王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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メチャクチャ遅れてすみません……。

生存はしております。
去年はR18やれるだけの余裕?があった筈なのに、今年は地獄でした……

帰ったら寝るだけ(´Д`|||)
起きたら仕事……

人数不足で仕方ないとは言えやばかった……。
それに見合った分のお給料はありがたいですが、マジでやばかったです。


ですが、乗り切りました!!!!!

なので、1月からは徐々に増やせて行ければ、と思います。

改めまして、2022年もぎゃふん! と言わせたい。頑張ります!


第145話 条善寺戦④

 

 

「せ、セッターじゃない人が、トス上げてっ!? セッターの人が打ってっ―――!! そ、それ火神君が止めちゃって、え、えとえとえと、どこをどう驚けば良いのかっ!?」

「………ははは。取り合えず全部驚いたら良いよ。んで、そん中でやっぱ、火神(かがみん)はスゲーって事だけ再認識、だな」

 

 

条善寺のトリッキープレイを見て、それを防いで見せた烏野を見て、あまりにも目まぐるしく、大パニックに陥ってしまう谷地と、隣であまりにも驚き喚くからかえって冷静さが全面に出てきた滝ノ上。

 

 

「で、ですよね!」

 

 

そして、谷地は滝ノ上に言われた通り、止めて見せた火神が凄い! と再認識する。

そんな単純な彼女に微笑ましさを改めて覚えつつ―――滝ノ上はコート上を見た。

 

 

「ドシャット喰らって、気圧される―――って訳でもねーか」

 

 

条善寺のメンツを見てみると、やっぱりお祭り騒ぎだ。

 

 

 

「おいおいおーーい‼ 打たせろーー、っつっといて、見事なドシャットじゃ~~ん!」

「うっがーーー! 今だ! 今だけが負けだ! んでも、次は勝ーーつ!!」

「アイツやっぱすげーー!! んじゃ、こっちはもっともっと上げてくぜーーー!」

【うぇーーーい!!】

 

 

 

後に引き摺る様な様子は一切見せない。

精神面(メンタル)がプレイに影響を及ぼす事など誰もが知る事柄ではある……が、それを鍛え、克服し、自らの平常を常に出せる様にすることがどれだけ難しいのか、滝ノ上でもよく知っている。

 

 

 

 

「(………あんときは、烏養監督の目もあったしなぁぁ……)」

 

 

 

 

緊張しすぎたり、不安だったり、いろんな気負いが悪循環を招こうとしていた。

 

だが、条善寺にはどうやら無縁らしい。100%とは言わないが。

 

 

「今のは止めた火神スゲーな筈なのに、止められた側もスゲーって気分にさせられるってのは、どういう事だってんだよ、いやマジで。………あっちの自由度、それを可能にする精神(メンタル)、技術。勢いに乗るのは良いが、油断すんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滝ノ上の様に、火神だけでなく条善寺側に目が奪われがちなのは、他にもいる。

 

 

「普通セッターが、セット拒否して、助走距離確保して打つ! なんて、無茶ぶり戸惑ったり惑わされたりするものだと思うんだけど……」

「…………」

 

 

山口の場合。

火神が凄い、と言う印象を第一に受けた。

 

あの一瞬の攻防、特に月島贔屓? な目を持ってる山口はネット際の攻防においては月島の方に目が行く。だからこそ、解った。あのブロックの刹那、火神が月島に何か指示を出した事を。

セッターが打つと言う場面に2枚ブロック揃える事が出来たのも恐らくは火神の指示。

種類が違えど、火神を意識している山口としては、改めて壁の高さを認識し、拳を握る。

 

 

「……アレが、全力で、本気で……遊ぶ! って事なのか」

 

 

火神が凄い、と言うのは、もう中学時代……否、小学時代からよーく知ってる日向。

だからこそ、この場面では、滝ノ上の様に条善寺側を見ていた。

 

確かに止められたが、そのプレイを行うまでのプロセス。止められた後の様子。全てが目から鱗。

そんな日向の言葉を聞いた山口は視線を変える。

火神や月島、烏野側を見ていた視線を条善寺側へと変える。

 

自分がもしも、止められた後だったら? と想像をしつつ―――日向の言うように全力で本気で遊ぶと言う条善寺を見る。

 

 

「……【勝負事で本当に楽しむ為には、強さが居る】」

「あん??」

 

 

だからこそ、不意にこの言葉が頭を過ぎり、口から出てきた。

 

 

「昔。烏養前監督がよく言ってたんだって。……バレーしてる時の日向とか、火神も勿論、試合の時、本当に楽しんでる様に見える。無邪気って言葉が一番しっくりくるし、それも同じようなもの、かな」

 

 

日向と火神を思い浮かべつつ――――今度はぶっきらぼうな影山やクールガイな月島を思い浮かべる。

強さ、という意味では2人ともそれぞれ持っている筈だから、当てはまるだろう。と考えていたのだが。

 

 

「あ、でも、ツッキーや影山は解りにくいかもだけどね」

「―――あー、わかりますとも」

 

 

微妙だった、と苦笑いを山口はした。

そして、山口に対してノータイムで同意するのは日向。

 

影山の人を睨み殺しそうな凶悪な顔を知っているし、いつもいつも辛辣なセリフと共に嘲るような視線を向けてくる月島も知っている。

難しい言葉は解らないが、本質部分は本能で認識しているので、大体解る。上手く言葉で説明は出来ないかもしれないが、解るので頭を激しく振ったのである。

 

 

「でも、条善寺も何っていうか、同じ様な感じがする。……いろんな種類があるんだって。その一つなんだって」

「………楽しむ。その強さ?」

「日向だって、ミスったらまだまだ後に引きずる事あるだろ? ……条善寺(あっち)には、それが見えないんだ。……完全にって訳じゃないだろうけど」

「……………」

 

 

確かに、と日向は苦い顔をしながらも頭の中では同意する。

ミスした時の事を考えすぎてて、身体を思う様に動かせず、ガチガチになっていた事だってあった。

もう遥か昔の話だ!! と思いたくもなるが……完璧とは程遠いから。

 

 

「日向。チェンジだ」

「!! アス!」

 

 

そうこうしている内に、リベロ西谷がOUT。日向がIN。

再び、烏野の超攻撃型ローテとなった。

 

 

「いやはや、見ていて楽しくなるバレー展開、とはこのことなのでしょうね……」

「それは異論無い。なんつーか……火神(アイツ)の笑顔に、全く引かず最初っから全開でついてくる奴らって、チームって意味じゃ条善寺(こいつら)が初じゃねーか?」

 

 

火神と楽しそうに最初から最後まで―――と言う話であれば、同じチームで日向や番外的に影山。

他校で言えば梟谷の木兎を筆頭に、音駒のリエーフも同種だろう。

だが、あくまでそれは個人での事だ。

チームとなれば話は別だ。

 

 

「……ですね」

 

 

武田は烏養の言葉を聞いて、間違いない、と大きく頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、コートに戻ってきた日向は、皆と手を合わせ、最後に火神とも盛大にハイタッチを交わす。

負けねぇ、と言う想いも当然込めながら。

当然日向のその気持ちも火神は解っている。

 

いつも通り、ニッ、と歯を見せて笑うのだ。

 

 

【早く来いよ?】

 

 

と言わんばかりに。

 

 

そして、日向は続いては影山の方へ。

言いたいことがあるようだ。

 

 

――――止せば良いのに。

 

 

「ヘイ、影山君! 誠也に対抗して凶悪な(熱い)目つきをむけんのも良いケド、もっとナイスっぽい顔した方が良いぜいっ!」

「…………」

 

 

あのセッターからの攻撃。

トリッキープレイをしてきた条善寺。

 

一瞬ではあるが、影山も月島の様に惑わされた。半歩は間違いなく遅れた事だろう。

だが、全く怯まず慌てず、月島に指示も出し、止めて見せた火神に、いつも通りな対抗心を向ける。

影山の対抗心(それ)は非常に解りやすい。日向以上だったりもするから。

 

勿論、影山にとってもあまりつつかれてほしくない場面だ。

バレーが上手い相手に言われるならまだしも、日向相手に言われるのは、完全なるNG。

 

 

ガシッ!!

 

 

と、普通は聞こえないハズなのに、影山の握力(クロー)

日向の頭を鷲掴みする擬音がはっきり聞こえてきた、……気がする。

 

 

 

「――んな事、してねぇ」

「いだだだだ!! って、うそつけーー! してたぞっ!!」

「はいはい。そこまで。ステイステーイ」

 

 

 

そして、主将澤村がお怒りになる前に、これまた恒例行事。火神がしっかりと仲裁に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合も第1セット終盤。

20点台に先に乗るのは―――。

 

 

「ふんがーーっ!!」

「!!」

 

 

日向の反射神経全開、コミットブロック。

火神のドシャットに対抗意識を燃やしつつ、未熟な技術はその身体能力でカバーし、何より160㎝台の日向が突如スパイカーと同じ目線にまで飛び込んでくる事による、視覚的圧力(プレッシャー)を相手に与える。

 

たった1枚でも、まだブロックの読み合いが出来なくても、補って余りある日向の武器を総動員すれば、勝負が出来る。

 

 

「翔陽! ナイスワンチ!」

「日向ナイスワンチ!!」

 

 

コート内外から賞賛の声。

ドシャットできなくても、相手の速攻(クイック)の威力を完全に殺した。

 

 

「くっそーー、ほんっとちっせえのによく跳ぶな!」

 

 

照島は日向を見て苦笑いした。

 

火神に夢中になりすぎるあまりに、日向と言う負けずとも劣らない相手を忘れがちになりそう―――だったのだが、超反射神経と跳躍を見て、改めて振り向かせる事になった。

烏野はワンマンチームなどではないのだから。

 

 

そして、何よりも―――。

 

 

 

こいつ(・・・)―――だな」

 

 

 

寸分の狂いもなく、あの日向の超反射にも合わせる神業。

様々なパターンを相手に刷り込ませつつ、最善の手を選ぶ。

 

そして、専らここぞと言うタイミングで選んでくる攻撃手段も凶悪。

 

 

「ふっっ!!」

 

 

勿論、烏野の代名詞とも呼べるようになってきた日向・影山による変人速攻。

見事にブロッカーを置き去りにし、コートに叩きつけた。

 

先に20点台に乗ったのは烏野。

 

 

20―17

 

 

「なんつーか、淡々としてるっつーか。頭カタそうな顔してるつーか。……メチャクチャな攻撃してきやがるセッターだよな、オイ」

「単体で色々ヤベーのは11番だって、思ってたのに、その影に隠れてアイツの方がやばいんじゃね? あのトス、ヤベェの一言だろ……」

「いやいや、それいったら、あのちっこいヤツだって」

 

 

 

烏野は夢中になれる相手だ。

そして誰一人として、無視する事が出来ない。

気付けば相手は20点台。

楽しくて、楽しくて、夢中になれるかもしれないが……それでも。

 

 

チョー楽しいアソビ(・・・・・・・・・)。一番楽しくなんのは、勝つ事だよな」

 

 

勝つからこそ、楽しい。

負けたら楽しくない……訳ではないが、それでも勝った方が圧倒的に楽しいのは当然だ。

 

 

条善寺は全員が集まり、頷き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その光景にただ1人、驚きを見せるのは、条善寺のマネージャー三咲だった。

 

 

「……ひょっとしたら、杞憂……だったのかもしれないよ。奥岳くん」

 

 

もう引退した前主将を思い浮かべた。

 

現在の2年は、以前から主力ではあるが、面倒を見続けてきた前主将奥岳は、脆さを危惧していた。楽しんで楽しんで、そして……夢中になりすぎて、最終的には周りが見えず、脆く崩れる。

それを危惧していて、三咲に後を託したのだ。

 

 

【あいつら、調子が良い時は良いんだけど、崩れたら多分脆いから、ケツ叩いてやってくれよ】

 

 

当時は、自分のいう事など聞いてくれない、と思い一笑した。

 

 

「―――叩く必要、無かったかもね」

 

 

何処か寂しさもあるが、何より―――。

今までのどの試合よりも活き活きとして、何より向上して言っている彼らを見るのは、好きだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旭さん! ナイッサー!」

「旭、ナイッサー!」

「東峰さん、ナイッサー!」

 

 

チームのビッグサーバーの1人。

20点台に乗り、ガラスハートな東峰でも気合は十分。自分で全て取りきる……と100%言えないかもしれないが、それでも全力で打つ。

 

 

弾丸サーブを打ち放ち、ネットに引っかかったり、アウトになったりとミスする事もなく相手コートを捕らえた。

 

サービスエースの手応えだったが、そう易々とサービスエースを許す訳もない。

気合が入ってるのは、条善寺も同じだからだ。

 

 

「ふっっ!!」

「ナイス、土湯(つっちー)!!」

 

 

強烈なサーブだったが、リベロの土湯が見事に拾って見せた。

威力があるから、(ボール)はかなり高く飛ばされた様だが。

 

 

「(この軌道。……こっちに返ってこないな。誰が打ってくる――!?)」

 

 

影山は(ボール)に①点集中。

無論、コート全体もしっかり見続ける。

 

日向に言われた事は完全に図星であるからこそ、コート内の情報を掬い取り、最善の行動をとる。

何より―――。

 

 

「(止める!)」

 

 

ブロックの気合が入っていた。

 

高く飛んだ(ボール)。そしてセッターは落下点へと入り……、深く沈みこんだ。

 

 

「!!(ツーアタック!)」

 

 

完全にツーアタックの初動。

ここまでの攻防で、相手は足などを使ったトリッキープレイはしてくるが、及川の様な相手の心理の隙間を縫ってくる様な巧みなプレイをしてくる訳ではない。

 

アタック動作(モーション)に入ったら、そのまま勝負してくる事は解っている。

 

 

「止めるッ!!」

 

 

気合十分で全力跳躍。

チームでもトップクラスを争う程の最高到達点を誇る影山の全力ジャンプ。

 

 

結果……、ばぁんっ!! と乾いた音、破裂音、……嫌な音を体育館に響かせながら、(ボール)を跳ね返す事が出来た。

 

 

……痛い痛い代償を伴って。

 

 

 

「あ……、これって」

「んっ!?」

「ゲッ」

 

 

傍で見ていた火神と日向、そしてブロック関係では常に目を光らせてると言って良い月島は、ハッキリと見た。

確かに点を取る事は出来た。

21点目、更に点差をつける事が出来た。

 

影山、ナイスブロック! と諸手を上げたい所ではある……が、素直に喜ぶ事は出来ないだろう。

何故なら、影山の代償……滅多にないとはいえ、受けてしまった代償。それを見てしまったから……。

 

 

 

「やった! 影山くん、ナイスブロック!」

「あ、いや……、今の音? 今のブロックって……」

 

 

上から見ていた谷地は、ただただ相手コート内に(ボール)が落ちた事実だけに着目して、大喜び―――なのだが、滝ノ上は何が起きたのか分かったので、顔を顰めた。

上から見たからこそ、解りやすかった。

 

 

「今のブロック、顔面だったぞ!?」

 

 

 

 

そう、影山が払ってしまった代償。

二股のツーアタック。幾ら身体を動かすセンスに長けていたとしても、不安定ともいえる体勢、あまり相手側を見ずに全力で打った事。

影山の気合十分全力跳躍によるブロック。

 

様々な条件が一致したからこそ、起こった不幸。

 

 

「?」

 

 

鼻から大量の鼻血。

両方の鼻の穴から流れ出ている影山。

 

鼻に強打。

人体の急所の代表格と言って良い顔面に強烈な一撃を受けた影山だったが、微動だにせず、ただ鼻血を出しつつも微動だにしない所は流石の一言―――ではあるが。

 

 

「と、飛雄!?」

 

 

決して軽くない一撃で、血の量だったから、比較的傍にいた火神が先に駆け付け。

 

 

「うわああああ!!」

「か、影山ぁぁぁぁ!!」

 

 

あまりの血の量に、皆いつもとは違った意味でお祭り騒ぎと化してしまっていた。

 

 

「目、目は大丈夫か!?」

 

 

(ボール)が目に入ったら、如何に目を閉じていても丸い分全体的に圧されてしまうから、損傷を受けてしまうかもしれない。単純に脳震盪も怖いが、まずは目をしっかり開けてるので、見えているかの確認だ。

 

 

「ッ……、みえてる。大丈夫だ!」

 

 

鼻血を手の甲で擦って拭うが……流れ続けている。

 

 

「うわああああ、影山ぁぁあぁ、死ぬなああああ!」

「いや、翔陽。勝手に飛雄を殺すな。落ち着いて」

 

 

影山の心配をしていたのに、後から慌ててやってきた日向の心配? もしなければならないと火神は大忙し。

日向が慌てすぎるから、逆により落ち着く事が出来た、ともいえるかもしれない。

 

 

「澤村さん」

「ああ、解ってる」

 

 

大丈夫そうだ、と言う事と、もう1つを言おうとしたが、澤村は全部解ってる、と頷いてベンチ側を見た。

清水や武田が慌ただしく、タオルや救急セットを準備しているのが解る。

烏養も手を上げている。

 

 

「よし。影山。血ぃ止まるまで交代だ」

「え!?」

 

 

試合に出たいと言う気持ちは影山も人一倍。

元々、技術的に言えば影山が試合に出るのは順当だと言えるのだが、それでも、人一倍貪欲だ。一瞬・一秒でも試合をしていたい……と言う気持ちが全面に出て。

 

 

「鼻血なんて、出てませんっ!!」

「いや、なんでやねん」

 

 

影山のまさかの発言に、思わず手が出てしまった火神。

 

誰が見ても来ても解る大嘘をついた。

コートに滴り落ちる程の量の血を出していて、出てない! と言うのは無理がある。日向でも騙せない。

 

 

「火神のオーソドックスなツッコミは、珍しいが、それ以上に影山の解りやすすぎる嘘も珍しいな。つーか、嘘ついてもダメだし、無駄だってお前も解ってるだろ? ルール上ダメ」

「うっ………」

 

 

ちゃんとルールで出血時の処置も乗っている。

当然ながら、出血した選手は止まるまで試合に出れない。

 

 

非常に不服そうだが、影山はコートから出て行った。

 

 

 

「さっきの火神のやり取り聞いてたけど、改めて聞く。目は見えてる?」

「大丈夫っス!」

 

清水からティッシュを受け取った。

鼻に当てて、力強く押し込む。早くとまれ、と念じながら。

 

 

「んな気合入れたら、余計に噴き出てくるぞ。どうせだ。見て貰ってこい」

「~~~~~」

「念のため、念のためですよ。大丈夫である事を確認してきてください。それが最速で試合に戻る方法です」

 

 

そう言われても、影山は納得がいかない様子だ。

バレーに関しては頭が良いし、仕方がない事くらい解っている筈だが、今の影山はただの駄々っ子になってしまっている。

 

 

「ほらほら、行くぞ。早く帰ってきたいんなら、さっさと行かないと」

「~~~~~~」

 

 

山口に付き添われて、医務室へ。

 

 

「ヘイヘイ! 影山!!」

 

 

そんな影山の背中に大きな声をかけるのは日向だ。

 

ビッ、と親指を自身に向けながらはっきりと告げた。

 

 

 

「留守は任せろ!」

「早く血、止めてこないと、勝って終わってるかもしれないぞ」

 

 

日向の横で、火神も影山に発破を入れる。

最善の行動を早くしないと終わるぞ、と半ば脅しの形で。

 

試合を長くしたい影山にとっては、かなり効く脅しだから。

 

 

「そうそう、センパイに任せなさい、っての」

 

 

不敵に笑う菅原。

 

影山は医務室へと連行されていった。

 

 

影山OUT医務室連行。

菅原IN。

 

 

試合再開。

 

 

気を取り直して、東峰のサーブから……だったが、次はぎりぎりアウトとなり、相手(ボール)となった。

 

 

「クソ。すまん!!(ちょっとの事で、乱してしまうとか、まだまだだな……!)」

 

 

試合が途切れて、その結果調子の良し悪しが変わってくる事はよくある事だ。

東峰は悪い方へと傾いてしまった様だ。

 

 

「どんまいどんまい!」

「次だ、次。取り返すぞ!」

 

 

だが、それだけだ。

次取ればよい。取り返せば良いだけだ、と声を掛け合い、集中する。

 

 

そして、笛の音が響いた。

 

 

 

「……あれ? 烏野、鼻血セッター以外も交代か?」

 

 

 

 

烏野高校メンバーチェンジ。

10番フラッグを持った田中が、日向を手招きしていた。

 

日向OUT。

田中IN。

 

 

「なんで10番下げるんだろ? 調子悪くなさそうなのにな」

「ん~~、あのボーズ頭の攻撃力も結構高かったし? 色々この機会に他の事も試すんじゃないの?」

 

二口の考えは正しい。

ここは、いつもであれば控えのMB(ミドルブロッカ―)の成田が主に出るのが1つの形として練習し続けていたが、此処で試す為に田中を起用した。

 

MB(ミドルブロッカー)をやってみないか? と言う話を田中も聞いていたので準備はつづけてきている。

WS(ウイングスパイカー)として、火神や東峰、澤村に負けたと考えればくやしさも当然出るが、それ以上にやる事が増えた事に対して武者震いをする思いだ。

 

どういう形であっても試合に出たい。

菅原の姿勢も目に焼き付けているし、姿勢でも負けたくないのだ。

 

 

「っしゃあああ!!」

 

 

そんな田中の気合は外にも十分伝わる。

 

 

「……ん、それとやっぱ」

 

 

二口は田中をちらりと一瞥した後、日向の方を見た。

もう1つ、思ってる事があるのだ。

 

 

「あの9番セッターなしで、10番をコートに入れておく絶対の理由が、とくにないのかもしれねーな。器用さがある訳でもないだろーし。……何より」

 

 

烏野で最も凶悪な攻撃、と言って良いモノを二口は思い浮かべた。

辛酸を舐めさせられたあの速攻を。

 

 

「あの【トンデモ速攻】は9番のトスありきの攻撃デショ。器用さって意味じゃ、11番も厄介だけど、流石にあの速攻に関して言えば9番のみっぽいし」

 

 

 

セッター顔負けなセットを組むプレイも多数見てきているが、代名詞変人速攻はやはり影山・日向のコンビだ、と言うのが二口の意見。

 

 

「それにサーブとかブロックとか、基礎的なプレーは他のヤツの方が上手いっぽい。スゲー身体能力でカバーしきれるのって、やっぱ限られてくるしねー」

「………………」

「ん? ……うおっっ!??」

 

 

冷静に分析? をしていた時だ。

妙に熱烈な視線を直ぐ横から感じた。第六感? の様な物は必要ない。ものすごいのを感じたから。

 

そして、その根源が何なのかは直ぐに解る。

強面No.1、烏野の東峰と張る男―――青根である。

 

 

「な、なんだよっ!? ホントの事だろ!! そう怒るなよっ!」

「ははは。青根はIH予選(インハイ)ん時に、あの烏野の10番と妙な友情出来てたしなー……。ん? そういや、二口は11番と友情? みたいなの出来てたし。青根の気持ちもちょっとは解るんじゃない?」

「わかんねーし!! つーか、友情とかできてねーよ。キモチワルイって何回も言ってるだろ!」

 

 

友情が出来た相手に、キモチワルイ、は結構ヒドイ。

それを自覚している二口は盛大に反論。

 

他も本気で言ったり、思ったりしていた訳じゃなく【だよなー】と納得した様子だった。

 

そんな時だ。

 

 

 

 

「……今は、まだ」

 

「フェッ!?」

「「(青根(さん)がしゃべった!?)」」

 

 

 

ただ沈黙、無言の圧力、睨み……だけだった青根が声を発した事に皆驚いていた。

 

 

「それは、たぶん解ってる。あの10番は解ってる。………」

 

 

青根はハッキリとそう告げた。

口には出さないが、青根は解っている。

日向と火神の2人の付き合いは昨日今日のモノでは無いだろう、と言う事が。想像の範疇ではあるが、2人の雰囲気ややり取りを見ていて予想がついたのだ。

 

強烈な才能の塊と言って良い相手と長く共にいれば……解る筈だろう。

 

「………」

 

凡そ根拠と呼べるものは無いが、青根の言葉は不思議な説得力があると言うものだ。

二口たちは、それ以上何も言わず、コートを去っていく日向の背を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日向。集中力切らすなよ。外から見るのも大事だ。菅原のセットもそうだが、田中のミドルとしての動きもな」

「……おす」

 

 

言われるまでもない、と言わんばかりに日向は目を凝らせる。

定位置に戻っても身体を動かし手は視線を向け、更に身体を動かしては向き直す、と言った動作を続けていた。

 

 

「ちょっとは落ち着きなよ。試合に出たいのは解るけど」

「試合に出たい、だけじゃなくて」

「??」

 

 

日向は、田中の方を見る。

火神と何やら話をして、軽く手を合わせていた場面だ。

そして、菅原もそう。

 

どんな形でも、誰とでも自在に、そして周囲を活かす。

それは、司令塔だ、と言ったセッターだけじゃない。紛れもなく火神誠也と言う日向の親友も同じだ。

 

 

 

「やりたい事が多くて多くて、いっぱいだ」

 

 

 

今はまだ、跳ぶ事しか出来ない。

やるべき事が多くて、やりたい事も多くて、全てを叶えたい。

 

貪欲に。ただただ貪欲に。日向は試合を見据える。

 

 

「…………」

 

 

そんな日向に気圧されつつも、負けたくない、と身構える。

そして、直ぐ隣にいた月島はと言うと。

 

 

「キモチワル」

 

 

まさかの暴言。

流石の日向も、幾ら集中していたと言っても、これをスルーする事は出来なかったようで。

 

 

「なんだとっっ!??」

 

 

キッシャー! と月島にとびかかるのだった。

勿論、その後怒られたので、直ぐに大人しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「田中!」

「っしゃ!!」

 

 

試合は菅原セッターで初得点。

決めたのは田中だ。

まだまだ絶賛練習中のコンビプレイ。

兎に角、試合に出れる時間が多いとは言えない田中は、短い時間であっても持て余す事なく全てを使う。

速度も力も。半端になる事なく全力で。

 

そんな田中の有り余る力を、解放したくてたまらないと言った力を上手く操るのが菅原だ。

影山の様な超絶テクニックは無かったとしても、田中の力に応えてやるだけの事は出来る、という自信とセッターと言う自負を以て。

 

そんな凝縮されたワンプレイ。

 

傍から見れば、普通に速攻を決めた程度かもしれないが、見る者が見れば、より気合が入り、声が上がると言うものなのである。

 

 

【ナイスキーー!!】

 

 

それは、コートの内外問わずに。

 

カウント

22-18

 

 

さぁ、ここから更に乗っていくぞ! と、意気込みを入れてサーブを打つ菅原だったのだが……。

 

 

「!!」

 

 

ネットに当たり、白帯の上を転がる……と言う結構珍しい展開

このまま転がり、相手コートに入ってしまえばよかったのだが……。

 

 

「あ゛!」

 

 

ころんっ、と転がり落ちたのは自陣コート。

 

 

「スマン!! 狙い過ぎた」

 

 

初っ端のサーブで外してしまうと言う愚行に、菅原は両手を合わせて謝罪。

 

 

「OKOK。仕方ない。切り替えるぞ」

「ドンマイっス!」

 

 

気にするな、と澤村、田中を中心に労われ、菅原も引き摺りそうになる気持ちをどうにか抑えた。

 

カウント

22-19

 

 

 

次の条善寺のサーブは照島。

 

「っしゃあ!」

 

気合の雄叫びを1つ入れると、(ボール)を拾ってエンドラインへ。

 

強烈なサーブは何本も入れられてきた。

サービスエースも明らかに烏野側が多い。

 

 

「(……燃える!)」

 

 

だからこそ燃える。

こっちもやってやろう、やり返してやろう、と燃える。

 

サーブはバレーで唯一の個人プレイだ。

 

誰にも邪魔されず、自分の全力を(ボール)にぶつける事が出来る。

いや、邪魔する者が居るとするなら……、それは己自身。

 

だが、今の照島は問題なし。

 

 

「フッッ!!」

 

 

身体も気持ちも前しか向いていない。

調子を崩す様な場面じゃない。

 

 

打ち放たれたサーブは、なんとライン上。

アウト、と見送った(ボール)は、白線の上に着弾したのだ。

 

 

 

「フゥーーーー!!!」

「うっはーーー! ナイッサーー!」

「ぅぇーい!!」

 

 

 

まさに会心の一撃。

今のは捕れなくても仕方ない、相手を賞賛だ、と言って良い類のモノだ。

 

 

「くっはーーー、あの【1回で3点獲った!】みたいなテンション腹立ってくる!!」

「大丈夫だ。田中も似たようなもんだし」

「ええ!!」

「すまん、ジャッジミスった」

「いえ、今のは仕方ないです。オレもアウトだと思いました」

「スゲーな今のは。でも、向こうのテンションに呑まれるなよ。1セット目、一気に獲るぞ」

【オース!!】

 

 

強烈な一撃は流れを呼び込むものだ。

だが、その流れに呑まれる事なく、このセット必ず獲る、と気合を入れなおすのだった。

 

 


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