人が減って、1日3万歩~~は、少なくなって1~2万歩くらい。大分楽になりましたが、未だに色々と大変です……涙
オリ分も大分減っちゃう両校の試合場面なので、大幅カット! しようかなぁ……と結構悩みましたが、黄金くんも好きなキャラの1人なので、折角なら書いちゃえ!!! と押し切った形でこの両校の試合をかきました……。
なので オリ分が更に少な目なのですが、どうかご了承いただけたら幸いです。
これからも頑張ります。
青葉城西と伊達工。
そのどちらかが、一足先に勝ち上がった烏野高校と準決勝で対戦相手となる。
一体どちらが勝つのか、それは誰もが気になる所だろう。
順当に言えば青葉城西だ。
3年が引退し新チームとなったばかりの伊達工と宮城県No.2であり、あの王者白鳥沢を一番追い詰めたと言って良い青葉城西。
誰もが後者を予想するだろう。
だが、伊達工の鉄壁も決して軽視できない。
その主力はいまだ健在である事、これまで勝ち上がってきた戦績を考慮すれば、十分過ぎる程勝機はある。
何より、勝負は やって見なければわからない。
烏野の心情的に言えば、青葉城西にIH予選での借りを返したい―――と言う気持ちもあるだろう。
だが、当然それは眼下でしのぎを削ってる両チームには関係ない。
目の前の相手しか見てないのだから。伊達工も、青根の話にはなるが試合前、日向を止めると宣言していた様だが、それももう頭の中には残ってない。ただただ、目の前の相手だけに集中している。
それはお互い様。
青葉城西も幾度も幾度も、全て跳ね返してきた相手、王者白鳥沢の事は一切考えていない。
お互いに、他の事を考えながら試合して勝てる様な相手じゃない、と解っているからだ。
プレイ中でも、ゲームの合間合間でも、タイムアウト時でも、まるで火花が両者間に飛び散ってるのが目に見えるかのようだ。
「どうだどうだ!? 勝ってるか!??」
「くっそ~~! まさか電車で遅れるなんて! 最初っからチャリでくりゃ良かったんだ!」
「いや、ここまで遠すぎんべ。脳筋思考は ほどほどに」
そんな中、観客席では1つ変化が訪れる。
もう試合が始まって第1セットを終えて第2セットに入った中盤で、慌てて駆け込んでくる影が3つあったから。
「おいおい、押すな押すな! 危ないって!! っとと、それよりどうだ!? 点数は!?」
「おっ?」
慌てて駆け込んできた3名。
勿論、彼らには見覚えがあった。
そう、今戦ってるチーム、伊達工のOB………3年の3人組。
茂庭・鎌先・笹谷の3人だ。
色々とあって会場入りが遅れてしまったのだろう。少々嘆かれるが、まだ試合は終わってないのを確認して、少しだけ安心しつつ―――得点を凝視する。
伊達工‐青葉城西
6‐8
2点負けてる事、そして中央の数字は2を示し、第2セット目だと言う事も知った。
「くぅぅ……、いやいや、まだたったの2点差だし! こっからこっから!!」
「今2セット目か。1セット目はどっちが獲ったんだ?」
得点版がアナログ式なので、1セット目のスコアまでは記されていない。
だから、ぱっと見途中からは解らないのだが……。
「あの……1セット目は青城でした」
「「「!」」」
他の観客? が教えてくれれば話は別だ。
最初から見ている者達は当然いるから。
それが良い情報なのか悪い情報なのかはさておき……。
それは兎も角、貴重な情報ありがとうございます、と普段ならお礼を言って終わり―――なのだが、今回のは勝手が違った。
「ア゛ッ!!? 烏野……!??」
「ど、どうも、ちわす……」
因縁の相手とも言える烏野高校だったからだ。
それも
自分達が引退する最後の試合、最後の負け試合の相手だったから、尚更気まずい。
でも、教えてくれたのは事実。おまけに挨拶もしたので、それを負けたからといつまでもふてくされるのも流石に大人気ないのでしっかりと挨拶。
「あっ、ちわすっ!」
「こんちわーす。んで、どうどう」
茂庭、笹谷の2人はちゃんと返答したのだが……、鎌先はその好戦的な性格故にか、或いは手のかかる2年たちに構っていたらねじ曲がってしまったのか(失礼)、返答に中指たててやろう! として実行殆どしてた。……が、流石に超がつく程失礼なので、笹谷が腕を抑えて後ろにひっこめた。
【コンチワーーース!!】
【チワーーース!!】
そんな不穏な空気? になりそうでならなかったのは、ベンチ入り出来なかったが、それでも声を出し、勝利を信じ、応援していたメンバーたちが、3年の先輩に気付いて大きく挨拶をしたからだろう。
茂庭も、澤村との視線を一旦外して、後輩たちの方に振り返った。
無論、笹谷・鎌先も同様に、後輩たちを見て挨拶を返す。
「「「おーす」」」
邪険にする事は当たり前だがしない。
試合に出れない、ベンチ入りも出来なかったかもしれないが、彼らこそが、これからも鉄壁を継ぎ、伊達工を盛り上げていく後輩たちなのだから。
烏野高校のメンバーが居るのは勿論想定していたが、まさかこんな直ぐに鉢合わせになるとは思ってなかったので、少々取り乱したようだが一先ず後輩の手前、落ち着かせて席に着いた。
「ふぅ~~~……。烏野は3年残ってんだな~~」
「うん。―――だな」
少なからず未練が残る。
何故、高校の違いで最後の最後、春高までチャンスがあるのか、と弁えていても、納得しがたい気持ちが出てくるのだが……、それ以上に今の新生鉄壁を応援する方が先決。
「さァ!
気を取り直して、試合に集中し始めた。
「(おぉ……、伊達工、鉄壁の3年生たちだ………)」
日向も澤村同様、3人が来た事には直ぐに気付いた。
鉄壁と言えば、あの青根を連想させる日向であっても、勿論伊達工の3年の事は覚えている。
自分達は全員で鉄壁だ! と吼えていたあの熱い試合を覚えているから。
その伊達工3年だと言う事も気づけたからこそ、視線を向けたのだ。
もう、あの3人は引退だと言う事は聞いていてたが、引退をした後でも日向にとっては鉄壁のオーラ? みたいなモノをまだまだ感じる様で、ちらっちらっ と視線を送っている。
「翔陽、チラ見してんのバレバレだよ。それよりほらほら、試合の方にも集中! 次のオレ達の相手だぞ」
「んげッ!?」
隠れてコソコソ……と本人はしているつもりなんだけど、全く隠れられてない。
囮として日向は常に目立ってるからある意味仕様が無いとも言えない無いが、取り合えず最初の少しくらいなら気になって当然だとするが、延々とチラ見し続けるのはある意味失礼なので、火神は日向の頭を持って視線を試合の方へと誘導。
その時、首がグキッ、と言ったとか言わないとか……。
烏野に対して、特に紛れもない近年の烏野の急成長の源でもある1年には特に注目している。それは引退した後も同じだ。だからこそ、茂庭はそれとなく日向や火神、影山の方を見てたりしていて……。
「(烏野の11番……、試合中面倒見が良いタイプだな、って思ってたけど………まさにそんな感じ、だなぁ。ああやってまとめてくれる後輩は正直羨ましい……)」
元々持っていた認識を改めて実感する。
茂庭の心情としては、おとーさん云々より、羨ましさがウエイトを占めていた。
色々と
「あああ!!」
それ以上に、当たり前だが試合の方が気になるから。
それも、丁度伊達工が点を獲られてしまった場面だ。
「くっそ!! むかつく!! やってても見ててもフェイントは、めっちゃむかつく!!!」
丁度、花巻が相手のブロック、青根のブロックを躱す様にフェイントで落として追加点を獲られた場面だ。
伊達工のブロックは、その名の通り鉄壁に相応しい防御力を備えている―――が、空からの奇襲とも言えるフェイントには当然躱される。如何に堅牢でも上からの攻撃を跳ね返す事は出来ないから。
ただ、ブロックが強い、と言う事は、当然ながら対戦相手は真っ向勝負よりもブロックを躱すコース分け、軟打、フェイントと使ってくる事が多くなるから、常日頃からブロックのフォローに入るディグの練習は積み重ねてきている。
自分達の壁が堅牢だからこそ、相手はフェイントに逃げるのだと思いながら、地の盾も鍛え上げてきた。
だが、今回の攻防では、攻撃の起こり、その瞬間の最後までフェイントである事を悟らせなかった青葉城西の花巻の業の勝ちだと言える。
そして続く青葉城西のサーブ。
何とかレシーブする事が出来たが、多少乱れてしまった。
ウチの影山なら、あの範囲内なら全くを持って問題ない、と断言できるのだが……そんなセッターは早々いるモノじゃない。
「
「まぁ、あがりゃ問題ねぇよ。あのくらいの乱れくらいじゃ」
身体がデカいセッターが動く。
身体がデカいからこそ、一歩一歩の歩幅も広く、間を詰めるのも造作ない事。
しっかりとエースである二口にトスを上げる為に落下点に入り――――。
「ハイッ!!!」
「!??」
気合一閃! 全力でトスを放った。そう――
どひゅんっ! と風切り音、擬音をつけたくなる程勢いよく、高い高いオープントス。
「……高いな」
「2階席に余裕で届くくらいは有りそうだ。……ふふっ」
「???」
じっ————っと、同じポジションだからこそ注視していた影山、そして同じく注視していた勿論知ってる火神も。
知ってるからこそ、火神は自然と笑顔になってる。その笑顔の意味が解らず、日向は首を傾げたが。
そして、困惑……じゃなくて迷惑しているのはこれから一撃を打つ! 予定の二口だ。
「二口センパイ! お願いしますっ!」
「お、おう!!(高っっけぇよバカ!!)」
試合中、それも公式戦、負ければ終わりの本番で普段の練習のノリで盛大な駄目出し出来る訳もなく、更には主将としてエースとしてどんな
でも————だからと言って、スマートに決めれるかどうか? と問われれば話は別だ。
「(オレ、高過ぎんの苦手なんだよっ!)」
二口は特に高身長と言う訳じゃない。
角川の様な特に大柄の選手、白鳥沢の様な一発の大砲を持つ選手が居れば、高いトスも手段としてアリだと言えるが、基本高いトスは相手に
と言うより、苦手意識を持ってるのでデメリットしかないのである。
普段の練習中にもコミュニケーションを取り合ってる筈……だと思うが、まだまだこれからなチームだから仕方ないのである。
そして、やや遅れてしまったが結果は———。
ドカッッ!!
と、ネットの白帯に当たり、嫌われてしまって相手の得点。
「っしゃ! ラッキー!!」
「っぁぁああ!! ゴメン!!」
点差を考えれば、1セット目を取られてる事を考えれば、獲れる所は確実に獲っていかなければならないのに、痛恨のミス。
ただ、これは二口だけの責任とは言えないが……相手はまだまだ素人。
「二口センパイ!! ドンマイっス!!」
「ッ! も、もう少し低くだ黄金川!」
「ウッス!! 低くっスね!!」
「…………」
ただ、彼はやる気だけは人一倍ある。……が、それが空回りする事が多々あるのが問題。
「低過ぎずだぞ!? 中くらいだ中くらい!!」
「?? ウッス!!」
「ほんとに解ってんだろうな!?」
そして付け加えるなら、言い繕わずに言うなら……彼、黄金川は頭は良いとは言えない。
チームの皆はそれを知ってる。でも、持ってるモノ、
だからこそ、全員でカバーするのだ。
——主に二口が大分苦労しているのは言うまでもない。
「っっ~~~~~~!!」
「おい、さっきからどーした?」
「っっ、や、ナンデモナイナンデモナイ……こほんっ」
火神は思わず笑ってしまいそうだったのをどうにか堪えた。
失敗が面白い~と言う意味ではないのだが、傍目から見れば明かにミスった場面での大笑い。
それを見られてしまったら当然心象最悪だ。おまけにここには伊達工の3年生や応援してる部員たちもいるのだから。
だからどうにかこうにか、火神は笑いを外に出すのを堪えて、咳払いをして、再び試合に集中する。
因みに、火神の様子が気になったのは影山で、特に不審がる事なく、改めて試合に火神が集中してるのを見届けた後、影山もソレに続いた。
「……伊達工のセッターって、1年だよな? あの7番の」
「うん。……IH予選の時は見かけなかった。ベンチ入り出来てなかったとしたら、多分間違いなく」
新チームとなったとはいえ、伊達工の2年生の事はよく知っている。
悪夢でトラウマで、払拭出来たと言っても今の3年は……特にガラスハートな東峰にとっては中々に忘れがたい相手だから。
そんな中で見た事が無い選手には当然注目する。
「……デカいよな?」
「ああ……。横の
バレーボールは高さの球技。大きい方が有利なのは明白であり、何にも代えがたい才能の1つ。それを持ってる選手には当然注目する。
「なぁ、
「いえ………IH予選では見かけませんでしたし、流石に解らないです」
澤村が声をかけたのは火神だ。
和久南の事やら、条善寺の事やら、合宿での事やらを鑑みたら、彼の情報収集力? 情報量? がハンパじゃない。だから火神なら知ってるかも? ……と思って聞いてみたが流石に知らないとの事。
「(あっぶな……、思わず言っちゃいそうだった)」
喉元まで出かかった黄金川について、どうにか火神は飲み込んで口から出すのを阻止できた。大笑いをどうにか止めた事に次いでのファインプレイだ。
これらは魂にまで刻まれているから、当然知ってる。知ってるからこそ、嬉々として試合を見ているのだ。だからこそ、澤村からのおとーさん呼びもスルー出来た、と言える。
そして、火神の場所は前列席。前で試合を見ていたからこそ、殆どがその火神の楽しそうな顔に気付いてない。
因みに唯一気付いたのは同じく前列で、比較的傍に居る月島だけだ。
火神の笑顔に気付いて、何やら気味が悪いモノを見る様な視線を向けたんだけど、それにも気付かないので(いつもなら気付く)、特に何も言わずに試合の方に集中したのである。
ここで、烏野の話を横耳で聞いていた男が立ち上がった。
誰も知らない情報、あの黄金川について解説してくれる人が現れたのだ
「ふふん……、そりゃ、彼が知る由もないのは当然。なぜなら、アレは
伊達工。
成長している、今も尚成長し続けている。
期待せずにはいられない自慢の後輩たちを胸を張って、自信満々に紹介するのは茂庭だった。
「
伊達工業高校1年、
セッターと聞いて、影山は目を光らせ、大型と聞いて日向も身震いし、火神はただただはち切れんばかりの笑顔を向けて、コートを見る。
満を持して、宮城県バレーに殴り込み!! 伊達工歴代でも最強の鉄壁となるべく今も尚活躍を―――――……。
ぎゅんっっ!!
「「「!」」」
「!??」
と、茂庭が期待に期待を込めて胸を張ったのだけど、只今のセット……黄金川‐青根の速攻攻撃が失敗した。
それも、ロケット噴射! と言わんばかりの勢いで、青根の打点より遥かに高く、鋭利な角度で
流石の高身長の青根も、これには届かない。
勢いよくコートの外まで飛んでいき———軈てナイスキャッチをした。
それは、伊達工の監督。
「…………」
「……………ナイスキャッチ」
暫く沈黙が流れる。
音で溢れてる筈の体育館の筈なのに、静寂な無音の世界が突然現れて……直ぐに消えた。
「ズ、ズ、ズ、ズ ン゛マ゛ゼ ン゛ッッ!!! 校庭100周してお詫びしますっっ!!」
「いや、そこはトス練しろよっっ!!」
黄金川の絶叫が響き渡ったから。
目に涙を溜めて、溢れる寸前まで溜めに溜めて、更には土下座までせん勢いだ。
余りにも天然が凄いので、一通り指導したり、叱ったりとしているのだが、今も二口はどう対応して良いか困ってしまってる。
そんなコントの様なやり取りを見せられた茂庭は、ハッと我に返って。
「まっ、まだ発展途上なんスよっ!! セッターになって間もないんでっ! これから大物になってくんでっ!!」
「あ、あのくらいのミスはよくありますよ! ほら、1年ですし? 1年って言えばやっぱ………り………」
茂庭の余りの取り乱しように、澤村がフォローに入るが、最後の方は声が小さくなってしまった。
仕方がないのだ。普通なら仕方ない、と言える澤村も、普通じゃない1年を沢山見てきたので。
普通じゃない1年たちの顔が頭を過って、思わず声が小さくなってしまったのだ。
それは兎も角、黄金川を観察してみればわかる。
あの動き等を見ればまだまだ初心者レベルだと言うのが分かる、素材は超一級品の選手、これからが楽しみだと言う茂庭の気持ちはよく解る。
ただ、これからが有る意味
「あぁ、解るよ大地。そうだよなぁ。気持ちは分かる」
「うんうん……」
菅原と東峰は共感する様に頷くのだった。
「(あぁ……、自分トコの1年と比べて複雑になっちまったんだろうなぁ……。つか、烏野の主将に気ィ遣わせてどーすんだよ、茂庭……)」
「ははは………」
鎌先と笹谷は乾いた笑みを浮かべていた。
見るモノが見ればこれも解る。
先ほどの一連の流れ、心中察すると言うモノである。
コート上では、取り合えず落ち着かせる事が出来ていた。
黄金川の見事なホームラン、それも非常に珍しいトスのホームランに対しての一通りの注意をし、一通り宥めた後、二口は小さく、そして長くため息を吐く。
「ハァ——……オレ、ナマイキだったから、先輩たちはさぞ面倒くさかったろうな、と思うけど、まじめすぎんのもどうかと思うわ、マジで……」
「…………」
「あの二口が後輩に手を焼いてる」
「ひゃっはっは! ざまぁ!!」
どっちの味方なのだろう?
二口の苦労を見て大爆笑する鎌先だった。
この後も、黄金川は今一つ、高さを活かした攻撃、点に繋がる攻撃が出来ない。
頭の中、イメージの中では得点! な場面も見事に獲られてしまう。
「(ツーのモーション……ブロックの上で高いけど、バレバレだ!!)」
「アレ゛!?」
高さを活かしたツーアタックだが、威力が無い上に守備専門のリベロにモーションを盗まれてしまえば、ただのチャンスボールに過ぎない。
「ナイス渡っち! オーライ!!」
そして、チャンスボールともなれば、青葉城西は決定率が高い。
何処から打っても強い総合力の高さが売りの1つだから。
及川がこの場面で使うのは———。
「岩ちゃん!!」
「っしゃあ!!」
青葉城西のエース岩泉。
チーム最多得点で決定率もトップクラスの男だ。
それは伊達工の鉄壁を前にしても例外ではない。
クロス側に打ち抜く岩泉のスパイクは、伊達工業のブロックを躱し、得点した———かに思えたが。
「あぐっっ!!」
鉄壁に甘えてばかりいられない。空の盾になれないのなら、地の盾を堅牢にこちらも鉄壁になるんだ、と言う気合を入れて、伊達工の地の盾、リベロの作並が殆ど体当たりで岩泉のスパイクを阻止した。
「作並ナイス!!」
「繋げ繋げ!!」
「二口、ラストだ!!」
作並の見事なレシーブに対し、皆が応える。
声を出し、最後は二口へと繋いで見せた。
先ほどのトス———ではないが、これを打ちミスするなんて有りえないだろう。
「フッッ!!!」
「!!」
「ワンチッッ!!」
伊達工だけの専売特許ではない。青葉城西のブロックも十分過ぎる程堅牢な壁だ。
完全に読まれて、数を揃えられたブロック、それも厄介な及川、高さのある金田一の2枚壁。下手な打ち方では取られる、と判断したのは二口。
そこで、この状況下では強打は悪手と判断し、壁そのものを狙うワンタッチを選択。
金田一の手を狙って、外へと弾き出す。
だが、咄嗟に金田一が手を動かしたのか、或いは偶然の産物なのか、金田一の手に当たり弾かれた
それはブロックに跳んだ及川が、着地した後に動いても十分追いつける高さに。
「及川ッ!!」
「オーライ!!」
セッターである及川にファーストタッチをさせてしまえば、及川からのセットは出来ないが、青葉城西は皆の基本的なスキルが高い。通常攻撃であれば造作も無く誰もがトスを上げる事が出来る。
「渡っち!!」
「ハイッ!!」
特に青葉城西の中でトスのスキルが高いのが元セッターで守備力にも定評のあるリベロの渡。
及川に言われる前に既に行動に移しており、アタックラインから踏み込んで跳躍し、前衛でトスを上げる。
【リベロからのトス! 誰に上げる!?】
リベロからのセットは、既に目の当たりにしているし、何だったら初見で対応も出来ている(火神) だからこそ驚きはしないが、それ以上にそこから誰に上げるのか、どう攻撃を組み立てるのかが特に注目された。
そして、同じくリベロの西谷は渡のトスを目に焼き付けている。
自分自身はまだまだオーバーハンドは苦手だ。あの渡と同じ事が出来るか? と問われれば今は難しいだろう。でも、自分なら何処に上げる? それを考えつつ、彼の技術を少しでも盗もうと注目していた。
「(あの体勢から上げるのは—————)」
火神は、一連の流れを全て上から見て何処に上がるのが一番確率が高いのかを分析。
あの伊達工のブロッカー陣、鉄壁の彼らの様に意識を集中させた。
この時ばかりは、あの屈託な笑みは消え失せている。
自分ならどうするか、そして青葉城西側にも立ち、自分なら誰を使うのか、も考察を重ねる。
そして、導き出された答えは、渡や伊達工の鉄壁たちと一致した。
「及川さんに上げる」
「及川さん!!」
ブロックで跳んだばかりの相手。
それもファーストコンタクトでレシーブした事、何よりもセッターに上げる、と言う点。色んな意味で意表をつける選択だと言えるだろう。
それに加えて、及川は影山、火神らと同様に基本
更に付け加えるなら、身長は青葉城西の中でもトップクラスで、身体能力も高く、あの唯我独尊な影山がトス以外はまだまだ負けている、と認めてる数少ない相手でもある。
攻撃力、と言う意味でも十分過ぎる。仮にセッターでなければスコアラーとして活躍していた事だろう。
だが、訓練に訓練を重ね、更にはブロックに絶対の自信と誇りを持つチームのリード・ブロックは、その程度では乱れない。
「(流石伊達工のブロック……。全く乱れない……!!)」
必要な情報以外は全て省く。
相手がどんな奇策で来ようとも、上げられた
狙った場所に必ず
「(早いっ……。ブロックの完成がIH予選の時よりも早くなってる)」
リードブロックは当然だが、
故に、ワンテンポ相手より遅くなるのは自明。
だが、それでもリードブロックである事を忘れさせてくる様な反応速度で2枚きっちり揃えてきた。
それもその筈、ブロックの中心はあの青根と二口の2人だから。
「(———厄介な
及川もそれは十分感じていたのだろう。
短い滞空時間ではあるが、このブロックの要と言って良い2人の鉄壁との正面衝突は正直分が悪い、と判断。
だからこそ、技アリの一撃をくれてやろう、と更にインコースに狙いを定めて腕をフルスイングしようとした———その時だ。
強固な鉄壁が、鋼鉄の壁を彷彿させる圧力が、視覚の外から更にもう1枚迫ってくる。
2枚の壁じゃカバーしきれない部分に跳び付いてくる。
先ほどまで2枚ブロックだった筈なのに、突然、より強固な3枚ブロックとなったのだ。
「ッ!!」
「うぎっっ!??」
これに関しては、驚いたのは及川だけじゃない。
鉄壁側である二口も青根も想定外。勢いよく横に飛んできた3枚目の鉄壁は、まるで全てをなぎ倒さん勢いで横っ飛びしてきたので、盛大に壁同士ぶつかったのだ。
無論、それ程の勢いでぶつかったからこそ、及川のスパイクに追いつけたし、ブロック同士の隙間も埋める事にもつながる。
ガ、ガンッッ!!
と、インコースを振り切った及川のスパイクが完全にシャットアウトされてしまったのだ。
「!!!!」
「うおっっ!!?」
これには当人たちは勿論、見ている側も驚きを隠せない。
2枚ブロックだった筈———は、観客たちも同じだったから。
そして何より———。
「ッ……!」
「ボェーーーー!!」
あの鉄壁が、いつもスマートに相手のスパイクを叩き落としてきたあの鉄壁が、違う意味で乱れてしまった。
思いっきり横っ飛びでぶつかってきたのは当然 黄金川。勢いよくぶつかり、その勢いと威力は青根に伝わり、更にストレート側を守っていた二口にぶつかった。
青根である程度威力を削がれたとはいえ、体躯の劣る二口がそれを堪えきれる筈もなく、そのままコートにダイブする結果となったのだ。
「「「うおおおおおお!!!」」」
「黄金ナイスキー!!」
「ナイスブロック!!」
先ほどの汚名返上! と言わんばかりの光景。
あのホームラントスでは、場が凍り付いたが、今回のは場が大いに盛り上がり、熱気に満ちた。
監督陣達がそれぞれ例外なく小さくガッツポーズを決めて見せたのを見ても、それはよく解る。
ただ————。
「ゴラァァァ!! 加減しろやコノヤロォォォ!!」
ぶっ飛ばされて、地を這ってしまった二口は別。
意識外からの一撃、それも味方からの攻撃を受けたのだからある意味仕方ない。
「ウッス!! すんません!! 二口センパイ、大丈夫ッスか!!?」
「大丈夫じゃねぇから加減しろ! っつったんだよ!!」
まじめ過ぎて、何でもかんでも全力投球。
それが今回のにも繋がってしまったのだ。
だから、全力で矯正しなければ———と二口は今回ばかりは声を荒げる………が、それは止められてしまう。
他の誰でもない、同じ威力を、相殺されてないフルの一撃を最初に受けた青根が。
「いや、今のはオレが支えきれなかった。悪い」
「!! ~~~~っっ」
青根にそう言われてしまえば……、普段口数が少ない青根にハッキリと言われてしまえば、大いに文句のある二口も黙るしかない。
「いまのままでいい。全力でこい。次は支える」
「!! ウッス!!」
「すっげー……、日向以外にブロッカーにぶつかってくヤツって居るんだな……」
「更に言えば、
「や、絶対無理です。空中でぶつかられたら吹き飛びます」
澤村、そして東峰の言葉を聞いて、火神は右手を面前でぶんぶんぶん、と激しく左右に振った。
日向を使って、所謂空中移動? みたいなのを可能にさせたけど、それはあくまで日向の体躯、堪えると言うよりはその力を利用する様に意識したから出来た事だから、当然許容範囲と言うモノは存在する。
日向位の体格ならまだしも、黄金川が思いっきりぶつかってきたらどうなるか? 火神を見るまでもない。……
「だよなぁ。普通にあんなん受けたら、オレだって火神と同意見だわ……。いや、寧ろあの程度で済んでるのが流石鉄壁と言うかなんというか……」
東峰も勿論本気にはしていない。
技術面は、いやいや精神面? はさておき、体格や骨格、身体そのものの強さに関しては、まだまだ1年に負けてないつもりの東峰。
一目見ただけで無理だと解っていたから。
色んな意味で伊達工にインパクトを受けた面々を横目で見て薄く笑うと、茂庭が告げた。
「アレが
胸を張り、誇りを持ち、そして何よりも自信満々に告げる。
「―――新しい鉄壁です」
「(さっきの【大型セッターです】キリッ はどこいった?)」
「(……さっきのがイマイチキマんなかったから言い直したな……、
ドヤ顔してる茂庭。
先ほどは盛大に滑った所が有ったので致し方ないか、と敢えて口に出してツッコんだりはしない鎌先と笹谷だった。
高校3年が引退した後。戦力ダウンしてしまうチームなど数多くあるだろう。
だが、中には新たなる戦力が開花して、全く違う力となって備わってくるチームだって当然ある。
新時代を担う主役たちが頭角を成し、虎視眈々と上へ目指そうとしている。
伊達工もその内の1つだ。
まだまだ粗削り、完成には程遠いと言えるのだが、それでこの圧力。
「―――また面倒くさいチームと当たったもんだ……」
2セット目までやってきて、解っては居たのだが……、正直及川も1年セッター、大型のセッターに関してはミスも多い素人っぽさもあり、青根や二口の方に注目しがちだった面は否めない。
だからこそ認識を改めなければならないだろう。
伊達工の前衛は、皆が鉄壁なのだと。
「いや、今のは正直スカッとしたな」
「確かに。色々調子乗り過ぎてたから」
「調子乗り男」
「聞こえてっから!! 調子乗り男って何!??」