王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅れましてスミマセン………m(__)m

コロナのせいで、コロナのせいで、大変大変で………


私のスマホの歩数計、ここ数ヵ月一日3万歩が基本な様です。一重に人員不足つまりコロナのせいですね……。忙しいのは良い事だ、と割り切っちゃってますが、結構大変です……。

はい、いい訳はここまでにします!
遅れてすみません!
これからも何とか頑張っていきます!


第151話 和久谷南戦①

 

 

「まぁ、取り合えず理由は解ったけど……、でも こういうトコでいきなり大声で奇声発するの止めてくれよな翔陽……。今度は一体何やらかしたんだ? って不安になるから」

「―――――スミマセン」

 

 

日向が大声で奇声を上げた理由については火神は納得。

 

納得はしたのだが――――それと同時に少々落胆もした。

 

原因、それは伊達工の青根からの宣戦布告の場面だったからだ。

どうせならば、立ち会いたかった、と言うのが火神の本心。

 

日向に割ときつめな苦言を呈しているのも、半ば八つ当たりだったりする。

 

 

「日向に言う為に待ってたって感じだったよ、あの伊達工の人……」

「青根さんにしっかりマークされちゃったみたいだって事だよなぁ翔陽も」

 

 

鉢合わせしていた山口は目を白黒させていた。

伊達工と言えば勝利したのは間違いないが、その実力は本物。特筆すべき点は、間違いなく県内トップクラスの【鉄壁】と称されるブロックだろう。

その要であり、筆頭なのが伊達工の青根だから。

 

加えて日向よりも遥かに大きい、何ならこの場の誰よりも大きな男。

 

その眉なし面はハッキリ言って強面。どう言い繕っても怖い顔。雰囲気的に言えば圧倒的格上感満載。

そんな相手が、わざわざ日向が来るまで待っていたのだから、山口の様に驚くのも無理はない。

 

 

「でも、青根さんも日向ばかりに目が行ってちゃ駄目だ」

「え? それってどういう……?」

「ほら。翔陽って攻撃面で言えば最大の武器は()だろ? だから、あまり目が行き過ぎるのも悪手だな、って。それに意識しないようにしても、引っかかってしまうくらい強烈な存在感持ちだから、同情はするけどね。とは言っても烏野(ウチ)的には万々歳かもだけど」

「いやいや、日向の囮に関しては俺だって十分過ぎる程解ってるよ。いつも練習してるんだから。今回のって、そっちじゃなくない?」

 

 

山口が気になったのはプレイ中の日向ではなく、今回の日向を注視していた青根に対して、火神が駄目だ、と言った理由についてだ。

試合ならまだしも、要注意人物なのだからある程度は警戒するのが普通だ、と言うのが山口の考えだから。

 

 

「ああ、なるほど。――――それも簡単な事で、きっと同じく悪手だ。だって明日の対戦相手は烏野じゃない(・・・・・・)から」

 

 

火神はそう言うと不敵に笑った。

 

 

「負けたし、偉そうに言うつもりは無いけど、余所見してて、勝てる程生易しい相手じゃないのは解るよ。次の伊達工の相手は」

「―――――……成程。そりゃまぁ、確かに」

 

 

 

伊達工の次の相手は県内No.2の高校……青葉城西だ。

相手高校を見れば、火神が言っている意味も解る。逆に何で解らなかった? と思ってしまう程だ。

 

青葉城西―――IH予選で負けた相手だ。その強さは、レギュラーじゃないが山口も痛い程解っている。悔しくて、流した涙を忘れていない。

 

 

そんな時だ。

 

 

 

「おい。Bコートの試合終わったぞ」

 

 

笛の音と共に、影山の声が届く。

Bコートの試合の勝者が、次の試合の相手だ。

 

火神にとってすれば、もう、視るまでもない。確認するまでもない。

 

 

「和久谷南高校」

 

 

 

 

Bコート第4試合終了。

セットカウント2-0

25-22

25-19

 

勝者:和久谷南高校

 

 

 

 

 

何処が上がってくるのか、解ってる。

絶対とは言えないかもしれないが、もう絶対と言って良いだろう。

和久谷南は、扇商を下して上がってきたのだから。

 

 

「大方の予想通り、IH予選でもベスト4に食い込んでるチーム」

「烏養コーチも要注意だ、って言ってた所の1つだな……」

 

 

次の相手だと、メンバー全員が目を光らせていたその時だ。

 

 

 

 

 

【いいぞーいいぞー猛!!】

 

 

 

 

 

声援の中でも一際賑やかで、一際明るく、一際大きな声が体育館内に響いた。

 

 

 

「いいぞいいぞ猛!」

「ナイスキー! 猛!!」

「猛ヤッタ―――!!」

 

 

 

年齢層の幅が広い。中年から赤子までの幅広さだ。

と言うより、見た目からわかる通り、あの応援団は和久南の選手の身内、家族だろう。

 

 

「出ました和久南名物【家族応援団!】」

「今年も熱入ってるな~~、流石家族。息ぴったりな応援、年季も重々―――それになんていったって」

「「「妹がかわいい」」

 

 

和久谷南の試合が行われる時。

高確率で揃っているのが、今や名物と化しているあの家族応援団。

 

誰の家族か? は聞くまでもない。

 

整列し、挨拶を終えた後に、和久谷南の一人が大きく拳を突き上げて、あの応援に、声援に応えている。

 

 

「オオーーー!」

 

 

和久谷南高校 バレー部主将

中島 猛の家族である。

 

 

 

 

 

 

「火神。和久谷南(向こう)については、知ってんのか?」

「おん? ちょっとなら映像見たし、後は名前と烏養コーチが言ってた範囲内なら解るけど、なんで? 飛雄もそれくらいなら知ってるだろ」

「あぁ、コーチが要注意だって言ってた程度は。……でもお前の場合、条善寺ん時だ。気づけば相手を知ってた、って感じだったから」

「あ――――……、まぁ、照島さん(条善寺)とはちょっとした出会い(絡み)があったってだけで、あの人達と面識はないよ」

 

 

照島の時の事を思い返して火神は苦笑いをする。

出会いとしては正直良い分類には入らない珍しい展開だとも言える。清水が困っていたのだから、それを楽しむなんて正直ゲスだと。

 

ゲスはゲスでも、得意なのはブロックの種だけの方が良いから。

 

 

「高さは、確かに見た感じソレほど高くない。でも、守備力に定評があるチーム。とにかく拾って拾って繋ぐチーム。……これまでの練習試合で言えば、音駒を思い浮かべながら試合する、って考えれば良いんじゃないかな」

「――――――成程。仮想・音駒にうってつけだな」

 

 

イメージトレーニングは影山も特にしている事だ。

試合前にも同じく。あの神業を生み出しているのも、イメージ力が相応に強いから、と言えるかもしれない。

 

 

「……音駒イメージとか、メチャクチャ疲れそうで嫌なんですけど……」

「研磨さんも、月島みたいな事言いそうだな……。もし、あの人が烏野(ウチ)で一緒に和久谷南を相手にするってなった時」

 

 

月島がどこかゲッソリ気味に呟くのを見て、火神は苦笑いをした。

何処となく似ている思考がある烏野の月島と音駒の孤爪。楽すべき所は楽したい感満載な所も特にだ。

脳裏に浮かぶ2人の姿は、実にシンクロしていると言って良い。それらがまた、笑いを誘う。

 

 

「明日も勝つぞーーーーー! 猛!!」

「優勝行けるぞ!! 猛!!」

 

「おおっしゃあ――――っ!!」

 

 

音駒想像をしている時も、家族からの声援が止む事はない。

それもしっかり耳に入った月島は、更に苦い顔をしながらつぶやく。

 

 

 

「家族総出の応援とかもっとムリなんだけど………」

「――――……ああやって、応援に応える月島の姿、全く、全然、想像つかないかな。今度やってみてよ」

「嫌なんですけど。そもそも、やってみてよ、って何?」

 

 

 

まず間違いなくやってくるであろう、月島の兄の事を思い浮かべながら、火神は笑う。

月島も、そんな火神の笑みにある意味嫌な予感がしたので、帰ったら兄にはしっかり釘さしておこう、と誓うのだった。―――叶わない願いではあるが。

 

 

そして、難しく考えるのも、難しい事を考えるのも苦手で嫌いな日向は、今はただただ1つだけに集中。

自分達がすべき事は何なのかを。

そして、青根が止めると宣戦布告をしてきた事に対して、出来る事は1つだ。

 

 

 

「よっし!! 伊達工と戦う為にはまず! 和久南(あいつら)に勝つ!!」

 

 

 

先の伊達工よりもまずは和久谷南。

目の前の対戦相手の1つ1つ、一度も負けずに勝ち続ける事。

それだけだ。

 

 

 

 

 

宮城県 代表決定戦 男子

 

 

 

ベスト8

 

 

□ 白鳥沢

□ 青葉城西

□ 和久谷南

□ 烏野

□ 伊達工

□ 翠川

□ 大山

□ 新山

 

 

―――春高出場枠 1校のみ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野高校 第一体育館内。

 

 

 

「1日目、お疲れさまでした!」

【したっ!!】

 

 

皆 無事に、烏野高校へと帰還した。

 

明日戦う相手をその目にしっかりと焼き付けた後は、疲労した身体を休めるだけだ。

無論、体力バカ達が数名いるので、強制的にも休ませなければならない、と言う面もある。

何故ならば……。

 

 

「明日は勝てば2連戦(・・・)です。疲れを残さない様にしましょう!」

 

 

武田が言う様に、明日は2試合連続となる。

加えてベスト8に食い込む程のチームとの連戦だ。

厳しい戦いになる事は容易に想像がつく。それこそ、梟谷グループとの合宿と何ら遜色ない程に。

 

 

「あ~~、一応言っとくぞ。次の相手だ」

 

 

武田の挨拶が終わった後、烏養は皆を呼び座らせた。

調べられる範囲ではあるが、烏養が見た限り、知った限りの情報。次の相手について、改めて説明をする為だ。

 

 

「次の相手、和久南は今までの相手と違ってウチと同じく3年が残ってるチームだ。つまり、IHを経て、完成度はより仕上がってるチームだと言って良い」

 

 

烏野にも言える事だが、3年がいる現状と、いない現状ではレベルが違うのは当然だ。

確かに、3名と数は少ない。それでも精神的支柱であるのは紛れもなく主将澤村。

加えてエースの東峰の存在感も忘れてはならない。

そして、当然ながら菅原。レギュラーではないかもしれないが、彼もまた皆を支えてくれて、纏めてくれている存在だ。

3年の3人が、仮に口では何と言おうと、今の1,2年がそういう認識を持っている。

 

 

その心強さは、当然3年が残ってる和久谷南も同じ事。

 

 

「守備力と粘り強さは音駒に近い」

【ゲッ……】

 

 

音駒との1戦1戦を思い出し、思わず顔を引きつらせる。

何故なら、音駒との試合は ほぼ100%……25点じゃ終わらないのだ。

絶対に25点以上、即ちデュースにもつれ込む試合になる。

初期の40点代の競り合いこそ稀ではあるが、両チーム半ば意地と意地のぶつかり合いになるので、苦々しい顔になってしまうのは無理もない。普段の練習試合の何倍も疲れる。

 

そんな中でも笑顔でプレイするのもいるが、それはそれ、である。

 

 

「まぁ、その音駒に一度とはいえお前らは勝ったんだ。……勝率でいや圧倒的に音駒が上だが、一応今んトコ勝ち越してるお前らだ。相性って意味じゃ悪くないかもしれねぇが、この手の相手は公式戦の中じゃ初。長期戦だって想定するから、メンバーチェンジも考えてる。2戦する(・・・・)、って当然考えてっからな」

 

 

そう、負ける事なんか想定してる訳がない。

和久谷南に勝利し、その次の相手とも戦う。青葉城西か伊達工業か、どちらになるかはまだまだ解らないが、どちらが来たとしても、そいつらと戦い、勝利する事しか考えてない。

無論、選手たちも同じだ。指導者陣が弱気発言をする訳にもいかないだろう。

 

「―――ってな訳でだ、攻撃が上手く決まんなくても短気起こすなよ? とくにハイテンション&単細胞組。持久戦+公式戦だ。保護者組にも負担かけねーよーに」

【!!】

 

 

烏養の言葉を聞き、直ぐに澤村は断言した。

無論、1年リーダーを任せられている火神も同じく。

 

 

「大丈夫です。フォローしますんで」

「――――ですね」

 

 

澤村と火神は大きく頷いた。

その雰囲気の説得力ときたらとんでもない。2人して高校生とは思えない程に。

 

 

「お? とうとう誠也ってば、保護者認めちゃったり!?」

「楽しそうにしてるところあれだけど、大器晩成の自立はどうなったんだっけか? 翔陽」

「ふぐっっ」

成ってない(・・・・・)方の、大器晩成だから、仕方ないんじゃない?」

「う、うっせーな! 月島っ!!」

 

 

日向のチャチャに対して上がる話題が大器晩成Tシャツ。

 

因みにあの文字Tシャツ、日向は修正していない。

そんなお金ない、と言う理由もあるが、次に買う時はちゃんとする! と考えているからだ。

自立、と言う意味でも。

 

 

「――――はぁ、全く。頼りになり過ぎる奴らだよな、クソ。俺なんかより断然」

「……ですね。大人として、少々寂しくもあり、何だか嬉しくもあります。間違いなく、彼らはこの短い時間で飛躍しましたから」

「流石は先生。こっちの言葉の重みってヤツを重々感じてるよ」

 

 

頼りになる選手たちを後目に、烏養と武田は苦笑いをする。

まだまだ短い、今年から始めた関係性ではあるが、それでも成長は喜ばしく感じるし、何より、このメンバーで春高へといきたい。

音駒との練習試合までだ、と当初は言っていた烏養もその気持ちはガッチリと固まって最早離れる事はない。

 

 

 

 

 

そして、全ての話は終わりだ。

後は場をシめるだけ。

 

 

「―――よし、必ず」

 

 

澤村は立ち上がった。

それに皆が続いた。

 

号令をかけるまでもなく自然と円が出来る。

肩を組み、空いた方の腕を前に出し、拳を固める。

 

 

「明日も生き残るぞ」

 

 

皆の気持ちは、心は1つになったと感じた。

気持ちの全てがその顔に表れ、肯定する声が無くても誰もが同じだと汲み取れた。

 

そう、判断した後澤村は大きく大きく息を吸い込み、今日の全てを吐き出す。

 

 

「烏野ファイ!!」

【オ―――ス!!!】

 

 

声量で体育館を揺らし、その場のシメとして完結させた。

 

 

 

 

帰り際。

 

「コーチ」

「! おう。和久南のビデオな。ちゃんとアイツから録画貰ってっから安心しろ。坂之下商店(ウチ)にまで取りに来てくれるか?」

「アス!」

「んじゃ、準備しとくが―――――」

「勿論、身体の休息を優先させますよ。睡眠時間削ったりしません。メシもしっかり食います!」

 

 

烏養が言わんとする事が何なのかを先に読み、火神は笑みを浮かべながら頷いた。

烏養もそれを聞いてニヤッ、と笑う。……元々心配はしていないが、一応の念のためだ。

 

 

「まぁ、お前さんはしっかりし過ぎてる面があるから、実の所心配はあんましてねぇ。……んで、指導者としては情けない気分になるが、火神に対して効果アリな監督は、やっぱ清水さんになってくるからなぁ」

「へ?」

 

 

何でここで清水の名前が出るの? と首をかしげていると、アイコンタクトなのか、最初から打ち合わせでもしていたのか、武田が清水と何やら話をしていて、それを終えてこちら側へとやってきた。

 

 

「………無理しない事」

 

 

短く、一言火神に告げる。

確かに、これは効果はばつぐんだ。

別に烏養や武田の言う事を軽視している訳でもないが、それでも何だか、ずしんっ! と頭、心、魂に響く感じがするのは何故だろう?

 

 

「何なら、家まで付き添っても良い」

「や、そこまでしてもらう訳には………」

 

 

バレー部マネージャーとはいえ、先輩とはいえ家にまで世話に来た日には、家族から物凄い尋問? を受ける羽目になりそうなのは目に見えてるので、火神は苦笑いをしてやんわりと断るのだった。

清水は清水でちゃっかり楽しんでる節がある。何処か楽しそうに笑っていたから。

 

 

 

「火神君も、清水さんの前では形無しと言うか、ちゃんとした後輩ですね」

「……だな」

 

 

 

 

その後、何時の間にやら田中や西谷まで集まってきてそれなりの騒ぎとなった。

会話の内容をしっかり聞かれた訳じゃないので、ある程度の騒ぎ? で収まったが、もしも清水が火神の家まで付き添う、と言うやり取りを聞いていたとしたら――――――――?

そのもしかしたら――――な世界の詳細は、各自の感想に任せ省く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――春高宮城県代表決定戦 2日目―――

 

 

 

 

仙台市体育館には、物々しい雰囲気が漂う。

真に強者と言って良い8つのチームが今からまさに死闘を繰り広げようとしているのだ。その場の雰囲気も、普段の体育館とは重さが違うと言っても決して気のせいなどではないだろう。

 

そして、紛れもなくその筆頭が王者 白鳥沢。

 

王者の白鷲に喰らいつく事が出来るのは果たしてどのチームか。

死闘が間もなく開始される。

 

 

 

 

 

「フレェ――――――フレェ――――――!」

 

 

 

 

 

そして、大事な試合だからこそ、応援側にも熱が更に入る。

(ボール)に触れる事が出来なくとも、コートに降りる事が出来なくとも、選手と共に戦う事は出来る。

 

 

 

 

「たァ――――けェ―――――るゥ――――」

【フレッフレッ! たける! フレッフレッ! 和久南! オオオオオ―――――!!!】

 

 

 

 

それをより顕著に表しているのは、紛れもなく和久谷南側の応援団(家族)だろう。

 

 

「……昨日より増えてない? 弟……かな?」

「互いに大事な試合ですからね。駆けつけたんでしょう」

 

 

7人家族とはかなり多い……と思う。

家族の絆の深さ、心強さはきっと今大会No.1だろう。

 

 

「――――――ッ、ッッ!」

「……なんでキミ、ちょっと羨ましそうなの」

「ああやって、応援される事ってあんまし無かったからなぁ、俺らは」

「? おとーさんもアレ(・・)が良いの?」

「………月島君。他人様の御家庭をアレ(・・)呼ばわりしない」

 

 

家族総出の応援完全NG。

何なら、兄貴一人来るのも駄目だし。

そんな月島だから。

でも、だからと言って応援に対してアレ呼ばわりはいかがなものか。

 

 

「ホレホレ、こっちに集中しろよー、お前ら」

「アス!」

「オス!!」

 

 

澤村の号令を元に、WUに入る面々。

下手に緊張しすぎる事に比べれば、まだ大分マシだと言えるがそれでも規律はしっかりと保たなければならないから。

烏合の衆だったとしても。

 

 

 

「さて、先生。俺らもきっちり気合入れるぜ」

「ええ。……音駒戦を想定したとするなら、当然の備え、ですね」

「おうよ。……昨日は音駒に1回勝ったから、相性は悪くない、って言っちまったが、そう簡単なもんでもないって思いだしたよ。改めて、この和久南ってチームと相対したら」

 

 

 

 

 

 

 

そして、始まる。

 

 

春高宮城県代表決定戦 準々決勝

 

 

烏野高校 VS 和久谷南高校

 

 

 

開戦。

 

 

 

「「お願いします」」

 

 

主将同士の挨拶と固い握手を終えて……。

 

 

 

 

烏野側、応援席では 独特な雰囲気になかなか慣れる事が出来てない谷地は、更に空気が重くなった場面、準々決勝と言う舞台に思わず固唾を吞んでいた。

 

でも、とても頼りになる援軍がやってきてくれる。

 

 

「ちーっす」

「あっ、こんにちは!」

 

 

嶋田マート。

本日のおすすめきゃべつ1玉 97円!

 

 

……はさておき。烏野町内会チームのメンバー嶋田が駆けつけてくれた。

 

 

「おひとりですか?」

「んー、今日は滝ノ上が仕事。午後からならいけるかも、って言ってたけど微妙かなぁ」

 

 

1人であっても、谷地にとっては心強い事極まれり、だ。

バレーの解説もしてくれるし、まだまだ勉強途中な谷地にとって、それだけでもありがたい。

 

 

更に援軍は続く。

 

 

「オォーーー、テンションアガる!! こういうの血が騒ぐよねーっ!」

「!? こんにちはっ!!」

「??? (誰かに、似てる……?)」

 

 

心強い援軍。

今回初観戦者、田中の姉冴子。

 

 

「どーも、龍之介がいつもお世話になってます! 姉の冴子です!」

 

 

ビシッ、と敬礼する姿も様になっている。

嶋田は一体誰に似ているのか? と頭の中で整理整頓していたのだが、田中名、龍之介を聞いてから即座に理解。ピースがバッチリ頭の中で組みあがる。

 

 

「(龍之介、田中の!! 姉!?? めっちゃ似てる)」

「おおーーーい! 龍~~~~! 龍ちゃ~~~~~んっ!」

 

 

その声援? は決して和久南側の家族応援団にも引けを取らない程のもの。

バッチリ届いている。

 

 

「ゲェッ!!?」

「あ!! 姉さん!!」

「おぉ………」

 

 

三者三様な反応。

冴子の事を良く知っている西谷や縁下、そして弟の龍之介。実に解りやすい反応を見せていた。好意的なのか否定的なのか……。

やはり、身内が駆けつけてくれるのは、気恥ずかしいモノがあるのだろう。

当然顔見知りである影山、日向、そして火神も冴子の姿を見て頭を下げて一礼。

特に日向&影山にとっては恩人と言っても差し支えない。東京まで連れて行ってくれた恩義、合宿に参加できた大恩があるから。

 

道中大変だったのはさておき。

 

 

 

 

 

因みにとなりにいた谷地はと言うと……、とある事に気付いて固まる。

タンクトップ姿に革ジャン羽織った冴子の大きく強調・主張されているその豊満な胸の谷間に目が行き……凝視していた――――。

 

そこはやはり谷地さんも女の子。少々コンプレックスに感じていた貧相な身体と比べてしまう。

 

「……! ………!??」

 

見ただけで解る。触るまでもない(セクハラ)。

己のもつモノと冴子がもつモノとの圧倒的質量差を受け、動揺し、世の不平等さに嘆く。

日向の気持ちがちょっぴり解る気分だった。

 

 

 

そんなこんなで、番外で色々とあったが滞りなく試合は始まる。

 

 

 

【お願いしァ―――――す!!】

 

 

 

 

 

選手紹介(スターティング・オーダー)

 

 

 

烏野高校

 

WS(ウィングスパイカー)3年 澤村

WS(ウィングスパイカー)3年 東峰

WS(ウィングスパイカー)1年 火神

MB(ミドルブロッカー)1年 日向

MB(ミドルブロッカー)1年 月島

Li(リベロ)2年 西谷

(セッター) 1年 影山

 

 

 

 

 

 

和久谷南高校

 

 

 

WS(ウィングスパイカー)3年 中島

WS(ウィングスパイカー)3年 川渡

MB(ミドルブロッカー)3年 白石

MB(ミドルブロッカー)3年 鳴子

MB(ミドルブロッカー)1年 松島

Li(リベロ)2年 秋保

(セッター) 3年 花山

 

 

 

 

 

 

「凄く、凄く強そうに見えます」

「ああ、ここまで残ってるチームん中で弱いトコなんて1つもないよ。サァ……2日目だ。生き残れよぉ……」

「やったれ~~~! 気張れよ、お前ら~~~!!」

 

 

 

 

 

和久南のサーブで試合は始まる。

セッター花山のフローターサーブ。

 

 

「「「ナイッサーー!」」」

 

「サッ、コーーーイ!!」

 

 

威力・精度共に特筆すべき点はなく、狙った所にはいくだろう、と言う印象しかない。

無論、試合始まっての最初のいわば様子見の1発目だ。何か隠している力があるかもしれないので、先入観は捨てて、自分のプレイに集中。

 

 

「大地!」

「オーライ!」

 

 

そして、レシーブに定評がある澤村が問題なく処理。

綺麗に影山へとAパスで返す事が出来―――――この形で烏野が繰り出す攻撃は1つしかない。

 

 

 

「よっしゃ! まずは1発だ。速攻で度肝抜いたれ!!」

 

 

 

烏野の代名詞《変人速攻》

 

 

「!!!」

 

 

目も眩む程の速度でコートを駆け、その体躯からは想像できない程の跳躍力で跳び、更には正確無比にその小さな烏目掛けてトスを上げる。

ブロックは1枚、松島が手を伸ばすがそのブロックを切り裂く様に日向の速攻が決まる。

 

後ろで控えていた中島も何とか手を出すが、その(ボール)に追いつく事が出来ない。

芯を捉える事が出来ず、腕を霞めるだけに留まり、後方へと弾き跳んだ。

 

 

一瞬だけ、静まり返る観客席。

だが、烏野側だけは大盛り上がり。

 

 

「オオオッシャアアアア!!」

「日向ナイスキーー!!」

「!!」

 

 

 

観客側、特に家族応援団は、声を出すのも止めて、見入っていた。

今決められたのが速攻である、それをどうにか理解すると同時に驚きの声を上げる。

 

 

「なん!?? なんじゃあ!? 今の!?」

「速攻……? あんな無茶なトスで??」

「まぐれ……かな?」

 

 

初見であれば、誰もがそう思う事を口にする面々。

それを見て、にやりと笑うのが烏野応援側だ。

驚き、怖れ慄き、これが烏野だ、と胸を張る。

 

 

だが、それは観客側の攻防。

選手たちは淡々としていた。

 

 

 

「おーっし、次直ぐ切るぞーーー!」

「ウェーーイ!」

「ハイッ!」

「っしゃあ」

 

 

 

驚く事も無ければ、当然怖れる事もしない。

ただただ、淡々としつつも――――その顔は不敵な笑みを時折浮かべているのが解る。

和久南主将、中島を筆頭に。

 

 

「………? なんだ? 和久南、選手はあの速攻に全く驚いてないな」

 

 

これまでの対戦相手と明らかに違う様子に、不敵な笑みを浮かべていた筈の嶋田は戸惑いを見せる。

 

 

 

「―――誠也の言った通りだった」

「言った通り、って言うかこれだけ目立ってたら、初めて見る、なんてありえないって言っただけだよ。もう、十分注目選手って事だ」

「!! おおおっしゃああ!!」

 

 

準々決勝まで来ているのだ。

相手チームの事は当然分析するし、公式戦だからしっかりとビデオ撮影だってする。

日向の変人速攻、火神や影山と言った個々の能力に長けている者達。

攻守共に隙の少ない主将澤村。

1年たちの影に居る様な印象を受けるが、ここぞに繰り出してくる大砲は、脅威の一言、エース東峰。

中学時代から高いレシーブ力でその名を馳せてきた守護神(リベロ)西谷。

覇気は少ないかもしれないがチーム1の長身であり嫌なブロッカー月島。

 

そして、控えの層だって決して薄くはない。

ムードメーカーでありパワーに定評がある田中。

チームの全体を支えていると言っても過言ではない菅原。

 

山口、縁下、成田、木下……試合出場が少ないので、データは殆ど得られなかったが、決して無視して良い選手は一人としていないだろう、と言うのが烏野の印象だ。

 

即ち、もうここには《堕ちた強豪》はいないと言う事。

 

 

 

 

 

「―――今の烏野を【飛べない烏】なんて呼ぶヤツはもう居ない。烏野は、何が出てくるかわからない云わば、県内一のトンデモ(・・・・)チーム」

 

 

それが中島の烏野に対する印象。

IH予選ではあの白鳥沢を追い詰めた青葉城西に惜敗し、春高予選ではとうとうベスト8まで上がってきた。

 

トーナメント式だ。故に全チームと対戦出来る訳ではない。

だからこそ、中島は思う。

 

 

 

「対戦できるなんて、超ラッキーだ。まさに俺たちは、持ってる(・・・・)

 

 

 

烏野と戦える事に対しての喜び。

確かに驚く事はあるかもしれないが、それ以上に楽しみにしているのだ。

 

 

 

 

「……ふーむ、何処となく火神っぽい考え方だったりするのかもな?」

「え? それってどういう……?」

 

 

何となく中島をはじめ、和久南側が考えて居そうな事が読めた澤村は、1つの結論にたどり着いた。

 

 

「どんだけしんどく辛く、苦しく、ヤバい内容だったとしても、【楽】を全面に持ってくる事が出来るってヤツ? ほら、梟谷の木兎とのエンドレス練習の時とか、常に楽しそうにしてただろ?」

「……………」

 

 

確かに否定できない……と思わず苦虫をかみつぶしたような顔になる火神。

何せ今でも愉しみで楽しみで仕方がないのだ。

和久南と戦える事を何よりも楽しみにしている。

 

 

「あー、成程。確かに言う通りですねー」

「翔陽、うるさい」

 

 

だが、愉しみであると同時に、心配も強くしている。

自分が知る世界での和久南戦ではアクシデントが起きたから。丁度、自分が青葉城西戦でしてしまった時と同じ、ケガと言う名のアクシデント。

それが切っ掛けで、熱く燃える展開があるのは解っているが、だからと言ってケガを良しとなんてできはしないから。

 

 

 

「うーむ、想定通り日向相手にどう動くかは決めてきてるようだな。当然といや、当然だが。―――どっしり自分らのペースを護りつつ、こちらの隙を伺ってくる、って感じだ。まさに音駒。そんで宮城(こっち)で言えば青城か」

「相性は悪くない、と言うのは相手がどっしりと受けて立つ構えなら、それに負けないくらい呼応するのが烏野(ウチ)だから、と言う点でしょうか」

「強ければ強い程より燃えるってか? 俺だったらんなチーム嫌で嫌で仕方ねぇけどな」

 

 

くくく、と笑みを見せる烏養。

そんな烏養の笑みに気付いたのは二階に居る嶋田だ。

 

和久南は、日向の速攻に驚く事が無かったのは嶋田にとっては初めてで、烏養はどうするのか、と気になって見ていた。

 

 

「繋心……、成程解ってた、って感じの顔だな。俺は驚いてばっかなんだが。あの速攻の1発目に相手が驚かないのを見るのって」

「や、やっぱり準々の決勝ともなれば、情報収集力も半端ではない、と!?」

「多分、谷地ちゃんの言う通りだ。そりゃ注目のダークホースっていや、烏野だ。身内贔屓入ってるかもしれないけど、そう見られてたって不思議じゃない。IH予選じゃここまで残れなかったけど、その内容から注目して、注視してきたトコだってあるかもだからなぁ」

 

 

烏養が落ち着いてるのは解った。

何なら笑みを浮かべる程の余裕? もある事も。

 

ならば、選手たちはどうだろう?

 

 

 

「良かったな、日向。ちゃんと証明されて」

「へ? 証明?? それってどういう……」

「昨日、火神も言ってたが、日向が注目されてるってのが今のでも十分解っただろ? つまり、研究とかしてきてるって事だ。いやぁ、日向メチャクチャ警戒されてるなぁ」

「―――――!! アスっっ! オレ、強豪に研究されてます!!」

「えぇ……、そこ、喜ぶ様な事なのかな?」

「まぁまぁ、日向なりの気合の入り方の1つじゃん」

「あはは……まぁ、それは確かに」

 

 

目に解りやすく炎が出てる日向がいる。

可視化できる程に気合が入ってるのが解る。

 

 

「だから、俺らもしっかりしないとなぁ? 特にお前(エース)ッ!」

「うげげっ! なんでボディブローなんだよ、俺に対しては! もっと優しくしてくれよっ!」

「甘えんなボゲェ」

「うわっ……、口調が影山になった!」

 

 

乗せる為に、心得ている点は幾つも持ってる主将・澤村。

但し、東峰に関しては甘く優しい事は言わない。ゼロ距離物理的実力行使(闘魂注入)である。

 

 

 

「影山ナイッサ―!」

「いったれ、殺人サーブ!!」

 

 

気を取り直して、影山サーブからスタート。

烏野でも屈指のビッグサーバー。ブレイクポイントのチャンス。

 

イメージは何度も何度もしてきた。

試合前のサーブで感触も改めて確かめた。

決まる予感しかしないし、持たない。

 

そして、その想像通り、予定通りの出来。

 

サーブの手順(プロセス)の全てが完璧だった。

(ボール)に掛かる手の具合からインパクトの際の縫い目に至るまで。日頃切磋琢磨し、影山にとっての師、及川に勝るとも劣らない火神と言う存在が、影山のサーブを更に高い次元にまで押し上げた。

より強く、より鋭く―――そんなサーブだ。

 

 

 

「(抜群の手応え!!)」

 

 

 

 

影山の会心の一撃(サーブ)

烏野、序盤早々のブレイクポイントとなるか!?

 

 

 


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