今回も、とても大変でした……。もっとペース上げたいです……。
ふぉぉぉぉぉぉ!どこもかしこも人手不足!! …………( ̄ロ ̄lll)
でも、何とか、頑張ります!
この試合の応援に偏りはない。
無論、それぞれのチーム応援団やベンチ入りを出来ず、虎視眈々とコートの中に降りる事を狙っている選手たちは、当然自分達のチームを鼓舞する為に声を張り上げるだろう。
偏りがないように感じるのはこの試合を見ている観客たち、より大きな声援を送ってくれている観客たちにある。
良い試合、凄い試合には等しく歓声を上げる。
サーブ、ブロック、スパイク、レシーブ。
人は鍛え上げれば、バレーボールと言うあの
ここで、この場面で特に魅せてくれるのは、特に意識を向けるのは、決して背丈があるとは言えない両チームの
点を獲り獲られを続けるシーソーゲーム中で、特に烏野側。試合最初に目立ちに目立っていた影山や火神を超えて、今頭角を現すかの如く、目立ってきたのは、試合の中心とさえ思える程出てきたのは、
「うおっっ! やり返した!! 烏野の10番!」
「また中島だ!! 上手ぇ!!」
目立ち始めている両チームの次世代小さな巨人たちだが、実の所、個人の点数的にはそこまで変わってない。
和久南側も、周囲のフォロー然り、主力と呼べる剛の者も揃っている為、中島一強と言う訳ではなく、更に言えば烏野の日向に対しても言える。
影山のセットプレイ。日向ばかりの偏りを見せて止められてしまうと言う愚行を冒す訳もなく、常に相手の裏を狙っているから、日向ばかりが点を決め、活躍の場を見せている! なんて単純な話じゃない。
だが、それでも目を惹くのはこの両名だ。
その身体を空高くへと飛びあがらせ、叩きこむ姿は人を驚かせる。
例え、囮だったとしてもその存在感十二分に魅せつけてくる。
「(――――もっと、もっともっと、もっとだ……!)」
点差を重ねるごとに、精度を集中力を上げていく日向。
目の前の
追いつきたい、追い抜きたい、と言う日向の想いが原動力となっている所もある。
余計に気負い過ぎて、周りが見えなくなったり、テンパってしまう場面も時には見受けれるが、そこはしっかりとその前を走る男が軌道修正しているからこそ、基本日向は猪突猛進で行けるのだ。
―――本人はもう、ある意味ではその壁に迫ってる、手が届く場面まで来ているのに気付けていない様だが。
「(言う必要は、全くないかな。……少なくとも
その言葉は時にはより大きな力となる事もあるが、その逆、余計な雑念にもなりかねない。
余りにも行き過ぎる様ならブレーキと言う意味でそれを告げるのも悪くはないが、今の所、何もせずとも良い具合に事が進んでいる。
日向も集中し、周りも集中し、そして自分も集中できている。
思考回路もなかなかどうして、な状態である。
無論、小学から始まり、今に至るまで色々と世話を妬いたからある意味仕方ないとも言えるのだが。
カウント
15―14
まだ烏野リード。
声を出し、食い入るように見つめ、そして声を出し続けた谷地を後目に、嶋田は苦笑いをする。
「出足こそ絶好調って感じだったのに、イメージ通りの差がついてくれてねぇな。しっかり見極めて、自分達のペースは乱さず、それでいて虎視眈々、今にも喰らいつく、って感じだ」
「サーブで乱しても、サービスエースはなくなった、って感じですね……」
「ああ。今んトコ、ビッグサーバーである影山と火神が1本ずつ。……でも、どっちも精度・威力共に上げていってる様に傍からは見える。それでも、最初みたいに安易に渡せないって言うのは、プライドも勿論あるだろうけど、それ以上に修正力が半端じゃない、って感じだ。要所要所できっちり抑えてフォローに回ってる」
烏養が和久南を音駒や青葉城西と同種と称していたが、嶋田も似たような印象を受けつつある。そして、あの中島の攻撃力も並みじゃない。
「このままシーソーゲーム続けりゃ、点差ついてるから同点にならない限り勝ちになると言えばなるんだが………、気ぃ抜くなよ―――!」
「……う、うっすっっ!!」
谷地が隣で気合一声。
それを聞いて、嶋田は再び苦笑い。
まさに選手とマネージャー一心同体! と言った感じだろう。
谷地の場合はかなり天然が入ってるのは知ってるが、今回良い風に嶋田は受け入れたのだった。
「あの中島君のスパイクは、ブロックに阻まれる時は高確率で、外へと弾き出しています。……それは、つまりとてもよく
中島の得点が重なるにつれて、武田の顔も険しくなる。
そして、この自分の考えには結構な自信もある。烏養に問いかける形で、より確信を持ちたい。選手たちだけでなく、自分自身の成長にもつながるから。
「う~ん……、そうだな。中島がどのくらい見えてるのかはわかんねぇけど」
今日初めて見た相手だ。
一見するだけで、全て解った気になれる訳がない。
それに、身内贔屓ではあるが今現在であっても火神や影山、日向の底らしい底が見えなかったりするのだから当然だ。
だが、どちらかと言えば
「先生も日向や火神、ブロックアウトしてる連中を見てきてると思うが、どっちかってーと、中島は
「おお! 火神君もブロックアウトを狙ってましたね。成程……」
ブロックアウトの技術は、武田も間近で見てきている。主に使うのは火神だったり、最近で言えば日向も成功率はまだまだだが、上手く狙える様に意表をつける様になってきている。
それらを踏まえて、烏養は自分の考えを説明。
「日向は、細かい場所を狙って打つ、って感じだが、少々違う。勿論、狙える部分は狙って打ってるんだとは思うが、それよりも特に《角度》の方にウエイトを占めてる、って感じだな。因みに火神は角度もそうだが、回転を意識させてるっぽい」
「角度? 回転、はイメージ出来るのですが……」
日向の掌の先端を狙って打つやり方。
殆ど天井に向かって打つ程あからさまな狙いだったりもするが、それは実に理にかなっている。
一度でも手に触れた状態で
指先まで力を籠める、と言うのは恐らくブロッカーの誰もが意識している事ではあるだろうが、高速で打つスパイクを、指の爪先で止められる訳がない。
だから解る。……でも、烏養の言う角度にはいまいちピンと来ていないのだ。
回転は解る。強い回転をかければ、当たって弾かれてしまうのはイメージつけやすいから。
「ああ、スパイクを
「お、おお………」
「そりゃ、景気よく気持ちよく、おまけに高威力で相手に一撃入れるには、リベロを含めたレシーバーに捕らせず決める為には、より鋭角で、より強く打つ事に越した事はないが、基本的に
決して恵まれているとは言えない上背。それでも尚、バレーボールと言う空中で戦う競技に、大きな連中に勝つために。
まさに小さな巨人のソレだ。
烏野が初めて春高の地へと足を踏み入れた、春高の地で空高く舞ったあの代。
長らく、烏野高校の傍で店を営んできていた烏養が、前監督の孫である烏養が、それを知らない訳がない。
日向程執着がある訳では当然ないが、それでも声を枯らす程応援をしたものだ。
町内会チームの皆と共に。――――何より、《ゴミ捨て場の決戦》の悲願が叶うかもしれない、と言う想いも当然あった。
残念ながら、叶う事は無かったが……、でも今はかなりの好感触を実感している。
勿論、そんな
「…………………」
中島のスパイク。
何度も何度も打たれ、点を決められ、その度に渋い顔をするのは当然ながら月島だ。
烏養と同等―――と言って良い程、月島はその小さな巨人の事を知っている。実際に間近で見た事がある、と言う事を考慮すれば、ある意味日向よりも知っていると言える。
中島の姿が、小さな巨人とダブって見えるのだ。
だからこそ、顔を顰めたりするのは仕方ない。
「月島、顔に出てるよ」
「!!」
でも、あからさまに見せつける表情じゃないその顔。
珍しく周囲に、縁下に完全にバレてしまった。
ある意味チームでも随一に目ざとい縁下ならバレてしまっても仕方がないと言えるが。
縁下だったからこそ、月島にとっては良かったかもしれない。
少なからず素直になれる頼りになる先輩の1人だから。
「……まぁ、ブロッカーからしたら普通に嫌ですよね。あんなスパイカー。……
「それ、どっかの誰か? って言い直す必要ある? そんなの1人しかいないじゃん」
どっかの誰かさん。
縁下も月島に、その詳細を聞くまでもない。
自然と自分自身も笑ってしまう。
中島とマッチしていて、何度も何度も相対していて、地でも空でも歯を見せながらプレイしている姿を見れば……聞くまでもない。
「(
そして、それは中島自身も感じていた事だ。
当然感じている。何せあまりにも異質だから。
ブロックとは壁だ。壁とは隔たるもの。決して通さない、と言う強い意思表示。
強豪校と幾度も交えてきたが、何度も何度も威圧された。ブロックが強い所は例外なしに強い。
【決して通さない】
その圧がとんでもない。
止まって見えるのか? 先回りしてくるのか? 覆いかぶさってくるのか?
様々な意図を感じてきた。
その中でも一貫して言えるのが、先ほどにもある通り【決して通さない】と言う圧。
でも、目の前の男―――火神は何処か違う。
勿論、通さないと言う圧は感じるのだが、それ以上に感じるのは以下の通り。
【こっちに来い!】
【俺に打て!】
【さぁ、勝負しよう!】
極めて稀。
稀有なもの。
初対面で、初対戦で、まるで長らく共に切磋琢磨し合った
だが、そこに、そんな存在に、気取られ過ぎていると―――。
「日向!!」
―――小さな烏を見落とすのだ。
結果、烏野では特に日向が目立って見える様になってくる。
西谷のレシーブが完璧に影山の元へと返り、ど真ん中を突っ切る日向。
強烈な圧と言えば、この小さな男も当然同じだ。
「(くそっ―――! わかってても早ぇぇ!)」
松島は警戒していた、ド真ん中を突っ込んでくる日向を警戒していた。
それでも尚、解っていてもあまりに早い。
一瞬でデカくなる様に感じ、少しでも気を抜けば、自分より遥かに小さなこの男にあっと言う間に上を取られる。自分よりも20㎝も低い男に。
「んがッッ!!!」
だが、だからと言って自分の上、ブロックの上から打たれる訳にはいかない、と手を懸命に伸ばす。
烏野が中島に何度も打たれた様に、和久南は日向に何度も抜かれたのだ。
意地と言うものがある。
コースの打ち分けが出来なかったころの日向であったとしたら、このブロックは超えられなかっただろうが、今は言うまでもない。
高い壁とはいえ、相手は1人。圧倒的有利なのはスパイカー側だ。
「!!」
「くっ!!」
打ち抜いたのはバックレフト側。
リベロの秋保が控えていたが、その腕に当たってはじき出された。
確かに日向はまだまだパワーは無いが、それを補って余りあるスピードがある。
だからこそ、
「日向ナイスキー!!」
「ナイスっ! 翔陽!!」
再び大歓声が起こる。
同じ1点だったとしても、やはり目立つのは日向だ。
あの体躯で、自分よりも遥かに大きい相手に対して打ち抜くのだから当然。
「おおぉ……、今目立ってんのは烏野の10番と和久南の1番、か。あんまデカくないヤツが凄ぇな。この試合」
「それにアレどんだけ跳んでるんだよ、って話だよ。そりゃ、スピードも凄いケド、最高到達点とかどんだけなんだろ? 勝てる気しねぇ……」
注目が注目を集め、今や現コートの中で一番盛り上がる試合となっているのがこのカード。
隣のコートの試合を見ていた者が、またひとり、またひとりと和久南VS烏野の試合を気になりだしていた。
「ああぁぁぁ! くっそ!! 取れた! 今の! 絶対!!」
「おお! そうだそうだ! もーちょいだった! 全然読めてる読めてる! 次、同じの来たら完璧に取れるぞ! ヨユーヨユー!」
「!! おう!!」
秋保が悔しそうに歯を食いしばるが、その口から出た言葉は非常に心強い。
そして、それに便乗する形で、発破をかけるのが中島だ。アレだけ早い攻撃に対して、貪欲に食らいつき、絶対拾ってやるという気概を見せてくれている。背中を押さない訳にはいかないだろう。
「うっ……、うぐぬ~~!?」
そして、
兎に角 幼さが残るのが日向。
この手の駆け引きでは、相手が老獪であればある程、それに翻弄されてしまう。
普段のプレイスタイルで、縦横無尽にコートを駆けるその翼で、相手を翻弄してきた日向だったが、言葉による引っ搔き回しに対しての耐性はまだまだ未成熟、と言う事だろう。
地に降ろされてしまう前に、こちらもしっかりと釘をさしておかなければならない。
「ほらほら、さっき火神だって影山に言ってたろ? その延長線なだけだって。相手の鼓舞、それとお前への挑発。だから乗るな乗るな」
「!! アス!!(コブってなんだ?? 頭打ったり?)」
しっかりとフォローをしてくれた澤村に対して、火神は保護者として、出鼻くじかれた~とは絶対に思わないし、思えないし、そもそも考えてない。
心底頼りになる大きな背中。それが3年生たちだから。
※後々―――《コブ》と言う言葉の意味、日向と影山2人して火神に聞くのは別の話
「ふ~~ん……」
そして、今のやり取り、その姿を見て、納得がいったのは中島だ。
確かに、澤村が言う様に最初のサーブのレシーブミスの時、似たような事をした。先にそれを見せている。
だが、間髪入れずに、間を置かずに、即座に乱れかけていた日向の思考をもとに戻した場面を見て、より納得した。
烏野高校には凄い1年が入っていると言う話は聞いている。
何度も聞いたし、最早有名になってきている。
だが、その土台を作り、しっかり支えている3年の存在も決して忘れてはいけないと言う事だ。
「……いやいやいや、ソレ違う。
「って、どうしたんだ? 大地」
「いや、なんか壮大に盛大に誤解された様な気がしたから」
「???」
土台を作っているつもりではあった。
思う存分、前で暴れられる様に、この進まずにはいられない、立ち止まってられない連中の背を守ってやろうとは思った。
だが、育てた……なんて正直烏滸がましすぎる。
それ程までに強烈な才能の塊を間近で見たのだから――――と、澤村は思っていた。
「っしゃ!」
「誠也ぁぁナイッサ―!!」
「火神ナイッサ―!」
再び
希望と絶望を交互に運んでくるローテーションシステムに、正直辟易する……が、和久南の者達は誰一人として後ろ向きではない。
後ろ向きな考え、頭に過った事は否定しないが、その精神は身体は、この強打・豪打に備えている。
【サァ、コーーーイ!!】
気合も気迫も負けん気も十分。
必ず拾うと言う意思が、形となって表れているかの様。
「うーむ……、やっぱ和久南 ハンパないよなぁ。俺だったら、ビッグサーバーのターンが回ってきたら、正直うげぇぇ、ってなんのに、全く
嶋田はしみじみと思う。
恐らくだが、彼らは知っているのだ。若しくは、それを教えられたか。
相手の強打、ビッグサーバー、一番の盛り上がり。
そんな一撃を拾ってやった後の快感。決まると思った一撃を逆に取り返す快感。
主にリベロがソレに酔いしれる事が多いと聞くが、強豪と呼ばれるチームは全員が守備の意識も攻撃の意識も高い筈だ。
強いサーブだからこそ、強いサーブであればあるほど……。
【
【拾ってやる】
と、考えているのだろう。
だから、精神面で崩れると言う事は少なくとも和久南相手には無理だと思われる。
点差が例えあったとしても、隙を見せればやられる。
「そんでもって、日向の攻撃に対してはとりあえず1人コミットって感じか。日向ばっかり追いかけてたら、それこそ他のメンバー、火神や東峰もいるし。ジタバタせずに堅実に。日向はコース分けが出来るって言ったって、空中戦での技術戦やパワーは、圧倒的に火神と東峰に軍配が上がるし、取り合えず1人を宛がって、残りの2人に関しては必ず2人でマーク……か」
そう、堅実にプレイしている。
ブロックは、ただ相手を止めるだけではない。コースを絞り、後ろへ伝える役目も担っている。日向は高確率でこっちに打ってくる、と。ある程度絞れた選択肢であれば、拾えない事はない。
そして、厄介なのが火神や東峰だ。
火神は単純な空中での駆け引きや技術、中島とのブロックアウト対決? も然り。ある程度コースを絞ったから大丈夫、なんて言ってられない。隙や穴を見せればそこを確実についてくる。まさに匠の技、針の穴を通す精度でだ。
東峰は今更言うまでもない。
烏野一のパワーを誇る豪打者。単純にパワー負けしてしまう可能性が極めて高いから、単発の壁配置では、格好の的だ。
「(音駒や青城か。イメージ通りと言うか、想定してた通り。まさに
自分のチームながら、多彩な攻撃パターンやその威力、極めて厄介でダークホースなのが烏野だ。
そんなチームにどう守り、どう攻めるか。6人しかいないコートの中で、どうすれば良いか。知り尽くしている自分でさえ、頭が痛くなりそうだと言うのに。
「しっかりしてるなぁ、最近の高校生ってヤツは」
「えっ?」
「いや、なんでもねーよ。先生。……兎も角だ。今のスコア的に、攻撃回数が少ないのは、やっぱ
烏養が今後のプランを頭の中で考え、纏めようとしたその時だ。
「【次世代小さな巨人たち】による空中戦勃発中に加えて、【世代交代】の波も迫ってる感満載ですが、まだまだ現役、ウチの
「! ――――ウス」
伝えるまでもない。
解っている。
「はぁ、やっぱしっかりしてるわ」
「??」
苦笑いをする烏養。
頼もしくもあり寂しくもあり……やっぱり日がまだまだ浅いのだ。頼もしい方が強い。
「(相手からしたら、基本まずは変人速攻マイナス・テンポに目が行くだろう。今回に関しちゃ、出足が火神や影山の
火神のスパイクサーブ。
相変わらずの強打・精度だが、拾ってくる。上げてくる。粘りを見せてくるが、確実に乱した。
「松島!!」
2段トスからの
日向が松島にコミットで跳んでいる。そのブロックの位置は中央よりややレフトより。
つまり開いているのはライト側。打ちやすいのもそちら側だ。
この配置、そして打ってくるのは松島。コースは大分絞れた。
「(こっちだ!!)――――っしゃぁ!!」
着弾点に、そのスパイクの軌道位置に先回りし、構える。
それは回転レシーブの様な派手な動きではない静かな立ち回りではあるが、見る者が見れば、十分技ありだ。
「火神ナイス!」
「誠也ナイス
正面から捕らえた
つまり、最高の形でのカウンターが打てるのだ。活かすも殺すも
そして、今の影山に対してそれは愚問だ。
「(やっぱり、
冷静に戦況を見据えるのは澤村だ。
如何にレシーブ力に定評があり、烏野でもトップクラスの守備力を誇る火神であっても、相手のスパイク処理をした後直ぐにアタッカーに復帰……と言うのは難しいらしい。
そこを逆手にとって、レシーブしてそのままスパイクへ、と言う戦法をとっても不思議ではないが、和久南は除外した様だ。
完全に日向を、そして続いて―――。
「(火神が下がって、日向が出てきて、……お前、
「(……ああ、わかってる)」
烏野のエース 東峰。
スパイク本数は確かに少ないかもしれないが、名実ともに現烏野のエースは彼なのだ。
確かに東峰はガラスハートではあるが、その
そして、スパイク動作に入る前に、一瞬だけ澤村と目が合った。厳しくも厳しい澤村の圧に押されて……、押されっぱなしで、情けない所を見せる訳にはいかない。
跳躍から構え、そしてその打つ瞬間まで、入っている気合が違う。
ただでさえ怖い顔が三割増しになっていた。(失礼)
相手ブロックは3年コンビである中島と川渡。
決して、和久南のそのブロックが弱い―――と言う訳ではないだろうが、純粋な高さ勝負、力勝負ともなれば、170少々の体躯では圧倒的に不利なことには変わりない。
和久南側とて、これが最善の配置だ。なんとしてでも止める……せめて触って威力を削ぐ、と考えていたのだが。
ドガンッ!! と強烈な東峰の
辛うじて手に当てる事は出来た様だが、全く意味を介さない程の威力。レシーバー陣も動く事が出来なかった。
「(ウチのエースを止めるなら、【鉄壁】でも持ってこいや!)」
澤村はにやりと笑った。某場所では、
1年の躍進は確かに喜ばしいし、頼もしいし、今後が楽しみでもあるし……、と色々あるが、やはり東峰、そして菅原の話ともなれば、少々別。現3年たちとは、苦楽を共にした時間が当然一番長い。軽んじられて良い訳がないのだ。
「チックショ……!」
高さでも力でも負けを認めざるを得ない一撃。
烏野には、凄い一年だけじゃない、と気合が入った一撃を貰い、中島は顔を顰める。
「「オエーーイ!!」」
「「旭さんナイスキー!!」」
「ナイスです!」
東峰・澤村は互いに拳をゴツッッ! と当てた。
頼りないエース返上!!
「まだまだに決まってるだろ?」
「って、考え読まないでくれ!」
何処までも厳しい。
東峰にとっての保護者は或いは澤村なのかもしれない。
カウント
16-14
流れを更に呼び込むであろう最高の結果。
日向・火神・東峰と頭が痛くなる布陣だ。
「よし!! これでより日向の囮が機能し出すぞ! 今の
「ぅおおお!!」
「っしゃあ!!」
烏野サイドは大盛り上がり。
手に汗握る嶋田も大きくガッツポーズ。
谷地と冴子も思い切りハイタッチ。
後半に入るにつれて地力の差が出やすくなってくるモノだが、間違いなく言える。烏野の方が上手だと。無論、安心はまだまだ出来ないが。
「火神、ナイスレシーブ!」
「アス!」
「影山も、ナイストスだ!」
「ウス」
このまま、烏野が押し切るか?
「くっそ~~~~、次止めてやる!」
「オッケーオッケー。その意気だ。でも頭は冷静にな。一本切ってこーっ!」
或いは、和久南が追い付くか?
嶋田の見立てでは、ここまでの攻防の流れで烏野の方に分があると判断していたが、勝負は最後の最後まで解らない。
3セットマッチ、先に2セット先取、25点を獲るまで解らない。
それを実際に証明するかの様に、流れる様な動きで和久南側が取り返し――――リードを保つ為、いや、やられたらやり返すと、負けじと烏野も取り返すを繰り返した。
そして、先に20点代に上がったのは――――。
「おー、やっぱ烏野か」
「20のったな。和久南苦しくなってくるぞ」
20-17。
第1セットも終盤で、先に20点にのったのは烏野。
ミスも所々あるが、それでも皆で補い合い、繋ぎ合ってここまで来た。
流れは悪くない。
「よし! ここがチャンスだ! 勢いに乗るぞ!」
【ッシャアアアア!!】
【アス!!】
流れが良いのに加えて点差もあると、思い切りプレイする事が出来る。結果、よく入るし、ミスを引き摺る事も無い。
和久南は、このセット、厳しいか? と周囲の目からも明らかだったが。
「ちぃ……、やべぇ……」
「………おい、
「あ!?」
「向こうの右端、3列目にめっちゃカワイイ娘、いる」
試合に全く関係ない事を突拍子もなく言うのは中島だ。
今は試合中! 試合に集中しろ!! と言うのが割とオーソドックスな答えなのだが……、突然話しかけられた川渡は違う。
「まじっ!? まじでっ!? うおっ、マジだ!!」
先ほどの後ろめたい気持ちがどこへやら。
3列目の可愛い娘に目を向けて、更に目が合った(気がした)。
格好悪い所を見せる訳にはいかない。
「オレだオレ! 次は絶対決めてやるから、ガンガンよこせーーー!!」
「! ……ハイハイ」
後ろめたさを脳裏に残せば、プレッシャーにもつながる。絶対にミスはいけない、これ以上取られたら負ける、と余計な力にもなってしまう。
これは、先ほどとは違う意味で、程よく余計な力を抜く事が出来る手段の1つ。
「(ふむ。川渡があからさまに不穏を口にしていたが、それを拭ったな。流石中島。選手1人1人のツボ、性格をよくわかってる)」
本来ならば、タイムアウトを取るべき場面だ。幸いにもまだ残っている。
だが、和久南の監督鬼首は、中島と川渡とのやり取りで、それを止めた。
中島がこれ以上ない程に力を抜いてくれた。川渡もテンションが上がり、このままの状態でいった方が、タイムアウトで余計に流れを切るよりは良い、と判断したのである。
「(まさに烏野はバレーのジュラシック・パーク
脳裏に過るのは後ろで声援を送ってくれている家族たち。
非常に嬉しいし、頼もしいし、力になる事間違いなし、なのだが、ここまでの道のりの険しさが半端じゃなかった。
4人兄妹。その兄妹たちを残して颯爽とアソビに言ってしまう。
【自由の長男・勇】
自由で元気よく、加減を知らずにアソビまくる。痛い痛い激しい。
【元気過ぎる&元気は凶器 妹・真 弟・実】
幼い兄妹の前でもお構いなし。イチャイチャらぶらぶ(死語)。
いつもいつでも新婚気分が抜けない両親。
【空気を読まない両親 父・正義 母・愛】
あれらは大変だった。
本当に大変だった。
今のメンタル&スタミナは、アレに培われた、と言っても良い。
その土台に加えて、バレーのスキルを磨き続けた。
何より、あの期間、あの時代の長さ、それを考えたら、何を恐れる必要がある? 何を慌てる必要がある?
確かにピンチだ。今はリードされている。
だが、負けた訳じゃない。
「さぁ、下向いてる暇ねぇぞ! 粘りの和久南はこっからだ! 追い詰められた時こそが真骨頂だぜェ!!」
【ウエーーーイ!!!】
相手も最早ジュラシック・パーク級。疑う余地はない。
戦績こそ自分達が上だが、それは関係ない格上だ。
後ろ向きでいられるわけがない。
僅かだが、傾きかけていた士気。
それを中島は元に戻す。
ジュラシック・パークと呼ぶ家族たちの中で、永年生きてきた経験が活きる。世話係ならお手の物。なんなら、このチームは動物園。難易度は遥かに易い。
「苦労の次男坊、なめんじゃねぇぜ!」
「うぇーーーい! ……って、じなんぼうってナニ??」
和久南の士気が落ちる気配はない。
このセットは貰った……とつい先ほどまで口から出かかっていた烏養だが、それを押し留めた。
武田も同じ気持ちだった様だ。
「向こうの主将も、なかなかの【土台】っぷりですね……!」
「ああ。……何となくだが、今、大変だってのを感じたよ」
気を引き締めよう。
勝負の後半戦、勝負の第1セット終盤。
2セット目を最高の形で入る為にも、これを勝ち切る。
続きに続くラリー。
「火神!!」
「11番!! バックアタック!!」
烏野の多彩な攻撃手段、強烈な武器を前にしても一切引かない。
「お・れ・が・とぉぉぉぉぉる!!!」
ふんがーーー! と飛びつくのは、川渡。
可愛い娘ドーピングが効いているとはいえ、ナイスレシーブ、スーパーレシーブと言って良いプレイだ。
「上がった!!」
「フォロー―!!」
当然乱れたが、チャンスボールに返す訳にはいかない。
「
中島が2段トスで上げた。
元々の高いスキルも合わさり、影山・日向の変人速攻、普通の速攻こそ無理だが、この状況において、最高の2段トスを上げる事には成功。
「ブロック1枚!」
「月島!! ストレート!!」
「!」
言われるまでもなく、月島はやや中央よりに跳ぶ。
鳴子が打ちやすい場所、こっちに打たないでね、と言う圧を込めて両手を突き出す。
「――――チぃっ!!」
その月島の意図、レシーバーである火神の意図をほんの一瞬、刹那の時間しかないが、鳴子も察した。
そして、その証拠に。
「ふんっっ!!」
鳴子が放ったストレート側の一撃は、備えていた火神によって阻まれた。
お返しだ、と言わんばかりの火神の気合が入ったレシーブは、まるで先ほどの川渡に負けじと返したかの様だ。
「うおっっ! また拾った!!」
「どっちもヤベェ! 攻撃だけじゃない、守備力も半端じゃねぇ!!」
一歩も譲らない場面。
こういう場面で特に頼るのが、頼られるのがエース。
「旭!!」
渾身の一撃を込めて、東峰は打ち抜いた。
ブロックに掠らせず、コート内へと打ち抜いた筈―――だったが。
「オラァァぁ!!!」
粘りの和久南。
烏野のエース、パワー№1の東峰のスパイクを殆ど体当たりで拾い上げて見せる。
「うわぁぁ! また拾った!!」
「見てる方もしんどい……、つーか、アレ絶対痛そう」
「今日一番長いラリーだな。これ、獲った方に流れが来るぞ……! 落とすな!! お前ら!!」
自然と応援側の声も大きく大きくなる。
何度もスパイクを打ち付ける為、スーパーレシーブは双方に繰り広げられている。その度に大きな歓声が沸いては、反対側で同じ様に沸き、と冴子が言う様に見ている側もしんどさを覚える程のラリーだった。
そして、嶋田が言う通りだ。
こういうラリーを制した側こそが、流れを呼び込む。
今のリードは関係なく、勢いにも乗れる。
それは、やり合ってる選手側が一番解ってる。
「切らすな! 切らすな!! ココ大事だ! 絶対に獲るぞ!!」
「粘れ粘れ!! 粘り負けるな!! 絶対獲るぞ!!」
両主将の声が響く。
ここが佳境。決めた方がこのセット、勝利する。
その想いで何度も続くラリーに、
ラリーが続けば続く程、思考がまとまらなくなってくる。
ただ、
「猛!! 頼んだ!!」
「オオオッッ!! 任せろ!!」
そして、渾身のレシーブからエース中島に繋ぐトス。
和久南の最高の型を相手は見事創り上げてきた。
「ブロック3枚!!」
疲労が溜まっていたとしても、しんどいラリーが続いたとしても、関係ない。
この
中島の技ありスパイク。
より正確に、そして確実に、3枚と言う強靭で強大で巨大な壁を前に一切臆する事なく、その僅かな歪を狙って打ち抜いた。
「―――――クソッ!!」
狙われたのは月島。
一番打点が高く、3枚の中でも特に厄介な壁だったが、あえて中島はそこを狙った。
自信と意地を以て、打ち抜いた。
「―――!! (またブロックアウト、今度はこっち―――!!)さ、せるかぁ―――!!」
大きくエンドラインを超す様なブロックアウトではなく、サイドラインを割る横に弾くスパイクを追いかけるのは澤村。
右手を伸ばし
「大地ナイス!!!」
「おらーああああああ!! 繋げェェェ!!!」
外から、内から、声が響く。
それに肉体が反応する様に次に飛び込んだのは西谷。
「フッッ!!」
ラスト3回目。
これで返せなければ、こちらの負け。点を獲られてしまう。
絶対に返す―――絶対に、絶対に、と西谷が拾い上げた
世界が……止まった?