王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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中々進まない様な気がしますが……点数的には第2セット中盤~終盤ですね(;^ω^)
いつの間にか。。

もう少しで終わりそうです……

これからも頑張ります!


第158話 和久谷南戦⑧

 

 

 

(ボール)を落とした方が負ける。

シンプルにして絶対の規則(ルール)

 

それに従い、着実に勝敗が分かたれて行く。

 

 

現在、勝敗がついていないのは烏野VS和久谷南 青葉城西VS伊達工業の4校。

 

 

決着の時は、着々と確実に近付いている。

 

 

 

 

 

「田中―――さんっ!!」

「っしゃあああ!!」

 

 

火神―田中のセットプレイ。

影山が初球を取らされ、セッター不在となったパターンで良く見る光景の1つ。偶然なのか必然なのか、田中がいる時に限って一番上げやすく、打ちやすいポジションにいるのだ。

 

 

 

「―――くそっ! 完璧だよ!」

「いや、完璧は嬉しいが、クソはヒドいな!? 飛雄!」

 

 

 

緩やかな山なりトス、2段トスと言う訳ではない平行トスを決めたのを目の当たりにし、影山は最大級に称賛を送りつつも、相変わらずの対抗心を見せる。今回、いつもと様子が違うのは、表情だけに留まっていた筈なのに、実際に口に出したと言う所だろうか。

人を殺しちゃいそうな凶悪な眼光を向けるだけでなく。

 

だが、その辺りもある意味では一番慣れており、更に世話も焼いている火神なので、ハイタッチを交わしつつ、わしゃわしゃと手を回し腕を回し、皆で円陣を組んで更に士気向上へと務めていた。

 

 

 

 

だが、和久南も負けてはいない。

 

 

「っしゃああ!! ワンチ!!」

 

 

日向・影山の変人速攻に対し、徐々に追いすがる様になりワンタッチを捕れる様になってきている。

そして、凶悪な攻撃手段の内の1つを捕らえたこの隙を決して見逃さない。

 

「猛!!」

 

ここ一番で集まるのは中島。

 

 

「ふっ――!!」

 

 

主将・中島が技ありの一発を魅せる。

高さでは叶わなくとも、精密な技で相手ブロックを利用し、ブロックアウトを捕るのだ。解っていても、難しいの一言。レシーバー陣も構えているが、それでも守備範囲の外へと飛ばされる。

 

 

「上手ぇな。やっぱ」

 

 

思わず称賛の声を上げるのはコートの外、烏養だ。

飛んできた(ボール)を拾い上げながら、中島のスキルの高さに舌を巻いた。

 

ただ、驚くと言った程の事ではない。

何処のチームにもスキルが突出して高い選手と言うのは往々にしているもの。

そして、それは烏野も例外ではない。

 

 

 

 

16-14

 

烏野リード。

 

 

 

このまま順当にいけば勝利をつかむ事は出来るが、常に背中を捕まれる位置に相手がいる事を忘れてはならない。

 

 

「縁下ぁ! 用意しておけ!」

「ッッ!! は、はい!!」

 

 

この場面で呼ばれる事に驚きを隠せない縁下―――ではなく、多少驚いては居るが、最初に烏養に言われていたバンバン使う、と言う言葉を聞いていたのもあってある程度は覚悟は出来ていた。

 

―――ただ、やっぱり表情はこわばる。

 

 

「おいおい縁下! お前、今地球を賭けて戦う!! みたいな険しい顔になってるぞ! 気合入りまくってるな!」

「っっ!! って、どんな顔だよ、それ!」

 

 

強張ってる表情を、逆に気合入ってる、ととられるのは新鮮だ。

茶化してきた木下に抗議の声を上げていた縁下だったが。

 

 

「なにぃ! 俺も戦うぜ縁下ぁ! 最前線!!」

「地球防衛軍!!」

「ぐえっっ!!」

 

 

こういうくだらないやり取りに真っ先に入ってきてお祭り騒ぎをして巻き込んでくる田中・西谷の存在が、なかなかに厄介。有耶無耶にされてしまって時間も無くなってきている。

 

 

「自信を持って行けよ。お前ら。まぁ、ある程度は仕方ねぇ、と割り切るのも大切だ。さっきみたいに吹っ飛ばされたら、とかな。―――が、そんな中でも食らいつける場面は手を抜くなよ」

【アス!!】

 

 

縁下は、代わりに入る事になる澤村に少しでも近づく、少しでも力になれる様に、それだけを考えて烏養の話を聞き―――軈て烏養の話が終わった後。

 

 

「やっぱ、俺も交代するのって正直言えば悔しいよ。日向とか見ててある程度は大丈夫とか思ってたんだけど」

「!」

 

 

そんな時、澤村が声をかける。

 

 

「でも、今はそれ以上に誇らしい。烏野(俺たち)は全員が強いんだぞ、って。だから縁下。もっともっと自信をもっていけよ。俺たちがやってきた事は間違ってない。お前はお前の全力で行くんだ」

「っ―――!! は、はい!」

 

 

縁下が意気込み過ぎて、少々力が入っているのに気付いたのだろう。

全体を見てきた澤村だからこその配慮だ。

ただ、勿論……。

 

 

「あ、でも気ぃ抜く様なら直ぐ交代! ってなるからな? 俺だって虎視眈々だ」

「――――う、ウス」

 

 

チームとしての向上は当然喜ばしいが、それでも外されるのは悔しい。

先ほど日向の名を出した様に、あまりにも試合に出れてない時の日向、いや名こそ出してないが、影山もそう、火神だってそう。

試合出たい、と言う本来なら当たり前にある欲を全面に出してる連中を見てきて、勝手に大人ぶって余裕を見せていたのかもしれないが、澤村も悔しい

 

 

「漸く俺の気持ち解ったかよ? 大地」

「解ってない訳ないだろ? つーか、スガの分までやってやる気概Maxだったんだべ?」

 

 

そこに菅原が混ざる。

確かに実力で劣っているが、烏野の一員だ。違う強さのカードとして、いつでも出れる様に、そしてチームの為を第一に考え、力を蓄えている。

 

 

 

「コォチッ!!」

「あんっ!?」

 

 

突如、日向から奇声が飛ぶ。

同じ様なテンションだったようで、烏養もいつもなら受け答えに困る様なリアクションをとるのだが、今回は日向に倣って受けていた。……生憎、内容まではまだ解らないが。

 

 

「誠也が言ってました!」

「へ? 俺??」

 

 

烏養に何か聞きたい、言いたい事があるんだろう、と思いきや火神の名が出てきて一体何事か? と、影山と話をしていた火神も耳を傾ける。

 

 

「あの和久南の1番の人、小さな巨人に似てる、って! ボソッと言ってました!」

「ほぉ……、火神。何でそれ感じた?」

 

 

何故火神の名を出したのか、その疑問は解決。

ここで、烏養にも疑問が生まれた。小さな巨人の事をこの場で一番よく知ってる者……と言えば間違いなくあの時代のバレー部の事もそれなりに見てきた烏養だろう。関わりこそ、祖父の孫以上には無かったが、それでも試合は見ているし、仕事がない日はそれとなく見に行った事もある。

目と鼻の先が烏野高校だから、その機会は幾分かあったからだ。………祖父には見つからないようにした、と言うのは当然の話だが。

 

 

「えっと、春高のVTR何度か見てましたんで、それで何となく……。と言うか、翔陽とも一緒に見てたんですけどね」

「なるほどなぁ……。まぁ日向の場合 スゲースゲー位にしか見てなかった可能性も否めない、か。こーいう観察眼ってのも磨くと今後の成長に繋がってくぞ、日向。覚えとけよ?」

「あ、うすっ! ……って言っても小学生の時なのに、誠也が異常………」

「人の事異常とか言うな!」

「いたっ!」

 

 

失礼な事言ってきたので、日向には手刀(チョップ)をプレゼントする火神。

だが、ある程度は仕方ないな、ごめん、とも思ったりもする。

 

確かにあの時は小学校6年生……12歳のころだ。

 

でも、前世の記憶があり、精神年齢的には高校生くらいは有ったし、何より目の前の次期小さな巨人に会えた事の衝撃度合いが半端ではなかったので、鮮明に覚えている。

脳裏どころか、魂にも刻まれて、あの時の衝撃は二度とは忘れる事はないだろう、と確信出来るから。

 

異常と言われて一応否定はしたが、言われても仕方ないな……と苦笑いをするのだった。

 

 

「んで、日向はアイツ(・・・)に憧れてるっつってたな。――――俺も火神と同じ意見だ。今の県内で、背丈も含めたらプレイスタイルは一番近いのがあの中島だ」

「!!」

 

 

烏養のお墨付き。

元々、火神の事は最大級に信じているし信頼しているし、無くてはならない!! とまで思いかねない日向。

疑って等いないが、それでももう十分過ぎる。

 

 

「かんさつがん、かんさつがん……」

 

 

成長の為にじいぃぃぃ……と中島を食い入るように見つめる。

こういう場面では、相手にも第六感的に伝わって寒気がする……見たいなのがベタだったりするが、生憎そういう事は無さそうだ。

和久南側も相当に集中力を高めているのだから、そんな隙は一切なし、と言った方が正しいかもしれないが。

 

 

「おい。張り合おうとすんなよ。空中戦のテクニックは向こうが数段上だ。お前はいつも通り以外余計な事すんな、考えんな」

「!!」

 

 

今後の為に、目に焼き付け成長し……と頑張って見ていた矢先に更なる高い位置? からドカンッ! と叩き落とされた感覚に見舞われるのは日向である。

無論、高い位置……物理的にも技術的にも高い位置に居るのは影山だ。

 

「…やっぱ、飛雄はもうちょっとオブラートって言うのを覚えるべきだと思うんだけどなぁ……。つったって無理だろうけど。あ、でも翔陽相手には必要なかったりするかな?」

「必要ですーーーー!!」

 

そして、苦笑いするのは火神。

そしてそして、日向は猛抗議。

 

ワンタッチ差で影山の方が早かった。余計な考えは今を全力でやるだけの日向にはまだまだ早い。考える事が悪いとは決して言えないが、小さな巨人の事を考えた上での中島に対する対抗心は、正直要らない、と言うのは正しいだろう。

そして、影山の言い方では日向は反発する。それこそいつもの通り。

 

 

「コラぁぁ! 誠也のいうとーりだ! びぶらーと(・・・・・)ってヤツを覚えろよ!」

オブラート(・・・・・)な。まず翔陽が覚えれてないって」

「(びぶらーと? おぶらーと??)」

 

 

声を揺らしてどうするんだ、と日向にツッコミ。

影山はどちらも意味不明と言った様子。……まぁ当然だろう。

 

いつもいつも微妙に間違える日向に火神は苦言を呈し、影山は影山でどうでもいい部分で考え込む。いつも通りだ。日向が知ってるのに自分は知らない―――と言う事が少なからず引っかかる。

 

 

「ともかくだ! なんだってどうしてお前はそーやって、人の心を折ろうとするんですか!?」

「あ!? 親切なアドバイスだろうがっ! びぶだか、おぶだか知らんが、親切以外のなにものでもない!」

「親切とはいったい何っ!?」

「…………」

 

 

笑うしかない、と口元に手を当てて笑いを堪える火神。

 

 

「あー……、まぁ、そっち方面の矯正はオレにゃ、荷が重い。頼むわな」

「頼まれても、期待はしないでくださいね。世の中には不可能って事は沢山あるので」

 

 

口元に手を当てて、笑いを堪える姿を見て、苦悩しているんだなぁ、と烏養に勘違いされちゃった様子。でもバレーの事ならいざ知らず、この手の問題はコーチの範疇外なので。

 

 

 

「向こうが上手いなんてわかってんじゃん! だから、どーやって対抗しようか、ってどうしようか、ってハナシをしてんだろぉ!?」

「いやいや~、翔陽の頭ん中丸見えじゃん。建前建前。小さな巨人関係で頭ん中いっぱい」

「うげっ!?」

「てめーの顔見てりゃ嫌でも解るわ」

 

 

それっぽい事で言い繕おうとする日向の頭をガシガシっ、と乱暴に撫でまわした。

余計な考えを消去する様に。

影山は影山で、それなりに日向との付き合いやその性質、セッターとして選手の状態を知れ、と教えられたと言うのも合わさり、よくわかってきているから説得力はある。

 

 

「技術面は、相手の方が当然上。何せ3年生だし一日の長ってヤツだよ。加えて主将だし、リーダシップでも上。現時点でいろんな面で翔陽が劣ってるのは仕方ないよ」

「ぅぅ………」

 

 

図星をつかれて、何も言えない。

あまりにも正論過ぎるから。ぐうの音も出ないとはこのこと。

 

でも、その日向と同じ道を辿ってきているのに、なんで火神はそこまで出来る? と言う疑問点が生まれるのも―――恒例だ。当然、今更なので口には出さないが。

 

 

ただただ、とてつもなく頼りになる存在である、安心できる存在だと言う事だけを感じて、信じて前を向き、全力でいれば良し、だ。

 

 

そして、タイムの終了の笛の音が鳴る。

試合再開の合図だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その音に、そして何より烏野に注目する。

それは王者白鳥沢・牛島若利。

 

あからさまに反応する訳ではなく、チームメイトたちも彼の微妙な変化に気付ける者はいない。ほんの一瞬だけ、視線を向ける。それが数回ある程度だ。

 

 

「牛島さん。決勝まで来るのはどこでしょうね?」

 

 

凡その予想はついている。

IH予選の事を鑑みれば、一番自分たちを追い詰めたのは青葉城西。本当にぎりぎりだった。締めてかかる、所の話じゃない。

何せ、監督からの叱咤激励が………勝利した事こそ激励を少々。でもその後が非常にヤバい練習メニューとなってしまった。

 

勝利はした。次も必ず勝つ。

 

 

「……どこが来ようとオレたちがする事は変わらない」

「……はい。ですね」

 

 

牛島自身が言う事も、変わらない。

だが、唯一1つだけいつもと考える事が違う事がある。

確かに、過去の戦績を見れば青葉城西が突破して決勝を争う展開の公算が高いかもしれないが……、それでも 何を一番望むのか……。

 

 

 

「―――誰が来ても、変わらん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイム後、烏野は再びメンバーを変えてきた。

 

田中が縁下と替わり、澤村はベンチ。消耗する終盤において誰を使っても強いのは脅威の一言。

 

 

「(試合は劣勢。第1セットは取られたし、今1点ビハインド。……主将として、失格かもしれないな。こんな事先に考えるなんて)」

 

 

なのに、そんな状態なのに中島は、別の事を考えてしまっている。

 

1点捕り返したが、連続得点(ブレイク)の難しさは嫌と言う程感じている。極めて遠くに見えるから。

そんな中でも、思わず自虐してしまうのは今考えている事が悪い、と自覚しているから。

 

 

烏野のキーマン。

 

 

IH予選で青葉城西には敗北したが、間違いなくその大きな原因の1つ。

火神誠也と言う選手が入る烏野と抜けた状態の烏野とではやはり違う。

烏野は、火神自身も含めて絶対にそれを認めようとしないだろうが、客観的に見れば残酷かもしれないが事実は事実。

 

だからこそ――中島が考えるのは火神の事………ではなかった。

 

 

「(彼が凄いのは解った。実際にネット挟んでみてよく解った。……でも)」

 

 

考えるのは、烏野の中でも異色の存在が1人。

 

 

「(……170にも満たない身長……、恵まれてない体躯。……なのにも関わらず、決して彼に勝るとも劣らない)」

 

 

烏野の中の強者たちの中、1年の中では劣っているのかもしれない。

それでも彼の(・・)事も認めている。格下だと思わない。

 

 

「(お前も確かに凄い。……試合も負けてる。でも、負けない。小さな巨人(・・・・・)を超えるのは、このオレだ)」

 

 

劣勢なのに、間違ってると分かっていても、試合内容以上に注目してしまう。

 

 

小さな巨人―――日向翔陽の事を。

 

 

憧れ、追いかけ続けてきた小さな巨人。

それは日向だけじゃない。中島自身もそうだから。

 

同じ舞台に立とうとしている存在を、同じ匂いを感じる相手を無視する事は出来ないのだ。

だが、当然主将としてチームを鼓舞し、全体を見る役割を捨てたと言う訳ではない。

 

 

川渡(タビ)! ナイッサー!!」

「っしゃっ!!」

 

 

 

ほんの少しだけ、日向に気を向けてしまうだけだ。

だから、直ぐに思考を考え直し、ブレイクする事だけを考える様に心がける。

 

川渡のサーブから始まり、そのサーブはネットにかかって―――――烏野側に落ちる。

 

 

「入ってる!!」

「前だ前ッ!! 影山だ!!」

 

 

ネットインサーブ。それもネットの真下に落ちる。

身構えすぎていたら逆に取れない、威力はなくとも凶悪なサーブと言える代物だ。狙って出来る様なサーブじゃないから、意図せずやってくるのも性質が悪い。

 

 

「にゃろっっ!!」

 

 

影山自身が一番近かった事、元々の反応速度が速い事も合わさり、何とか影山が追いついた。

追いついた、と言っても(ボール)に触る事が精いっぱい。

 

ワンハンドでどうにか触った後。

 

 

「ふんっっ!!」

 

 

火神がどうにか飛び込んで、アンダーレシーブで(ボール)を拾い高く上げた。

高い(ボール)があれば、繋ぎ易さに差が出る。高い方が当然良い。そして 上がった場所が良ければ、崩された状態であっても、相手にチャンスボールで返すのではなく、強打(スパイク)で返す事が出来る。

 

 

「翔陽! 頼む!」

「日向! ラストだ!!」

「オオオッ!!」

 

 

3回目、最後の返球は日向。

火神が拾い上げた(ボール)はスパイクを打つには十分すぎる高さ、そして位置だった。

助走から跳躍までの時間も十分。

 

ただ、相手も3枚揃っている。

 

 

「ブロック3枚だ!」

「いけっ! 日向!!」

 

 

大きな大きな壁が目の前にある。

このシチュエーションでは当然躱す事は出来ない。コースの打ち分けは出来る様になっているが、3枚ブロックではそれも無理だ。全ての場所が高い壁で塞がれている。

 

 

「(誠也なら、向こうの1番なら、小さな巨人なら……!!)」

 

 

こう言う時、どう打つか。

決まっている。

 

 

相手の壁を利用する。

 

 

勢い良く、空に向かって!

合宿の時も、リエーフの手の先をそれで成功した。

そのイメージは頭の中に出来ている。

 

相手の高い高い壁の天辺を狙って――――。

 

 

どひゅんっ!!

と打ち上げた。

 

 

結果は――――

 

 

 

 

「「「!!!」」」

「おーー」

 

「特大ホームランっ!」

 

 

 

 

ブロックには掠る事さえなく、そのまま天へと(ボール)は飛ばされて……体育館の壁に当たる。当然アウト。和久谷南の点。

 

16-16

 

和久谷南側の連続得点(ブレイク)

とうとう前を飛ぶ烏の背を掴んだ。

 

 

「(今、絶対日向(アイツ)余計な事考え過ぎてただろうな……。狙いは悪くないしブロックを利用する攻撃が成功した試しもある。……でもなぁ。現段階での個人技は完全に中島に軍配だ。……今後の課題だな)」

 

 

烏養もそう評する。

結果は正直解りきっていた事ではあるが……、上を目指そうとする姿勢は好ましいのは違いない。

 

 

「うぐぬ~~~!!」

「………」

 

 

でも、余計に気負い過ぎだ。

 

 

「コラっ。翔陽集中集中」

「ふげっ!」

 

 

中島に威嚇する様ににらむ日向をゲンコツ。

今のは100%日向のミスで、対抗心向けてる場合じゃない。同点になってしまったのだから猶更。

 

 

「っしゃ、川渡(タビ)! もいっちょ! こっから逆転するぞ!!」

「おおお――!!」

 

 

再び川渡のサーブ。

だが、今回向かった先はリベロの西谷。

げっ!! といった顔つきに、川渡がなったのは言うまでもない。

 

 

「ライっ!」

「西谷ナイスレシーブ!!」

 

正確にセッター位置に返球。最高の形で攻撃に入る。

 

 

「っしゃあー!!」

「飛雄!!」

「――――!」

 

 

日向・火神と言う極めて厄介で面倒で、最悪な囮コンビ。

どっちを選んでも凶悪な攻撃となる。セッターとしては贅沢極まりない選択肢。

 

影山が使うのはその2人―――のどれでもない。

 

 

「東峰―――さん!!」

 

 

ここで東峰(バックアタック)

前に集中しているからこその選択。強烈な後方からの大砲だ。

 

 

「後ろ!」

「バックアタックだ!!」

 

 

どごんっ!! とブロック0枚で打ち抜く。

これは決まった! と思える手応えではあった……が。

 

 

 

「ふんっっっっがッッ!!」

 

 

 

ここでスーパーレシーブを魅せるのは相手リベロ秋保。

殆ど偶然に近い。東峰のスパイクは(ボール)が来てから目で追うには遅すぎる。

コースも絞れないノーブロック状態では猶更。

山勘、当たりをつけて跳び込んだのだ。それが見事に嵌った。

 

 

「クソッ――(会心の出来だったのに、拾われた!?)」

 

「よく拾ったァぁぁぁ!!! 最高だ!!」

 

 

 

それは会場がどよめく程のスーパーレシーブだった。

相手が間違いなく勢い付く代物で、ここで取られたら間違いなく嫌な風が吹く。

 

 

「わーーー! とられたぁぁ!」

「くそっ!! 逆転を許すな! これはヤバい! 流れまで持っていかれるプレイ(ヤツ)だ!」

 

 

嶋田や冴子の声が大声援に混ざって響く。

そして、危惧する通りに相手の攻撃が始まる。

 

 

このどうしても取りたい場面で、どうしても決め切りたい場面で使うのは当然。

 

 

「1番だ!!」

「来るぞ!!」

 

 

決定率・得点数、全てにおいて和久南でNO.1である中島。

 

 

「翔陽!」

「おう!! 止める!!」

 

 

2枚ブロック、火神と日向の2人で中島を迎え撃つ。

一瞬にも満たない空中に居る時間の中で、正確に情報を読み込み、狙いを定めて―――穿つ。

狙うは日向。日向の掌。

 

ばちっ!! とサイドラインを大きく越える軌道で(ボール)が弾き飛ばされた。

 

 

誰もがまたやられた! と思うだろう。ブロックアウトを取る技巧派スパイカーの一撃。もうこの試合だけでも何度も見てきたから。

 

だから、これで和久南の逆転だ! と誰もが思った事だろう。

但し―――日向は別。

 

着地した瞬間、その落下の勢いをも利用したかの様なロケットスタートを見せる。

 

 

「なっ―――!!(速ッ!?)」

 

 

決して諦めず、(ボール)が落ちるその最後まであきらめず飛び込む。

 

 

 

「あぶな――――!!」

 

 

 

ベンチサイド、烏養や武田が居る所に飛び込む日向。

 

一瞬嫌な予見があった。

その光景が、連想させるのは火神が怪我をした時の事。変な踏み方をして、足を挫いた。

 

その光景がこのコンマレベルの世界で脳裏に過ぎった烏養。

素早く当たらない様に側のパイプ椅子を拾い上げ、障害物をどうにか退かせる。

武田は武田で、烏養の様に感じていたのだろう、思わず後方へと飛びのいた。そのまま後ろにステーーーン、とひっくり返る。

 

日向はそのまま(ボール)を拾い上げ―――見事なフライングレシーブを見せた。

いつもいつも顔面着地をしていたのに、顎を擦って大ダメージを受けていた筈なのに、胸でしっかりと着地しつつ身体を滑らせ、衝撃を最小限に抑えて……直ぐにコートへと戻っていった。

 

 

 

凄い―――。

 

 

 

そう思うのは、日向の夥しい顔面フライングを見続けてきた者の感性だろう。

これが成長だ、と言うのをまざまざと見せられる。

大した事じゃないのかもしれない。やった事こそそんな賞賛されるような事でもなければ、難易度が高いモノでもない。(ペナルティ)でやらされるような事だから。

 

でも、出来なかった事をこの場面で、落としてはいけない場面で成功させた日向には凄い以外の言葉が浮かばなかった。

 

 

 

「((ボール)―――、オレのが近い)」

 

 

瞬時に影山と火神はアイコンタクト。

影山の位置が、(ボール)の落下地点より後方過ぎた事、高さが足りず走りこんで潜り込むにはリスクが高かった事、そして何より火神の方が圧倒的に近かった事。

それに練習の時、日向に教える(と言う名の見せつ罵倒?)為に火神が影山にトスを上げる事もあった。

 

瞬時に、火神は影山に向かって指を差し示した。

その意図に応じて影山は助走距離をとり、入り込む。

 

 

【セッターが打つ!?】

 

 

そう思った事だろう。

火神がセッター代わりになってる場面は数度見ている。影山が打つのは今日見せてないが、それでも影山の能力(スペック)なら打ってきても不思議じゃない。

 

だから、ここで注目を集め始めたのはあの日向ではなく、一瞬影山へと移行した。

それを間違いなく感じられた。

 

 

「翔陽! 来い!」

「カウンターだぁぁぁ!!」

 

 

 

それをまるで嘲笑うかの様に。

カウンターと声を出している烏養さえだまし、火神が上げる相手は影山ではなく日向だ。

 

日向に(ボール)を上げるのはこの試合初めて。

影山に上げたとしても同じく初見だからどちらに上げたとしても相手を大いに揺さぶる結果になっただろうが、それでいて影山へ上げる仕草、目線を使ったフェイントから日向に上げる動作は圧巻。

生粋のセッターでは? と思わせる程。

 

そして、これは和久南は知る由もない事だが、火神が一番日向に(ボール)を上げている。

烏野正セッターである影山よりも圧倒的に多い。

小・中学と何度も何度も上げている。

 

信頼度で言えば間違いなく、文句なしのトップクラス。

 

 

「オアアアア!!!」

 

 

勢いのままに、火神の上げた(ボール)を日向は打ち抜く。

相手のブロックは、影山の方に向いていたので、完全にノーブロックで振られた形。

 

先ほどの東峰の様にこれも捕る―――なんて事は流石に出来ず、そのままコートを打ち抜いた。

 

 

「――――おあああっしゃああああ!!」

「……うっしっ!!」

 

 

見事、決め切った日向、そして火神は盛大に声を上げる。

 

 

 

「マジか!! 自分で拾って自分で速攻打ちにいったよ!」

「いや、それより今の絶対9番が、あのセッターが打つって感じだったよ! メッチャ騙された!!」

「最早なんでもありか!!? あの11番!」

 

 

自分たちが試合をしている気持ちで見ていた面々をも、見事に欺かれてしまったセットの様で思わず大声援を上げた。

スーパーレシーブの時にも勝るとも劣らない声量で。

 

 

「ふぎゃーーー!」

「ぐえっっ!」

 

 

でも、決め切った事に安心してしまったせいか、気を緩めてしまっていて勢いついた日向の空中突進を食らってバランスを崩す。

 

 

「おあああ!!! だ、大丈夫か2人とも!!?」

 

 

目の前で起こる空中衝突を見て、顔を青ざめるのは東峰。

日向にぶつかられる事が比較的多かった火神が倒れてしまったので猶更だ。

 

 

「い、勢いつけ過ぎた……!」

「下手に遠慮してたら打てなかったし、合わせれなかったから正解だよ、翔陽」

 

 

でもサラッと立ち上がって先に日向を引っ張り起こしてるので、やっぱり安心。

 

 

「大丈夫そうって見えるけど、やっぱ気を付けてね?? 特に火神! 心配するから!!」

「やっぱ祖母か!? アサヒさん!」

 

 

ぶつかって倒れて引っ張り上げられる日向よりも火神の方を心配するのはホント仕方ない。この試合、澤村とも接触があったし、何より前のケガの事だってあるから。

 

 

「こんな軽いヤツとぶつかった所で、何も無いだろ、お前なら」

「まぁ、ぶつかられるのは慣れてるケドね。昔から。(何なら日向兄妹からは……)」

「!! なんだと!!」

 

 

ばばばばっ! と火神を押しのけて日向と影山がやり合ってる。

影山は影山でそれに応戦している。

当然間に火神が入る。

 

 

「やっぱ、スゲぇよ。火神ナイス! 日向もナイスキー」

「! 追い詰められても、そこをブチ抜く火力があるのが烏野(ウチ)の武器って、縁下さんには教わりましたから」

「!」

 

 

火神は全員を見る。

 

 

 

烏野(ウチ)は全員が大火力。セッターの影山が入ってくれたおかげもあって相手を更に翻弄出来て、火力は確実にアップしました。もう、最強(・・)だ! って言っちゃいたいです」

 

 

 

 

 

最強―――。

 

そのワードを聞いて、思わず身が震えた者が数名居たのは言うまでもない事だった。

 

 

 

 

 

 

 


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