でも、何とか投稿出来て良かったです!
いよいよ青葉城西戦………、これからも頑張ります!
岩泉の最後の一撃。
それはブロックに定評のある伊達工を貫いた。
いや伊達工はブロックに定評がある~どころの話じゃない。
鉄壁の異名を持ち、現在では白鳥沢が圧倒的な力で制しているが、全国出場回数も少なく無く、そしてその実力は全国クラスである、と評する者も決して少なくないからだ。
確かに新生伊達工となって日が浅く、まだまだ未完成ともいえるかもしれないが、その堅牢な壁は、今大会でも幾度も相手の攻撃を阻んできた。
そしてこの準々決勝———その相手に対して、岩泉は体躯の差も考慮すれば圧倒的に不利な状況であっても一撃で仕留めて見せた。
あれに感銘を受けた者も決して少なくない。
「……あの3枚ブロックに対して真っ向勝負———」
「悔しいけど、かっこいいぜ……」
技ではなく、どちらかと言えばパワーで勝負を仕掛けようとする東峰、田中。
同じ状況で、あの伊達工の3枚相手に打ち切る事が出来るか? 最後の最後で決めきる事が出来るか? と問われれば苦虫を噛み潰すしかない。
それ程までに、精度・威力共に見事の一言しか出てこなかったから。
嘗て東峰は最後の1点を伊達工から勝ち取ったが、それでも苦手意識は少なからずあるだろう。
「翔陽。見たか? 今のが
「……うん。解ってる」
黄金川は、まだまだ日も浅い云わば伊達工の雛鳥の様なモノ。或いはまだまだ卵状態。
だからこそ、高さと絶対に止める事ばかり気がいっていて、基本が疎かになってしまったのだろう。そこを岩泉に打ち抜かれた。
「ブロック面積は広げつつ、それでいて間も抜かせない。改めて頭に―――だな」
「おう」
岩泉の一撃に感銘を受けたのは日向も同じ。
速さと正確無比な影山のトスで、どうにか躱せる相手。それでもあの反応の良さから捕まる事だって多い伊達工の鉄壁。
それをああも鮮やかに打ち抜いたのだから、目が奪われてしまっても仕方が無いのだ。
ただ―――スパイカーかっけー! だけで終わって貰っては困るので、火神がその辺りはしっかりとクギをさす。
黒尾や木兎たちとの秘密特訓の場でブロックのいろはを叩きこまれた筈だけど、これは何度叩き込んでも良い事だから。
「―――次の相手、決まったな」
青葉城西高校。
準決勝の相手をしっかりと目に焼き付けた。
伊達工も整列し、客席に対して挨拶を終えて―――コートを去る。
負けたら終わり。負けた以上、この先へは進めない。
それは痛い程解る。……解っている。
でも、後ろ向きには決してならない。
「まだまだへたくそだなー! 黄金!」
「!! スンマセンッ……!!」
自分達には後ろを向いている暇など、無いのだから。
今日の敗北を明日へ繋げる。
負けたかもしれないが、それは即ち上位チームの何処よりも早く、新体制で組み立てる事が出来る強みも出せるという事だ。それを活かして、力を蓄えるしかない。
それには練習あるのみだ。
鎌先の言う通り、まだまだヘタクソだから練習しかない。練習を重ね続けるしかない。
そしてそれは、黄金川だけの話ではない。
何故なら、バレーとは1人じゃない。全員で繋ぐ競技だから。全員が一丸とならなければならないから。
「新キャプテンは全然余裕無ぇしなぁ!? 茂庭の有難みがわかったか!」
「そんなの前からわかってます」
だけど、負けたら悔しいし、後ろ向きにはなるまい、としても気落ちするのは止められない。
そんな中、死人に鞭な勢いでやってくるセンパイに対して尊敬の念を抱けるか? と問われればどうか……?
二口は、口元をへの字に曲げながらも、目の前で説教をくれる偉大なる(笑)センパイに対して一言モノ申してやろう、と思ったその時だ。
「全く……、お前らはほんっと伸びしろ
【!】
次の鎌先の言葉で完全に引っ込んだ。
そんな鎌先に続く形で笹谷も頷く。
「それも、チョ~~~~~長ぇ伸びしろな。長過ぎて、先が全然見えねぇわ」
「ッ…………」
ただ、死人に鞭を打つ為に、ムカつく後輩で面倒をかける後輩で、面倒くさい後輩だったからと言って、ただ駄目だしをする為だけに、ここにやってくる人達じゃない事くらい、二口は勿論、皆解っていた。
そう、前主将茂庭を筆頭に。
「―――がんばれよ。今よりも、もっと、もっとだ。お前達なら歴代最強の鉄壁になれる。俺はそう信じている」
誰よりも期待してくれている事を、皆は知っているから。
でも、時折鼻についてしまうのは勘弁して貰いたい。
お互い様だと思うが。
―――そして、次に二口が返礼として何を言うか。考えるまでもなく前に一歩前に出て応える。
「……じゃあ、行きましょうか」
「? うん??」
二口の返答に首を傾げる茂庭。
茂庭的には―――
『ありがとうございました』
【シターー!!】
的な反応だと思っていた。
最初は一体何を言っているのか、何処に行くのか、その言葉の真意が解らず首を傾けたまま。
そして、直ぐにその疑問は解消された。
「茂庭さん達、今日こんな所に来てるって事は時間があるって事ですよね? 学校戻って練習相手して下さい。俺たち、歴代最強になるんで付き合って下さい」
「エ゛ッ」
挨拶をして終わり、と言う訳にはいかない。
単なる照れ隠しな所もあるかもしれないが、それでも強くなる為に、引退したとはいえ、まだまだ前主将たちの力が必要だというのも事実だから。
茂庭自身は、あの地獄の特訓を引退した後もまたヤルの……? と顔を引きつらせる。
数ある運動部の中でも文句なしにトップクラスにきつい練習。
だが、ここで断る選択肢は流石に持てない。
「しょぉぉぉぉがねえなぁぁぁぁ!!」
「ここで脱ぐなよ? 公共の場も同然だぞ」
因みに、鎌先は二口の照れ隠しっぽい、練習の誘いに対し、そんな気持ちを知ってか知らないでか、鎌先は勢いよくワイシャツのネクタイを剝ぎ取った。まだまだ頼られるのが嬉しい、と言う理由もあるのかもしれない。笹谷も拒否はしない。ただ、わいせつ罪にならない様にだけ、鎌先にツッコミを入れておくだけだ。
そうと決まれば、さっさとミーティングを終わらせて学校に戻る、と皆が笑顔になった。
負けて悔しさは無論ある。でも、負けは負け。嘆いても変わらない。ならば、気を紛らわせる為に、次に勝つ為に行動をするに限るのだ。
「鎌先さん筋肉盛りすぎてジャンプ出来なくなってないですか? 大丈夫ですか?」
「は? 何で? 筋肉は裏切らねぇだろ?」
「脳筋」
「誰が脳筋だクラぁっ!!」
まさに見慣れた光景が目の前に広がる。
これまででは、青根が間に入って止めるのがお決まりな様だが、二口もある程度は大人になった、と言う事だろう。ただ暴言? を吐くだけでなく正論も告げる。
「筋肉って重いんですよ。錘背負ってジャンプしてる様なもんです。それ しんどく無いですか?」
「えっ? マジ??」
まさかの落とし穴に目から鱗が落ちる鎌先だった。
そして、青根が止めに入ろうとしなかったのには理由がある。
今は、二口達の会話には入っていない。黄金川と一緒に居たから。
「青根さん。俺、これからはどんなボールでも上げられる様になります!」
「………ああ」
この敗戦を糧に、成長すると心に誓う黄金川。無口で寡黙な青根だが、この時ばかりはしっかりと声をかけた。
「それに、ブロックも! 鉄壁の名に恥じない様に、どんなパワーのヤツでも、デカいヤツでも止められる様になります……!!」
「――――」
その黄金川の宣言を聞いて、青根は思う。
間違いなく黄金川はこれからも成長する。茂庭たちが言う様に今はヘタクソかもしれない。けど、間違いなくこの悔しさを糧とし、さらなる成長を遂げる筈だ。
だからこそ、青根は伝えたかった。
「―――止める事が、難しい相手が 大きく、力が強いとは限らない」
「??」
青根の言葉……今の黄金川では理解する事は出来ないだろう。
そして―――。
「それに付け加えると……」
いつの間にか、二口が直ぐ後ろまでやってきていた。
黄金川の頭をガシッと掴むと。
「大きさより、力より、目を見張る
「?? オス! ……???」
二口の言葉も当然の様によく解らない―――が、取り合えず元気よく返事は返した。
二口、そして青根———。黄金川は解らないようだが、2人は気付いている。
丁度今、この瞬間……自分達は進む事が出来なかったが、さらなる上の舞台へと向かう因縁の相手が直ぐ横にいるという事に。
言葉を交わす事なく、視線を合わせる事も無く、ただただすれ違った。
今回は、交わる事が無かったのだ。
だが、次こそは必ず――――。
【日向翔陽。次は必ずお前を止める】
【火神誠也。次は絶対にお前を倒す】
青根と二口は、最大の好敵手であるそれぞれの相手に対して、闘志をむき出しにするのだった。
伊達工について、想う所が無い訳ではない。
ただ、今の烏野が優先しているのは、当然目の前の相手。
これから戦う
伊達工がIH予選で敗北した烏野に注目する様に、同じく敗北を喫した相手である青城にただただ集中している。
特に会話も始まる事もなく、いつもいつも騒がしい筈のメンバーも口数が圧倒的に少ない。
最早異常事態?に分類する、したい谷地は目を白黒させてしまう。
「………な、なんだか皆さん、ピリピリしてます? 異常事態発生……?」
「……違う違う。異常事態じゃないよ。……ただ、青葉城西は前回接戦の末に負けた相手だから―――」
慌てて怯えて、震えそうになってる谷地を落ち着かせつつ……清水も表情を硬くさせる。
清水にしても前回の敗戦は心に刺さった。何でもない、とは決して言えない。
どうしても、気にしてしまう相手がいる。
「…………」
サブアリーナに来てから、念入りにストレッチをしている火神だ。
時折、日向を交えて身体をほぐしている。前回と同じ轍は踏まない様にするための配慮……だとは思う。
それに以前よりも激しく動き続けていて大丈夫だった。厳しい合宿、他校の強豪との練習試合、全て笑って乗り越えていたからきっと大丈夫……と思いたい。前の様な事態は起きない、と信じたい。
「…………」
そして清水は知っている。
この場の誰も知らない。……影山も、そして日向でさえも知らない火神の姿を見ているからこそ知っている。
自分よりも他人を優先し、1年なのに残った全員に対して勇気を与え……、そんな男が額から血を流し、目から涙を流し……【勝ちたかった】と泣いた所を見ているから。
皆が
彼は……誰かが見てなければならない。絶対に。
だからこそ、清水も力を込めて手を握りしめる。
「仁花ちゃん」
「ふぁ、ふぁい!」
「私達も頑張ろう。……出来る事、全部全力で」
「!! ウス!! 了解です!」
谷地にそう言い、決意を新たに持つのだった。
そして谷地もビビッてばかりではいられない。ベンチ入りは出来ないかもしれないが、それでも自分はマネージャー。村人Bだったとしても戦えるから!
「あの、谷地さん」
「ハイっス!! 出撃しまっす!!」
「え? 出撃……?」
そんな闘魂注入? 的な心情の中だったからか、不意に話しかけられて変な答えを返してしまったのも谷地なら仕方がない。
山口は一体なんの事なのか? と首を傾げる……が、直ぐに谷地は両手をぶんぶんと振った。
「わっ、ご、ゴメンなさい!! 何スか!?」
変な事いった、と自覚したから。
「いや、ちょっと胃薬あるかな? って。……やっぱ、緊張しちゃったみたいで、ちょっとでも抑えときたくて」
「!! それは大変!! 直ぐに用意するっス!」
気合一発。
先ほどの不手際? を返上する勢いで救急箱を漁る。
そして胃薬を取り出した。
「あ! 山口くん! 薬も良いけど、私もっと良いやり方しってる! けっこう自信があるんだ! 緊張に関して!」
「え?? 自信? 緊張に??」
再び言ってる意味が解らず混乱する山口。
ある意味、この時点で緊張も解れてきそうだけど、取り合えず谷地は自信満々な様子なので横やりせずに聞いてみる。
「緊張はね、口に出した方が良いんだよ! 我慢するより『緊張する~~! どうしよ~~!』って言っちゃったほうが心がほぐれるんだよ! 私よく緊張による命の危険を色々感じるから、色々と調べたんだ! ほら、体育祭とかテストとか」
「い、命の危険!? テストとかで!?」
そんなメチャクチャな……と思ったけれど、谷地の目を見てればそうでもないのか、と思ってしまうのが不思議だ。
加えて、カモンッカモンッ! と手をこまねいている谷地。聞いてあげるよ、と言ってるのがよく解る。
「ちょっと、感情移入しちゃってる所もあるかも……」
「うんうん! 感情移入って私も結構ある!」
聞き手に回った谷地は、山口の緊張をちょっとでも和らげようと大きく頷きながら聞く。
山口は、少しだけ周りにも気を配りつつ、配慮しつつ、谷地には聞こえるくらい程度の音量の声で話し始めた。
「IH予選の時、火神がケガで外に出て、終盤、ほんとの最後にピンサーで試合に出たんだ」
「うんうん………ぇ? かがみくんケガ? そとにでた??」
その状況に頭がついて行かない。
聞き手に回った筈なのに、山口の言葉から、現場の情景が全く浮かばない。
ただただ、谷地にとっては有りえない? 光景だと目を丸くさせていた。
そんな谷地には気付かず、山口は続ける。
「不慮の事故だった。誰が悪いってわけでもない完全なアクシデント。一番、自分が悔しくてたまらない筈なのに、それでも皆の為に色々勇気づけてくれて、俺の背も押してくれて………、それで最後の最後で、逆転する事が出来たんだ」
「しゅじんこうなかがみくんが、けが、けが……、って、おお! 山口君凄い!!」
火神に限ってそんな事は―――と頭が混乱していた谷地だったけれど、山口の大活躍な部分を聞いてハッと我に返り賞賛の言葉を贈る。
「流れも良かった。場の空気も良かった。いける感じだってした。でも……、俺のちょっとしたミスで、相手に安易なサーブを打っちゃったんだ。決めきれてた筈だって、あそこで仕留める事が出来てた筈だって、今だって思ってる」
ジャンプフローター最大の武器は、その魔球と呼ばれる程の変化する軌道のブレ。それが無くなったサーブはただのフローターサーブも同然。相手に通じる筈もない。
そして、自信なさげな所がある山口なのだが、しっかりと変われた。
あの時のサーブ、完全に完璧に打てていれば、例え青葉城西だったとしても仕留める事が出来た、と強く思ってる。
だからこそ、悔しいし、何よりも火神の事を思ってしまう。
「アレが、あの時、もし火神がサーブ打ってたら……って。変なミスする事なく打つって思うし、勝つことが出来てたんじゃないか? とも思う。でも、そんな事一切噯にも出さないとこも凄い、って思いつつも……後に続く事が出来なかった自分がやっぱり情けなくて、さ」
「―――――そ、そんな事ないっす!! ていうか、
「!!!? へ? しゅ、しゅじんこーって何??」
話の聞き手で何とか感情の爆発? を抑えていた谷地だったが、とうとう堪える事が出来ずに大爆発。
「さ、最終決戦を目前に、しゅじんこーの離脱っ!!? そんな場面が現実にっっ!!? ………う゛」
「えええ!? や、谷地さん!?」
「き、緊張してきた………っス、心臓、出る……口から、出る……」
「えええ!?」
爆発し過ぎたせいか、体内では面白い事が起きてたようで。繋がってない筈なのに胃から心臓がせりあがってくる様な感覚に見舞われて、口元を押さえた。
「ま、まってまって! エチケット袋———じゃない! 心臓は駄目! 飲み込んでっっ! 胃薬……、いや、救心! AED!!」
心臓じゃなくて、口元を押さえてる谷地。
どうやら心臓は大丈夫そうだ。
「どうした!?」
「AEDか!?」
「110番か!?」
「119ですよ」
そんな谷地と山口の盛り上がりに、皆が気付かない訳も無くわらわらと近づいてきて……。
「ほらほら、谷地さん落ち着いて」
いつの間にか、やってきていたのは火神。
背中を摩ると、スポーツドリンクを差し出した。
「心臓、これで流し込めば良いよ」
あはは、と笑いながらそれを谷地に差し出すと。
「う、ウッス……、感謝する……っス」
「ゆっくりで良いよ~~……んで、山口?」
「!!」
火神の笑顔が山口に向けられた。
何だか怖い気がするのは気のせいじゃないだろう。
「俺の名が出たり、主人公? とかよく解らない変な単語が聞こえたりしてたけど、何言ってたの?」
「あ、いや、それは――――えっと、谷地さんが……」
ここで谷地に責任転嫁? したら更なるダメージが……多大なるダメージが谷地に降りかかり、それこそ心停止する勢いまで行くかもしれない、と咄嗟に考えた山口は谷地が勝手に言った~と言い切る前に飲み込んだ。
「ただ、胃薬貰おうとしただけで、そんな大した事は――――」
「いーや! 聞こえた!! つーか、これ以上変な属性増やさないでくれ!! ただでさえ、キャパオーバーなんだからなっっ!!」
「変な属性って何!?」
1年リーダーだの保護者だのお父さんだの勇者様だの……数多くの異名が勝手に増えていく火神。
ここに来て、主人公などと言われた日にはもう苦笑いしか出ない―――訳なく、これ以上は要らない、と断固拒否の姿勢。
と言うか、どちらかと言えば、主人公は日向翔陽と影山飛雄なのだ!
「王様倒す勇者様。そりゃ、主人公様だわ」
「こらツッキー!! 聞こえてるぞ!!」
「落ち着け火神! かっけーじゃねーか! 俺も主人公! 俺の物語の主人公!!」
「おお、そりゃノヤっさんの言う通り! 俺だって主人公っ!!」
うぇ~~い、と皆集まってワイワイ騒がしくなった。
それは、先ほどまでの緊張感が和らいでいく様にも思える。
「……風邪みたいに、緊張も他人に感染したら治るものなのかな……、皆さっきより元気?」
「ははっ! 何真面目に分析してんだよ、清水! ま、それがマジだったら谷地さん大健闘だな。清水が言ってた様に、出来る事全力で頑張った結果、皆の緊張ほぐしたって事じゃん」
「……なるほど。そうとも取れる……かな」
菅原にちゃっかり聞かれてた事に少々気恥ずかしさを覚えるが、それ以上に谷地の健闘? を称える清水。
だって、今のは到底自分には出来ないやり方だから。
「いーよないーよな~~、俺だって主人公っ! って言いたいトコだけど、やっぱ誠也の方が似合うからなぁ、主人公ってヤツ!」
少し離れた位置で日向は頭に
「主人公って、王様よりかっけーよな? 影山君!?」
「………………」
投げられる? 蹴られる? 事を覚悟した様に煽る日向。
防御態勢を取るが、影山は全く反応を示さない。
王様、と言う単語は、今騒ぎの渦中にいる火神のお父さん等の発言以上に、影山にとっては禁忌な筈だが……?
疑問に思った日向は、ふと1つの解にたどりつく。
「……あれれ? 影山君って今まさかのビビりタイムですか?」
ニヤニヤ、と鬱陶しい事極まりない顔付きで、更に影山に近づいた。
流石の影山もここまでやられたら黙ってる筈無いよな……と更に防御態勢移行の日向。……が、それは杞憂と終わる。
「……そうだな。及川さんは間違いなく強ぇ。俺が色んな意味で
「んがっっ!!」
その代わり、正論攻撃をこれでもか! と言う勢いで受けてしまう事になった。
影山や及川クラスともなれば、日向は下の下……と言われても否定できないし、ただただ悔しさだけが残る効果はばつぐんだ、な一撃なのである。
だが、影山の追撃はそこまで。
「そりゃ、飛雄にだって苦手な物の1つや2つあるって。それが長年先輩として君臨してた及川さんだ、って言われても俺は不思議には思わないよ」
「ふげっ!?」
ゴスッ!! と拳骨……ではなく、ボフッ!! と掌を頭にのせられた。
勿論、その相手は火神だ。
「アレ!? 誠也いつの間に……? 向こうで騒いでた筈なのに」
「谷地さんの介抱、一応やってたら清水先輩が受け持ってくれたの。そん時、翔陽と飛雄が何やら話してるのが見えたから」
背中摩ったり、肩を貸したり……と、ギャグに見えていたんだけど、谷地の心身的な負担は相応にあった様で、取り合えず安静に~~~とさせようとした時、清水が自分がやるから試合に集中して、と(結構強引に)谷地を預かってくれたのである。
谷地も先輩とはいえ、同性の清水に介抱して貰った方が良いか、と火神は特に何も気にする事なくバトンタッチして……今に至る。
「え~、でも俺誠也に苦手意識とかないけどな~。長年一緒に居るけど」
「……今までの強面シリーズ先輩。先輩方の名前、順番に言っていこうか? 伊集院さんとか鬼頭さんとか紅林さんとか……」
「ふぎゃあああッッ!!」
バレーの練習を色んな場所で行ってた日向と火神。
体育館だったり運動場だったり、校庭だったり、廊下だったりと本当に多岐に渡る。
その上下手くそ時代もそれなりに長かったので、沢山迷惑を駆けたりもした。
その中で、日向が大分、大層ビビっていた先輩方を思い返しながら指折り火神が名を口に出していくと……日向は精神に多大なるダメージを負う+影山の気持ちも解らんでもない、と思い直す事にした。
「とまぁ、人それぞれ色々あるって事で」
火神は途中でやめた。
あまりにもダメージを試合前に負わすのも悪手だ、と思ったからである。割と本気で。
「と言うか、翔陽も及川さんの事怖がってたじゃん。飛雄よりもヤバい、って聞いた途端、大王様だ! って」
「ぅ~~、そりゃ俺も怖いけど、影山の場合はちょっと違うって言うか……、ほらほら、誠也だって知ってただろ~? 戦うの楽しみにしてたじゃん! 俺も含めて」
「……そりゃそうだ」
日向の言い分も解る、と火神は影山の方を向いた。
及川は例外かもしれないが、それでも強い相手の方が燃えるし、面白い……と、その凶悪な面を向けるのが影山なのだから。
「うるせーな。ビビるもんはビビるんだよ」
「それもそーだ」
影山の反論1つで火神も納得。
そう、誰も苦手な事が有って当然。ある意味、例外が居るとすれば火神。
「昔、及川さんが【6人で強い方が強い】って言ってたのを聞いた」
「あん?」
「…………」
影山にしか知らない情報———だが、火神はしっかりと知ってる。だからこそ、本人の口から聞けてご満悦な面も持ち合わせつつ、真剣な顔つきで聞いた。
「その時は、俺は【何を当然の事を言ってんだ?】って思った。強いメンバーが6人揃ってりゃ、強いに決まってんのに、って。……でも今になって解る。及川さんだけじゃねぇ。
当時は解りえなかった事が理解できる事。それは好ましいと言えるだろうが、影山にとっては非常に難題で難解だからこその葛藤なのだ。
「あれは、メンバーの力を【足し算】じゃなく、如何に【かけ算】に出来るか、って事だったんだ。チームのスパイカーの力を引き出して、より強い、より大きくさせる事が出来る。……及川さんや
「………ははっ」
火神は思わず笑った。
その笑みに影山はムッと表情を強張らせる。
出来ない事を笑われたのか、と思ったからだ。でもそれは違う。
「やっぱし飛雄が出来ない、なんてらしくない。ほんと極まってるって感じだな? やれる様になるまでやる。……それが飛雄の筈だろ? あんな翔陽とのスゲー速攻、完成させてみせといて、何言ってんの」
「………………」
性格上の問題もあるだろう。
得手不得手、と言うのも当然あるだろう。
でも、バレーに関しては何処までも貪欲に吸収しようとするのが影山飛雄と言う男だ。強くなる為に。その雑食性はまさにカラスに通じるモノがある。
例え、直ぐにはムリだったとしても、最後には必ずやり遂げる男だ。
それをまさに証明させたのが、あの変人速攻だった筈だから。
「影山くんって、ほんとビビりすぎですねーー!」
「ッ……!!」
「うひっ!?」
凄まじい眼力を前に、日向は思わず火神の後ろに隠れる――――が、直ぐに気を取り直す。火神がつまみ出そうとしたのだが……その必要も無かった。
「んでも、それ影山が言ってんのは、
「!」
及川は、どのチームでも影山以上にスパイカーの力を引き出す。
だが、それが烏野に当てはまるとは到底思えない。
火神も、【だな】と笑顔を見せた。
「翔陽の言う通り。烏野のセッターはお前と菅原さんの2人。それ以外ない。つまり、及川さんじゃないんだ。……及川さんに出来ない事を、飛雄はやってるって事だな?」
そう言うと、火神は影山に手を伸ばした。
澤村の号令も入った。もうそろそろ時間が来る。……決戦の場へと向かうのが分かったから。
影山はその手を取ると、身体を起こした。
「
「おう!! 今度こそオレ達でリベンジだ!!」
春高宮城県代表決定戦 準決勝
烏野高校VS青葉城西高校
あの日の激闘———それ以上が今始まる。