王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第143話 条善寺戦②

 

 

 

「っしゃ~~! 1本!」

「おーす! 1本だ~~!」

「おっしゃあ!! 一発決めるぜ!!」

 

 

テンションMAXを持続し続けるのも、相当難しい。

 

勿論、そのテンションに任せて動く体力面もそうだが、その本質は精神面にあると言っても過言ではないだろう。

 

調子の良し悪し、と言うのは誰にでも存在するものであり、それもプレイに繋がってくる。

 

その繋がりの中で、ミスに繋がれば自責の念が出てくると言うのが一般的であり、その後プレイに影響する事だろう。

 

 

それらを軽減する為に よく声を掛け合い、平常心を心掛けようとする、が、それが理想であり、そう上手くいかない事だってある。

寧ろ、そちらの方が多いかもしれない。

 

 

選手全員が、長年苦楽を共にしてきた幼馴染の様な間柄なら兎も角、高校から始まった人間関係、と言うのも有る筈だから。

 

 

だが、条善寺と言うチームは、何だかその綻びさえ見えない気がする。

 

 

「ああ゛!!」

 

 

母畑のサーブミス。

ミートが悪く、上手く当たらなかった様だ。

 

ネットを超えず、白帯に当たって自陣コートに落ちてしまった。

 

 

「オイオイオーーイ!」

「なーにしてんだーー! イージーサーブだろーーー?」

「飯食ってきたんかーーー!? ちゃんと寝てきたか~~~!?」

「わーーー! すまん、すまんて!」

 

 

 

ウェーイ、とまた陽気な掛け声がコート内に木霊する。

 

無論、反省するべき所は反省しているし、次からは修正する、修正するだけの能力も持ち合わせているだろう。

修正する為に、邪魔になったり枷となったりしてしまうのが精神面(メンタル)なのだが、持ち前のテンションの高さが、それらを吹き飛ばしてしまう。

 

 

「……やっぱ、スゲーな。つーか、アレ最後まで持続すんのか? するとしたら、ある意味向こうもバケモンだ」

 

 

改めて条善寺を見て苦笑いする滝ノ上。

第一印象

 

 

「ば、ばけもの、ですかっ!??」

「おっと、わりーわりー。ヘンなつもりでいったんじゃないのよ、谷っちゃん」

 

 

滝ノ上のバケモノ発言に目を見開いてしまう谷地。

よく影山や火神、そして日向の事もバケモノ!! と呼ぶ声は上がってきて、谷地の耳にも届いている。

 

最初こそ、これまた色んな意味で警戒心MAXだった。

バケモノ、と聞いて怯えていた面もある谷地だったが、いい加減学んできている。

 

彼らはバレーの能力が凄まじいのだ。

まさに化け物染みている。………と言う畏敬の念が現れた表現である、と認識していた。

 

だからこそ、滝ノ上が相手の事をバケモノ、と称して 何だか不安になってしまったのである。

 

 

「谷っちゃんも解ると思うケド……近しい奴でいや、やっぱ一番は日向、かな……? 火神か日向で悩む所ではあるが、より解りやすいって意味じゃやっぱ」

「日向、ですか?」

「おう。……アイツ、いつもどこでもあんな感じ(・・・・・)、だろ? こっちが疲れる勢いで。学校ん中まではオレ知らねーけど。何となく想像つくし」

「あ―――――」

 

 

以前、谷地は日向と相対? した時の感想。

《直射日光を浴び続けた感覚》

と称した。

 

太陽を浴びるのは……即ち日光浴は気持ち良いもの――――と言えるだろう。苦手な人も居るかもしれないが、日光浴は気持ちいい、少なくとも谷地は苦手ではない。

 

 

だけど、物には限度と言うのがあると思うのも動かしがたい事実。

 

 

 

「まだ始まって間もないから決めつける訳じゃねーけど……、日向が体力オバケなら、条善寺(あっち)精神(メンタル)オバケだって感じだな」

「…………………ひぇぇぇぇ!?」

 

 

 

滝ノ上の続く説明を聞いた後、沢山想像を膨らませた谷地は、再び甲高い悲鳴を上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合は続く。

月島のサーブで、西谷がOUT 日向がINした布陣。

ブレイクポイントといきたい所だが、そう簡単にはいかなかった。

 

派手なプレイとはまた違う、正統派な速攻を使ってきた条善寺があっさりと獲り返したから。

 

 

「翔陽、今のバンザイブロック(・・・・・・・・)になってたぞ! 面積広げるのは、(ボール)1つ分以下の間に保った状態でな!」

「くっそーーー!! 次、次は止めるっっ!!」

 

 

まだまだ、ブロックについては甘い所が目立つ日向。

合宿を重ねて、相応に技術を盗めた―――訳ではなく、全て実行するのにはまだ時間がかかりそうだ。

リエーフにガンガン叱ってた黒尾の事を思えば、頭に刷り込まれそうな気もするのだが、日向の場合はやる事成す事、したい事があまりにも多いから。その分だけ時間がかかってしまうのだろう。

 

 

「いや、目の前に来たら、マジでビビるわ~~、あの10番」

「わかるわかる。めっっっちゃ、跳んでんだもん」

 

 

日向の跳躍(ジャンプ)力、その全身のバネには舌を巻く。

点を見事に決めて見せた条善寺高校側も、テンション高く驚いていた。

 

 

そして、テンション高いままに―――。

 

 

「っしゃ~~~! 決めろよーーー!」

「外したら、ジュース奢らすぞーーー!」

「ナイッサー―!」

 

 

二岐のサーブ。

普通のフローターサーブだから、ミスは少ない……と言えるのだが、丁度母畑がミスした後なので、引き摺るか? と思われたが。

 

 

「オレ()、きめーーる!」

「オレ()って、このやろっ! 当てつけか!」

 

 

そんな様子はやっぱり見せない。

 

 

勢いのままに、サーブを打ち――――ネットに当たった。

 

 

【おいおいおーーーーい!】

 

 

と、更にテンションが上がる? ウケ狙い? な場面になるかと思いきや。

 

 

「おっ! ラッキー☆ ネットイン!」

 

 

思い切りいったのが良かったのか、ネットの白帯に跳ね返される事なく、そのまま相手コートに零れ落ちた。

 

 

「んんっっ、がっっ!!」

「東峰さんナイス!!」

「カバー―!!」

 

 

比較的傍にいた東峰が、渾身の回転レシーブ。

西谷のローリングサンダー! とまではいかないし、叫びもしないが、コートに(ボール)を落とさなかったのは見事だ。

 

だが、落とさなかっただけであり、(ボール)はサイドラインを大きく超えて、体育館の壁面に着弾する勢い。

 

 

「おー、今のナイス反応! あのロン毛兄ちゃん、デカイのにスゲー。(……ほんと高校生?)」

 

 

東峰の反応に拍手を送りたくなるが、この(ボール)を繋ぐのは無理だろう、と判断するのは二階で見ていた者達。

 

何せ、二階からの方が解りやすい。かなり高く、それでいて客席まで~とは言わないが、こちら側に迫ってきているのだから。

見送って、条善寺のブレイクになるだろう……と大方の予想をしていたのだが。

 

 

「翔陽!!」

「んッッ!!」

 

 

日向が先か、火神の声が先だったのか。或いは殆ど同時か。

 

 

「「!!? 飛んだ!?」」

 

 

視認・ダッシュ・跳躍の一連の動作を一瞬で熟し、壁面に当たって即失点を拒んだ。

二階からの視点である事と、日向の身長の低さも有り、本当に跳んだ、のではなく飛んだ、と思えてしまう程の跳躍。

 

見事に失点を防いで見せた。

 

 

「ナイス日向!!」

「!! あっ、日向危ない!!」

 

 

日向のダッシュとジャンプ。それが合わされば当然勢いも倍だ。

空中に居る状態でブレーキなんか掛けれる訳もない。その勢いのまま、壁に全身強打コース……と、思わず谷地は目を閉じそうになってしまうが。

 

 

 

「「ア゛!!!」」

 

 

 

此処で、日向の高い身体能力が光る。

壁に激突する前に、空中で体勢を変えて、あろう事か足で壁を捕らえたのだ。

 

ほんの一瞬に過ぎない場面だったが、見ている者は、皆 目に焼き付いた。

壁に足をつけている場面、まるでそれは―――。

 

 

 

【スパイダーマンだーーーーー!!】

 

 

 

狙ってやるならまだしも、この一瞬で、頭で考える隙間もなく身体が反応する、それだけで、これらをやってのけるのは、日向しかいない。

影山がムキになってやってやろう、ってなるかもしれないので、口には出さないが、スパイダーマン場面を見て、目を輝かせるのは火神である。

 

 

「――――!!」

 

 

 

そして、日向なら追いつき、繋ぐであろう事を信じて疑わなかった、西谷が後に続く。

守護神の名に相応しい反応と伸ばした手は、見事に(ボール)を捕らえた。

 

それだけでなく、3手目、ラストの為 確実に相手のコートに返球する様に事前に相手の位置も把握。アンダーハンドサーブの要領で下から掬い上げる様に打ち……。

 

 

 

「―――うしろっっ! 下がれ!!」

 

 

 

ネット際で一連の流れを見ていた照島は、即座に声を出し、指示をするが、最早追いつける訳が無い。

 

エンドラインぎりぎりの位置に着弾した(ボール)は、そのまま2度、3度と転がっていき……軈てコートの壁に当たって止まった所で。

 

 

 

【うおおおおおおお!! 返した――――っっ!!】

 

 

 

大歓声が沸きに湧き踊る。

捕られたと思った矢先の渾身の粘り。

 

それは、条善寺高校のトリッキーなプレイにも負けずと劣らない程の驚きとどよめきを見せていた。

 

 

 

「ははっっ、そうだったな。運動能力が高くて、何やらかしてくるかわかんない奴って、烏野(ウチ)にもいたよな!」

 

 

 

条善寺の事を、運動神経が高いサッカー部や野球部みたい、と菅原は称していた。

だけど、失念していた。

間違いなくバレーなのだが、その枠に収まりきらない程の選手が、自分達の所にもいたと言う事を。

 

 

 

「うおおお!! ナイスカバー――! のやっ! 日向ぁぁぁ!!」

 

 

田中もガッツポーズを見せて、大きな声を上げる。

プレイの1つ1つを目に焼き付け、自分ならこうする、自分ならどうする、自分なら……とコートの中で戦っているつもりで見続けていたから。

 

あの一連の粘りも……、思わず身体が動いてしまいそうだったのを懸命に堪える程、だった。

だからこそ、見事に返して見せた2人に人一倍、いや二倍、三倍の声を送ったのである。

 

 

 

「ぜってー負けてねぇ。精神面も身体能力も。……さぁ、どっちが最後まで遊び倒せるか(・・・・・・)。勝負だな」

 

 

 

烏養も力強く、拳を握り締めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ~~ん……、やっぱ相変わらず気持ち悪いなぁ、アイツ(・・・)

「………?」

 

 

観客席で、烏野vs条善寺の戦況を見つめているのは、つい先ほど試合を終えたばかりの伊達工。

青根も無口、寡黙ながらしっかりと見ていて……、大体は二口の意見には同意するのだが、今回に限っては意味が解らない、と言わんばかりな眼光を飛ばす。

 

 

知らない人が見れば、普通に至近距離からガン飛ばしてる様にしか見えない場面、である。

 

 

「11番だよ、11番。……火神、か。確かに今のはスゲーし、ビックリなんだけど、何でそこで笑うんだ? って感じで。ポイントズレてね? って それにウチとやる前の笑顔(ヤツ)と同じ感じがしたな~~」

「………………」

 

 

言っている相手が火神である事、そして笑顔だった事は青根も上から見ているので、否定はしない。……が、流石に。

 

 

「いや、気持ち悪いはヒドイだろ、流石に」

 

 

小原が二口にモノ申す。

物凄い優等生である、と言う事は 青葉城西戦でも解っている事だし、チラチラと見える1年を纏めてる姿。

 

二口が言う単語は、全くそぐわない。

 

 

「ま、本気でそう思ってるってワケじゃねーんだけど……。アイツ見てると、烏野の【トンデモ技】よりず~~っと厄介だ、って思っちまうんだよ。………アレより厄介とか、最早キモチワルイで良くね?」

「いや、………………まぁ」

 

 

日向と影山、9番10番の2人より厄介、と言うのはただの二口の感想に過ぎない。

理由も何も無い、本人が居ない所とはいえ単なる暴言。

 

でも、もしも――二口が言う様に、あのトンデモナイ速攻、変人速攻より厄介だと言われたら………。

 

 

 

「いや、でもやっぱ キモチワルイは無いわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3-3の同点の場面。

サーブ権が回ってきたのは影山。

 

 

「いけっ!! 殺人サーブ!!」

「ナイッサー!!」

 

 

「―――――!」

 

 

影山は、当然燃えている。

条善寺と言うこれまでとはタイプの違う強さを持つチームと対戦している事もそうだが、何より、この短い攻防で刺激になった事が多かった。

 

火神のドシャットから始まり、日向のあのフォロー、勿論東峰や西谷、他の全員の気合の入り方。全てが影山の闘志に火をつける。

 

何より、負けてたまるか、という思い。今前衛に居る男に。……影山の次にサーブを打つ男に負けてたまるか、と。

 

 

初っ端のサーブだったが、全身全霊を込めて、影山は一切の迷い無く打ち放った。

 

サーブトスの時の指の掛かり具合から、高さ調節、助走から跳躍まで全てがイメージ通り。

 

 

轟音を響かせながら条善寺コートへと突き刺さる。

 

 

 

日向は、自分で殺人サーブだと煽っていた癖に、頭上をそのサーブが超える刹那、全身を震えさせていたのも定例であった。

 

 

 

「うおっっほぁぁっ!!?」

 

 

サービスエースの手応え―――と一瞬思ったが、狙いが、コースが悪かった。

如何に豪速サーブだったとしても、レシーバ―の正面に打てば拾われてしまう。

東山は、強烈なサーブに思わず変な声が出てしまったが、落とす事なく上げて見せた。

 

 

 

「上げた!? 一本目で影山君のサーブを!?」

「―――4強だからな。基本は当然出来てる、か。でも、レシーブは長い」

 

 

烏野側に入ってくるか否か、際どい場面だった。

 

 

「(……レシーブがどういう形だろうと、上がりさえすればどうとでも出来る。アイツらは全員がそう思ってるし)……実際に出来るだけの力がある」

 

 

影山のサーブ。

確かに強烈で凶悪なモノだ。あれがより高精度、精密になれば、手の付けようがないとさえ思えてしまう代物。

だが、それでも身体の何処かに当てる。……(ボール)をコートに落とさない様にしさえすれば、活路は開ける、と断言するのは条善寺高校監督の穴原。

 

条善寺のプレイスタイルを変え、ここまで押し上げた若き名将と呼ぶに相応しい敏腕だ。

 

 

そのまま触らなければ、烏野側に入ってくる勢いではあるが、如何せん高さが低い。跳べば十分届く距離。

手の届く範囲内であれば、出来る―――と言わんばかりに、手を伸ばし跳躍したのはセッターの二岐。

 

 

「(こっちを見てない。―――ツーより、ワンハンドの可能性)」

 

 

二岐の動きをはっきり、じっくりと確認したのは火神だ。

ブロックに向かうも間に合わない距離だったから、冷静にレシーブ側に回り……。

 

 

「翔陽! ステイ!! リードブロック!!」

「ッ―――!」

 

 

(ボール)に今にも跳び付こうと構えた日向にワンクッションの呼吸を与える指示を出した。

此処から、ツーに打ち換える可能性も正直否定できないかもしれないが、それでも直感を信じて火神は声を掛けた。

 

結果は―――。

 

 

 

 

「!! こっち、だぁぁぁぁ―――!!」

 

 

 

二岐は、ワンハンドトスでレフトに来ていた沼尻に上げた。

沼尻も、迷う事なく、自分が打つのだと思いながら入ってきており、完璧なタイミング―――……だったが。

 

 

「うおッッ!?(急に視界に入ってきやがった!?)」

 

 

リードブロック、(ボール)を見てからでも十分追いつけるだけのバネと速度を持つ日向。最高到達点にまで達する速度も早く、見えない位置から急に出てくるので、それだけで相手にはプレッシャーになる。

 

 

バチンッ!! と日向のブロックが、相手の攻撃を阻む―――まではいかないが、威力を削ぐ事には成功した。

 

 

「澤村さん!」

「任せろ!」

 

 

この読みにくい試合展開でも切替が早い、或いはこうなる事もしっかりと予想出来ていた澤村。

日向のブロックで軌道が変わった(ボール)なのに、冷静に、無駄がなく、最短最適の動きで処理。

 

スパイクの威力を完全に殺してあげて見せた。

 

 

 

「大地さんナイスレシーブ!!」

「大地ナイスレシーブ!!」

「「「ナイスレシーブ!!」」」

 

 

 

烏野のチャンスボールに場が一斉に湧く。

 

日向が前衛、(ボール)が上がった位置も完璧、条件が全て整った、と言わんばかりの雰囲気。

 

 

流れる様な動きで落下点を見極め入り込み―――一糸乱れぬ姿勢で跳躍。

それに応える様に、日向も動き出した。

 

全力の助走、全力の跳躍、そしてしっかりと目を見開いて―――……影山から放たれた超高速トス。……打点で止まる神業トス。

目を見開き、日向は威力が死んで止まった(ボール)をフルスイング。

 

 

条善寺は一切動く事が出来なかった。

前衛は勿論、レシーバーもただただ、まるで魅入られたかの様に動けず、気付いた時には。

 

 

 

【キターーー!! 10番の超速攻――――ッッ!!】

 

 

 

もう名物になったかの様に、烏野の代名詞になったかの様に、会場が沸きに沸いた後だった。

 

流石の条善寺も驚きを隠す事が出来ない―――が、それ以上にテンションが上がる。

見た事もない攻撃。話に聞いていただけだが、体感するのと聞くのとでは訳が違う。

 

 

「今のがウワサの速攻か!?」

「スゲーーな! かんっぜんに動けなかったわ!!」

「うはーーー! かっけかっけーーー! 無茶苦茶な速攻だ!」

 

 

惜しみない称讃を、日向に影山に送っていた。

生憎、日向は日向で、影山のハイタッチ待ち……と言うより要求をしていたので、その称讃は耳に入らず。

 

 

「ヘイ! 影山ヘーーイ!!」

「…………」

 

 

もし入っていたら、更に喜ぶ所だ。

取り合えず、まだ試合も序盤で始まったばかりなのに、浮かれすぎてて喧しい日向に全力のハイタッチを見舞う。

 

バチーーン! っと。

 

 

「アダーーーッ!!」

「ははは。飛雄、翔陽。ナイス!」

 

遅れながら、火神が軽くハイタッチ。まず影山から。

 

 

「って、なんでオレだけ、張り手なんだよっっ!!」

 

 

日向が文句垂れていたが、ハイタッチはハイタッチなので、そこは何も言わずにスルーしたのだった。

 

 

 

「いや、オレも後ろから見えたんだが、声出すの遅れたよ。サンキュー火神」

「半分は直感でしたが、上手く嵌って良かったです」

 

 

今度は澤村と火神が軽くタッチ。

相手のワンハンドを読み、日向にリードブロックに切り替える様に指示した時の事だろう。

 

澤村も、大体読む事が後ろからでも出来た様なのだが、比較的火神の方が近かった事もあって、先に火神が言ってくれた形だ。おかげでレシーブに集中する事が出来たのだ。

 

 

「よっしゃ。ここで一回落ち着いていくぞ。互いの声かけも忘れない様に。条善寺(向こう)の動きは、確かにこれまでのどのチームとも違うタイプだ、色々スゲーけど、(ボール)を消してくるワケじゃ無い。日向・影山の変人速攻みたいな早い攻撃が来るわけでもない。落ち着いて処理してくべ」

【アス!!】

「うえーーす!!」

「おう!」

 

 

軽く円陣を組み、配置についた。

 

 

 

その光景を上から見ていた滝ノ上は、認識を改める。

 

 

「うーむ、今まで火神の事ばっか見てて、かがみんかがみん、っつってて、おとーさん、って言って……、まぁ、見た通り、見て解るくらい保護者(おとーさん)なんだが、贔屓し過ぎてたな。澤村の事全然見れてなかった………」

「(かがみん……)あ、それって 日向の最強の囮! みたいな感じでですか?」

「はっはっはっは! 確かにそうかもな! ……いや、うん。そこまで見てなかったって訳でもないが、やっぱ認識改めるわ。澤村も十分チーム(アイツら)のおとーさんポジだ。3年で皆よりも長く引っ張ってきた、って経験があるんだろうけど……、高校生には見えん」

 

 

火神の事ばかり弄ってばかりだったから、盲点だった―――と言えば澤村に失礼になるかもしれないが、あの統率性や1つに纏める姿を見れば、まさに一目瞭然だ。

 

 

「学校とかでも優等生だろうなぁ、やっぱ。その辺どんな感じ? 谷っちゃん」

「えーっと、火神君は、私と同じクラスでその―――……色々と揶揄われる事もあります。色々説明したり、否定したりもして、移動授業に遅れちゃって怒られた事が何度か」

「へ?」

「後、澤村さんは、この前バスケ部の主将さんと昼ごはん争奪戦になった時に、勢い余って非常ベルならして、先生に怒られてました」

 

 

バレーの外の時間を共有する事が出来ない滝ノ上にとっては、実に新鮮な情報だ。

正直想像するのが難しかったかもしれないが、一度想像して、怒られる場面まで脳裏に描くと……。

 

 

「ぷはっっ! なんだソレ。ソレ聞くと何だか安心するな!」

 

 

思いっきり吹き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っしゃーーー! 誠也ナイッサーー!」

「ナイッサー!」

「火神ナイッサー!!」

 

 

 

試合は動き、続いて火神のサーブ権。

烏野のビッグサーバーが二連発……と言うのは事前情報で解ってはいるが、気が滅入る……と思うのは外の意見。

 

 

「うっはーーー、やっべーのが来るぞ、集中しろーーー、声あげろーーー!」

【うぇーーーい!!】

 

 

条善寺は、いつも通り。

ただ兎に角 (ボール)を上げる事。どれ程のモノが来ようとも、上に上げる。

それだけに集中する。

上げさえすれば、繋ぐ事が出来ると言う自信に満ちている様だ。

 

 

 

 

 

 

「……烏野11番、火神誠也。色んな選手を見てきたが………、コイツもまた突然変異(・・・・)の類だ、な。それも突き抜けて……」

 

 

腕を組み直して、苦笑いするのは穴原。

確かに、一見すれば一番派手なプレイと言って良い、日向・影山の変人速攻に目が向く事だろう。

 

だが―――、穴原の評価は断然火神だった。

 

 

「(ありとあらゆるモノ。事、バレーをする為に必要な全てが、あの身体に凝縮(・・)されている。……まだ高校生なのに、こんな感覚がするのは初めてだ)」

 

 

宮城県。

バレーボールのレベルは贔屓目に見ても高い方だ。

 

王者・白鳥沢も嘗ては全国制覇も有り、現在はベスト8に必ず食い込む力を持っている。

それを追う他のチームも、無視できるようなチームはいない。

白鳥沢にとって、県予選は勝って当たり前、と呼ばれているかもしれないが、特に今年はどの試合も当たり前(・・・・)と呼べる試合は無い筈だ。

 

青葉城西が、あの王者白鳥沢を最後の最後まで苦しめた、後一歩まで迫った事で、白鳥沢にも火が付いただろう。

 

様々な強豪チーム。

特筆すべき選手も見てきた。

 

 

白鳥沢の牛島

青葉城西の及川

 

 

宮城の頂点の舞台でしのぎを削った選手達を含めて、数多のデータを並べた中で……特に目を見張るのが、この烏野の火神と言う選手だった。

 

 

「(一朝一夕で……、たった15年程の時で、詰め込める量じゃない程のモノ。天才、と言えばそうなのかもしれないが……)」

 

 

ただただ、今思うのは1つだ。

 

目を離す事が出来ない。一挙一動をこの目に焼き付けて置く必要がある、と直感する穴原だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、火神のサーブ。

 

 

「――――最初は、おもいっきり……!!」

 

 

エンドラインから離れて6歩。

スパイクサーブの歩数。

以前、日向にも言っていた事を自分でも実践する。

 

初っ端のサーブだ。景気よく、僅かでも固さを解す為に、思いっきり打つ。だからと言って精度を疎かにする訳ではない。思いっきりを優先させるが、景気よくホームランを打つつもりは毛頭ない。

 

 

 

 

「ッ―――!! 来るぞーーーい! 気ぃ入れろーー!!」

 

 

 

 

 

照島は、打ってくる前から 目に見えない圧力の様なモノを、感じ取ったのか。テンションは高くとも、最大限の警戒を仲間たちに呼びかけた。

 

 

 

 

 

―――全力で……遊ぶ(・・)! 退屈なんて、させない!

 

 

 

 

ドンッ! と放たれたスパイクサーブは、轟音を纏い、空気を裂き、弾丸の如き超回転でコートに放たれた。

如何に強いサーブと言えど、身体に当てれば何とかなる。何とかしてみせる! が心情であり、実際にするだけの力量を持つ条善寺―――だが。

 

 

完全な(コーナー)部分に打たれる一撃ともなれば話は別だ。

 

 

 

 

 

「アウ―――――トォォォッ!!!」

 

 

 

 

 

東山がアウトだ、と主張し、叫ぶが……、(ボール)の着弾点は(アウト)ではなく(イン)

 

線審の旗が、それを示している。

 

 

そして、そのままバウンドして(ボール)は更に後方の壁に激突した。

 

 

 

一呼吸置いた後。

 

 

 

「ん―――!! ノ―――タッチエーース!!」

「やったーーー!! やったーーー!! ナイスサーブ!! 火神くん!!!」

 

 

 

 

強烈な一撃、今試合初のサービスエースを祝福する様に、場が声援で包まれる。

 

 

 

「っしゃあああ!! ナイッサーだ! 火神ぃ!!」

「ナイスサ―ブッッ!!」

 

 

「っしゃあああ!! 火神―――!!」

「ナイスだぁぁ!! んで、影山ァァァ、顔こええぞ!!!」

「おお、マジだマジ! キレてる?」

「オレも負けねぇ、って顔だな、アレ!」

 

 

烏野ベンチも大盛り上がり。

最初のサーブポイントは、ノータッチ。そして火神が取った。

 

影山か東峰か火神か、その3人だろう、とそれとなく考えていた烏養だったが、大本命でもあったのが火神だ。

 

そして、田中が影山の顔が怖い、と周りから見れば場違いな発言に聞こえるが、これもまた、恒例行事の1つ、である。

 

 

「いつもの事じゃん。騒ぎ過ぎ」

「ツッキー淡泊っ!」

 

 

月島は月島で、淡泊ではあるが、ある意味これは火神の事を信じているからこそ、決めても全然不思議じゃない、と思っているからでもある。

山口はそれを解っているのか解っていないのか、ただただ笑いながら声を上げていた。

 

 

 

 

「―――――ナイス」

「だから、もっとナイスっぽい顔しろよ、影山! 誠也ナイスサー!! 超必殺技、炸裂~~!!!」

「おう! 会心のヒットだ。最後の最後まで、(ボール)が見えてた。……調子は間違いなく絶好調!」

 

 

火神は、日向・影山と手を合わせる。

最初のブロックの時もそうだが、今日も間違いなく絶好調だと言うのが解った。

 

 

「ありゃコースがエグい。まさに鬼サーブだぜ! 誠也!! 練習ん時、あのコース打って見てくれ!」

「はっはっは! やっぱ、やってくれるよなぁ、火神! ナイス!」

「旭は、もっと負けん気があれ。負けん気もて。ほれ、影山くらい」

「あ、東峰さんが影山みたいに睨んできたらオレ………」

「ええええ!! ひ、引かないでくれ火神‼ 睨んだりしない! 絶対しないから!」

 

 

揉みくちゃにされながらも、東峰が影山の様に迫ってきたら、と思うと汗が冷たくなりそうだ……。

 

東峰は慌てていた。

勿論、冗談の類ではあるが。

 

 

 

「ううっっっっほほーーーい!! ヤベーーヤベーーなんだあれ!?? ウシワカ級!??」

「いやいや、威力って言うより、打ってきた場所がヤベーーよ!! あんな場所狙われたら、獲れねーーって!!」

「んでも、取らねぇと始まらないぞ!! 体当たりしてでも拾おうぜ!!」

「っしゃああ!! んじゃ、最初にあれ取ったヤツ、全員からジュース奢るって事でいってみよう!」

 

 

渾身の、会心のサーブを前にしても、条善寺は揺るがない。

寧ろ、アソビと称するやり取りの中に、闘志が加わった感覚だ。

 

我こそが、次は上げる、と言わんばかり。後ろ向きな選手は1人としていない。

 

そして自然と交錯する火神の視線と照島の視線。

 

 

 

 

 

 

 

 

【―――退屈、してませんよね?】

 

【おうよ! まだまだアガってくぜ!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

この一瞬、2人は目だけで会話をした―――様な気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 





火神君、照島君と目で会話しちゃったら、潔子先輩が…………( ´艸`)

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