王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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1月中に出したかった……、でも何とか投稿出来て良かったです。

めっちゃ忙しいですが、これからも何とか頑張ります!


第149話 条善寺戦⑧

 

 

「……自分の意志で動くことと、それを実行できる技量があってこそ、自由に遊ぶ事が出来る」

 

 

コンマ数秒レベルの世界。

(ボール)に触れる事が出来るのもほんの一瞬。

その刹那の時間に、全てを決し、身体を動かさなければならない。

 

好ゲームを行っている様に穴原は見えるが、要所要所で上回り、地力の差を見せてきているのは烏野高校の方だ、と舌を巻いた。

確かに近年の成績を見ればこちら側が上回っている。

現2年が主戦力で初めてベスト4まで上り詰めたが、以前のチームスタイルであっても、トップ争いまでは行けなくても、大体は上だった筈だ。

 

だが、それは過去の話。全く現在は当てはまらない。

 

 

 

 

「上に行けば行くほど、やはりそうだ。当然だ。そういう(・・・・)連中が増えてくるもんなんだ。……そんでもって、やっぱり中でも特に異質なのはあの11番、かな」

 

 

 

特に注目するのは やはり烏野高校1年、WS火神誠也だ。

 

データを見ようにも、ほとんど無い。全くの無名選手だ。

烏野には東峰や西谷、近年では影山など、それなりに名の通った選手がいるが、全くもってデータがない選手の1人が火神。

あの日向と言う選手も、無名と言う意味では同じだが、まだまだ粗削りな所が多く、身体能力の高さが凄すぎるだけ(だけ、と言ってもそれでも十分目を見張るが……)だが、完成度と言う意味では圧倒的に上回っているのは火神だ。

 

高校から頭角を現し、あの青葉城西戦においてはまさにMVP級のプレイヤー。

無念の途中交代をしていなければ、県トップ2の青葉城西を打倒していた可能性も十二分にある。

 

その破竹の勢いのままに、白鳥沢(王者)に挑んでいたらどうなっていたか。……想像しただけでもわくわくするというモノだ。

 

 

だが、そもそもいきなり高校から出てきて、更に高校の―――紛れもなく全国区とも言って良い相手と渡り合える事など、出来るものなのか?

だからこそ、異質と感じる。

それと同時に、思うのは影響力の強さか。

 

 

「……条善寺(ウチ)と初回で、あんなに楽しそうにする相手は初めてだ」

 

 

火神と言う選手の時折見せる顔に綻ぶ笑顔。

幼さが全面に現れているその無邪気さ。

それを魅せられて、アソビをモットーにしている照島達(あいつら)が楽しまない訳がない。

 

更に観察してみると、纏う雰囲気、全く物怖じしない度胸、1年は勿論、上の2,3年とのコミュニケーション能力、適応力。

試合中しか、烏野を見ていないが、ここまでのデータでも十分分析できる火神の事。もう言葉も少なく、凄い、だけで十分だ。

 

それでも、時折見せるあの無邪気さだけは、なかなかに理解しがたい。

正直、常に見せている顔の対極に位置していると思わざるを得ないからだ。

天衣無縫かと思えば、恐ろしくスキルが高く、老獪さも見せてくる。

 

 

「――――面白いな、本当に」

「………はい。私もそう思います」

 

 

穴原が選んだ言葉。

それは厄介でもなければ恐ろしいでもなく、面白いだった。

そして、それは三咲も同じだった。

 

 

何より、あの11番が条善寺の皆を更に強くさせた、とまで思っているから。根拠はない。ただの直感に過ぎないが

 

 

これまでの経験には当て嵌まらない、見た事のないタイプの選手が出てきた。

 

烏野には、そういう選手が揃っているとも思える。

 

 

「まぁ、まだまだ粗削りの素人に毛が生えた程度の技術だが―――目立つ(・・・)って意味じゃ、全く引けを取らないどころか、上回っているのは彼の方、か」

 

 

そして、中でも特に目立つと言えばやはりあの小さな烏(・・・・)

 

 

 

 

「キタキタキターーー!」

「10番!!」

 

 

 

 

小さな烏、日向翔陽。

試合終盤、20点目。

ここで、入ってきた。

 

 

「間違いなく烏野の攻撃力MAX状態(ローテ)だ。ここを切り抜けなけりゃ、そこで終わりだと思って良いぞ、お前ら」

 

 

 

穴原の声は当然選手たちにも届いている。

一級品の囮が、縦横無尽にコート内で駆けまわるのを何度も何度も目にしており、その都度翻弄されていたからだ。

 

()()()()()様にする事、それを心がけた所で、()()()()()、と考えた時点で相手の術中だから。

 

頭の片隅でも、その存在を置いた時点で、釣られる可能性極大だから。

 

 

「違う意味で厄介なヤツきたなー」

「んじゃ、お前らー、ここで仕掛けてやるぜ」

「「「??」」」

 

 

だからと言って、成す術なし―――となる訳がない。

考えない訳がない。

 

 

 

 

 

日向が入ってきた事で、烏野の攻撃特化型のローテになった、と拳を握るのは2階席で見守っている滝ノ上、そして谷地。

 

 

「条善寺は、まだ日向の速攻を綺麗な形で止める事は出来てない。―――ここだぞ! 追いつかれる前に、突き放してやれ!」

「日向ファイト――!!」

 

 

点数は20点。

後5点取れば烏野の勝ちだ。

 

応援する側も声が大きくなってくる、と言うものである。

 

 

 

 

そして、更に追加点――――と行きたい所だが、流石にそこまでは条善寺も意地でも許さない。

烏野の中でも比較的拾いやすいサーブである月島の(ボール)を冷静に処理し、まさに正統派な攻撃方法、普通の速攻で点を獲り返した。

トリッキーなプレイが主体の条善寺の正統派速攻、それだけでも十分惑わされる攻撃手段になっていたりするから、烏野にとっても条善寺は厄介極まりない、のである。

 

 

形は違えど根本は同じ、惑わし、高い攻撃力で仕留めるのは烏野も条善寺も通じる所がある。

だからこそ、殴り合いを制するというコンセプトは変わらない。

 

 

 

「オーライ!」

 

 

 

条善寺側の東山のサーブ。

こちらも威力は然程ではない。冷静に落ち着いて澤村が処理。

(ボール)は、完璧なAパス、影山は即座に落下地点へと入り―――日向が始動した。

 

 

「おっ!」

「10番キタ! 速攻くるぞ! ――――ってアレ!?」

 

 

日向の動きの始まりから攻撃に至るまで、コートの内外でとにかく目立つ。

だからこそ、相応の歓声が沸くのだが、ここで違和感に気付く。

 

 

今の今までは、日向を追いかけ続けていた。

止められなくとも、身体能力に自信のある条善寺だ。兎に角足を動かし、手を伸ばし、喰らいつく、それを意識してきたが、どうにも日向に追いつける程の脚力と反射を持つ前衛はいないのが解った。

 

 

なら、ノーガードで打たれまくる事を良しとするか?

答えは否だ。

 

 

条善寺が取った対日向用攻略手段。それは前衛を下がらせる事。

 

 

「条善寺のブロック! 全員下がっちまった!? 10番をノーマークだ!?」

 

 

壁が全くない空。

日向にとっては、かなり珍しい光景だ。ネットの向こう側がどこからでも見えるから。

 

 

だが、少し違うのはネットの向こう側にハッキリと守備者がいるという事。

6人全員が待ち構えているという事。

 

 

「(止まんねーブロックなら、レシーブに回った方がマシだわ。んで、あのチビちゃんには器用さは無いと見た)」

 

 

照島の号令により、全員をレシーブに下がらせる。

身体の何処に当たっても取って見せる、上げて見せるを心情にしている条善寺ならではの手段。音駒とはまた違った守備力を持つが故に、選択できる手段。

 

 

ドパッ! と景気よく、ストレスなくスパイクを打ち放つ事が出来たのは良い。

だが、壁の向こう側の景色は―――よろしくない。

 

 

「ふんっっ!!」

 

 

日向のスパイクは、リベロ土湯の元へと打ってしまった。

条善寺の中でも正統派なプレイヤー、目立ってはいないが、高い守備力を保有する選手へと。

 

 

「んんナーーーイス!! オラァッッ!!」

 

 

土湯が拾ったのを確認した照島は、即座に動く。

手じゃ届かない位置に飛んでしまったが、全く以て関係ない。

彼は全身何処を使っても、(ボール)を操れるから。そう意識をしているから。……勿論、痛いトコには当たりたくないが。

 

 

 

「(なるほど。あっちも考えてるじゃねぇか…、条善寺はレシーブさえ上がれば、攻撃に繋いでくる! ここ一番の集中力で、強い攻撃力に変えてくる。つまり、日向の攻撃を、レシーブ(そっち)で処理する事に賭けたか!)」

 

 

 

本能だけで動く訳ではない。

最初こそは、アソビを中心とした立ち振る舞いだったが、火神が言う様にアソビつつも最善に、最高にアソべる様に楽しんでいる。

 

そして、それは身を結んだ様だ。

 

 

照島が足を使って上げた(ボール)を、まるで最初から来るのが解っていたかの様に入ってきていた沼尻が打とうとしていたから。

―――だが、それでも簡単には打てない。

 

 

 

「(ッ!? マジかよ!)」

 

 

スライディングの要領で上げた照島が、仰向け状態で見上げてみると―――沼尻に対し、待ち構えている男の姿が目に入った。

 

まるで、照島が上げてくるのを解っていた沼尻の様に。沼尻が入ってきて打ってくるのを解っていたかの様に、立ちはだかる一枚の壁。

 

 

「ホァーーー!!!」

「ッッ!!?」

 

 

だが、それでも所詮は1枚ブロック。それも真ん中(センター)からの攻撃。

圧倒的に打つコースの選択肢が多いスパイカー側が有利なのは間違いなく、沼尻自身もそこまで驚かなかったのがこの攻防の勝敗を喫する事となった。

 

レフトよりのコースに打つ。それも、あの照島の様に寸前でコースを変えてきた。

決して苦し紛れのソレではなく、直前までライト側に視線がいっていたし、打ってくる姿勢だと思ったのに、照島と同じ様にインパクトの刹那に変えた。

その上威力をほとんど殺さずに。

 

 

「っしゃああ、勝ちっ!」

「んぐっ、や、やられました」

 

 

相対してきたのは無論火神である。

 

スパイカー有利な状況で、反応しただけでも十分だ、と言える場面であったのは間違いないが……、それを言い訳にはしない。

止める気満々だったブロックを、躱されて、勝ちと言い返されて、流石に無邪気に嗤う~なんて事は出来ずに、苦笑い。

 

 

「正直、アレ止められちゃ、どーしよーもねーよって思っちまいそうだったが……、上手い具合にハマったな!」

 

 

うぇーい! と手を合わせる照島。

 

 

「頭ん中のシミュレーション。続いて自分がすんじゃなくて、指揮する側。こっちもさいっこうに気持ち良い!」

 

 

ニカッと笑う照島に対し、流石の火神も笑ってばかりではいられない。

点差も再び1点まで迫ってきたのだから。

 

 

「次は止めますよ。ちゃんと覚えました(・・・・・・・・・)

「! そーいうのヤメテ! なんか、それお前が言うと、詰将棋されてる気分になるから!」

「え? いやいや、そうはいきませんって」

 

 

やらないで! なんて要求に応えられる訳がなく、このやり取りに関しても火神はただただ苦笑いで返すのだった。

 

 

 

「すみません、今の寧ろ飛ばない方がよかったですかね?」

「いや、ある程度はコース絞れたし、相手の手の部分は見えた。居てくれた方が助かる」

 

 

ゲス・ブロックで跳んだ火神だったが、これはレシーバーの邪魔になる事も多々あり、嵌ってワンタッチを取れた時や、ドシャット出来た時は例外だが、普通に決められた時はしっかり後ろの澤村や今はいない西谷に確認を取るのだ。

 

そして、大体は良しとしてくれる。普通に良いブロックだと言ってくれる。それに加えて月島にも良い刺激になるので、烏野にとっては万々歳なのである。

 

 

「―――と言うか、よくつけたな火神。あの結構早い攻撃」

「あざす! あっちの沼尻(7番の人)照島(1番)が必ず上げるって信じて入ってきてるのが見えたので、オレも来るだろう、って同じ様に信じて跳んだだけですよ」

「それが普通に凄いんだが……、あの一瞬で色々考えすぎてて……」

「おう、火神凄いはいつも通りで良いが、だからってお前も負けんなよ、んで猫背になんな旭!」

「痛っ!」

 

 

澤村に気合を入れられ、更に猫背になりそうな東峰だった。

 

 

 

「うーん、このパターンは、前に青葉城西にもやられたヤツ、かな? 確か」

「そう、だったんスか?」

「ああ。確かに、スパイクが強烈で、スーパーエース……こっちじゃ東峰の様なパワー型のスパイカーから打たれたら恐怖心云々前に、普通にぶっ飛ばされて終わりって可能性が高いし」

「お、おぉぅ……(ブ、ブットバサレ……)」

 

 

一連の攻防を見ていた滝ノ上の批評を聞く谷地は縮み上がる。

ぶっ飛ばされる、と言う言葉を谷地の中では、まるで大砲を受けて粉々に吹き飛んでしまった、様な姿に連想させられたからである。いつもの通りで。

 

 

「でも、軽い(・・)スパイクなら話は別だ。飛ばされても、十分追いつける範囲内だったりするし、ああやって押し負けたりしない。―――つまり、仕方ない面でもある。日向は動きとキレは十分一戦級だが……事、力の領域じゃ、どうしても軽い(・・)からな」

 

 

スピードは十分凄いが、力をより乗せる体重や腕をスイングする時の力、その他諸々は日向の身体、筋力ではまだまだ軽い。

それはたまに練習に付き合っている滝ノ上でさえわかっている事なのだ。

 

 

 

こ~んな感じの話をしているだろうな、と火神は想像しつつ―――。

 

 

「―――だからってこのまま黙ってるだけの翔陽じゃないよな?」

 

 

 

日向にぎりぎり聞こえる範囲内の声の大きさで、より刺激する。

嘗ての記憶の中に存在する様な気合、怒りと言う名の炎が日向に―――見える訳はないが、何となく火が付いた様な気はした。

 

 

「あたり―――前だ!! ブロックされんの嫌だ! 向こう側にいるでっかい壁、めっちゃ嫌だ! ―――――でも、でも!!」

 

 

頭に幾つも四つ角を作ってるかの様に、皺をよせつつ歯を食いしばりながら日向は言う。

 

 

「ガン無視される方がよっぽど腹立つ!! なんでだ、コレ!!?」

「? それは簡単じゃん。ほら中学時代ん時のオレ達の事、少し思い出せば」

「中学? オレ達?? ………ぁ」

 

 

本当に直ぐ思い出せた。

似たような事、結構経験していたからだろうか、あまり考える時間(シンキングタイム)を必要としなかった。

 

中学時代のあの頃―――バレーがあまり出来ない代わりに、よく助っ人に入った事があった、その中で、同じバレー同好会だったというのに、よく火神が呼ばれた。

 

特に身長を活かせる系統のスポーツの時は猶更で、日向の身体能力の高さを知らなかった時は更に更に火神ばかりで、日向眼中に無し、と言った場面が幾つもあった。

 

 

―――思い出せた。

 

 

「嫌だっただろ? 無視されて、蚊帳の外なのは」

「んがっっ!! 誠也のせいで、思い出しちゃったじゃん!!?」

「それは上々。……それで、翔陽はその後どうした? 甘んじて黙ってられたっけ?」

 

 

再び火神からの問い。

そして、やや噴火してしまった頭だったが……、それも思い出す事が出来た。

人数が多くて困る部は無かった。だから、結構強引について行って――――示したのだ。己が力! (勿論、技術を必要としない部分を)

 

 

 

日向は、全部思い出したようで、ぎゅんっ! と素早く、擬音が聞こえてきそうな速度で影山の元へと駆け寄り。

 

 

「影山! もっかいくれ! 次! 絶対ぎゃふんっ! って言わせてやるから!」

「? ぎゃふんなんて言わねぇ!!」

王様(おまえ)じゃねーよ!」

「……いやさ、秘密の作戦タイムって雰囲気なのに、周りにめっちゃ聞こえてたら意味なくない? それに飛雄はどんだけ、ぎゃふん拒絶してんのさ……」

 

 

賑やかな2人、否3人を見て、思わず条善寺側でさえ笑ってしまっていた程だった。

無論、それは日向をマークする事を強めるという事にもつながる。

即ち、もう一度――――もう一度拾ってやる、と言う事だろう。

 

 

「何べんでもやってやるぜ!」

【うぇーーい!】

 

 

「火神の言う通り、バレちゃってら、これ」

「まぁ、だからと言って後輩ばかり注目されるのもどうかと思ってきちゃったよ、オレも」

「おー、旭。強気なのかまだまだ弱気なのか解らん発言だな。兎に角お前もっと頑張れ」

「解ってるよ! なんか最近当たりきつくね!? オレに対して!」

「影薄くならねーようにしてやってるだけだ」

「ひどい!」

 

 

東峰がエースだというのに、活躍の場が乏しく感じるので、主将としてフォローをしてあげただけ、と澤村が言う。

だが、その言葉はまさに棘であり刃物であり、さらなるダメージを東峰に与える結果にもなるのだった。

 

 

 

 

 

そして、続くサーブ。

今回は西谷に(ボール)が向かった。

 

 

「オーライ!」

 

 

西谷は、余裕を持って、(ボール)を捉える。

そして、完璧なAパスを影山に提供した。

 

西谷が当然取ると信じて疑わず、日向は速攻で始動開始。

コートを人の間を通って駆け回り、そして斜めに跳躍。

 

ネットすれすれ、コートの横幅めいっぱい使った超高速ブロード。

 

 

そして、今回も条善寺が取る手段は変わらない。

 

 

ネット際は誰もいない。

全員が地で構えている。

 

 

「やはり、日向君をノーマークで!」

「こっちの方が確率高ぇって判断したんだろうな。それとついさっきの攻防。……止められそうだったのは、あくまで火神のブロック。スパイク処理は完璧だった」

 

 

条善寺の手は間違えていない。

この終盤、一つ一つのミスが命取りになる全てが大事な場面だ。

その場面において、勝機がある方を選ぶのは当然の事。如何にトリッキーさを武器に翻弄してきた条善寺であっても、ここで妙な冒険、火神や月島に対抗したドシャット責めに変更する事は無い。

 

日向はノーマークでレシーブ勝負。

 

 

「―――――――……」

 

 

 

だが、日向を甘く見たのが命取りとなってしまう。

中学時代のあの日。

 

バスケ部でもサッカー部でも、ガタイが良いタッパも良い上に体力測定もトップクラスな好成績からと火神中心だったあの時。

 

自分も出来る、とがむしゃらに食らいついていたあの時。

認めさせたあの時。

 

 

覚えている。

 

 

現状のままで良しとしない自分を覚えている。

そして、今―――出来る事はかなり増えているのだ。

 

 

「見える」

 

 

空中にいる時間はほんの一瞬の刹那の世界。

だというのに、よく見える。ハッキリ見える。

 

確かに守備面強化状態の条善寺の地の盾。狙い所は決して多くないが、それでもハッキリと日向には見えたし、解った。

 

 

ここに打てば良い(・・・・・・・・)、と。

 

 

 

確かにパワーは無いかもしれないが、キレ、速度は相応に備わっている。身体の速さにそれは依存するのだから。

 

スパッ! と鋭利な刃物の様に、コートを切り裂いた。

土湯が手を伸ばすが、今回は決して届かない(コーナー)

 

 

「「!!!」」

 

 

ここへきて、日向が技術(・・)を見せてきた、と目を見開いて驚いたのは条善寺。

あの超速攻然り、日向はどちらかと言えば身体能力に依存した攻撃手段を用いていると判断し続けてきたが、今の一撃は違う。

 

あの高速の世界で、誰をも置き去りにするかの様な世界で、ハッキリとコース分けまでする事が出来る。

 

「マジかよ―――!?」

 

対策した対日向用の守備陣形(フォーメーション)じゃ……、否、今のままの意識(・・・・・・・)じゃ、止められないブロックよりも悪手だ、と照島は痛感させられる。

 

 

 

「ナイスキーーー!! 日向ぁぁっっ!!」

「っしゃああ!! そうさ! 日向だって成長するってんだな! 青城戦(あの)時とは違うってわけだ!」

 

 

大盛り上がりの滝ノ上と谷地。

烏野は層が薄く、全選手がベンチ、観客席側は少数の応援とマネージャーの谷地一人……だが、それでも負けないくらいお祭り騒ぎをした。

 

 

「ナイス翔陽!」

「うおっっ!!」

 

 

ばちんっ! とハイタッチを交わす2人。

 

 

「ぎゃふんっ! だったろ??」

「それは知らん」

「影山はどうだ!?」

「知るか!」

「ほいほい、飛雄に言わせるのはオレの役。―――それより、サーブ」

 

 

返ってきた(ボール)を拾うと、影山に渡した。

 

 

「決めてくれて良いぞ?」

「サービスエース本数、只今誠也1点リード中~!」

「!!」

 

 

ここぞと煽るのは日向だ。

何故後頭部を危険にさらす様な事をするのか……。

 

 

「まぁ、影山は煽りを力に変えて打つ事くらいは出来そうだが……」

「日向に当たる可能性もゼロじゃないしなぁ」

「はっはっはっは! しっかり頭ぁ、守っとけよ、翔陽!」

「うひぃっ!??」

 

 

影山の眼力+他の面々の嫌に恐怖心を掻き立てる会話に、日向は即後悔。

 

でもいつも通りなので、これを学習する事はおそらくこの先もない。

 

 

「―――――――」

 

 

怒りの形相から……軈てエンドラインまで行って振り返った所で、影山は無の表情となる。

日向は、頭を必死に守っている様だが、そうだ。火神の方がサービスエースの本数上なのだ。

この怒りをぶつける相手は、日向だったらよかったのだが――――一先ず相手だ。

 

 

 

「―――――ッ!」

 

 

 

今、日向の背中がひゅんっ! となった。

殺気を、離れた日向に送るだけの気合を込めて、影山は始動。

 

サーブモーションの全てが完璧。

終盤だというのに、全く疲れ知らず。

 

全力全開で打ち放つサーブは。

 

 

 

どぱぁんっ!! 

 

 

 

と、見事にエンドラインぎりぎり、極上ラインショットで締めて見せた。

 

 

22-19。

 

 

ブレイクポイント。

 

 

「うおおおお!!」

「影山君ナイッサ―――――!!」

 

 

 

終盤に来て、全く衰えないどころか、コースが鬼中の鬼だ。

ライン上に、あの速度と威力で切り込まれたら、拾いようがない、と思うのは条善寺だけではないだろう。

 

 

「な、ナイッサ―、い、いけー、殺人さーぶ……」

「翔陽ビビり過ぎ。つか、ビビるなら学習しなよ」

 

 

学習、と火神は言うが、今回影山を煽ったから、と言うより、元々影山のサーブは怖い、と背を向けていたらいつも背筋が寒くなってしまう。先に自分が後頭部にぶつけたと言う負い目や報復の危険性? もあるかもしれない、と考えてるので、実は煽り以前の問題だったりするのである。

 

 

因みに、火神もある程度は解ったうえで言っているのだが。つまりそれも楽しんでるのである。(―――ドS)

 

 

 

「影山もいっぽん!」

「「ナイッサ―!」」

 

 

続く2本目。

 

影山は(ボール)を受け取ると、チラリと火神と視線が合った。

何を言っているのか、言葉にしなくても解る。

 

決めてくれて良いぞ、だ。

 

 

言われるまでもなく、全力でもう一度打つ! と気合を入れて打ったのだが……、続く2本目はサーブトスが甘かった。

やや低い上に、前気味になってしまい、威力は増したが、(ボール)の高さが足りず、ネットの白帯に直撃。

 

「うひぃっっ!?」

 

丁度日向の頭上の。あまりの威力、余波を感じた。だから、日向がトラウマとなりかけたのは言うまでもない。今後未来永劫、影山のサーブ時は後頭部を護る! と言うルーティンを確定させたのも無理はなかった。

 

影山のサーブだが、威力も相応にあったので、そのまま捲れて向こう側へ―――とも思ったが、威力があってもやはり高さが足りない。そのまま跳ね返されてしまった。

 

 

 

22-20

 

 

条善寺も20点台に突入。

 

 

そして、続くサーブは母畑。

威力は無いが、それでも打つ種はジャンフロ。言わば剛速球ではなく変化球。

 

 

「くっっ!! すまん大地!」

 

 

ブレるサーブは手元が狂ってしまう。

上手くとれる落下地点に先回りしたとしても、その軌道を読み切る事は難しい。

 

それも終盤のかなりプレッシャーのかかる場面で、そんなサーブを打ってくるのだから性質が悪い。

 

 

「っしゃあ、崩した! ―――げっ」

 

 

崩れた事にガッツポーズをとる照島だった……が。

 

 

「火神、ラスト頼む!」

「アス!」

 

 

澤村が二段トスで選んだ相手、ライト側の火神を見て、思わず変な声が出てしまったのだ。

チャンスな場面、取り返すチャンスな場面だと思ったが一転して超集中モード。

 

 

「止める!!」

 

 

それは、二岐も同じ。

2枚ブロック付いたが、自分こそが止める、と気合十分で手を出した。

 

 

「――――――ンッ!」

「あ゛あ゛!!」

 

 

そして、ここでは火神が魅せる。

お世辞にも打ちやすいトスとは言えない……が、東峰が、レシーブミスをし、後方へと(ボール)が跳んでしまった。二段トスをするには、非常にやりにくい場面だ。チャンスボールで帰ってもおかしくない場面で、この位置まで(ボール)を持ってきてくれた澤村に賞賛だ。

 

 

だが、それなりの助走しかできず、跳躍力も落ちる。スピードが乗ってない分、(ボール)に伝わる力も減る。

 

だからこそ、技で魅せる。

 

 

二岐の右腕~右手辺りを狙い、ひっかける様にしてブロックアウトを狙ったのだ。

 

相手にとって最悪だったのが、絶対に取れなくされた、と言う所。

 

 

何せ、二岐に当たった(ボール)は、白帯の上にあるアンテナに触ってしまったのだ。

 

 

アンテナに当たった瞬間、それはアウトの判定。仮に(ボール)に追いつけたとしても、無意味。主審の笛が鳴る。

 

 

「火神ナイスキー!!」

「ナイス火神!!」

 

 

23-20。

 

勝利まで、後2点まで迫る。

 

 

「くっそ! アンテナまで使ってくのかよ! 狙えんのかよ! オレに当たった(ボール)!」

「や、流石に当たったのは偶然ですよ? ……でも」

 

 

ニッ、と火神は二岐に向かって笑って見せながら一言。

 

 

「勝ち!」

「んがーーー!!」

 

 

やられた、と頭を盛大に抱える二岐だった。

 

 

「偶然だったとしても、手繰り寄せるのは、やっぱやべーだろ! っしゃああ、負けてられねーぞ!!」

【おっしゃあ!!】

 

 

「後2点だ! ここで決めるぞ!!」

【おう!!】

【アス!!】

 

 

 

 

白熱する試合展開。

 

 

「烏野対条善寺がおもしれーって」

「見なきゃ絶対損だって!」

 

「すっげー騒がしい。向こうの試合見てたのに、めっちゃ聞こえてきた」

「いやいや、マジでヤバいんだって。こっちまでアドレナリン全開になる試合してるんだって」

 

 

その余りの派手さ、面白さに人伝に聞いたのか、どんどん観客が増えていく。

他の試合を見ていた者達も、惹かれるように、集まってくる。

 

 

そして、その人伝は決して間違っていない。

 

 

落とした!? と思われた(ボール)が拾われている。

決まった!? と思われた(ボール)も拾われている。

 

方や、身体の何処を使っても良し。最後まで繋げてくる。

方や、正統派ではあるが、湧き立つ、魅せつけてくれるスーパープレイを披露している。

 

 

声が出る、手に汗も握る攻防。

 

 

 

「日向ぁ! 決めちまえーー!」

「ノー(ブロック無し)!! これで決めろ!!」

 

 

ここぞという場面。ラリーが3度続いて、3回目の正直に日向を選択する影山。

先ほどと同じ様にハッキリと向こう側が見える。

守備範囲は確かに広いかもしれないが、音駒や梟谷と戦ってきた。どのチームとも渡り合い、勝つ事だってできた。

 

 

【出来る―――!!】

 

 

日向は狙いを定めた。

守備陣の穴を見極めて、狙うはアウトラインぎりぎり。アウトになってしまっては元も子もないが、それでも決まる自信しかない。

 

だからこそ、迷いなく全力で打ち切った――――が。

 

 

「ふんがっっ!!」

 

 

照島が飛び出してきた。

 

それは、言うならブロックとレシーブの中間。日向の攻撃が狙い通りに後方ぎりぎりに向かう前に、拾った……触ったのだ。

 

 

「!! (誠也がやってたヤツみたいだ! 至近距離のレシーブ!?)」

 

 

以前の試合で、火神が意図的に後ろへと跳び、角度を見極めて当てた一本を日向は思い出して、驚いた。

 

如何に力がまだついていないとはいえ、超至近距離からスパイクに触るなど、怖すぎる……が、照島は上げて見せた。

 

 

「っしゃああ! 触れば――――」

「こっちのもんだァァァァァ!!」

 

 

照島の強引なレシーブに、二岐は反応。決して驚く事なくスムーズに、センターからの速攻をセットアップしてみせた……が。

 

 

「――――レシーブ、で!!」

 

 

 

放たれた強烈な一撃に臆する事なく、ばちぃっ!! と乾いた音を響かせながら、西谷が触った。

ただ、最悪だ。しょんべんレシーブだ、と毒づく。上手く拾えたとはお世辞にも言えないからだ。ミートする事なく、弾かれる様に後方へと飛んでいったから。

 

だが、それをも見越していたかの様に。

 

 

「負け―――るか――――――!!」

 

 

(ボール)に追いついた火神が落ちる前に、飛び込んで掬い上げる。

 

 

「うおお!! 帰ってくる!?」

「マジかよっ!!? 今のとっちゃう!? 会心の一撃だったぞ、自信満々の!」

 

 

西谷・火神が繋いだ(ボール)を、影山が返した。

 

 

 

「チャンスボール!! 行くぞぉ!!」

 

 

 

別に示し合わせていた訳じゃない。

寧ろ、今回は決まった、条善寺にとっても3度目の正直で行けた、と思ったというのに、返ってきたから驚いて一瞬出遅れてもおかしくない場面だというのに。

 

 

「!?」

「まさか――――」

 

 

 

一体誰からやろう、と始めたのだろう?

チャンスボールをリベロの土湯が拾ったと同時に、他の4人が一斉に駆け出した。

 

本来なら、チャンスボールなのだ。一度冷静になり、落ち着けば良い。

烏野側も、今のレシーブにかなりの力を使っているから、まだ態勢が整ってない。十分点を獲り切る事だって出来る筈なのに、照島が、――――否、条善寺(・・・)はコレを選んだ。

 

 

 

 

「ここで、同時多発位置(シンクロ)攻撃―――!?」

 

 


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