王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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すみません、遅くなりました……。
和久南戦、ここで終わらせよう! と思ってたんですが、ちょっと長くなったので一区切りしました。

次で和久南戦終了となります。

頑張ります!


第160話 和久谷南戦⑩

 

「ぐあああ!! くっそ、ここで取られたら いよいよやべーぞ!! あ――――っ、おれが上げてやりてぇぇ―――っ!!」

 

 

連続得点(ブレイク)を獲られ、傍から見れば明らかに烏野に流れが傾いている。

おまけに第1セット目は烏野が獲ってる上での2点ビハインドの相手23点目。

精神的にも追い詰められていても不思議じゃない。

元主将でもあった、中島の兄 勇は今の状況、心境が痛いほどわかる為、盛大に頭を抱えていた。

 

 

「あ~~あ、また でたよ」

 

 

そんな中、どこまででも冷淡に評するのはその妹・真。

何処か呆れている様子も見られる。どうやら、常日頃 過去の事を家でも発言している様だ。

 

 

「【オレと猛こそ、最強コンビだった】武勇伝」

「!? まだ何も言ってねーじゃんっ!!」

 

 

過去の栄光? にしがみつくだけでなく、誇張している様な感じがして、半ば呆れている様だ。

そんな妹の一撃に多大なるダメージを負いながらも懸命に反論。

 

でも、追撃は止まる事はない。

 

 

「確かにお兄ちゃんたちのコンビは強かったけどさ。チームだったら今の方が強いね。勇兄が主将だった時より!」

「………妹が冷たい、悲しい」

「―――で、それ以上にヤバかったのが烏野。……昔は強かったって話はよく聞いてたけど、今あんなになっちゃってるなんて、ここまでだったなんて、正直聞いてない」

 

 

どこまでも身内に厳しくなった妹の真―――だが、烏野に対する評価は非常に高くなっている様だ。

家族そろってバレーボールの魅力に取りつかれてしまい、バレーボールを追いかけ続けてきたからこそわかる。

今の烏野の強さがよく解る。

そして、対峙している和久南のメンバーはそれ以上に感じている事だろう。

 

 

「でも、今は劣勢でピンチかもしれない。けど、ここから追い上げて勝つ事が出来たら、全国だって絶対通じる。あの王者白鳥沢にだってきっと届き得る、って思うよ」

 

 

確かに場面は劣勢だ。

サーブ権の交代交代で普通にシーソーゲームすれば負けてしまう展開。

だが、そんな厳しい状態であっても逆転する事が出来れば?

セットを奪う事が出来れば?

 

 

精神的にも技術的にも飛躍的に向上するだろう事は目に見えている。

 

 

 

ただ―――これはやっぱり身内贔屓かもしれない。現実はそう甘くはない事も理解しているから。

 

だから、出来る事をするだけだ。

 

 

「ほら! 勇兄っ!! ちゃんと声出して応援するよ!!」

「痛っっ!! 妹よ! 兄をもっと敬ってくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん。ちょっと今のトス低かった」

「うわああああ! 猛さんが止められたぁァァ!!?」

「おいおい、やべぇぞ! 後2点で負け確だ! どうする!? どうするよ!?」

「傍目から見れば、今の打ち方は強引だった気がするぞ。ブロックに読まれてる、って感じ? あっちの眼鏡のブロッカーは基本リードブロックっぽいけど、気を付けないと―――」

「って、お前ら!! もうちょっとはこう――励ましたりしろよ! 花やん以外!!」

 

 

中島の両耳から色んな意見がステレオで入ってくる。

止められた、ここぞと言う場面で止められた上に場面はピンチ。

どんな精神(メンタル)している選手だって、潰れかねない状況で自分を見つめ直す隙さえない。

更に、先ほどまで様々な心境の渦中にあり、想いがあふれんばかりに出てきた上での失点だ。

 

そんな中での仲間たちからのこの声。

 

 

「まったくよ―――っ!」

 

 

この声に中島はどう思うのか?

決まっている。

 

 

「落ち込む余裕もくれねぇのな、お前らは!」

 

 

心底頼りになる。最高の仲間たちだと。

意図していた訳じゃないのは解る。だが、それでも何もしゃべらないのに比べたら断然良い。チームを支えて、支え続けてきたつもりだったが、今まさに支えられた気分だった。

止まるくらいなら、我武者羅でも前へと進め、と。

 

 

崩れかけた精神を立て直すのには十分過ぎる。

 

 

中島は、続く相手のサーブ、縁下のサーブを問題なく捌くと、そのまま流れる様なプレイで点を獲り返した。最後に決めたのは川渡。

 

 

「ナイスキー!!」

「っしゃあ! こっから逆転するぞ!!」

 

 

気負う気配も見られない。

崩れかけた様に見えたチームが、殆ど一瞬で立て直った。

 

それを見て目を丸くさせる猛妹、真はと言うと。

 

 

「うーん、前から思ってたんだけど、勇兄と猛兄、長男と次男、本当は逆なんじゃないの? ほら、童顔だし?」

「コラァァ!! 応援頑張って声出してるって時になんたる言い草!? 流石に兄ちゃん泣くぞ! 泣いちゃうぞ! 絶対泣いちゃうぞ! ほーーら、泣いちゃうぞぉぉぉ!!」

 

 

妹にここまで言われて、弟にここまでの差をつけられて、思わず号泣してしまう勇。

でも、ある意味仕方ない……と頭の何処かでは思っていたりする。

 

何故なら、自由人ジュラシック・パークの中枢に居た自覚が多少なりともあったのか……。猛が皆の世話を焼いていてくれたのを知っているから。

 

 

 

 

22-23

 

 

 

もう1点、連続得点(ブレイク)が欲しい所ではある……が。

 

 

「東峰さん!」

「いけっ!! 旭!!」

 

 

烏野の攻撃力も衰えない。

厄介な10番が下がったとしても、単純な殴り合いの攻撃力は間違いなく県内トップクラス。

 

 

「ッしゃァっ!!」

「ナイスキー!!」

「よっしゃあああ!! 後1点だ!!」

 

 

烏野エースの一撃を止めきる事が出来ずに、打ち抜かれた。

 

 

 

22-24

 

 

 

烏野高校マッチポイント。

更に続くは、烏野ビッグサーバー東峰のサーブ(ターン)

最後に決めるのもエース。それはスパイクだろうとサーブだろうと、どちらでも関係ない。

気合も十分、調子も十分、思い切り打ち抜ける。

 

 

幾らガラスハートな東峰であっても、ここで尻込みをする訳もなく、全力で打ち抜くことを決めて、(ボール)を高く上げた。

調子に乗っているからか、トスも助走からの跳躍も全てが申し分なし。決まる、入るイメージしかなかった。

 

だが、狙い位置だけはよくない。

 

 

「んぐっっ!!」

 

 

和久南のリベロ、秋保が守る守備範囲に着弾したからだ。

如何に強力な一撃であっても、守備の要であるリベロを狙えば当然返球される可能性が高くなってしまう。

 

 

「ッくそ!! スンマセン! 長いッッ!!」

 

 

だが、それは状況にもよる。

後1点で勝ちである烏野と、1点も失点が許されない和久南。

 

この状況が精神に影響しない訳がなく、絶対に決めると放った東峰のサーブはいつも以上に力が乗り、絶対に拾うと迎え撃った秋保はほんの刹那身体が硬直してしまった。

 

その僅かな差が、返球を乱してしまう結果となったのだ。

 

 

「上! 前!!」

「ネット際だ!!」

 

 

高く上がった(ボール)は、ネットの真上。

どちらが手を伸ばしてもオーバーネットにならない殆ど真上にある。

動きも緩やかで、こうなれば速さは関係ない。純粋な高さ比べとなる。

 

 

「猛さん!!」

「影山、押し込め!!」

 

 

中島と影山の空中での押し合い。

2人は殆ど同時に跳躍。

最高到達点とは、しっかりとした助走と踏み込みがあってこそのモノ。

だから、ブロック到達点と比べて大分低くなってしまう。

普段の中島は、相手ブロッカーとも十分渡り合えるだけの跳躍力を見せているが、この手の勝負……ヨーイ・ドンから始まる高さ勝負は圧倒的に分が悪い。

 

 

「―――――!!」

 

 

ほんの数センチかもしれないが、それでも確実に相手影山の方が高い。

上から落とされる力の方が強い。

 

 

両手で抑えようと、押し込もうとしていた中島の手から(ボール)は押し込められてしまった。

 

 

 

―――くそっ、こういう時に嫌というほど、思い知るんだ……! 高さの壁……ッ。

 

 

 

高さの壁に負けない様に練習してきた。

対抗して攻めてきた。

それでも小細工を弄する隙もない、この純粋な最後の攻防ではどうしても負けてしまう。何度も負けてしまった過去がある。

 

思わず中島は目を瞑ってしまっていた――――その時だ。

 

 

 

「ふん―――――――がぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

ラスト1点で敗北するこの場面。

絶対に落としてたまるか、と言う気迫が、声がハッキリ聞き取れるかの様な気合一声と共に、(ボール)に飛びつくのは川渡。

 

 

「ナイスカバーだ!! 川渡(タビ)ィィィ!!」

「繋げ繋げ!! こっから逆転だァァ!!」

 

 

中島は、一瞬目を閉じてしまった自分を恥じた。

高さを前に、高さの前に屈してしまったも同義だからだ。

試合を投げ出したわけじゃない、頭ではそう思っていても、一瞬でも身体がそう反応してしまったのは自分自身。

 

何が動物園(・・・)か――――。

 

 

 

「負けない―――っ」

 

 

 

中島は烏野を見る。

10番? 11番? いや違う。

 

烏野高校に対して、だ。

 

 

 

 

「烏野……オレは、オレ達(・・・)は負けない!」

 

 

 

 

地に降りると同時に、中島はすかさず助走距離を確保。

 

 

 

「もう勝ったとでも思ったか!?? 粘りの和久南、ナメんじゃねえぜ!!」

 

 

 

仲間の頼もしさを背に背負う。

先ほどとはまた違う力が漲ってくるかの様だ。

 

 

 

―――オレ自身も、仲間の頼もしさも、負けない!!

 

 

 

渾身の一撃の中に、確かにある技術の結晶。

力任せに強引に打ってきても不思議じゃないこの場面で、頭は極めて冷静そのもの。

冷静に、ブロッカーの2人を見極め、影山の腕を狙い……外へと弾きだした。

 

 

 

23-24.

 

 

再び、和久南が烏野の背に迫る。

 

 

 

 

 

試合も終盤。東峰(エース)に託される場面が増えてきた。

 

 

だが。

 

 

「ふがっっ!!」

「川渡ナイス!!」

 

 

和久南が、この1点も失点が許されない場面で、驚異的な粘りを見せてくる。

それこそ、あの音駒を彷彿とする様な粘りだ。気づけば背中に迫られ、気づけば逆転を許し、気づけば負けていたあの感覚が脳裏に過る。

勝ったとはいえ、数える程度。それ以上に負けている。だからこそ、あの感覚は健在なのだ。

 

 

 

「ッ―――! 火神!!」

「っしゃ!!」

 

 

 

東峰の(パワー)が根性で拾われた。

ならば、火神の技術(スキル)ならどうか。

 

 

 

和久南側の中島の様に、相手ブロッカーの盾を見極め、針の穴を穿つ様な精度と相応の力で打ち抜く。

 

先ほどの中島の一撃のお返し、と言わんばかりにブロッカーの腕に当たり、サイドライン側に弾かれた。

 

 

「よっしゃ! これは決ま―――――!!??」

 

 

だが、粘りの和久南を自称する相手に、諦めの2文字はない。

横に、それなりに大きく弾かれた為、まだ地面との対面は早計。間に入り込む余地はある。

 

ベンチ側に座ってる監督やコーチたちにお構いなく、なぎ倒す勢いで跳び付き―――繋いで見せた。

 

 

 

「んなっ……!??」

「すっご――――っ!?」

 

 

 

まさに粘りだ。

何度も烏野が痛い目を見てきたあのブロックアウトの取られるパターン、同じく和久南側も取られてきたパターンだと言うのに、食らい付いてきた。

またもや、あの川渡。

 

 

「ぐえっっ!!?? お、おらぁぁぁぁぁ!! 繋げェェェ!!」

「ナイスだ!!」

「上がった!!」

 

 

一瞬、ケガしてないか? と心配にはなったが、川渡の咆哮に似た声が大丈夫であることを味方に告げて、100%(ボール)に集中する事が出来た様だ。

 

 

「チャンスボール!!」

「っしゃ!! 落ち着け! ゆっくり!!」

「東峰さん!!」

 

 

ただ、返すだけに留まる(ボール)。今度こそは決める、と再び東峰が助走に入る。必ず打ち抜く、と思い切り、100%の力で打ち抜いた。

ブロックに掠る事なく、そのままコートに打ち付け――――られない。

 

 

「ふんっっ!!」

 

 

川渡の次は中島がそれに反応した。

食らい付き、拾い上げたからだ。

 

 

「!!(くそっっ! まだ拾うのかよっ!?)」

 

 

渾身の一撃だったからこそ、取れなかった事実に歯を食いしばる。歯がゆく、悔しさが募る。

 

 

 

「まだ!! もう一本(・・・・)!!」

 

 

 

そんな中、一際大きく透き通る様な声が場に響いた。

それは火神からのもの。

 

そう、もう一本。……何度も何度も阻まれ続けて、心が折れそうだったあの時。

心が折れてしまったあの時に比べたら、何でもない。

 

やる気に満ちてる1年を見て、下を向いている暇などない。

すかさず助走距離を確保。

 

相手が粘るなら、粘り続けるのであれば、こちらは何度でも攻める、何度でも打ってやる、と言う気概を持つ。

それだけを考え続ける。

 

そして次こそは――――と、誰もが思ったその時だ。

 

 

「「「「!!!」」」」

 

 

ここで、予想外の事が起きた。

中島が拾った(ボール)は、東峰の一撃を拾った故に、威力のある(ボール)として、明かに烏野側へと帰ってくる軌道だった。

 

だが、その(ボール)はただでは帰ってこない。

 

 

ネットの白帯に掠めると、その威力が完全に殺され、在ろうことかネット間際に落ちてしまったのだ。

 

 

「くそッ!!」

「うそだろっっ!??」

「~~~~っっ!! 前、前っっ!!?」

 

 

 

強引に飛び込むが、無情にもその手は(ボール)に届く事はない。

 

 

24-24.

 

 

ここへきて和久南が意地を魅せた。

圧倒的に不利な状況を覆し同点に追いつく。

これより2点差をつけるまで延々と続くデュースに突入。

 

 

 

 

 

「焦らず、粘っていけばチャンスは必ず訪れる。……それは、相手のミスだけではない。()と言う極めて重要な要素の1つも、引き寄せるんだ」

 

 

 

この場面を見て、思わず拳を握りしめ、ガッツポーズを見せる鬼首。

かなりのハイレベルの展開、相手のミスを願う気持ちもあった。だが、ここへきて相手のミスではない幸運で点を獲った。それを引き寄せたのは、きっと……恐らく、いや間違いなく、彼らの粘りにあるだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

「お、追いつかれちゃった……」

「んぐあああああ!! あんなのアリ!?」

「たまに、極々たまにああ言うプレイも有りうる。……次は決めるって気概を持つのも重要だが、ほんの片隅にでも前を意識していれば――――ってのは後付けか」

 

 

 

次こそは決まる、決めてくれる、と声を出し続けてきた2階観客席側も思わず叫んでしまう様な状況だった。

嶋田も有りうる、何度も自分の時もあった、と口にするが……この場面で、後1点で勝利する場面で、後1点で追いつかれる場面で、ともなれば話は別だ。早々に起こる事ではない。

 

 

「ああいう()を手繰り寄せる結果になったのも、和久南側の良いレシーブのおかげか。おかげで、こっちは余計に打たされた上に、あの失点は疲労をうんじゃうからなぁ……」

「くっそ~~~! でも、第1セットはこっちが獲ってるんだし? 2セット獲られてもまだ大丈夫! って感じじゃない??」

「………いや、この試合、ここで決めた方が良い」

 

 

第1セット目を確かに獲った。

だが、客観的に見ても和久南は難敵。ほんの僅かな波が、勢いを増せば……より相乗的に強くなってくる、様な気がしてならない。

 

 

「2セットとって、勢いのまま3セットも~なんて事はザラにある。おまけに疲労感だって相応に溜まるし、勢いがついてる方がやっぱり有利に働くんだ。……実力が拮抗してるチーム同士なら猶更」

「……うぐぅ」

 

 

田中冴子も、解っていた事だったが、口に出してしまった。

それ程までに安心したいし、身内が居る烏野を応援しているから。

 

 

「が、がんばれ!! 烏野!!」

 

 

谷地は、ただただ声援を送り続ける。

また全国へといくと言った日向を、火神を、影山を、そして皆を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のは運に助けられた結果だ―――と言いたいが、粘って粘って、その結果手繰り寄せる事が出来た1発だとオレは思っている。運だけじゃない。粘れば粘る程、烏野(向こう)だって人間だ。ミスの1つや2つ出てくるだろう。崩れた瞬間を、見逃すなよ」

【ウス!!】

「それと―――」

 

 

中島の方を見て、鬼首は笑った。

 

 

「今この場の【小さな巨人】が誰なのか、知らしめて来い」

 

 

最大級の発破と賛辞を中島へと送る。

 

 

「………ウス!」

 

 

そして、中島はそれに力強く頷き、答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今のはミスじゃねぇ。相手の粘りに称賛だ。そんでもって、引き摺るなよ。ミスじゃねぇからこそ直ぐ忘れろ」

【アス!】

 

 

烏養も今の攻防は手に汗握った。

和久南の粘りに対して、音駒を想定しろ、と言った事は間違いではなく、次こそは決めろ、と念じて攻撃ばかり気にしていた自分が居る。

そのほんの小さな穴に、針の穴に糸を通されるかの様に、(ボール)が真下に落ちると言う場面を見て思わず絶句した程だ。

 

だが、今のは誰のミスでもないのも事実。気にし過ぎて士気が落ちるのも不味い。

 

 

「澤村、縁下と交代だ」

「ハイ」

「! ハイ」

 

 

縁下は、自分が交代する事に一瞬表情を歪めたが、直ぐに戻す。

そして、澤村は縁下の肩を叩きながら、【任せろ】と一言。

 

 

「影山。もう終盤も終盤。2点差つけるまで続くからある意味じゃ終盤じゃねーかもしれねぇが、殆ど終盤だ。だから、もっと東峰にトスを集めても良いぞ」

「……ウス」

「そんで、火神の方は 当然っつーか、相手のマークが厳しい。レシーバーの守備位置を広めに取ってきてるし、この際、キワキワコースの打ち分けより、強い一発、の方が決まり易いかもしれねぇな」

「アス!」

 

 

 

もう、後は決着のみ。

互いにタイムアウトも使い切った。

後は勝者と敗者が決まるだけだ。

 

 

「「勝つぞ」」

【【おおおお!!!】】

 

 

 

互いが己が勝利を疑わず、チームを鼓舞し、チームの士気を挙げる。

笛の音が響き、試合再開を告げる。

 

 

音駒を彷彿とするのなら、ここからが我慢比べ。

デュース地獄が始まる。

 

 

 

 

 

烏野が点を獲れば、和久南も負けじと獲り返し。

 

24-25.

25-25.

 

 

極限状態での攻防は、互いに体力を通常の何倍もの速さでもっていってしまう。

1セット獲ってるからこのセットは~~と考えている者は烏野には1人も居なかった。そういう驕りが生むのが決定的な隙だと言う事を解っているかの様に。

和久南もまた、ただただ粘る事、相手コートに落とす事だけしか考えない。負けているのは自分達なのだ。それ以外は不純とし、ただ只管(ボール)を追いかけ続けた。

 

 

 

「…………」

 

 

 

影山は、考える。

烏養が言っていた様に東峰に上げるのも良い。勿論火神だってそうだ。終盤での相手の驚異的な粘りが、2人の攻撃を退ける結果になったとは言っても、これまでの決定率を考えればどれも悪くない、贅沢な選択だと言える。

 

だが、それが()正解かどうかは―――。

 

 

 

 

 

 

「くそ!! 連続得点(ブレイク)許すなよ!!」

「止めろっっ! 速攻来るぞ!!」

 

 

 

シーソーゲームから一転。

相手の絶好のチャンスが訪れた。

まるで、ネットは相手の味方なのか? と思いたくなる様に相手側のネットインサーブ。

だが、だからと言ってそのままサービスエースにする訳もなく、上手く返球は出来た。

 

 

ただ、結果として相手のチャンスボールとなってしまったのだ。

 

 

和久南側が半歩前に出るチャンスに沸き立ち、そのまま鳴子の速攻(クイック)で逆転! となるつもりだったが。

 

 

「ふんっっ!!」

 

 

守備力が高いのは、粘るのは和久南だけじゃない。

烏野だって同じ。更に言えば、現在の守備トップ③の一角でもある火神の守備範囲を舐めてはいけない。

 

 

「火神ぃぃぃ!! ナイスレシーブ!!」

「チャンスだ!! ゆっくり!!」

 

 

乱れる事もなく、正確に影山にAパス。

高さも有り、緩やかな回転。

 

 

 

「(―――完璧) ナイスレシーブ」

 

 

あの速攻を見事に拾い上げた惚れ惚れする程のレシーブに、常に貪欲でストイックに求め続けてる影山も大絶賛。

―――そうしつつも、負けない……と対抗心も僅かに頭に残しつつ、(ボール)に集中した。

 

使える手札(カード)は無数。

ただ、相手ブロッカーの視線は何処か、何処を意識しているか、どう見られているかを、背中越しに感じつつ―――決めた。

 

 

それは、ライト側でブロッカーたちにとってはノーマーク気味。

何せ今試合中スパイクらしいスパイクはしておらず、更に交代してきて直ぐに使うと言う事もまた、落とし穴の1つ。

 

 

 

「(日向が下がった。火神はレシーブで地に足がついてない状態。この展開なら、和久南(向こう)は東峰さんを一番意識する。―――東峰さんに上げるのは、【それがベスト】な時。だから、今は―――こっちだ!)」

 

 

 

影山が選び抜いたカード。

それはライト側に入り込んでいた澤村(・・)

 

 

白石も澤村へのトスには反応出来た……が、僅かに遅れた。ブロックは1枚、それもストレート側は完全フリー。レシーバーに捕らせる為に、コースを開けた~と言う訳でもない。

ブロックを置き去りに、翻弄し、道を切り開いたスパイカーの道だ。

 

 

 

「澤村さあぁぁん!!!!」

「大地ナイスキィィィ!!!」

 

「っしゃああああ!!」

「ナイスです! 澤村さん!」

「ナイスキー」

 

 

いきなり使われる、と言うのは少なからず驚くと言うモノ。

だが、それは外野の意見であり、烏野にとっては違う。

 

常に自分が打つ、自分こそが打つ。常に選択肢であれ、と意識し続けてきた攻撃意識高い系なのだ。

 

 

「鈍った身体も今の一発で解れたって感じだ!」

「っしゃ! 大地ナイス!」

 

 

澤村と東峰は拳を宛がった。

 

 

「くそっ!」

「切替だ! ドンマンドンマイ! 修正しつつ次獲り戻すぞ!」

「「おう!!」」

 

 

完全に振られて、殆どフリーになってしまった。意識していなかったわけではないが、一際目立つ日向が前衛から姿を消した事で、少なからず驕りが生まれたのかもしれない。

 

 

「(終盤のあの貴重なチャンス。決めたと思った時からのカウンター、絶好の機会で、敢えて試合戻ってきたばっかの主将(ライト)に回す。……肝据わってやがんな、あの1年セッター……)」

 

 

烏野には1人として油断していい、ノーマークで良い相手なんていないんだ、と言う事を再認識させる。

技術の高さよりも、精神面の高さに末恐ろしいモノを感じていた。

 

当然だ。

 

烏野高校が、トップ戦線に頭角を成してきたのは一体いつからだ?

そう、今年から。……凄い1年が入ってきてからだ。全員がバケモノなのだ、と頭に叩き込む。

そんな相手に粘りを見せる、見せられる自分達も十分渡り合っている、と言う鼓舞も忘れずに。

 

 

 

 

 

 

「ちっくしょーー、あの一瞬、オレ東峰に上げるって思った。悔しいような嬉しいような……」

「両方持ってて良いと思います。それに、常に選手が上にあがっていく。これ以上ない程好ましいかと」

「解ってるよ先生。だからって置いて行かれねぇ様に悔しがっとくわ」

 

 

影山の選択は完璧だった。

結果もついてきた。裏をかかれたのは烏養も同じだ。

だが、影山だから~~と終わらす烏養ではなく、自分自身の指導者としての向上も意識する為、敢えて悔しい気持ちをより大きく持つのだった。

 

 

再び烏野が半歩リード。

そして、それをまた和久南が獲り返す。

 

 

再び均衡するシーソーゲームが始まる。

 

 

獲られては獲り返しが続き……軈てローテーションシステムの嫌な(・・)部分。

烏野の強力なビッグサーバーのターンが回ってきた。

 

 

「旭さんナイッサーーー!!」

 

 

サービスエース数で烏野上位に位置する東峰のサーブ。

この1点で終わり。敗北。

緊張しない方がおかしい。

 

 

 

「うおおお! キョーレツなの行けぇぇぇーーっ!」

「ここで決めちまえ! 東峰っ!!」

 

 

声援を背に、いつも通りのイメージを思い浮かべ、全力で飛び、全力で打ち抜いた。

(ボール)が手に当たるこの感覚は全くを以て申し分なし。今試合で最高の感触だと言える―――が。

 

 

「アウトアウト!!」

 

 

ほんの僅か、(ボール)1個分だけエンドラインを越えた。

 

 

「くッッ!! ゴメンっ!!」

「ドンマイ!!」

「次1本とるぞ!!」

 

 

頭の中で修正する。

跳躍も悪くなかったし、力も乗った。

 

 

「(サーブトスが流れたか)」

 

 

僅かに前に行き過ぎていた為、打ち下ろしきる事が出来ずに、奥へと伸びてしまったのだ。

 

 

 

「うおーぃ、ここでミスんなよー。勝ち切るチャンスだったろ~?」

「思い切りいけるから、って限度ってもんがあるぞー!」

 

 

手に汗握る展開が故に、観客席側からも応援以外の野次が飛ぶ。

最もな事なのだが、自分で反省はするが、それを聞いている余裕はない。

 

 

 

「旭さん! 次1本スよ!!」

「ごめ―――おっうぐぅっ!??」

 

 

 

西谷から景気づけを貰った。

もう大丈夫だ、と自己完結。

 

 

 

そして続く和久南側のサーブ。

まわってくるのは1年の松島だ。

 

 

「ナイッサ―!」

「松島ナイッサ―!!」

 

 

この場面で、この大事な場面で緊張しないヤツなんていない。

それが1年なら猶更だ。

感覚が鈍ってきたのかもしれないが、相手の……烏野の1年が色々おかし過ぎるだけなのだ。

 

 

「(落ち着け、落ち着け……、点数は……いや、見ろ。ここで獲られたらまたマッチポイントだ。平常心。平常心。………入れる!!)ッッ!!?」

 

 

落ち着け、と念じる事が悪い事ではない。

だが、時としてそれが余計なストレスとなって感じてしまうのも普通だ。

この決めなければならない終盤のサーブに置いて、まるで魔に魅入られてしまったかの様に、身体が上手く動かない、動かせない事だってザラにある。

 

誰にだって起こりえる事。

それもまた、運だと言えるのかもしれない……。

 

 

「ヤバいっ……!??」

 

「アウトッ!!」

「ナイスジャッジ!!」

 

 

松島が魅入られたのは、魔の方。

女神に魅入られる事はなく、そのまま無情にも(ボール)はサイドラインを越えた。

 

 

「―――す、すみませ―――ッ!」

 

 

「かーーっ、こっちもか! しかも、向こうと違って安全サーブ(・・・・・)じゃねーか。そんなんでミスるなんて、情けな―――「ハイ! 切替!!」ッ!?」

 

 

ここぞとばかりに野次る。

それはどちらの肩を持つ、と言う訳ではなく双方に。

 

声援と言うモノは心強く力になってくれるが、それが悪意あるモノであれば、反作用していくのも間違いない。

 

それを阻む、守るのも仲間の仕事だ。

 

中島は、松島の頭をぐいっ、と抑えて言った。

 

 

「次獲れば何の問題もナシ!」

「ッ――――!」

 

 

その健気さに、その器に、思わず野次っていた観客たちも黙ってしまう。

誰もがミスなんてしたくないし、誰もがミスされたらいらだってしまうだろう。

それが当事者たちだったら猶更だ。

それをして、チームの為に身を粉にして戦っているのだ。

 

 

その姿を目の当たりにしても尚、野次を飛ばす者は、最早春高バレーを応援する大人ではない。

 

 

「おい松島! 次前衛に回ってきた時、まだ凹んでたらハーゲンダッツ奢らすからな!!」

「ッ―――、うす………!!」

 

 

 

全員が(ボール)を追いかけて守る。それは(ボール)だけでなく、仲間も同じだった。それに松島は救われ、そして成長する。あれだけ怖かったサーブをもう直ぐにでも打ちたい、見返したい、と思う程に。

 

 

 

 

 

 

 

「また、烏野のマッチか……、ここで10番も上がってきたし」

「和久南ピンチだな。やっぱ、あの10番がいるのといないのとでは、攻撃力も変わってくるだろうし」

 

 

長らくラリーを見てきたが、傍目からみて一番驚くのはやっぱり烏野の10番、日向の存在だろう。

攻守共に魅せる火神も相応に声援が飛ぶのだが、視覚的ギャップが凄まじい日向がやはり頭1つ抜きんでている、と言われても仕方がない。

あの身長でリベロではなくミドル、攻撃の要の1人なのだから猶更だ。

 

 

「日向落ち着けよーっ!」

「! アス!」

 

 

攻撃力アップした烏野のターン。

だが、ここで魅せるのは和久南側だ。

 

 

「月島ナイッサ―!!」

 

「ナイスレシーブ!」

 

 

月島のサーブを冷静に捌くと、そのまま中島へと上げて……狙った。

守備の要が抜けた大きな穴をねらって技ありのフェイント。

中島のブロックアウトばかり警戒していたせいか、日向も月島も追いつく事が出来ずに、そのまま落とされてしまった。

 

 

「っく~~~、今の夕が抜けた所狙ったな!?」

「ああ。どこまでも冷静なヤツだ………。凄いよ」

 

 

ミスをしても立て直す。どんな場面でも冷静についてくる。

このデュースの場面、負けている方が焦りやミスを生みやすいと言うのにも関わらずにだ。

 

 

「川渡さんナイッサ―!」

川渡(タビ)ここ1本!!」

「っしゃ!!」

 

 

川渡は、先ほどミスった松島にある意味感謝をしていた。

自分が最初にミスしたらどうしよう……と、小賢しい事を考えたりしてしまっていたからだ。

良い具合に力が抜けた。上手く頭も回ってる。周りもしっかり見える。

 

 

「おーい、川渡(タビ)~~。全力で打てるよな??」

「!」

 

 

その心情を読んでいたのか、或いは偶然なのか、中島は川渡に声をかけた。

それが更に力を乗せる結果になる。

僅かに残っていた固さをもう、完璧に無くしてくれた。

入るイメージしかない。

 

 

 

「ッ――――!!」

 

 

 

そして、何よりも……今日の和久南はネットに好かれている。

三度ネットインが烏野を襲ってくる……が。

 

 

「流石に、ナシっっ!!」

 

 

いち早く察知していた火神が素早く落下点に潜り込み、拾い上げた。

 

 

「火神ナイスレシーブ!!」

「んっ!? スマンっ! ちょい低い!」

「十分―――オーライ!」

「影山!!」

 

 

拾い上げた(ボール)だが、高さが低い。

助走距離を確保していては間に合わない……と踏んだ火神はそのままレフト側へと走り出した。

 

 

「飛雄―――ッッ!!」

「!!」

 

 

「(11番が、レフトに……ブロード!)」

 

 

通常、ブロード攻撃は右利きのプレイヤーならばライト方向へ走るのがセオリーだ。横に流れながら、斜め上に跳んで打つスパイクだから。

 

でも火神は右利き……、と一瞬でも迷ったのが完全に裏目に出た。

 

 

 

 

 

両利き(スイッチヒッター)!!」

 

 

 

 

 

バレーの用語でスイッチヒッターは聞かない。

咄嗟に利き手の反対側で触る事はあっても、基本的に打つスパイクの手をスイッチさせる事なんてしないからだ。

だが、火神は違う。当てはまらない。右と見せて左で打ってくる。それはブロッカー泣かせとも言って良いが、今回のはまた違う。あからさまに左で打とうとしてくるブロード攻撃だ。

 

 

流れる様に、淀みなく、それでいてブロッカーも完璧に置き去りで……左のスイングが相手コートに叩きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!? ここで左……!? (まさに、怪物)」

 

 

 

 

鬼首は思わず身体から力を抜いてしまった。

 

この終盤で、殆ど使ってこなかったであろう攻撃スタイルを突然使い出すその判断。

僅かにセッターへの返球の高さが低くなった為、味方の助走時間、攻撃時間も短くなった為、この手を選んだその度胸と自信。

 

そして、影山(セッター)も迷う事なくそれに応えた事。

 

結果、決まった事。

それら全ての光景に思わず目を奪われ……身体から力が抜けてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

29-30.

 

 

 

 

 

 

烏野VS和久南。

決着の刻。

 

 

 


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