王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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遅くなりましたが………、よくよく見てみると、前話更新日 1月13日!

王様ぎゃふん! を投稿しだして2年もたってました!!!?
感想でも、教えてくださって感謝です!

完璧に忘れ去られる程、忙しい…… 涙
小説情報のページを見て、気づけたくらいですから……。


ペースが圧倒的に1年目に比べて遅くなっちゃってますが、何とか完結まで頑張っていきます!

※現在 原作13巻中盤……


第148話 条善寺戦⑦

 

 

 

「幾ら、質実剛健を頭の片隅に入れときなさい、って言われたからって勘違いしちゃダメよ」

 

 

それは、2セット目が始まる直前の事。

三咲の尻叩きには、まだ続きがあった。

 

 

「今から手堅くやりなさい、って訳じゃない。アンタ達の持ち味を殺してまで、意識する必要はない。………そこまで、バカじゃないでしょ? バカっぽいのは事実だけど」

【…………!!】

 

 

吹っ切れたのは、マネージャーからなのだろうか。

初めて見る三咲の毒舌っぷりに、思わず気圧されてしまう条善寺の面々。

 

だが、それこそしっかり頭の中に入れる。

 

 

「遊ぶ事と考えない事はイコールじゃない」

 

 

決して、間違ってる事を言っている訳じゃないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(考える、考える………、烏野(こいつら)、いやいや、11番(アイツ)と遊ぶのがやっぱ一番楽しい。それと10番や9番も…………いやいや、それじゃ駄目だ)」

 

 

澤村のフォローには面食らった。

騒がしい自分達の背を守ってくれていた前主将の姿が、そこにダブって見えてきた程に。

 

 

烏野主将 澤村。

1セット目でやり合って思った印象が【上手いが地味】

 

それに尽きると思っていたが、前主将 奥岳の姿がダブって見えた以上、間違いなく要注意人物のトップクラスに躍り出た。

 

 

「っしゃー、影山ナイッサー!」

「1本目、落ち着けよ!」

「今日も今日とて、誠也にサービスエース負けてるぞ、影山君!」

「……煽らない、翔陽。後頭部、守りたくないなら」

 

 

烏野のサーブ。

序盤は影山と言うビッグサーバーから。

 

1セット目を途中退場して、試合に出たい出たい出たい、とフラストレーションたまりまくっていた影山。

試合に出れる事が嬉しく、ちょっと外にいただけなのに、思わずニヤけてしまいそう……だったが、日向の余計な一言でその表情は黒に染まる。

 

凄まじい殺気、怨念に似た何かが、日向を覆いつくさんとしていた。

 

 

「うひぃっ………」

 

 

後頭部の危機を感じ取ったのか、日向は思わず縮み上がり、飛び上がってしまう。

 

 

「(―――ほんと、ビビりなのか、度胸あるのか、……なーんも考えてないかな? 長年付き合ってるケド、この辺はハッキリしないんだよなぁ、翔陽って)」

 

 

そんな日向を見ながら笑う火神。

自然と、影山とも目が合う。

 

 

【負けねぇ……】

 

 

メラメラ、と解りやすいオーラを宿してる。

その視線から感じ取れる程に。敬意を抱きつつも、火神は笑ってそれを受け流して、影山の視線をそのまま、条善寺の方へと誘導した。

 

戦っている相手は、向こうであり、意識が散漫になって、……矛先を間違えて勝てる様な相手じゃないぞ、と火神は目で伝える様に念じた。

 

影山の怨念? 程ではないが、火神のそれも十分すぎる程超人的。テレパシ―でも使えるのか、と外からニヤニヤと眺めていた月島は思ってしまう。

 

 

「やっぱキモチワル」

「突然の暴言」

 

 

ニヤつきながらも暴言。

山口は、月島の暴言に驚きつつツッコミっぽく入れる……が、ある意味わからなくもない。

先ほどまで、日向にぶつける勢いの雰囲気を、可視化させていた影山だったのだが、火神の手にかかったら、あっと言う間に窘められたのだから。

 

 

今の影山は、オーラを抑えて、集中しているのだから。

 

 

「……まぁ、条善寺(向こう)の雰囲気が変わった、って言うのもあるだろうけどな」

 

 

そこに菅原も入ってきた。

言葉を交わさなくても、大体何を思っているのか表情と雰囲気だけでも十分解るのが、人一倍チームを、相手を見続けてきた菅原の得意分野なのだから。

 

 

だが、得意じゃなくても解る。

1セット目の条善寺を見てきた者であれば、ガラリと変わったあの雰囲気が。

 

 

 

 

「―――――(いい感じだ)」

 

 

笛の音が鳴り響き、十分呼吸を整えてから(ボール)を高く上げる。

手に最後まで掛かり、その指先から(ボール)の感触が無くなり、上がった場所、高さ、全てが満点だ、と瞬時に影山は理解。

余計な力を抜いてくれたのは火神ではあるが、そういった部分も今は邪念とし、カットしている。

 

ただ、今は最高のサーブを打つ事だけを考え続けている。

いつも考えている、思っている事だが、改めて。

 

 

轟音を纏い、弾丸の様に打ち放たれた影山のスパイクサーブ。

 

確実にサービスエースの手応え―――だが。

 

 

「ふんがーーー!!」

 

 

後衛、ライト側を守備していた東山が飛びついた。

上手く返球する必要はない。ただ、(ボール)をコートに直接落とさなければ良い。

 

頭、腕、足、胴体。何処に当たってくれても良い。

 

決まる、と相手が思ってたであろう、(ボール)をコッチが逆に上げて見せる。

 

 

「それが、それこそが楽しいんじゃーーーいっっ!!」

 

 

ドギャッ!! と、凡そ(ボール)を拾う様な音とは思えない轟音が体育館に響いた。

そして、(ボール)は真上に打ち上げられる。

 

この根性体当たり。

影山と言うトップクラスのサーバーの初撃を、しかも明らかに会心の一発を上げて見せた。半分以上はまぐれかもしれないが、そのまぐれを引き寄せた。

 

引き寄せる切っ掛けが、尻を叩かれたから……かもしれない。

 

 

「っしゃ!」

「ナイスレシーブ!!」

「よっしゃー、寄越せーーっ!」

 

 

続いて、上げると最初から信じて疑ってなかった様で、セッターの二股は駆け出し、落下地点へ入る。

照島、母畑共に、前衛2枚助走距離確保。

 

今回はトリッキーな攻撃法はしてきていない。

 

そして顔つきを見ればわかる。

口こそ軽い感じがするが、今日一番の緊張感が、その前衛2人にはあった。

 

 

「(オープン。母畑(ライト)か、やっぱり、照島(レフト)……?)」

「――――――」

「こいやぁぁぁ!」

 

 

攻撃に備えて、火神・日向・澤村の3人はブロック体勢に入った。

今まで、直情的なプレイスタイルだったから、比較的に読みやすかった。ただ、そんな事する? そんな体勢で打ってくる?? とやや常識外れ感があり、独特なリズムがあり、それにより、乱されてしまった事はあったが、もう1セット戦って慣れてきている。

 

加えて、前衛3枚のブロック司令塔は火神だ。

 

 

「(二股さん、初めてですね。初めてです。――――全く読ませてくれない(・・・・・・・・)セットは)」

 

 

何をしてくるか分かりにくい条善寺のプレイスタイルをこの場の誰よりも知っているからこそ、読みやすいし、備えやすいし、面食らう事がないから迷いもない。

 

でも、今回に限っては違う。

 

影山や音駒の孤爪を彷彿させる様な、綺麗なフォームからのトス。身体が流れてないし、乱れてもない。それだけで、物凄く集中しているのが解る。

 

二股は……、否、全員だ。

自分の知らない(・・・・・・・)条善寺だ。

 

 

「リード・ブロック!」

「! おう」

「っしゃあ!!」

 

 

数あるブロック種を巧みに使い分け、最善の手を選び続けるのが火神だ。ほんの僅かな猶予しかない時間の中で、ソレ(・・)をしてくるから、見る者が見ればとてつもなく恐ろしいと感じる。――――それ以上に楽しそうにするから、やり返してやろう、と言う気にさせてくれたりもするが。

 

 

 

ここで、二股が上げたのが照島。

当然、セッターが上げに行ったとはいえ、打点はかなりあるとはいえ、レシーブで上がった場所はアタックラインよりも遥か外側だ。

 

乱れた場面で、エースでありチーム1の攻撃力であろう照島に託すというのが定石(セオリー)と言える。

 

ほとんど後付けだ。

頭では、そうわかっていても、最後の最後、(ボール)を見るまで、照島に上げるかどうかが解らなかった。

 

 

そのセットを見て、影山を初めて見た時とはまた違った感覚が身体を走る。

ゾワッ、と背中に何かが感じる。

 

何より、今日一番、楽しく感じる。

 

 

「レフト!」

「翔陽、ついてこいよ!」

「おう!」

 

 

リードブロックでも、3枚揃える事が出来た。

(ボール)に触れる事こそが大事、と言われるリードブロックなのだが、火神は元々照島に近く、反応速度が速い日向、そして、多少は劣るモノの、後輩が前を走っていて取り残される訳にはいかない、ブロックフォローに回るより、3枚揃えた方が良いと判断した澤村。

3枚ブロックをそろえる事が出来た。

 

 

 

「せー……っの!!」

「「!!」」

 

 

火神の声に合わせて、3人は跳躍。

照島は、滅茶苦茶好戦的な目をしていた。

3枚だからと、気圧されたり後ろ向きになったり、そんな姿勢は一切見せない。

プラス思考しか、そこには見えない。

 

 

そして――――ただ無鉄砲なだけではない。

何も考えてない訳がない。

 

 

 

「(11番(コッチ)を見つつ………)」

 

 

 

空中姿勢(フォーム)は、確実にストレート側。

何なら火神に対抗して、決めてやる感も醸し出ていた。

この試合で何度か見た光景だった。

だから、今回もストレート側、火神がいる方――――と、油断してしまったのもあるかもしれない。

 

それは、クロス側を守っていた日向や澤村は勿論、火神自身も。

 

 

何せ、照島はずっと火神か、もしくは(ボール)。……いや、ほとんど火神ばかりを見ていたから。

 

 

「ふんっっっ!!」

「「「!!!」」」

 

 

インパクトの刹那、寸前でコースを変えた。

変わったコースは日向、澤村のブロックの間。

更に、澤村の右手部分に接触し、軌道が変わってしまう。

 

流石の後ろを守っていた西谷であっても、変化に変化が重なった(ボール)の軌道を読み切る事が出来ず、咄嗟に気付いて(ボール)に飛びついたが、(ボール)は西谷の腕に当たり、はじかれた様に後方へ。

 

あの体勢から、(ボール)に触れる事が出来ただけでもすごいと言える、もしも 澤村の手に当たらずに抜けてきていたら取れていた可能性が極めて高い。

でも、そんなのは何にもならないし、いらない。

 

何せ取れなかった。レシーバー陣もストレート側だと思っていて、完全に裏をかかれたのだから。

 

 

 

「くっそがぁぁぁ!!」

 

 

 

誰よりもレシーブに拘り、背を守ると、守り勝つと意気込んでいた西谷は、だからこそ悔しく、腹の底から吼えたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おおおお……!! フゥ――――――ッ!!」

「いや、なんだよ、今の間っ!」

「まぐれだべ? 絶対まぐれだべ? 今の!」

「うっはー、見てたけど、ぜってーストレート側だと思ったわ!!」

【うぇぇぇい!!!】

 

 

 

 

1回で3点取ったみたいなテンション……どころじゃない。

勝ち越した、春高初出場決定! と言っても大袈裟じゃない勢いで盛り上がっている。

 

 

 

「さいっこうだわ。やった事ねぇ、やれるかわかんねぇプレイ、頭ん中のシミュレーション通りにできたのって。それがお前を出し抜いた上で決まる。さいっこうだな!!」

 

 

照島は、火神の方を見て言う。

まっすぐ見据えて、今日一番の笑みを見せる。

 

 

「勝ち!!」

 

 

そして、二股。

1セット目のブロックの仕返し、と言った所だろうか。点を決めた訳ではないが、自分が選びぬいたセットで点を決める事が出来たのだ。

自分が決めても自分の点、スパイカーが決めても自分の点。そう思っていると言って差し支えない。

 

影山も同じような発想なので、よくわかる。

 

 

 

無論、それらは烏野側にも十分伝わっている訳であり。

 

 

「ぬっがぁぁぁぁぁ!! ふぐぉぉぉぉ!!」

「スマン、ブロックの間抜かれた!」

 

 

日向、憤慨。

澤村、冷静に分析。

 

 

「今のは(まぐれっぽいが)相手の上手さを称賛だ。だが、ブロックは面積広げても、間を開けすぎるなよ!」

 

 

烏養からもブロックの間、閉めていけよ、と言う声も掛かる。

だが、それ以上に今のは照島のスパイクに賞賛をとも言っている。

 

外から見ても、見事の一言に尽きる一撃だったのだろう。

 

 

だが、だからと言って流れを簡単に渡す様な事はしないし、烏野は呑まれる事を知らない。

そして条善寺を侮っている訳でもない。

いつも何時でもそれぞれの()を出すだけだから。

 

 

「日向ボゲェ!!」

「うっっ、な、なんでオレだけだよ!」

「なんでもあるか! 後ろからでも分かったぞボゲェ! お前、最後、手の力抜いてたろうが!」

「ぅ………」

 

 

騒がしいのも烏野の色、である。

 

兎も角、バレー関係に関しては、日向にしては珍しい怒られ方だ。

でも、それには理由がある。

 

あの一瞬の攻防、照島の気迫や視線。

 

明らかに火神の方を意識していたのが日向にも解った。つまり、完全に日向も引っかかってしまった、と言う事だ。

全く見向きもされてない。だから手を抜いた、と言うよりは、何でこっち来ないんだ!! と言う憤慨の方がはるかに大きい。

 

スパイカーに振り向かす、なんて事考えた事はない。囮として、相手ブロックを振り向かす事ばかりを考えていた。

 

でも、確かに最高到達点は低いかもしれないけど、あからさまに無視された(様に見えた)のはプライドに触る。

 

ブロックが無理なら、攻撃(スパイク)側で振り向かす。

ブロックは火神に任せて次のカウンターでデカいヤツ決めてやる! と言う日向の意気込みが、逸る気持ちが、影山の目にはブロックに手を抜いてる様に見えたのである。

 

 

「……………」

 

 

そんな時の火神は終始何も言わなかった。

ただただ、条善寺側を見ていた。照島や二股、他のメンバー諸々を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「火神君の様子が……、大丈夫ですかね?」

 

 

火神の仕草は、外から見ていた武田にも伝わったのだろう、眼鏡をかけ直し、もう一度火神を見て、心配をする。

誰よりも大人びている彼だからこそ、失点された時は率先して1年生たちをまとめ、2,3年生たちも巻き込み、前へと進んでいくのだ。

そんな姿を、武田は短い期間ではあるものの、何度も何度も見続けてきたから、少し心配になった様だ。

 

 

「いーや、それこそ全然心配する必要ねーぜ、先生。ありゃ、いつもの火神(アイツ)だ」

「え? そう、ですかね?」

「そうですよ」

 

 

逆に烏養と、そして清水は大丈夫だ、と言う。

 

火神の表情がこちら側からだと見えにくい。

もう少し顔を、角度を変えてくれたら見えるのだが、ちょっと今は見えない。

 

 

でも、少し、少し時間がたつと、見え始めた。

 

 

そして、2人が大丈夫だ、と言わん理由を即座に察する。

 

 

「あ、あははは………、そうでしたね」

 

 

一言で、今の顔をしてる火神を言い表すとすれば【無邪気】

 

はちきれんばかりの笑顔。

武田は、なぜ忘れていたのか、わからなかったのか、自分でもわからない。

 

 

青葉城西、音駒、梟谷………たった数ヵ月で多くの強豪と呼ばれるチームと対戦をしてきた。

いつだって、彼はああやって無邪気な笑みを浮かべていた。

 

そして、周りにも伝わり、いろんな意味で繋がっていくのだ。

――――そう、バレーボールの様に。

 

 

「火神は、いつも通りです」

 

 

最後に清水がまた言い切る。

自分こそが、一番(・・)見ていると言って良いから解るのだと。

 

 

「いつだって、大丈夫です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2階から見ていても、先ほどのプレイは驚く。

滝ノ上もそうだ。

 

 

「いや、普通にストレート打つって感じだっただろ……。確かに今まで無茶な攻撃してきてたけど、あそこで無理矢理コース変えるとか、筋肉に相当負荷がかかると思うんだが……」

 

 

冷や汗をかきながら、呟いた。

変則的な攻撃は確かに得意としている様だが、それでも()として出来上がっている様にも思えた。

だが、今のはその形すら無理矢理捻じ曲げた感満載なのだ。

 

そして谷地も、まだまだバレーは勉強中、練習中なのだが、解る所はある。

 

 

「あっちの、刈り上げ頭の人……1セット目では、火神君がいる方に結構打っていた様な気がするんです……、なんというか、それも含めて裏をかかれちゃったって感じです」

「お、そんな感じそんな感じ。張り合ってるって言うより、火神で遊んでるって感じだったか。……ここにきて頭も使いだした、って感じだな、オイ」

 

 

これまで火神と張り合う様に競い合う様に打っていた軌道が、一転した。

それも視線や気迫、その他諸々すべてフェイントに贅沢に使った上での事だ。ここまでやられたら、対峙している烏野のメンバーだけでなく、見ている側も騙されてしまうというモノだろう。

 

 

「引っかかっちゃったら、怒ったり悔しがったりするって思うんですけど……、特に日向や影山君なんかは分かりやすいくらいで」

「だろーな。目に浮かぶ」

「でも、火神君はいつも、いつでもやっぱり楽しそうなんですよね。新しい事があったら特に楽しそうにしてる。……だから、何だか大丈夫って感じもして……」

「あ―――――……、それも、解るな。対戦相手としては、最高にイヤな分類に入る選手、って感じなのに、一緒にやって見たら、なんつーか、こう……もっとコイツとやりあいてー、って思うんだよなぁ……不思議だ。……いや、マジで」

 

 

烏野と何度も何度も練習試合を重ねている町内会チーム。

何度も相対しているからこそ、滝ノ上も解るのだ。

谷地達、高校生程は接点が多くない訳だが、その短い期間でもわからせる程の厄介で、この上なく楽しくなる何かを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「条善寺はペースを変えてきましたね」

「! どういう事だ? 火神」

 

 

火神は一頻り笑うと、表面上ではいつもの様子に戻って皆と集まりそう呟いた。

それに聞き返したのは、澤村。

 

 

「今までは、全力で遊ぶ、型にはまらずって感じでしたけど、その本質は……言ったら、翔陽みたいな猪突猛進型タイプだって、思ってました」

「え!? オレって刈り上げさんみたいな感じで上手い??」

「全く言ってないだろ」

 

 

条善寺について火神なりの感想を皆に告げる。

 

思うところは、当然多々ある。

足で上げたり、無茶な体勢から強打を打ってきたり、手あたり次第に手を出して無茶なリズムなのに攻撃にまで繋げたり……、兎に角目で追ってたら忙しく感じる。

 

 

 

「でも、今はアソビに夢中でちょっとしたミスとかで点が疎かになってた彼らじゃない。100%点を獲る事だけ考えてる。その上で、遊んでます」

「……優先順位を変えた、ってわけね。普通は最初っから勝ちに来るもんだけど、アソビの質が高ぇから、全然違和感ないわ」

「怖っ、性質悪っ……」

「はい。ですから、勢いのままに来てた場面でも、勢いはそのままで、頭の中じゃ一呼吸おいて考えて最適・最善で打ってきます。何が来ても、驚かないで行きましょう」

 

 

最初は、お祭りチームと呼ばれ、型破りな場面に驚きの連続だった。

それが、突然チームの性質が変わるとなったら、違う意味で驚いてしまうだろう。

 

 

「(ははっ、驚く訳ないだろ?)」

「(日頃から驚かされっぱなしだからなぁ……)」

 

 

澤村は、火神の方を見ながら笑った。

そして、それは東峰も一緒だ。

いや、菅原、そして控えめな二年生たち縁下、成田、木下も同じだろう。

耐性と言うモノは出来る。

それに、いつも驚いてばかりだったら身体が持たないから。

 

「(最初は、あの中学の試合見てから、だよな……、驚きの始まりってヤツ? そんで烏野(ウチ)に来た事もそうだし……)」

 

最初に最も驚くような事を受けていれば、後は緩和されるというものだ。

衝撃度合いで言えば、こう言える。

 

今年度の烏野高校1年は、間違いなく、紛れもなく。

 

 

【全国トップクラス】

 

 

 

 

火神の説明と、その要所要所に表情に隠しきれていない笑顔が、烏野側の変な緊張を解していく。

 

 

「そんで、翔陽? さっきの影山の指摘、どーいう事だ?」

「うぎっ……」

 

 

日向を罵倒したりはしないが、保護者(おとーさん)保護者(おとーさん)と周りに言われている様に、火神も時折日向に色々(・・)言ったりしている。

日向の表情を見れば、もう既に解っていそうだけれど、それでも念入りに釘を差す。

 

 

「ブロックだって、スパイクと同じくらい集中。前言ってただろ? やる事する事、いっぱいなんだって。………疎かにして良いプレイ、1つでもあったりする?」

「……1つもないですっっ!!」

「よし」

 

 

火神の威圧感……と言うより、日向自身が恥じるべき事だと思っている。思っているからこそ、強く効く。

ある意味、影山に罵倒され、月島に毒を吐かれるよりも強く鋭く、その言葉は脳裏に入り込んでくるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が来ても驚かない。

 

 

派手な攻撃、多彩な攻撃、烏野とはまた違った意味で目立つプレイをし続けてきた条善寺が、静動、緩急、自在に操りだした事もそう。

 

 

 

「―――驚かない」

 

 

 

渾身の空中姿勢(フォーム)から繰り出される攻撃。

それが例え、スパイクではなくフェイントだったとしても、取る。

 

 

「くっそ!!」

 

「ナイスレシーブ!!」

 

 

澤村渾身のレシーブ。

ブロックで不覚を取った今、得意分野でもあるレシーブで魅せる。

 

 

「オーライ!!」

 

 

そして、流れる様な動きで、次に飛び出したのは西谷だった。

アタックラインより内側、レフトよりにあがった(ボール)。セッターは位置的に無理。

ならば、西谷の選択する手は一つ。

 

 

青葉城西戦で見て学んだリベロからのセットアップ。

 

まだ、オーバーは苦手だが、それでも恐れずに進む。

上げる先にいるのは、火神。

 

 

「来るぞ!」

「11番!」

 

 

影山・日向のような変人速攻ではない。

十分見て間に合う攻撃だ。照島、二股は必ず止める、と意気込んで火神をマーク。

 

 

「うっしゃ! せーーー……のっっ!!」

「んんんっっ!!!」

 

 

タイミングを合わせて跳躍。

 

 

「シッッ!」

 

 

タイミングは完璧だったが、火神の精度重視のスパイクまでは見抜けていなかったようだ。

守備陣形もやや前よりの前傾姿勢。ブロックアウトフォローは一人もいない。

 

狙いを定めるは、相手の手の先、指先。

威力を削がれず、それでいて大きく後方へと吹き飛ばす事が出来る角度と位置。

 

 

「んっっ、が!!」

「くっそっ!? ワンチィィ!!」

 

 

ワンタッチ、と言ったが、この(一撃)は、ブロックの手に当たった瞬間どうなるか分かった。分かってしまった。

 

触らせる(・・・・)事が目的のスパイクだという事。

 

 

後方へと弾き跳んだ(ボール)は、誰も追いつく事が出来ずに、そのままコートの床に落ちた。

 

 

「っしゃああ!」

「火神ナイスキー!!」

 

 

ばちんっ、と手を合わせる。

 

 

「西谷さん! ナイストス! 完璧でした」

「おおっ! とーぜん!! 練習してきたからな!」

 

 

勿論、西谷とも同じく。

レシーブ練習をする傍ら、西谷は菅原に教わりつつ、火神とも合わせつつ、兎に角苦手を克服しようと努力を積み重ね、前を向き続けたのだ。

 

 

「だが、少し違うぜ誠也! 完璧じゃねぇ(・・・・・・)

「!」

 

 

火神に完璧、と言われても―――まだまだ十分ではない。

 

 

 

「今のは正直まぐれ(・・・)にも、助けられちまってるからな。もっともっと自分の意志だけで、完璧(今の)を目指すぜ、誠也! どんどん打ってくれよ?」

「! アスッッ!!」

 

 

 

常に前を見続ける姿勢。

触発される、されているのは、何も他のメンバーだけじゃない。

 

火神も同じなのだ。

 

 

 

「かっけー西谷さん、かっけー!!」

「………かっこいい!」

 

 

 

日向はいつも通りストレートに感情を爆発させ、影山もセッターネタでは、対抗心をむき出しにして燃える性質なのだが、西谷の言葉や仕草、一つ一つがドツボに嵌っていて、日向程じゃないにしても、今回はただただ、西谷の格好良さに胸を打たれている様だった。

 

 

 

 

 

 

「っちっくしょーーー! 今の、手の先狙ってきたの解ったのに、止められなかった!」

「相手の方が高い位置から打ってきてるしなぁ、加えて高いトコ狙われたら、止めるの難しくね?」

「だろ? でも、かといってノーガードで殴られて大丈夫、って威力でもねーし」

「守備範囲、少し広めに考えとくか? カバーする範囲は広くなっちまうケド、やらないよりマシな気もする」

 

 

 

 

今の一撃を分析。

騒がしく、熱くなりつつも、頭の一部では冷静さは失っていない。

 

しっかり考えている。考えた上で、もっともっと遊べる(・・・)様にしている。

 

 

「………それで良いの。これで良いよね? 奥岳君」

 

 

そんな条善寺のメンバーを見ながら微笑みを向ける三咲。

 

 

 

 

【………ヘッブシッ!】

 

 

 

何だか、天に召された存在? の様に連想されちゃった某前主将は、春高予選の結果を、自分の後輩たちの事を気に掛けつつ……人知れずクシャミをしているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

どちらも出足好調、絶好調な立ち上がりだ。

取り、取られのシーソーゲーム。トリッキーな魅せるプレイも度々見せながらも、勢いだけじゃない事も解らされる。

 

 

ブレイクポイントは、なかなか譲らない両チームだったが、ここから流れが変わり始めた。

 

 

「ふんっっ!!」

 

 

途中交代で入った田中のブロックとアンテナの穴、針の穴を通す精密なストレート打ち。

紛れもなく会心の一撃、と本人も自画自賛しそうだったのだが。

 

 

 

「おらぁぁっ!!」

 

 

 

生粋のサッカー選手か? と思える程の自然さと反射神経で、右足を伸ばして、スライディングする母畑。

おまけに、そんなやり方じゃ、当然まともに(ボール)なんか上げられる訳がない、よく出来たとしても絶対崩れる、チャンスボール、と思うというのに。

 

 

「ほっ!!」

 

 

繋げているのだ。

それも、条善寺高校のスタイルならば、十分攻撃が可能な範囲内の(ボール)で。

 

 

 

「やっば! 今のすっげ!」

「つか、このセットラリー、えげつなくね? 見てる方は楽しい……って言うより、そろそろ疲れそうだわ」

 

 

 

その目まぐるしい展開に、観客たちも目を回す勢いだ。

どっちに驚けば良いのか、と混乱しそうにもなる。

最終的にはどちらにも驚けば良い、となり、その結果疲れそう……ともなってしまったのである。

 

 

 

「(上がったけど、安定してない。……今まで以上に安定してない。多分、疲れとかもたまってきてる)」

 

 

冷静に分析するのは月島。

お祭り、と称する程に遊びまわる連中は月島の中では日向と同類、体力オバケの分類だと思ってきた。

 

だが、その中でも僅かにだが歪が見えた気もしている。

そんな、あからさまなモノじゃないが、ほんの僅かでも見えたなら、試してみる価値はある。

 

 

―――打ってくるのが微妙な時は、ブロック付かずに下がって守備。

 

 

烏養に言われていた事ではあるが、月島(MB)以上に、ブロックで活躍している火神を見て、燃えない訳がない。

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

ドッ、バンッ!!

 

これは間違いなく止められる。

冷静に判断し、最後は自分自身の決断を信じて跳んだ月島のブロック。

 

1枚だったが、相手の一撃の軌道を正確に読み……跳ね返した。

 

 

 

 

「「「どシャットオォォォォ!!!」」」

 

 

 

 

「止めるなら、文句ないデース」

 

 

月島と目が合い、烏養は手を振って答える。

今の場面、下がってレシーブするものだと思っていた烏養だったが……モノの見事に裏切られた形だ。

 

それも、最高の形に。

 

 

 

 

20-18

 

 

 

 

烏野高校、2セット目終盤。

一歩前に躍り出る。

 

 

 


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