王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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早めに投稿出来て良かったです!! ……が、物語的には殆ど進んでないです……。

以前は、この間隔でずっとイケてたのに……と思う自分も居たりしてるんですよね……苦笑


でも、長期救済とかにならない様に、これからも何とか頑張っていきます!


第152話 和久谷南戦②

強く強く、ただ強く。

 

そして、幾ら強くても入らなければ意味は無いのでその精度も高める。

 

 

本日最初にして、最高の一撃(サーブ)を繰り出す事が出来た影山。

精度を高め、威力も高め、イメージをより強く持ち続けた渾身の一撃(サーブ)

多彩さを見れば、どうしても火神には後塵を拝してしまうが、ならばより強く強く鍛える他ない、と影山は意識し、それらが嵌った感覚があった。

 

 

 

和久谷南も、決して烏野を、そして影山を見縊っていた訳じゃない。

過去の戦績、これまでの戦績で格下認定をしていた訳でもない。

 

ただ、それでもこの一撃は、想定以上と言わざるを得なかった。

 

烏野の頭角を成してきた新1年たちのデータは、ここ数ヵ月でそれなりに集まってきている。特筆すべき点はやはり今年入部したメンバー。その中でも注目している選手の一人であるセッター影山のサーブだ。

 

影山がエンドラインで構え、そして笛が鳴り……、最初から最後まで警戒心を強める。

初っ端から警戒心MAXに入っていたつもりだ、と言っても良い。

 

 

ただ、仕方がないのはどうしても最初には身体の固さと言うモノが大なり小なり誰にでもある、と言う事だろうか。

 

 

幾ら試合前のウォーミングアップで身体を解し、温めてきたとは言っても直ぐに最高レベルに持っていけるとは限らない。

スロースターターと呼ばれるチームは、試合中に徐々に調子を上げていくが、大体のチームは試合中に徐々に修正をかけて全力に持っていくものだ。

 

だから、この結果(・・・・)は、和久谷南が、中島が悪かったとは言えない。ほんの少し烏野に、影山に軍配が上がっただけだ。

 

初撃からMAX10の力で打ってくる且つそれが成功する。

初撃だからこそその一撃が今後の試合の基本となる、と相手に思わせる事はよりプレッシャーを与える結果となる。

良いトコ尽くしで、あらゆる面で幸運に働いたとさえ言えるのだから。

 

 

 

そして、結果は訪れる。

 

 

 

「(捕らえた―――――ッッ!??)」

 

 

 

 

 

直前まで捕らえた、と錯覚したのは中島だ。

 

影山のサーブは威力精度共に最高レベルだったが、最初の位置取りと中島自身のスキルの高さ、長年培ってきた勘なども合わさり、手の届く範囲、捕らえる事が出来ると判断した中島だったが、影山の(サーブ)の威力が想定以上だった。

 

捕れる、威力を抑え込める、と寸前まで思っていた筈なのに、インパクトの刹那 その威力の高さを知った。それを堪えるだけの覚悟が足りなかった。

 

 

 

バチッ! と乾いた音を響かせながら、(ボール)が後方へと弾け飛ぶ。

 

 

 

 

【ッ―――カバー!!】

 

 

咄嗟に横にいたリベロの秋保を始め、花山や松島、殆ど全員が叫ぶが中島より後ろに控えていた者はいない。

何より、中島なら捕れるだろう、と信頼していた面もあった。如何に最初の固くなる一発目だったとしても、それは相手も同じ条件だ。

なら、中島なら大丈夫だ――――と、直前まで思っていたのだが……結果は後方へと弾き飛ばされた(ボール)には誰も追いつく事が出来ず、そのまま落下。

 

 

 

 

 

 

 

【サーーービスエェェェェス!!!】

 

 

 

 

 

 

初っ端のサーブで点を獲った事により、大きな大きな歓声が湧き起こった。

そして、得点板も捲られる。

 

烏野の2-0。

 

声援の大きさは、強豪:和久谷南相手と言う事もあってからか、より大きく響いてきた。

 

出足好調、絶好調と烏野側だけでなく周囲全体にも、追い風は烏野にある、と確信させる程のものだった。

 

 

「ナーーイス影山っ!」

「ナイスサーブ! 影山!」

「飛雄ナイスッ!」

「―――ウス!」

 

 

影山は、何度も思う。完璧で全てイメージ通りだった、と。

 

心技体全て揃ったから出来た一撃だ、と影山自身も、ストイックな影山自身であっても100点をつけたくなるようなサーブだった。

 

そして、口には出さないが及川・火神と言った自分より上に立っているであろう相手のサーブにも負けてない、とより強く頭で、身体で、心で、魂で思った。

 

いつの日か、その背を追いかけ、掴み、追い越せる様に……。

 

 

 

「うひぃ……、めっちゃ、ひゅんっ! って、なった! ひゅんっ!! って。頭吹き飛ぶかと思った!! こえぇぇ!」

「―――――テメェじゃねーんだボゲェ!! 試合でマジでぶつけるかボゲェ!」

 

 

余韻に浸る間もなく……丁度その時、影山の超殺人サーブを背後からヒシヒシと感じていた日向は思わず安堵の余り盛大にため息を聞いて、影山は憤慨。

当然だ。頭が吹き飛ぶと言う事はネットを超えすらしないミスサーブだから。

だからこそ、日向の声はより影山の脳内に入り込み、盛大に抗議を飛ばしたのである。

 

何よりも、後頭部にぶつけるのは日向の方だ、と。………まぁ、影山自身も何度かぶち当てたい気分になる事はあるが、実際に狙ってやったりはしないし、高確率で強サーブが決まるから大丈夫だ。多分。

 

 

 

「うおっ! どうすんよ。初めてじゃねーか? いきなり取れなかったのって!」

「ヤベーヤベー。今のサーブヤベー。見ただけでゾクッ! ってなった! 強ぇって解ってても実物は更にヤベェ!」

「猛さんが吹き飛ばされたぁぁぁ!?」

「余裕感魅せつけ過ぎたんじゃないか? 相手に良い具合にプレッシャーになる事もあるが、それが余計な力に変えて、ってパターンもあると思う」

 

「あーーはいはいはいはい、今のはオレが悪かった悪かった。修正する。それに最初は固くなるもんだっつーの。ちったー励ますとかしてくれよな、全く。それに吹き飛んでねーぞ! 幾らなんでも大袈裟すぎだ!」

 

 

中島にとって想定以上だった。

だけど、冷静さを取り戻し、おくびにも出さない様に出来たのは、仲間たちが勝手に盛り上がってくれたからだ。序盤……どころか殆ど初っ端だ。だからこそ、何もそんなに慌てる時間じゃないのは間違いないのだが、とやや呆れ気味になれた事も功を奏した。

 

だが、あの影山のサーブ、ここまでの強サーブは想定以上、仮にこれまでの経験、自分の引き出しの中を確認し、思い出し、アレと同質のものを連想するとすれば、やはり青葉城西の及川だろうか。

 

元々影山の出身校は北川第一中学出身。……つまり及川の後輩だ。

 

高校こそ違うが、あの及川と同じ中学。歳は2歳離れているから実質一緒に練習した期間は一年程度だったとしても、その背を見て練習し続けてきたとするなら、迫ってきたって不思議じゃない。

そもそも、コート上の王様、つまり天才だと名高い男なのだ。これくらいしてきても不思議じゃない。

※コート上の王様の本当の意味を中島は知らない。

 

 

 

「だいっじょうぶだいじょうぶ! 今のでちゃんと情報更新した。次にオレんトコ来たら、今度はきっちり拾って繋いで見せるからよ。――――勿論、Aパスで」

 

 

 

手をぽんぽん、と叩きながら笑顔で皆にそういう。

影山の強打を前にして、動じていたのは殆ど一瞬。

 

例え試合序盤も序盤だったとしても、直ぐに見た目立て直す雰囲気は見事だ。

 

仲間たちも、次第に落ち着き、良い意味で盛り上がりをみせだす。

 

 

「さぁ、こっからだ! 粘って粘って食らいついていくぞ!」

「うぇーーーい!」

「ハイ!!」

「おうっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……試合一発目の強打。ビッグサーバーを宛がうローテは当然デカいメリットがある。決まれば勢いに乗る事だって出来るだろうし、最初の一発だ。例えミスしたとしても問題ねぇ。そのミスで修正できるし、何より固さを取る切っ掛けにもなったりするからな。………それにやっぱ一番は相手にいろんな意味で刷り込み(・・・・)を与える事が出来る面がでけぇ」

「刷り込み、ですか?」

 

 

烏養は中島を始め、和久谷南のメンバーを見ながら言った。

最初こそは、盛大にガッツポーズ。最高の出だしだと選手と共に大盛り上がり……だったが、和久谷南の様子を改めて見て、諸手を挙げて喜ぶにはまだ早いと冷静になった様だ。

 

 

 

「前に、青城。及川のサーブん時に西谷が受けた場面があっただろ? 先生。基本的にはアレと一緒だ」

「前……、青城……! ああ、狙って西谷君を狙ったやつですか」

「ああ、それだ。―――あん時 西谷がもしも、取れなかったら他の面子に与える精神的ダメージはデカかっただろうぜ。リベロが取れないものを自分達が取れるのか、ってな」

 

 

今でも思い返せば直ぐに頭の中に出てくる。

完璧に上げて見せた西谷の姿。

レシーブ力は、西谷、澤村、火神と抜群の守備力を誇る連中が揃っては居るが、やはりそれでもリベロからのサービスエースともなれば、どんなに鈍感なヤツだったとしても、乱すだろう。

―――それと同時に烏養が思うのは……ひょっとして、(良い意味で)火神は笑っているかもしれない。西谷も(良い風に)ムキになって向上するかもしれない、と。

この時点で烏野は普通じゃないだろ、と思いたくもなってくるが頼りになる証拠だと笑う。

 

 

 

「んで、話を戻すが和久南の連中だ。チームの主軸であり主将でもある3年の中島。序盤だっつっても、アイツが取れなかったサーブだ。ブレイクだし、もうちっとは動揺して欲しかったってのが本音なんだけど、な」

「……常に県上位に居る実力校、と言う事ですね。技術面は勿論精神力面も。簡単には崩れない」

 

 

先ほど言った通り、正直序盤も序盤、更に言えばファーストサーブ。

そこで最高の形で切り込めた時点でヨシとすべきだとは思うが、安定感と完成度の高さを垣間見た気がして、烏養は苦笑いをしたのだ。

武田も、烏養が言っている意味を理解し、改めて気を引き締め直すのだった。

 

 

 

 

 

 

【だいっじょうぶだいじょうぶ! 今ので更新した。次にオレんトコ来たら、今度はきっちり拾って繋いで見せるからよ。――――勿論、Aパスで】

 

 

中島のこの言葉に耳を大きくするのは当然影山だ。

 

あのサーブ……影山自身は会心の一撃だと自覚しており、今までのサーブ、練習を含めたサーブでもトップクラスの出来だと自覚している。

サービスエースの手応えは当然、ノータッチエースも行けると本能では感じたが、あの中島は入り込んでいた。

確かに、弾いてしまった様だが、それでも尚あの余裕を見せると言う事はハッタリではない。

と言うより、影山のプライドに触った。

 

勿論Aパスで取る、と言う言葉を聞いて特に。

 

 

「飛雄。今のはチームの士気向上、自分への鼓舞、そんでお前に対する挑発と挑戦、いい具合に混ざってるちょっぴり高度な煽りだよ」

「ッ!(……コブってなんだ? どっかぶつけたのか?)」

 

 

影山の様子を見たら、一目見たら何をどう考えてるのかわかる火神は、笑いながら告げた。

 

 

「だから、変にムキになって力入れすぎるなよ? 試合は始まったばっかりなんだ」

 

 

楽しく行こうぜ。

そう言わんばかりに歯を見せて笑い、その笑みで占めた。

 

 

「―――アリャ??」

 

 

中島も火神の声がその耳に届いたのだろう、実に的確に考えを読まれて思わず目を白黒させた。声も出てしまった。

だからだろうか、火神と目が合った。

 

目が合った事に互いが気付き、そして火神はその目を決して逸らせずに真正面から受け止めて――――。

 

 

にっ!

 

 

屈託のない笑みで返した。

それは心理戦に持ち込む様な、裏表が一切読めない様な、そんな腹の中の探り合いではなく、ただただ純粋な笑み。

 

心理戦に関しては中島も幾度も体験している。ちょっとした声掛け、狙い所、煽り。些細な事であってもそれを利用してきた。

そのどれとも違う。

 

 

 

「はっは――――! (こりゃ、面白い! カイブツ君(・・・・・)、見つけちゃったかもなぁ)」

 

 

 

火神誠也。

知っている。烏野の中でもトップクラスな要注意人物。

と言うか、今年の1年もれなく大体がヤバい。

何が出てくるか分からないビックリ箱。

 

下手したら、ジュラシック(・・・・・・)パーク(・・・)並みかもしれない。

 

 

 

「勿論、違う意味で、だけどな。……あっちと一緒に出来るか。でも、気合入るねぇ、全く」

 

 

 

中島は同じく笑い返しながら―――あの強打に備える。

 

 

 

影山の2本目を。

 

 

【ナイッサー!!】

【さ、こーーーーい!!】

 

 

火神のおかげ? で挑発も煽りも効かなかっただろうから、ちょっとも弱まってない、あのままのサーブが来る事だろう。

 

 

「(やれやれ。でもまぁ、こんだけ格好つけたんだ。……これでもし、オレのトコに来て捕れなかったら……)」

 

 

強力な、強烈な一発が来る。

サーブトスで(ボール)が高く上がり、影山の助走から跳躍、全てが先ほどと全く同じだ。

未来予知をしたかの様にハッキリと見えた。

 

 

「最高に格好悪いよなぁ!」

 

 

強烈な一発が現実になった。だが、コースは先ほどよりも更に際どくなっており、威力は同等であっても取りにくさは更に増した感覚だ。

 

だが、中島は気合一閃。

 

先ほどは捉えきれなかった(ボール)を今度は絶対に捕る。その気合を以て、迎え撃った。ドパッ!! と乾いて、それでいて鈍い轟音が響く。それは先ほどの時と同じではない。レシーブに関しては同じではない。

しっかりと(ボール)を腕の芯で捕らえた音だ。

 

 

 

「!(クソッ!)」

「(っ~~、キョーレツ!!)」

 

 

 

中島は見事に上げて見せた。

それも宣言通り、セッター花山が最も取りやすいAパス。高さも丁度良い感じだ。

 

影山も会心の一撃がもう一度出た、と思えた。それでも拾われた。いい顔はしなかった。

だが、今回ばかりは中島のレシーブが天晴だろう。

 

 

そして、他のメンバーも中島が取ると信じて疑わなかった様子。

流れる動きでそれぞれが動き出した。

 

 

「ッ! ッッ!!」

 

 

入り乱れる選手陣。

バックからレフトからライトから、攻撃の選択肢が多い。

目まぐるしく動く相手に、頭の中がこんがらがりそうになっているのは、日向だ。傍から見てもよく解る。全てのフェイントに引っかかってる、と言う印象だろうか。

 

 

「リードブロック!」

「ッ!! おう!!」

 

 

無論、日向の様子は直ぐ横で一緒に構えている火神にも筒抜けだ。

なので、気付けに大きな声で【リードブロック】と叫んだ。

それは、(ボール)を見てから跳ぶブロック。

 

日向の場合は、他人より、より早く跳ばなければ空中では勝負出来ない。

ヨーイ・ドン! だと、どうしても相手の身長、指高の差で負けてしまう。跳躍し、最高到達点まで上がるのに他より時間がコンマレベルで掛かるから圧倒的に不利。

つまり少しでも遅れたら、届かない位置から打たれると言う事だ。空中戦で勝ちたい、と豪語する日向にとって、それはかなり堪える……のだが、当然日向の100%の実力で跳躍しないと結局は相手に届かないのだ。

 

どちらかを器用に使い分け、身体を動かす事なんて芸当も日向はまだ出来ないのだから、不利であったとしてもリードブロックを優先させた。

 

それに不利なだけだ。

十分勝負は出来る。

 

 

「! こっちだ!」

「っしゃああ!!」

 

 

日向の体躯の差を補って余りある反射神経を駆使すれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うお! うおおお!」

「あのパイナポーヘッドが後ろから回り込んでる! 速ぇぇ!!」

「いやいや、烏野の(ブロック)も負けてねぇぞ! 2枚ブロックだ! 追いつきそうだ!」

 

 

 

時間差で入り乱れる攻撃陣。

だが、リードブロックに注視した火神・日向は動じない(日向は途中から)。

正確に正解のみを掬い取る。

 

パイナポーヘッド……川渡が素早く、鋭く入り込み、彼が打つのを確信して追いかけた。

 

 

「! (ワンチは……無理)」

 

 

相手が早かった事と、コートの横幅目いっぱい使われた事もあり、止めるブロックも触るブロックも分が悪いと判断した火神は、大きく息を吸い込み。

 

 

「ストレートっっ!!」

「!」

 

 

【ストレート】と叫んだ。

その後ろに守護する者に、西谷に託してコースを絞った。

 

 

「んがっっ!!」

「んんっっ!!」

 

 

火神・日向のブロックは完全にクロス側を遮断。

 

 

「ちぃっ!! (コイツら反応はええなオイ!!)」

 

 

狙って打つのではなく、打たされて打つスパイクは、それはそれでストレスがたまると言うものだ。

だが、打たされたからと言って、コースを絞られたからと言って手打ちな軟打にする訳にはいかない。

 

 

 

「オラァァッ!!」

 

 

 

川渡は、全身全霊を籠め、ストレートを打ち放った。

こちらも最初のスパイクだと言うのに、ナイスな高威力とキレキレのコース。

 

 

「ッッしゃあああ!!」

 

 

西谷自身も当然最初から気合は最高潮。

影山が漢気ある強烈な一発を見舞ったのだ。

更に加えて前衛陣。空中戦を戦えない西谷に代わり、出来うる最善をして見せた。時間差攻撃であっても、一切ひるむ事なく。

 

ここまでお膳立てされて、取れなければ守護神(リベロ)失格だ! と西谷は己を鼓舞し、鋭い重みのあるスパイクに飛びついた。

 

 

「んがァッッ、くっそがァァっっ!!」

 

 

捕る事は出来た。

だが、その(ボール)は大きく跳ね返り、相手のコートへと返っていく。

 

拾えた時点でスーパーレシーブに分類される程のモノだったが、それで西谷が良しとする訳がなく。

 

 

「スマン! 誠也! 翔陽!! ナイスコースだったのに、捉え切れなかった!!」

「十分です! ナイスレシーブ!! 翔陽、もっかい来る! 集中!」

「おうよっ!!」

 

 

大きく大きく孤を描く(ボール)は、相手に攻撃の為の備えをする十分な時間を与えた。

そして、またコンビネーションバレーが始まる。

 

 

 

「わひゃぁ、目まぐるしすぎ!! 息すんの忘れそう!!」

「後ろ、その更に後ろから! でも、なんか西谷先輩が凄くて!! でも、返っちゃってチャンスボールで!!」

「……時間差、冷静にストレート側を開けて、西谷がいるそっちに打たせたか。あの一瞬で良くもまぁ、やるもんだな……、でも、集中しろよ! もっかい来るぞ!!」

 

 

 

 

 

余裕を持って相手リベロ秋保が(ボール)の落下点へと入る。

そして、セッター花山も繋ぐ(ボール)をどうセットするか頭の中でシミュレートし……決めた。

 

 

「猛!!」

 

 

選んだのは、主将猛のバックレフトからのバックアタック。

日向と火神が十分それに追いつき、手を伸ばしたが……。

 

 

「!!」

 

 

バチッ! と乾いた音が響き―――(ボール)はライトサイド側ラインを超えて、ブロックアウト。

 

 

「猛!!」

「ナイスキー!!」

「おおっしゃああ!! ガンガン行くぞ!」

 

 

見事に手の先を狙われ、完璧に当てられた。

それも、バックアタックと言うブロックから離れた場所からの一撃でだ。狙い過ぎて弱くなれば、押し切られる可能性もあると言うのに、強打で、取るのが難しい位置に、ピンポイントで狙われた。

 

 

そして、2階席……上から見ていたからこそ、よりそれを正確に認識する事が出来た。特にそれなりに経験者である嶋田は当然ながら。

 

 

「和久南の熟練感がすげぇ、って思ってたが……、そん中で一番厄介なのは、主将か……まだ試合序盤、それもたった1発だったんだけど、正直メチャクチャ嫌な感じがした」

「え? それってどういう事ですか??」

「技術で高さをカバー。日向が高さを素早さと跳躍、影山でカバーして変人速攻に仕立てあげた様に、あっちは技術、ブロックを利用して巧なブロックアウトで点を決めてきてる。下手に手を出したら、そのまんま狙われて決められる。だからと言って手を出さなかったらそのまま打ち抜かれる。レシーブもそれを意識しなきゃだから、考える事が増えて頭が痛くなってくるよ。他にもフェイントとか軟打だってあるんだし」

「ひぇぇぇ……!!」

「よく解んないけど、あんな可愛い顔してヤル事イヤらしい、って事か!」

 

 

嶋田の説明を聞いて谷地は何とか、素人な冴子は説明では解らなくとも、雰囲気で相手がヤバい、と言う事だけは認識した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏養は苦虫をかみつぶしたような顔をして唸る。

予想はしていた。だが、それでも予想通りで喜ぶ様な事じゃない。

 

 

「やっぱ、ここで主将(アイツ)を使ってくるか……」

「――――今の、今の一発で僕にもわかりました。恐ろしく空中戦に長けている、と。中島君のあの空中でのテクニック……、コンビネーションと同じく厄介極まりない、ですね」

 

 

今の攻防。壁は日向・火神の1年コンビだ。

ひょっとしたら、相乗効果も相まってドシャットも狙えたのでは? より良い流れを生むのでは? と欲が出てしまったが、ものの見事に日向の手の端を狙われてしまって取り返された。

まだ、こちら側が1点リードしているとはいえ、流れを断ち切るには申し分ないプレイだ。

 

 

 

「中島猛、か。オレもビデオで何べんか確認した。薄々、そんでもって今日、確信できたよ。……もしかしたら、じゃねぇ。間違いなくプレースタイルが似てやがる。参考にして練習を重ねたか」

「え?」

 

 

武田の疑問符に対し、烏養は少しだけ懐かしむ様な顔をして告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――烏野に居た男。かつての【小さな巨人】に、だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身の祖父、烏養一繋が監督だった時代―――見事全国へ、春高へと駒を進めた時のエース。

 

日向の絶対的な存在でもある人呼んで【小さな巨人】

 

中島が似ている、と称するのは時代を経て、コーチとなった前監督の孫、烏養繋心だ。

 

 

決して高くない背丈。

それでも宙を飛び、自分よりデカい相手と渡り合う。

 

その武器は、高さもそうだが、無い物強請りをする事無く、例え背丈で敵わなくても戦える技術を磨き、この場に立っている。

 

確かに王者:白鳥沢には、後塵を拝し続けていたが、それでもレベルの高い宮城県高校バレーボールの中で、トップクラスの強豪校として君臨しているのだ。

その烏養の目に、見た事がある小さな巨人(あの男)とダブって見せても不思議ではない。

 

 

「翔陽、今狙われたな。手の端。確実に」

「――――ああ、おれも解ってた。偶然とかじゃない。手の端、狙われた」

 

 

悔しそうにしつつも、それ以上に驚きを見せるのは日向だ。高さは十分だった。負けないと意気込んだ。

でも、あの瞬間、ほんの一瞬に過ぎない時の狭間で確かに感じた。

 

ブロックが良ければ良い程、技術あるスパイカーからすれば、当てやすい壁となってしまうと言うが、あの中島は日向だから狙ったのではない。誰に対しても、どんな壁だったとしても、打ちきってくると思えた。

 

 

 

「よっしゃああ、猛ナイス猛っっ!!!」

「兄ちゃんナイス!! ナイス!!」

「いけーーー! 猛ぅぅゥッ!! 和久南ンンンッ!!」

「いけいけーーー!!」

 

 

 

日向の変人速攻を見て呆気にとられ、影山の豪速サーブを見て放心しかけ、序盤も序盤、最序盤だけど、連続ポイントを許してしまった事に意気消沈しかけていたかに見えた和久南名物、家族応援団だったが。

 

驚き、目を見張り、声を出すのを忘れてしまっていただけで、直ぐに息を吹き返した。

他の誰でもない、息子・兄・弟である中島猛が流れを切ったのだから、当然だ。

 

 

 

 

「(――――そう、こなくっちゃ)」

 

 

 

 

 

気合は当然、後は高い技術。小さな巨人と呼ばれたあの男に似ていると呼ばれる男。

間近で見て嬉しさが倍増した。

 

 

よくよく思い出してみれば、そう言えば、近頃は自重をしていたのかもしれない。

あの合宿を経た後くらいから自重し過ぎていたかもしれない。

 

 

烏野高校に入り、排球(ハイキュー)部に入り、様々な()を、眩く煌めく無数の光たちを前にし続け、楽しくて楽しくて、自制できずにはしゃぎまわっていたあの頃。

たった数ヵ月程度に過ぎないかもしれないが、正直その期間の間に、はしゃぐ子供から大人に、……大人しくなり過ぎてた様な気がした。

※ 他の意見を集計した訳ではなく、本人の感想である。

 

 

 

「そう、こなくっちゃ!」

 

 

 

唯我独尊にならない程度に、周りとの連携やコミュニケーションは確実に、完璧に取る事を大前提にしつつ……喜怒哀楽の【楽】を全面に持ってきて良いのではないか。

 

……正直、本当の意味での楽以外の感情があるのか? と一瞬疑問に思ってしまったが、それはそれ、これはこれ、だ。

 

兎にも角にも、堪能できる機会なのだ。頭で心で、身体全体で和久谷南を堪能する事が出来るのは今しかない。

 

もう、バレーを絶対にプレイする事はないであろう、かつての烏野の小さな巨人に似ている男、中島猛を堪能しよう。

 

その果てに待っている男(・・・・・・)の事は、今は頭の片隅に追いやって。

火神誠也は、初心に還ろうと決意。

 

 

「飛雄!」

「ッ――! おう」

 

 

火神は影山に声をかけた。

 

日向が大人しく、火神がはしゃぐと言ういつもと逆な気もしたが、それ以上に得体の知れない圧を感じさせられた。

 

日向と言えば、この男も時折見せる圧に似た何かを感じさせられる。2人は似てないが何処では確かに似通った部分がある。

 

そう感じながら影山は、一瞬気圧されそうになった。だが、もうそれなりに、付き合いが長いのだ。

いちいち反応していたらキリがない。

 

寧ろ負けるか!問題ない!と、しっかり正面から受け止める。

 

受け止める。

 

この屈託の無い、弾けんばかりの笑顔を。

 

 

 

 

 

(ボール)! (ボール)、オレにもくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――会場が何だか騒がしい気がする。

 

 

王者 白鳥沢の牛島若利の心境である。

当然、今まで、これまでも、これからも常に自分のプレイに集中し、余計な雑念を払って、全身全霊で赴いてきたのだが、それでもこの何だか騒がしい気配は感じざるを得なかった。

 

 

 

白鳥沢 VS 白水館

 

 

 

無論、試合に悪影響を及ぼす様なら即交代させられても文句は言えないので、そんな無様は当然晒さない。

 

 

「…………」

 

 

でも、ほんの僅か。反射的に見たり、何かにつられて視線を動かしたりする程度に見てしまう。

その根源部分を。

 

何処が騒がしいのか、当然解っている。

何故騒がしくなるのか、それもある意味では解っている。

 

 

和久谷南 VS 烏野

 

 

下馬評通りで言えば、有利なのは和久谷南だろう。

三年が全員残っている事やIH予選の際もベスト4まで残ったチームだ。

 

だが、物事はそう単純に測れる事ではない。

特に烏野と言うチームは猶更にだ。

 

烏野はIH予選では確かにベスト8を決める試合で青葉城西に敗北し、好成績を残す事は出来なかったかもしれない。……が、それは過去の話(・・・・)だ。

今大会春高予選では、同じくIH予選のベスト4条善寺を破り駆け上がってきているまさにダークホース。

駆けあがってくると言う意見も多くなりつつある。

 

 

「牛島さん!」

「ああ――――」

 

 

だが、そんなものは関係ない。

牛島は、助走から跳躍、そしてスパイク。全ていつも通りに熟す。

全国3本指に入る大エース。その実力を遺憾なく発揮。他を寄せ付けず黙らせる圧倒的火力で穿つ。

 

 

 

「白布」

「―――はい」

 

 

誰が来ようとも、関係ない。

 

 

 

今年(・・)の話をしましょう。未来(さき)は、まだ誰にも解らないですから】

 

 

 

そう、この未来(さき)どのチームが上がってきたとしても、関係ない。

 

 

 

「次も寄越せ」

 

 

 

騒がしさに気を取られるのは、もう終わり。

牛島若利は、ただ淡々と研ぎ澄まし続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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