王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

153 / 182
ワクチン3回目打ちました………

2回目の後も確か、思ったかと思います………

もう、打ちたくない………涙



それはそれと、遅れてすみません!
何とか、投稿出来ました!
これからも頑張ります!


第153話 和久谷南戦③

 

「(……火神(アイツ)が日向みてぇに要求するのって珍しいな)」

 

「ほぉ……、今のは多分アレだな。火神のヤツ、梟谷(ボクト)と初めてやり合った時と似てる」

「ぼくと……、ああ、初めての東京合宿、その初日ですね。影山君や日向君が補習で参加が遅れたあの時の、ですか」

 

 

 

影山は、火神の興奮した様子に人知れず驚きを見せていた。

外でそれを見た烏養・武田は見覚えがある様子、雰囲気に思わず笑みが出ていた。

 

 

影山と烏養・武田コーチ陣、その表情こそには違いがあるが、根幹にある思いは同じだ。

それは、火神と言う男が心底頼りになると言う点。

 

普段の火神の思考はどちらかと言えば司令塔(セッター)寄り。

 

敵味方問わずコート全体を見て最適・最善を選択してプレイする。自身が攻撃の起点となる事もあるから、ツーセッターとしても機能するし、高い守備力も保持しているからダブルリベロの様な事も出来る。澤村・西谷・火神の布陣は文句なし最硬ローテだ。

 

改めて評してみると、相も変わらず本当にとんでもないが、これらは全て事実。

出来るだけの能力を持ち合わせているのだから仕方ない。

 

更に言うまでもない事であり、当然の事だが、バレーボールは団体競技。

(影山にとってはまだ耳が痛い言葉かもしれないが………)

 

だから、火神自身がどれだけ高いスキルを持ち合わせていたとしても、これまでの個人技でどうにかしようとも思っていないし、チームで強い、6人で強い方が強いと言う事を知っているから、考えるまでも無い事。

昔の影山が目から鱗が落ちた様に感じたのは、火神がたった1人で6人分をやっている(かの様に見える)所だった、と言える。

 

 

 

前衛・後衛、要所要所で的確な指示や身をもって行動で示し、皆を導く。

 

 

「(……謙遜をしている様ですし、苦い顔をしてしまうかもしれませんが、言うまでもなく、主将(リーダー)としての資質も頭1つ飛び抜けてます)」

 

 

リーダーシップもあり、バレースキルもあり。そもそも色んな意味でセンス抜群。

更に付け加えて、ここからが最も稀有中の稀有。リーダーシップ、だけでは済ませられない。

敵味方問わず全員が、試合中、練習中、火神は手を伸ばせば届きそうな場所にいる様に錯覚をさせてくる。

だからこそ、全員がついていこうとおいて行かれまいと、いろんな意味で向上していく。

 

 

「――――――と、今更ながら、改めて、僕は火神くんの事をそう評していますが、烏養君はどうでしょうか?」

「ん? ああ、全く聞かれるまでもなく同感だよ先生。つーかそれ以外に説明つかねーよなぁ。前にも言ったと思うが、精神面(メンタル)がプレイに及ぼす影響(もん)ってのは、バカに出来たもんじゃねぇ。……それに ドーピングしてパワーアップ、みたいなバカ話でもねぇ。火神(アイツ)の存在が他の連中に齎す影響(もん)が、もれなく全員の精神面(メンタル)に作用する……ってか? それも敵味方関係なく? ……正直、自分で言っててもわけわからん。さっき言った木兎も敵味方問わずに士気高めるって言う分には似た様なモンだと思うんが、………やっぱ なんか違うって感じもすんだよなぁ」

 

 

練習試合などでも、互いに向上し合い、高め合っていく場面を幾度も見てきた。

敢えて、言葉で説明するとするなら武田のソレが正しいだろう。

だが、理屈抜きとはこういう事を言う、言葉では表せれない何かはこういう事を言う、とも烏養は思っている。

 

本来ならば、【練習】で出来ない事は【試合】で出来る訳がない、と言うのが一般常識なのだが……、烏野には当てはまらない。何せ試合中に、どんどんどんどん成長をしていくから。

そんな姿を見ていて驚愕すると同時に、感動ものだったりもする。

 

身体能力、体格、スキル、センス。

 

それらを生まれ持ったものもあるだろう。

それぞれ秀でた部分を持ち、武器とし、突出した選手と言うのはいつの時代にも出てくるものだ。

日向や影山、そして木兎。彼らも何れかに該当する選手だが、火神に関しては正直異例中の異例。

 

似ている、と一度称したのは木兎だが……やはり、何かが違う。

改めて頭の中を整理して考えてみても……そこに類似し、比肩する者が全く思い浮かばない。

 

高校、大学、社会人、世界―――――烏養が知る全ての知識や見分を総動員しても。

 

理解できないからこそ、安易に、安直に、天才だのバケモノだのと生ずるのだ。

それが簡単だから。

 

同じ天才(バケモノ)である影山、身体能力面の日向とも違う方面の代物の。

 

 

「―――……まぁ、そう言っちまうと、火神(アイツ)はいい顔しないか」

 

 

火神はバケモノ、は当然として、それよりも天才と呼ばれる事を好ましいとは思わない。努力で培ってきたモノだから、たった2文字で終わらせてほしくないとのこと。

思考まで隙なしかよ、と烏養が思ったのも無理はなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!! 影山! 俺も俺も!! 俺にもくれっっ!!」

「うっせぇボゲェ! 順番だ!」

「順番って……。あ―――飛雄? 馬鹿正直に順番通り上げたら向こうに筒抜けになるから、その辺はちゃんと考えてね? 何なら後でも良いから」

「ッッ!! んなもん、ったりめーだろーが! わーーってるよ!」

 

 

火神の変化(それ)に、真っ先に気付き、身体が反応し、思考が順応し、己を高め合っていく。それがこの1年トリオ。

どれだけ苦しい展開だったとしても、本当の序盤だったとしても、何時・どの場面でも恐らくそれは不変のモノだろう。

 

 

「……さぁて、傍観者でいてたまるか。オレ達も置いて行かれる訳にはいかねぇぞ」

「―――ああ」

「ウッス!!」

 

 

そんな1年をずっと見てきた。

 

澤村も東峰も西谷も、そしてコートの外に居る菅原を始め、田中、縁下、成田、木下も同じく。

いつもいつも凄い奴らだ、と認識は当然している。更新し続けている。しつこいと言われても、いい加減聞き飽きた(読み飽きた?)と言われても良い。現在進行形。

 

だからと言って、その背を眺めるだけに留まる訳がない。諦めの二文字は一欠片だって持ち合わせていない。

 

付いていける、付いていくのだから。

 

無論、自分は違うと言いたそうな顔をしつつも時折素の顔を覗かせている月島。

千里の道も一歩から、まずはサーブで勝負する、勝ってやると意気込んでいる山口。

 

諦めの二文字以外にも、持ち合わせていない単語はある。

前しか見ていない烏野高校に【後退】の二文字もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合は再開。

和久南側のサーブから始まる。

 

 

「西谷!!」

「っしゃ、オーライ!!」

 

 

サーブで西谷(リベロ)に打ってしまった事に対して顔を顰める和久南側だったが、直ぐに中島が皆をしめる。

先ほどの一件、何処か変わった空気を彼らも読み取ったからだろう。

 

 

「ナイスレシーブ」

 

 

余裕を持って影山は落下点へと入った。

そして、(ボール)が落ちてくるほんの僅かな時間、思考を張り巡らせる。

 

 

「(今のローテ、日向、火神、澤村さん。それと東峰さんのBA(バック)。間違いなく烏野(ウチ)の中でも最強の攻撃力(ローテ))」

 

 

味方は勿論、敵側の事もしっかり確認。

どう見られているのかも、しっかりと頭に入れておかなければならない。

 

少なくとも、影山の中で理想とし、格上とし、今でも師と呼んで差し支えない相手である及川は、そうだった筈だから。

 

 

さぁ、ここで誰を使うか?

 

 

 

 

 

 

 

 

【こい、こい、こいこいこいこいッッ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんの一瞬。

ほんの一瞬だけ悩んで、迷った。でも、何故迷ったのか? と思える程、直ぐ後にその迷う余地はなくなった。

 

 

この圧倒的な存在感。

 

 

それが、影山の中の迷う余地を一瞬にして掃ったのだ。

そして、それは日向でもなければ、東峰でもなく。

 

 

「火神!」

 

 

当然、火神その人だった。

影山の中では上げる前、上げた後、その最後の瞬間まで最適だったと認識。

そしてセッターとして最高のトスを火神に上げた。

 

 

「11番来るぞ!」

「ブロック2枚!!」

 

 

その嫌な存在感を感じ取ったのは、和久南側も同じだった。

日向に釣られそうになっていた筈だったのに、それを上回る圧を一身に浴びた。

 

一際声を上げる中島に言われるまでもない。

確かに早い攻撃ではあるが、しっかりとブロックは2人つく事は出来ていた。

 

 

最強の囮(日向)が機能していて、ブロックを分断する事が出来なかった事実、それも試合序盤。

課題になるかもしれない、と普段なら思うかもしれないが、今、この瞬間だけは火神の中では一切が関係なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【―――――小さな巨人(中島)との対決】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ、それだけが頭の中を彩る。

 

高揚した。興奮した。

まさに最高潮で、今も尚アドレナリンが大量に分泌される。

溢れ出るソレ(・・)を、理性で抑える事が出来ない。

そして―――決めた。

 

 

 

ドンッ!! 

 

 

 

溢れ出るソレ(・・)を抑える事が出来ないのであれば。否、何を抑える必要があるのだろう?

 

ソレと共に、身を委ねれば良いのだ。

 

いつもよりも深く、強く、固いコートを踏みしめ―――小さな巨人と対決するのみだ。

 

 

 

そう、《空中戦の覇者》と対決。

 

 

 

 

固いコートに、念じる。自分を押し返してくれ、と。

この空で戦う為に、自分を空へと押し上げる為に。

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

火神のソレ(・・)を見て、何より自身が上げたトスを見て、影山は目を見開いた。

 

自身が上げたトスが低い。

 

でも、今まで通りのトスを上げた筈だ。それを、自分が見誤る筈がないと影山は思っている。

そう思えるだけの、言えるだけの技量を影山は持っている。

 

日向、東峰、澤村、田中、月島、縁下、成田、木下……そして勿論火神。

烏野の主だった攻撃陣の最高到達点は全て見極めていた筈だった。練習に練習を重ね、寸分も違わず、日々微調整も行い、精密機械と見紛う精度で合わせ続けてきた筈だった。

 

何より、攻撃の要の一人である火神だ。

 

チームメンバーの中では、変人速攻を極める為に練習多く取った日向と同じくらい共に合わせた筈だ。

だからその得意な位置、高さは間違いなく把握している筈だったのだが、あり得ない。

 

突然、最高到達点があがるなんて、普通は考えないし、考えられない。

 

 

 

 

 

「(あ―――――ヤバい、かも)」

 

 

 

 

そして、その踏み込み、跳躍にやや驚きを見せているのは火神も同じだ。

 

目の前の中島。

小さな巨人と称されても良い選手の一人が相手である事で、テンションが有りえない程上がったと思える。様々な事が合わさり合って出来た完璧な跳躍。

頭の中で盛大にガッツポーズをする勢い、最高到達点を測り直したい。

自分の100%……じゃない、120%だって出せたと評する程の跳躍。

 

あの跳躍(・・・・)は、今も昔も、何度も何度もイメージはしていたし、無論 真似をして練習もした事があった。

でも、その全てが頭の中で描いていた理想とはかけ離れるものだった。

 

 

だが今は少し……少しだけ―――――届いた(・・・)かもしれない。

 

 

でも、今、この結果は良い方向へはいかない。影山とのセットで合わないなんてそっちの方が稀だから。

 

 

「(―――――今は目の前の1球に集中!)」

 

 

 

想い耽ってる時でもない。

 

ジャンプは成功したけど打てませんでした、なんて 涙を流す程爆笑していたあの場面の再現になってしまう。朧気な記憶なのだが、やっぱり強烈で鮮明に残っていた為か、記憶の深淵にある源泉から簡単に湧いて出てくるその記憶……。

 

でも、流石にそれを自分自身が再現するのは嫌なので、直ぐに軌道修正。

喜びを爆発させるのは後で良い。(勿論、ある程度自重した喜び)

 

 

「(狙いは………)」

 

 

影山と言う男のトスは、キモチワルイ、と思わせてくれる程精密で正確だ。

今回も高さだけが足りないだけで、位置は完璧。

 

いつも通りの跳躍だったとしたら、絶妙な場所に(ボール)が来るので、ただ全力で打つ事だけを考えて居ればよかった。でも今回は、少しだが高さだけが合っていないので、全力は全力でも、技と力を7:3程の割合で分けて、技術での勝負を選ぶ。

 

精度重視で行く為、威力は当然落ちるかもしれないが、今の最善はコレだ。

火神は(ボール)の芯を意図的に、ほんの僅かズラし、(ボール)に強烈なサイドスピンを仕掛けた。

 

無論、如何に強烈なスピンを起こせたとしても、威力を完全に殺してしまったスパイクでは、弾く事が出来ずに瞬く間に相手ブロックの餌食になってしまう。

だからこそ、そのぎりぎりを見極めた一撃。これもまさに巧の技。

回転に加えてブロックに打ち込む角度も調節する。よりブロックアウトを狙うには最適の角度をこちらも見極めて。

 

これも何度も参考にし、何度も練習してきたスパイクだ。

勿論、和久南(中島)の事も、師だと思っている。

 

 

 

「―――――――フッッ!!」

 

 

 

全てが合わさった、現状で出来うる最高のスパイク。今回に限っては100点だってあげれる一撃。

 

だからこそ、後でもう一度再現……するのは難しいかもしれない。

まさに精神の高揚。分泌した脳内麻薬(アドレナリン)が齎してくれたか、或いは生まれて初めて、二度目の人生で初めて成功したイメージ通りの跳躍(ジャンプ)が出来た高揚感が齎してくれたのか、極限とも言える集中力があっての芸当だと自覚した。

 

 

だから打つ前から決まると確信した。

手に当たった瞬間に決まると確信できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【――――――クソっ】

 

 

 

そして、それはブロックに跳んでいた中島にとっても同じだった。

 

当たり前だが、ブロックに跳ぶのだから当然絶対に止めると言う気概を持って跳ぶ。

小さな巨人を彷彿させる選手である中島は、当然その名に見合う程の跳躍力(ジャンプ)を持っている。

 

この一連の攻防、これもまた空中戦だ。

 

小さな巨人を目標に目指してきた。だからこそ空中では絶対負けないと言う強い自尊心(プライド)を持っている。絶対に止めてやる、と。

 

だが……、この一撃は負けだ、と苦々しい顔をして顔を顰め、不意に呟いていた。

 

火神から放たれた一撃(スパイク)は中島の右手。

丁度手のひら半分の面に当たった。

 

強引に抑え込もうと手に力を入れたが、当たった場所、そして威力と回転、全てにおいて完璧で理想的だった。

こちらもそれなりに、弾かれまいと力を込めたが、この強烈な回転を纏い、精密な狙いと角度の一撃を捉える事は出来ない。

 

バチッッ! と気持ち良いとは程遠い音と感触を残して、(ボール)はサイドラインを割った。

 

跳ね飛ばされた(ボール)は、まるで中島の一撃と同じだ。先ほどのお返し、と言わんばかりに、勢いよく2階観客席に飛んでいき、応援していた学生の一人だろうか、その飛んできた球を受け止めていた。

 

 

 

【ブロックアウト!!】

 

 

「火神ナイスキー!!」

「ナイス!!」

「ッ……ッッ!!?」

 

 

 

誰が叫んだのかわからない声と烏野側の喜び、それらがまるで示し合わせた合図だったかの様に、この試合を見ていた観客から大きな大きな声援が一斉に湧き起こった。

 

 

「マジかよ! いやいや、マジで!? ひょっとして今の狙ったりすんの!?」

「偶然? いやいや、ひょっとしてひょっとすると、中島(和久南)とおんなじ攻撃(ブロックアウト)し返したってヤツ? マジだったらスゲーのと、あの11番、めっちゃ負けず嫌いだったんだな!!」

 

 

見た事ある光景。

何なら1本前に見た光景が、まるでデジャビュかの様に。

2階観客席側に(ボール)が飛び、受け取った場面も含めて、違いは相手のコート側か自分のコート側かだけ。まるで鏡合わせの様に。

 

大人びている雰囲気から一転、子供染みてるなぁ……と言う印象が、聞こえてくる歓声の内容で、一瞬脳裏に過る者も少なくなかったが、それ以上に技術の高さを感じて子供とは思えない、と矛盾を感じていた。

 

バレーボールを少しでもかじった者であれば、それに気づく。

高さが合っていないトスを器用に合わせ、且つ明らかに狙って決めた場面に。

 

 

 

「―――すまん、修正する」

「こっちもすまん! 最高のジャンプが出来たんだけど、常にあのジャンプが出来る様に意識するつもりでも、正直毎度上手くいく保証は出来ない! だから、オレも今の内に謝っとく!」

「お前なら普通にやりそうだから、一応聞いておく」

 

 

軽くハイタッチを交わした影山の表情はにやりと笑っていた。

そして、当然誰よりも驚いてもいた。

 

 

火神の最高到達点。これまで競いつつ、その高さを、その位置を目に焼き付け、脳に刻み込んでいた。

 

なのに、ついさっき、高さが突然変わったのだ。

 

無理もない事ではあるが、妙に納得出来る部分もある。

何せ、相手は火神なのだから。高さ、跳躍と言う分野において驚かされるのは日向だけではなかった。

 

 

「今の、今の、スゲー跳んでなかったか!? 絶対跳んでたよな!?」

「おうっ! それに なんか、いつもより全体的にスローモーションに感じた! ほんのちょっとかもしれないけど、いつもより滞空時間が長いって実感もできた!」

「ふおおおおおお!! やっぱり!!? なんか、止まってる様にも見えたし! あっ、絶対負けねぇからな! また、最高到達点で勝負だ誠也っ!!」

「――――その前に、まずはこっちの勝負(・・・・・・)に勝ってからだ、翔陽」

 

 

そして、影山の次に驚くのは日向。

それも当然。事、宙に跳ぶ事においては自信を持っているし、別腹だし、得意分野だ。技術で劣る分、身体能力でカバーしている気がまだまだある。

だからこそ、余計に思う。

 

得意分野だから、ずっと小さな巨人に憧れ続けてきたから。

唯一と言って良い。コレしかない。コートに立つ意味でもあるコレ。

 

 

―――負けたくない。

 

 

 

 

 

 

 

「………今、狙われた。間違いなく」

「マジだ、マジだよ。オレも解ったもん。あんな短い時間で、ハッキリわかったし」

 

 

ブロックアウトを取られた。

それは、スパイクを決められる前から、手に当たる前から解っていたかの様。

それ程までに、相手の一撃は完璧で理想的だった。

(ボール)を当てる位置、そしてその威力と強烈な回転。まさに理想的。

 

高度な技術を要するブロックアウトを、自身の武器としている中島だからこそより解ると言うものだ。

 

 

「(デカい癖に、技術(ワザ)まで持ってるとか何なんだよ)」

 

 

何度も何度も嫌と言う程思い知らされてきた事がある。

それは、圧倒的な高さと言う壁。

その高さに対抗する為に、磨きに磨いてきたワザを、高い相手が使ってくるともなれば、あまりに不平等だ、と思えてならない。

 

……解っていた事、だが。

 

 

「んでも! 猛のヤツ何べんも受けてきたんだ! そんでもって、何べんか止めてきた!! 今もそれをするだけだ!!」

「!!」

 

 

川渡がうがーー! と声を上げる。

それに少し驚き気味に肩を震わせるのは中島だ。

 

 

「ああ、それと11番も良いが10番にも当然注意が必要だ。驚かないの前提で臨んできたんだけど、やっぱ目の前にするとインパクトが違う。気を抜けば意識がそっちに持ってかれそうだ」

「10番は意識し過ぎてもダメ。んで、ブロックアウトは、日頃から受け慣れてる分、守備(ディフェンス)(エリア)広げて対応だな」

「おお! んでも、フェイント喰らって顔面ダイブは勘弁だから、前も注意しとくぞ絶対!」

「はいっ!!」

 

 

大きな壁に、一瞬だ、ほんの一瞬怯みそうになった中島だったが、直ぐに気を整え直す。

得点も確認。

 

まだまだ序盤も良い所だ。あの濃密な攻防は、1セット分くらい? を感じたが、時間移動をした訳でもなければ未来を視た訳でもない。

1セット目の序盤。

 

 

「―――でも、2点負けてる。ブレイクされた。そこ頭に入れ直す」

 

 

ばちん、ばちん、と中島は両頬を二度三度と叩く。

そして、中島のその言葉に皆が反応を見せる。

 

 

 

「粘りの和久南。こっから上げていく。――― 一先ず、追いつくぞ!」

【おおっしゃあああ!!】

 

 

 

 

粘りの和久南。

そう称する通り、ベスト4の中でも特に守備力に定評のあるチームだ。

 

烏養が試合前にイメージするのは音駒だと言っていた。或いは青葉城西だと。

バレーは如何に強烈な一撃を入れようとも、コートに(ボール)を落とさなければ負けにはならない、点にはならないのだ。

幾度も幾度も拾い続けられれば、精神的に来るものがあるだろう。

その隙の無さは、自信喪失にも繋がりかねない。そして当然疲労にも繋がっていく。

 

それが普通の事なのだが、その普通に当てはまらないのは烏野。

 

 

引いては、次のサーバー(・・・・・・)

 

 

 

「(ッ~~~~)」

 

 

 

ばん、ばん、ばん、と数度コートに(ボール)をバウンドさせて感触を確かめる。

まだ、当然冷め止まない。まだまだ足りない。そして、まだまだまだ始まったばかり。

 

エンドラインまで行き、そして歩を進める。1歩、2歩……と。

 

滾ったモノを、全てを発するには、やはりこの手しかない、と頭に浮かべながら。

 

 

 

 

 

サーブを打つ為に、相手が後ろへと歩いて行っている姿、その後ろ姿からでもヒシヒシと感じる強者のオーラ。

影山の時にも感じたが、先ほどの一撃もあってか、それ以上に感じるのは中島に限らない。和久南側全員だ。

破竹の勢いで宮城のトップを、空高く駆け上がってくる烏野の事は伝わっている。故に事前に知りえる情報は仕入れている。

 

その中で、特に注意すべき点として挙げられたのが、烏野のビッグサーバーだ。

サーブに注目するのは当然。妨害が一切出来ない、何の壁にも阻まれない攻撃であり、そして何よりもサーブとは全ての始まり。バレーボールと言う競技の始まりだ。

そのサーブが強いチームは当然強い。

 

中でも緩急自由自在に操れる2種の凶悪なサーブを有する火神の情報は当然和久谷南にも伝わっている。

 

 

「すっげ………」

「いや、マジでなんなの? って感じだよな……。あの貫禄? って言うか、オーラ? って言うか……、そもそも烏野って、IH予選じゃここまで残れなかったし、これまでだって堕ちたとか言われてなかったっけ……?」

「幾らスゲーのが入ったって言っても1年な筈なんだけどな……」

 

 

色々と伝わったのか、観客席に居る圧倒されながらも、何処か呆れた様に遠い目をしている面々もいた。

 

 

 

 

「っしゃ、強烈なヤツ来るぞ!! 集中! 一本で切る!!」

【おおっしゃああ!!!】

 

 

 

和久南も気合は十分だ。

影山の強烈なサーブを見たばかりだ。しっかり覚悟は出来ている。

 

影山(あいつ)以上のサーブの可能性だってしっかり頭の中に入れている。

 

 

 

火神はエンドラインから歩いて6歩の位置で止まった。

 

剛速球の影山サーブを見せた後だ。緩急をつける為にジャンフロに変えても良かったかもしれないが、溢れる何か、色々と発散したい何かを、一気に(ボール)に纏める為には、やっぱりスパイクサーブ(こっち)の方が良い、と判断した。

 

 

助走距離、相手コート、笛が鳴って 始動開始する前に得る事が出来る情報を全て頭の中に叩きこむと、動き出す。

溢れる笑顔と共に……跳躍し、全力で振り抜く。

 

 

川渡(たび)ッッ!!」

「んぐっっぅ、うぉおおおっらっっっ!!」

 

 

強烈だった。

腕が痺れる、頭の芯にまで響いてくるかの様に。強烈なだけじゃない。気合も増し増しで込められているのがよく解る。

 

だが、それでも2回連続サービスエースをくれてやる訳にはいかない。

 

 

「上がった!!」

「でも乱れた!?」

 

 

川渡の渾身のレシーブ。

中島の様にAパスで返してやる、とは言わないし、正直言えない。

それでも、上げる。上にあげれば、後は仲間たちが繋いでくれる。それを信じてあげた。

 

 

「松島!! 入れ!!」

「!! はいっっ!」

 

 

そして、それをフォローするのが中島。

いや、フォローするだけではない。―――セットをする。

 

 

大きく弾かれた(ボール)を全力で追いかけ、落下点に十分入り込める、と判断すると同時に、ライト側に居る松島に指示を出したのだ。

 

 

 

「ふんっっ!!」

 

 

 

距離は少々離れているが、オープントス。二段トスとしては上出来だろう。

 

 

「(――――上手ぇな。完璧)」

 

 

それは、同じセッターである影山も唸る程。

あの(ボール)を、速さはないとはいえ、ここまで打ちやすいオープントスにまで持ってきた中島に賞賛だ。

そして、前衛の(ブロック)も備える。オープントスゆえに十分追いつける。

 

 

「止めるぞ! 旭!!」

「おお!!」

「せーーーのっっっ!!」

 

 

澤村と東峰の2人だ。

澤村の声掛けでタイミングを合わせて跳躍。

最高到達点、即ち跳躍力(ジャンプ)のデータは持ち合わせていないが、少なくとも相手はこちらより上背が高い。加えて、オープントスと言う高さが最も出やすい攻撃。

分が悪いのはこちら側の方だ、と認識はしたが、気合は十分入っている。

 

タイミングを合わせて跳び、手を前へと突き出して止めようと構えた。

 

 

「―――ッッ!!」

 

 

松島の一撃(スパイク)が放たれる。

データは確かに少ないかもしれないが、強豪:和久南で唯一の1年レギュラーだ。当然相応のスキルを持ち合わせているだろう、と理解はしていた。

それに何よりも……

 

 

「(ッ! やっぱ、オレの方か! くそっ、高いっ!!)」

 

 

純粋な高さの勝負では、この場で10㎝低い澤村が不利だから。

東峰と澤村の2枚ブロック。どちらが狙いやすいか? となれば無慈悲だが、高さが足りない澤村の方だ。

 

打たれた一撃は、澤村の右手のひらの先を霞め、そのままコートに叩きつけられた。

西谷、影山、火神と堅牢な守備力を誇る布陣で構えていた……が、今回は和久谷側、松島に軍配が上がる。

 

 

「っしゃああ!!!」

「ナイス松島!!」

 

 

11番のサーブを一発で切った。

これが和久谷南側に勢いを齎せる結果になる。

強烈なサーブを、相手のビッグサーバーを切る事の重要性は最早言わずもがなだ。

 

 

「くっそが!!」

「ドンマイです、西谷先輩!」

「もいっかいだ。次は捕る!!」

 

 

今のは捕れなくても仕方ない速度と落下地点だが、当然仕方がない、無理だ、なんて言葉で片付けれる様な選手は烏野には居ない。

そして、引き摺る事もしない。

 

 

「初めて影山がリードしたんじゃねーか? 誠也とのサーブ対決!」

「初めてじゃねーよ!! それに他人の事とやかく言う前に、てめぇのクソサーブをどうにかしろボゲェ!!」

「うぐっ……!!」

「……今のはサーブは良かった。文句なし。でも、相手のレシーブは、相手の粘りはもっと凄かった!」

 

 

別に特別意識する事はないが……、やはり日向にたまに煽られると火神も意識せざるを得ない。それもイケイケな雰囲気のこの状況なら、この精神状態なら猶更。

 

 

「サーブで勝てる! なんて甘い相手だって思ってるつもりは無い……、でも、そっち(・・・)も負ける気はないからな。飛雄。今はリードされてても、直ぐに追い上げにかかる」

「……こっちのセリフだ」

 

 

互いに不敵な笑みを浮かべて隣り合わせで立つ姿。

日向も混ざりたい気分ではあるが……、生憎サーブ関係はどうしても今は駄目だから、苦虫をかみつぶしたような顔をさせながら我慢した。

 

 

「あ、トスも、もっともっとオレにくれよ? BA(バック)でも全然OKだ!」

「ッ!? 次はオレんだろ、誠也っ!」

 

 

スパイクなら……、サーブで競えなかったとしても、スパイクならいける!

そんな思いで日向は前に出る。

 

 

「オレも立候補だ。影山。……今の、オレのブロックの上からいかれたからな。攻撃意識高い系主将のオレとしても、やられっぱなしで終わる訳にはいかない」

「おぉ……、大地が燃えてる!」

「って、オラ! お前もエースだろ! もっと自己主張しろっ!」

「いたっ!!」

「ほらほらほら! アサヒさん! 猫背禁止!!」

「ぐえっっ!」

 

 

 

一連のやり取りを見て、聞いて、……人知れず影山は笑った。

今日は、誰に上げても、誰を使ったとしても、点が沢山取れそうだ、と。

 

 

スパイカーは格好良い。格好良いからこそ、セッターはもっと格好良い。

 

 

今――、きっともっともっと格好良く見えている筈だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ! 取り返されてしまいましたね。上手く乱した、と思ったのですが……」

「今のは、決めた火神もそうだが、中島のセットアップも褒めるべきだな。先生が言った通り、あんだけ乱れて、飛ばされた(ボール)に追いついた上に、あの場所から綺麗にベスポジに上げて見せた所も」

 

 

小さな巨人を彷彿させる空中戦を見たが、当然他のスキルも高い事を十全に解らせるセット。

間違いなく絶好調の火神のサーブだ。追加点を期待していたのだが……、やはりそうは甘くないらしい。

 

 

そして、ちらりと得点版を見る。

やっぱりそんなに進んでない変わってない。

一度に10点入った訳でもなければ、時間が高速で進んだりした訳でもない。

ラリーが激しかった訳でもないのに、本当に密度が濃い攻防だ、と烏養は軽く汗をぬぐう。

 

 

 

「さぁ、勝負だぞ、お前ら!!」

 

 

 

間違いなく激闘。

それに、その熱に当てられたかの様に、烏養は大きく吼えるのだった。

 

 

 

 

 

 




今回のジャンプですが

やっぱりまだ、火神君<星海君です(笑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。