王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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明けましておめでとうございます!
今年も《王様ぎゃふん》を、どうかよろしくお願いします!


昨年の師走ではとんでもなく大変で、年始早々件の病気にかかってしまって、出足最悪ですが…………、何とか生きてます! 苦笑



今年こそ完結に向けて頑張ります!!!!! …………………願望


第169話 青葉城西戦Ⅱ⑤

 

 

13番 WS(ウイングスパイカー)国見に代わり

16番 WS(ウイングスパイカー)京谷が入る。

 

この試合に変化を、そして想像を超えるであろう波乱を巻き起こす為に、入畑は勝負に打って出た。

勝負をしないといけない。持ちうる全てを賭けなければ、烏野は倒せないと思っている。

そして、それ以上に選手たちを信じている。

 

 

「ココでデスカ……」

 

 

当の信じている選手筆頭である及川は、遺憾とも形容しがたい表情を……、あからさまに面倒くさそうな顔をしている様だがきっと気のせいだろう。

 

 

烏野側も当然警戒心を強めた。

 

 

このセットポイントと言う大事な場面。

決定率も決して低く無く、技巧派である国見を引っ込めてでも出してきた選手が気にならない訳がないから。

 

だが、残念な事に京谷についてのデータは一切ない。

烏養が覚えている範囲内にはなるかもしれないが、少なくとも公式戦で青葉城西があの京谷を使っている場面は視た事が無かった。

 

 

「……初めて見る選手ですね」

「うん。……集中してけよお前ら。この場面で出てくるって事は、何か(・・)あるぜ」

 

 

コート内のメンバーがどう思っているかは解らない。

でも、国見の実力は間違いなく肌で感じているし、ここが重要な場面である事も重々承知の上。それでいてメンバーを変えてくるのだから、間違いなく警戒MAXである事は違いない、と烏養は見ていた。

 

 

そして試合は岩泉のサーブ(ターン)

 

あの及川のサーブに触発されつつも、ミスしても終わりなセットポイント。パワーよりは精密さに重点を置き、かといって入れるだけ(・・・・・)なのは論外。

 

渾身の一投が100点満点だとするなら、80点狙いで行く。

感情を優先して大局を見誤る様な者がエースを背負う訳がない。

 

 

「――――フッッ!!」

 

 

主審の笛の音が鳴り、時間いっぱい使い切った後に渾身のサーブを叩きこむ。

 

 

「ぐっっ!!」

 

 

それは、つい今し方及川の強烈なサーブを目に焼き付け、頼りになり過ぎる後輩たちを目に焼き付け、自らも負けてられない、と気を入れ直していたトップクラスのレシーバーである澤村の身体を揺らせる程のモノだった。

 

考えたくはないが、まだ威力が上がる、と言う訳じゃない。これは試合中に間違いなく成長している。

先ほどの及川の様に。

 

 

「くそっっ!! スマン、フォロー頼む!!」

 

 

Aパス所ではない。

どうにかこうにか、コート内に(ボール)を残すのに精いっぱいだった。

 

 

「飛雄————!!」

「!!」

 

 

火神は声を出して影山の名を呼び、指をさした。

そして影山もそれに瞬時に反応する。

 

コート上での位置関係。

 

誰が一番上がった(ボール)に近く、そして誰に上げるのが効果が上がるか。

それは当然、これまでセッターとして攻撃の司令塔だった影山の攻撃参戦だ。

元々、セッターに固執している影山だが、スパイカーとしての能力も一流。あの及川を参考にその技術を盗み、高め、ストイックに鍛え上げてきたのだから当然と言えばそうだ。

そして、日向が影山なら必ず(ボール)が来ると100%信じて目を瞑ってフルスイングしていた時の様に、影山も100%信じている。悔しくもあるが、それでも絶大な信頼を寄せている。だからこそ、安心して攻撃に専念するのだ。

 

 

「(飛雄の様な無茶な速攻は、せいちゃんだから無い。でも、それに近い可能性(・・・・・))」

 

 

影山の攻撃参加。

それに少しも動揺する事の無い青葉城西も流石の一言。

 

及川が声を上げる前に既に臨戦態勢。

(ブロッカー)もどんな攻撃が来てもリードブロックを徹底する構え。

 

 

火神から繰り出される2段トス……それは、乱したとは言い難い極めて速く・正確なトス。

そしてそれに呼応する様に攻撃に入っていた影山。

互い同士が集中力を高めてなければ成立しない攻防。

 

 

「!!(はぇぇ!! せめて、ワンチ――――!!)」

 

 

リードブロックに注視する。

(ボール)に集中していた金田一も思わず唸る程の出来栄え。

持ってるモノの高さを嫌と言う程思い知らされる。

 

でも、それでも負けたく無い、と言う強い気持ちが火神―影山のセットに手の先が追い付いた。

 

 

「ワンチっっ!!」

「くそっ!」

 

 

ワンチは間違いない。

でも、当たった先が手の先であり、影山のフルスイングスパイクの威力を殺すには盾の面積が心もとなさすぎる。

金田一は、この一撃はエンドラインを超えて、大きく弾き飛ばされたイメージが脳裏に過っていた―――が。

 

 

 

「オーライ!!」

 

 

それをまるで見越していた様に、ブロックアウト対策で守備位置を下げていた渡が居た。

まるで慌てる様子も無く、レシーブする。

 

 

「うおっ!! 今の攻撃取った!?」

「ヤベー、どっちもヤベェ!! 今の読み合いってヤツだよな!?」

「あの一瞬でどんだけ考えてんだよ! オレ、頭ン中グチャグチャだわ!!」

 

 

コートの上から見ていた為、一部始終何が有ったのかハッキリと理解する事が出来る……が、だからと言って咄嗟にあの反応が出来るかどうか? と問われれば首を左右に振る。

 

サーブで乱した筈なのに、トンデモナイ位置から強打で返ってくる。

それに一切動揺する事なくブロックにつき、あまつさえブロックアウトを予見して守備位置を後方へと下げておく。

加えて、フェイントフォローも万全。

 

どっちも凄い、としか言いようがない。

ただ、今回に関しては青葉城西の技ありだと言える。

 

 

「ナイスレシーブ! 渡!」

「カウンター!!」

 

「ぬぅぅ……」

「どんまいどんまい! 一本止めるぞ!」

 

 

渾身の一打だった。

トスも完璧、頭で思い描いていた通りの(プラン)だったがその上をいかれて影山は苦々しい顔をする……が、それも一瞬。直ぐに切り替える。

 

今まさにカウンターが迫ろうとしてるから。

余裕を持って及川はセットを作る。

 

前衛は影山・火神・日向の3枚。ねらい目は当然高さで劣る日向。

反応速度は抜きんでていたとしても、ブロックに関しては身長差は中々覆す事は出来ない。だからこそ、セットは金田一。それ一択。

 

 

及川は跳躍し、視線は全く動かさず読ませない丁寧な姿勢で頭の中で金田一の名を呼びながらトスを上げたその時だ。

 

 

それはほんの一瞬の出来事だった。

 

 

金田一が入ってくるコースだった筈なのに、そのコースをまるで奪い取る様に横切る白い影。勿論何のコミュニケーションも獲ってない。本当に突然現れた。

 

 

「うわっっ!??」

 

 

金田一にしても、突然視界の端に現れ、更には強烈な威圧感も携え、【これは俺の(ボール)だ】と言わんばかりのその影に、一気に怖気づく。

 

 

【危ねぇ!!?】

 

 

誰が言ったのか、危険信号を発する者も多く居た。

猪突猛進ももう少し生易しく思える程のその突進。そして及川はもう既に(ボール)を上げてしまった為、離れてしまった(ボール)まではどうする事も出来ず。

 

 

 

その勢いのままに、自分のモノではないセットを京谷は強引に強奪して打ち抜いた。

 

 

 

打点は申し分なく、威力は間違いなく青葉城西の中でもトップクラス。

 

 

これまで綺麗なバレーを見せられてきた。

青葉城西と言うチームは完成に近しいチームと称され、スキルの1つ1つのレベルが高く、チームワークも抜群だ、と思ってきた。

でも、今認識を改める他ない。

 

綺麗にかみ合っていた歯車が今破壊された。

 

それも自分達が乱したのではなく、自ら狂わせた。

かみ合う歯車が狂い、歪な動きをみせ、更に嵌る時―――それは得体の知れないモノとなって新たな形として現れる。

 

 

 

「――――狂犬」

 

 

 

誰彼噛みつく狂犬の様な男。

その圧をコートを挟んでいるとはいえ間近で体験した。

そしてその結果、自然と出てくる感情は――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の静寂。

それはまるで永遠のようにも思えたが、直ぐに打ち破られる事になる。

 

まさかの事態に、思わず線審も固まっていたのだが、しっかりと進行する為にジャッジを下す。勿論、その判定はアウト。

 

 

【アウトッッ!!?】

 

 

あれだけ自信満々なプレイで(の様に見える)

あれだけインパクトを残して。

勢いのままに得点ゲット! ――――かと思いきやまさかの自爆。

 

 

25-22

 

 

 

青葉城西にとってしてみれば痛い痛いセット……の筈だが、雰囲気はそれ程落ち込んでない。

というより、そんな事考えてられない様だ。

ただただ、唖然としていて皆の視線が京谷に集まっている様だ……が、当の本人はどこ吹く風。

 

 

「サーセン」

 

 

その一言で仕舞。

 

 

「(いやいや、まてまてまて!! コイツ、明かに金田一の(ボール)だったのにぶんどった挙句にアウトかよっ!? しかも今のはセットポイントで、絶好のカウンターチャンスだったんだぞ!? 波に乗れる可能性だって十分あったし、あぁぁぁ、一体どっからツッコめば―――――)」

 

 

本当は全部口に出してしまいたい及川だったが、こういう時は中々考える事が多すぎて口に出る事は無いらしい。非常にレアな場面ではあるが、それでも考えるよりも先に行動・先に口出し出来る人種が羨ましい……と思ったり思わなかったり。

 

ただ、及川が出来ない部分を補うのがチームメイトであり―――。

 

 

 

「危ねぇだろうが!!!」

「!!!」

 

 

 

長年連れ添った相棒で副主将の岩泉である。

誰彼構わず噛みつき食い荒らす様な男京谷相手にも一切ひるむ事なく特大のげん骨をその脳天に叩きつけた。

ゴッッ!! と中々に良い音を奏でながら。

 

 

「岩泉!!」

「そうそう、まずソレソレ! 流石岩ちゃん! 考えるより先に手が出る!」

「ああ゛!??」

「……ウソです」

「あ、あのオレは大丈夫なんで………」

 

 

緊張の糸? の様なモノを切ってくれたおかげで、固まってた皆共々、口に出す事が出来る様になった様だ。

でも、それでも反省が見えないのはいかがなモノか。

 

 

「試合出して貰えないからストレスたまってたんで」

 

 

未練がましく睨む様に周囲を視る京谷。

だからと言って個人プレーに走って良い訳がない。

バレーは集団競技(チーム)

個人技をする事が出来るのはサーブだけだから。

 

 

「と・も・か・く!!」

 

 

取り合えず皆の止まった時間が動いたのを確認して、及川も前に出た。

無論、岩泉の様にグーパンする訳ではない。説教の類は今行った所で馬耳東風だし、そもそもその手の教育は、自分自身、岩泉、入畑、溝口――――等々、何度も行ってきてるので、今この瞬間有効である、とは思えない。

 

 

「好き勝手暴れて何とかなる相手じゃない、って自覚をしておけよ! そもそもストレスMAXってだけで狂犬ちゃん、試合する相手見てないでしょ」

「…………」

 

 

まさかの無視!?

無視すんな! とここは一発怒っておこう、としたのだが。

 

 

「それは及川の言う通りだ。危ねぇプレーは見過ごせねぇが、やり合う奴らをしっかり目に焼き付けとけ」

「! ………うす」

 

 

バシッ、と頭を叩かれた京谷は岩泉の言葉は聞く。返事もする。及川は下に見られてる。

 

 

それに盛大な抗議の声を上げようとした及川だったが……、()は止めた。

 

 

一瞬ピリッ、と空気が張り詰めた様な感覚がしたから。

それは京谷が根源となっており、そしてその原因となるのが間違いなく……。

 

 

「やっぱし………」

 

 

頭をグシッ、とかき上げながら、及川はため息を吐く。

この京谷の存在を知れば、この京谷のプレーを少しでも見れば、大体のチームが、選手たちが怪訝そうな顔をする。驚愕し驚く者もいる。大体の感想がソレだ。

その感想は選手だけとは限らず、観客や監督と言った大人にも当てはまる。

 

 

ただ、1人だけ反応が違った。

 

 

真っ直ぐこっちを見ている。

それは他のメンバーも同じ。

でも大体が驚き、そしてセットを取った事による安堵感だ。

 

でも、ただ1人だけ違う。

 

口端が僅かに持ち上がり、口が少しだけ開き、その中の白い歯が見えている。

表情は煌々とする、と言う言葉が当てはまるだろうか……。

 

そう、向けられた感情は【喜】の感情。

火神誠也は今心の底から喜んでます。と宣言している様に思える。

 

確かにセット獲って嬉しいのは解るが、絶対ポイントはそこじゃないのは解ってる。

凡そ常人じゃ理解し難いのだろう。

そんな男だからこそ、影山&日向(あいつら)を従えてる? のだろうか。

 

 

「こいつが、狂犬(・・)なら、あれは狂喜(・・)ってか?」

 

 

心底恐ろしく感じるのは岩泉も同じ。

他のモノも同意見。

それもその筈だ、何故なら京谷でさえ反応を見せたのだから。

 

 

「ッ!!!」

 

 

反射的にか、恐らくは何かを察知したのだろう。

狂犬・京谷は見事なまでのバックステップで距離を取った。元々、相応に距離があるのにも関わらず、間合いの倍以上の距離を取った、と言った感じだ。

 

何故ここまで離れているのに反応をするのか……その野生は一体何を察知したのだろうか、色々と聞いてみたくもなる所だが、まともな答えが返ってくるとは思えないのでやめた。

 

 

ただただ、京谷の反応を見てチームの全員が感じる。

丁度、京谷が戻ってきた時、及川の笑みに対して反応した時の記憶を。

 

 

初対面な筈なのに、京谷が最大級(及川クラス)の危険度を感じさせる男火神。

普通に考えてみれば異常を通り越してる。

 

何か変なオーラでも出てるのか? と何処かのバトル漫画を彷彿とさせるのだから。……ファンタジーじゃあるまいし。

 

 

 

「全く。知らない筈なんだけどね。狂犬ちゃんのデータは何処にも出てない筈なんだ。……つまりあれ、純粋に新しいタイプの対戦相手が出来て嬉しい!! って感じかな? 未知を前に警戒する……よりも嬉しい、楽しい、か」

 

 

そんな中及川は、はぁ~~~っと深くため息を吐いた。あの異常な笑み? について及川なりの解説、説明、そして納得までが出来た様だった。

 

つまる所、根幹は何処までもバレー大好き少年なんだという事。

バレーが好き、そしてネットを挟んで競い合う相手はもれなく全部好き。

知らない者なら猶更ワクワクする。その感情が抑えきれない。言葉にこそしないが、身体は正直だという事だ。

 

 

及川自身も気持ちは分からなくもない。

でも、邪心の無い屈託なあの笑みを前にすると、自分はまだまだ未熟で未発達だと言いたくなる。

 

 

「意外性のアドバンテージは無し、って頭に入れとけよ。気を引き締めて行く」

「まーた岩ちゃんに先言われちゃった。……立つ瀬ないよ。でも勿論さ。当分せいちゃん関連でのびっくりタイムは無しの方向で。何しても驚きませーん!」

「―――主にビックリしまくってんの及川(お前)だけどな」

「えええ!? 皆しないの!?」

「も、いい加減慣れたっつーかなんつーか。他チームのオレでさえなんか納得してんだよ? 寧ろアイツの事好き過ぎてる及川がビックリし続けてんのが意外だわ」

「あ、俺は人間嫌いな及川(お前)が好き好き言ってる相手って時点で」

「なんでだよ!! そもそも人間嫌いじゃないし!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誠也のその顔、結構久しぶりな気がする」

「???」

 

 

烏野側もベンチへと戻っていく際、不意に日向が火神の顔を見て指摘する。

 

 

「その顔って?」

 

 

自覚してない火神はただただ、日向のいう《その顔》が気になったのか、日向に聞き返していた。

日向は少しだけ考えると―――。

 

 

「何って言うか、誠也の笑顔。……笑顔は笑顔なんだけど、どっか怖いって言うか、なんていうか……」

 

 

あからさまに寒気がしてます! と言わんばかりの表情。

影山等に見せる反応とはまた違う。怖い~と言うより、未知のモノに対する恐怖? と言った感じだろうか。

ただただ火神には失礼案件。

 

 

「……いや割とひどくない? 笑顔が怖いって。そもそも翔陽がオレの顔見てビビってる姿なんか見た事ないんだけど?」

「いや、そういうんじゃないんだ。なんていえば良いか解んないだけで……」

 

 

日向もうんうん唸りながら考えるけど、どうしても答えが出てこない。

日向自身もよく解ってない、本能のままに~だから上手く言葉が出せず悩んでる様だ。

出せないのなら無理に出す必要は無い、元々火神に対しては不愉快とも言って良い事柄だから、それとなく止めようとしていたその時、そのやり取りをたまたま横で聞いていた月島がボソリとツッコむ。

 

 

「国語力が足りてないから仕方ないんじゃない? 前回のテストだって赤点ギリギリだったんデショ」

「うがっっ!!?」

 

 

実に痛烈且つ日向にとって痛い部分を突かれて、言葉の槍となって日向を貫く。

 

 

「オイ、バカやってねーで早く戻ってこい」

 

 

そんな3人を見て、烏養は苦笑いをしつつも呼び掛けるのだった。

 

 

 

何はともあれ、第1セット先取。

相手の暴走? ミスと言う想定外ではあったものの点には変わらず、セットを獲った事実も変わらない。混乱しなくもないが一先ず喜び、士気を上げようとした。

 

それは応援席、観客側も同様で。

 

 

 

「1セット先取!!!」

「よしよぉぉぉぉし!!」

「こりゃイケるぞ!! このまま2セット目ものってけ!!」

 

 

 

文句なしの優勝候補。

宮城県は白鳥沢が圧倒している様に思えるが、青葉城西も間違いなく全国に通用するし、白鳥沢に勝っても何ら不思議じゃない能力を兼ね備えているチームだ。

そんな相手に1セット目先取ともなればお祭り騒ぎにもなる。

 

 

「それにしても、あんなヤツ投入して青城どうしちまったんだ?」

「だな? メチャクチャ大事な場面だったじゃん。リードしてるならまだしも」

 

 

そして、烏野関係者以外は、青葉城西の采配に疑問を抱く。

個人技、サーブ等でミスをするのなら仕方がないが、アレは明らかに暴走が原因。団体競技であるバレーで不和を齎すなんてあってはならない、技術云々の問題だ。

そんな問題児? を重要な場面で出す意味が解らなかった。

 

 

だから、恐らくは次のセットは京谷(あの男)は無いだろう……と思っていたものが大多数だったのだが。

 

 

第2セットが始まり、コートに戻ってくる面子を見てざわついた。

 

 

「アッ! さっきの奴、居るな。今度はスターティングから出場みたいだ!」

「あの国見の代わりに出てくるんだ。国見は技術も高く、何より頭のキレがヤバい。……だからアイツも同等以上かもしれない。気をつけろよ」

 

 

そんなやり取りが、日向と影山の間でやっている間、何故か京谷はネットを挟んだ先、今度は逃げず退かず、ただただ鋭い眼光のままに睨みつける様に烏野の11番―――火神を見ていた。

 

「―――――――」

 

今にも人に噛みつきそうなその雰囲気は、ついさっきまでじろじろ見ていた日向も気づいた様で。

 

 

「うひぃッ!?」

 

 

と、今更ながら身体を震わせる。

 

 

 

「あいつ、何ウチの後輩にガン飛ばしてやがんですかぁぁ?? ケンカなんですかぁぁ!?? 買いますよぉぉぉ!!?」

「田中ステイ。似た空気持つ相手だからって、コートに向かおうとするんじゃありません」

 

 

只ならぬ雰囲気はコートの外にも伝わる。

狂犬―――とまではいかないが、人一倍そっちの気が強い田中が一番先に感付いて、鋭い眼光を向ける。

菅原も(そこまで本気ではないが)田中を止めつつ――――あの京谷と言う男を見た。

 

これまでの対戦で、あの火神相手にあの手の視線を、雰囲気をぶつけてきたのは ある意味田中以来だ。

他は、技量の高さやその魅せるプレイ、物怖じしない高過ぎるコミュニケーション能力もあって、高め合う存在同士として称え合い、認め合う間柄ばかり。それも会って間もなくそうなっちゃうから不可思議。

 

 

「―――それで、対するウチのおとーさんは……?」

 

 

睨まれてる側の火神を見てみると……。

 

 

「おっ?」

 

 

菅原は少し以外な表情を見せていた。

あの火神の事だ。無条件でまたニコニコと笑っているのかと思いきや、何処となく不敵な表情。決して笑っているのではなく、受けて立つ! と言った構え。

 

 

「……田中に毒されちゃったのかなぁ、ウチのおとーさん……」

「なんでそーなるんスか! スガさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く―――と言ってもほんの数秒間。

まず最初に及川が京谷を引きはがしにかかる。

 

 

「暴走すんなっての。お前は基本好きにやっていいけど、足引っ張るなら即ひっこめるからな!」

「……………」

「だから無視すんな!」

 

「意識すんのは結構だ。んでも何事も加減ってのがあるだろーが」

「………うす」

「だから何で岩ちゃんだけには従順なんだよ!!?」

 

 

京谷は、岩泉に対してはしっかりと従う。

従順になる。

勿論、それには理由があった。先輩だから~と言った理由ではない。何せ1年の時から3年に対し【下手くそ!!】と言ってのける男だから、年上だから敬う、なんて事は無い。

 

 

「………京谷(アイツ)、岩泉さんに色々と勝負ふっかけては(ことごと)く負けてたから岩泉さんにだけは従うのな……」

「狼社会的な……?」

 

 

同級生の矢巾曰く。

京谷は岩泉に因縁ツケ――――ではなく、学校内イベントで勝負を仕掛けた事が何度もあったらしい。

学年別ではなく全校参加型スポーツイベント。

 

球技大会、マラソン大会、例外で文化祭での腕相撲大会。

 

 

球技大会では野球。ピッチャーを務める京谷の剛速球を岩泉が跳ね返してホームラン。

マラソン大会では最初から最後まで岩泉が独走。

文化祭の腕相撲では当然ながら一蹴。

 

 

1年早くスポーツ等に打ち込める事が出来る3年が有利なのは否めないが、それでも体力は人一倍あった。力もあった、と自覚していた京谷。2番手につく事はあっても先頭を走る岩泉を抜く事は出来なかった。

心技体全てにおいて。

 

バレーで負けたとは思ってないが、それ以外では目に見える形で全部敗北を喫してるのでまさに狼社会、群れのトップには従う所存……なのかもしれない。虎視眈々なのも否めないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誠也、怖くねーの……?」

「ん? 何で??」

「いや、だって……」

 

 

おずおず、と話しかけてくる日向。

火神にしては珍しいメンチ切り合い(烏野側からは火神の顔は視れないが)。

それも、明らかに怖そうな臭い(・・・・・・)を発している。

 

 

「はぁ~~~~……、翔陽ってほんっとわかんないよね。長い付き合いだけど、その辺はやっぱり」

「え? なんでだよ! だってホラ……どっからどーみてもヤベーじゃん!」

「いや、メチャクチャ失礼……」

 

 

京谷への暴言と取られないか? と思うのは火神だけじゃないだろう。

聞こえていたのか、及川や岩泉は笑ってるし、京谷は反応こそしないが視線が鋭くなってる気がするし。日向は自分で墓穴掘ってしまってまたビビったりしている。

 

 

「こほんっ、それは兎も角。怖い怖い言いつつ、強面な扇南の人達には啖呵きるし、角川の2m、百沢に対しても真っ向だし、白鳥沢の牛島さんに至っては正面から宣戦布告するし、東京合宿の時もそーだし、翔陽ん中の尺度がイマイチ測りかねてるんだよねぇ……」

「ぅ……、や、そ、それはそれじゃん! ほら、負けねぇ!! って感じがぶわーー!! って湧いてきてて!!」

 

 

ここ一番で見せるあの日向の圧に関しては直ぐ横で話を聞いてる影山だって同感の様だ。

基本ビビりな癖に、自分より遥かにデカく実績有り力も有りな相手に向ける得体のしれない圧力。

それこそが測りかねる日向の内包する精神力なのだが、今の日向はただのチビ! って感じに想えてならないのだ。by影山

 

 

 

「それだよそれ」

「へ?」

 

 

火神はビシッ! と指をさした。

一体どれの事か? と首を傾げる日向に対し、真っ直ぐ目を見据えて言う。

 

 

「ここにケンカしに来たわけでもにらみ合いをしに来たわけでもない。……バレーしにきた。勝ちに来たんだ。怖気づいてられない、だろ?」

「!!」

 

 

そりゃそうだ、と日向はポンッ! と手を叩いた。

そこへ漸く影山と月島がボソリと一言。

 

 

「そんな、ッたりめーな事わかんねーとか」

「いつまでたっても大成しない大器(笑)」

「ッッッ!!」

 

 

痛い所を的確に突かれて、日向は憤慨!! 仕掛けるけど。

 

 

「ハイハイそろそろその辺で、な?」

 

 

澤村の一言で鎮圧。

いい具合に力抜けたのなら結構だが、進行妨害は頂けない。

 

だから、即座に意識を変えて第2セットへと備える。

 

 

 

 

 

第2セットは東峰からのサーブ。

今のやり取りを見て、こんな場でもいつもいつでも自分を崩さない頼りになり過ぎる後輩たちを見て頼もしく思いつつ―――自分も負けてられない、と言うエースとしての誇りも抱きつつ、それらを全てサーブに込めた。

 

1セット目先取している。加えて初球。100%思いっきり言って良い場面。

 

主審からの笛の音が響き渡り―――第2セットスタート。

 

 

「「「ナイッサー!」」」

「ッサァーー!!」

「旭さんナイッサァッッ!!」

 

 

助走からトス、跳躍、全て問題なし。

景気よくサービスエース! と思いっきり振り抜いた……が。

 

 

 

「あ―――――――ウトォォ!!」

 

 

 

取るか、否か、ほんの一瞬迷った。強打では一瞬の迷いが命取りになるが、今回に限っては迷った結果オーライ。

迷った結果、(ボール)に触れず、セルフジャッジを信じようとしたからだ。

ほんの僅かではあるが、東峰が放った(ボール)は、コートの外側に着弾し、相手の得点となった。

 

 

「くそっっ!! スマン!!」

 

 

それを見て、線審の赤旗も見て、東峰は舌打ちをする。

全てが良かった。当たりも問題なかった。ほんの僅か跳躍した場所(・・)が悪かった。後ほんの少し後方で跳んでいればまさに理想的な一撃だった筈……なのに。

 

 

「はい! 惜しい惜しい! 次だ!」

「ドンマイです!」

「次、及川さん! 注意!!」

「旭顔怖ぇぇぞ!」

「なんだと!!」

 

 

励まし以外にも暴言が飛ぶ。

プレーに関係ない容姿のクレームとはいかがなモノか。

 

ただ、そこを気にしていられない。

何せ、次には、相手には及川(ビッグサーバー)が控えているから。

 

 

 

 

 

「ふんっっっっぬ!!!」

 

 

 

 

続く青葉城西の及川のサーブ。

東峰同様、最初のサーブと言う事でこちらも全身全霊100%の強打で応酬してきた。

そして同じく東峰の様にコート外に着弾。

 

 

「おぐっっぅ!! ゴメンッッ!!」

「ドンマイドンマイ!」

「次、切替だ!!」

「ドンマイです!!」

 

 

唯一違う所があるとすれば、及川に対しては東峰の様に暴言が飛んでいない、と言う所だけだろうか。

 

 

「西谷さん」

「ああ、解ってる」

「澤村さん」

「……多分、同じ事考えてた」

 

 

烏野レシーバー陣が少し集まって話をした。

その内容は当然及川のサーブについてだ。

 

 

「今の、アウトだったし、アウトって判断した。でも、咄嗟にインって判断して手が出ててもおかしくないエグイ角度だった」

「……照準を合わせてきてる、って感じた」

 

 

及川の強打。

今までは割合的には精度も上げてきていたから強打+精度と言った鬼サーブだったが、今の及川はパワー重視。強打方面に割り切ったサーブの打ち方をしている。

でも、その中であっても精度を高め続けている様にも思えた。

実際に対峙して、より強く実感する。

 

 

「後半、特に終盤。……要注意だな。気ぃ入れとく。お前らも頼んだ」

「ウス」

「はい」

 

 

澤村、西谷、火神は夫々手を合わせて集中力を高めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「月島ナイッサ―!」

「ナイッサー!」

 

 

月島のサーブ。

基本的に狙うを重視しているサーブで威力は然程ではない。

でも、だからと言って油断も慢心も無い。そんなものを持っていて勝てる相手とは思えないし、思ってる者自体居ないから。

 

だからこそ――――。

 

 

「ネットイン!!」

 

 

不意に月島のサーブがネットを霞め、軌道が直前で変わったとしても……。

 

 

 

「俺が捕る!!」

 

 

余裕を持って岩泉が拾った。

強打が来ない、と言う事だけは間違いないのでその分視野を広げた結果だ。

 

 

「ナイスレシーブ! 岩ちゃん!!」

「「「ナイスレシーブ!!」」」

 

 

崩せたか!? と思ったサーブが上手く拾われてしまった。

これで、この攻撃は乱れる事無くやってくる。

 

 

「(今青城の前衛は攻撃3枚……誰を使う!?)」

「(京谷さん、いや、取った直前の岩泉さんの可能性も想定)」

「((ボール)を見る、(ボール)を見る、(ボール)を見る―――――)」

 

 

青葉城西の前衛は岩泉・金田一・京谷。

最も厄介なパターンの1つだ。

だからこそ、ありとあらゆる攻撃手段を頭の中で想定し、備える。

 

 

「(まずは狂犬ちゃんをノせる事が第一。ノってない狂犬ちゃんは、せいちゃん相手じゃ分が悪すぎる。―――読まれる可能性大。でも攻めなきゃ意味なし)」

 

 

一瞬にも満たない時間で及川は攻撃の手を決めた。

ライトで控えている京谷だ。

 

 

「狂犬ちゃん!!」

 

 

そして、それはオープントス。サードテンポで時間的余裕を持って打つオーソドックスな攻撃。速さを重視している烏野……日向とは真逆でリードブロッカー相手には読ませやすい手でもある。更に加えるとあの角川の様に高さで十分勝負出来る2m選手が居るのならまだしも、極々平均的であり、影山・火神の跳躍(ブロック)に対して、オープン攻撃で圧倒できる相手は青葉城西には居ない筈なのだ。

 

 

「!!?」

「!!!」

 

 

此処で、及川の選択に揺らされたのが影山と日向だ。

影山は当然、速さを武器として囚われていた事もあったので、どんな攻撃でも仕掛けられる場面で敢えてライトからのオープントスを選択した及川に疑問と疑念が生じ。

日向は日向で、及川の【狂犬】発言に着目してしまった。異名の様に聞こえて格好良い! と思ってしまったのである。

 

だが、勿論ながら火神は動揺せず真っ向勝負だけを考えていた。

 

 

「! 澤村さん!」

 

 

僅かに視線と首を動かして澤村の視界に入ると、その名を読んだ。

流石にこれだけで意図を全て理解するのは無理な話だが、澤村の名を読んだ以上、このスパイクは澤村の方へと向かう可能性が高い。

 

今は西谷(リベロ)が居ない状態(ローテ)だから、当然守備力も落ちている。

だからこそストレート側(東峰)はなるべく閉じ、クロス(澤村)で勝負。

 

ブロック3枚、日向がその中に居るとはいえ、ブロックにも定評のある影山と火神の2人が居る布陣。十分勝機はある、と思えたのだが……。

 

 

「!!」

 

 

相手の、京谷の様子を見てその考えは止めた。

普通のサードテンポ、ライト側からのオープンじゃない。

 

京谷は、及川のオープントスで生まれた時間を活用。サイドラインから大きく外に出てからの助走に入っている。特筆すべき点は、サイドラインより外である、事よりもその助走コース。

 

 

ネットのほぼ真横から助走に入っているのだ。

 

 

 

 

―――あの軌道から打てるスパイク。

 

 

 

澤村の中で、その脳裏に浮かんだのは梟谷の………。

 

 


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