで、それでも捕られちゃもうしょうがない。相手がスゲー、だ。それじゃまず1本切ってこー！！」

「アス！！」

「ウゥアスッッ！！」

「おう！」

20-18

先に20点代に乗ってきたのは青葉城西だ。

影山・火神に続く烏野のビッグサーバーを全て1点で切ってみせたのは大きい。

それに加えて……。

「(よし……狂犬ちゃんも更にノってきたね)」

火神を吹っ飛ばしてやった事で更に一段階気合が入った、と言っても良い感じだった。

間違いなく意識していた相手に一発かました、点を決めた。先ほど決められた際は、思わず目を見開いていたが、直ぐさま取り返す事が出来たのは良い。あのまま失点を重ねて居れば更に悪い展開、更に今の攻撃を拾われでもすれば余計な力が入った意地になってミスを重ねたかもしれない。これ以上ない好ましい展開だ。

「(このセットを獲らないと負ける。……でも、獲れたなら一気に持っていける)」

厄介な相手からの一撃を引き摺る事なく、更に厄介な攻撃(サーブ)を1本で切り、その相手から点を奪った。リードを守っている。

加えて、気合と調子があからさまに増している京谷のサーブ。

まさに京谷にとってはこれ以上ないシチュエーションが出揃った。

続く京谷のサーブ。

球(ボール)が京谷に渡った瞬間からスイッチを入れて集中をする烏野だった……が。

「――――がァッッ！！」

想定を遥かに超えた一撃が放たれた。

並外れた、とまで及川に称される京谷の背筋と腹筋を贅沢に存外に使い、溜め込んで溜め込んで弾き出す一撃。まるでスパイクを叩きつけてくる様な一撃。

まだまだコントロールはおこちゃまに毛が生えた程度～と及川は言う。自分は勿論、岩泉や言いたくないが影山、そして火神にも及ばないだろう。

でも、エンジンがかかり、身体があったまり、ノリにノってきて、尚且つ様々な刺激、岩泉と言う名の刺激をも受けた京谷は今がまさに最高潮(MAX)。

覇気十分、気合と共に打ち出された弾丸サーブは、威力は及川、岩泉にも迫る。

そして、着弾地点は驚きのエンドライン上。

西谷・澤村もアウトである！　と両手を上げてジャッジする程際どいコース。

線審の判断が出るまでアウトだと思っていた程のモノ。

だが、結果はイン。

青葉城西の連続得点(サービスエース)だ。

京谷 賢太郎

青葉城西3人目のビッグサーバー、ここに爆誕。

「調子を上げれば……手が付けられない程凶悪になるヤツ……ってか」

そのサーブを見た烏養は思わず戦慄する。

青葉城西にとって、京谷は諸刃の剣である、と評価していた。勿論そう言った面はあるのだろう。試合中、明らかに合って無い、噛み合ってない所は見られたし、コミュニケーションも上手く獲っていたとは言えない。

だが、徐々に……確実に士気と調子を上げてきたのは見て解る。

全員があの問題児を支えて、乗せている。

「不自然なまでに球(ボール)を集めてたのは、攻撃力に期待しただけじゃなく、このセットの大半を掛けて、１６番(アイツ)の調子を上げてきたのか……！？　日向(ウチ)の様に囮として機能させる、ってわけじゃなく……！？」

いや、厳密に言えば囮だって十分機能しているだろう。

ただ――より、京谷の調子を上げる事によって、その囮としての機能も１２０％機能する事間違いなしだろう。

１セット目の様なミス、前半のミスがある内は、そこまで機能しない筈だ。……完成させてしまった、と言う事だろうか。

「いい流れが来ましたね……」

「ああ。岩泉の叱咤もあるが、及川も良く使った。……本当にあいつらは、あいつらも日に日に上へとあがっているな」

まだ２セット目は獲れたわけじゃない。

でも、ここを勝ち切る事が出来たならば、間違いなく第３セットで流れの恩恵を受けるのは自分達青葉城西だろう。

「京谷は元々が手のかかるスロースターター。精神的な面でも技術的な面でも。……だが、かかれば間違いなく強い」

及川の、或いは入畑の思い描いていたシナリオ通りに事が進行した、と笑みを見せるのだった。

「おいおいおいおい、今誠也が良いプレイして、ぶわーーーって盛り上がって良い感じだったってのに、向こうが盛り返してきたぞ」

「うひぃ……、あんなの当たったら弾け飛ぶ……砕け散る……」

嫌な流れは冴子にも谷地にも解るのだろう。

イケイケムードだった時は、このままストレートで烏野が勝つのでは！？　と思ったがどうやらそう簡単では無いらしい。……元々青葉城西側がリードしていたと言う事もある。

「ああ～～、もしこのセット落としたとしても、烏野は先に１セット獲ってるし？　次獲れば大丈夫大丈夫！　だよなっ！？」

「………いや、そんな簡単な事じゃないよ。寧ろ、ここで獲っておかないと。意地でも取り返した方が良い。このまま勝ちを攫った方が良い」

火神のあのプレイで大いに盛り上がった内の１人である嶋田は、先ほどまでは冴子たちの様に勝ち確ムードだったが、雲行き怪しくなったようで眉間に皺を寄せながら、話をしてくれた。

「試合の……特にセット終盤の雰囲気って、次のセットにも影響していく事がある。更に客観的に見て、烏野に追い風が吹くって思った火神の速攻、そしてサーブターンでブレイク取れなかったのも痛い。……余計に向こうが調子を上げる結果になった」

「ああ。並な相手なら、チームだったら、あの見事な速攻からのビッグサーブは１点追加パターンだ。流石は青城って言いたい所だが、こっちにとっちゃ嬉しくない。………何とか手は無いか？　繋心」

嫌な流れのまま、第３セットまで行くのは正直悪手。

このまま勝ち切れ。せめて、悪い流れは断ち切れ。

何か手はないか……？　とチラリと烏養を見たその時だ。

「おおおっっ！！？？」

冴子が突然拳を握り、振り上げた。

その視線の先には……。

「こっちだってあるに決まってるだろ。……攻撃特化型チーム編成ってヤツだ」

くるり、と向き直った先に、烏養に対して熱い視線を向けている選手が２名。

拳を鳴らし……視線を鋭くさせ、何もかも喰い散らそうか、と言わんばかりに闘志むき出しにしている男。

そして、嘗ての弱気な姿は完全に消失。比べ物にならない程の自信を漲らせている男。

『オレを暴れさせてください』

『オレに行かせてください』

「おう。解ってる。……こっから仕掛けてくぞ。田中、山口」