王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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今年中に、せめて1話……1話でも多く……と、どうにか1話投稿できました……

パタッ、と倒れちゃったり――――はしてません!!
何とか踏ん張って頑張ります!!


第168話 青葉城西戦Ⅱ④

 

 

頭では記憶は殆ど忘れ去っていても身体は覚えている。その魂はいつまでも覚えている。

 

その場面場面に巡り合ったその瞬間、形容しがたい言いようのない多幸感に包まれると同時に身体が覚醒状態(ゾーン)へと入り、その甘美な多幸感を身体全体で味わおうとするのだ。

そして本当の意味で知らなかった未知の世界を体験する時も同様。

 

 

いつ、如何なる時もとは言えないが、それでもその時に面に出るのが、火神と言う男の屈託のない、混じりっ気のない、純粋無垢な笑顔の正体でもある。

 

 

無論、それを可能にするのは当然ここまで積み重ねてきた賜物でもある。

サボる事無く練習に練習を重ね、鍛錬に鍛錬を重ね、日々心技体共に練り上げてきた。

 

その中には、身体を極限まで酷使するのだから、通常であれば、一般人であれば苦痛や苦悩、耐えなければならない事は無尽蔵にあるだろう。

 

だが―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

「ふっっっ――――!!!」

 

 

 

及川渾身のバックアタック。

一瞬虚を突かれた火神だったが直ぐにあの笑顔が前に出た。

本来であれば、空中に居る時間は一瞬。更に攻撃の刹那、相手コートを見る時間など、それよりも更に短い時の狭間。

なのにも関わらず及川は、ハッキリとあの笑顔(・・・・)を見た。

 

 

 

火神誠也はこの世界のバレーの全てを()とする。

 

 

 

例え傍から見れば()も同然、そうであったとしても全て()へと繋げる。

だからこそ、彼には誰もがそこに異常性を感じ、そして境地に、高みを目指す者であれば 負けず嫌いの気持ちが欠片でもある者ならば、誰もがその場所へ行きたい、目指したいと付いていくのだ。

 

 

 

及川は、あの異常性を再び察知した。

これまで幾度も映像を通して、対面して何度も何度も目に、脳裏に焼き付けてきたあの笑顔。

笑顔(アレ)が出る時は高確率で………危険(ピンチ)なのだ。

 

ドパァァッンッ! 

 

乾いた音が体育館中に響く。

ノーブロックで全力で振り下ろした及川のバックアタックに対し、コートに落ちることを阻む火神のレシーブ。

 

 

「ぁ――――!!」

 

 

入ったと思った。

取ったと思った。

でも、ほんの一瞬遅れた事が後を引いた様で威力を殺しきる事が出来ず、(ボール)は相手コート、サイドラインを越える勢いで飛んでいった。

 

 

「影山!!」

「ッッ!!」

 

 

その(ボール)をネットを越えて追いかけるのは影山。

相手コートに(ボール)が返っても、アウトエリアであれば侵入し攻撃につなげる事はルール上は問題ない。但し、アンテナの外側から自陣に返さなければならないので注意が必要だ。

 

ただ、それは影山には無用の心配だと言える……が、今回ばかりは運が悪かった。

 

 

影山が(ボール)に触れるまでも無く、ピッ! と笛の音が鳴る。

火神のレシーブした(ボール)がほんの僅かではあるが、アウトを告げるアンテナに触れ、揺らしてしまったからだ。つまり、幾ら及川が警戒するあの笑顔(異常性)が出たとしても、決して万能ではないという事になるだろう。極めて高確率で――と言うだけだ。……十分過ぎる程、相手にしたら脅威ではあるが。

 

 

それは兎も角、必死にルーズボールを追いかけていた影山だったが、しっかりとそれに気づいた。揺れるアンテナも視界にしっかり入った。

折角追いついて次の攻撃まで繋げるプランを頭の中で完成させていたのに……【チッ】と軽く舌打ちをする。

 

連続得点を許さぬ青葉城西側の得点。

 

 

「ゴメン!! 勢い殺しきれなかった! メチャクチャ伸びてきた!! 威力も想定以上!! でもでも、凄い悔しい!!」

「いやいや、今の初見で対応した方がスゲーから! ヤベーから! アレで悔しがれるのも結構ヤベーから!」

「アウトかもしれねーが、間違いなくナイスレシーブだったぜ、誠也!! 次だ次! オレも獲る!!」

「ッッ!! アスっ!」

 

 

澤村と西谷の2人が景気よく バンッ、バンッ! と火神の背中を叩く。

 

火神に対する鼓舞であり、己に対しても鼓舞をし、対抗心を燃やす。意表を突く攻撃と言うものは、どうしても思考が遅れてしまう。コンマレベルであっても、一瞬で迫ってくる攻撃を鑑みれば、それは致命的な隙となる。

でも、火神はアレに反応し、上げて見せた。ただ、アンテナに当たったのは運が悪かっただけだ。本人は決して納得しないだろうし、仮に自分の立場だったとしても、納得しないだろうが、アレは捕れている、と称しても何ら問題ない。

 

 

「うおおおお、アレに反応した!! やっぱ誠也すっっげぇぇぇ!! オレもやってやる!!」

「日向このボゲェ!! リードブロック全然出来てねぇじゃねぇかボゲェ!! フリーで打たすんじゃねぇボゲェっ!!」

「うぐっっ!!」

 

 

虚を突かれた、とはいえ事実は事実。

あの青葉城西の変則セットは誰が前衛であったとしても、裏をかかれてしまう……とは思うが、影山は日向に関しては非常に厳しく毒舌で辛辣。

 

 

「うしっ! オレも翔陽も反省すべき点は反省して―――――次に繋ぐ。今度来たら、Aで返してやるよ飛雄」

「……! おう」

「ふぎっっ、オレだってやってやる!!」

 

 

気を取り直し、次のローテ。

相手岩泉のサーブに意識を集中させる。

 

 

 

「いやぁ、今のは完璧! よっしゃ! してやったり~~って感じでスッキリ出来ると思ったんだけど、流石……だね、せいちゃん」

「ニヤニヤしてんじゃねぇ!」

「痛っ!!?」

 

 

何とか得点につなげる事が出来たのは出来た……が、内心冷や冷や、冷や汗ものだった。

あの意表を突く一撃からのカウンター、もしも成功していたとしたら、間違いなく良い波を生む。

影山と言う強烈なサーブも続くし、一気に劣勢になっても不思議じゃなかった。更に付け加えるなら、影山の後にはより厄介と言える火神のサーブも待っている。

このローテは言うなら最も厄介なローテ。そこに波に乗られたともなれば、想像したくもない。

 

及川は軽く頭を振ると改めて岩泉に、そして全員に視線を向けて言う。

 

 

「解ってるよ、岩ちゃん。……コートに(ボール)が落ちるその瞬間まで。いや、何なら主審の笛が鳴る瞬間まで隙見せちゃ駄目だ。結構疲れちゃうけど、……言うまでも無い事、でしょ?」

 

 

及川の言葉に全員が頷いた。

嘗ての烏野の面影は最早無い。進化の途中だった烏が成長し――――いや、成長などと言う生易しい表現じゃない。

烏が化けた。

化け烏となった。

宮城の頂点に立つ為に。……大空を飛ぶ白鷲を喰らう為に。

 

 

だが、それはさせない。

何故なら……

 

 

「さぁ、こっから! もーいっちょ気ぃ引き締め直すよ!!」

【おお!!】

「「はい!!」」

 

 

青葉城西。

その役を担うのは自分達、青葉城西だからだ。

 

 

 

「岩泉、ナイッサ―!!」

「「「ナイッサーー!!」」」

 

 

 

決意を強く持ち、岩泉は(ボール)を受け取る。

青葉城西の代名詞になりつつあるのは、及川の強力凶悪なサーブ。あの白鳥沢でさえ苦しめ、マッチセットまで競い合う時も機能し続けたサーブだ。間違いなく全国で通用するだろう。

 

 

「(……が、及川(アイツ)に続けれるヤツが居ねぇ)」

 

 

岩泉は、(ボール)をバンッ! と挟み込みつつ、考える。

強力なビッグサーバーの重要性は言うまでもない。

全ての始まりであるサーブが強いチームは間違いなく強い。

 

そして、目の前の烏野もビッグサーバーと呼んでよい相手が3人いる。

何より、1年なのだ。

IH予選の時から、否———あの初めて相対した春の練習試合の時から意識していた。

練習を積み重ねてきた。

 

 

《サーブでも、エースになってやる――――!!》

 

 

烏野には負けられない。

そして何より………長年共に歩んできた、及川(あの男)にも負けてられない。

 

 

 

その強い想いをそのまま力に。

言うは易く行うは難しだが、それでも岩泉は実現して見せた。

強力な一撃、本日一番の一撃を。

 

 

 

「!!」

 

 

 

パワーに関しては元々青葉城西のエースである事もあり言う事なしではあるが、狙い、精度はまだまだ改善の余地はある。

何せ向かった先が西谷———リベロだったから。

 

 

「シィッッ!!!(なんつーーー、鬼サーブッッ!? 威力上がった!?)」

 

 

西谷は目を丸くさせていた。

及川のサーブである程度の強打に慣れつつあったのだが、それでも頭をガツンッ! と殴られる様な感覚に見舞われる。

青葉城西は及川だけじゃない! と言う強い強い圧を感じる。

 

もし、あの火神の根性入ったレシーブを見て発破をかけられてなかったら、獲れなかったかもしれない……と思えば、怖気づく……事は一切なく、益々燃え上がる。

 

 

「ちぃッ!!(西谷(リベロ)んトコいったか……!)」

 

 

多少乱したとはいえ、西谷に打ってしまった事、そしてあの程度の乱れなら影山にとっては造作も無くセットに組み込める故に乱した事になってない事、様々な反省点を頭に浮かべつつ……。

 

 

「10番来るぞ!! 11番も注意しろよ!!」

 

 

及川よりも早く、及川よりも強く大きく声を張り上げた。

件のサーブで目を見開いたのは相手だけでなく、及川も同じ。

長く付き合ってきたからこそ、及川自身にも岩泉の考えが手に取るようにわかる様で、視線を互いに合わし、笑みを向け合っていたのだった。

 

 

 

岩泉の声……日向と火神だけに注意! みたいな声は非常に心外。

バックアタックとはいえ東峰もいるし、澤村だって控えてる。

2人のヤバさ凄さは十分過ぎる程身に染みているが、だからと言ってノーマーク扱いだけは鼻持ちならない。

 

 

【オレが打つ!!】

【オレに上げろ!!】

 

 

強烈な圧を、影山にぶつけた。

全員が打つ、全員が選択肢であり続けるこの状況に影山は酔いしれる。

あまりにも贅沢過ぎて、影山は思わず頬が緩む。

 

 

 

「よっしゃ!! よく獲った西谷!! 影山ァ! 日向だ! 日向の移動攻撃(ブロード)行け!!」

「ライト側、壁薄い!!」

 

 

意図しているのか、或いは偶然なのか、青葉城西は基本的に《スプレッド・シフト》で幅広くブロックにつき、構えている……が、今回は真ん中より。火神を警戒しているのは、《バンチ・シフト》気味だ。……いや、その中間? 

 

兎に角、コートを縦横無尽に駆け巡る日向の攻撃がまだまだ有効である、と言うのは解る。日向を追いかけまわす様な選手は青葉城西にはいないのだから。

それに加えて、元々日向の移動攻撃、早い攻撃にはノーマーク戦法、レシーブで対処、と言うのもまだ継続するかもしれない。ともなれば、日向の攻撃が一番可能性が高く理に適っている……と言える……が、その時。青葉城西の松川(ブロッカー)の1人が動いた。

 

 

ライト側への移動攻撃(ブロード)……日向が駆け出したとほぼ同時に。

 

 

「(日向にブロックつくのか? いや、当然か。コース分け出来る様になった日向の攻撃をノーガードで受ける方がリスク高ェ……か? ………)」

 

 

英断である、と烏養も認める。

タイムも取った訳でなく、コート内だけで修正するその能力、チームとしての完成度の高さも脱帽だ、とも思った。

 

ただ、1枚ブロックで日向を止めれるかどうか……は疑問が残る。

でも、それを理解していないとは言えない。嫌な予感がする。

 

 

そして烏養のその予感は的中する事になる。

 

 

松川は日向の素早い動きに対し慌てる事なく見据える。

何度かブロックについているからこそ、何度もつられたからこそ、IH予選で苦い思いをしたからこそ……、つまりこれまで経験してきたからこそわかる。

 

 

「(1人で、1枚で止めるのはしんどい。……でも)」

 

 

叩き落とす事だけが、(ボール)に触れる事だけがブロックではない。

松川は、ライト側に走り跳躍———打とうとしている日向に向かって跳んだ。

クロス側を塞ぐ形で。そして明確な意思を、眼力に変えて日向にぶつけた。

 

 

 

クロス(こっち)には打たないでね? 打てないよね??】

 

 

「~~~~ッッ!!?」

 

 

 

空中で、一瞬にも満たない時間で、日向を眼力だけで、雰囲気だけで威圧する。

相手の意図を日向は瞬時に理解すると同時に、脳髄に叩き込まれた。

 

 

打ち放ったのは当然ストレート側。レシーバーが待ち構えている側。

 

 

「(クソっ!! コース絞らせる為か!!?)」

 

 

烏養の嫌な予感が的中。術中に嵌ってしまった。

あの手のブロック、コースを絞らせるブロックは火神や月島が行っている事ではある……が、基本的に(ボール)に触れるリードブロックを、そして火神は時折見せるゲスブロックで叩き落としをしている。

故に、印象度で言えばまだまだ薄いせいもあってか、日向では対応しきれなかったか。

 

 

 

「ッシッッ!!」

 

 

金田一は、日向のこの攻撃を捕らえた。

確かに素早い攻撃、鋭い攻撃には違いないが、やはりその体躯のせいもあり、威力の方は然程でもない。

だからこそ金田一は捕えた。難なく拾い上げて見せたのだ。

 

 

「(キタ! ストレート真正面!!)」

 

 

事前に、松川に言われていた事だ。

クロスを一切無視し、ストレート側で待っていろ、と。

決してレシーブが得意だ、とはまだまだ言えないし、言うつもり無い金田一だが、それでも難なく、あの厄介な攻撃を拾う事が出来て感極まる。

 

 

「カウンター!!」

「来るぞ!!」

 

 

そして、流れる様に青葉城西のカウンター。

技ありの国見がそのままクロスに打ち抜き、決めた。

 

 

「国見ナイスキー。よし、確かに10番は打ち分け出来る様になってるけど、上手い事コース絞れば十分拾えるな」

「オレも次、次やってみます!」

「松っつん怖ぇぇ。チビちゃん、空中に居る時メッチャ顔歪んでた」

 

 

及川のその感想は正しいし、日向にも聞こえている。

だからこそ、思いっきり顔を赤くさせたし、今も尚心臓が高鳴っている。

 

 

「(すっげぇ、プレッシャー……、やっぱ3年生は怖ぇなちくしょう!)」

 

 

日向は顔に出やすい。

何考えているのか一発で解る。

それが火神なら猶更で、更に正確に解る。そしていつもいつもする事は同じだ。

 

 

「オレ達は毎日毎日一体誰とネット際で競い合ってる? せめぎ合ってる?」

「へぁっ!?」

 

 

頭をガシッ! っと掴んで日向に言い聞かせる。

何度目か解らないが、日向になら何度言っても良いし、足りない。満たされる、なんて事は無い。

 

 

「月島とか飛雄とか、それに澤村さんや東峰さんとも毎日ネット際で戦ってるよな? 翔陽」

「!」

 

 

自分が言おうとした真意を日向がくみ取ったのを察すると、火神はニッ、と笑って続けて言った。

 

 

「オレ達に怖いモンなんか無いよ。さぁ次だ次!」

 

 

日向にも十分解った。

別に今回が初めてではない。似たような事は何度も何度も言われた。独り立ちすると以前より息まいてた自分が恥ずかしくなってくるが、それでも今は恥じる場面ではない。

 

確かにあの一瞬、気圧されてしまった。怖気づいてしまった。

松川は3年生であり、日向よりも20㎝程高く、間違いなく威圧感はある。

でも、それが何だというのだ?

 

火神が言う通り、毎日毎日———同じ様に練習し、競ってきた。その練習で手抜きなんて当然無い。全力で仕留めようとされてきたされ続けてきた。

その時の月島の嫌な感じ、影山の凶悪な顔、澤村の怖い顔、東峰の強烈な顔……そして火神の笑顔。

 

それらを思えば、思い返せば――――。

 

 

「おうよ!! 次、次はもっとなんか……なんかして見せる!!」

「よっしゃ! なんか、ってよく分かんないけど、委縮して固くなるよりは全然OK。翔陽は点取り屋。どーせ倒れるんなら後ろじゃなく前のめりだ」

「おう!! ……倒れたくないけどな!」

 

 

火神は親指を立てて、日向の肩を叩いた。

日向も顔をバチンッ! と挟み込む形で叩いて気付けをする。

 

 

「……やれやれ。一瞬でも隙見せたかと思えばそうやって、す~~ぐ補修して修正して、改善(アップグレード)までしちゃう。ほんとヤメテよね、せいちゃん」

 

 

まさに舌を巻く思い。

対日向専用になりそうな防御陣形……に組みあがりそうな気がしていたのだが、早計だと考えを改め直すのだった。

 

 

 

 

「そうだ。火神の言う通り!! ―———と言いたい所だが、ちょっと後で火神。お前さんがオレに対して思ってる印象について話し合おう? 非常に修正したい部分がある」

「……オレ、怖くないよ? 解ってる??」

「え?? いやぁ、そんな――――」

 

 

 

 

因みに、その後、日向と火神の会話を聞いていて全面的に同意するつもりではあるものの、何処か納得しかねる内容に、非常に複雑な表情をしている澤村と東峰。

 

後でちゃんと話そう! とその場は言う事で切り上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野VS青葉城西

 

両校の激突は場の熱を上げ続けている。

軈て、その熱は他の試合を見ていた者、サブアリーナと言った別の場所で観戦していた者までも巻き込む。

 

 

「烏野対青城どうなってる?」

「おっせーぞ! 今烏野優勢のシーソーゲームだ。どっち転ぶかわかんねー。こんな濃いのにまだ第1セットだべ」

「うはっ~~~、ほんのちょっぴり、前回のはまぐれ上がり? って思っちゃってた部分があるけど、やっぱ復活したんだなぁ……」

 

 

烏野と青葉城西、第1セットはまさに佳境。

20点代に突入中。

 

22-21

 

 

 

「(リードブロック、リードブロック………次こそは――――!!)」

 

 

ここで獲られてしまえば同点まで追いつかれてしまう。

火神のサーブを1回で切って見せた青葉城西をこれ以上乗せてしまえば、更に得点を重ねられて、逆転されるかもしれない。

 

リードはしていても、ここは重要だと日向は本能で解っており、だからこそ意識を集中させる。

上背ではどうしても遅れをとってしまうし、何よりブロックではお世辞にも活躍できるとは言えない事は自覚していが、それでも先ほどの様に驚いたり慌てたりして疎かになる、有って無い様な壁にはなりたくない、と意識を集中させる。

 

そして、それと同時に菅原の言葉を思い返していた。

 

菅原の言葉、それはIH予選時の事。

 

コートの外でも常に注意深く観察し、例え試合に出て居なくても、自分が出ているつもりで見続けてくれていた菅原の青城の情報。

 

青葉城西の速攻は、いつも少しタイミングを溜めてから――――

 

 

 

「跳ぶ!!」

「!!」

 

 

 

バチンッ!! と今度こそ日向はブロックで(ボール)を阻んだ。

否、阻むだけに留まらず、ドシャットの様な大それた事は出来ないが、弧を描く様に跳ね返した(ボール)は、やや前傾姿勢だった青葉城西のレシーブ陣を後退させた。

必死に(ボール)に追い縋ったが、届く事は無くそのままコートに落ちる。

 

 

「っしゃああ! 翔陽ナイスブロック!!」

「おっしゃぁぁぁ!!」

「「「ナイスブロック!!」」」

 

 

「……まぁ、たまにはブロックで点決めても良いでしょ。だってMB(ミドルブロッカー)なんだし」

「ツッキー辛辣!!」

 

 

そう、月島が言う様に忘れがちにはなるが日向のポジションはMB(ミドルブロッカー)。早い攻撃を主にしているが、ブロックの専門的なポジション。元々上背は低くとも持ち前の跳躍力(ジャンプ力)がある。例え相手の方が大きかったとしてもタイミングをバッチリ合わせれば出来るのだ。

 

 

「(お返しだぜェェェェェ!!)」

 

 

そして一頻り喜んだ後は金田一に目で威嚇。

流石に3年生たち、松川の様な相手には出来ないが金田一は同級。何より何度も止められて、さっきは取られて、鬱憤が溜まっている、と言う部分もある。

 

勿論、それを受け取った金田一も黙っていられない。

 

 

「(たった1本だろうが、チョーシ乗んなや……!)」

 

 

負けずとも劣らないメンチ切り。

事実、ブロックポイントに関しては日向の方が圧倒的に少ないから。でも、自分より明らかに小さな男に、認めているとはいえ、バケモノと称する程の運動神経を持ってるのも知っているとはいえ、やはり悔しいものは悔しい。

 

暫く互いに火花を散らし合い―――。

 

 

「いつまでやってんだボゲェ」

「グエッ!?」

 

「ほらほら金田一。チビちゃんばっか見てたら、それこそ釣られちゃうよ」

「!! す、すみません!!」

 

 

影山・及川に連れ去られ、メンチ切り合戦は一時終了となった

 

 

2点リードのまま、第1セット終盤。

このままシーソーゲームが続けば、このセットは獲れる。

勿論油断も慢心も無い。……が、胸に梳く思いはある。

 

 

「よし……! 前回の経験、しっかりと活きてるな。それに加えて対処も申し分なしだ」

 

 

前回の経験とは当然IH予選の時の事。

選手らにとっては悪夢の敗戦であり、トラウマになっててもおかしくない敗戦。

それを最初の一撃で払拭し、そして間違いなく糧としているのを見て烏養は胸を張った。

 

 

そして、それは青葉城西側も同じく感じている。

 

 

「……烏野の対応力、上がってますね。全体的なレベルアップが感じられます。決して青城(ウチ)の調子が悪い訳ではなく、寧ろ好調に見えますが、それでも後1歩が遠い」

「ふむ……」

 

 

溝口も烏野の力は当然知っているし、何なら白鳥沢よりも高い評価を推していたりもする。

前回、確かに青葉城西側が勝利を収めた。

でも、想う所はある。

溝口自身は選手たちには勿論、口に出して言ったりまではしていないが、最後の最後まで万全の烏野であったとしたら結果はどうなっていたか? と言う問い、自問自答に対し、悪い答えが何度も頭を過っている。

 

それ程までに相手は強敵なのだ。

 

入畑も重々承知の上だ。

前回の勝利は運をも味方につけた結果にある。

無論、溝口同様にそれを口にはしないし、運も実力の内と言う言葉もある。間違いなく躍進し、高め合い、勝利を手にしたのはあの選手たちだから。そのプライドに水を差したりはしない。

 

いや、言うまでも無く選手たち自身が気付いているだろう。

それこそ敵味方問わずに――――。

 

 

 

 

「金田一~~!! やり返せ!!」

「はいッッッ!!」

 

「ぐっぞーーー!!」

「翔陽ドンマイドンマイ!」

「切り替えろ! 次すげぇのが来るぞ!!」

 

 

金田一の速攻で再び青葉城西の得点。

 

23-22

 

追いつこうにもどうしてもこの連続得点(ブレイク)が難しい。

点を積み重ね合う度に思う。

幾度も経験してきた事でもある。

ほんの少し先に見えている筈の背が、果てしなく遠く感じてしまう。

 

 

「ふぅ――――――」

 

 

だからこそ……、今ここで攻めなければならない。

 

 

「及川ナイッサ―!!」

「ナイッサーナイッサ―! お・い・か・わ!!」

【ナイッサーナイッサ―!! 及川!!】

 

 

攻め所である事は、皆も解っている。

岩泉も、果敢に攻めた。そして点こそは獲れなかったが、間違いなく相手を乱す事が出来た。これまでで一番だと言って良い。結果で示した。

 

―——ならば。

 

 

 

「………へっ。そうだろうよ」

 

 

及川の身に纏う雰囲気を見て、岩泉は笑った。

長い付き合いだ。自分が思っている事、やってやりたい気分をあの及川も感じない訳がない。通じ合ってる~等とキモチワルイ事を言うつもりは無い。口には絶対にしない、がそれでも解っている。

互いが互いの事を。

 

そして、先ほどの自分自身の時以上を出すとすれば――――。

 

 

「金田一。一応、後頭部気をつけろよ」

「えっ!!?」

 

 

滅多に無いが、それでもパワー重視で行く以上もしもは絶対ないとは言えない。

暴投した時、非常に危ない。備えあれば憂いなし、と岩泉は金田一に告げるとにやりと笑みを浮かべて呟いた。

 

 

「行け、相棒」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コート内が……。

いや、この総合体育館の中自体が静寂に包まれた気がした。

嵐の前の静けさ、とでも言うのだろうか?

勿論、それは有りえない事。コートの中と外で、観客席の応援も含めて、無音である時など欠片も無い。

 

でも、今———あの及川と言う男のサーブのターン、それは確かに感じた。

嵐の前の静けさ。

一気に爆発する為に溜めて、溜めて――――解き放つ為に。

 

 

「……スゲーの来るぞ!!」

「アス!!」

「ウス!!」

 

 

烏野も守備力トップ3の陣形で臨む。

火神、西谷、澤村。これ以上ない布陣。

守備に絶対的な自信があり、更に一切臆する事無く寧ろ楽しみにしている面も持ち合わせている程。それは最早変人と呼べる男たちが居る。

 

 

「(————オレは、まだまだその域には行けてない気がするがな。……それでも、負けられん)」

 

 

澤村は頼りになり過ぎる後輩2人を後目に軽く笑った。

そして、大きく大きく息を吸い込み腹の底から声を出す。

 

 

「サッ、来ォォイ!!!」

「「来ォォォォイ!!!」」

 

 

西谷、火神もそれに続き、完全臨戦態勢、集中力MAX。

 

そして、それに応える様に及川は始動。

(ボール)トスから助走、そして跳躍。一見、これまでのサーブと変化はない……と思ったその次の瞬間。

 

 

 

ズドンッッ!!

 

 

 

凄まじい轟音と共に、一瞬で放たれた大砲(ボール)が西谷・澤村の丁度間を貫いた。

ハッキリ見ていた筈だ。瞬きすらしていない。何にも関わらず一歩も動けなかった。気づいたら(ボール)が後ろの壁に激突していた。

 

だが、結果はアウト。

 

 

エンドラインを割っており、得点は烏野。

 

24-22

 

 

烏野のセットポイント。

 

 

「おあっっぐううううう!!!? ごめんんんんん!!!!」

 

 

会心の一撃———と思ったのも束の間。

及川は頭を抱えて皆に謝る。

 

「惜しい惜しい~~! ナイス攻めサーブ!!」

「次だ次ィ! (………負けねぇぞ)」

 

確かに外した。

サーブを外せば、タダで相手に得点を与える様なモノだ。だからこそサーブミスは命取りになるし、何より抑えたいミスの1つでもある……が、1点献上以上の効果は恐らくある筈だ。

 

 

 

「ラッキーラッキー! も一本取ろう!」

 

 

手をぱんぱん、と叩く澤村だったが、内心冷や汗が止まらない。

サーブの威力が増した。間違いなく増した。及川のサーブの威力はまだ上が有ったのか、と。

東京で何度も何度も練習を重ねてきた。

 

全国を戦う梟谷を筆頭に、サーブに定評のある生川と言ったチームの強烈な一撃を幾度も受けてきた。

だからこそ、どんな(サーブ)が来ても驚かないし、冷静に立て直し、処理してやると思っていたのだが……。

 

 

「――――ほぼスパイクじゃねーか」

「……同感です。凄いですね」

 

 

汗を拭い、コクリ……と頷くのは隣に要る火神。

その返事を聞いて、ぎょっ、と視線を向き直すのは澤村。

 

 

「! っとと、あれ? オレ、今声に出てた?」

「? はい。思いっきり出てましたよ。……すごい、っスね!」

 

 

頭で考えてただけのつもり――――だったが、どうやらバッチリ声に出ていた様だ。

非常に恥ずかしい、と思ったがそれ以上に思った事がある。

 

 

「……アレ見て、アレを打たれて、普段と変わらずものすっごい笑顔キープできる火神も大概なスゲーでヤベーだけどなぁ?」

「えぇぇ……でも、西谷先輩だってそうですよ? 目、輝かせてますもん」

 

 

澤村のご指摘に対し、火神は視線を西谷の方へと向けた。

 

 

「すっっっっっっげぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

見たら1発で解る。

新しいおもちゃを前にした子供か! って言いたくなるくらい、目を輝かせていた。

因みにその後ろで。

 

 

「ヒィ………!!」

「っ~~~~~~!!!」

 

 

真っ青にして震えてる日向と、逆に顔を赤くさせて震えている影山。

実に対照的な2人が居た。

日向はあの威力に恐怖し、影山は強いサーブに憧れを持ちつつ、ライバル視もしているので悔しくもあり、色んな感情が入り乱れてる。

そして、火神は当然と言えば当然。影山と同じ心境だ。

 

 

「レシーブは得意な方です。だからこそ、凄いサーブは受けてみたいですし、ワクワクします」

「おおぅ。圧倒的強者な思考だ。常に上見てるヤツ」

「ワクワクどころか、バクバクしちゃうよ、オレ……」

「だから、エースは猫背になんな! 誰狙われてもおかしくねーぞ」

「う、ウス!!」

 

 

及川のサーブに対して思う所は三者三様。

その中で火神は、誰よりも目標の一部とし、掲げて積み重ねてきたからこそ強く思う。

 

 

「ッ~~及川さんのサーブの域には達してませんね。オレもまだまだ」

 

 

確かに入らなかった。

でも、アレを自在に操れる様になったとするなら、末恐ろしく、それ以上に目指しがいがある。

 

火神は、両頬をぱちっ、と叩き、そして手をギュっ、と握りしめるのだった。

 

 

 

 

そして、改めて試合に集中————と言う所で、笛の音が鳴る。

 

 

 

 

「怖れている暇は無い。勝負に出なくてはね。――――拮抗している今、それを破る為に。……あの及川の様に色々変化を齎せる為にも」

 

 

 

入畑が動いた。

そして、青葉城西の16番を背負った男も動いた。

 

 

WS(ウイングスパイカー) 京谷。

 

 

餓えに餓えた男が今、コートの中に解き放たれたのだった。

 


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