王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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早めに投稿出来て良かったです……。


いつもいつも支えてくれて感謝しております!
……誤字報告の方も本当に感謝してます……m(__)m


漸く始まりました青城戦!!

頑張ります!


第165話 青葉城西戦Ⅱ①

 

 

新生・烏野。

 

それは今年より突如始まったチーム。

嘗ての強豪ではない。

 

【落ちた強豪、飛べない烏】

 

そう呼ばれていたあの期間が、まるで遠い過去の様に感じるのが不思議だ。

あの日の烏野はもうここにはいない。

あの日の烏は進化を果たし――――否、突然変異と言っても良い程の変化を果たし、今このベスト4の舞台へと進んでいる。

 

 

「烏野。やっぱ雰囲気違うねぇ……」

 

 

その姿、選手の1人1人の風格が増している。

大なり小なり、数多の強豪と呼ばれるチームが纏う雰囲気(オーラ)

及川は肌でそれを感じていた。

 

前回の烏野の敗北。それを引き摺っている可能性があるのは何も負けた側だけとは限らないのだ。

あの時から互いに、何処まで成長しているか。何処まで進化しているか。

それが勝敗を分かつ事だろう。

 

 

「……一際変わったのは、やっぱり―――――」

 

 

及川は、頬に伝う汗を拭う事なく一点を見据える。

身に纏う風格、雰囲気が変わった烏野の中でも今際立っているのは――――。

 

 

 

「スンマセン!!」

「おっ?」

 

 

 

ふとした時に転がってきたのは烏野高校の(ボール)

それを取りに小走りでやってきたのは……これまた因縁の相手。

 

影山飛雄だった。

 

 

―――バチッッ!!

 

 

至近距離で(ボール)の奪い合い?

互いに火花を散らせながら、伸ばした手には力が異様に籠る。

 

影山は及川に(ボール)を奪われまい、と片手だったのを両手にシフトチェンジ。

それを見越して及川も両手を使って力強く引き寄せる。

 

拮抗している様で、どっちも一歩も退かない。

 

 

「これはこれは、前回俺にこてんぱんにやられた飛雄ちゃんじゃないですかぁ!」

「今回は勝ちに来ました……!!」

 

 

グググググ、と奪い合い。

何で及川が烏野の(ボール)を盗ろうとしてんの? と言う疑問はこの場の誰も出さない。

勿論、及川にも狙いがある。少々幼稚な狙いが。

 

 

「お前は、前回完膚なきまでに凹ましたからな!! 残すのはウシワカ野郎ただ1人!!」

 

 

一段と力を込めて思いっきり退く。

これまで以上の強い引きを感じた影山は、負けじと歯を食いしばって耐える。奪い返そうとする。

 

その力の流れ、刹那を読み切った及川は両手の力を一気に抜いた。

 

 

 

「今回も退いてもらうぜ飛雄!!」

「!!」

 

 

 

パッ! と離された(ボール)

殆ど拮抗していた引き合う力の片方が突然0になればどうなるのか……、言うまでもない。

負けじと張り合っていた影山も、流石にこれは想定外。バレーに関する読み合いは例え及川相手だったとしても相応に鍔迫り合いが出来ただろうが、少々この幼稚な悪戯レベルのやり取りでは及川の老獪さが一枚も二枚も上手だろう。……幼稚と老獪は少々矛盾しそうな気もしなくもないが、及川は同居させている。

 

影山は後ろに倒れこんで行く。

 

 

「わははははは―――――っ!?」

 

 

それ見た事か、してやったり! と満面な笑みを浮かべる及川だった―――が。

 

 

 

「それは少々寂しい(・・・・・)ですね、及川さん」

 

 

 

及川は影山がひっくり返る未来まで見えていた気がしていた。どてーん! と笑えるくらい見事にひっくり返った影山の図が見えていた筈だったのに、その未来は書き換えられてしまう。

 

倒れる寸前に、影山の背を支え、強引に前に起こした者が居たから。

 

 

「確かに、前回は烏野(こちら)が負けました―――が、まだ無視して欲しく無かったですよ」

「………そう、だったねぇ。せいちゃん。まだ(・・)、せいちゃんがいたよ」

 

 

最も注目していた男、火神誠也がいつの間にか影山の傍に来ていた。

個人的な影山に対して持っていた劣等感(コンプレックス)。それを試合前にも晴らしてやろう、と言う気が一気に消し飛んだ瞬間だ。

決して火神を忘れてたわけじゃない。それだけは断言できる。

 

ただ、影山に対して抱いている感情をそのままに、火神にぶつけ伝えるのに少々抵抗感があっただけだ。……岩泉が聞いていたら、また好き過ぎるだろ、と呆れられる事だろう。

 

 

「前回、せいちゃんを凹ませたのは、俺じゃない。不運な事故。誰でも起こりえる事。運も実力の内、とは言っても少々納得しがたい出来事、だったよね」

「ええ。今回は入念にストレッチしてますから。100%ケガしない! とは言えませんが、万全に万全を期すつもりですよ」

「逆に、枷になっちゃったりしない?」

 

 

ケガを恐れるあまり、身体が無意識のうちに動く事をセーブしてしまう。

それも誰にも起こりえる事だ。

 

何せ最悪なタイミングのケガだったから。トラウマになってしまっても不思議じゃない。

 

これまでの試合を見る限り、そう言った様子は全く見られないが、それでもこの舞台で青葉城西と言う前と全く同じ相手前にして、フラッシュバックが起こったりしないのか? と思えたが、それは全くの杞憂だと火神が答える前から及川は解る。

 

 

何故なら笑っているから。

 

 

「心配していただいて恐悦至極……。でも、全く問題ないです。直ぐにでもヤりたい気持ちでいっぱいですね!」

「………だろうね。及川さんは、せいちゃんならそう言うって解ってたよ」

 

 

笑っている。

そう―――この姿を見て及川は知らぬうちに一筋の汗を流していた。

 

現時点で、一番の変化はこの目の前の男である、と及川は本能的に察したのだ。

この笑顔は、あの時の笑顔とは別物(・・)

 

 

この火神誠也と言う男には少々似つかわしくない単語ではあるが―――――《狂気》をそこに感じさせられる。

 

 

 

この狂気(・・)は、青葉城西(ウチ)狂犬(・・)とどう絡むか………。

 

 

及川は、先を見据えて目を細めていた。

 

 

 

 

 

「ってコラコラ飛雄っ! いい加減自分の足で立ってくれよ。腕疲れた!」

「ッ、あ、ああ。悪ぃ」

「は~~~ぁ、情けないなぁ、飛雄君はさぁ? 腕に抱かれる王様なんて、一体どんな絵なんだい? ああ、こんな絵か! ぷ~~~クスクスクスっ」

「ッッ!!?」

 

 

 

 

正直色々とあり過ぎて、ほんの少しだけ無意識? 状態だった影山は、火神の苦言と及川の挑発、煽りに直ぐに身体を始動させて、起こした。

 

 

「影山手玉に取られるのはぇぇ! って思った瞬間、火神が間髪入れずにフォローしてやべぇ!! ってなって。マジ今の攻防? 色々目まぐるし過ぎて笑ったわ……」

「誠也が居なかったら、あのまま後ろにひっくり返って――――ブヒュッッ!!?」

 

 

一連の流れを直ぐ横で見ていた菅原は、あまりにも濃密? 過ぎて笑うしかなく、日向は日向で、火神が救って後ろにスっ転ばなかったものの、もしも火神がこの場に居なかったら? の映像を頭の中で編集・再生させて―――――盛大に吹きだすのだった。

 

 

 

 

 

「……やっぱ、せいちゃんは要チェックだね」

「ほんっと、火神に救われたな? お前」

「はい? どゆこと? 花巻(まっきー)

 

 

及川の横でしみじみ言うのは花巻。

ふかぁぁぁく、ため息を吐いて。

 

 

「客観的に見て、ガキかお前……って思った。それと及川(こいつ)これでも3年かぁ……ってとも?」

「何それ!!?」

「そんで、火神が上手い事影山をフォローして支えて、貫禄ってヤツを見せつけて株がまた上がったな。あのまま、影山をスっ転ばせてたら、相変わらずの他校1年に絡む青城3年主将で笑いモンだ。あっちも転んで笑いモンかもだが、及川(おまえ)も相当以上。ってなわけで感謝しとけよ火神(アイツ)に」

「岩ちゃんまで!! てか、試合前だよ!? テンション下げさしてきて、一体どっちの味方なのさ!??」

 

 

思う所や背負ってる物、これまでの気概や信念、そして宿敵白鳥沢に負け続けているその悔しさ。

その他ひっくるめて及川徹と言う男の事はよく知ってるし、このチームで絶対に勝つ、絶対に春高出場する! と言う想いは当然持ってても……全てを共有できるという訳じゃない。

 

 

「試合は試合で別モンだボゲェ」

「あたっ!?」

 

 

でも当然、試合は別。

岩泉は、及川の頭を叩きながらそういうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして別の場所ではまた違った攻防が繰り広げられている……。

 

 

「なぁ、金田一よぉ……」

「ハイ? なんスか矢巾さん」

 

 

矢巾は、及川とはまた違う理由で……、及川とはまた違った意味で視線を向けている相手がいる。

 

 

「……烏野に、女の子増えてる。カワイイ系」

「そっすね」

 

 

その視線の先には、まだまだ慣れてない感があり、(ボール)の扱いが覚束ない谷地の姿。

下心満載な目で追いつつ―――むなしさも同時にその表情には表れていた。

金田一も言われるまで見てなかったんだけれど……、実際にあの谷地の姿、そして直ぐ傍には同じく清水の姿もあって、その2人のマネージャーの姿を見て改めて……。

 

 

「この言いようのない悔しさは、一体何なんでしょうか……」

「解る。解るぞぉ……。やる前から敗北を感じるとは度し難い」

 

 

青葉城西は強豪校と呼ばれて長い。

必ずベスト4には顔を出し、近年ではずっと白鳥沢に敗北を喫するものの、宮城県2位の座に居続けている。

 

そんなチームなのに……マネージャーが1人もいない。

 

去年はいたらしいけど……、今年は誰もいない。

 

 

 

「よっしゃっ! この想いを乗せて、マイナスな想いを払拭し――――お近づきになろうっ!」

「…………」

 

 

 

矢巾は、何を思ったのか谷地のいる方に軽めの(ボール)を投げた。

勿論、当たってケガでもさせたら死にたくなってしまうので、そんな事はしない。安全第一に考えた緩い(ボール)。谷地でも問題なく獲る事が出来るだろう。

 

 

 

そして、小走りで駆け寄りながら―――。

 

 

「すみませ~~ん! (ボール)取って貰っても良いですかーー?」

 

 

実にわざとらしく、谷地に対して話しかける。

カワイイ女子にお近づきになりたい、と言う想いは男ならば仕方がない性。

だけど、場を弁えて貰いたい、とも思う。

 

 

「フッ!!」

「!! ヤベッ!!」

 

 

ここは準決勝の舞台だ。

威力の高い(ボール)、その流れ弾が幾度も無く飛び交う危険地帯。

そんな場所に緩い(ボール)とはいえ、注意散漫にさせてしまう横やりを入れてしまえば、さらなる危険を呼ぶ。KY活動が全くなってない。

 

 

「危ない!!」

 

「えッ!!?」

「ムッ!」

 

 

谷地の方に、他の練習で使用していた(ボール)が、相応の威力で迫る。

矢巾のせいで、注意散漫になってしまった谷地は思わず身体を固くさせてしまった。

 

 

これは自分のせいだ。だからこそ、自分が助けなければならない!

あの可愛らしい少女の危機を!!

 

そしてその先で起こる【らう゛】な展開、薔薇色な高校生活を――――

 

 

と、また良い様に脳内変換した邪な矢巾は、直ぐに谷地を庇おうと煩悩MAXで向かったのだが……。

 

そんな力など、まるで必要ない、と言わんばかりに圧倒的な速さで谷地と(ボール)の間に立った。勿論、矢巾などお呼びじゃない。

大切な後輩を、大切な後継を、3年として出来うるカバーをする。

 

立ちふさがったのは清水。

 

 

バチンッ!! とものの見事に迫りくる一撃(ボール)を防いで見せた。

 

 

その姿に、強者の姿(オーラ)に手を伸ばしたまま固まっていた矢巾は勿論、直ぐ後ろで眺めていた金田一も一様に思う。

 

 

【おつよい………】

 

 

あまりにも鮮やかに、あまりにも格好良く救って見せた勇士を前にしたら、下心満載な手など届く訳もない……と敗北を噛み締めていた。

 

そして、まるでトドメ! と言わんばかりに、1人の坊主頭が割り込んでくると――――。

 

 

 

「ほらよ」

「…………どう、も」

 

 

 

肩をぎゅっ!

手にぐいっっ!!

 

相応な力を込めて返球する。

勿論、清水親衛隊 切り込み隊長(今命名) 田中である。

矢巾は圧倒的敗北感を胸に……(ボール)を受け取って肩を落としながら帰っていくのだった。

 

 

 

「……くっ、くくっ……ぷっっ!!」

「??? 何笑ってんだ? 誠也」

 

 

 

そんな姿を、一連の流れを遠目で見て思わず吹き出しそうに手で口元を抑えるのは火神だ。

ウォーミングアップでやらなければならない事は沢山あるし、確認すべき点だって多い。だから、絡んだりは出来なかったが、しっかりと遠目で見る事は出来た、と頭の中では盛大に笑っていた。

 

勿論、自分の手が空くなら谷地の事はしっかりと助ける。わざわざ清水の手を煩わせたりはしない。前世の記憶は、その場面場面に応じて扉が開くという変な仕様。それこそフラッシュバックする様に脳裏に浮かび―――軈て笑顔になるのだ。

 

 

「や。なんでもないなんでもない。……リベンジは勿論この身に刻みつつ、その上で楽しんでいこう、って思っただけだよ」

「!! 全力で、本気で遊ぶ! ってヤツだな! 解る! 解るぞ!! そんでもって絶対勝つ!!」

「―――ああ。当然」

 

 

 

 

 

そして、主審からの笛の音と共に、ウォーミングアップの時間は終了。

いよいよ、本当の本番。

 

 

 

「お願いしまーす!」

「お願いします」

 

 

 

両校の主将同士が固い握手を交わす。

某合宿時の様な手の握りつぶし合い! みたいなのは無く、ただただ互いに健闘を~~的なノリでだ。

 

 

そして、及川は澤村の姿をマジマジと見据えた。

確かに烏野は1年が際物ぞろい。バケモノ揃いだと言って良い。そっちに目が奪われがちになるのは否定できないが、この目の前の主将を、そんな連中を本当の意味で纏め上げてる主将・澤村の存在を無視する事なんて到底ない。

 

 

「へぇ……。なーんか澤村君、貫禄ついたんじゃない? あの頃と全然違って見えるよ?」

「!」

 

 

敵ではあるし、影山以上の性格の悪さも聞いている―――が、それでも何の含みもない本心である事は解ったので、澤村は軽く笑いながらこちらも本心で返す。

 

 

「……ええ、まぁ。なんせこの4ヵ月、結構な曲者たちにもまれて来たんでね。色々変わんなきゃ着いて行けねぇ、ってヤツですよ……」

「よくわかんないけど、お疲れ」

 

 

及川には当然知る由もないが、澤村の脳裏にはしっかりとハッキリとその姿が、曲者と呼ぶに足る連中の姿が見える。

 

 

『ワタシが優しいのはいつもの事ですよ?? 本日も(音駒(ウチ)より)多くのペナルティ、お疲れ様です』

『ヘイヘイヘーイ。澤村休憩?? じゃあ練習しようぜ!!』

 

 

そんな曲者たちの中に、体力オバケな1年たちは遊園地に来たのか? って突っ込みたくなるくらいに燥いでいた。

1度でも体験すれば解る通り、アレを同じだけやるのは、普通の人間には流石にきついを通り越してる。

 

 

――――でも、幾らスゲー1年だったとしても、そいつらが前で走ってるというのに、後ろでただ見て眺めて、止まって応援する―――だけな訳にはいかない。

プライドと言うモノもしっかりと持っているから。

 

 

 

 

「では、コイントスを。裏が青葉城西、表が烏野です」

 

 

 

そして、主審がコインを飛ばす。

弾き上げたコインがくるくると回り―――軈てコートに落ちて、抽選の結果を知らせた。

向いているのは【表】

選ぶ権利は烏野。

 

 

「先、レシーブで」

「じゃあ、サーブで」

 

 

サーブ権は青葉城西からで始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野VS青葉城西

 

 

IH予選でも激闘を繰り広げた為、以前よりも遥かに評判の高い両校の激突。

観客席もドンドン席が埋まっていく。

明らかに関係者以外にもいた。彼らのプレイを目に焼き付けようとする者達が、少しでも追いつきたいと熱を持つ高校バレーボーラーたちも何人もいた。

 

 

そんな熱い眼差しを向け続ける生徒たちを背に、1人の男が間を縫って客席に入ってくる。

 

 

「おっす~~~、間に合った間に合った。マジで焦った~~! ってアレ?」

 

 

烏野バレー部OB 滝ノ上だ。

仕事で少々遅れてしまったが、無事到着。

 

 

 

※因みに、今秋の滝ノ上電器店のオススメは空気清浄機エアリーダー。

一家に一台、どうぞ御贔屓に

 

 

☆閑話休題☆

 

 

 

遅れてやってきた滝ノ上は、嶋田の隣に要る人、女性に注目した。

同級生じゃないのは確か。自分達より若く見た事ない顔———だったのだが、何処かで見た事のある顔でもある。誰か? と頭の中で思い出そうとしたのだが……直ぐに答えは出た。

 

 

「どーも! 田中龍之介の姉でーーす!」

「!! どもっス(どーりで見た事あると思った! 確かに田中に似てる……!!)」

 

 

 

田中の姉、冴子。準決勝にもしっかりと駆けつけてくれた。

あの日から……日向や影山を知り、大好きな弟龍之介を追い抜いた火神と言う男を知ったあの日から、行く末を最後まで絶対見る! と心に決めて、応援に来たのだ。予定色々とドタキャンしつつ。

 

 

「へぇ~~、これが準決勝か。良いねぇ、滾るってヤツ? ————んで、これと次も勝てば全国ってわけだ! 凄くないっっ!!?」

 

 

血沸き肉躍る体育館内の空気は大好き、弟たちも同じく……だが、準決勝と言う所だけはすっかりと抜けていた。

よくよく考えてみれば凄い事なのだと改めて実感。

 

小さな巨人と同級生の冴子は、勿論知ってるから。

あの頃からずっと全国への道が遠かった事を。

そして、口に出す事でより実感する。今———再び全国に手が届く距離まで来られている事に。

 

 

そんな興奮状態な冴子を後目に、嶋田は苦笑いをしながら続けた。

 

 

「まぁ、超強敵2校を倒せたら……の話だけどな」

 

 

青葉城西、そして白鳥沢。

 

これまでの戦ってきたどの強敵たちよりも強い。

そう想定して戦っても何ら問題ない。

それ程までに、文句なくここからの2校は強いから。

 

 

 

 

【整列————!!】

 

 

【お願いしァーーース!!!】

 

 

 

 

そして、とうとう始まる。

春高宮城県代表決定戦 準決勝 青葉城西VS烏野高校。

 

両校共に挨拶を交わし、互いのベンチ陣、そして主審にも挨拶を交わし―――烏野ベンチへ。

しかめっ面な烏養は、なんの躊躇いもなく告げる。

 

 

「あ~~~、アレだ。ぶっちゃけた話、お前らと青城の相性は悪い分類に入ると思うぜ! ああいう、ほぼ完成されたって言って良いザ・柔軟性&安定感! なチームとはな。イメージは音駒と梟谷を足して割ったみたいな完成度だ。ヤベーだろ? 身に染みてるとは思うが」

 

 

音駒程の守備力とは言えないかもしれないが、守備力も当然高い。

梟谷の攻撃力とは言えないかもしれないが、当然攻撃力も高い。

 

両高校の良いトコどり……。

 

それを試合前に告げる事か? と同じく選手陣もしかめっ面になるが、直ぐに烏養は続けて言った。

 

 

「でもま、ここまで来たらやる事は1つだけだ。――――超えていく。あの時のお前らを、これまでのお前らを、そしてあの敗北を」

 

 

IH予選の時の烏野より、そして合宿……昨日の烏野より、今この瞬間の烏野が強い。

 

 

 

「超えてこい!!」

【うおっしゃあああああっっっ!!】

 

 

 

最大級の発破だった。

高揚し紅潮し、溢れんばかりの力が漲る。

 

今直ぐにでも出したい程の力が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、青葉城西側。

烏野が盛り上がりを見せる中で、淡々と冷静に……それでいて本心をぶっちゃける。

 

 

「ま、言いたかないけど、烏野は十分強敵だ」

 

 

及川のそのセリフに意を唱える者などいる訳もない。

烏野と戦った事は2度しかないし、これが3度目、たったの3度目でも解る事は解る。

 

でも言いたい事はあった。

 

 

「お前が素直に言うなんて珍しいな。大好きなあの子に対してじゃなく、烏野全体、って事だろ?」

「変な言い方しないでくれるかなぁ、花巻(まっきー)。……俺だけじゃないでしょ? 身に染みてるヤツ。万全な状態で、最高な状態で前回最後までやってたらどうなってたか? って考えたヤツ。確かに、俺は飛雄に勝ちって言いきったケド、それでも考えたヤツ、いるでしょ?」

 

 

前回のIH予選。

白鳥沢に敗れた事も当然思い入れが強いが、ひょっとしたら一番脳裏に浮かべやすいかもしれない。

あの試合があったからこそ、より高見に立てたと思ってるし、あの王者白鳥沢相手に、後一歩まで、喉元にまで食らい付く事が出来たとも思っているから。

 

及川は全員の目を見た後に告げる。

 

 

 

「油断なんて無し。慢心も過信も無し。喰われる訳にはいかない。最初っからブッちぎっていこう!」

【おおっしゃああ!!】

【はい!!】

 

 

当然、烏野にも負けてない力の籠った声が響く。

気合は文句なしに100%Maxだ。

 

 

「よーし、そんじゃあ今日も――――」

 

 

いつもの青葉城西の儀式。

及川からの信頼を受け取り、そして返す場面。

 

青葉城西のスイッチの1つだと言って良いこの儀式。

 

 

 

【信じてるぞ、キャプテン】

 

 

 

だったが、今日は違う。

全員が、及川1人に対して、真っ直ぐにハッキリと信頼を伝えた。

 

それは冗談の様で或いは脅迫のようでもあって。何の裏も表もない。

全身全霊を以て、及川徹と言う男を信じる。

 

 

「!!」

 

 

その信頼を、信用を一身に受けた及川。

普段自分が皆にしている事をそのまま返された。

 

あまりにも重くのしかかるプレッシャー。それをいつも皆は受けて、応えてくれていたのか、と改めて思う。

でも、ここで何も言わないのはそれこそ信じられている主将ではない。

 

 

 

「ははっ、なんか照れる――――」

 

 

ちょっとおちゃらけてみよう! と笑ったその時だった。

まず、岩泉が一歩踏み込んで及川の肩を掴む。

 

 

「初っ端のお前のサーブを信じてる。ミスったらラーメン奢りで」

「へ?」

 

 

ちょっとおちゃらけよう。フザケようと思った矢先のコレ。

岩泉を筆頭に次々とやってくるその脅迫(・・)

 

 

「俺はチャーシュー大盛りで」

「こっちはギョーザ追加で。勿論、入れるだけサーブ(・・・・・・・・)もダメな!」

 

 

まずは3年が先陣を切って及川に注文を付ける。

苦い顔をしている及川を後目に……、その光景を笑ってみていた溝口コーチが声を上げた。

 

 

「ホラ、1,2年も続けよ! しっかり頼んどけ! 天津飯とか良いんじゃねーか?」

「良いっスね!!」

「おかわりも有りっスか!?」

「特盛でよろしくお願いします!」

 

 

その後も注文が続き―――流石に、入畑監督の【ビールでも追加するか?】は却下となったが、緊張も解れたと言って良いだろう。

散々集られてるも同然な及川は、非常に渋い顔をしながら鼻息を荒くさせている。

 

 

皆1人残らず信じてくれてるのだろう。

合計すると学生の身分じゃかなりヤバい金額になるが、きっと入れると信じてくれてるのだろう。

 

ならば、応えるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

選手紹介(スターティングオーダー)

 

 

 

 

 

 

 

烏野高校

 

 

 

WS(ウィングスパイカー)3年 澤村   ◎チーム・キャプテン

 

WS(ウィングスパイカー) 3年 東峰

 

WS(ウィングスパイカー) 1年 火神

 

MB(ミドルブロッカー) 1年 日向

 

MB(ミドルブロッカー) 1年 月島

 

Li(リベロ) 2年 西谷

 

S(セッター) 1年 影山

 

 

青葉城西高校

 

 

WS(ウィングスパイカー)3年 岩泉

 

WS(ウィングスパイカー) 3年 花巻

 

WS(ウィングスパイカー) 1年 国見

 

MB(ミドルブロッカー) 3年 松川

 

MB(ミドルブロッカー) 1年 金田一

 

Li(リベロ) 2年 渡

 

S(セッター) 3年 及川        ◎チーム・キャプテン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び向き合う両雄。

軈て最初のサーバーに、(ボール)が渡された。

 

そう、青葉城西最強のビッグサーバー、及川に。

 

 

【及川さんナイッサ―!!】

 

 

一声に大歓声、大応援で会場内が沸きに沸く。

及川のサーブの威力は折り紙付きだと、この場の誰もが知っており、流れをつかむのなら、及川のサーブが良いと思っているからだ。

 

 

 

「くぁーーっ、初っ端から及川君のサーブかよっ!? こりゃ目も覚めるってもんだわ!」

「へぇ、そんなに凄いんだ?」

「まさにTHE・大砲、ってヤツだね。烏野・青城両校合わせてもNo.1かも」

「あのサーブでイキナリ流れ持ってかれる、ってのも十分あり得るぞ~~……正直」

「うへ……、そりゃ燃えるってもんじゃないか! いったれーーー!! 烏野――――!!!」

 

 

冴子に説明する、いつも通りの解説おじさんポジションになった嶋田と滝ノ上。

意気揚々と説明に入ったのは良いが、及川のヤバさは前回ので嫌って程解ってる。

口に出せば出す程、自分があのサーブを受ける訳でもないのに嫌な汗が滲み出てきていた。

 

 

 

 

そして、及川が打つ事で青葉城西一色な応援ムード…になるかと思いきや。

 

 

「ナイッサ―!」

「ショウユーゥ!!」

「トンコォーーツッ!!」

「担々メェーン!!!」

 

 

変な掛け声。

知らない者が聞けば頭に『?』が浮かぶ掛け声がコートの中から響いてきた。

 

信じてるし、信じられている……と胸に秘めて、エンドラインに立ったは良いが、中々どうして。

 

 

「ちょっと!! 決めて欲しいの!? ミスって欲しいの!??」

 

 

この場面に来て、色々と疑問に思ったので、思わず及川は大声でツッコミを入れてしまった。

 

 

 

「―――――――――」

 

 

 

勿論、これは笑う場面だ。フラッシュバックも勿論している。

だけど、今日この瞬間だけは違う。

 

100%集中した状態に保っておかなければならない。

僅かな気のゆるみでも許してくれないサーブが来ると知っているから。

 

 

あのサーブを前に……笑顔を見せる事は出来ても、笑う事は出来ない。

 

 

 

試合開始の笛の音が鳴り響く。

 

 

 

 

及川の目の色が、今の今まで失敗して欲しい? かの様に各々の注文品を口にした者達の表情が、一気に変わった。

 

空気が一気に変わった―――。

 

 

 

「期待なんかしてねーよ成立しない賭けみたいなもんだ」

「残念ながら………」

 

 

 

この緊迫感の中、不意に口ずさむ。

 

 

 

 

【お前は決めるに決まってる】

 

 

 

 

 

 

信じてる。

心の底から及川を、あの青葉城西の最強の武器の1つを。

 

 

 

剛速球が、大砲が、殆どスパイクの様な一撃が烏野に向かって放たれた。

威力は言わずもがな、それ以上に凶悪なのはその精度。

威力・精度共に成立させる及川の一撃はまさに必殺技(・・・)

 

 

 

だが、それに臆する烏野じゃない。

それを拾う為に、戦う為に、倒す為に――――あの敗戦から今日まで鍛え上げてきたのだから。

 

 

 

「んんん――――――ッッ!!」

 

 

 

(コーナー)を狙われた凶悪な一撃は、澤村渾身のレシーブによって上げられた。

バキッっ!! と、凄まじい耳を劈く様な乾いた音を響かせながら、大きく跳ね上げる。

 

 

「(くっそ! 相変わらず―――!!)」

「(くっそ! 獲りやがった―――!!)」

 

 

完璧に獲ったと思った。

完璧に決まったと思った。

 

 

夫々が思い描いた通りにならない。

 

 

 

「うおっっ!! 及川のサーブ1発目から上げたっ!!」

「すげぇ!! アレ獲るとかマジかよっ!!」

 

 

 

たった1発のサーブ、1本のレシーブに場がどよめきを見せる……が、悪いがまだ驚くには早い。

 

 

 

「ネット越えてくるぞ!!」

「金田一!! 叩け!!」

 

 

 

澤村は見事にレシーブして見せたが、その返球は大きくネットを越えそうな勢いだった。

このまま叩き落とされる!? と思わず日向がネット際に跳ぼうとした……が。

 

 

「翔陽!!」

「!」

 

 

それよりも早く、声を出し、指でさして指示をするのは火神だ。

日向は、その所作が何を意味するのかを瞬時に理解すると、助走距離を確保した。

 

 

もっと、もっと、もっと高く、早く、天辺へ―――――!!

 

 

伸ばし続けた手は、ネットを明らかに越える軌道の(ボール)に追いついた。

片手ではあるが、その高さは明らかにIH予選のそれより遥かに高くなっている。

 

 

「(届く―――のかっ!?)」

 

 

それをより実感したのは空中戦でやり取りをしている金田一だろう。

中学時代から今まで、青葉城西を限定するのであれば、間違いなく金田一が一番火神と空中戦の勝負をしてきた間柄だ。だからこそ、よりハッキリと思った。

 

 

届いた(ボール)は、そのまま片手でトスを上げる。

ワンハンドトス、である。

 

正確無比、とは言えないが日向の元へ。長らくトスを上げ続けてきた相棒の元へと上げた。

 

 

「フッッ!!」

 

 

日向は、当然の様に……、さも当然の様に火神が上げるモノだと最初から解っていたかの様に入り込み―――そして打ち抜いた。完全なフリー状態で。

 

だが。

 

 

「グッッ!!!」

 

 

その一撃が、コートを穿つ事は無い。

殆ど勘だ。反射と勘で滑り込む様にコートと(ボール)の間に入りこんだのは岩泉。

見事に日向の一撃を阻止して、その(ボール)は斜め上鋭角に飛び―――ネットの上側白帯に当たった。

 

チャンスボールで返ってくるものだと思っていた為、一瞬出遅れてしまうのはレシーバー陣だ。

 

 

「ネットイン!!」

 

 

誰かがそう叫び、そして最も(ボール)の位置に近かった影山がそれに唯一反応出来た。

 

 

「ふっっ!!」

 

 

左手を伸ばし、片手のレシーブ。上にあげる事は出来たが、影山がファーストタッチをした以上、あの無茶なセットは来ない。

 

 

「セッターは飛雄だけじゃないよ!!」

【!!】

 

 

及川の声で、皆が集中した。

影山・日向の変人速攻を封じた、と一瞬安堵した、安心した空気を再び引き締めたのだ。

 

そう、烏野にはセッターと見紛うスキルを持つ男が居るから。

それを、よく知っているから。

 

確かに及川の読みは正しかった。

影山に獲らせても安心してはいけない、最大限警戒する事は正しい。

 

だが、この攻撃の支柱となる男を間違えてしまったのは唯一のミスだと言える。

 

 

「西谷さん!!」

「西谷!!!」

 

 

セッターの代わりになる者が、あの火神だけとは限らないという事だ。

 

 

「「「!!」」」

 

 

火神が助走距離を確保する。

影山も同様にライト側に走りこむ。

日向もセンターへと切り込む。

 

最後の1人まで、選択肢で有り続けるシンクロ攻撃。

 

西谷が託した相手は後ろの烏野のエース――――。

 

 

 

「東峰!!!」

 

 

 

ドンッッ!!

 

強烈な一撃が、青葉城西のコートを打ち抜いた。

今回ばかりは、誰も反応する事は出来ない。強烈に打ち付けられた(ボール)は、そのまま大きくバウンドし、後方へと弾き出されていった。

 

 

【うおおおおっしゃあああああ!!!!】

 

「「~~~~~~~っっ!??」」

 

 

「決めた奴らが一番びっくりしてる!!」

「ナイスキー!!」

 

 

烏野は、誰一人として油断してはならないのだ。

 

 

 

「クァーーーー!! やられた!!」

 

 

 

そして次の瞬間には、何をしてくるか分からない相手。

改めてそれを頭に入れた。

 

 

 

出足は間違いなく好調。

 

烏養はにやり、と笑いながら言う。

そして、それに合わせるかの様に観客席側の3人も声を上げた。

 

 

 

 

「―――さぁ、ガンガン行くぜ」

 

「「「新生・烏野!!!」」」

 

 

 

 

 

 

1-0

 

 

 

先制の一撃は烏野高校。

 

 

激闘はまだ、始まったばかりだ――――。

 


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