王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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お待たせしました。
遅れてすみいません………

鬼のよーに忙しいです……(涙)
生存報告ができ、且つ11月中にもう1話投稿出来て良かったです…………m(__)m


これからも、何とか頑張っていきます!


第144話 条善寺戦③

火神渾身のノータッチエース。

 

これまで、ほぼシーソーゲームだったこの均衡を、打ち破ると言っても良いデキ。

 

打った火神自身も手応えは十分感じているし、それは傍目から見ていた烏養も同じ。

自他共に認める。まさに最高の出来だと、中外両方で拳を握り締め、振り上げていた。

 

 

 

合宿や普段の練習と比較しても、文句なしの1本。

練習以上をこの本番で出す事が出来た、とも評価できる。

 

コース・威力共に10点中10点は上げたくなる程の鬼サーブだ。

 

 

「……ったく、精神的に崩す、なんて条善寺(向こう)にゃ、無理ってなもんなのかよ」

 

 

拳を振り上げたのは良い……が、あのサーブを受けた条善寺の面々を改めてみても、烏養はただ苦笑いをするだけだ。

あんな強烈なサーブ、声掛けの様な建前は兎も角、その本心では

 

 

自分(コッチ)に来るな!!】

 

 

と少しくらいは思ってしまったとしても不思議じゃない筈なのに、コート中の連中は皆一様に笑顔だった。

 

 

自分(コッチ)に来い!!】

 

 

と、まるで誘っている様だ。

アソビに行こう(・・・・・・・)! と誘っている様だ。

 

 

心から楽しもうとしているのが傍目で見てもよく解る。

だが、しかしそれは恐らく烏野側も同じ事だろう。

 

西谷程顕著に表れているワケではないが、強力なサーブは受けてみたい、と思うのがレシーバーとしての欲の様なモノだ。

 

無論、限度と言うものは存在するが、強烈な一発を拾い上げて見せた時の快感は、点を決めた時のソレと何ら遜色ない程のモノである事を、烏養は良く知っているから。

 

それは 繋ぎ、拾い切り、そして点を決めたともなれば、更に増す。より深い快感へと変わる。

 

 

「(……守備(レシーバ―)を4人配置か。我が強くて、(ボール)の取り合いになりそうな場面も幾つかあったから、サーブレシーブは最小限に、って感じだったが……ここで変えてきたな)」

 

 

そして、例えタイムを取らなくても、中で最善で動こうとしている。

否、どうすればより楽しい時間が長くなるか、それだけを考えて、その為にどうすれば良いかを導き出している。

 

条善寺の監督も、下手にタイムで試合を止めるより、信頼し、信じて託している様に見える。

 

オーソドックスなチームだったら、間違いなくリズムを乱される試合運びだと言えるだろう。

 

 

 

 

「火神ナイッサー!!」

「ナイッサー!!」

 

 

しかし、忘れてはならない事がある。

ある意味条善寺と同じだ。いや、烏野こそが今やオーソドックスと言う言葉からは、程遠い所に位置するチームだとも言える。

堅実に育て上げてきた土台。苦しい時代を乗り越えて備えに備えてきた土台の上に、自由自在に縦横無尽に駆け回る男が居て、更にその絶対値を押し上げてしまう男もいる。

烏野を知ってる者なら、オーソドックスなんて言葉、正直使いたくない筈だ。敵味方分け隔てなく。

 

 

そして、今ある意味ではその筆頭がサーブを打とうとしている。

 

 

「――――――」

 

 

(ボール)を額に当て、目を閉じている。

外から見ていても気合十分、集中力MAXなのが解る。

 

雰囲気だけで十分。

 

 

「火神君! 落ち着いてもう1本!!」

「………………」

 

 

その意気は、こちらが思わず身震いをする程だ。

最早声掛けも不要。烏養は思わずニヤリと笑って、武田の影で呟いた。

 

 

「―――さぁて、アイツ(・・・)を相手にしても、このまま遊んでられるか、な……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっはー……、IH予選の時より威力倍増してね? アレ」

「受けたくねーよ、あんなの。んで、条善寺(向こう)は、アレを前にして何で笑ってられるんだか……。うえーー、マジきもちわるっ」

 

 

伊達工も、火神の会心の一撃(サーブ)に思わず息を呑み、冷や汗が流れる。

日々進化しているとはまさにこの事で、見ればそれが解ってしまう(・・・・・・)事も脅威の一言だ。

 

 

「あーあ、サーブでもブロックする事が出来りゃ~な~」

「……まぁ、今は普通に反則だしな、ブロック(ソレ)

 

 

凶悪な(サーブ)鉄壁(ブロック)で勝負させてくれ、と言わんばかりに椅子にもたれかかって項垂れる二口。

 

だが、口では色々言っていても、完全に白旗を振ってる訳じゃないのは、チームメイトの皆が解っている。

お調子者だが、弱気発言は決して本心ではない。

 

 

「条善寺も色々良く解らん強さなんだよな。特別デカイのがいる訳でもないし、凄いエースがいる訳でもない。それでも、手強い。……ペースを乱されるってのは、相当キツイんだろうなぁ、逆にこっちが乱してやれば、って思ってたケド。火神(さっき)のサーブでも喜んでるんじゃ、どうすれば良いかもう分からん……」

「二口もサーブ頑張らないとな?」

「負けてねーし!」

「………………」

 

 

二口ではないが、同じく同級の小原も答えが出ずに苦笑いをしていた。

火神が凄い(厄介)なのはIH予選の時から解っている事だ。だが、今ここで改めて注目するのは条善寺の方だ。

その威容で異質な姿を目に焼き付ける。

 

 

奇しくも、笑ってて、気持ち悪いと感じる相手が云わば2人目であり、そのチーム同士が戦っているのだ。

 

 

自然と試合を魅入る姿勢が前のめりになるのも仕方が無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――笛の音と共に、ドンッ! と轟音がとどろいた。

 

強烈な一撃は、ワッ! と歓声を沸き起こす。

ミスは無し、確実にネットを越えて、アウトコースでもない。威力は言わずもがな。

 

これで再びサービスエースを獲る事が出来たなら、場の盛り上がりは更に増し、最高潮が更新されていくだろう。

 

 

だが。

 

 

 

「ふんっっっがーーーー!!!」

 

 

 

条善寺、根性体当たり(レシーブ)が炸裂。

レシーブ……と言うより、身体の何処かに当たれ!! と言った勢いでぶつかりに行った、と言うのが正しいだろう。

一定はあるだろう強打に対する恐怖心。それが完全に楽の感情で塗り潰されているから出来る芸当でもある。

 

 

「うわっしゃーーーい!! とったべーーー!!」

 

 

決めた訳じゃない。サーブを高くぶつかり上げただけなのだが、その高く上がったが故に生まれた時間にて、歓びを爆散させたのは東山。

 

 

「(つってもヤベーヤベー!! あのキレッキレコース、マジで狙ってきてるとか、この威力で狙えるとかアイツ、マジやべーー!!)んでもって、捕れたオレもヤベー――!!」

【はっはぁぁーーー!!】

 

 

ゾクゾクと背中に走るナニカを感じながら、盛大に吼える。

マグレやたまたまの会心の一撃、と言う訳ではない。

拾えた自分に最大限のエールを送りつつ、周りも巻き込む。あのサーブを上げたのだ。周りも呼応する様に連鎖した。

 

 

何より―――あのサーブが普通(・・)なのだとしたら、これ以上ない程……楽しい(・・・)

 

 

 

「まっ、痛ぇぇぇ!! のはヤダけどな!! おらーー、二岐!!」

 

 

捕った、吼えた。それでも満足しない。ただただ楽しみ尽くす。

強サーブに圧された身体を直ぐに起こし、助走距離を確保。これもまた、偶然にも高く上げる事が出来た恩恵だ。

 

 

「あっちも想像を超えてきやがるな、ちっきしょー」

 

 

烏養は再び苦笑い。

相手はベスト4に入るチームだ。元々決して低く見積もっていた訳ではないが、あの瞬間だけは侮ってしまっていた自分がいる。それを戒める様に、拳を再度握り締めるのだった。

 

 

 

「か、火神君のサーブ上げた!!」

「ありゃ、上げたっつーか、文字通り見た通り、体当たりだな。この辺に来る! って思って打つのと同時に身体動かしてた。考えてやった事じゃねー……って思っちまうのが、末おっそろしい」

 

 

文句なしのサーブを拾われた事に驚きの声を上げる谷地と、冷静に状況を見極める滝ノ上。

条善寺のレシーブ力、守備力。確かに見る者を翻弄する様な型破りな動作が含まれているが、そこまで高いとは言い難い。

 

 

だが―――。

 

 

 

 

「よしよーーーし!! ナイスだ東山! 上がりさえすればどうとでも出来る。―――出来るだろ? お前らなら!」

 

 

条善寺高校、穴原は大きく吼えた。

影山・火神と続く烏野のサーブの強さには舌を巻くし、頭も痛い。

 

これは、今年の烏野は間違いなく県内でも屈指のビッグサーバーを擁している。サーブだけで突き放されても不思議じゃない。それでも、見事に上げて見せた事に対する称賛、この試合中でもなお、成長を見せる選手達に対する熱意と敬意を最大限に向けて吼えた。

 

何よりも、ここは重要な場面。あの火神(ビッグサーバー)のローテを切る為の発破も込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!(これ、ツーアタックだ!!)」

 

 

ネット間際の攻防。

身長は確かに低いが、類稀なる跳躍力を持つ日向でも十分競い合える。

強引に力で迫ってくる一撃はまだまだ無理かもしれないが、不安定な体勢でのツーアタック。火神のサーブの威力を殺しきる事が出来ずに、ネットを越えるか越えないかの境界線での攻防なら、十分に勝負出来る。

 

跳躍力に加えて、常人以上の反射神経を以て、(ボール)に跳び付いた―――が。

 

 

「!! 翔陽ッ、ステイッ!!」

 

 

火神が声を掛けた時にはもう既に跳躍をしてしまっていた。

日向は、相手セッター二岐にも負けない、見事な跳躍……それ以上の打点だったのだが、相手が選んだのは、ツーアタックじゃない。

壁を作っても意味を成さない。

 

 

「(あ―――、これ、さっき見たヤツだ…―――ツーじゃない……)」

 

 

前回のは、火神の声でブレーキを掛ける事が出来たが、今回は出来なかった。

空中に居るので、解った所でどうしようもない。空を飛べる訳じゃないから。

 

火神に独り立ちを宣言した日向だったが、その道はまだまだ険しく―――である

 

 

「(ワンハンドトス)」

 

 

片手でトスを上げ、そして上がる事を信じて跳んでいた沼尻が既に直ぐ横に居る。

ワンハンドは、精度が落ちてしまうかも知れないが、置くだけで良い。置いてくるだけで。

繋ぎさえすれば、どうとでもなる、出来るから。

 

 

「フッッッ!!」

 

 

沼尻は思い切り(ボール)を叩きつけた。

先ほどは、日向の超反射による跳躍で、突然視界に割り込まれる様に入ってこられて、完全に気が逸れてしまったが、今回は視界良好。

ただただ全力でフルスイング。

 

 

「んんんッッ!!?」

 

 

叩きつけられた(ボール)に、懸命に跳び付くのは火神。

日向が完全に釣られてしまったから、ノーブロック状態。そして、全員が(ボール)が上がりさえすれば、強打を打ってくるような相手だ。分が圧倒的に悪い。

 

だからと言って、諦める暇はない。諦めてる暇はない。

 

跳び付いた火神は右手。それは鋭角に叩きつけられた(ボール)にどうにか触れる事は出来た。

でも、それで精一杯。当然威力を殺すなんて真似が出来る訳もない。

バチッッ! と破裂音を響かせながら、(ボール)は後方へと吹き飛んでしまった。

 

これは失点――と誰もが思う一撃だったが、後ろにはまだ控えている。

 

烏野の守護神。

 

 

 

「にし―――」

「ん、ああぁぁっ!!?」

 

 

手を伸ばし、取りきれず弾かれた事を瞬時に理解すると同時に、視線を素早く後方へ。そして西谷の【にし】の字を叫んだとほぼ同時。

 

西谷の超反射で腕を振るい、あの後方へと弾丸の様にはじけ飛ぶ筈だった軌道の(ボール)を、上にあげて見せた。

 

高く高く上へと昇る(ボール)。強烈な回転を帯びながら、落下。

落下予測地点は、エンドラインよりやや外側。十分追いつく。追いつける事が出来る。

失点を防ぐ事が出来た。

 

 

 

 

「うおっっっ!!?」

「アレ拾ったぁぁぁぁっぁ!!!」

 

 

【おおおおおおおおおお!!】

 

 

 

 

 

会場が今日一番盛り上がる。

どんな攻撃を決めた時よりも、どんな強力なサーブを決めた時よりも、会場が一体となって、デカイ歓声、場が湧き上がるのがスーパーレシーブを決めた時。

 

たった一瞬の出来事だと言うのに、その光景はまるで目に焼き付けられたかの様に鮮明に残る。

 

 

 

「!! 飛雄!!」

「ラスト!!」

「オーライ!!」

 

 

落下点に先回りし、アンダーで大きく返す影山。

会心の攻撃(カウンター)が決まった! かに見えたが、見事に返されてしまった結果に、条善寺は気圧され―――。

 

 

 

「っしゃあーーーい!! 決まるまで決めるぜぇぇ!!」

「おっしゃあぁぁ、チャンスチャンス!!」

「次、オレに寄越せ!!」

 

 

る事は一切ない。

相手が凄く、強いのは、もう十全に解っている。

条善寺(彼ら)にとって、最っ高のアソビ相手。

 

 

 

「ぬまーー! フリーで打って取られるとかだせーーぞ! おらー、取り返してみろー!」

「うっせーー! わーーってるよ!! おら、こっち寄越せーーー!!」

 

 

綺麗にセッターへと返し、再び沼尻が入ってくる。速攻(クイック)が来る!! と、前衛、特に先ほど騙された日向は、跳び付かずにより深く身構えていたその時だ。

 

 

「え……」

「へへっ!」

 

 

まるで嘲笑うかの様に……二岐のツーアタック。

 

柔らかいタッチのツーアタックは、日向の丁度後方へと落ちた。

ワンハンドトスを2度見せて……3度目の正直と言わんばかりのツーアタックだった。

 

深い位置で守り過ぎていた為、数人飛び込むが間に合わず失点。

 

一番惜しかったのは、つい今し方スーパーレシーブをしてみせた西谷である。

 

 

「んがーーー!! くっそ!! 今の取れてた!! 絶対取れてた!! くっそーー!!」

 

 

悔しそうに地団駄を踏んだ。

 

 

「オレも、身構え過ぎました。……切り替えます。次来たら捕りますよ」

「―――ッ! おうよ!! 当然だ」

 

 

火神は西谷に手を伸ばして引き上げると、そのまま西谷と拳を合わせた。

鼓舞する様に。

 

これは流れが変わるかもしれない場面だ。

 

あの場面で、烏野が取りきる事が出来れば、再び火神の緩急自在のサーブのターンが続くし、幾ら条善寺でもほんの僅かくらい綻びが出ても不思議じゃない。

逆に獲り返された事により、ただ1点返した、という訳ではなく、火神と言う強打のサーブを切った事にもなるので、精神的にも優位に立ちやすい状態。

 

 

「よっしゃ、落ち着いていくべ。今のはしょうがない。でも、火神も西谷もナイスだ。相変わらずスゲー。条善寺(向こう)とはまた違ったスゲーだな。でも一旦クールダウンだ。獲り返すぞ」

「おう!」

「「アス!!」」

「うぇーーい!!」

 

「日向ボゲェ!! 2回連続で向こうのセッターに良い様にやられてんじゃねーよ! 日向ボゲェ!!」

「ぅ……! に、2回やられちゃったからって、2回ボゲェ言うな!!」

「それにさっきもワンハンドトス見てただろうが、サボってんじゃねぇボゲェ!!」

「さ、サボってねーよ!! せい……、身構え過ぎちゃったんだよっ!!」

「はいはーい。お前ら、クールダウンって意味解ってる?」

「「う、ウス……」」

 

 

澤村が皆を落ち着かせた。

言われなくても大丈夫だったかもしれないが、それでもほんの些細な歪みもくみ取り、矯正する。

 

火神も火神で、全力サーブ打った後の全力レシーブ2連続。少々一呼吸入れたかった場面だったので、日向・影山のいつも通りのやり取りを止めに入るのは億劫だった……が、澤村がしっかり纏めてくれて、軽くアイコンタクト。

結果、火神は安心しながら一呼吸を置いた。

日向が一瞬、自分の名を呼びそうな気がしたが……気にしない方向で。

 

 

 

その一連のやり取りを上で見ていた滝ノ上はと言うと。

 

 

「うーむ、やっぱそうだよなぁ」

「?」

 

 

改めて納得、と言わんばかりに腕を組み、うんうんと頷いていた。

谷地はどう言う意味か? と首を傾げる。谷地は疑問をそのまま言葉にこそしなかったが、谷地に説明する様に滝ノ上は続ける。

 

「やっぱ年齢詐欺かよって。東峰よりよっぽど詐称してるって感じがするわ澤村」

 

そう言って笑っていた所に、谷地が何やら思い出した様で、声を上げた。

 

 

「谷っちゃんから、警報鳴らして怒られエピソード聞いてなけりゃ、完全に騙されるヤツだ」

「あ、あはははは……。澤村さんも結構気にしてるらしいので、此処だけの話にして欲しいっス」

 

 

間違いなく、ONとOFFの切替がきっちり出来る人材である事には変わりない。

 

烏野高校は、もう堕ちた強豪と呼ばせない―――と思っているかもしれないが、ひょっとしたら、と滝ノ上はこう思えてくる。

 

 

「(今のアイツらこそが、歴史に名を刻む、烏野の最盛期かもな……)」

 

 

たった数年で目まぐるしく入れ替わる高校スポーツにて、今この瞬間、このメンバーの烏野こそが、嘗て全国で舞った小さな巨人を擁した烏野をも超えていく。

 

滝ノ上は、そんな予感がするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は一進一退。

烏野が以前有利のままではあるが、点差は離れない。

ブレイクポイントこそお互いに許さず、シーソーゲームで迎えた第一セット中盤。

 

 

15‐13。

 

 

 

「いやいや、烏野の10番もそうだけど、条善寺の連中もメッチャ動き回るよ。見てるこっちが疲れる~~」

「あ~わかるわかる。色々大雑把。ブロックとか直ぐポンポン飛んじゃってよく囮に引っかかる。……あのチビの速攻見りゃ、しゃーねーとは思うけど、それでも打たれ放題だ」

 

 

 

日向・影山による変人速攻。

それが炸裂したのはほんの少し前の事。

 

正直、照島は火神にばかり気を取られていたが、日向のあの早い速攻を見て、度胆抜かれた。横っ面をぶん殴られたような衝撃を受けていた。

 

そこから、日向を軸とした攻撃が続いて……今に至る。

 

 

「よっしゃ‼ 翔陽ナイスキー!」

「日向ナイス!!」

 

 

ブレイクを取れない理由の1つに、あの変人速攻が絡んでいるのは間違いない。

前衛では勿論の事、後衛のバックアタックもしてくるから、後ろでも前でも気を抜いて良い相手じゃないから。

 

 

「すっげーはえー。うわ~~、めんどくせっ」

「……確かに、点は決まるのは決まるんだけど、やっぱ条善寺しつこいよな。相対してたら、もっと解ると思う。……やり辛そう。なんでだろ?」

 

 

条善寺高校の強さ。

そのやり難さは何処から来ているのか、と気になる伊達工の面子。

条善寺は全員が2年生。いずれぶつかる可能性も高い相手だから。

 

その強さの源、秘密とは? と想像力を頑張って働かせようとした時、1年リベロの作並が答えた。

 

 

「あ、僕条善寺のバスケ部に友達いるんですけど……」

「まじで? 何か聞いてたりする?」

「はい。バレー部はいつも練習の半分以上―――【2対2】の試合(ゲーム)をひたすらやってるそうです」

 

 

作並の言葉を聞いてギョッとする。

練習の半分以上を費やしてる。

 

確認の意味も込めてもう一度。

 

 

「2対2? 練習時間の半分を?」

「はい。それはもう、ひたすらグルグルと」

「うげっ、マジかよ。きっつ!」

 

 

2対2だからと言ってコートの大きさを変えたりする訳じゃない。

普段、6人で守ってるコート内をたった2人で行う。そして、当然攻撃もたった2人で行う。それを只管繰り返す。キツイ、と口にしたが、安易にそれだけで済ませて良い練習内容じゃない。

運動量が非常に要求されるとてつもなくハードな練習だ。

 

 

「……成る程。つまりアレだな。2対2(ソレ)をし続けてきたからこそ、【誰かがやってくれる】って感覚が薄いのか。悪い言い方すれば、サボろうとするヤツが居ない。……常に全員が攻撃意識、守備意識を持っている……と」

「はい。尚且つ、凄くセンスがあるみたいですから、どんなプレーでも熟せてしまう、って感じでもありますね」

 

 

全員が攻める気概を持つ事。

それはどんなスポーツでも必要な事だ。勝つ気、攻め続ける気、どんなものでもそれが無ければ勝てない。

 

 

―――だが、勿論良い所ばかりとは言えない。

 

 

「カバ―――!!」

「よっしゃ!! オレだーーー!!」

「任せろ!!」

 

 

全員が気概を持ち、サボる気もなく、全力疾走だからこそ。

 

 

「「うげっっ!!」」

 

 

自分こそが取る、と言う気持ちが強過ぎて、衝突(物理的に)してしまう、のである。

どーんっ! と。

 

怪我はして無さそうだが、見ていて非常に危なっかしい。

 

 

「ばかたれ!! ちょっとは譲れ!! それじゃ声かけの意味も無いぞ!!」

 

 

激が飛んでいるが、身に染みているスタイルが一番の武器であるのも事実。少し変える~~なんて簡単には出来そうにない。難しそうだ。

 

 

 

 

「………成る程。だからこういう事もあるんだな」

「怪我しそうなのに、直ぐ立って大丈夫そうなのは……衝突(アレ)も慣れてるから、なのかもしれませんね……」

「はぁ~~~」

 

 

 

二口は、結論を出す。

烏野も普通じゃないが、条善寺も普通じゃない。

 

 

 

「どいつもこいつも、めんどくせっ!」

「……………」

 

 

 

言葉にこそ出さないし、そこまでの暴言? を吐く青根ではないが……大体似通った感想を持っている事だろう。

 

だが、忘れる事なかれ。

 

伊達工(・・・)もそうだし、この2人(・・・・)も―――。

 

 

「お前ら2人とも他校から面倒くせぇ、って思われてるよ。絶対」

「あ、あははは…………」

 

 

ほんのつい最近でも烏野を完膚なきまでに止めて、精神(こころ)をへし折るまでに至った鉄壁。

相手にするとなると、これ以上ない程【面倒くさい】だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合は続き―――烏野の攻撃(ターン)

 

 

 

「飛雄!!」

 

 

火神は助走距離を確保して、入った。

 

 

「火神!」

 

 

そして、その寸前で貰った火神のサイン通り(・・・・・)に、寸分の狂いもない正確無比なトスを影山は上げる。

 

 

 

サインとは、右利き(ライトハンド)だった筈の火神は左利き(レフティ)へとスイッチするもの。

 

 

「んんッッ!!」

 

 

レフト側からストレートコースを狙って振り抜く。

普段の右打ちより、威力精度共に劣るかもしれないが、それでも十分武器になり、尚且つ相手を攪乱させる代物。

 

何せ、通常の右利きのイメージが刷り込まれているが故に、利き腕を意識している(ブロック)(ボール)1つ分程の穴が開いてしまう結果になるからだ。

 

そして、アンテナとブロックの間に出来た隙間を、火神は見事に通して見せた。

 

 

「(完璧。キレキレだ!)ナイスコース!!」

 

 

見事に通して見せた。

バレーに関しては妥協知らずな影山が思わずうなり声を上げる程に。

―――だが。

 

 

「んがっっ!!」

 

 

右だろうと左だろうと、打たれた場所に跳び付く、喰らいつく、届く距離であれば躊躇わない決して逃さない。

 

また、体当たりに近いレシーブで上げて見せた。

 

 

沼尻(ジリ)! ナイーーーッス!!」

「うぇーーい!!」

 

 

 

 

「くっそ……!! 今、(ブロッカー)がいて全然レシーバーが見えなかった」

「今のは向こうが凄いでいいじゃん。……兎に角ブロック」

「おう!」

 

 

火神も、まだまだ練習中の左利き(レフティ)だが、コースや威力も上々。相手のブロックをズラす役目も十分果たす事が出来、十分合格ラインの出来の筈だったのだが……結果は拾われてしまい、苦虫をかみつぶした。

 

だが、それも直ぐに解消する。

何処までも冷静な男、月島が珍しくも慰め? の言葉を火神に送る事によって。

 

本人はそんなつもりはサラサラ無い様だ、今はブロックに集中したい、と。

 

 

「(条善寺(向こう)の前の攻撃はセッターを除いて2枚。……後はバックアタックか。照島(エース)にそろそろ集めてもおかしくない場面だけど……)」

 

 

前衛の面子、そして後衛の攻撃の可能性。

色んな事を頭に入れつつ、その中での最善を模索。そして、ある程度の予測(コミット)はしても、最低限の情報を掬い取るまで、安易に動いたりしない。

月島は、リードブロック主体。相手に出し抜かれる事を何よりも嫌う男だから。

 

 

だが、ここで想定外の事が起きる。

 

 

 

「そろそろ、オレにも打たせろーーー!!」

 

 

沼尻が上げて見せた高い(ボール)

恐らくこれは偶然と幸運だろう。その(ボール)の落下点はアタックラインの内側、殆どAパスだ。

だから、普通は二岐(セッター)が攻撃を組み立てる場面の筈なのに、助走距離を確保しだした。

 

 

「!?(コイツ、セッターだろ!?)」

 

 

想定外の事態に、月島の思考が乱れた。

だが、先ほどのお礼? と言わんばかりに、次は火神が月島に冷静さを取り戻させる。

 

 

「(月島、コミット。――セッター(あっち)に注目)」

「!!(でも誰が―――)」

 

 

確かに、セッターの二岐が打ってくる可能性が高い。

寄越せ、と要求までしているのだ。

 

これが盛大なフェイントである―――とは正直到底思えなかった。

条善寺と言うチームの性質を考えても。

 

だが、一体誰がセッターの様に上げる? チャンスボールの場面で強引にセッターを下がらせて行う攻撃に威力や精度があるのか? と疑問視をしていた。

 

月島は、火神と違って条善寺の練習内容を知らないから。

条善寺は、いわば全員が全てのポジションでプレイ出来る事を。

 

 

「!!(後衛のヤツが上げる―――!?)」

 

 

アタックラインから跳躍し、(ボール)の落下点に入るのは、後衛に回っていた東山。

元々のポジションはWS(ウィングスパイカー)だが、一切の躊躇いも迷いも無い。

そして、まるで生粋のセッター……と見紛う程綺麗なフォームから、バックトスで二岐に上げて見せた。

 

 

 

確かに凄い。

相対している側は、基本が頭にあるから、ある程度刷り込まれている。

チャンスボールだったら、普通はセッターが組み立てる。セッターから多彩な攻撃の型が生まれる。

だが、相手は型に嵌らない。

 

目の前で突然やられたら、混乱するし、困惑するし、乱される。条善寺のやり方は他のチームには出来ないやり方だと言えるだろう。

 

 

だが、この場面、この瞬間だけは たった1つだけだが……選ぶ手を間違えた、と言わざるを得ない。

 

 

ツーアタック以外では、攻撃初参加の二岐。

ポジションはセッターだが、攻撃も大好き。スパイクも大好き。

 

嬉々として攻撃参加したは良い――が、マッチアップの相手が最悪だった。

 

条善寺のやり方、乱し方が一切通じない相手。

二岐は知る由もないが、ある意味じゃ、条善寺を知り尽くしてる、と言っても良い相手が前に居る。

 

 

「!!」

「ああ゛!!」

 

 

ド、ドン!! と轟音が響く。

 

 

一瞬で目の前に現れた大きな壁。

確かに認識していた筈なのに、二岐は攻撃参加が嬉しすぎるあまり、脳が壁を認識するのと、脳が喜びを感じるのとに致命的なズレが生じた。

 

加えてスパイクによる精密な技術戦をするのではなく、単純な打ち合い。

 

それを烏野で1,2を争う(ブロック)を前に持ってくるのはまさに悪手。

完璧に阻まれてしまった。

 

 

気持ち良く決める筈だったのに、気持ち良く止められてしまったのである。

 

 

地に降りるや否や、二岐と火神は目が合った。

先ほど、二岐がツーアタックの時笑って見せた様に、火神も同じ様に笑みで返した。

 

 

 

 

 

 

「勝ち」

「こんにゃろめ――!」

 

 

 


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