王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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何とか、10月中に投稿出来て良かったです……。
まだまだ、先は長い!! 凄く長い……気がしますが、どうにかこうにか、頑張っていきます!

まだまだ、コロナが迫ってる世の中……第8波? の危険が臭ってきてますが……色々頑張ります!








うちわ0096様より、絵を作って下さいました……!!
幾ら感謝してもし足りません…… 涙
ありがとうございます!


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第166話 青葉城西戦Ⅱ②

 

初っ端からのかなり高度なラリーの応酬。

前評判の良い両校に加えて、IH予選での因縁。

 

場のボルテージが、序盤も序盤だというのに最高潮? と思える程に沸き立つ。

中でも、衝撃を受けたのは実は応援席側、それも青葉城西側だったりする。

 

 

「やべぇな………」

「練習試合、IH予選、たった数ヵ月……。変わり過ぎだろ、烏野。別モンじゃねーか……」

 

 

試合を外から見ている青葉城西側のベンチ入り出来なかったメンバーも思わず声を上げてしまう。

 

レギュラーに選ばれてないからコートに立てないし、練習試合でもIH予選でも烏野と実際に交えてないかもしれないが、それでも強く感じる。

 

レギュラーを目指し、虎視眈々とその武器を磨き続けてきた彼らの目は養われている。この目に映る烏たちは、まるで別物である、と。

この短い期間に留まる事を知らない進化、そしてその成長速度。一体誰が彼らを落ちた強豪などと付けたのか、と怒りたくなるくらいだ。

 

そして青葉城西は、県内2位の強豪校。

 

当然集ってくる選手たちも中学で名を馳せたエース級が集まってくる。選手層の厚さで言えば烏野を凌駕すると言って良い。

だからこそ、より肌でその強さを思い知ったのだろう。

 

 

だが、勿論それ以上に信じている。

 

 

「はいはーーい! こっからこっから! 落ち込んでる暇ないよ~! 獲り返すよ~~! さっさと凹ませないとこの先もっとしんどくなるよ~~!」

「オメーのサーブあっさり取られちまったな」

「なんで俺を凹ませようとすんのさ!?」

 

 

眼下で戦う自分達の代表であり、(人間性はさておき……)尊敬する主将及川を、岩泉を、……選ばれたレギュラーたちを信じている。

相手は強豪。バケモノ揃いの烏であっても、負けないのだと。

 

 

 

 

「飛雄」

「! おう」

 

 

そして、サーブ権を得た烏野のサーブ。

初っ端は、烏野のビッグサーバーが1人、影山。

 

(ボール)を手に、エンドラインへと向かう影山に火神は呼び止め、軽くサインを出した。

その意図に気付き、影山は頷き返す。

 

 

「いーな、それ(・・)かっけーな~~。俺がそれ(・・)やったら影山めっちゃ怒るからなぁ……」

「それじゃ、翔陽ももっともっとサーブ力磨かないとだ。ブー垂れてる暇ないよ。力、説得力つけないと」

「わーってるよ!! やってやるよ!!」

 

 

及川のサーブに触発されて、盛大にホームラン。

それは前回あった事でもある。

 

影山は学力的な頭は兎も角、バレーIQは非常に高いレベルに推移していると言って良いが、この相手……過去の因縁であり、どうしても超えたい相手と戦う時、如何にその影山であろうとも、変に力が入ってしまっても不思議じゃない。

 

 

だからこそ、火神は前日から影山に言い聞かせている。

細かい説明は省くが、要するに【落ち着け】と言うサイン。

そしてもう1つ【思いっきり】と言うサインも備え付けて。

 

試合最初の1発目だ。変に考え過ぎるくらいなら、後々の為に思いっきりいった方が良い場合もある。青葉城西と言えば、少々昔日向が思いっきりフルスイングして、影山の後頭部にぶつけた事もあったが………、それである意味緊張が解けたので良かったと言えるだろう。

 

 

「―――――ひぃっ!?」

 

 

何やら日向の背に悪寒が走ったのはきっと気のせいである。

 

 

そして影山自身も、火神だからこそ素直に認めて、素直に耳を貸している。―――が、これを日向がやったら当然小戦争になってしまうのは言うまでもない。

 

 

「翔陽集中。……相手が誰か、解ってる筈だろ? イメージは音駒(・・)だ」

「! ッたり前だ」

 

 

影山をエンドラインへと見送った後、主審からの笛を聞いた後、火神は日向にそう告げる。

影山のサーブの強さはよく知っている、そして相手のレベルが高い事もよく知っている。

 

強烈なサーブで打ち取れる程、甘くないという事。

 

 

 

「影山ナイッサ―!!」

「1本!!」

 

 

 

影山は手の上の(ボール)を軽くスピンさせて、(ボール)を押さえつけてその回転を止める。いわば、影山のルーティン。

集中力も申し分なく、強烈な一撃が来ると確信を持った青葉城西のレシーバー陣は一気に集中力をMAXまで上げて最大警戒レベルに引き上げた。

 

サーブトス、助走からの踏み込み、何より腹の減り具合も完璧。

影山は自信を持って、これまで通りに、今まで以上を打つ為にフルスイング。

 

先ほどの及川に勝るとも劣らない強烈なサーブ。

及川自身は盛大に否定するだろうが、及川の弟子である、と間違いなく言える超高威力のサーブが打ち放たれた。

 

 

「!! (ナイスコース!)」

「!!(すげぇ、イイコースだ。あれは獲れない……)」

「!!!(獲ってみてぇぇぇ!!)」

 

 

烏野主要レシーバー陣である火神、澤村、西谷も唸り、目を光らせる程の強烈サーブが青葉城西を襲う。

 

 

「!!」

花巻(マッキー)!!」

 

 

非常にきわどい。

アウトかセーフか、正直100%の自信はない……が。

 

 

 

 

 

「(8割は………)アウト!」

 

 

 

 

 

 

いつも及川のサーブを受けてきた。

そして及川のサーブを盗み、昇華させてきた影山。

 

だからこそ、100%とは言えないかもしれないが、自信を持って言える。

 

 

実際、打たれた(ボール)はほんの僅か、サイドラインから5㎝程外側。

線審のジャッジも、旗を大きく上に上げるアウトのサイン。

 

 

「うおおおっ!! 見切った!!」

「やばい! 入ったと思ったのに! すごい!!」

「よく見切ったなぁ……。半分勘か? でも、すげぇぞ!!」

 

花巻(マッキー)ナイスジャッジ!!」

 

 

サーブの威力もさることながら、あれだけの威力で、あのエグイコースで手を出さずに見切って見せた花巻の目の良さと判断力も圧巻だった。

無論、試合序盤でまだまだ思い切ってプレイできる時間帯だからこそ、出来た事なのかもしれないが、結果的に自分達がやられた様に、ビッグサーバーを1発で切って見せた功績は非常に大きいだろう。

出足から波に乗せない、と言う意味でも。

 

 

「んぐぅっ……!! わかってたのに、わかってたのに……っっ!!」

「ドードー、落ち着いて落ち着いて」

「ドンマイドンマイ! 次だ。次!!」

「影山顔こえーよ!」

「うっせぇ!!」

 

 

幾ら頭で理解してても。

幾ら事前に話をし、理解し、再確認までしていても、それが100%の保証がある訳がない。

限りなく100%に近づく努力はするが、近づく事は恐らく誰にも不可能だろう。

入れるだけサーブならまだしも、影山の様に狙った強打だとすれば猶更だ。

 

 

それは兎も角として、試合はイーブンに戻った。

 

 

 

「ミスは次に?」

「! 引き摺るかよ。獲り返す。解ってる」

「よっしゃ。次、俺にくれ。決めきれなかった鬱憤晴らしたい」

 

 

憤慨するのは一瞬だけ。怖い顔するのも一瞬だけだ(基本強面である事は置いといて)

意識を次に切り替える。基本中の基本だ。

 

 

続いて青葉城西のサーブ。

及川に続くローテは、エース岩泉。

 

 

練習試合、IH予選時は完成してなかったのか、或いは安定していなかったのか、ただのフローターサーブだったが、この予選からは違う。

照準を合わせてきている。

 

 

「「「「サッ! コォォイ!!!」」」」

 

 

無論、それはレシーバー陣も解っている。ここまでの試合のデータもしっかりと見てきているからだ。烏養からも念を押された。

レベルが上がってるのは、当たり前だが自分達だけじゃない。

結構な曲者に揉まれて上がってきたのは、自分達だけじゃない。

 

県トップクラスは、それが通常(・・・・・)

 

 

 

「ふんっっ!!」

 

 

 

岩泉の強烈なジャンプサーブが放たれる。

これは間違いなく入っている。威力・精度共に申し分なし。そして、狙いは後衛、エースの東峰の位置。

 

 

「ぐっっ!!(くそっ!!)」

 

 

エースをサーブでけん制する。常套手段(セオリー)の1つだ。

加えて、東峰は攻撃力こそ烏野トップクラスな反面、守備力もトップクラス、とは言えない。

 

 

「スマン! 長い!!」

「ナイスナイス!!」

 

 

 

 

 

 

 

岩泉のサーブを芯で捕らえる事は出来た……が、その威力を殺しきる事は出来ず、高威力のままに跳ね返してしまったのだ。

及川に続く岩泉の強打。これがこれから先も続くとなると嫌になる。

 

 

「うおっ……、青城もサーブやべぇな……! 及川ばっかに目ぇいってたけど」

「青城のエースだしな……。単純に力強い。それがサーブに直結したら、そりゃヤバいわ……」

 

 

及川のサーブはどの高校も、あの王者白鳥沢も最大級に警戒する。

でも、及川だけじゃない。それを再認識させる程の強サーブだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面はサーブカット直後。

上がった(ボール)の軌道は間違いなくネットを越えてくる。

それに気付いた国見はネット際に待ち構える。

 

 

「スマン!! 影山!!」

 

「叩け国見!!」

 

 

ネット上での空中戦。

右手を伸ばす影山に対し、両手で抑え込みにかかる国見。

影山の伸ばす手が間に合わなかったら、そのまま叩き落とされてしまうだろう。

ならば、ブロックフォローに回った方が利口かもしれないが、迷う事なく火神は助走距離を確保し、入り込んだ。

 

 

「(———こい、こいこいこい!!)」

 

「(!! 負けて、たまるか―――!!)」

 

 

伸ばし続けた右手は、国見に捉えられるまさに寸前の所で届き得た。

影山渾身のワンハンドトス。そしてど真ん中(センター)に入ってくる火神はそのまま跳躍し……。

 

 

「フッッ!!」

 

 

速攻で打ち込んだ。

国見は最高到達点まで跳んだ後、当然落下し始め、火神の攻撃を防ぐ術を持たない。同じく前衛の金田一もそれに気づいて跳躍をしたが、跳躍のスタートが違う。もう間に合わない。

 

ブロック0の状態でコートに叩きつけた。

 

 

「っしゃああ!!」

「火神ナイスキー!!」

「影山ナイストス!! サンキュー!!」

 

 

言葉にすれば何が起こったのか説明は出来る。

だが、説明出来たとして、アレを実際に行えるかどうかは別の話だ。

 

影山があの軌道の(ボール)に追いつけたのもそうだが、何よりも―――。

 

 

火神(あのやろう)!! よく入ってきたな!!? んで、片手で速攻(クイック)か!?どんだけ正確だよ!! いや、お前らなら、って驚かねぇけど! いやいや、やっぱ驚くわ!!」

「お、落ち着いて烏養君! 何言ってるか、僕もわかんなくなっちゃったよ!?」

 

 

影山なら上がると信じて火神は入っていた。

普通なら、フォローに回ってもおかしくない場面で、まるで躊躇する事なく入り、そして影山も影山で片手で正確にトスを上げて見せた。

 

 

【一般的なら、普通なら、自分なら】

 

 

それらが通用しない。

本当に何度目か解らないが常に驚き、常に更新されていく。

 

 

「ナイストス! 飛雄!」

「ナイスキー!」

 

 

バチンッ!! と片手同士のハイタッチを交わす火神と影山。

何も不思議な事はない。

これは当然で必然だ。

 

影山は、見たから(・・・・)

試合初っ端の、火神-日向のセットアップ。

間違いなくネットを越える(ボール)をワンハンドで上げて見せたあのセットを見たから。

 

 

火神がやったのだから、影山がやらない、やれない訳がない。

絶対にやって見せる。

 

それが影山と言う男だから。

生粋の負けず嫌い。

 

 

「ふぐっっ、おれ、決められなかったのに、誠也は決めた……」

 

 

日向も日向で負けず嫌い。

ただ、現時点では―――。

 

 

「ったりめーだろ。誰と比べてんだ、ボゲェ」

「はぐぅっ!!?」

 

 

少々スキルが足りないだけだ。

素材としては一級品、超一流。今後が楽しみな選手の筆頭だ。

 

 

そんな超高校級と言っても良い一連の攻防を見ていた誰もが思った。

 

 

【レベルが高い】

 

 

と。

たった2度の攻防で、今日まで生き残っている、と言う実績以上に、両校のレベルが自分達よりも遥かに高い事を痛感させられていた。

 

 

 

 

「一本!! 一本レシーブ!!」

「強いの来るよ!! 集中集中!!」

 

 

 

 

青葉城西側も懸命に声を上げる。

及川の試合前の言葉を今更ながら実感し、例え試合に出れなくても声は出せると声を上げた。

 

岩泉や花巻も、冗談交じりに言っていた【万全の烏野を倒せば全国】と言う言葉も決して現実味がない訳じゃない。

間違いなく強い。

ここ2~3年間、決勝の舞台で王者白鳥沢と何度も相対し、目の当たりにしてきているからこそわかる。

 

今相手にしている烏野も、何ら遜色ない実力だと。

 

 

「……………」

 

 

そんな声を必死に出す者達が殆どの中、唯一声を上げずに、ただただ睨みつける様にコートを見ていた者がいる。

まるで血走っているかの様な目つき、そして只ならぬ雰囲気、今にも襲い掛かってきそうな殺気に似たなにか。

 

青葉城西の16番を背負った男、【狂犬】はコート内で暴れる烏たちを見て、睨みを利かせていた。

 

 

「—————!」

 

 

そして、暴れたくて、暴れたくて、餓えた狂犬の目が1人の男に向けられた。

自分とは実に対照的なその姿に、睨みを利かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も極めてレベルの高い一進一退の攻防が続く。

取っては取り返しの繰り返しで、お互いに連続得点(ブレイク)を許さず、もう1歩を踏ませない状況が5点まで続いた。

 

 

「月島ラスト!!」

「いけっっ!!」

 

 

そして、今チャンスを迎えているのは青葉城西。

半歩のリードを奪い返す為の連続得点(ブレイク)チャンス。

 

 

「ッッ!!」

「ナイス渡!!」

 

 

月島の速攻に対して、コースを読んでいた渡が綺麗にレシーブで返したのだ。勿論Aパスで最高の形でカウンターがとれる。

これで攻守が入れ替わり、チャンスとなった。

 

 

セッター及川が選ぶのは真ん中(センター)花巻———。

 

 

シンクロ攻撃で相手を惑わし、ブロックを分散させる。

攻撃の手段としては決して悪くはない。両サイドに松川・岩泉、後ろから国見。どの場面からでも攻撃出来る布陣でのど真ん中の選択。十分意表を突く事が出来る攻撃ではある……が。

 

 

「!!!」

「うがぁっ!!?」

 

 

裏をかかれる事を最も嫌う月島()が今、前衛に居るのだ。

磨き続けてきたリードブロックは今日も冴え渡っている。取られた(ボール)は自分で取り返す、と言わんばかりに、相手コートに叩き落とした。

 

 

「うおっしゃぁぁ!!」

「月島ナイスブロック!!」

 

 

「くっそ!! (わり)っっ!!」

「こっちもゴメン!! ちょっとトス低かった!」

 

 

再び烏野が半歩リードして

 

6-5

 

 

ローテーションにより、日向がIN リベロの西谷がOUT

月島のサーブ。

 

 

 

「それにしても最初っから見ごたえあり過ぎだよなぁ……。成長度合いがハンパねーって思ってたけど、やっぱ青城も強ぇわ……。いや、何か感動する」

「うんうん、解る解る。IH予選より遥かにレベルアップしてるよ。お互いに、な。……けど、やっぱ1発日向に速攻決めて欲しいトコでもあるなぁ」

 

 

まだ息をひそめているのは日向と影山の超速攻、変人速攻。

アレが決まらないと更にのって来ない。日向の囮としての機能を十全に発揮させる為にも、早い段階で気持ち良い1発を見ておきたい、と言うものだ。

 

やはり、烏野の代名詞と言えば―――――?

 

 

「「お父さん!!」」

 

 

と、嶋田と滝ノ上はハモッた。

 

 

「へ? 翔陽の話してたんじゃないの? てか、おとーさんって何??」

 

 

横で応援しつつ、話を聞いていた田中姉は疑問符を浮かべる……。

ここで、田中弟からも聞いてなかった火神お父さん話が田中姉にまで伝わって、更に拡散されてしまう……のは言うまでもない事だった。

 

 

 

 

 

 

それはそれとして、今は火神=お父さん話より、試合の話だ。

 

 

「ま、日向についてはアレだ。……何せ前回のIH予選、青城戦のラストで完璧なタイミングだった日向の速攻が、どシャット喰らってそのまま終わったんだ。色んな想いも継いで打った出来うる最高の一撃を」

「!!」

 

 

今でも脳裏に思い浮かぶあの最後。

文句なしの最高戦力である火神が不慮の事故に倒れ、戦力ダウンを余儀なくされる、と誰もが思っていた筈だったが、それでも想いを受け継ぎ、全員があの時点での120%を発揮して、最後の最後まで食らい付いた。

 

でも、その最後の最後で―――――。

 

 

「俺たちでさえ、アレは印象に強く残ってるんだ。日向と影山にとっちゃ、当然それ以上だと思う。あの時のあいつらのやり取りも、繋心から聞いたが、ヤワじゃねぇとは思ってても、正直トラウマになってても不思議じゃねー。中々に払拭は難しいだろうぜ」

「………」

 

 

IH予選を知らない谷地も思わず息を呑む。

つい先ほど、【口から心臓、AED事件】もあって少なからず耳にはしたが、それでもOBたちの間でも話題に上がるとなると……やはり、相当大変だったのだと改めて理解は出来る。

 

流石にもう心臓は飛び出さないが、それでも表情を眩めてしまうのは仕方がないだろう。

 

 

「へいへい、1年ガール!」

「わぁっ!?」

 

 

そんな暗い顔になってた谷地にグイっ、と腕を回すのは田中姉。

 

 

「そんな顔してる場合じゃねぇ、ってよ? あいつらはそう言ってる様に見えるぜ!」

「は、はひっっ!?」

 

 

田中姉の豊満な胸に埋まり、女としての器の差、大きさをまざまざと見せつけ感じされられてしまった谷地だった……が。

 

 

「岩泉!!」

「!! ストレート!!」

 

 

田中の胸の事より、この眼下で鎬を削り、死力を尽くして戦う皆の声に、意識を向けられた。

 

 

「ふっっ!!」

「大地さん、ナイスゥゥ!!!」

 

「くそっっ!!」

 

 

相手のエース、岩泉の一撃を見事防いで見せた。

澤村渾身のレシーブは、影山に正確に返球し……そして舞台は整った。

 

 

「(キタッッ!!)」

 

 

日向はそれを見て駆け出す。

あの時を、あの記憶を振り払う為に。

 

 

 

 

『いけっっ!! 日向ぁァァ!!』

 

 

 

 

 

中からも、外からも聞こえてくる。

背を押される感覚がある。

 

もう、悪夢は要らない―――。

 

 

「「「ッッ!!?」」」

 

 

だが、日向が来るであろう事を読んでいた金田一は、完璧なタイミングでその速攻に合わせた。

バチンッッ! と弾き返される。

完全に叩き落とされた訳じゃないが、それでも高い壁に、鋭角で跳ね返されてしまった。……あの時の様に(・・・・・・)

 

 

「っしゃあああああ!!」

 

 

IH予選の再現だ、と金田一は空中で吼えた。

此処しかない、と言うタイミングで見事に止めて見せたら、間違いなく流れを読み込める。

あの時の様に、越えられない壁を証明し続ければ、更なる足枷となって日向にプレッシャーを与える事が出来るだろう。あらゆる面で、最高のブロックだった。

 

 

だが……、今はあの時とは違う(・・・・・・・)

 

 

 

「――――――ふんっっ!!」

「!!!」

 

 

 

あの時(・・・)は居なかった。

最後の最後まで、共に戦う事が出来なかった。

 

もしも……、歴史にもしと言うモノの介入を許して貰えるとするならば、絶対に再現などはさせない。

 

コートと(ボール)の間僅か1㎝に滑り込む。

絶対に落とさせない、と火神渾身のスーパーレシーブ!!

 

 

 

【うおおおおおおおおおおお!!!】

 

 

 

完全に金田一が、青葉城西側得点だと思った。

叩き落とされて仕舞だと思ってしまった。

 

だが、ここで魅せるスーパーレシーブは、場を一段と熱く、高みへと上げさせる。

 

 

 

「うわっはっは!! ナイスレシーブ!!」

「すげーすげー!! やべぇ、スーパーレシーブだ!!」

 

 

火神(きゃぎゃみぃぃぃぃぃ)!!!! ナイスぅゥぅゥッッ!!」

「うおおおおおお!!!」

「きゃがみって誰!!?? そんなもん、別にどーでも良いぃぃぃ!! ナイスぅぅぅぅ!!」

 

 

 

内外問わずに今日一、デカい声援記録更新。

 

 

「火神ナイスだ!!」

「誠也ナイス!!」

「「負けねぇぞ!!」」

 

 

レシーブに自信がある組、澤村と西谷も痺れる今のレシーブ。お互いに意識し、示し合わせたかの様に同時に声が出る。

単にスキルが高いというだけじゃない。ここしかない、今こここそ、と言う場面で魅せるからこその火神だ。

 

 

 

 

「はーーい! 落ち着いて落ち着いて! 美味しい、チャンスボールだよ!」

「!! 下がれ下がれ! もう一回だ!」

 

 

あまりもの大歓声とスーパープレイに思わず呑まれて、勢いのまま崩れてしまうのでは? と危惧した及川は、大きく息を吸い込んで、大きく叫んだ。

火神の今のレシーブはホントに凄い。流石、自分が認める程!! と及川は思っていたが、少々運が悪い事が有ったとするなら、レシーブ後、上がったこの軌道の高さ。

 

 

勢いを殺したりする事が叶わない今の一投は、青葉城西側にチャンスボールとして飛んで行ってしまった。それも大きく山なりの(ボール)で。

 

それは、チームにゆとりを持たせる、落ち着く時間を与えるのに十分過ぎる程の滞空時間だ。

 

 

「渡っち!!」

「ハイっっ!!」

 

 

渡から及川に上がる(ボール)。それを見て、苦虫を噛み潰すのは日向。

今の一撃を止められた事もそうだが、これで相手の強い攻撃が来る。このままじゃ不味い、と焦りの色を浮かべていた。

 

 

「くっそっっ、次こそフガァァッ!!?」

 

 

焦りからなのか? 突然奇声? 絶叫? を発する日向。

だが、それは焦りからでも、止められた事に対するモノでもない。

 

 

日向の直ぐ横に居る影山が、相手の(ボール)に意識を集中させつつも、左側に居る日向に向かって、渾身のタイキック(左足)を決めたのだ。

 

見事に突き上げる様なケリは、日向の臀部を見事に捉えて突き抜け、肛門を突き抜け、脳髄にまで響く。

……腹を下していたらそのまま決壊。あのバス内でのリバースが可愛く見えるTHE END、BAD ENDだったかもしれない最悪な威力。

日向にとっては最悪、理不尽極まりない事ではなるが、勿論影山にも理由あっての事。理由のない問答無用で理不尽な暴力は基本、幾ら日向相手だったとしても影山はやらない。

 

 

「冷静になれェ、ボゲェ!! このボゲェェェ!!」

 

 

「(うるさっ……)」

「(過去一、大音量の罵倒……)」

「(飛雄もどっちかって言うと……。あ、でも噛んでないな、そう言えば)」

 

 

 

一体どっちが冷静じゃないのか、とツッコミたくなる気持ちをどうにか抑えつつ、皆一様に(ボール)に集中する。

何せ、次撃ってくる相手が相手だから。

 

 

「岩ちゃん!!」

「オオッッ!!」

 

 

及川が選んだのは岩泉。

生半可な攻撃力じゃない、青葉城西のエースからの一撃。

 

 

上手く悟らせない様にトスを上げた及川だったが、そこは反応速度が異常とも言える日向と影山のコンビが、その身体機能(フィジカル)に物を言わせてブロックに跳んだ。

 

 

「くっそ―――!!(反応早いッッ)」

「なめんな―――ぶち抜く!!」

 

 

及川は、自分のセットに追いつかれた事に青筋を立て、そんな及川を見た岩泉が憤慨する。

 

絶対にきめてやる、と。

 

 

岩泉が決めたのはクロス側。

つまり、日向の方。高さは十分かもしれないが、まだまだブロック技術に置いては影山に比べたら全くの未完成。

 

 

「ぎゃッッ!!!」

 

 

バチンッッ! と強烈な一撃を貰い、それが日向の左手に当たった。

臀部に加えて四肢の末端、手先までがジンジン……と痺れる。

完全に抜けた故に、青葉城西の得点か!? と思ったが。

 

 

「(得意分野で……)―――負けられんッッ!!」

 

 

次に魅せるのは、澤村のスーパーレシーブ。

 

これまで、澤村も何度も何度も魅せられてきた。

だが、それでヨシとする訳も無かった。

彼らの様な大層な才能がある訳でも、トンデモナイ身体能力を持ってる訳でもないが、それでもバレーボールに触れてきた時間だけは、決して負けない。負けてない。と言う強い自負、意地(プライド)がある。

 

そして、意地(プライド)を示すには、結果で魅せるしかないだろう! と岩泉のコースを読み切って、上げたのだ。

 

 

「大地さん!!!」

「大地、ナイスレシーブ!!」

 

 

完璧に捉え、上げてみせた一投。

 

 

「(くっそが―――!!)」

「(取ったり―――!!)」

 

 

岩泉・澤村の両者の間で火花が散る。

ほんの刹那の時間に過ぎないが、岩泉は日向の事ばかり注視し過ぎていた。

そう、地を護る彼らを、疎かにしてしまった自分が居たのだ。

 

だからこその必然。そして後悔は後回し。

 

 

「……修正する」

「俺もだよ。次はもっと良いヤツ上げる!」

 

 

 

岩泉だけでなく及川も、互いに手を当て合い、後ろ向きにならず前だけを見据え続けた。

 

 

 

 

そう―――次に来る攻撃に最大限の警戒を向ける。

 

 

 

 

 

澤村が上げた(ボール)が、まるでスローモーションの様に見える。

火神に続き、澤村のスーパーレシーブで沸きに沸いた場が、一瞬で静寂に包まれたかの様だ。

 

 

【レシーブが凄い】

【スーパーレシーブだ】

【でも、ここからが、本番】

 

 

【もう1回……、あの絶望の1本を】

 

 

 

チームの心が1つになる、とはこの事を言うのだろう。

味わった絶望。

受け継いだ想いを果たせなかった事に対する己への失望。

 

それらを、本当の意味で乗り越えるには、此処しかない。

 

 

 

完璧な返球からの攻撃。

無限の選択肢があるとも思えるこの場面で選ぶ影山の手。

 

影山のトスはいつだって、最後の瞬間まで読ませない綺麗な姿勢(フォーム)

今回だってそうだ。

 

でも、今回だけは……青葉城西側にもわかった。

数多ある選択肢の中、選んだたった1つの選択。

 

 

日向が宙を舞う。

そして、あの時の様に金田一が壁を向け、迎え撃つ。

 

タイミングは完璧。

まさに、あの時と同じ? ………否。

 

 

【同じじゃない―――ブッ壊せ!!】

 

 

あの時から今日まで忘れた事はない。

次は必ず抜く。打ち抜く。ブチ抜く。

 

目を閉じていた頃の日向はもうどこにも居ない。

最後の最後まで、空中で自分の力で戦う。

 

目を大きく見開いた日向のスパイクは、正確にブロックの隙間を縫う。

相手の壁、守り切れてない範囲。加えて地を護るレシーバーたちも意識して………。

 

 

絶望と言う壁を穿つ。

 

 

 

ドバッッ!!

 

「「!!」」

 

金田一の壁を躱し、渡と言う守護の要を突破し……正真正銘打ち抜いた。

あの日の絶望を―――超えたのだ。

 

 

手に汗握る。

あの日の光景を知ってる者達は皆、等しく手を握りしめ、そして振り上げた。

 

 

 

 

【うおっっッッしゃああアアアアアアアアア!!!】

 

 

 

 

超えた。

成長したのだと。

 

 

そう、これで――――。

 

 

「スタートラインだ。ようやく、スタートラインに立った」

 

 

7-5

 

そして、1歩烏野が前進した。

 

 

 

 

「チっ、完全復活しやがった。まぁ、俺のアドバイスのおかげだけどな!!!」

「あ? アドバイス?? またテメーは余計な事したのか、ボゲ。これ以上嫌われたくないからって塩送ってんじゃねぇよ!」

「いたっっ!!」

 

 

影山に助言をした事をここでなぜか及川は暴露。

岩泉に尻を蹴られつつ―――それなりに頭を下げる影山の姿は気分良かったとはいえ、やっぱり言うんじゃなかったか? と頭に青筋を立てるのだった。

 


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