王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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何とか9月中にもう1話出来ました……。
欲を言えばもう更に1話、1話といきたいですが………苦笑


これで青城VS伊達工終了です!


いよいよIH準決勝————頑張ります!!


第163話 青葉城西 VS 伊達工②

 

 

新しい鉄壁が、挑む準々決勝。

粗削りではあるが、素材はまさに一級品。

宮城県バレーボール界の次代を、或いは日本のバレーボール界を担うまで届くかもしれない。

 

だが、それでもまだ経験が足りなかった。

 

地力の強さ、総合力の高さで勝る青葉城西の()は高かったという事だろう。

そして、黄金川のプレイ自体も……。

 

 

「まぁぁたオメーはよーー!! バレバレのツー打つんじゃねぇっての!! カウンター貰ったじゃねーか!!」

「すんません!! でも、ツーアタックかっけぇからやりたいんス!!」

「(すげーわかりやすい理由だ……)」

 

 

まだまだ粗削り———よりも、正直我が強い。勝つために~よりも感情面を優先させてしまいがちだ。これまでの試合では何とかなってきたのかもしれないが、正真正銘の強豪校相手に、それは明らかな悪手。一丸となって挑まなければならないというのに、だ。

 

 

だが、ここで諫めてより消極的になってしまえば、本来の持ち味、その威力まで半減してしまう可能性も高い、とも二口は思える。

 

 

「つーかお前。ツーの時、別にフェイントじゃなくていいだろ」

「?? ファイ??」

 

 

———ただ、今から諫めるのは不可能だ、と二口が判断しただけかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

試合も後半戦。

16-18で青葉城西のリード。

 

そして次に来るのは、青葉城西最大の攻撃の1つ———及川のサーブ。

 

 

「及川さん! ナイッサ―!!」

「ッサァァーー!!」

 

 

「強ぇの来るぞ!」

「1本で切る!!」

 

 

及川のサーブの強烈さは、当然受け続けてきた伊達工側も解っている。

ただ、解ったからと言って止められるわけじゃない。

それも、威力・精度共に全く落とさず、更にリードしている点もあって元々強靭な(一部例外を除き)精神面も全くの問題なし。

助走から跳躍、空中姿勢———何より絶対に決まるという強烈なイメージ。

 

ドンッ!!

 

残りを全て1人で決める勢いで放った会心の一撃。

それは丁度守備と守備のド真ん中、作並と女川の間を打ち抜いた。

 

その凶悪とも言える威力に加えて、お見合いをする絶妙な間。1本で及川のサーブを切る! と意気込んだ気合を一蹴された感覚だった。

 

 

「っしゃああ!!」

「ナイッサぁァァ!!」

【いいぞ! いいぞ! トオル! 押せ押せトオル! もう1本!!】

 

 

 

大事な局面で決めたノータッチエース。

場が一際盛り上がりを見せたのは言うまでもない。

 

 

 

「威力は更に上げてきてる……って感じかな」

「………ああ。そうだな。絶対ェ負けねぇ……。サーブだって勝ってやる」

「おぉ。セッターとしては負けねぇ、からあの及川さんのサーブに対しても負けねぇ、が出てきたな、飛雄。良い傾向、ってヤツじゃん」

「……ッ、んなモンたりめーだろ。そもそもお前もそうじゃねぇのか?」

「勿論。言われるまでも無し」

 

 

 

及川に対してある意味ではライバル意識以上に、苦手意識を持っていたのが影山。

トス以外のサーブ、ブロック、レシーブと数多のプレイを盗み、磨き上げてきたが、その意識故に、精密機械とも言えるトス以外、及川に勝つ。とは言えてなかった。

 

勿論、個人技対決~を意識している訳でもない。チームで勝つ、と言うのが大前提の上での宣言だという事くらい、火神も解ってる。

 

 

「まだまだ改善の余地はあるし、改良の余地だってある。自分の力に上限を決めたつもりもない。……それに、相手が強い方がやっぱ燃えるしね」

 

 

ニッ、と片目を閉じてウインクして見せる。

そんな火神の言葉を一言一句、脳裏に刻み付けると、影山もにやりと笑った。

そして日向は目を輝かせている。

 

 

「うおおおお! 解る! それ、すっげ―解る!! オレもオレも! オレも負けねぇぞ誠也っ!!」

「……テメェは負けねぇいう前に、その下の下の塵スキルをちっとはマシにしてモノを言え」

「!!!」

 

 

影山の強烈な毒舌を受けて、観客席でケンカファイト! 

日向VS影山

 

勿論、座席なので跳び技は出来ない。なので、近接戦闘スタイルで、見事な連打を魅せる日向と全てを見切り受け流していく影山。その更に横ではニヤニヤと笑ってる月島が、言葉を発してないが、何だか雰囲気的に煽ってる様な気もしなくもない。

 

 

「はいはい。周りの迷惑になるからその辺で」

 

 

澤村がギロリ、と睨みを利かせて、その圧を浴び。その隣では首根っこ引っ捕まえて騒動を止める火神。

 

2人は観念して、改めて試合に集中した。

 

 

 

「あいつら、ほんっといつでもどこでもケンカするなぁ……」

「くくっ。大地や火神が居なかったら、どーなってたかわからんべ」

 

 

縁下の苦笑いに、菅原が口元を覆って笑いをこらえながらそう付け加える。

試合中では、あんなに息ぴったりな2人なのに(正確には、日向の身体能力、それに合わせる影山のスキル、夫々がヤバすぎる)、気が付いたらケンカを始めてるからどことなく笑えるというモノだ。

副主将としては、澤村と同じ様に心を痛め? なければならない場面なのかもしれないが、特にそこまで気にしてない様子。

 

勿論、菅原も公共機関等で、皆さんに迷惑をかける様なら、静かに怒りを露にするから別に放任と言う訳ではない。その時の恐怖度合いは澤村以上だという事は皆周知の事実である。

 

 

そして、縁下と菅原も改めて試合を観戦。

 

 

「スガさん。やっぱり青城の方が1枚上手、って感じスかね……? ここまでの展開を考えたら」

「ん~~……、上手って言うのもあると思うけど、やっぱり伊達工の方はまだバタバタしてる、って印象の方が強いかな。しなくて良い所で失点重ねてるし。それを修正し始めたら、もっと競っててもおかしくないだろうし。……つまり」

「あの【大型セッター】がハマれば強い、と言う事ですね」

「ああ。……今も勿論強いと思うけど、やっぱり来年・再来年が怖い気がする。更に更に化けそうって感じのチームだ」

 

 

目だったミスは、主に黄金川の個人によるものが多い。

IH予選の時も見かけなかったから、まだまだバレーボールは初心者だという事は解るし、ある程度身体能力に頼ったプレイに走ってしまうのも無理はない。

音駒で言うならリエーフ、守備型のリエーフの様な感じだろうか。

 

それを他の全員でフォローし、今出来る最大限を活かせる様に立ち回ってきて ここまで勝ち上がってきたんだろう。

でも、やはりその小さな隙・ミスを見逃す程 青葉城西は甘くない。

 

 

 

 

及川の2本目。

 

 

 

 

1本目の様にサービスエースこそ献上しなかったが、それでも威力が強烈過ぎた。

 

 

「くっ———っそッッ!!!」

 

 

(ボール)を捕らえた筈なのに、着弾する寸前にまた更に威力を上げたのか? と錯覚する程に、トンデモナイ衝撃が二口の腕を襲った。

結果、(ボール)の威力を殺しきる事が出来ず、そのまま相手コートに返してしまう。

 

 

「っしゃ!! チャンスボール!!」

 

 

更なる連続得点(ブレイク)チャンスを与えてしまった。

これ以上、点差をつけられるわけにはいかない、と緊張が走るメンバーだった……が、リベロの作並だけは違った。

伊達工の地の盾は、冷静に……冷静に見定めている。

 

 

 

そして、集中していた最中、脳裏に浮かぶのは監督に言われた事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【良いか、作並。黄金川はセッターとしてはまだ赤子同然だ】

【オギャッッ!??】

 

 

それは春高予選の前日の事。

練習中に黄金川と作並が呼ばれ、開口一番辛辣な監督からの黄金川へのコメント。

黄金川は解っていた事、自覚していた事ではあるが、何故自分にではなく、同級生の作並に言うのか!? と思わず赤子の様な呻きを上げていた。

 

当然、事実なのは間違いないので反論はせず。

 

 

そして、黄金川を陥れる? 為のモノではないのも確かだ。

この話をする理由、本当の理由を告げる。

 

 

【まずはお前が文字通り導いて(・・・)やれ。作並。―――黄金川が得意とする場所まで】

 

 

それはリベロである自分が一番出来る。

そして自分こそがしなければならない事だと作並は、脳裏に刻み付けた。

 

 

 

「(黄金川君が得意な場所(・・・・・)へ———)」

 

 

 

試合は相手のチャンスボール。

最悪な展開の1つかもしれないが、頭は冷静に、ただただ選択肢だけを絞ってコースも絞る。

そして更に分析もする。

 

青葉城西は、チャンスボールの時は高確率で……。

 

 

 

「「金田一!!」」

 

 

 

真ん中(ミドル)を使う。

 

 

「(レシーブ!!)」

 

 

完全に、読み勝ったと言える。

鉄壁の壁、その面積の広さも計算し、コースを完全に狙い定めた。

 

そして重要なのは次。

 

 

 

 

【レシーブは黄金川がジャンプトスできる十分な高さであげてやれ。多少ネットに近くなっても良い。黄金川(こいつ)は————】

 

 

 

 

 

作並のレシーブに反応した黄金川は、跳躍した。

まだまだ未熟だが、それでも何度も何度も繰り返したプレイの1つだ。

 

そこらのセッターであれば、これほどの高さ。白帯の更に上に上げられた(ボール)など、そのままチャンスボールで相手に返してしまうだろう。若しくは、返す事を見越してブロックに跳ぶだろう。

だが、黄金川は違う。

 

 

 

 

【届く】

 

 

 

 

監督が言った通りだった。

一瞬高過ぎたか? と思ったけれど、黄金川は届いた。

言うなら並のアタッカーの最高到達点程とも言える高さの(ボール)に届いた。

 

 

作並と同様。それはまるで以心伝心とでも言うかのように……(黄金川がそんな難しい言葉? を知ってるかどうかは別として) 黄金川の頭の中でも監督の言葉がよぎる。

 

 

 

【お前は今はまだ難しい事をやろうとしなくて良い。ただ(ボール)を《高い場所》から《高い場所》へ置いてくるだけだ】

 

 

 

目測で距離を測って、まだまだ身についてないも同然な、感覚で動こうとするから、ミスを重ねてしまう。スパイカーさえも届かない場所へと上げたり、打点を考えてない高いトスを上げたりしてしまう。

 

だから、今は監督に言われた通り。

高い位置から高い位置へ。

 

 

高い位置からの攻撃を成立させる。

 

 

これまでのどの(ボール)の扱いよりも優しい、柔らかいタッチ。

それが突如豪速を纏う。相手の(ブロック)にも全く掠らせない高さから叩きつけられる。

 

そして、完全にブロックが届かない、届いていない位置からの一撃に、盛り上がりムードだった青葉城西に戦慄が走った。

 

 

 

 

「うおおおっ!? 速えっ! 高えっ!? なんだ今の!??」

「セッター自身の最高到達点が高いから、まさに打点に置くだけ、って感じだな……。それに、あの1番もデカいし。余計に高く感じた……」

 

 

 

17-19

 

 

まだ2点ビハインドではあるが、チームの士気が上がると同時に、相手にも良い具合にプレッシャーを与えられた事だろう。

 

それが証拠に、青葉城西の選手たちの顔色が変わった。

及川の笑みがこれまでとはまた違う種のモノに変わっていたから。

 

 

 

 

 

その後は一進一退。

 

 

 

 

 

 

流れを一気に持っていくか? と思われた伊達工の一撃だったが、落ち着いて青葉城西は点を獲り返す。やはりそう易々と持っていける程生易しいモノではない。

 

点を獲り、獲り返してはのシーソーゲーム。

点を獲る度に一喜一憂して皆を鼓舞し、そしてベンチ側も的確な場面でタイムを要求。全員が一丸となる、とはまさにこの事を言うのだろう。コート内外問わずに全てを出し尽くす展開となった。

 

 

そして終盤戦。

 

 

21-23

 

 

まだ2点差。だが、前衛に青根・二口と上がってきている。

伊達工の最強の鉄壁が前衛に来ている。逆転するに必要なローテは今。

 

 

「追いつけるぞ!! ここでブロック一本だ!!」

 

 

それが解ってるからこそ、茂庭は更に声を上げた。

粘って、粘って、我慢して、ここまで来たのだ。青葉城西の背を掴む為に。

 

 

「岩泉!!」

「ナイスレシーブ!」

「ナイス岩ちゃん!」

 

 

だが、そんな決意を、狙いを、全て見透かし、嘲笑うかの様に。

思考の隙間を。まさに針の穴を狙うかの様に。

 

 

「止めるぞ!!」

「センター!!」

 

 

完全にチーム全体の意識が逸れたのを確信した及川のツーが炸裂。

 

如何に鉄壁と言えども、完全に意識の外からの攻撃は跳ね返す事は出来ない。

青根、二口共に跳ぶ事すらできずに、コートに落とされた。

 

 

「~~~~ッッ!!」

「クッソが———!!」

 

 

 

21-24

 

青葉城西マッチポイント

 

 

 

「くああああ、ここでツーくるか! 何か今日は鳴りを潜めてるな、って思ってたら……!」

「流石に冷静だな」

「腹立つ」

 

 

見ていた烏野側も虚を突かれた、と言わんばかりに声を上げた。

 

 

「凄いな。完全にセットの構えだったのに、金田一(センター)使ってくるかな? って思ってたら、一瞬でツーに切り替えてた。……アレは騙される」

「ぐううぅ……っ!! で、でも誠也は大王様相手にブロック何本かしてたじゃん!! 負けてないっ!! 全っ然負けてないっっ!!」

 

 

日向も忘れがちだがMB(ミドルブロッカー)

ブロッカーの気持ちは分かるし、あの嘲笑い一撃に関しては、苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。

そこへきて、火神の及川に対する賞賛を聞いて、自分の事じゃないのに、ムキになって異議を唱えたのである。日向らしいと言えばそうだ。だから、火神は苦笑いしつつ答えた。

 

 

「そりゃ、ある程度の予測(・・)が立てれれば勝負だって出来るし止められるよ。でもツーは基本的に奇襲。ブロッカーやレシーバー、相手の虚を突いて初めて成立するって言っても良い技だし。……流石に読み合いで負けたら止めるのは難しい。反射神経だけじゃ限界あるしね」

「ぐむぅ……」

「飛雄が及川さん見て学んだ、って言ってる意味がよく解るってもんだ。凄いよ」

「…………あぁ。(クソッ……今のオレも騙された)」

 

 

及川に対するその認識を、その脅威を改めて持つ。

 

だが、不思議と心強くも感じた。それも当然だ。

 

あのIH予選の時。その凄い選手である及川の表情を幾度となく変えていた男が居るのだから。それに何よりも……。

 

 

「凄いなぁ……」

 

 

この場の誰よりも笑顔だから。

 

 

 

「(笑えるのが凄い。……でも)」

 

 

やり取りを耳にはさみ、横目で皆の反応を見ていた清水はつぶやく。

説得力があり、自分も即座に納得できる理由を。

 

 

「――――火神、だから」

「???」

 

 

火神だから。

それ以上の理由はいらない。彼だから。期待する大型新人(スーパールーキー)だから。

全国に……、春高に連れていくと力強く断言した彼だから、と清水は微笑んだ。

 

それを直ぐ横で聞いていたのは谷地。

熱の入る試合に圧倒され過ぎてて、皆の話は全く聞いてなかった。だからこそ、意味が分からず、首を横に傾けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして試合。

後1点で負ける———、春高の望みが断たれる。それを意識すると心臓の鼓動が更に高鳴っていくのを感じる。

 

 

「落ち着いてまずは一本!! 一本切ってこ———っっ!!」

【ッ!! ウス!!】

 

 

ここで、今日一番のデカい声で奮い立つのは二口。

主将として、ここで崩す訳にはいかない、と己にも暗示をかける様に。

 

そして何より————まだ諦めていない。

 

 

「花巻! ナイッサ―!!」

「ナイッサ―!!」

 

 

 

 

 

続く青葉城西のサーブ。

一通り、全員のサーブを目に焼き付けてきた。勿論、及川のサーブが突出しているのは間違いないが、それ以上に思う所はある。

 

 

「青城……全体のサーブのレベルも上がってんな。……当たり前か」

「うん……」

 

 

今日と言う日に備えて鍛え上げ、研ぎ澄ませてきた。

IH予選はほんの数か月前かもしれないが、それだけ時間が有れば容易に化けるのがまだまだ発展途上な高校生。

 

それが、青葉城西だったとしたら、尚更だ。成長の伸びしろは、測れない。

 

 

 

 

「っっ!!」

「ナイス!! カバーカバー!!」

「繋げぇぇぇっ!!」

 

 

そしてそれは伊達工にも言える事だ。

その強力なサーブに食らい付いている。今も気合で拾っている。まだまだ闘志は萎えていない。

 

 

「二口さん!!」

「二口! いけっっ!!」

 

 

 

そして、乱れた(ボール)が集まるのがチームのエース。

 

打ちにくい二段トス、加えて揃っている青葉城西のブロック。この悪条件の中でも決して逃げず臆さず、二口は突っ込んでいった。

 

 

「シィッッ!!!」

「ッ!??」

 

 

狙い済ませた渾身の一撃。

パワー・精度共に今試合最高の一発と言って良い一撃は、岩泉のブロックを吹き飛ばし、相手コートに叩きつけた。

 

 

「「「「二口ナイスキィィィィ!!」」」」

 

 

場は、まるで怒号が湧き起こったかの様に一気に沸きあがる。

後1点で敗北、サーブで崩された場面、こんな場面でも決めて見せた二口に賞賛の嵐だ。

 

 

「よく打った!! よく打ち切った!!」

「うらっしゃああああ!!」

「ウチの後輩見たかコラぁ!! 見とけコラぁ!! クラぁっ!!」

 

 

22-24

 

マッチポイントは継続しているが、伊達工はまだ死んでいない。

でも大ピンチである事には変わりない。

 

だが、そんなピンチの中で、最大のチャンスも巡ってきた。

 

 

 

「フ―――――……、ここで……あの1年セッターくんが前衛か……」

 

 

 

前衛に二口・青根・黄金川と上がってきた3人。

圧倒的優位であるのには変わりない青葉城西側だったのだが……、及川はより一層警戒を強めた。

 

 

それはその筈だ。

及川も認めている。

そして長らく見続けてきた茂庭も自負している。

 

 

 

【エースでブロックも上手い二口……。言わずもがな《鉄壁》の中枢 青根……そして、3枚目の黄金川】

 

 

 

敗れて、引退したあの日。

必ず歴代最強の鉄壁になれる! とアイツらに茂庭は告げた。それは、次の世代にバトンを託すために告げただけじゃない。

 

 

 

【間違いなく、今現在県内最強の3枚壁だ!!】

 

 

 

青葉城西よりも、烏野よりも、王者白鳥沢よりも。

どのチームにも決して負けてない布陣だと思っているから。

 

 

それは、ここまで相対してきた青葉城西側も解っているし、認めている。

 

 

だからこそ————。

 

 

 

「岩ちゃん!!」

「オオッッ!!」

 

 

影山ではないが、相手ブロッカーに捕まらない様なトスを上げる事を意識した。

意識———し過ぎた。

 

 

「!」

 

 

当然岩泉も気づいた。

幼少期より何百、何千、何万と及川の(トス)を見てきたのだ。気づかない訳がない。

 

 

「シッッ!!」

「!!」

 

 

岩泉は、気づきながらそのまま打ち切った。

叩き落とす一撃ではなく、相手の壁を狙ったコントロール重視のスパイク。

確かに相手の鉄壁に当たってしまうが、完全に阻まれ、叩き落とされたりはしない。

このまま、ブロックアウトとなれば最高なのだが……。

 

 

「ワンタッチ!!」

「パンタロン!!」

「オーライ」

 

 

ブロックアウトフォローに回っていた女川がすかさず下がって拾い上げた。

作並と同じく、黄金川に合わせた高めのレシーブを意識して。

ややネット際だったが、それでも構わない。なぜなら、黄金川なら届く事を知っているから。

 

 

「黄金!!」

「ハイッ!!」

 

 

黄金川は、(ボール)をしっかりと視た。待ち構えて、このまま先ほどと同じ様に高い位置から高い位置へ置く……事を意識していたが、ここでふと二口の言葉が頭を過る。

 

 

それは、ツーアタック失敗! の直ぐ後の事。

 

 

フェイントじゃなくても良い、と言われた時の事。

 

ならば、どうすれば良いのか? と黄金川は首を傾げると……二口はニヒルな笑みを浮かべながら親指を立てて……それをグルんと下に向けて言った。

 

 

【ブッ叩け】

 

 

 

 

 

 

「おおおお!!!」

「!!??」

 

 

 

渡にとってみれば、黄金川のツーは脅威でもなければ意表を突く攻撃じゃなかった。

非常に読み易い予備動作(モーション)だったから、こちらのチャンスボール、くらいの認識だった。

 

 

だが、それは誤りだったと思い知らされる。

 

 

何度も何度もしてきた柔らかいツータッチが、イージーボールだと侮っていたワンプレイが、今牙を向いた。

 

ドギャッッ!!

 

「!!」

 

 

高い場所から置いてくるのではなく、一番下まで一気に叩き落としてきたのだ。

ツーの動きを読み、前に出てきたまでは良かったが、一切威力を落とさずに、鋭角に叩き落してきた。

先ほどまでのツーアタックを予期していた渡。だからこそ拾うには覚悟が足りなかったとも言える。

 

 

「うおっ!? 今度はツーで強打か!!」

「あれは読んでても拾えないっスね」

「軟打・軟打ときて強打。いい具合に揺さぶってきましたね。ツッキーがやってたヤツと同じく」

「………ふん。考えてやってる、って感じじゃないでしょ、あの7番」

「見た目で判断とかヒドイな!?」

 

 

黄金川のまさかの一撃に、場がどよめく。

二口の時と同様に大歓声に包まれた。

 

【いーぞいーぞ黄金!!】

【いけいけ黄金! もう1本!!】

 

 

「よっしゃぁぁぁ!! 連続得点(ブレイク)だ!!」

「も1本行けぇぇぇぇぇ!!」

 

 

22-24

 

そして、遠退きかけた青葉城西の背が、その輪郭がハッキリ見えてきた。

 

 

ここに来ての連続得点(ブレイク)。そして続く伊達工最強のローテ。

まだ点差的には俄然こちらが有利なのは間違いないが、ほんの少しでも隙を見せたら捕まる。

 

どう攻めるか、どう守るか――――。

 

 

及川が考えていたその時だ。

 

 

「……おい」

「! おん?」

 

 

岩泉に呼ばれた。

おい、としか言われなかったのだが、及川は自分に言われてる事に気付いた。

何故なのか、その理由は直ぐに解る。

 

 

 

いつも通りでいい(・・・・・・・・)

 

 

 

岩泉の顔を見れば解る。

 

 

 

「オレに勝負させろ」

 

 

 

先ほどのセット。

岩泉に提供したトスはどうやら気に入らなかった様だ。

 

 

 

「………ウィッス」

 

 

 

強烈な圧を受けた及川は、ただただ敬礼し、了解する以外なかった。

 

そして、及川・岩泉のやり取りをベンチで見ていた監督陣は苦笑いをしている。

 

 

「さっき及川はブロックに捕まらないように、トスをネットから離したんですね」

「岩泉はお気に召さなかったみたいだなぁ」

「まぁ、確かに打ちづらくはなりますからね。後、単純に逃げてる様に見えたんでしょう。及川はアレが最善だと判断した。でも、それが岩泉にとっては不服だった。鉄壁相手だから致し方ない面はありそうですが……」

 

 

場面は以前青葉城西が有利。

後一点獲れば勝利だ。だからこそ、ブロックに捕まらない様にトスを上げた及川を責める事は無い。鉄壁と名高いブロックに定評のある伊達工相手だ。

 

だが、ここで打ち切ってこそのエース。

高く固い壁。間違いなく県内No.1と言っても良い壁を前にしても臆さず怖気づかず、それでいて勝算も自信も持ち、打ち破る。

 

それこそがエースだから。

 

 

 

 

及川は、そんな岩泉の決意を一身に受けた。

岩泉の事は誰よりも知っていた筈なのに、ここ一番で自分自身が後ろ向きだった事実に()を覚える。

最高のセッターを、影山と言う終生のライバル? に説いた筈なのに。

 

 

何て浅はかだったのだろうか。

 

 

だが、偶然なのか必然なのか————返上する機会は直ぐに訪れる。

 

23-24の最終局面。

 

気力と気合で跳ね返しは受け止め、打ち放っては防ぎを繰り返して訪れた場面。

 

 

再び、エースに託す場面が訪れた。

 

 

スパイカー岩泉 (179㎝) VS ブロッカー黄金川(191㎝)・青根(191㎝)・二口(184㎝)

 

 

先ほどと全く同じ構図に。

 

ただ、違うのはトスだけ。上げる位置だけだ。

 

 

 

【いつも通りでいい。オレに勝負させろ】

 

 

 

岩泉の言葉を脳裏で思い返し―――及川は渾身の一球を上げた。

 

 

「岩ちゃん!!」

「オオッ!!」

 

 

上げた瞬間、上がった瞬間、察知する。

最高のトスであり、これ以上はない、と。

岩泉は刹那のこの一瞬で思っていた。

 

このトスは最高であり、そして決めれなかったらなんの言い訳もできない。決められなかった自分が悪い―――と。

 

 

 

 

 

「青城の4番のヤツって、元々デカくはないけど、……伊達工(アイツら)を前にしたら余計小さく見えるな……」

 

 

不意に呟く者が居た。

当然、その声がコートに届く訳がないが、岩泉とて承知の上。自分はもうこれ以上身長は伸びないだろう。どれだけ練習をしたところで、どれ程臨んだところで、身長だけはどうしようもないのだから。

 

だからこそ、負けられない。

高さが無くとも――――青葉城西のエースは自分なのだから。

 

 

 

 

 

そして、負けられないのは伊達工も同じだ。

 

3年たちの無念を背負い、そして再び烏野を止める為にも。……決して負けられない。このまま負けたくない。

 

 

大きな期待を背負い、それをおくびにも出さない黄金川。

この絶対に止めなければならない、後がない場面。この時ばかりは普段のお調子者な彼は姿を消していた。

ただただ、勝つためには、色々と足りなさすぎる自分に何が出来るかだけを考え続けていた。

 

 

【セッターとして、まだ赤子同然】

 

 

監督に言われた言葉だ。

確かにあの時は傷ついたかもしれないが、今は事実だと飲み込む。

赤子ならば、赤子なりに出来る事が有る筈だ。

 

 

【今のオレが出来る事……今のオレが先輩達と同等に持ってるものがあるとするなら高さのみ!!】

 

 

今出来る事を考え、そして導き出された答えがこれだ。

 

 

【高さで、止める!!】

 

 

 

何度も何度も渇望した。

何度も何度も憧れた。

この高い高い壁に、何度も憧れを抱いた。

 

 

だが、今はただ乗り越えなければならない壁でしかない。

そして、その壁は乗り越える事が出来る(・・・・・・・・・・)

 

 

「―――締めが甘いぜ(・・・・・・) 1年坊主‼‼」

 

 

鉄壁に確かにある隙間。

確かに素材は一級品かもしれないが、まだまだ粗削り。故に開いた僅かな隙間。

 

 

ドンッッ!!

 

「!!?」

「「!!」」

 

 

岩泉が狙いを定め、全力で打ち抜いたのはど真ん中。

高さを意識するあまり、基本を忘れてしまったかの様に開いた腕と腕の間。

 

鉄壁のど真ん中を抜いてくる、とはレシーバー陣も思ってもなかったようで、そのままコートに叩きつけられるのを見送るしかなかった。

 

 

 

「――――う、腕のど真ん中抜いた————!!!」

 

 

 

一瞬の静寂の後、何が起こったのかをハッキリ見ていた者が解説気味に口にすると同時に、大歓声が湧き起こった。

 

 

 

「ッシ!!」

 

 

 

そして、胸を張って拳を振り上げる。

勝負できる、何より勝ち切る事が出来る、と証明したのだ。青葉城西のエースとして。

 

 

「すげーーぞ! 岩泉!!」

「こんにゃろっ! かっこいい奴め!!」

「岩泉さんスゲーっす!!」

「ナイスキー」

 

 

皆にもみくちゃにされる岩泉を見ながら、及川はつぶやいた。

 

 

 

「………オレも、まだまだっすなぁ」

 

 

 

解っていた筈なのに、知っていた筈なのに。

まだまだ完成(・・)とは程遠い。

 

 

 

 

セットカウント

2-0

 

25-23

25-23

 

 

勝者:青葉城西高校

 

準決勝進出

 

 

 


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