王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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どうにか3月中に更新………大変ですが、頑張ります!

4月は新人さんがやってきます……。1年って結構早いですね……...( = =) トオイメ目


第172話 青葉城西戦Ⅱ⑧

 

 

常に安定している青葉城西の中では異彩で異質。

不安定、と言う言葉がしっくりくる京谷の事を【諸刃の剣】だと称する烏養。

 

 

でも、コート上で実際に対面し、対戦している者達の京谷に対する評価はまた違った。

 

 

 

「やっぱし、かっこいいな! あの16番のアレ(・・)!!」

「あ?」

「…………」

 

 

そう声を上げたのは日向。

 

これまでの攻防で、日向は京谷については1つの結論に至った。

突如現れた青葉城西の異彩にして異質な存在。最初は綺麗な色だったのに、突然変わった感覚。綺麗に嚙み合っていた歯車を壊す様な異端者。

 

その身に纏うオーラは正しく【狂犬】の名に相応しいと思える。失敗を全く恐れないこの数合の攻撃もそう。

 

 

確かに失敗している様だが、それ以上に日向が思うのは【かっこいい】の一言だった。

 

 

「いきなり何言ってんだお前」

「あ~、アレ(・・)だよ飛雄。アレアレ(・・・・)。……翔陽もアレ(・・)って言ってたし」

「そんなんでわかるかよ」

 

 

影山はまだまだ阿吽……とまではいかない様だ。と言うより流石にアレアレ~では無理があったか、と火神は苦笑いをした。オレオレ詐欺じゃないのだから。

 

因みに火神がアレだの、ソレだので説明を終わらせる様な男だったか? とちょっとした疑問も影山の中では生まれていたりする。―――が、別に良いか、とその疑問は直ぐに影山の中で消していた。

 

実のところ、影山以外の他のメンバーは何となくでも察していたりもする。火神程ではないにしろ、日向とそこそこ付き合ってきているので見えてくるものがあるのだ。第一、火神自身が日向の習性についても口々に言ってきているからより解ると言うもの。

 

 

火神は頭を軽く搔きながら、影山に手早く説明をした。なるべく早口で。……只今試合中だから。

 

 

「翔陽は昔から形から入るタイプだったから。色んなの見ては同じ様な事これまでも言ってきたし。テニスの【スマッシュ】とかバスケの【ダンク】とか。だから、さっきの【超インナー】とか京谷(16番)の【攻撃姿勢(気迫)】とかに、カッコイイ! って反応したって事」

「……1番カッコイイのはセッターだ!」

「うん。飛雄がそう言うのも知ってた」

 

 

影山には意味不明だったようだが、火神には解る。

日向が何を考えているのか手に取る様に。

そして、まだまだ日も浅く付き合いも短いかもしれないが、当然ながら影山の事もよーく解る。セッターどこまで好きなんだよ! と無粋なツッコミなんかいらない。それが影山だから、だけで十分説明になる。……火神の中では、だが。

 

 

「だってよぉ! ほら! グインッ!! ギュンッッ!! って感じでカッコイイじゃん!」

 

 

冷静に自己分析されているのが分かった日向は、抗議気味な声を上げた。

 

普通なら、この手の絡みで気恥ずかしそうにしてもおかしくない。

実に的確に当てられたら尚更だ。事実、日向はこれまででも火神に心情を察知された事は何度もあったし、その都度顔を赤くさせる~なんて事は日常茶飯事だったから。

 

でも、何事にも例外がある様に、日向だって同じく例外がある。

 

そう、バレーボールの事に関しては別。恥ずかしいとかの気持ちよりも好奇心旺盛な面が抑えきれないのである。

 

 

「うんうん。だから別にオレ、否定はしてないって。確かに今のジャンプだって凄いし、身体能力の高さが伺える。それに何よりあの身体を反ってはじき出すスイングが脅威。……だから」

 

 

───凄いよな。

 

 

そう火神は日向同様笑みを零す。

日向も、それにつられる形でまた笑顔になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………きもちわるっ」

 

 

そんな2人を見て、もうじき前衛に上がってくる為待機していた月島は、何度目になるか解らない暴言と気味が悪そうな目で見ていていた。

自分自身でも色々と解っているし、思う所があるにはあるが、それでもどう考えてもやっぱり火神と日向の2人は似ている。

 

極限の場で、明らかに辛くしんどい場面でも、ああやって笑みを見せる。自然体でいられる。それでいて、結果も残している。

 

更に加えて、素直に対戦相手を持ち上げてる所も月島にしてみれば気持ち悪い分類。

相手を称賛する事は、調子づかせてしまう事だってあるかもしれないのに。

それ程までに余裕があると言うのだろうか? ……いや、それは余裕とは言わないだろう。理解不能だからこそ気持ち悪い、なのだ。

 

そして、今上げられた全ては、決して簡単な事ではない。

明らかにあの連中は、ニンゲンとは違うナニカ(モンスター)としか思えない。

 

 

「…………でも」

 

 

頭の中では解っている。

解っていても……身体が、精神がその結論を拒否する。それも何度も何度もあった事だ。ただ、少しだけ月島は周囲に隠すのが上手いだけ。

 

月島は渡されているナンバープレートを握りしめた。

 

 

───負けない。

 

 

口には出さずとも、まだまだ小さくとも確かに月島の身体、精神の中にある炎。

それを沸々と感じながら、ただただ手に力を込めた。

 

 

 

「……………へっ」

 

 

心地良い、と思えるのは烏養。

直ぐ横で、今より空高く、高くへと飛ばんと決意をしている。

 

そして、意識改革程難しい事は無い。選手それぞれのモチベーションまで向上させるのは、赤の他人には無理がある。だからこそ、月島は良い出会いをした。間違いなくそうだ、と烏養は確信を持ち、自信を持って言える。ちょっと前までは考えられないし、見えなかったこの月島の中で芽生えている炎。

 

今後も益々向上する。烏養は、そんな月島を横目に心強さと将来性の高さを思い、笑みを見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

「はい、カッコイイのは解ったし、同感だから、この話はここでお終い」

「なんでだよー! まだ影山納得してないっぽいぞ! セッターセッターって、そーいう話じゃないんだいっ!!」

「うっせーよ。セッターが1番な事実は一切変わらねぇよ」

「……いや、そろそろ怒られそうな気配がするから。主にお前達が」

 

 

試合中だ。そんな大きな声で話したりしてないし、こちら側の攻撃だからある程度の時間的余裕があるのは間違いないが、それでも過度なお喋りは頂けない。目に余る様なら主審から注意の声が掛かるし、何よりもその後が怖い……。

 

 

「いやだから、火神。オレ怒るキャラじゃないから」

 

 

烏野(ウチ)には、怒ると非常に怖い主将がいる。

あの田中でさえ怖いと断言する主将がいる。

普段は温厚で優しい頼りがいのある主将でも、怒るときは本当に怖い。身体の芯まで射貫く様な威圧感を出していてるのだから……。

だからこそ、一同は身を引き締めるのである。

 

 

「違うから! つーか、集中しろよ、お前ら!」

「ウス! と言う訳で、ほらほら! 次々!!」

「「アス!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野のそんなやり取りは当然青葉城西側にも伝わっており、それは及川にとってはある意味好都合な内容でもあった。どんなに幼稚で、擬音混じりな称賛でも、素直にチームの仲間が称賛されているのは、嬉しい所がある。自分が操る京谷(スパイカー)なら猶更。

 

 

「(とにかく、狂犬ちゃんをある程度は見せる事は出来た、って事で一先ずはOKだな。……せいちゃんはいつも通り笑ってるのが正直納得できかねるけど、それでもOK。欲を掻いちゃダメだ)」

 

 

及川はチラリと京谷を見た。

岩泉に言われて、まだまだ我儘属性が抜けきれない問題児だった男に変化が訪れているのは……主将として、岩泉に負けた気がして悔しくてたまらないが、少なくともこの試合中での変化は大歓迎だ。

 

───脳裏で、岩泉に睨まれた様な気がしたが、気のせいだとしておこう。

 

 

 

今の京谷の感じだと、決まる。……絶対に決まる。

そう確信が出来た及川は、次の攻撃も京谷を使うと決めた。

 

 

 

「(狂犬ちゃんにあるのは、ジャンプ力は当然、次に並外れた背筋・腹筋、体幹の強さとそれと同等以上の柔らかさも持つ。全ての筋肉を有効活用する為の柔軟な筋肉も持ち合わせている)」

 

 

色々と問題があって、部活には来てなかったが、何処かで間違いなく力をつけて、蓄えてきたのは解る。そうでもなければ青葉城西でバレーなんてやってられない。日々の積み重ねは確実に京谷の中にある。

唯一足りなかったのが、チームワーク、チームプレイと言うモノだろう。それを岩泉が補おうとしてくれた。

 

 

 

そして試合も何事も無く進む。

烏野の影山のサーブ。ビッグサーバーの1人ではあるが。

 

 

「っしゃ!! オレだ!!」

「ナイスレシーブ! 花巻!!」

 

 

花巻が一発で捕えてみせた。

そして及川が見事上げてくれた(ボール)を確実に京谷へと持っていく。他にも攻撃に入ってるメンバーがいるが、今の及川は一択。

 

可能な範囲内ではあるが、京谷を100%活かす様に打ち易い所へ。

 

 

「―――ふっっ!!」

「「!!」」

 

 

松川に上げる―――と見せかけての京谷。

影山程の恐ろしいまでの精密さは無いかもしれないが、それを補って余りある気迫。決して京谷にも負けてない程の気迫。

京谷に上げる最後の最後まで松川を選択肢として残し続けたその及川の圧は、ブロッカー陣を十分惹きつける役目を担った。

 

無論、松川自身も最後の最後まで自分に上がると信じて疑わず入ってくる。

非常に読みにくい、青葉城西の最高の形での攻撃だ。

 

 

「くそっっ!」

「っ~~~~~!!」

 

 

前衛の澤村、日向はどうにか跳び付くが、この一撃は止められない、と頭の中で思ってしまっている。完全に出遅れた事と、この京谷の空中での姿がその未来を無理矢理見せてきたのだ。

 

 

「(この、ぐっ……と反って溜めを作った後の一撃!)」

 

 

放たれるは渾身の京谷フルスイング。

駆け引きもコースも何もない、ただただ無骨な正面突破の一撃。

単純だからこその攻撃が凶悪無比な一撃へと変貌するのだ。

ブロックで触る事も出来なかった、威力軽減も出来なかった一撃が、西谷へと向かう。

集中力を高め、構えていたが、それでもその一撃は捕えるには至らない。

 

腕に当てるのが精いっぱい。そのまま(ボール)は後方へと弾き飛んだ。

 

 

「強烈だろ? 幾らキミらでも、ブロック抜けたらそうそう拾えないよ」

 

 

及川の言う通り。

如何にかなりの守備力を誇る烏野の守護神、西谷であったとしても、仮にオールラウンダーの化け烏な火神であっても、そう易々とは拾えない凶悪な一撃である、と及川は信じて疑わない。

事実、京谷の一撃は烏野の高い守備を貫き、コートを穿った。

 

スーパーレシーブを互いに連発し合ってるから、スパイクは拾えるモノだ、と錯覚しがちかも知れないが、バレーボールは基本的に失点は絶対にあるスポーツだ。拾える方が絶対的に少ない。

要所要所を的確に見極め、確実に取り、そして 勝負の流れに乗る事こそが重要なのだ。

 

 

 

「――――はぁぁぁぁ、やっと決まった……。及川、京谷(アイツ)をよく使いましたね。オレだったら1回他に回しちまう……。でも、流れを呼ぶって意味じゃ最高か……」

「粘り強く且つ大胆に! それが無かったら京谷を扱うのはとてもとても。……無論、及川はその精神も持ち合わせているだろうが、何よりも岩泉の存在が今回ばかりはデカかった、と言えるかもしれないな」

「岩泉、ですか。……確かに、京谷(アイツ)は岩泉のいう事はよく聞きますからね。確実に自分の上でありながら、教えを説く姿勢。正直見直すのと同時に見習わないと、って思いました」

「………選手(かれら)は、我々の想像をはるかに超える勢いで成長していってるよ。無論、それは烏野側にも言える事だろうが」

 

 

たった数ヵ月で見違える程に成長していってる烏野。

当然毎日見続けている青葉城西よりもインパクトがデカいのは解っている。

 

第1セットは獲られたが、実力は五分。

 

 

後は選手たちを信じる。そう強く思う入畑なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く青葉城西のターン。

 

 

京谷のスパイクサーブ。

あの時の殺気にも似た気迫をそのままサーブで全力で(ボール)に込めるモノだから、見ている者は圧倒される。

 

それは、レシーブを受ける側も同様。

及川と言う凶悪なビッグサーバー、まだまだ力を上げてきている岩泉と対戦してきて解るが、京谷は幾らなんでもこの2人以上は有りえない。

それに強力なサーブには目が慣れてきたとも言える。

 

 

でも、それでも京谷の一撃に対して楽観視している者は1人もいない。

一番重要な場面、或いは及川や岩泉のサーブだと思って受ける、と集中力を高めているのだ。

 

 

だが、今回に関しては特に問題なかった。

 

 

 

全身の筋力を使っている様な動きで、全力全開で打ち放った京谷のサーブは見事にアウトになったから。

 

 

「……サーブもまた、随分ダイナミックで……。それに、舌打ちにも妙な迫力がありますね……」

「ありゃ、ある意味木兎と同じタイプだ。……入ると怖い(・・・・・)サーブ、か。回ってくる度に肝が冷えちまいそうだ。…………まぁ、それは相手にも言える事なんだが」

 

 

今の一撃はアウトだったかもしれないが、間違いなく決まれば調子を上げてくるタイプだろう。乗せる前に何とか突き放したい。そう言う場面で来るのが……烏野のビッグサーバー。

 

 

「さぁ……こっちのビッグサーバー。……頼むぜ」

 

 

ローテで回ってくるは火神のターン。

烏野にとっても連続得点(ブレイク)チャンス。

 

 

それを嫌と言う程解っているからこそ、火神に(ボール)が渡ったその瞬間から、青葉城西は集中力をMAXまで上げていた。

 

 

「1本で切るよ! それに、足元注意(・・・・)!!」

『おう!!』

『はいッ!!』

 

 

火神のサーブの凶悪さに関しては最早語るまでも無い。

ただ、唯一見破る事が出来る歩数の法則だけは抑えておく事だけを意識。

 

無論、相手への挑発も忘れずに。

 

 

「さぁ、飛雄よりも厄介で、強力なのが来るよ!!」

『おう!!』

『はい!!』

 

 

影山をピンポイントで名指ししつつ、チーム全体も同調する。

これが中々に影山の自尊心(プライド)に突き刺さるのだ。解りやすいくらい腹が立ってるのが解る。後ろ姿でも十分に解る。

後々のフォローが大変だから、そろそろやめて欲しい……と思う火神だが、これも一種の戦略、相手を挑発して動揺を誘うなんて、何処の試合でも、何処のチームでもやってる事だ、と諦めの境地でもある。

 

何せ、それを跳ねのける強い精神力は影山にも備わってる筈なんだけど……、相手が悪すぎるから。及川と影山は混ぜるな危険の相性最悪だから通じてしまうのだ。

 

 

「………ふぅっ」

 

 

と、普段の挑発ならば色々考え過ぎて頭が痛くなってきそうではある……が、今はそれはない。当然の事だ。火神はサーブのローテが回ってきて、(ボール)を持った瞬間にシャットアウトしたから。

ただただ、一球入魂……この一球に集中をしているから。

 

 

よくよく思い出してみれば、サーブ得点率が下がってる気がしている。勿論、相手が相手だからと言う理由にはなるが、それは言い訳でしかない。憧れるだけの時期は、もうとうに終わらせた筈だから。

 

 

ここらでもう一度気持ちを切り替え、再度集中し直す必要がある。

 

 

ピリッ――――――

 

 

空気が張り詰める感覚が、青葉城西側に突き刺さる。

無論、それは初めての事ではない。ローテが回る度に頭痛の種であり、そしてそれ以上に負けん気を刺激されると言う極めて稀有な状況に見舞われ続けているのだ。

 

ただ、1人だけは違う。

 

 

「―――――――ッッ!!」

 

 

それは、本日初。初めて試合をし、初めて火神のサーブを直に体験する京谷だから。

 

サーブでここまでの圧を感じるのは、京谷の中では数える程しかない。部活のチームを離れて、社会人チームに混ざって練習をしている時に数人(所謂、大人)、そしてこのチームで言えば及川のサーブがそう。

 

それと同等の何かを、火神が発する(様に感じる)圧に感じられた。

1年でここまで感じさせられるのは初めての事だった。

 

 

───1,2,3……。

 

 

火神の歩きを頭の中でのカウント。

それは当然エンドラインから歩いている歩数を警戒するが故に、だ。

 

及川は、手で腿当たりを軽く叩いてカウントを取る。

そして、カウントは4で止まり、火神はこちらを振り向いた。

 

それを見た及川は、手を挙げて前へと寄る様に指示。ジャンプフローターに備えろ、と言う指示。

 

 

だが、読めるのはここまでだ。

漸くスタートラインに立ったに過ぎない事も解っている。

 

 

「(さぁ、どう来る?)」

 

 

ここからのバリエーションの多さも、火神のサーブが烏野で最も厄介だと言われる所以。

ジャンプフローターサーブのフォームで敢えて回転を掛けて不規則な揺れではなく、予定調和の揺れを発生させて、狙った場所に正確に打つ。以前も、その強烈なスピンサーブには辛酸を嘗めさせられた苦い記憶が残っているから。

 

そして、もう1つ厄介なのが――――――。

 

 

 

 

「ぐおッッ!!!??」

 

 

 

主審の笛の音と同時(・・)に撃ってくる超高速(クイック)サーブ。

 

 

「ッ!! ああ、もうっっっ、ここでソレ使うか!!」

 

 

これも本日初。

サーブの打つタイミングを極端にズラす打ち方。

おまけに狙いは京谷。

初めて対戦する相手に、今日初めての球種を選択した極めて嫌らしい手だ。

 

 

「性格わりぃな、オイ!!」

 

 

京谷の受けた(ボール)は、大きく弾かれた。

それでも、後ろを護っていた岩泉が、腕を伸ばし、跳び付いてどうにか喰らいつく。

 

やや前傾姿勢だったのは事実だが、岩泉も及川同様にあのサーブは覚えていたし、頭の中には入っていた。だからこそ、直ぐに反応出来たのである。

 

 

「ラスト!!」

「及川頼む!!」

 

「よしッ!!」

「返ってくる! チャンスボールだ!」

 

 

ラストの一発は及川に託された。がやや離れ気味ではあるが……。

 

 

 

「チャンスボールには―――――」

 

 

助走しつつ、振り向きざまに跳躍し、強引に。

 

 

「させないよ!!」

 

 

打ち込んだ。無理な体勢且つしっかりと相手コートを視れた訳ではないので、精度は落ちるかもしれないが、それでもその体勢で撃つ事が出来る最高の一撃を及川は打ってみせた。

 

 

「ふんっっ!!」

 

 

だが、それを火神が見事レシーブしてみせた。

チャンスボールの声が掛かっていたが、及川なら絶対に、チャンスボールにしない、と確信していたからこその守備だ。

 

 

「ナイスレシーブ!」

 

 

チャンスボールが潰された、と一瞬考えてしまった影山だったが、直ぐに切り替える。

烏野の守備を信じ切れてなかったかもしれない、と一瞬だけ反省する。

そして、その一瞬の後は誰を使うか瞬時に決めた。

 

使うのは当然───。

 

 

「東峰さん!」

 

 

烏野のエース東峰。

連続得点(ブレイク)チャンスで、ここ一番に決めてみせる一撃のパワーを持つ烏野のエースだ。

 

 

それらの期待を背負った東峰はコートを蹴り、宙を跳ぶ。

それは、エースの宿命と言うべき重い重圧(プレッシャー)

 

だが、迷いは一切ない。全力で応えてくれている。全力で前を無我夢中に、我武者羅に突き進んでいる者達が……後輩たちが居る。

 

それをただ黙ってみてられるわけがない。

全身全霊で期待に応える一撃を見舞う。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

今日一番の轟音と共に剛速球の一撃が青葉城西に放たれた。

ブロックに跳ぶが、京谷の時と同じく青葉城西のブロックも切り裂き、抜ける。

 

抜けたら早々取れないのは、烏野側も同じ事。

腕に当てたまでは良かったが、その東峰の一撃を抑え込む事が出来ず、そのまま弾き出されてしまった。

 

 

 

 

「連続得点《ブレイク》!! やったーーー! 東峰センパイ!!」

「おおっしゃああ、いったれいったれ、烏野ぉぉ!!」

 

 

まだ1桁ではあるが青葉城西側がリードしている点差を一歩縮める事が出来た。

京谷が入ってきて、嫌な雰囲気を感じていた谷地は、それらが解消される! (言い過ぎ?) と言わんばかりに声を上げ、冴子もそれに呼応される形で声を出す。

 

 

やはり、火神のサーブは頼りになる! と思っていた時……何だか影山の雰囲気が変わった様な気がしていた。

 

 

「え? ええ??」

 

 

絶対に負けない……と言う闘志が可視化した様な気がしていた。

だから、谷地は何度も何度も目を拭って確認するハメになったのである。

 

 

「ナイスです! 東峰さん!」

「アサヒさん、吹っ飛ばしましたよ!! いつもアレやって下さいよ!」

「あざーす!!」

「いや、だからどっちが先輩だよ」

 

 

連続得点を取り、士気は向上。

このままの流れで同点まで――――と言うのは流石に難しかった。

 

 

「今のは仕方ねぇな」

「おう。って言うより、あのサーブ拾わないともっと面倒になるぞ」

「あのタイミングは鬼だが、獲れない訳じゃない。次は意地でも上げてくぞ。……京谷(お前)も十分解ったろ?」

「…………ウス」

 

「お前らーーー! 主将が何か言う前にすっかりと纏まっちゃって! 優秀過ぎて何だか辛いぞ!!」

 

 

自己分析をして、対策まできっちりと各々で済ませる。おまけに京谷へのフォローは岩泉が行い、何だか及川は蚊帳の外な気がして思わず声を上げていた。

 

 

「アホ。―――ま、解ってると思うが。次は取る(・・・・)

「……はぁ、信じてるよ(・・・・・)

 

 

 

流れを生む火神のサーブからの連続得点(ブレイク)だったが、だからと言ってそのまま易々連続で決めさせて貰える程、青葉城西は甘くない。

 

 

「…………(こっちに、来い!!)」

 

 

そして、負けん気の強さでは間違いなく上位に喰らいついてくる京谷自身も、先ほどのサーブで狙われた事、獲れなかった事がこれ以上に無い程苛立たせ、そしてまるでその怒りがそのままパワーと集中力となって現れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

次のサーブは6歩。つまりスパイクサーブを選択した火神の一撃を、岩泉の気合&根性レシーブで見事上げ、そのまま及川のセットアップで見事点を獲り返した。

 

 

「2点差か。後1点……獲りたかった」

「次はオレが獲る」

「別にサーブ得点を競ってる訳じゃないけど、頼もしいよ、飛雄」

 

 

火神は影山とパチンっ、と手を合わせた。

 

 

 

 

 

その後は月島のブロックで、同点に持っていく活躍を見せる。

でも、そこから先のリードはさせて貰えなかった。

 

烏野・青葉城西共に、これ以上の連続得点を許すまいと点獲り合戦。

同点及び青葉城西1点リードのまま、加算されて行く。

 

 

10-9

 

 

青葉城西が2桁を取ったローテで……シーソーゲームだった試合が再び動いた。

 

 

「岩泉ナイッサー!!」

 

 

岩泉の豪速サーブ。

それを西谷が獲る。

 

 

「っしゃあ!!」

「ナイスレシーブ!」

「西谷ナイス!!」

 

「東峰さん!!」

「旭さん!!」

「おおお!!」

 

 

東峰に託された(ボール)

この1発で、このままの流れで岩泉のサーブを一発で切る。そのために影山が選択したのは東峰だ。

 

東峰も再び同点に戻すと言う気迫をそのまま(ボール)にぶつけて打ち抜いた……が。

 

 

「うがっっ!!!」

 

 

コース上に身体を入れた岩泉によってその一撃は防がれた。

 

 

「及川! カバー!!」

「任せて! 花巻(マッキー)! ラスト頼む!!」

 

 

流石にそのまま攻撃───とは出来ない。

返すのが精いっぱい……と言う場面だったが、ここで花巻が魅せる。

 

体勢は不十分で時間も十分。だから容易に追いついていた日向・影山の2枚ブロックに対して花巻は手を決めた。

 

 

「もっかいだ!」

 

 

そう声を上げると同時に、日向の手のひら目掛けて(ボール)を叩いたのだ。

やや、上の角度のコースで叩いた(ボール)は、日向の手のひらに当たり、青葉城西側へと弧を描きながら帰ってくる。

 

そう、リバウンドである。

 

 

烏野へのチャンスボールに近い返球だった筈が、技ありのテクニックで逆に青葉城西側のチャンスボールとなってしまったのだ。

 

 

「オーライ!!」

「渡!」

 

 

そして、此処でも青葉城西は仕掛けてくる。

 

緩やかな弧を描くチャンスボールの筈の一球を、リベロである渡が乱してしまった(・・・・・・・)

真ん中にいる及川より、レフト側。松川・花巻に近い方に返球してしまったのだ。

 

 

「!!」

 

 

それを見た日向が即座に反応。

自分のブロックを使われ、相手のチャンスボールにさせてしまった事も日向に対して精神的な揺さぶりとなってしまった。

 

乱れたチャンスボール。これを抑えて見せる、と力が籠る。

 

間違いなくレフト側の攻撃だろう、とあたりをつけて飛び出す。

そんな日向の様子をしっかりと及川は見ていた。

 

 

「(わざとだよ。それと――――)」

「翔陽ステイ!!」

「(せいちゃんは気付いちゃうよね。感覚の鬼だもん)」

 

 

一歩、一歩で良かった。

日向なら釣る事が出来る。でも、驚異的な観察眼か、或いはリードブロックを徹底する事を重視し、どんな揺さぶりも鋼の様な決意で押さえつけているのかは解らないが、搦め手は火神にはなかなかどうして通じない。

 

だが、例え火神1人に通じなかったとしても、対処は出来る。

 

 

ライト側に切り込んでくる京谷に対しての早い攻撃。これまで見せていない、早いセカンド・テンポの攻撃。

 

 

「(確かに読み合いは分が悪い。けど、バレーは1人が強くたって意味はない。たった1人では勝てないんだ)」

 

 

及川は渡に対して指示を出していた。

あの緩やかな山なり(ボール)を受ける間際、手を使ったハンドサイン【返球・レフト側へ】を渡は実行した。

 

つまり、(ボール)と囮で相手ブロックをレフト側へとおびき寄せてからの、トドメの京谷。

 

 

「―――これで打ち抜けなきゃ、ヤバいよ!!」

 

「「ッッ!!!」」

 

 

ぶつかり合う火神と京谷。

日向も、火神の声を聴いて凄まじい反応を見せるが、それでも及川の早いトスワークには流石に追いつけない。

実質1枚ブロック。

 

 

ドンッッ!!

 

 

京谷の一撃を止める事が出来ず、そのままコートに叩きつけられてしまった。

 

 

「オオッシッッ!!」

「っッッ!!」

 

 

今日一番の雄叫びを上げる及川。

そして、打ち抜いた京谷は口端を上げた凶悪な(失礼)笑み。

何度も嫌なタイミングで、嫌な位置で、嫌な攻撃で邪魔してきた相手を打ち抜いた快感に酔いしれていた。

 

 

 

「えげつない角度だ。……流石に、今のは獲れないよ」

「ああ。……それ以上に、及川のトスもヤバかった。自分の手でブロック引っぺがすのはセッターならではの快感……。でも、それよりもあのトスは早かった。影山のトスを見てて早いトスには慣れてた筈なんだけど」

 

 

縁下は京谷の一撃に驚愕し、菅原はセッターの及川に戦慄した。

今日一番の早い攻撃だ。速さは影山のあの日向との変人速攻こそが代名詞———と何処かで思っていた様だ。

影山・日向以上、とは言うつもりは無いが、今の及川・京谷のセットプレイも早かった。同じセッターとして、同じ3年として……改めて戦慄が走ったのだ。

 

 

 

そして、コートでは日向が汗で目元を拭いつつ、ギュッと拳を握りしめた。

相当悔しかった様だ。これまでも、何度も釣られたり引っかけられたりしたが、徐々に順応し、対応してきたつもりだった。殆どが身体能力に頼ったモノだったかもしれないが、それでも何とかなってきていた、と思っていた。

でも、今のはどんなに急いでも追いつけるものじゃない、と解らされてしまったのだ。

 

何度も何度も火神に言われているリードブロックが、また出来なかった。

 

 

「くっそ……! ごめん、誠也!」

「ドンマイドンマイ。……今のは及川さんが上手かった。本当に直前だった。……釣られたとしても仕方ない。オレの方も殆ど勘だ」

 

 

ラリーが続く中での駆け引き。

日向自身を使われた事による精神的な揺さぶり。

何手先も読み、全てが今の攻撃の為に行われた、とさえ思ってしまった。

 

 

 

連続得点(ブレイク)!! 青城がまた2点差でリードを広げた!!」

 

 

11-9

 

 

 

 

 

 

 


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