王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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何とか1話、投稿出来ました。
これからも、更新頑張っていきます!


第147話 条善寺戦⑥

 

 

 

「いや、お前ら。いきなり相手の真似するとか。やるタイミング考えろよ」

「あ――――、いや、出来ると思ったんスけどね」

 

 

 

条善寺高校。

 

魅せ所では十二分に魅せ、十分渡り合えている……と言える活躍をしたのだが、如何せんバレーの勝敗は点数で決まる。

 

如何にスーパープレイ、トリッキープレイ、大歓声が湧き起こる様なプレイを魅せたところで、相手チームのコート内に落とさなければ点にはならないし、自陣のコートに落とせば相手の点になる。……もちろん、ミスをすれば即相手の点だ。

 

そして2点差以上を付けられ、25点を取られれば、3セットマッチで2セット取られれば、負けるのだ。

 

 

だから、タイミングを―――と穴原は言うが、本人たちは熱は冷めていない様子。

それも、烏野との試合は、いつもよりも好調に見えるから、だからこそなかなか強めには言いづらい所もあったりする。

 

 

 

「もうちょい、もうちょい低かったら、ミートしてた!」

「うんや! オレだって、もうちょい跳ぶタイミング考えてりゃ行けてた!」

「「っしゃああ! 次だ次!」」

 

 

最後の最後、セットポイントの場面で一度もやっておらず、練習さえしていない同時多発位置差(シンクロ)攻撃。

 

まだまだ、熱は冷めてない。

 

 

でも、何度でもいうが、タイミングだ。

成功すれば奇跡だって言って構わないが、蛮勇と勇者は違う。

 

まだまだ、やる気満々な照島とセッターの二岐、同じテンションな面子たちに対し、穴原は深くため息を吐き、多少ブレーキになったとしても、幾ら好調気味だったとしても、言うべき事は言う。

 

 

「だから、いきなりすんなっつーの。いや、するの絶対駄目とは言わんが、やる場面をもっと考えろ」

【ハイ………】

 

 

 

しっかりと穴原の説教を受けるのだった。

無論、目立ってないが、他の面子にも釘さすような言い方で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや、1セット目の最後の方 9番戻ってきたよな? つー事は2セット目来るか!?いや、燃えるわ! やっぱあっちの方が!」

「あ、それと11番マークは絶対な! んで、二股もムキになりすぎるなよー」

「なってねーよ!」

「サーブは結構いい感じで拾える様になってるし、兎に角強ぇの来ても上だ上!」

「上~といやあ、あの10番だ。どこにでも出てきて、めっちゃ跳ぶよなぁ」

「そっちの()じゃねーだろ。……まぁ、オレも思ったわけだが。スゲー釣られるし。一級品の囮って感じ?」

「だろ? それに――――」

 

 

注目すべき、烏野の1年の話題が主に上がっていた中で、東山は、烏野側の観客席を見た。

そこには、烏野の色を象徴している黒、そして際立てるかのような白い文字でたった2文字だけ刻まれている。

 

 

【飛べ】

 

 

東山は烏野の横断幕を見て、苦笑いをした。

 

 

「まさに、横断幕(アレ)そのものを体現してるっつーか、10番(アイツ)の為の横断幕っつーか、そんな感じがするよ。他のヤツが跳んでないわけじゃねーんだけど」

 

 

注目すべき選手は他にも当然いるが、やっぱり見栄えがして、目立つのは日向なのだろう。

 

 

「んっん~~、他校はとりあえず置いといて」

 

 

次に、自分達の横断幕を見た。

そこには【飛べ】程簡素ではないが、四字熟語が大きく記載されている

 

そう―――【質実剛健】と。

 

 

「やっぱ条善寺(ウチ)のってダセ~~よな。早く新しいのにしてぇ。しちじつごーけん、だっけ」

()じゃない。()な? 質実剛健(しつじつごうけん)な。ダセーいえる程、読めてねーじゃん」

「うっせー。イイのイイの。今、もう読めるからイイの! とにかく、英語とかのヤツが良い! かっけーヤツ!」

 

 

烏野の横断幕の話題になり―――やがて、自分達の横断幕が標的となった。

確かに、現在のチームの色的にはそぐわないと言わざるを得ないだろう。

現に、烏野も意味を知り、同様な印象を持っていたから。

 

 

「かっこいいじゃないの。質実剛健だって」

 

 

そんな中で、異議を唱えるのは条善寺唯一の3年であるマネージャー三咲だ。

 

 

「ん、でもそれは好みの問題だけど、チームには合ってないっスよ。少なくとも、オレらの代……、つーか これからの代には合ってない。っつーか、オラー! お前らー! 2セット目、もっともっと上げていくぞー!」

【おぁーーい!!】

「…………」

 

 

 

三咲は目を瞑った。

以前までのチーム、3年生たちがいて……、そして更に記憶を遡り、もう卒業していったOBの皆の事を思い返す。

 

 

「あんたたち。もっともっと上げてくのは良いけど、どんなにダサいって思ってても、頭の片隅には、質実剛健(・・・・)って言葉とその意味、ちゃんと残しておきなさいよ」

【!】

 

 

照島にハッキリと、三咲は告げる。

ハッキリと曲げずに意見を押し通す様な勢いで。

何処か、いつもの三咲じゃない感じがして、照島はギョッとした。

 

何せいつもの彼女は、云わばチームの縁の下の力持ち。

悪い風に言えば、よく尻ぬぐいをさせている。

 

だからこそ、真っ向からやってくるとは思わなかった。

 

 

「おお? どした、三咲。とつぜん」

「すみません先生。正直今は、これまでに無いくらい良い調子で行けてる様に見えるんですけど、それでも試合は1セット取られてます。……どうしても奥岳君に言われた言葉が必要になる、って思ったから。今言わせてください」

「え? 奥岳? えと、構わないが……」

 

 

前主将の名だ。それくらいは当然知っている穴原だったが、ここでその名が出てくるとは思っておらず、面食らったようだ。

 

 

 

三咲は気を引き締めなおして、続けた。

脳裏に浮かぶ、前主将 奥岳の事を思い返しながら。

 

 

「烏野は強い! 照島は、白鳥沢に勝てる所が勝つ、みたいな単純に最初考えてたけど、1セットやってみて十分わかったでしょ?」

 

 

堂々としてる三咲の姿を見て、思わず背筋を正す面々。

そして、それは穴原監督も同じく。

 

 

「贔屓目かもしれないけど、皆 過去最高の出来だと私は思う。でも、それでも負けちゃってる事実も、テンション上げる前に自覚しなさい」

【う、ウス!】

 

 

何だか、逆らってはいけない………と全員が感じる。

いや、普段から別に逆らったりしているわけではないが、軽口でいなしたりすることは多々あるから……、そういう場面じゃない、と本能的に感じ取った。

 

だからこそ、三咲の話を、背筋を伸ばして聞き、いい返事で返すのだ。

 

 

三咲は、それを確認した後、照島を見た。

真剣な顔つき。ここ暫く見なかった顔……な気がする。

 

 

 

「楽しく遊ぶ、バレーするのは勿論結構。その上で試合に勝てたらまさに最高だね。―――でもね。遊ぶ為には、まずは遊び場が必要なの。……これ奥岳君がよく言ってた言葉でしょ?」

「!」

 

 

自然と、三咲の言葉に皆が注目していく。

それは監督である穴原も同様にだ。……いつもの三咲の感じじゃない事は、彼もわかったから。

 

 

「楽しく遊ぶ為に、遊び場を用意する。……用意(・・)する事、それは遊びじゃないから、きっと皆は楽しいって思わないと思う。だから、楽しくない時間(・・・・・・・)は来る。――――必ずね」

「…………」

 

 

それは、嘗て奥岳前主将から聞いた言葉だ。

 

 

【楽しくない時間は必ず来る】

 

 

 

あの時、意味はいまいちわかってなかった。

確かに、試合には負けた。でもベスト4まで行く事が出来た。十分楽しめたと言えるだろう。だからこそ、その問いに対し……、照島は【楽しんで見せる】と答えたのだ。

 

だが、三咲の言葉を聞いていると……。

 

 

 

「楽しくない時間って言うのは、色々あると思う。劣勢だったり、不調だったり。誰にだって絶対にある時間。でもね、そんな時でも、楽しめるヤツは居るわけがない。居たとしたら、それはもう変態か変人の類よ」

 

 

変態やら変人やら、三咲の口から言われるとは思わず、最初以上に、照島だけでなく全員がビックリしていた。

 

 

「1セット取られちゃったよ? でも、このままで行く? これでも楽しい? 悔しくない? 劣勢(・・)っていう楽しくない時間の筈だと思うんだけど」

「――――そっスね。確かに。やってる最中は、ちょー楽しくて、そんでもってそのままアソビ勝つつもりで試合やってたケド……、気づけば結構点差つけられて1セット取られた。負けて楽しいってのは、なんか違うっス。悔しいケド、向こうの方も楽しそうで、それでいて勝ってる」

 

 

照島の言葉を聞いて、三咲は笑みを浮かべた。

 

 

「奥岳君に、ケツ叩いてくれ、って頼まれてて、今日の試合の出来も最高で必要ないかな? って思ったけど、勢いだけでこのまま行きそうなアンタ達だったから、叩く事にしたわ」

「!!」

「ケツ……」

「華さんが、ケツって言った……」

 

 

注目する所はソコじゃない。と苦言を呈しそうになったけど、今はおいておく。

 

三咲は、何だか勿体ないと思ったんだ。

間違いなく試合中に心と体が一致した。そんな感じがした。

 

でも、実際は負けている。

 

 

 

 

―――勿体ない。もっともっと、見てみたい。

 

 

 

 

奥岳に頼まれた~と言うのは単なる言い訳だ。

ただただ、三咲自身がもっともっと見ていたい。

烏野との一戦を、躍動する皆を見たい、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しくない時間も、ちゃんと我慢して、最後まで遊んで―――……勝って(・・・)みせなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………誠也。なんか向こうの美女の口からケツ(・・)って単語が聞こえた気がするんだけど……、気のせい?」

「気がしたとしても、別に口に出さなくて宜しい。聞き流しなさい。―――って言ってもまぁ、オレも聞こえた。多分発破かけたって事かな? 条善寺(向こう)も凄く賑やかだから、思いっきり言わないと聞いてくれない、伝わらない気がするし」

 

 

そう、ハッキリ言わないと……、いや寧ろ強く怒らないと中々通じない。

某日向、某影山は特に。

 

なので、ここ一番では澤村が必須なのだ。

 

 

「………オレ、怒るキャラ違う」

「! どーしたの突然」

 

 

不穏な気配を察知したのか、澤村は突然否定し、直ぐ傍で聞いていた東峰は驚いていた。

 

でも、無理がある。だって澤村が雷落とす事は多々あるから。

勿論、怒りたくて怒っているわけではないのは解るが。

 

 

 

 

 

 

「………(絶対、そうだ)」

 

 

火神もわかる。よくよく止める側にも立つ事があるし、それに……騒ぐ側にもいる事が多い。

どっちの気持ちも解る、と言うモノだ。

 

そして、何よりも身体が……魂が、覚えている(・・・・・)から。

今の条善寺を見ると、身体の芯から、湧き起こってくる。

 

何度も何度も感じているこの感覚。決して慣れる事はない。マンネリ化する事もない。

 

いつも、いつでも、最高なのだ。

 

 

 

 

「どちらにせよ、2セット目から上がってくる事間違いないと思うよ。1セット目の事は忘れた方が良さそうだ。ミスの部分は除いて」

「―――!! おう!!」

 

 

火神の不敵な笑みを見て、日向もつられた様に笑みを見せた。

影山の様に怖いわけでも、月島の様に腹立つわけでもない。

 

火神の笑顔(それ)は、必ず起こるという予言に似てる。

火神を笑顔にさせるナニカが、必ず起こる。

 

だからこそ、日向も己を奮い立たせるのだ。

負けてなるものか、置いて行かれてなるものか、と。

 

火神は火神で、本能的に覚えている場面を目にして、闘志を改めて燃やした。

遅いか、早いかはどうでも良い。火神にとって、本能部分が歓喜で叫びだす場面は、言わば1段階気持ち(ボルテージ)が上がる、と言って良いから。

 

 

 

そんな、闘志を燃やしている1年とは対照的に……。

 

 

「「―――潔子さん」」

「?」

 

 

2年の2人が……田中と西谷が別の意味で闘志? を燃やす。

清水に聞きたい事があるから。―――否、言ってもらいたい、してもらいたい事があるから。

 

 

「確かに、我らも聞こえてきました」

「………何の事?」

「あちらの事、あちら側の都合だとは思っておりますが、この耳にしかと」

 

 

いつも通り、変な口調の2人。

真面目に反応したのが馬鹿らしくなるのは清水である。いつも通りスルーでよかった、と。

だが、今は試合中だったから、いつも通りな対応は控えていた……のかもしれない。

 

 

「どんな事情かはわかりません」

「しかし、我らにも同じものを味合わせて頂きたく」

「「我らの事も叱って貰えませんか? できれば見下――――」」

 

 

最後まで言わせるつもりはない。

清水は、2人のハモリにかぶせる様に切り込む。

 

 

「しません」

 

 

きっぱりと拒絶だ。

だが、清水の拒絶そのものがご褒美だと思っている2人は、更に続けた。

くるり、と背を向けた―――と言うより、尻を突き出した。そして、自分の指で自分の尻を指すと。

 

 

「「じゃあ――――」」

 

 

一体試合中にナニを求めてるというのだろうか。

呆れ果てる視線(ブリザードアイ)を向けつつ。

 

 

「尻も叩きません」

 

 

と、きっぱり拒絶。

これ以上付き合わない、と言わんばかりに、清水は背を向けて、持ち場へと戻っていった。

 

 

「「!!」」

 

 

そして、2人にとってはミッションコンプリート。

 

 

 

 

「潔子さんのお口から――――」

「―――【尻】、頂きました」

 

 

 

 

ハウッ! と胸を押さえ、これ以上ないくらい顔を紅潮させて悶える2人。

天にも昇りそうな極上の馳走を頂いたかの様な歓喜に満ちた顔。

 

 

そんな2人に、周りは(本心は兎も角)冷ややかな視線を送る者が多かったのだが、火神は別。

 

 

因みに、このやり取りも、本能的に喜びを爆発させる――――とまではいかない。

当たり前だ。TPOは弁える、と言う事だ。

影山&日向のような変人(・・)コンビ、と言った使い方は別にして、それ以外で変態、変人、と思われるのは嫌なので。

 

 

「誘導してますって、それじゃ、セクハラになっちゃいますよ? 田中さん。西谷さん」

 

 

あはは、と笑いながら。とにかく堪えながら、笑いながら朗らかに言った。

火神にとって、清水の口から~~云々より、田中と西谷のそれ(・・)に一番反応したのだから。

 

 

「なにおう! 誠也! これぞ、天の信託、天から授かりし、極上の息吹ではないか!」

「そうだぜ!! 天……天女、女神! その抱擁だ。これにこの世の全てに感謝を込めぬ男など、男ではない!! 男の中の男になれんぞ、火神!」

「あ、あはははは……」

 

 

火神のニヤニヤ、ではなく、ニヨニヨ? してる顔を見て……火神も口では何といっても男の子だよなぁ、と同意を求めんばかりに迫ってくる田中&西谷。

別な意味でニヨニヨしていることに、当然気づけるわけもない。

 

 

そして、清水はスルーを決めていた……筈だったが、その顔を見てUターン。

 

 

 

 

 

「試合に集中しなさい」

「「「ハイ」」」

 

 

 

 

 

なぜか、田中&西谷だけでなく、火神ごと、ご説教砲火したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――! まぁ、何があったか知らねーけど」

 

 

2セット目入る直前。

コートに向かう条善寺の面子の顔を見て、烏養は苦笑い。

目つき、顔つきがどことなく変わった気がしたから。

 

 

「更に一段階ギア上げてく、って面構えだぜ、アイツら」

 

 

それは周囲に伝える程変わった。

いろんな意味で、度肝抜いてきたチームだが、ここへきて表情が変わっている。

 

 

「2セット目。つまりは第2ラウンド開始だな。……気ぃ入れてけよ」

 

 

 

 

 

烏養の独り言に呼応するように。

 

 

「「うおおおお!!」」

 

 

問題児2人が気合の雄たけびを上げた。

 

 

「取り合えず落ち着け2人」

 

 

勿論、ちゃんとしっかり、2人には保護者がついてる。

時には軽い拳骨くらいは必要なのだ。体罰!! とならない程度のポコッと。

 

 

「それと相手をしっかり見て」

「「!」」

 

 

火神に促されるままに、条善寺の方を見た。

当初と打って変わり、雰囲気が違う。騒がしさが息をひそめている。

 

 

「こんな互いに燃える時に、力で押し負けるなら兎も角、つまんないミスしたくないだろ?」

「ったりめーだ! 負けるか!」

「もちろんだ!!」

 

 

うぇーい! とハイタッチを交わす3人。

 

 

「心配、いらなかったかな?」

 

 

菅原もほっと一息。

血の気が多い影山は血を見せた事で抜けた―――のではなく、更にアップしたのではないか。ほんの一瞬でも試合に出れなかった事がフラストレーションとなってたまっているのではないか? と危惧したが、取り合えず大丈夫そうだ。

 

勿論、日向も同様。

まだまだ、影山なしじゃやっていけない。

それを交代で改めて痛感した。烏養にフォローをかけられていたようだが、試合から外されたのは事実だ。

そして、火神は入っており、誰とでも合わせる事が出来ている。

 

 

それに何より。

 

 

 

 

「ここからが2セット目、と言うより第2ラウンドって感じですね。……退屈してませんか?」

「もちろん、あったりまえだ! 次はコッチが勝――つ!!」

 

 

 

 

―――実は、火神こそが日向にとっての理想像なのだから。

 

 

勿論、小さな巨人を常に意識してきた。それは決して虚構ではない。

あんな小さな体でも、春高の空を舞い、次々と打ち抜いて見せた姿を目に焼き付けた。

決して火神を理想として、小さな巨人を軽く見ているわけではないが、日向は、チームの誰よりも火神とは付き合いが長い。

 

全て熟してしまうその姿。羨ましいと何度も思い……、そこに日向にとっての理想像が生まれたのだ。

言うなら、火神誠也と言う男は、小さな巨人ではなく、ただの巨人(・・・・・)

 

背丈も相応にあり、全ての面で高いレベル。加えて何度も見てきた人間力。

 

ただの―――じゃない。最高の巨人(・・・・・)。最高に格好いいんだ。

巨人、と言える程群を抜いてデカいわけではないが……、日向よりは十分巨人なので、それで良し、である。

 

 

 

「次もオレ達が勝ちますよ!!」

「うおっっ!!?」

 

 

 

その湧き上がる衝動のままに、日向は飛び上がって照島に火神の代わりに宣戦布告。

 

 

 

「刈り上げさん達に、このメンバーで勝ち切ります!」

「おいコラ! 意気込みは別にして、変なアダ名つけんなよ!」

「……何だかすみません」

 

 

 

 

 

 

 

そんな火神を見ているのは、日向だけじゃない。

影山もそうだ。

コートの中では、(ボール)を何処に上げるか、何処が最善か、そして日向の位置は? 考える事が多くあり、余計な事を持ち込んだりはしない様にしているが、今回に関しては外で試合を、それも公式戦を見ていたので、より目で追ってしまっている。

 

 

及川にも何度も言われた。

火神と言う男の元で、何を学んだのか、と呆れられた。

自分に持ってないモノを、全部持っている。それが火神と言う男で、超えなければならない相手、最大のライバルだと思っている。

 

 

そして、追いつく為には……超える為には、一分一秒だって惜しいのだ。

 

 

 

「――――――ふぅ」

 

 

 

 

そして、そんな熱烈な視線を向けている事に気付いている者も当然ながらいる。

こればっかりは、火神はわからないのだろう。

 

他者の事はよく見えていても、密に自身に向けられている眼差しに関しては、何処か鈍感だ。

 

 

「今言っても、駄目か。(注意しとかないとな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2セット。

条善寺のサーブ権で、東山のジャンプサーブで始まった。

 

威力は照島に次ぐ―――と言えるが、如何せん精度がまだまだ。

 

 

「西谷!」

「っしゃあ!!」

 

 

リベロ西谷の真正面。

どれだけ威力があったとしても、守備専門のリベロの範囲内に落ちれば、返球率が当然上がる。

 

条善寺は、烏養や他の皆が感じた通り。

1セット取られて気落ちすることはない。寧ろ気合が入り、絶好調を超える、と言えるレベル。1セット目よりも強くなってる、と言う印象もある――――が、試合の最中で、精神面(メンタル)が良くなった……と言っても、持ちうる技術(スキル)が飛躍的に向上する、なんて事は、なかなかありえない。

日々の積み重ねが、唯一の道であり、それが近道にもなりうるのだから。

 

 

 

何十、百、千、万と拾い続けてきた西谷のレシーブを崩すのには至らなかった。

最高の形で、セッターへと返球する事が出来たのだが……。

 

 

「ん゛っ!!」

「ア゛ッ!!」

 

 

2セット、一発目の変人速攻炸裂!! となる筈だったが、まさかのコンビミス。

 

 

「(行けると思ったのにミスった!?)」

「(まさかの初っ端!?)」

 

 

火神の発破もあり、日向も影山もしっかり気を取り直した―――と思えたのだが、妙な力が入ったのか、日向の最高打点のフルスイングは、影山が上げた(ボール)に当たる事はなくそのまま、通り越してしまった。

 

手を伸ばしても、当然届かない―――が。

 

 

 

 

「フッッッ!!」

 

 

 

 

走りこんできた澤村が、そのミス(ボール)を見事に返球して見せた。

日向の変人速攻が来る、と身構えていた条善寺だったから、返ってこのミスがフェイントになる結果となる。

 

 

「前だ前!!」

「二股ッ!!」

 

 

セッター二股が手を伸ばし、何とか得点を拒む。

 

 

「大地さん! ナイス尻ぬぐい!」

「その言い方ヤメロ!」

 

 

見事、セッターに取らせる所へ返球できた……が、喜んではいられない。条善寺は誰でもセッターになれるし、誰でもスパイカーになれる。セッターを封じたからと言って、油断は一切できない。

 

 

 

「照島! ラスト!!」

 

 

リベロからのアンダートスが、上がる。

乱した(ボール)とは思えない位置へと運ばれた。

 

 

 

「あんなに綺麗に繋ぐとは……!!?」

「身体を操るセンスも抜群だが、(ボール)を操るセンスも抜群だな。咄嗟の反応な筈なのに、見事と言う他無ぇ」

 

 

 

どんな体勢でも、無茶な(ボール)でも、強打を打ってのけるのが条善寺だ。

そして、そんな条善寺なら、必ず打ってくる、と読んでいたのは火神。

 

 

「んんッッ!!」

 

 

火神の隣にはブロックはついていない。

つまり1枚ブロックだが、レシーブに下がる事なく、直感(ゲス)で跳んだ。

 

 

「(やっぱな、お前は来ると思ってた―――)ぜッッ!!」

 

 

インパクトの刹那、照島はスパイクのコースを打ち変えた。

照島も、火神が間違いなく跳んでくると信じて疑わなかった、と言えるかもしれない。

ある程度の予測がつき、更には常日頃無茶な身体の使い方、ねじり方をさせていた為、柔軟な動きを可能にした。

結果、コースを直前で変えてくる、読ませないスパイクを打つ事が出来た、と言えるだろう。

 

 

そして、対するのは火神。

下手な強打であれば、レシーブに回った方が良い、と烏養から指示をされていたが、今回のはレシーブに回るより、ブロックで壁を1枚でも作った方が良い、と判断したのである。

 

 

そして、それは正解だった。

 

 

ただ、直感のままに、跳んだだけじゃない。その前に十重二十重の手を労じている。

ブロックとは、ドシャットすれば良いだけでもなければ、ワンタッチをして威力を削ぐだけでもない。

 

 

相手が打つコースを、ある程度絞らせる事も出来る。

 

 

 

 

「澤村さん!!」

「っしゃ!!」

 

「!!」

 

 

それはブロックに跳ぶ刹那、現時点での烏野の守備陣形、何処を誰が守っているかを把握していた。

自身が日向の囮で攻撃に入った位置。

コートをまるで上から見ているかの様に、把握すると、そちら側に打たせる様に誘導させたのである。

照島は、火神を躱して得点! 最初の得点は条善寺(自分達)だ、と直前まで疑ってなかったのだが、見事に上げられてしまい、思わず目を見開き、驚いていた。

 

その驚きによって、初動が一歩程遅れてしまう。

 

 

 

 

「!!」

 

 

そして、目を見開いて見入るのは照島だけでなく、外から見ていた月島も同じだ。

理由としては、あのスパイクを拾ってのけた澤村ではなく……、間違いなく打たせた(・・・・)火神の方にだ。

 

彼は、ブロックとはシステムであり、止めてなんぼのブロックは古い、と常に言い切っている。

烏野の中で、一番理想に近いのが、決して口には出さないが、月島にとっては、やはり火神なのだ。

個人技でブロックしきる場面もあり、そこは才能の差や天才と凡人、とやや後ろ向きに考える事も月島の中ではあるにはある、が、IQバレー。考える事は天才だろうが凡人だろうが、等しく誰にでも出来る事だ。

 

つまり、どんなバケモノだったとしても、抗う事は出来る。

人間でも戦う事が出来る。

 

 

影山・日向に続き、理想を追い求め、目で追いかけ続けた。

知らず知らずのうちに、自身の糧にしながら。

 

 

 

 

 

そして、無論澤村もファインプレイだ。

上を上をいつまでも見ていると―――足元が疎かになってしまう事もある。

 

上を見続けた、見過ぎた日向や影山は、足元が疎かになり、結果ミスに繋がりかけた。

だが、それを見越してあげて見せた。

 

 

尻ぬぐい……ではなく、支えるのも主将の役割でもある。

 

 

火神1人に任せっぱなしになってしまえば、立つ瀬がない。

 

 

そのまま、流れる様な動きで、今度はミスをせず影山は日向にトスを上げた。

日向も二度目はない、と余計な考えを頭から削除すると、ただただ、(ボール)だけを追いかけ、全力でフルスイング。

 

 

決まった、と思った(ボール)が拾われ、返される。

この度、この試合では決して珍しくない光景だが……、あまりの鮮やかさに、あまりの高度な駆け引きにより、思わず息をのみ、そのまま(ボール)を見送ってしまった。

 

 

 

「おおっしゃあああ!!」

「今度こそ決まった!! カウンターのカウンターだ!」

「日向ナイスキーー!!」

 

 

 

見事に決めてのけた事に大声援が沸き起こる。

 

 

「火神サンキュー! レシーブし易かった」

「いえ、反応をしてくれたからこそです! ナイスレシーブです、澤村さん!」

 

 

ばちんっ、と澤村と火神はハイタッチを交わし―――そして、遅れる形で、日向と影山が前に出た。

 

 

「す、すいませんっ!! 最初のセット、ナイスカバー!」

「あざすっっ!!」

「!」

 

 

澤村はそれを聞いて、にやっ、と笑う。

 

 

「そりゃ、目立たなくたって、オレは主将。レシーブには一日の長もあり、自信もある。誰とは言わないが、なんでもかんでもおとーさん頼りにしてられないからな」

「あれ? ―――澤村さん、今誰とは言わない、って言いませんでした?」

 

 

澤村は軽く笑いながら、火神は軽く澤村に突っ込みも入れながら、話は続く。

3人は澤村を見続ける。

 

 

「オレにはド派手なプレーは無理だ。でも、お前らが常に前を向いて、暴れられる様に、その土台を作る事なら出来る。―――やってやれる」

 

 

最後には、澤村は背を向ける。

ただ、元位置(ポジション)に戻るだけ―――なのだが、その仕草が恰好良くて……、何より、火神や影山より背丈は小さい筈なのに、そこから見える背中は、とても大きく感じる。

 

 

 

「―――だから まぁ、思う存分やんなさいよ」

「オラーー大地―――! そこは、背中はオレが守ってやる! じゃねーのかー! もっと格好つけやがれ!」

「うおっ!??」

 

 

まさかの参戦は、ちゃっかり聞いていた菅原。

外からでも、結構な地獄耳だ。

 

 

「スガ、それ西谷のセリフまんまパクッてるじゃん……。そんなのオレが言っても霞んじゃうよ」

「そんな事ないっスよ! 大地さん。さっきのこう――――グッときましたから」

 

 

澤村の背を見たのは、影山や日向、火神だけじゃないという事だ。

西谷もまた、澤村の背を見た。1年たちより長くこの背を見続けてきた。

だからこそ、芯から思う。

 

 

「大地は恰好良いよなー……」

「旭さんだって、背筋伸ばしたらイケてる髭してんですから! だから、背中丸めない!」

「え! オレってイケ……、って髭かよっ!??」

 

 

澤村が烏野と言う土台を作り、諦めずに前へと進んできたからこそ今がある。

逃げ出したという過去は消せないが、澤村だからこそ、……このチームだからこそ、戻って来れたのだ、と東峰は思っていた。

 

ただ、澤村と違って、東峰は時折、哀愁漂わせる背を見せるから……活を入れられるのだ。

 

 

 

 

「……でっかい、よな。翔陽、飛雄」

「……ああ」

「…………」

 

 

 

澤村の背を見た。

知っていた筈だった、何度も何度も見てきている筈だった。

それでも、改めて思う。

 

主将だから、ではない。

澤村の言葉だからこそより重く、そしてその背だからこそより大きく見えるのだ。

 

 

「相手の気合も、間違いなく2セット目から増し増しだ。こっから気、引き締め直していこう」

 

 

火神は、拳を2人に突き付ける。

影山と日向は突き付けられた拳を見て、それぞれ、拳を合わせるのだった。

 


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