王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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条善寺戦、終了です!

遅れてすみません!!
もっと遅れるかも――――と活動報告上げたのですが、想像以上に早くに仕上げる事が出来て良かったです! m(__)m


ここからの試合も大変―――………ですが、何とか頑張ります!



追記。

ご指摘いただいた最後のラリー。
西谷先輩はローテでコートの外に出ていた筈なのに、飛び入り参加している状態だったので、澤村主将が繋いだ、と修正かけました。

報告ありがとうございます!


第150話 条善寺戦⑨

 

「マジかよ!? この場面で懲りずに同時多発位置差(シンクロ)とか!?」

「さっき盛大にミスったの忘れてんのか!? 折角のチャンスボールなのに、無難に行けよ無難に! つーか条善寺だからこそ、無難な攻撃でも十分意表をつける攻撃になる筈なのに」

 

 

条善寺が選んだ攻撃手段、それは皆が言う通り、見た通り、4人が一斉に飛び出す同時多発位置差(シンクロ)攻撃だ。

先ほど、1セット目のセットポイントで盛大にミスをした。タイミングが合わずに(ボール)に触れる事さえ出来ず、セッターが上げた(ボール)は彼方後方へ。

 

つまりは、出来るイメージを持てていない未完成品。見様見真似の為、武器としてまだまだ成立していない攻撃。

条善寺の場合、観客たちが言う様に普段からトリッキー、自由奔放に動き、多彩な攻撃をしてくるから、正攻法であっても十分相手の意表をつける。だからこそ、この場面では無難に速攻―――がセオリーだし、監督でも恐らくそう指示するし、博打の様な方法は取らないと思える……が。

 

 

 

 

「……やるんなら殻、破って見せろ!」

 

 

 

 

失敗した時の事など、一切考えてないのがその表情を見れば一目瞭然。

更に言うならば、いつもの無我夢中で全力で遊んでる―――のではなく、明らかに集中しきっているメンバーを見れば、期待感だって大いに持てる。

 

セオリーを考えたら、普通に考えたら、常識的に……、色々と出そうと思えば湯水の如く出てくる。……だが、それらを押し留めたとしても、その先を、見てみたくなる、一段階大きくなる姿を見たくなる、と思っても仕方がない。穴原は一際大きな声を上げた。

 

 

「……何も考えてない訳じゃない」

 

 

そして、ほぼ同時に三咲も想っていた。

普段の彼らと、今日の彼ら、紛れもなく、間違いなく違うという事に。

はしゃぎ過ぎてて、子供の様にムキになったり、等々な面に関してはいつも通りだと言えるが、それに+αして、集中力が追加されている。

勢いとテンションだけでなく、そこに集中力が追加されている。

 

持前の身体能力、技術、テンション、そして 集中力。

 

全て揃えばどうなるか?

 

 

 

 

「――――成功しない訳がない、そうでしょ!!」

 

 

 

 

そう三咲が叫ぶと――――結果は目の前に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一斉に目まぐるしく動き回る条善寺。

烏野のソレを、御株を奪う動き。そして、集中した顔が破顔する。

 

 

ドンッ!! と打った一撃が、間違いなく会心の一撃。

今回は、前回と違う。(ボール)の位置から高さから、そのタイミングから、全てが完璧に仕上がっていたからだ。

 

 

ただ―――唯一の欠点。……否、欠点とまでは言えない、ほんの少しの隙を上げるとするならば、影山の様に(・・・・・)できなかった、と言う所。

 

同時多発位置差(シンクロ)攻撃は、誰が攻撃をするのか、その刹那のタイミングまで解らないからこそ、守備陣(レシーバー)は勿論、壁役(ブロック)も戸惑い、混乱し、慌てて、その防護に穴が生まれる。決定的な隙となる。

 

 

今回の条善寺の攻撃(シンクロ)。それは一見完璧に決まった、と思うが、セッター二岐から一体誰に上がるか、それが有る程度の予想が出来た攻撃だった。

予測は確信に変わり、十分迎え撃つ事が出来るだけの時を生む。

 

 

 

 

「ふっっっ――――!!」

 

 

 

 

攻撃(シンクロ)の出口は、照島。

最初のミスした攻撃(シンクロ)も、確か照島だった筈だ。

 

まずは成功させる、必ず成功させる事を意識し過ぎたのか、上げる先が少々あからさまだった。

ほんの少し前に二岐が魅せた完璧なセット、アレを同時多発位置差(シンクロ)攻撃時に使えていたとすれば……、こうはならなかっただろう。

 

そして、何より。

 

 

 

―――絶対に成功する。

 

 

 

そう、信じた(・・・)のは条善寺側だけじゃなかったと言う事。

 

 

 

そして、照島の目には、未だ宙に居る照島の目には、ハッキリと見えていた。

決まった、会心の手応え、ブロックもほぼ無。最高の快感が押し寄せてくるのをほんの僅かな時、宙に居る一瞬の間に感じ―――軈て、驚愕もした。

 

見えるのは飛び込んできた背。その背には11の番号が刻まれており、確かに、間違いなくコートに突き刺さるイメージが出来ていたのにも関わらず、そのイメージを押し退けて割り込んできたのだ。

 

そして見える、笑っている顔が見える。実際に、満足するレシーブだったか? と問われれば苦々しい顔もしたい所だが、一先ず今は落としてない。まだ、落としてない、繋がっている。繋げる事が出来た。それを噛み締め……そして、笑顔として表れていた。

 

 

「にゃろっ――――!」

 

 

 

刹那の時間、一瞬時が止まった様に感じていた時間の流れが通常に動き出す。

同じ様に流れる動きで、滑らかで、静かで、確実に動くのは西谷だ。

 

あの一瞬、11番……火神とは目でアイコンタクトをした。ほんの一瞬だったが、火神の方が近かった事、そして、火神が守る守備範囲、《ここから、ここまでを必ず守る》と言う意思表示、主張をハッキリと見て、西谷もそれに応じた形だ。

 

ならば、自分はその後を、その背を護る側に回るだけだ、と。

 

 

「翔陽!!」

 

 

火神が上げて、後方へと飛んだ(ボール)に余裕を持って追いついた西谷はアンダーでゆっくりと、正確に、2段トスを上げる。

 

 

「!」

 

 

あの2回目には完璧に仕上げて見せた攻撃(シンクロ)を、見事に上げて見せた火神―西谷の繋ぎに、【すげぇ……】と呟き、思わず見惚れそうになった日向だった……が、自分に上がってきた(ボール)を無視する様な真似は絶対にしない、出来ない。

 

そんな事したら最後、影山が阿修羅の顔になる――――と言うより、味方の凄いプレイは共鳴し、我もと言う気にさせてくれるからだ。

 

 

何より正式に高校からバレー部に入った今も尚、自分に(ボール)が上がる事の喜びを、他の人より少し大袈裟に感動するから。

 

この丁寧で高すぎず低すぎず、優しいアーチ、大好物だから。

 

 

 

 

そして、今試合においては恐らくは相手も同じ。

 

 

 

 

 

勿論、感動や大好物……などではなく、凄いプレイに対して共鳴しするという部分。

渾身の攻撃を拾われて、心が折れる―――なんて事には絶対にならない。

 

強い力が来るならば、押し返してやろうという気概を強く持つ。

 

 

 

「こい、やあああああああ!!」

「!!」

 

 

 

照島だけじゃない。

全員が同じだ。何度でも何本でも拾うし、攻撃する。その凄まじい圧に対して日向は一瞬焦りを生む。

 

何故なら、その理由はこの状況―――2段トスからの攻撃に対してある。

日向最大の武器は囮とその反応速度、つまりスピード勝負だ。

如何に高く跳べるからと言って、よーいドン! で始める跳躍勝負は完全に分が悪い。 影山と言う超絶トススキルを持つセッターがいてはじめて、最大にして最強の攻撃力へと変わるのだ。

だから、明らかに正面から叩きつける勝負、ここから打ちますよ、このくらいのタイミングですよ、とバレている勝負は、その技術は自分にはまだ………。

 

 

 

 

 

 

【床に叩きつけるだけがスパイクじゃない。落ち着いていれば、戦い方は見えてくる】

 

 

 

 

 

 

そんな時だ。

あの人の姿と声が耳に、脳に入ってきたのは。

いつもの【ヘイヘイヘーイ】と言う掛け声と共に。

 

 

この時、日向の中にあった迷い、負の感情は一気に消え失せた。

身長が低い自分、高い壁、戦う手段が殆ど無い自分。

 

でも、そんな時でも落ち着いて見渡せば、落ち着いて考えれば、戦い方は見えてくる。

 

 

「――――!!」

 

 

強引に行く気で、必ず打つ気概で攻める日向。

強烈な一発を打つ、打てる、と自分に言い聞かしながら構える日向。

 

それは相手にも十分過ぎる程に伝わった様だ。

絶対に取る、と言う圧力がまた強くなった気がしたから。

 

 

そして、その気概や圧力……己の意欲と自信、全てを嘲笑う様に。

 

 

 

 

「ん゛なあああああ!!」

 

 

 

 

 

かました。

最後の最後まで、日向は打ってくると想定していたし、構えていた。

本当に攻撃の直前まで解らなかった。

 

日向は、フルスイングをして打ち込むそのインパクトの刹那、腕全体の力を緩めてフェイントに変えた。

 

 

【秘義・静と動の揺さぶり】

 

 

である。

 

 

 

「うおおおお!! ナイスフェイント!!」

「烏野マッチポイントだ!!」

 

 

 

 

 

 

24-20

 

 

 

 

 

 

 

烏野は、後1点で勝敗が決する。

それを追う条善寺の目は、まだ死んでいない。

 

 

「ここぞで魅せてきたかお前の新・必殺技! 今日まだ使ってない、って思ってたんだが、最後まで温めてたとはなぁ」

「あ、ハイ! イイエ!!」

「いや、どっちだよって、それ」

 

 

澤村に対して、日向は返事をして、首を横に振る。思わず笑ってしまうのは東峰。いつも通りの日向の《YES&NO》。ツッコミも代わる代わるしているが、恒例。

 

 

「あの時、つかまる! 止められる! ヤバい! ってなった時。足引っ張ってたまるかーー! やってやるーーー! ってなったのと同時に、何だかボクトさんの声が聞こえてきた気がして……」

「ほほぅ……、木兎(アイツ)も師匠冥利に尽きるってヤツだなぁ……。他校の主将に教えられた、ってのは、正直主将としては複雑と言えばそうなんだが」

 

 

澤村は、日向の成長ぶりに思わず頷きながら喜びを露にする。

※因みに、某場所にて盛大にクシャミをする男が約1名居たとか、居ないとか。

 

何処となく成長していく息子を見て喜ぶ親に見えなくもないが、その役目? はついさっき、守備を得意としている澤村も羨むスーパーレシーブきめてみせた火神にあるので、誰も何も突っ込まない。

 

 

「落ち着いてれば、戦い方は見えてくる、か。その通りだな、翔陽! ナイス」

「!! おうっ!!」

 

 

戻ってきた(ボール)を日向に手渡し、火神は拳を向けた。日向も、笑顔でそれに応える。この場面は保護者っぽくない。

 

 

「??」

 

 

何だか変な事を考えられてそうな気がした火神だった……が、直ぐに集中し直した。

無論、他のメンバーも同様に、だ。

 

後1点。……されど1点。

相手には相応の点差をつけているが、無いものとして考えていた方が良い。優勢ではあるが、勝ったわけではないから。

 

 

 

 

「日向ナイッサ―!」

「翔陽ナイッサ―!」

 

 

 

日向のサーブで再び再開。

まだ、サーブは普通のフローターサーブで、お世辞にも強力とは呼べない代物。おまけに、威力だけでなく精度もまだまだ。(ボール)はリベロの土湯が守る付近にいったのだから。

 

なので、当然の如く拾う。チャンスボールだ。

そして相手はマッチポイント。必ず決めなければならない。失点即敗北だ。

 

だからこそ――――もう1回。

 

 

「行くぜ!!」

【よっしゃ!!】

 

 

照島の合図で、リベロ・セッターを除いた全員が駆け出した。

1度失敗したが、2度目は成功した。成功のイメージはもう完璧だ。

 

 

「ここへきてもう1回か!? そりゃ、さっきは成功したが……、怖くねーのかよ条善寺(あいつら)は?? マッチだぞ、今」

 

 

滝ノ上は思わず唸る。

決まるまで、決まるまでやる。その気合が2階客席にまで届いている。

それでもまだまだ成功率が高いとは正直思えない。成功したが、確率で言えば2本中1本、つまり50%の確率。マッチポイントと言う精神的にも体力的にもきつい時間。未完成な武器。どう考えても怖くて手が出せない、と考えるのが滝ノ上だ。……セッターじゃないが、そのセットアップだけは出せない、と唸る。

 

 

「捨て身・特攻だな! 条善寺!」

「いや、ここまで来たらやれ! 決まるまで!!」

 

 

その姿勢に、心打たれた者も何名か居たのだろう。

最後の瞬間、条善寺を応援する声は一際大きかった。

 

 

 

「(……失敗した時とか、マッチポイントとか、アンタ達には関係ない、よね? そこに関しては、1㎜だって考えてないよね)」

 

 

三咲は、照島を筆頭に、今何を考えているのか手に取る様に解る―――と言わんばかりに頷いた。

何よりも集中している時に、仄かに微かに見える一瞬の楽しそうな顔を見れば間違いない。

 

 

「(考えてるのは、成功した時の快感だけ――――。一度、味をしめた。やらない訳、無い)」

 

 

 

更に今回は、成功させた照島を選ぶのではなく―――なんとバックアタック。

一度、照島で失敗した場所を選択した。

二岐の心臓もまた、強靭そのものだ。

 

 

そして―――今回もまた、完璧だった。位置・高さ・タイミング、そしてハート。

全てが揃い、渾身の一撃となって烏野のコートを襲う。

 

月島・澤村が懸命に飛びつくが、その一撃は止められなかった。

偶然か、狙っていたのか、月島・澤村の2人の打点が低い方……澤村の方に打ったからだ。

 

バチッッ! と(ボール)に当てる事は出来た。ワンチを取る事は出来たが、弾かれ方がよくなかった。レフトサイド側のラインを割り、大きく弾き飛ばされていく。

 

 

【おおお! 今度こそ、決まったか!!?】

 

 

誰もがそう思った事だろう。

 

だが、だがだがだが、烏野を甘く見てはいけない。

まだ、(ボール)は落ちていないのだ。コートに落ちない限り、諦める事を知らない者ばかりだから。

 

諦めてる暇などない。

考えている暇なども無い。

 

ただただ、(ボール)を追いかけ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「火神君ッ!!」

「ッ危ねぇ!!」

 

 

「――――――――ッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思いっきり飛びついたのは、これまた比較的一番距離が近かった火神だ。

飛びつき、決して落とさない、と思いっきり手を伸ばした。

 

その場面を見て―――思わず熱を忘れて背筋が凍ったのは烏野のベンチ側。

その光景が……、少々似ていたから。あの時(・・・)と。

 

 

「んんんっっ!」

 

 

本当にほんの少しだけでも(ボール)が飛んだ位置がずれていたら、危なかったかもしれない。ひょっとしたら、ケガをしていたかもしれない。

いや、もしかしたら、大丈夫だ、と判断したからこそ、無茶なダイブをしたのかもしれない。

 

真相は本人にしかわからないが、見ていて肝が冷えたのは言うまでもない。

 

伸ばした右手でコートと(ボール)の間にどうにか潜り込ませ、掬い上げる形で(ボール)を火神は繋ぐ。そして、背中でコートに着地。ずざざざ~~、と絶対背中が熱い&痛いだろ、と思える程擦った滑り方をしていたが、あの時(・・・)の様な負傷は無い。

 

 

 

「ふ――――!!」

 

 

そして、先ほどの完璧な再現―――と言う程でもないが、今度も火神はどうにか拾い上げて見せた。その(ボール)を澤村が繋いだ。

 

お父さん呼びが安定してきたとはいえ、火神は後輩。主将として、支えれなくてどうする、と言う思いもある。

 

そして、何よりレシーブに関しては、西谷同様にかなりのライバル意識もしている。だからこそ、火神が根性全開レシーブを魅せてのけたのだ。

 

あの時……ケガした時の事がフラッシュバックしてもおかしくない展開で、足がすくむ事なんて一切なく、拾って見せたのだ。(点差を考えれば、ケガする危険を冒してでも拾おうとする……事はしなくて良いだろ、とも思えるが)

 

それでも、また拾ったのだ。どんな(ボール)であったとしても、それに応えない訳にはいかない。

 

流石に綺麗に2段トスを……と言う訳にはいかないが、どうにか烏野のコート内に大きく戻す事だけを考えて、アンダーで拾い上げる。

 

 

「ッ――オーライ!!」

 

「影山ぁぁぁ!!」

「ラストぉぉぉ!!」

 

 

そして、それを影山が繋いで条善寺のコートへ。

当然ながら、一気に歓声が沸く。条善寺の直向きな攻撃に声を上げていた者も含めて、会場が1つになったかの様な声が。

 

 

 

【うおおおおおお!! 返したぁぁぁぁぁぁ!!!】

 

 

 

どんな攻撃だったとしても、どんなスーパーエースの一撃だったとしても、会場が一番盛り上がるのは、一番声が上がるのは、スーパーレシーブを魅せた時。

それを再認識する場面だった。

 

 

だからと言って、やる事は変わらない。

何度も、何度でも、何度だって付き合う。

 

こんな楽しい事は無い。

ここまで楽しい事は無かった。

 

超が一体何個頭につくというのだろう? 2個だって3個だって、10個だってつけて良い。

超超超―――――楽しい!!

 

 

「らぁ―――――!!」

 

 

勢いのままに、照島はまさかの初手での強打。

余りにも夢中になり過ぎた。もう少しでもその興奮を抑える事が出来たなら、違った形になっていたかもしれない。

 

烏野の守備陣形が乱れている。早く打てば打つ程、決まる確率が上がるだろう。

強い攻撃を防がれた、拾われた。ならば、もっと強く、更には速い攻撃を打つ。

 

 

強引なステップ、踏み込み、跳躍……振り向きざまの一撃。

 

 

それはトリッキーで強引極まりないと思われるが、それこそが条善寺の通常。

 

現に、この試合中何本も決まっている、決めてきている。シンクロに比べれば得点率・成功率共に圧勝。(シンクロは決まってないので、現在得点率0だが)

 

 

今回も絶対に決まる、決まるイメージしか持ってない。

だが、今回に関して誤算があったとすれば、早く、早く、早く――――速度を意識し過ぎた事に尽きる。

相手の体勢が整う前に、少しでも早く強打を。気がはやり過ぎた。

 

 

ドンッ!!

 

 

打ち放たれた(ボール)は、エンドラインぎりぎり……外。

 

 

「「アウト……!」」

 

 

ジャッジをするまでもない。

線審(ラインズマン)は、もう既に声よりも先に示していたから。

 

アウトを示す、旗を真っ直ぐ上に突き出している姿勢を。

 

 

 

熱を持った、より熱く、強く熱を持った。そして殻を打ち破ったと言っても良い。

 

 

 

「―――――――ふぅ」

 

 

 

思わずため息が零れる。

似合わない緊張感の中の試合。

楽しさばかりを優先してきたメンバーが初めてと言って良い程の緊迫感を出し示し続けた試合。見ている側も息をのむ展開。

 

 

「……或いは漸く、らしさ(・・・)が戻ってきたのかもな。……条善寺(ウチ)らしいラストだ」

 

 

はしゃぎ過ぎて、はしゃぎ過ぎて、最後に転んでしまった。

そんなイメージだ。

 

 

 

試合終了

 

セットカウント

2-0

 

25-20

25-20

 

 

勝者:烏野高校。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合終了の笛の音が鳴り響くと同時に、一気に歓声があがる。

 

 

【っしゃあああああああああああ!!!】

 

 

それも、仕方がない。

気持ちは十分過ぎる程解る。

一体何年ぶりの事だろうか。

 

烏野高校、春高宮城県代表決定戦 準々決勝進出。

つまり宮城ベスト8に切り込んだのだ。

 

 

 

 

そして、負けた条善寺側。

照島はばたんっ、と大の字でコートに倒れていた。

 

 

「あ――――――、終わり、かぁーーー」

 

 

現実味がない。

ただ、感じるのは物凄い疲労感。

1試合しかしていない筈なのに、この疲労感の半端なさは初めての事だった。

 

 

「終わり、だな」

「おー。なんか、終わりって感じしないんだが、点みてたら終わってたみたいだわ」

 

 

そんな照島を引っ張り上げる二岐と母畑。

 

 

「夢中になり過ぎてたみたいだな、くそっ」

 

 

悔しそうにするが、それでも顔は何処か晴れやかだ。

負けた事もそうだが、それ以上にもっともっとバレーをしたいのだと思えていた。

 

 

 

「負け試合で、あの顔は初めてだな。……まぁ、俺はまだまだあいつらの事解ってなかったみたいだが」

 

 

穴原は、チームを一頻りみて、そして最後に三咲の方を見た。

 

 

「ありがとうな」

「えっ」

 

 

伝えたいのは感謝の言葉だ。

選手を教え、導くのは監督やコーチの仕事。時には主将が、仲間たちが、そしてマネージャーも手を貸し、互いに上がっていくのが理想的な環境だ。

 

だが、今試合に関しては間違いなくMVPは三咲、三咲の一言で生まれ変わったと言って良い。

 

 

「間違いない。あいつらの事をわかってるのは、やっぱ俺よりお前だな。お陰で総崩れどころか、一段階高みに立てたって感じがする。……烏野の飛躍にも目を見張るが、条善寺(ウチ)も間違いなく躍動した試合だった。……さすが3年だ」

「………いいえ」

 

 

三咲は小さく首を振った。そして、考える。

 

自分の事を過大評価していると。

 

自分はただ頼まれた事をした。先人たちが繋ぎ、繋ぎ、紡いできたモノ、自分にも託された。それを、ケツを叩くという手段で、アイツらに繋いだだけなのだから。

受け取り、それをどうするか、この先をどうするのか、それは託された側が決める事。真に介入する事なんて出来ないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ありがとうございました――!!】

 

 

 

 

1つの激戦が終わり、夫々が引き上げていく。

面白かった、楽しかったと、観戦に満足した者もいれば――――彼らと対戦した時どうするか、何をするかを考える者もいる。

 

伊達工のメンバーは当然ながら後者。

 

 

「……10番、進化してるな」

「気のせい、って感じじゃないな」

 

 

ひと際目立っていたのが当然だが日向。ただ、目立つばかりだった、と言うのも負け惜しみに聞こえるかもしれないが事実だ。身体能力が先行し過ぎていて、まだ技術が伴ってない。それが日向の印象だったのだが、この試合で見方が変わった。

 

変人速攻のコースの打ち分け、更には最後の方に見せたフェイント。

考える様になってきている。

 

 

「11番に関しちゃ、レシーブ面がバケモンになってね? いやいや、普通にスゲーのは知ってたけど、あの最後の2連続はやべーし。リベロかよ」

「…………」

 

 

サーブ、ブロック、レシーブ、全ての面において高水準。

フォローに回る事も多かったが、周囲を100%活かすプレイも健在だ。

 

 

「―――――――」

 

 

色々と考えを頭で巡らせていた時、青根が指をさした。

 

「? おう、じゃあ先に行ってる。青根も早くこいよ」

 

その仕草だけで、何を意図しているのかが解るのは流石と言えるだろう。

二口は、指を差されるがままに、踵を返して戻っていき、皆もそれに続く。

 

青根は暫く客席から、烏野を見続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――とりあえずだ。お疲れさん、って言うのと」

 

 

試合は終わった。

これで敗北、負けたら次は無い、次にはもう進めない。

だからと言って、湿っぽい言葉をかけるのも、違うし、このメンバーには似合わない。

労いの言葉はかけるが、それがメインではない。

 

 

「お前らテンション上げまくんのは結構だし、今回も大分ハマった感は否めないが、ある程度はブレーキも覚えろって事だな」

【…………】

 

 

自覚があるのか、視線をあからさまに逸らせる者多数。

出し切ったとはいえ、やっぱり負けは悔しい。

点だけを見れば、惜敗なんて言えない。完敗で大敗だ。2-0なのだから。

 

 

「それとな。2セット目から大分気合入ったみたいだが、次からはもうケツ叩いてくれるヤツは居ないって事も肝に銘じとけよ。―――てな訳で、ストレッチ後撤収だ。サボんなよ」

「!」

 

 

ケツを叩く。……つまり、三咲の事だ。

穴原の言う通りだ。この試合のターニングポイントは何処か? と問われれば間違いなく1セット目が終わり2セット目が始まる前のタイムアウト中。

ケツを叩いてくれた三咲のおかげだ。

 

おかげ、なのだ。

 

 

 

「ねぇ、アンタ達」

【!】

 

 

三咲が、小さく、それでいて存在感は3年の威厳と風格を保たせて、言葉を発した。

 

 

「お願いだから、るなちゃんを困らせないでね?」

【!!!】

 

 

るなちゃん、とは条善寺高校バレーボール部 新マネージャー。

1年 栗林 るな。

 

三咲が、マネージャ業を3年引退時にも辞めなかった一番の理由は、後釜の問題。2年生にはマネージャーはいないから。

どうにかして、引き継いで貰わなければならない……と言った時に、彼女が手を上げてくれた。

 

今も、悔しくて涙を滲ませてくれている。

入ったばかりなのに、心優しくそれでいてとても大人しめの新人だ。正直、運動部マネージャーになってくれた事に関して、自分が勧誘したのに、驚いてしまう程。

 

 

だからこそ、年上である2年たちに任せなければならないのが気がかり。

 

 

「悪さしたら見てるからね」

【…………】

 

 

普段から思うところは沢山あるのだろう。結構渋い顔をしてしまう面々。

栗林の事は知っているつもりだし、いつものテンションでやってしまえば、ひっくり返ってしまっても不思議じゃない。

 

悪さなんて、もっての外だ。

 

 

 

 

その顔を見て、ある程度は安心できたのだろう。

三咲はそっと笑みを浮かべた。

 

 

「……あと、今日の試合凄かった。アンタ達の常に本気で遊ぶってスタイルも結構好き―――だったけど、……今日は、より格好良かったよ」

【!!!!】

 

 

涙を流しながらの賞賛と最後のケツ叩き……ではなく激励。

3年の美人のマネージャーさんからの【好き】&【格好良い】なんて、健全な男子高校生が聞いたら即倒・赤面ものだろう。

バレー漬けだった条善寺メンバーもそれは例外ではない。

 

 

「じゃあ、いこう。次のチームが来てる」

 

 

荷物を纏め、コートを去る準備をする。

 

 

「お前ら、整列」

 

 

照島は、最後の最後に皆を整列させた。

彼も解っている。どれだけ大きな存在だったのかを。どれだけ自分達が楽しめた、飛躍できたのかを。

その切っ掛けは一体何だったのかも、しっかり解ってる。

 

 

「ありがとうございました」

【ありがとうございましたーーー!】

 

「!!」

 

 

流石に面食らってしまった三咲だったが、それも直ぐ笑顔で応える。

 

皆を見て、一番最後に忘れ物が無い事を確認し――――コートを去る。

もう、二度と高校生として、条善寺高校バレー部マネージャーとして、このコートに降りる事はもう二度とない。

 

そう考えると、これまでの思い出が蘇ってくる。

右も左も解らず、先輩マネージャーの元で勉強して、負けた時は凄く悔しくて、涙を流して、勝った時はみんなと一緒に喜んだ。

 

喜びも悲しみも、達成感も……沢山、沢山この場所では学んだ。

 

 

 

「―――――――ありがとう、ございました」

 

 

 

 

三咲は、頭を軽く下げ……出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、誠也! 最後の2連続はヤベーぞ、ああもやれるなんてこっちまで熱くなる!! そんでもって、ぜってー負けねえからな!」

「アス!! 西谷先輩もフォローありがとうございました!」

「ったりめーだ! こう言う背の守り方もある。学ばせてもらったぜ」

 

 

西谷と火神は最後の攻防について盛り上がっていた。

両方共に、西谷の目の前で魅せたスーパーレシーブだ。リベロのお株を奪うとはこの事で、西谷が燃えない訳がない。

 

 

「それに最後、澤村さん! ありがとうございます!」

「ああ。当然、俺も、負けたくないからな。負けられん。攻撃意識高い系とは言っても、守備面でも負けられん」

 

 

澤村は、ニッと子供の様に笑う。

頼りになる笑っている澤村。頼りになる怒ってない澤村だ。

 

 

「いや、火神。俺怒るキャラ違うからな??」

「え? 俺なにも言ってませんけど……?」

 

 

 

「お疲れさまッッしった!!! おめでとうございますっっ!!」

 

 

 

そんな時、勢いよく二階から降りてくるのは谷地だ。

勝利した事が嬉しくて嬉しくて、兎に角その小さな体を爆発させる事で、心境を表現。

 

 

「うぇーーーい!」

「谷っちゃんうぇーーーーい!!」

「う、うええーーーぃ!」

 

 

まだまだ慣れてないが、それでも、テンション高い組筆頭田中&西谷としっかりハイタッチを交わせる所を見ると、谷地もしっかりと烏野バレー部に染まっていると言って良いだろう。

 

 

「最後のフェイント、ナイスだったな、翔陽。アレ、木兎さん直伝だろ?」

「! おうっ! 必殺技だっ!」

「ただのすっげー(・・・・)フェイント、だけどね」

「!! 月島ぁぁ!」

 

 

確かに誰でも出来そうな攻撃手段。思いっきり叩きつけパワーで点をもぎ取るスパイクやコースを狙い技で点をもぎ取るスパイクと比べると、フェイントはやり易いし、覚えやすい技だと言えるだろう。

 

だが、やり易いからこそ、緩やかだからこそ、決めるのも難しいと言うモノだ。上に上がれば上がる程、猶更。

 

なので、日向がここ一番の場面、見事に相手の隙をついたからこそ、点を決める事が出来た。賞賛を受けても良い。

 

まぁ、そんな中でもしっかりと笑う。プっ、と笑う月島が居るのもいつも通り。

 

 

 

 

 

「火神」

「! はい」

 

 

 

そんな時、清水から小さく声をかけられた。

 

 

 

「……正直、肝を冷やした」

「…………ひょっとして、いや、ひょっとしなくても最後のヤツ、ですよね?」

「ん。火神がケガを引き摺って、思いっきりプレイが出来なくなる、身体が固まる可能性だってある、って言うのも聞いていたし、ある意味じゃ安心も出来たけど……」

 

 

無茶しないで、なんていうのは無理だ。

絶対身体が反応してしまう。バレーを全力でしているから、そんな余裕は無い。ケガとスポーツは切っても切れない関係だから。

 

 

「ご心配をおかけしました。火神誠也は、何ともありませんよ」

 

 

足を軽く上げて、そして踏みしめて、清水に笑いかける。

 

 

「これからも、心配をかけてしまうかもですが……、今後とも、よろしくお願いします。清水先輩」

「―――――――……ん」

 

 

清水も同じく笑う。

最後尾で良かった。こんな場面見られていたら大変も大変、物凄く大変。解っていたのか、ある程度の配慮をしてくれていたのか、清水の声は小さめだった。有難い。

 

 

 

 

 

 

「うおっ、うおおおああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

そんな時だ。

突然日向が奇声? 大声? を発したのは。

 

 

いきなり何事!? と火神は思わず清水に頭を軽く下げると同時に、日向の方へと小走りで向かった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

その背を見送りながら、また清水は笑いかける。

一生懸命、全力でやるのは良い事だし、止めないし、止めれるものじゃない。それくらい清水にも解る。心配してしまう事も多々あるだろうが、それをどうにか抑え、どうにか支えていくのもマネージャーの仕事だ。

 

 

でも、あの時――――あの時の頭のケガ(・・・・)だけはいただけない。

 

 

 

 

「――――ちゃんと、見てるから。変な事しない様に」

 

 

 

 

 

そう呟き、清水も歩く速度を上げるのだった。

 


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