「っしゃ~~! 1本!」
「おーす! 1本だ~~!」
「おっしゃあ!! 一発決めるぜ!!」
テンションMAXを持続し続けるのも、相当難しい。
勿論、そのテンションに任せて動く体力面もそうだが、その本質は精神面にあると言っても過言ではないだろう。
調子の良し悪し、と言うのは誰にでも存在するものであり、それもプレイに繋がってくる。
その繋がりの中で、ミスに繋がれば自責の念が出てくると言うのが一般的であり、その後プレイに影響する事だろう。
それらを軽減する為に よく声を掛け合い、平常心を心掛けようとする、が、それが理想であり、そう上手くいかない事だってある。
寧ろ、そちらの方が多いかもしれない。
選手全員が、長年苦楽を共にしてきた幼馴染の様な間柄なら兎も角、高校から始まった人間関係、と言うのも有る筈だから。
だが、条善寺と言うチームは、何だかその綻びさえ見えない気がする。
「ああ゛!!」
母畑のサーブミス。
ミートが悪く、上手く当たらなかった様だ。
ネットを超えず、白帯に当たって自陣コートに落ちてしまった。
「オイオイオーーイ!」
「なーにしてんだーー! イージーサーブだろーーー?」
「飯食ってきたんかーーー!? ちゃんと寝てきたか~~~!?」
「わーーー! すまん、すまんて!」
ウェーイ、とまた陽気な掛け声がコート内に木霊する。
無論、反省するべき所は反省しているし、次からは修正する、修正するだけの能力も持ち合わせているだろう。
修正する為に、邪魔になったり枷となったりしてしまうのが
「……やっぱ、スゲーな。つーか、アレ最後まで持続すんのか? するとしたら、ある意味向こうもバケモンだ」
改めて条善寺を見て苦笑いする滝ノ上。
第一印象
「ば、ばけもの、ですかっ!??」
「おっと、わりーわりー。ヘンなつもりでいったんじゃないのよ、谷っちゃん」
滝ノ上のバケモノ発言に目を見開いてしまう谷地。
よく影山や火神、そして日向の事もバケモノ!! と呼ぶ声は上がってきて、谷地の耳にも届いている。
最初こそ、これまた色んな意味で警戒心MAXだった。
バケモノ、と聞いて怯えていた面もある谷地だったが、いい加減学んできている。
彼らはバレーの能力が凄まじいのだ。
まさに化け物染みている。………と言う畏敬の念が現れた表現である、と認識していた。
だからこそ、滝ノ上が相手の事をバケモノ、と称して 何だか不安になってしまったのである。
「谷っちゃんも解ると思うケド……近しい奴でいや、やっぱ一番は日向、かな……? 火神か日向で悩む所ではあるが、より解りやすいって意味じゃやっぱ」
「日向、ですか?」
「おう。……アイツ、いつもどこでも
「あ―――――」
以前、谷地は日向と相対? した時の感想。
《直射日光を浴び続けた感覚》
と称した。
太陽を浴びるのは……即ち日光浴は気持ち良いもの――――と言えるだろう。苦手な人も居るかもしれないが、日光浴は気持ちいい、少なくとも谷地は苦手ではない。
だけど、物には限度と言うのがあると思うのも動かしがたい事実。
「まだ始まって間もないから決めつける訳じゃねーけど……、日向が体力オバケなら、
「…………………ひぇぇぇぇ!?」
滝ノ上の続く説明を聞いた後、沢山想像を膨らませた谷地は、再び甲高い悲鳴を上げるのだった。
そして、試合は続く。
月島のサーブで、西谷がOUT 日向がINした布陣。
ブレイクポイントといきたい所だが、そう簡単にはいかなかった。
派手なプレイとはまた違う、正統派な速攻を使ってきた条善寺があっさりと獲り返したから。
「翔陽、今の
「くっそーーー!! 次、次は止めるっっ!!」
まだまだ、ブロックについては甘い所が目立つ日向。
合宿を重ねて、相応に技術を盗めた―――訳ではなく、全て実行するのにはまだ時間がかかりそうだ。
リエーフにガンガン叱ってた黒尾の事を思えば、頭に刷り込まれそうな気もするのだが、日向の場合はやる事成す事、したい事があまりにも多いから。その分だけ時間がかかってしまうのだろう。
「いや、目の前に来たら、マジでビビるわ~~、あの10番」
「わかるわかる。めっっっちゃ、跳んでんだもん」
日向の
点を見事に決めて見せた条善寺高校側も、テンション高く驚いていた。
そして、テンション高いままに―――。
「っしゃ~~~! 決めろよーーー!」
「外したら、ジュース奢らすぞーーー!」
「ナイッサー―!」
二岐のサーブ。
普通のフローターサーブだから、ミスは少ない……と言えるのだが、丁度母畑がミスした後なので、引き摺るか? と思われたが。
「オレ
「オレ
そんな様子はやっぱり見せない。
勢いのままに、サーブを打ち――――ネットに当たった。
【おいおいおーーーーい!】
と、更にテンションが上がる? ウケ狙い? な場面になるかと思いきや。
「おっ! ラッキー☆ ネットイン!」
思い切りいったのが良かったのか、ネットの白帯に跳ね返される事なく、そのまま相手コートに零れ落ちた。
「んんっっ、がっっ!!」
「東峰さんナイス!!」
「カバー―!!」
比較的傍にいた東峰が、渾身の回転レシーブ。
西谷のローリングサンダー! とまではいかないし、叫びもしないが、コートに
だが、落とさなかっただけであり、
「おー、今のナイス反応! あのロン毛兄ちゃん、デカイのにスゲー。(……ほんと高校生?)」
東峰の反応に拍手を送りたくなるが、この
何せ、二階からの方が解りやすい。かなり高く、それでいて客席まで~とは言わないが、こちら側に迫ってきているのだから。
見送って、条善寺のブレイクになるだろう……と大方の予想をしていたのだが。
「翔陽!!」
「んッッ!!」
日向が先か、火神の声が先だったのか。或いは殆ど同時か。
「「!!? 飛んだ!?」」
視認・ダッシュ・跳躍の一連の動作を一瞬で熟し、壁面に当たって即失点を拒んだ。
二階からの視点である事と、日向の身長の低さも有り、本当に跳んだ、のではなく飛んだ、と思えてしまう程の跳躍。
見事に失点を防いで見せた。
「ナイス日向!!」
「!! あっ、日向危ない!!」
日向のダッシュとジャンプ。それが合わされば当然勢いも倍だ。
空中に居る状態でブレーキなんか掛けれる訳もない。その勢いのまま、壁に全身強打コース……と、思わず谷地は目を閉じそうになってしまうが。
「「ア゛!!!」」
此処で、日向の高い身体能力が光る。
壁に激突する前に、空中で体勢を変えて、あろう事か足で壁を捕らえたのだ。
ほんの一瞬に過ぎない場面だったが、見ている者は、皆 目に焼き付いた。
壁に足をつけている場面、まるでそれは―――。
【スパイダーマンだーーーーー!!】
狙ってやるならまだしも、この一瞬で、頭で考える隙間もなく身体が反応する、それだけで、これらをやってのけるのは、日向しかいない。
影山がムキになってやってやろう、ってなるかもしれないので、口には出さないが、スパイダーマン場面を見て、目を輝かせるのは火神である。
「――――!!」
そして、日向なら追いつき、繋ぐであろう事を信じて疑わなかった、西谷が後に続く。
守護神の名に相応しい反応と伸ばした手は、見事に
それだけでなく、3手目、ラストの為 確実に相手のコートに返球する様に事前に相手の位置も把握。アンダーハンドサーブの要領で下から掬い上げる様に打ち……。
「―――うしろっっ! 下がれ!!」
ネット際で一連の流れを見ていた照島は、即座に声を出し、指示をするが、最早追いつける訳が無い。
エンドラインぎりぎりの位置に着弾した
【うおおおおおおお!! 返した――――っっ!!】
大歓声が沸きに湧き踊る。
捕られたと思った矢先の渾身の粘り。
それは、条善寺高校のトリッキーなプレイにも負けずと劣らない程の驚きとどよめきを見せていた。
「ははっっ、そうだったな。運動能力が高くて、何やらかしてくるかわかんない奴って、
条善寺の事を、運動神経が高いサッカー部や野球部みたい、と菅原は称していた。
だけど、失念していた。
間違いなくバレーなのだが、その枠に収まりきらない程の選手が、自分達の所にもいたと言う事を。
「うおおお!! ナイスカバー――! のやっ! 日向ぁぁぁ!!」
田中もガッツポーズを見せて、大きな声を上げる。
プレイの1つ1つを目に焼き付け、自分ならこうする、自分ならどうする、自分なら……とコートの中で戦っているつもりで見続けていたから。
あの一連の粘りも……、思わず身体が動いてしまいそうだったのを懸命に堪える程、だった。
だからこそ、見事に返して見せた2人に人一倍、いや二倍、三倍の声を送ったのである。
「ぜってー負けてねぇ。精神面も身体能力も。……さぁ、どっちが最後まで
烏養も力強く、拳を握り締めていたのだった。
「ふ~~ん……、やっぱ相変わらず気持ち悪いなぁ、
「………?」
観客席で、烏野vs条善寺の戦況を見つめているのは、つい先ほど試合を終えたばかりの伊達工。
青根も無口、寡黙ながらしっかりと見ていて……、大体は二口の意見には同意するのだが、今回に限っては意味が解らない、と言わんばかりな眼光を飛ばす。
知らない人が見れば、普通に至近距離からガン飛ばしてる様にしか見えない場面、である。
「11番だよ、11番。……火神、か。確かに今のはスゲーし、ビックリなんだけど、何でそこで笑うんだ? って感じで。ポイントズレてね? って それにウチとやる前の
「………………」
言っている相手が火神である事、そして笑顔だった事は青根も上から見ているので、否定はしない。……が、流石に。
「いや、気持ち悪いはヒドイだろ、流石に」
小原が二口にモノ申す。
物凄い優等生である、と言う事は 青葉城西戦でも解っている事だし、チラチラと見える1年を纏めてる姿。
二口が言う単語は、全くそぐわない。
「ま、本気でそう思ってるってワケじゃねーんだけど……。アイツ見てると、烏野の【トンデモ技】よりず~~っと厄介だ、って思っちまうんだよ。………アレより厄介とか、最早キモチワルイで良くね?」
「いや、………………まぁ」
日向と影山、9番10番の2人より厄介、と言うのはただの二口の感想に過ぎない。
理由も何も無い、本人が居ない所とはいえ単なる暴言。
でも、もしも――二口が言う様に、あのトンデモナイ速攻、変人速攻より厄介だと言われたら………。
「いや、でもやっぱ キモチワルイは無いわ」
3-3の同点の場面。
サーブ権が回ってきたのは影山。
「いけっ!! 殺人サーブ!!」
「ナイッサー!!」
「―――――!」
影山は、当然燃えている。
条善寺と言うこれまでとはタイプの違う強さを持つチームと対戦している事もそうだが、何より、この短い攻防で刺激になった事が多かった。
火神のドシャットから始まり、日向のあのフォロー、勿論東峰や西谷、他の全員の気合の入り方。全てが影山の闘志に火をつける。
何より、負けてたまるか、という思い。今前衛に居る男に。……影山の次にサーブを打つ男に負けてたまるか、と。
初っ端のサーブだったが、全身全霊を込めて、影山は一切の迷い無く打ち放った。
サーブトスの時の指の掛かり具合から、高さ調節、助走から跳躍まで全てがイメージ通り。
轟音を響かせながら条善寺コートへと突き刺さる。
日向は、自分で殺人サーブだと煽っていた癖に、頭上をそのサーブが超える刹那、全身を震えさせていたのも定例であった。
「うおっっほぁぁっ!!?」
サービスエースの手応え―――と一瞬思ったが、狙いが、コースが悪かった。
如何に豪速サーブだったとしても、レシーバ―の正面に打てば拾われてしまう。
東山は、強烈なサーブに思わず変な声が出てしまったが、落とす事なく上げて見せた。
「上げた!? 一本目で影山君のサーブを!?」
「―――4強だからな。基本は当然出来てる、か。でも、レシーブは長い」
烏野側に入ってくるか否か、際どい場面だった。
「(……レシーブがどういう形だろうと、上がりさえすればどうとでも出来る。アイツらは全員がそう思ってるし)……実際に出来るだけの力がある」
影山のサーブ。
確かに強烈で凶悪なモノだ。あれがより高精度、精密になれば、手の付けようがないとさえ思えてしまう代物。
だが、それでも身体の何処かに当てる。……
条善寺のプレイスタイルを変え、ここまで押し上げた若き名将と呼ぶに相応しい敏腕だ。
そのまま触らなければ、烏野側に入ってくる勢いではあるが、如何せん高さが低い。跳べば十分届く距離。
手の届く範囲内であれば、出来る―――と言わんばかりに、手を伸ばし跳躍したのはセッターの二岐。
「(こっちを見てない。―――ツーより、ワンハンドの可能性)」
二岐の動きをはっきり、じっくりと確認したのは火神だ。
ブロックに向かうも間に合わない距離だったから、冷静にレシーブ側に回り……。
「翔陽! ステイ!! リードブロック!!」
「ッ―――!」
此処から、ツーに打ち換える可能性も正直否定できないかもしれないが、それでも直感を信じて火神は声を掛けた。
結果は―――。
「!! こっち、だぁぁぁぁ―――!!」
二岐は、ワンハンドトスでレフトに来ていた沼尻に上げた。
沼尻も、迷う事なく、自分が打つのだと思いながら入ってきており、完璧なタイミング―――……だったが。
「うおッッ!?(急に視界に入ってきやがった!?)」
リードブロック、
バチンッ!! と日向のブロックが、相手の攻撃を阻む―――まではいかないが、威力を削ぐ事には成功した。
「澤村さん!」
「任せろ!」
この読みにくい試合展開でも切替が早い、或いはこうなる事もしっかりと予想出来ていた澤村。
日向のブロックで軌道が変わった
スパイクの威力を完全に殺してあげて見せた。
「大地さんナイスレシーブ!!」
「大地ナイスレシーブ!!」
「「「ナイスレシーブ!!」」」
烏野のチャンスボールに場が一斉に湧く。
日向が前衛、
流れる様な動きで落下点を見極め入り込み―――一糸乱れぬ姿勢で跳躍。
それに応える様に、日向も動き出した。
全力の助走、全力の跳躍、そしてしっかりと目を見開いて―――……影山から放たれた超高速トス。……打点で止まる神業トス。
目を見開き、日向は威力が死んで止まった
条善寺は一切動く事が出来なかった。
前衛は勿論、レシーバーもただただ、まるで魅入られたかの様に動けず、気付いた時には。
【キターーー!! 10番の超速攻――――ッッ!!】
もう名物になったかの様に、烏野の代名詞になったかの様に、会場が沸きに沸いた後だった。
流石の条善寺も驚きを隠す事が出来ない―――が、それ以上にテンションが上がる。
見た事もない攻撃。話に聞いていただけだが、体感するのと聞くのとでは訳が違う。
「今のがウワサの速攻か!?」
「スゲーーな! かんっぜんに動けなかったわ!!」
「うはーーー! かっけかっけーーー! 無茶苦茶な速攻だ!」
惜しみない称讃を、日向に影山に送っていた。
生憎、日向は日向で、影山のハイタッチ待ち……と言うより要求をしていたので、その称讃は耳に入らず。
「ヘイ! 影山ヘーーイ!!」
「…………」
もし入っていたら、更に喜ぶ所だ。
取り合えず、まだ試合も序盤で始まったばかりなのに、浮かれすぎてて喧しい日向に全力のハイタッチを見舞う。
バチーーン! っと。
「アダーーーッ!!」
「ははは。飛雄、翔陽。ナイス!」
遅れながら、火神が軽くハイタッチ。まず影山から。
「って、なんでオレだけ、張り手なんだよっっ!!」
日向が文句垂れていたが、ハイタッチはハイタッチなので、そこは何も言わずにスルーしたのだった。
「いや、オレも後ろから見えたんだが、声出すの遅れたよ。サンキュー火神」
「半分は直感でしたが、上手く嵌って良かったです」
今度は澤村と火神が軽くタッチ。
相手のワンハンドを読み、日向にリードブロックに切り替える様に指示した時の事だろう。
澤村も、大体読む事が後ろからでも出来た様なのだが、比較的火神の方が近かった事もあって、先に火神が言ってくれた形だ。おかげでレシーブに集中する事が出来たのだ。
「よっしゃ。ここで一回落ち着いていくぞ。互いの声かけも忘れない様に。
【アス!!】
「うえーーす!!」
「おう!」
軽く円陣を組み、配置についた。
その光景を上から見ていた滝ノ上は、認識を改める。
「うーむ、今まで火神の事ばっか見てて、かがみんかがみん、っつってて、おとーさん、って言って……、まぁ、見た通り、見て解るくらい
「(かがみん……)あ、それって 日向の最強の囮! みたいな感じでですか?」
「はっはっはっは! 確かにそうかもな! ……いや、うん。そこまで見てなかったって訳でもないが、やっぱ認識改めるわ。澤村も十分
火神の事ばかり弄ってばかりだったから、盲点だった―――と言えば澤村に失礼になるかもしれないが、あの統率性や1つに纏める姿を見れば、まさに一目瞭然だ。
「学校とかでも優等生だろうなぁ、やっぱ。その辺どんな感じ? 谷っちゃん」
「えーっと、火神君は、私と同じクラスでその―――……色々と揶揄われる事もあります。色々説明したり、否定したりもして、移動授業に遅れちゃって怒られた事が何度か」
「へ?」
「後、澤村さんは、この前バスケ部の主将さんと昼ごはん争奪戦になった時に、勢い余って非常ベルならして、先生に怒られてました」
バレーの外の時間を共有する事が出来ない滝ノ上にとっては、実に新鮮な情報だ。
正直想像するのが難しかったかもしれないが、一度想像して、怒られる場面まで脳裏に描くと……。
「ぷはっっ! なんだソレ。ソレ聞くと何だか安心するな!」
思いっきり吹き出すのだった。
「っしゃーーー! 誠也ナイッサーー!」
「ナイッサー!」
「火神ナイッサー!!」
試合は動き、続いて火神のサーブ権。
烏野のビッグサーバーが二連発……と言うのは事前情報で解ってはいるが、気が滅入る……と思うのは外の意見。
「うっはーーー、やっべーのが来るぞ、集中しろーーー、声あげろーーー!」
【うぇーーーい!!】
条善寺は、いつも通り。
ただ兎に角
それだけに集中する。
上げさえすれば、繋ぐ事が出来ると言う自信に満ちている様だ。
「……烏野11番、火神誠也。色んな選手を見てきたが………、コイツもまた
腕を組み直して、苦笑いするのは穴原。
確かに、一見すれば一番派手なプレイと言って良い、日向・影山の変人速攻に目が向く事だろう。
だが―――、穴原の評価は断然火神だった。
「(ありとあらゆるモノ。事、バレーをする為に必要な全てが、あの身体に
宮城県。
バレーボールのレベルは贔屓目に見ても高い方だ。
王者・白鳥沢も嘗ては全国制覇も有り、現在はベスト8に必ず食い込む力を持っている。
それを追う他のチームも、無視できるようなチームはいない。
白鳥沢にとって、県予選は勝って当たり前、と呼ばれているかもしれないが、特に今年はどの試合も
青葉城西が、あの王者白鳥沢を最後の最後まで苦しめた、後一歩まで迫った事で、白鳥沢にも火が付いただろう。
様々な強豪チーム。
特筆すべき選手も見てきた。
白鳥沢の牛島
青葉城西の及川
宮城の頂点の舞台でしのぎを削った選手達を含めて、数多のデータを並べた中で……特に目を見張るのが、この烏野の火神と言う選手だった。
「(一朝一夕で……、たった15年程の時で、詰め込める量じゃない程のモノ。天才、と言えばそうなのかもしれないが……)」
ただただ、今思うのは1つだ。
目を離す事が出来ない。一挙一動をこの目に焼き付けて置く必要がある、と直感する穴原だった。
そして、火神のサーブ。
「――――最初は、おもいっきり……!!」
エンドラインから離れて6歩。
スパイクサーブの歩数。
以前、日向にも言っていた事を自分でも実践する。
初っ端のサーブだ。景気よく、僅かでも固さを解す為に、思いっきり打つ。だからと言って精度を疎かにする訳ではない。思いっきりを優先させるが、景気よくホームランを打つつもりは毛頭ない。
「ッ―――!! 来るぞーーーい! 気ぃ入れろーー!!」
照島は、打ってくる前から 目に見えない圧力の様なモノを、感じ取ったのか。テンションは高くとも、最大限の警戒を仲間たちに呼びかけた。
―――全力で……
ドンッ! と放たれたスパイクサーブは、轟音を纏い、空気を裂き、弾丸の如き超回転でコートに放たれた。
如何に強いサーブと言えど、身体に当てれば何とかなる。何とかしてみせる! が心情であり、実際にするだけの力量を持つ条善寺―――だが。
完全な
「アウ―――――トォォォッ!!!」
東山がアウトだ、と主張し、叫ぶが……、
線審の旗が、それを示している。
そして、そのままバウンドして
一呼吸置いた後。
「ん―――!! ノ―――タッチエーース!!」
「やったーーー!! やったーーー!! ナイスサーブ!! 火神くん!!!」
強烈な一撃、今試合初のサービスエースを祝福する様に、場が声援で包まれる。
「っしゃあああ!! ナイッサーだ! 火神ぃ!!」
「ナイスサ―ブッッ!!」
「っしゃあああ!! 火神―――!!」
「ナイスだぁぁ!! んで、影山ァァァ、顔こええぞ!!!」
「おお、マジだマジ! キレてる?」
「オレも負けねぇ、って顔だな、アレ!」
烏野ベンチも大盛り上がり。
最初のサーブポイントは、ノータッチ。そして火神が取った。
影山か東峰か火神か、その3人だろう、とそれとなく考えていた烏養だったが、大本命でもあったのが火神だ。
そして、田中が影山の顔が怖い、と周りから見れば場違いな発言に聞こえるが、これもまた、恒例行事の1つ、である。
「いつもの事じゃん。騒ぎ過ぎ」
「ツッキー淡泊っ!」
月島は月島で、淡泊ではあるが、ある意味これは火神の事を信じているからこそ、決めても全然不思議じゃない、と思っているからでもある。
山口はそれを解っているのか解っていないのか、ただただ笑いながら声を上げていた。
「―――――ナイス」
「だから、もっとナイスっぽい顔しろよ、影山! 誠也ナイスサー!! 超必殺技、炸裂~~!!!」
「おう! 会心のヒットだ。最後の最後まで、
火神は、日向・影山と手を合わせる。
最初のブロックの時もそうだが、今日も間違いなく絶好調だと言うのが解った。
「ありゃコースがエグい。まさに鬼サーブだぜ! 誠也!! 練習ん時、あのコース打って見てくれ!」
「はっはっは! やっぱ、やってくれるよなぁ、火神! ナイス!」
「旭は、もっと負けん気があれ。負けん気もて。ほれ、影山くらい」
「あ、東峰さんが影山みたいに睨んできたらオレ………」
「ええええ!! ひ、引かないでくれ火神‼ 睨んだりしない! 絶対しないから!」
揉みくちゃにされながらも、東峰が影山の様に迫ってきたら、と思うと汗が冷たくなりそうだ……。
東峰は慌てていた。
勿論、冗談の類ではあるが。
「ううっっっっほほーーーい!! ヤベーーヤベーーなんだあれ!?? ウシワカ級!??」
「いやいや、威力って言うより、打ってきた場所がヤベーーよ!! あんな場所狙われたら、獲れねーーって!!」
「んでも、取らねぇと始まらないぞ!! 体当たりしてでも拾おうぜ!!」
「っしゃああ!! んじゃ、最初にあれ取ったヤツ、全員からジュース奢るって事でいってみよう!」
渾身の、会心のサーブを前にしても、条善寺は揺るがない。
寧ろ、アソビと称するやり取りの中に、闘志が加わった感覚だ。
我こそが、次は上げる、と言わんばかり。後ろ向きな選手は1人としていない。
そして自然と交錯する火神の視線と照島の視線。
【―――退屈、してませんよね?】
【おうよ! まだまだアガってくぜ!!】
この一瞬、2人は目だけで会話をした―――様な気がしたのだった。
火神君、照島君と目で会話しちゃったら、潔子先輩が…………( ´艸`)