王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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早めに投稿出来て良かったです!

そして改めて、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。


第146話 条善寺戦⑤

 

見事、サービスエースを叩き出した照島のサーブ。

 

彼は条善寺一のビッグサーバーではあるが連続サービスエースを許す程、烏野の守備陣は甘くはない。

 

2本目は上げて見せた。そしてラリーが続く。

意地とプライドを以て、(ボール)を落とすまい、と両チームが火花を散らす。

 

条善寺は類稀なる身体能力、身体を自在に動かすセンス、嗅覚、あらゆるものを駆使して、劣る技術面をカバーし続けている。

そして、それは烏野も同じである。相手に呑まれるな、と澤村は言っていたが、ある程度は相手の領域に入ってしまっても仕方が無い。

 

強い力で迫ってくるのなら、より強い力で押し返したくなるモノだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして皆チームである、仲間である……が、互いがライバルだ。

それはコートの中外関係ない。試合中であっても練習中であっても、夫々が意識している。無法地帯になる手前まで行きかける事も度々。(勿論、極一部ではあるが)

 

この場の誰一人として、現状に満足(・・)を得ている者はいないのだから。

 

 

「田中!」

「っしゃああぁ!!」

 

 

体力有り余っている菅原と田中が魅せる。

色んな意味で、要注意人物として、注目を集めているのは日向だ。

その日向がコートから出れば、次に注目が集まるのは? 最強の囮足りえる者は誰か?

 

考えるまでも無い。

 

 

「田中さん! ナイスキー!」

「うぇーーい!!」

 

 

 

影山程の能力は無い。

でも、誰よりも試合を、皆を、選手を見続けてきたつもりだ。技術で劣るのなら、頭を使ってなんぼだ、と菅原は静かではある、目立たないが、奮い立っている。

単なる控えではない。烏野のもう1人のセッターなのだから。

 

 

23‐20

 

 

濃密なラリーを制し、烏野が更に一歩前へと躍り出てた

 

 

想像以上に長いラリーが齎したのは、得点だけでなく、影山の復帰である。

 

 

「あ、影山戻ってきたな」

 

 

顔面レシーブだったとはいえ、鼻血以外には目立った外傷はなく、目もしっかり見えていて、両足も地についていた状態だ。

そして、人一倍、二倍も負けん気の強い影山が、闘争本能(アドレナリン)を全開させたとしたら、止血は容易だろう。

 

 

「影山君は大丈夫でした!」

「おお、みたいだな。おつかれ谷っちゃん」

 

 

そして、戻ってきたと言えば観客席で見ていた谷地も同じく。

影山が医務室へと向かう時、慌てて駆けつけて一緒に付いて行ったのだ。

 

 

そして、影山が戻ってきたので直ぐにメンバーチェンジを―――と言う訳ではない。

 

 

「メンバーはまだ変えずに行く様だな。さっきの攻防も見事だったし、菅原も田中も気合メッチャ入ってる。繋心としてもここで変えようって気にゃならねーか」

 

 

まだ1本程度しかやっていないが、試合中に進化していく様な予感がする。

それ程までに、精神と身体が一致した様なラリーだったから。

 

滝ノ上であっても、此処で影山を戻すのは、勿体ない(・・・・)と思えていたのだ。

 

 

 

そして、影山はウォームアップエリアへと向かい、点差を確認。

点差が少し縮まった様だが、殆ど進んでいない所が少し気になる所ではあるが、戻ってきたら1セット終わってた、と言う場面にならなくてホッとした面もある。

表情には一切出してないが。

 

 

「………【留守は任せろ】って言ってなかったか?」

「!! うっせーな!!」

 

 

だが、日向に対して正論毒吐き(無自覚)は絶対に忘れない。

日向も日向で、格好つけた手前、気恥ずかしい想いではある……が、しっかりと先は見据えているから問題なさそうだ。

 

 

「近々そうできる様になる! 予定です!」

 

 

やる事が沢山ある。

やらなければならない事も沢山ある。

下や後ろを向いている暇なんか無いから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び息も詰まりそうな、する事さえ忘れてしまいそうなラリー展開全開。

 

 

「!! ワンチ!」

 

 

大きく弾かれてしまった(ボール)は、あわや失点―――になりそうだったが。

 

 

「こんにゃろっっ!!!」

 

 

持ち前の反射神経。日向が居るから目立たないかもしれないが、田中も烏野の中では間違いなくトップクラスに反応が良い。

(ボール)がブロックに弾かれて、大きく外へ―――と脳が認識するよりも早くに身体が動いていた。

 

 

「「ナイスレシーブ!!」」

 

 

田中のリベロを彷彿させるスーパーレシーブに場が沸いた。

だが、見事に拾ってのけたかもしれないが、相手のチャンスボール。

攻撃に繋ぐ事が出来なかった。

 

条善寺のチャンスボールに身構えたその時だ。

驚きの光景を目の当たりにしたのは。

 

 

 

「っしゃあーー! もいっぽん、オレに打たせろっ!!」

 

【!!】

 

 

それは、あの条善寺のセッター二岐が同じような掛け声と共に、再び助走に入った事。

チャンスボールな場面だと言うのに、セオリー通りにいくのではなく、セッターが攻撃参加へと下がった。

 

それも後衛(・・)で。

 

 

「(セッターがバックアタック打つとかあんのかよ!? 自由過ぎんだろ!)」

 

 

ふんが! と気合一閃。

相手の戦術? に度胆抜かされかけた田中だったが、兎も角戦線復帰。何本でも拾う、と構える。

 

 

 

「っしゃー! オーライ!」

 

 

セッター二岐に変わって、飯坂が落下点へと入った。

視界には、二岐が助走してきているのがハッキリ見える―――が、この時一瞬。ほんの一瞬だけ飯坂は烏野のコートを見た。

 

 

「!」

 

 

ほんの一瞬。刹那の時間。

見逃してしまっても不思議じゃないし、そもそも正攻法の攻撃、チャンスボールなら速攻や得点率の高い照島等に(ボール)を集めるのが普通な場面で、セッターへのバックアタックの視差。

 

これだけでも十分過ぎる程、呑まれそうになる事案だったが、そこから更に攻撃の手を変えてきた。

 

落下点へと入り、トスを上げる姿勢(フォーム)……ではなく、両腕を大きく振り、全力で垂直跳びをする動作(モーション)に飯坂は入った。

 

 

 

「ツー!!」

 

 

 

ほんの僅かだったが、相手の動作を見逃さなかった火神が、咄嗟に声を上げる。

奇襲にならない気付いている、と言う相手へのプレッシャーと味方陣への意識、それを同時に行ったのである。

 

流石は火神、と言いたい所だが―――気付いていたのは火神だけではない。

 

澤村のブロックのサイドを抜けてくるツーアタックの(ボール)の軌道をハッキリ捕らえ、コースの位置取りまで完璧に熟してみせたのは、菅原だ。

 

 

「ふっっ!!(痛ッ!)」

 

 

バチンッ!! と拾い上げて見せた。

影山と言う強大とも言えるセッターの後釜と言う大役を担う菅原。相応のプレッシャーがあった筈だ。

あの技術、容赦なしなストイックさ、それを見てきたら1年だとか3年だとか、歳は関係ない。間違いなく将来のバレーボール界を一際にぎわせる男だと断言できる。

 

そんな中であっても、菅原は魅せた。

セッターだけでなく守備面でも、菅原は魅せてのけた。

 

 

「菅原ぁぁぁ!! ナイスレシーブだ!!」

 

 

思わずベンチから立ち上がって両腕を振り上げる烏養。

それに呼応する様に、ベンチ陣も大きく歓声を上げた。

 

 

「ナイスレシーブ!!」

「すげぇぇぇーーー!!」

「スガさんナイス!!」

 

 

 

興奮冷めぬ間に、すぐさま次へと移る。

 

 

「ネット際!!」

「澤村さん!!」

 

 

見事に上げてのけた……が、生憎のネット際。

あの奇襲の強打を上げて見せただけでも十分過ぎるが、点を獲りきってこそ、本当の意味で讃え、喜び合えると言うものだ。

 

 

「(正直、不得手だが―――!!)ふんっっ!!」

 

 

身長・パワー・跳躍力。

それらが見劣りする分、レシーブ強化を中心にしてきた澤村だが、だからと言って負けてなるモノか、と気合を入れ、両足に全力を込めて跳躍し、(ボール)を叩きつけた。

 

菅原の魅せるプレイは、相手の一歩より早く澤村の行動にも繋がった様で、ネット際の攻防、その競り合いをする前に、叩きつける事が出来たのである。

 

 

このまま、烏野の得点―――と場は大はしゃぎだった……が。

 

 

 

「ふんがーーーーっっ!!」

 

 

 

次に魅せるのは二岐だった。

バックアタックデビュー! と意気込んで助走して打つ気満々だった所をスカされた。有り余った気持ちを込めて思いっきりダイブ。

 

ナイスレシーブ! とまではいかなかった。ジャストミートする事なく、腕に掠める様に後方へと弾き出される―――が、威力は間違いなく削いだ。

 

 

「うらぁぁ!! 繋げぇぇ!!」

「オレだ!!!」

「っしゃああ!!」

 

 

だからこそ、これは繋ぐ。繋げる――と思えたのだが……。

 

 

「「ぐッッ!??」」

 

 

ここでも、条善寺の悪癖が出てしまった。

我こそが! が先行し過ぎていて、再び衝突してしまったのだ。

 

 

だが、今回は、先ほどのソレとは少し違う。

 

 

「おお―――らぁぁぁ!!」

 

 

 

当たり方の善し悪しがあるのか、或いは純粋に力の差が出たのか母畑と沼尻のぶつかり合いは、母畑に軍配が上がった。バランスを崩してしまったのは間違いないが、それでも強引に手を伸ばし、片手(ワンハンド)で拾い上げて見せた。

 

 

「今のはどっちかが譲り合ってたら、届かなかったかもしれないな! だが、今回限りだぞ!! ナイスだ!! 2人とも!!」

 

 

穴原は、一歩間違えば怪我に繋がる行為ではあるので、そこはしっかりと後で指導するつもりだ……が、今回に限っては言った通り称讃だ。

見事に繋いで見せたから。

 

 

「ラスト! 繋いで!!」

 

 

手に汗握る展開、大きな声を出す事は決して得意とは言えない三咲が賢明に声を出した。

自由奔放振りには手を焼いてきた筈なのに、いつの間にか引っ張って貰ってる感覚だ。

 

 

「うらぁぁぁ!!」

 

 

そして、そんな三咲の声に反応して――――ではなく、ただただアソビ勝つ事をモットーに全力で駆けつけた照島が最後返して見せたのである。

 

 

ただ、今回は烏野にチャンスボールだ。

 

 

 

「っしゃあ! チャンスボール!」

「ゆっくり! 丁寧に!!」

 

 

 

(ボール)の落下点も丁度西谷が居る。

 

 

「オーライ!」

 

 

最高の場面、と言って申し分なし。

 

そして、条善寺に倣ってこちらも相応の力で――――と、相手ペースに巻き込まれる様な事は無いし、しない。

 

自分の出来る全力を、ただやるだけだ。

 

 

 

チャンスボールの際に、菅原が手でサインを皆に送っていた。

そして、西谷が上げて、余裕をもって落下点へと入り……。

 

 

 

【!!】

 

 

 

それは来る。

影山がコートを出て、まだ数合のやり取りしかしていないが、変な先入観が頭の中にあったのかもしれない。

派手な攻撃は、影山で、次に入ってきた菅原は堅実なプレイ―――と。

 

 

 

同時多発位置差(シンクロ)攻撃――菅原版!》

 

 

 

全員が攻める気概を持って、ネットに突っ込んでいく。

 

澤村が、東峰が、田中が、火神が、一切の迷い無く。

 

 

自分(オレ)こそが打つのだ】

 

 

と。

 

そして、4人の中で菅原が選んだのは。

 

 

「大地!」

「っしゃあ!!」

 

 

ライトサイドから入り込んできていた澤村である。

主将・副将の間柄であり、時間を考えたら、途中リタイアしかけていた東峰よりも長い付き合い。

信じて―――上げた。

 

 

完璧な攻撃。

相手ブロックに的を絞らせず、ブロック0.5枚状態の壁。

 

今回は―――コートに叩きつける事が出来た。

 

 

「おおっしゃあああああ!!!」

「菅原君!! 澤村君!! ナイスです!!」

 

 

烏養と武田が声を張り上げ、横にいた清水も拍手を送った。

今回も濃密なラリーだったが、最後は本日初解禁。菅原版同時多発位置差攻撃(シンクロ)で制して、セットポイント。

 

 

24‐20

 

 

 

 

「うおおお!!」

「ナイスキー!!」

 

 

息も詰まる攻防の中で、一際コート外で燥いでいるのは、やはり影山と日向の2人。

試合に出られないフラストレーションを溜めつつも、興奮すべき場面、見習うべき場面、自分も続かなければならない場面、どれも見逃さずに喰いつく様に見入っている。

 

そして、決まって最後には―――。

 

 

 

「「―――負けねぇ」」

 

 

 

闘志を燃やすのだ。

 

 

「応援すんのか、張り合うのか、忙しいな、お前ら……」

 

 

思わず山口はそう呟いていた。

因みにこれが初じゃない。

 

田中の超反応でのレシーブの時は、特に日向が。

菅原のトスの時は、勿論影山が。

 

眼で見て完璧だと思えるプレイに関しては全て―――応援と同時に張り合いを見せていたのである。

背後(バック)に炎が見えてしまう程に……。

 

 

 

 

 

 

 

「菅原さん! ナイスです! 上げる直前まで、何処に来るのか解りませんでした!!」

「おっ! サンキュー! おとーさん!」

「はいっ!」

 

 

ばちんっ! と両手を当てる火神と菅原。

お父さん呼び……なのだが、先ほどの菅原のトスは、目を奪われる程の出来だったので、この際関係ない、と言った様子。

 

一糸乱れぬ、とは この事なのだろう。読ませない動作(モーション)に目を奪われたのである。

影山のトスに対して、これはよく思う所ではあるのだが、火神が菅原のトスに関して、そう感じたのは今回が初めてである。

 

 

素直に驚き、称讃し、歓び、燥ぐ姿。

何の含みも無い、裏表もない言葉。

 

それも間違いなく烏野歴代選手の中でもトップクラスで、全国でも通用し、将来のバレーボール界をにぎわせる存在になる(菅原談)男の1人が、こうも真っ直ぐ称讃してくれるのだ。

 

気恥ずかしい、とかは無く、ただただ純粋に菅原も嬉しい。

当然、ここでも1年、3年、後輩だとか関係ない。寧ろお父さんと呼んでる時点で、そんな事考えてすらなかったりする。

 

 

 

「はっはっは!! それにしてもシンクロ攻撃って、良いよな! 決めたのは大地なんだけど、なんつーかこう――――」

 

 

 

興奮してきた菅原も、ちょっとしたボケを披露。

某長編アニメ、大作にあったワンシーンを抜粋。

 

 

右手を前に突き出し。

 

 

「【薙ぎ払え!!】」

 

 

と一言。

今の菅原の脳裏には、巨人が4人居る。

口からは今にもビーム光線吐き出しそうな佇まい。

これが決まれば、紛れもなく世界崩壊。火の七日間。

 

 

「―――って、感じだな!? な!?」

「「あ、いや……ちょっと意味が」」

 

 

澤村と東峰はついてきてくれなかったが、まだまだ興奮している様子の火神だけは食らいついた。

 

 

「菅原さんって、ジブリファンだったんですね!」

「もちっ! ぜーーんぶ見てるぜ!」

 

 

何故か、再び火神とハイタッチするのだった。

 

 

「かっはははは! 何で今のスガさんの一言で連想できんだよ火神!」

「あの感じじゃ、誠也も見てそうだよな」

 

 

想像力逞しい、と言うより、見事に菅原の妄想? を当てて見せた火神に色んな意味で称賛する田中と西谷だった。

 

 

「ノヤっさん。……やっぱ試合は良いな。……燃える!」

「! ―――ああ、解るぜ龍。相手の粘りにも燃える。だが、オレが守り勝つ!」

 

 

そして、更なる闘志を胸に秘めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

24点目。セットポイント。

これはブレイクからのポイントであり、完全に流れは烏野にあると言えるだろう。

要所要所で、条善寺も魅せるプレイをし、喰らいついてくるが、点差が離れると言う事は、つまりそれだけの実力差がある、と言う事だ。

 

IH予選ベスト4に食い込んだ条善寺。ベスト8に残れなかった烏野。戦前の戦績を見れば、優位なのは条善寺―――と言えるかも知れないが、間違いなく相手の方が上手だ。

 

 

普通ならば、ここでタイムや策を講じる―――場面だと言えるのだが、条善寺は違う。

 

 

「やっぱ、かっけーよな! さっきのセッターも何本かやってたけど、あの一斉に皆動き出すやつ! かっけーーよな!!?」

 

 

目をキラキラさせて、燥ぎまわる条善寺の主将。

場面はピンチ。ヤバイ。セット獲られる。……そんな畏れは一切抱いていない。

 

ただただ新しい事に、アソビ(・・・)に加わる事が出来る事柄に、目を惹かれるのだ。

 

 

 

「………なぁ、あのさ、皆!」

 

 

 

そして、目を奪われるだけじゃない。

行動にまで移す。

実行する。

 

 

こう言う性質―――だからこそ、条善寺と言う高校は凄い。

 

 

 

 

 

「いくぞぉぉぉ!!」

 

 

再び田中のサーブから再開。

まだまだ拙さが残るし、精度威力共に発展途上だが、確実に武器になってきている球種を選択。

無論、スパイクサーブ。

 

サービスエースこそは取っていないが、確実に枠内を捕らえ、相手を崩す事は出来ている……が。

 

 

「チッ!!(リベロ正面かよ)」

 

 

今回に限っては、リベロの土湯の正面に打ってしまった為、拾われた。

如何に強力な威力があろうと、リベロとはチームの守護神。

真正面から来た(ボール)を取りこぼしてしまう等、プライドを傷つける。それもセットポイントともなれば尚更だ。

 

 

土湯(つっちー)!」

「オーライ!」

 

 

問題なく処理。

(ボール)は、確実にアタックラインの内側、ネットを越える事なく、高さも申し分ないAパス。

それはまさに頃合いであり、―――絶好の機会

 

 

【!?】

 

 

コート内外が思わずどよめく。

 

それは、照島が先ほどチームメンバーに告げた事柄を実行した為だ。

 

そう……照島はこう言った。

 

 

 

【あの攻撃かっけぇからさ! オレらもやってやろうぜ!】

 

 

 

とびっきりの笑顔。

そして、間違いなく出来ると言う自信。

笑顔と共に、条善寺のメンバ―はリベロ以外の4人が一斉に駆け出した。

 

 

「! あ、あれって……!」

「条善寺も、同時多発位置差(シンクロ)攻撃!?」

 

 

 

これまで、トリッキーなプレイ、手以外、足や胴を使った個人技を除けば、条善寺のコンビネーションは時間差の攻撃に限った話だった。

これまでも、シンクロ攻撃をした記録は一切残ってないし、何なら影山・菅原がやり始めた時、驚いてる様な喜んでる様な……自分達も武器として持ってる、と言う様な表情はしてなかった。

 

ここ一番で、このセットポイントと言うピンチの場面で披露する。

即ち、牙を隠していたのか!? と誰もが思った。

 

 

 

 

 

 

「(絶対はない(・・・・・)成功する(・・・・)―――可能性(・・・))」

 

 

 

 

 

 

 

無論、知っていても警戒は最大級。

知っていても枠に嵌らない事柄なら、何度も経験しているからこその備えをするのは火神である。

 

 

思考回路までは違うだろうが、誰もが警戒し、誰が打ってくる!? と視線を忙しなく動かし続けていた時だ。

 

 

二岐は、誰に上げるか決めた。

ソフトタッチから、上げられた(ボール)は、前衛陣を置き去りに、後衛から走り込んでくる照島へ。

 

バックアタックに入ってきた照島へと上げた。

 

そして、相手のブロックは0だ。

 

 

「よっしゃああああ!!」

 

 

ここで叩きつけたら気持ち良い。

最高の快感。

新たなアソビ道具が増えた様な感覚!

 

 

―――だが、それは 叩きつける事が出来たら(・・・・・・・・・・・)、の話だが。

 

 

 

「あ、あ、あ、ぁぁぁぁ―――――」

 

 

助走・跳躍までが早かったのだろう。

いつもより踏み込みから跳躍が早かった分、いつもの位置、高さで上げてしまった(ボール)には届かない。

当然重力と言うものが地球には備わっているのだから、早く飛んだのなら、早く降りてしまう。自明の理、と言うヤツである。

 

ぶんっ!! と思いっきりフルスイングしたは良いが、(ボール)に掠る事なく……そのまま後方へと飛んでいった。勿論それをフォロー出来る人間など居る訳もない。

 

 

笛の音が高らかに響き―――

25-20

 

第一セット終了。

1-0

 

烏野先取。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……、なんかデジャビュった」

「へ? どういう事っス?」

 

 

コートチェンジする際、菅原は小さく呟いた。

比較的傍にいた為、菅原の独り言が聞こえた田中は首を傾げる。

 

 

「いや、あの前にオレがやったじゃん? 結構あのミス……オレもやってたから、なぁ」

「あぁ………、確かに。オレらもよくやってましたよね……、アレ」

「そうなんだべよなぁ。影山のよーに超精密機械なら、あんなミスしないかもだけど、……オレ、人間だし?」

 

 

菅原は苦笑いしていた。

十分、1発目を成功させたのだから、菅原も着実に成長し、伸びしろだってまだまだある筈だが、影山と言う稀代のセッターの前には、どうしても霞んでしまうのは仕方ない。自虐的になっちゃってるのも仕方ない。

 

でも、幾ら自虐を言ったとしても、その目の奥は死んでないが。

 

どんな場面でも、どんな理由でも、試合に出れる事は嬉しい。

成長する、出来る事も嬉しい。

 

前を全力で走り続けてる連中に、取り残されたりしない様に……。

 

 

「翔陽とは一味違う無鉄砲さだったな、今のは」

「あん?」

 

 

続いて火神も独り言。

傍にいた日向にも聞こえた様で(あまりうれしくない類のモノだとも分かった)振り向いた。

 

 

「ほら、じゅんぺーからテニス教えて貰った事あったじゃん?」

「タマやんか。おう! 自主練付き合った! ま、コッチの手伝って貰ったお礼に、だけど」

 

 

思い返すのは中学時代の話。

2人での練習も良かったが、もっと多い人数でやりたい。バレーは6人でやるもの、と日向は時折、他の部活をしている友達に声をかけまくっていた。……火神も勿論付き合った。

そんな中で、陸上やテニス、サッカー、バスケ―――色々と助っ人めいた事もやったりしてきたのである。

 

 

そんな中で、テニス部に所属していた じゅんぺー、タマやん事《玉山 純平》にテニスを教えて貰った事があったのだ。

 

 

「じゅんぺーのスマッシュみて、かっけーかっけー、って即真似してたじゃん?」

「うぐっ……」

「でも、条善寺と違うのは、翔陽。人数合わせのダブルス? に入れられた時、【スマッシュ打つ!!】って叫んでた癖に、直前で尻込みしちゃったやつ」

「はふぐぅっっ、誠也!! む、昔の事なんでこーも覚えてんだよっ! オレの恥ずかしートコとか特にっっ! 目立つプレーばっかやりたい盛りだったんだよっ! 昔の事だよっ!!」

 

 

ニヤニヤ、と笑いながら言う火神に噛みつく日向―――だったが、アレは、あの時は如何にテニスは超素人だったとしても……、非常にダサすぎる案件。

尻込みしただけでなく、普通の返球でも盛大にすかぶったり、と道具を使う系の球技は苦手だ―――と再認識するに至った。

 

でも、持ち前の反射神経にモノを言わせてリターンをかました事もある。

それは、玉山だけでなく、テニス部顧問の牧野先生にも驚かれた事もあったので、そこは流石日向、と言っておこう。

 

 

「プっ、目立ちたがりなの今もじゃん。盛大にカラ回ってるけど。今も」

「こらぁぁっ! 月島ぁぁ!! た、他人の思い出話に土足ではいってくんなーーー!!」

 

 

跳躍しながら襲い掛かる日向。

結局その後は、影山からも痛烈な毒舌を喰らい、更に大騒ぎ……になりかけた所で、澤村も怒りそうなのと、話題を振ったのは火神自身でもあったから、と責任をもって鎮圧したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は、ははは。ほんと頼もしいですね。皆さんは」

「ああ。確かに。―――んでも、火神の評価、オレも同じだ。……ちっと違うのは、日向と一味違う無鉄砲……ってより、オレはどっちかっつーと、おっかねぇ(・・・・・)って思っちまうかな。……長年アイツの世話してりゃ、そんな事思う間もなくなっちまうのかもだが」

 

 

武田と烏養は苦笑いをしながら話をしていた。

条善寺の賑やかさは、烏野(ウチ)に通じるものがある、と思いつつも、それでも負けてない頼もしさに頬が緩んでしまう。

 

顧問としてどっしり構えとかないといけない、と思ってしまうのだが、やはり頼りになる、と思うのが先行してしまうのだ。

 

そんな中で、不意に条善寺の横断幕が武田の眼にとまった。

 

 

「あ、そうだ。気になってた事ではあるんですが」

「ん? どうした先生」

 

 

武田は2F客席……条善寺側の方を見て言った。

 

 

「条善寺の横断幕です。【質実剛健】。チームの感じに合ってない、って思うんです。どちらかと言えば、自由奔放。まさに似たモノ同士、と言った感じでしょうか」

「ああ、それな。っと、一応ちょっとした情報って事でお前らにも言っとくか」

 

 

烏養は、武田に答える―――のではなく、皆の方を見ながら告げた。

 

 

 

「昔、っつーか、ごく最近まで【質実剛健】って言葉がぴったりなチームだったんだ。条善寺は」

 

 

 

難しい単語を言われても、反応する事が出来ないのが数名。

 

 

「シツジつ?」

「ゴーケン??」

 

 

それぞれの頭の中では、何となく執事を、方や戦隊モノのヒーローを思い浮かべる。

言葉の響きやひらがなにして読んだら、連想した様だ。

 

 

「はい、お父さん解説」

「あの―――スガさん? さっきはついつい普通に返事しちゃいましたが、おとーさん違います、ってだけ言っておいて」

 

 

こほんっ、と2人に対して質実剛健について解説を承った。

菅原からのリクエストだ。答えなければならない。

 

 

「はい、飛雄&翔陽。ご清聴。質実剛健は、【飾り気は無いが、本質が充実して、逞しく且つ誠実な事】を言い表す四字熟語ね」

「ほほーー!」

「!」

 

 

1つ勉強になった! と頷く日向や影山に一応……最後に一言添える。

 

 

「……感心してるよーだけど、コレ小学校高学年くらいで習うヤツだからな」

「「!!」」

 

 

現在高校1年生だ。

国語だって頑張らないと、またテストに足を引っ張られる事になるんだから、と言う事である。

 

 

「小学生の問題だったとしても、3秒で忘れるデショ」

「ふんッッ!!」

「月島ァァ!!」

 

 

追撃を買って出てくれた(いつも通り)月島。

当然喰ってかかる2人。

 

 

「さっきも火種うんじゃった手前アレだけど、はいはい。そこまでー」

 

 

自分が切っ掛けで、起こった争いごと? をしっかり収める火神。

3人を(主に影山と日向)を抑えつつ……。

 

 

「似合わないとは思いますが、最近そうだったチームが突然変わる、なんて中々ないとも思いますね」

 

 

武田・烏養にそう言うと、烏養は腕を組んだ。

 

 

「まぁ、他校の事情なんざ、完全完璧部外者なオレが解るわけねーんだが、想像は出来る。あれだ。指導者が代わったんだろうな。それに伴ってチームの色も変わって、結果昔より強くなった。現にベスト4って成績残してるし」

 

 

確かに正確にわかるのは……、まぁ1人は居るかもしれないが普通は解らない。

だが、烏養の言葉が正しいとは解る。

 

色んなテレビの特集とかで見た事もあるから。

指導者が代わり、頭角を現した。

某有名プロ選手等が、顧問やコーチになり―――そして向上した、なんてサクセスストーリーもよくある話だと言えるから。

 

 

「んで、もう1個言えるのが、まだ色々出来上がってないって所だ。コンビネーション、ブロック、あんな派手にぶつかり合ってる所を見ても、な。まぁ出来上がってる高校生のが少ないと思うが」

 

 

出来上がってない状態であの実力。

確かに先取はしたが、決して油断は出来ない奔放な強さ。

 

 

裏を返せば、とんでもなく長い伸びしろがある、と言う事だ。相手が2年生主体だと言う事も考慮して。

 

 

 

「―――まぁ、お前らが1セット獲った。前回の4強相手にだ。そこは誇って良いし、呑まれねぇ範囲で強気でガンガン行け。こっから勝負の2セット目だ。―――影山。行けるな?」

「!! とっっ、もっっ、ハイ!!」

 

 

突然話を振られたから……かもしれないが、それにしても落ち着きが見えない。

 

 

「どーどー。落ち着いて。血ぃ抜けて多少は気が緩んだ? って思ったりもしたのに。気張り過ぎだよ」

「そうだぞー、影山。変に力んだら、また鼻血出るぞ」

「!! わ、解ってます!」

「(今の、【当然です】か【勿論です】って、言おうとしたんだろうな……)」

 

 

影山に対処しているときに、もう一方は腹を空かせた子犬の様になっていた。

こちらはある程度は落ち着いているから、別に抑える必要は無い―――のだが。

 

 

「――――っと、わーってるよ」

 

 

まるで、射貫く様な視線を烏養に送り続けていた。

じ―――ッ と擬音を思わずつけてあげたくなるくらい。

 

 

「日向も。行けるな?」

「ハイ!!!」

 

 

ほぼ同時に返事を返す日向を見て、頼もしいのとちょっとばかり呆れるのと、色んな気持ちが入り乱れて、火神は苦笑いをした。

 

 

「うし。次のセットは田中。お前もガンガン使っていくぞ。日向後衛の時もある。準備しとけよ」

「ゥおおおっす!!!!」

 

 

「田中脱ごうとするな」

「公然わいせつになっぞ」

 

 

 

実に濃密なラリーを過ごしてきたが、点にして考えれば少なすぎる。

実力が劣っているから今は仕方ない、と思うが、それでも出れるなら何でも噛みつき平らげる勢いで進む。

思わずユニフォームを脱ぎそうになってしまっていたが、そこは木下や成田のコンビで抑えた。

 

 

 

「よし。んで、条善寺の攻撃パターンだが。粘りはスゲー。でも、攻撃に関しちゃ、実は多彩でも攻撃力(・・・)って意味じゃ然程でもねぇ。木兎率いる梟谷や及川の青葉城西を思い出せ。色んなトコから強めの打ってくるが、お前らなら十分拾ってカウンター出来る。だから、微妙な距離からん時はブロック付かず下がって拾って、やり返せ」

【おす!!】

 

 

 

 

第2セット目―――開幕。

 

 

 

 

 

 

 


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