王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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お待たせしました。
遅くなってしまって申し訳ありません……。

私事になりますが……………
職場仲間が2人も減っちゃって(異動です! 某病気とかではないです!)、超超超……激烈に忙しくなっちゃったのです……。
それにちょ~~っと体調も崩したりとてんやわんやでした………。

でも、何とか頑張っていきます!

漸く試合が始まりましたし!



第142話 条善寺戦①

 

本日、番狂わせは起こらず。

 

 

宮城県1,2位独占中である白鳥沢・青葉城西と1回戦を危なげなく突破した。

 

今、行われているのは、烏野の前に試合をしている同じく強豪の分類である伊達工だ。

勝負に絶対はない、とよく言うが……それでも 順当にいけば、この試合は伊達工が勝つだろう。

3年が抜けた状態だといっても、その鉄壁は健在。

主力と称された2年の青根と二口の成長も著しい。

 

 

 

「―――よし、そろそろ行くか」

 

 

軽いウォームアップも終えて、準備に取り掛かる。

烏野の全員が表情は険しいが、それ以上に気合が漲っているのが見て解った。

 

もうそこには緊張して動けない、なんて言っている者は誰一人いない。

 

ただただ、目の前の試合に勝つ事しか考えてない。

一度も負ける事が許されない公式戦。

春高を目指して、全部に勝つことしか考えていない。

 

 

 

伊達工vs白戸

 

 

 

伊達工が、大方の予想通り、白戸を撃破し初戦突破を果たした。

勝利を手にした彼らを横切り、烏野がコートに入る。

その初戦に立ちはだかるは、IH予選ベスト4の強豪。

 

 

 

 

「行くぞ!」

【アス!!】

 

 

 

 

 

「――ここにいる、誰よりも遊ぶべ」

【ひゃあっふぅ―――いっっ!!】

 

 

 

 

 

【お祭りチーム】と称される高校、条善寺。

 

その名に違わぬ程の賑やかさ、と言って良いだろう。

 

そして、烏野は復活を果たした古兵。

 

小さな巨人と呼ばれ、春高出場を果たし、常にトップ争いもしてきた。

つまり強豪と呼ばれた時代も有った。

 

堕ちたと称された時をも糧に代えて、今再び全国の地で羽ばたこうと虎視眈々と王座を狙う。

 

その前に、まずは目の前の相手に集中だ。

突然騒ぎ出した? と思ってしまっても不思議じゃない条善寺相手に、動じる様子は無い。

当然、これには理由がある。

 

 

 

「………事前に(・・・)色々聞いたり、見たりしてなかったら、コレ見て聞いて面食らってたかも」

「滝ノ上さん、後火神にも感謝だべ」

 

 

条善寺と言う高校が、どういうチームなのか、事前に知っているから。知ったから。

それは、火神の様に以前から知っている――――と言った類ではなく。

 

 

「や、殆ど滝ノ上さんが用意してくれただけですって。オレ、IH予選とかの試合の映像見れませんかね? ってコーチに聞いてただけなので。伝手が色々あるって凄いです。テレビの放送とか無いのに」

 

 

条善寺の予選の試合、更にはベスト4に食い込む事が出来たIH予選の試合の動画まで、滝ノ上は用意してくれたのである。

勿論、負けられない相手、対戦相手についてのデータをある程度は持っておこう、と考えるのは当然の事。

影山が、及川を―――青葉城西を事前に偵察しに行った事と同義だ。

 

 

「んでも、俺らは考えてはいても、正直最初から諦めてた節あるからな……。白鳥沢や青葉城西は兎も角、他のチームの映像ってなると」

 

 

ただ、当初は情報が少なすぎるから、と言った意見が大半。

解らないなら、自分達の出来うる事をする、すべき事をする事に集中する―――と考えていたのである。

 

 

「そうそう、火神が滝ノ上さんの名前出した~~って、烏養コーチからも聞いてるし、やっぱ感謝だべ感謝」

「いやいや、拝まないで下さいよ、菅原さん」

「ははは……まぁ、色んな意味で気持ちは―――」

「どんな意味かは聞きませんけど、気持ちは、わからない、ですよね!? 澤村さん!!」

 

 

南無南無、と拝む菅原。困惑する火神。そして苦笑いしながら菅原に同調しそうな澤村だった。

 

 

 

 

突然騒ぎ出した条善寺。

確かに、事前に知らなかったなら、普通なら驚いたりするものだろうが、烏野は誰一人として驚いている様子は無い。

 

事前情報をしっかり得ているから。

情報とは武器になる、とはよく言ったモノだ。

 

滝ノ上電器の全面協力で、タブレットを貸していただいて、試合の動画、条善寺高校の様子をしっかりと見たのは前日の部活終わりの事。

 

動画と実際に体感するのとでは訳が違う……のは間違いないのだが、そのチームの特性、あまりにも穿ってる特性に関しては事前に確認する事が出来たのは、まさに僥倖だと言えるだろう。

 

ただ、出来るのは堅実に、ペースを乱されずに、持てる力全部出す事くらいではあるが。

 

 

 

兎に角、条善寺の皆さんのテンションは高い高い爆上がり。

彼らは彼らで、烏野とはまた違う。

緊張感、というのとは程遠いチームなのだろう。

 

 

 

「相手がレシーブ選択しました。先、オレ達がサーブです」

「ハイ。解りました」

 

 

サーブ権を獲得し、そしてウォームアップへと戻っていくが……どうにも表情がいつもより堅く見えるのは気のせいではないだろう。

 

 

「いよいよ代表決定戦。……やはり皆いつもより緊張している様に見えますね」

「……確かにな。特に3年(アイツら)。これが最後の大会だ。無理もねぇよ」

 

 

烏野高校3年 澤村、菅原、東峰。

 

それぞれに懸ける想いの強さは、間違いなく1番だろう。

IH予選で終わらず、春高まで残ると決心した時もそうだ。

 

引退を考えていた様だが、それでも踏みとどまり、最後の最後まで共に戦う道を選んでくれた。

 

それだけに決意は並ではない。

これが本当の最後だから。

 

だからこそ、必然的に顔が固くなってしまうのも仕方が無い事なのだ。

 

3年達がそうなってしまったら、次第に伝染してしまうのでは? と思ってしまうのだが……。

 

 

 

「うっはーーー!! やっぱ、それ良いよなぁっ!? なぁなぁ、誠也もそう思わねっ!? 思わねっ!?」

「翔陽は、ここんとこ、毎日言ってるなぁ……。そんなにあのメガネが良いなら、買って貰えば良いのに。何なら ツッキーと御揃いペアルックでどう?」

「嘘でもヤメテ。――寒気する」

「寒気っっ!?? なんでだよ!」

 

 

 

急に賑やかになりだした。

その根源は1年組だ。

 

月島は心底嫌そうにしてる。

日向は憤慨している。

火神と山口は楽しんでる。

 

 

 

「確かに、日向はこの数週、毎日言ってるよね」

「毎日どころか、ツッキーに会う度会う度に言ってる気さえするよ。いやいや、気~じゃないね。間違いなく」

 

 

 

新しいモノが好きなのか、単なるフィーリング的なモノに嵌ったのかは不明だが、日向の今現在のブームは月島のメガネだった。

 

 

「寒気の次は、不安にもなるから止めて欲しい」

「今度は不安っ!?」

「だって、日向基準のかっこいい、だし。不安にならない方がおかしくない?」

「あんだとっっ!? さっきから、マジ、どーいう意味だーー! このやろーーー!!」

 

 

はぁ、とため息吐きながら月島はメガネを外して、軽く汗を拭いた。

日向が絡んでくるが、華麗に回避する。

 

 

因みに、この時月島の素顔を初めて見た影山はというと。

 

 

「(メガネを取っても、目は【3】じゃないのか………、ずっとそう思ってたけど)」

 

 

アニメや漫画なら、目の形が3に見える描写は多数存在するだろう。

でも、ここはある意味では現実なのだから、そんなワケは無い、のである。

 

 

 

影山の感想は取り合えず置いておこう。

 

 

月島は、メガネを、兄から贈られたスポーツグラスを手に、昨夜の事を思い返していた。

笑顔で手渡してくれる兄の姿。口には出さないが、感謝はしている。

 

このスポーツグラスだとプレイ中、ズレたりしないからより集中出来るし、それに衝撃吸収もしてくれる構造・素材になっているから、仮に(ボール)が直撃したとしても、壊れる心配はない。

 

 

【見た目だってカッコイイ! 探すの結構苦労したけど、それ掛けてりゃ顔面ブロックだって怖くないぞ!】

【いや、普通に顔面は怖いから】

 

 

続いて、一番の笑みを見せながら、背を押してくれた。

 

 

 

【ウシワカだろうがベンケイだろうが、止めて来いよ!】

 

 

 

ベンケイは兎も角、ウシワカ……牛島若利。王者白鳥沢の絶対エース。

正直、勝てる訳がない、と思っている自分も居る。

3年である事もそうだが、力が技術が高さが経験が、全ての面において上回っている相手なのだから。

 

 

「それつけてれば、牛島さんだって止めれそうだったりする? ツッキー」

「――――……」

 

 

実にタイムリーに、火神が月島にそう聞いていた。

傍から見れば、スポーツグラスを見て集中している様にしか見えない月島。闘志を燃やしているのは、もう解っている。それが表面化していないだけで、内にはしっかりと秘めているのが解る。

 

 

「試合前なのに随分ヨユーだね。おとーさんは、条善寺の事は眼中にない、って感じなの? 意外にも」

「いんや。そんなワケ無いよ。当然、目の前の一戦一戦大事だし、眼中にないとか、気を抜ける試合とか、これまでも、これからも一度だって無いさ。――――ただ」

 

 

火神は前を向いた。

 

 

「誰が相手でも、止めて見せる。決めて見せる、って考えてるだけ。烏野(オレ達)は負けない、ってな」

「……………」

 

 

 

火神に余裕がある、という訳ではない事くらい、月島だって知っている。

ただ、有るのは自信である事も。過信しているワケではない自信過剰であるワケでもない。

そして何より―――チームの事を一番信じてる。そう言う男なのだ。

 

 

「うおおおおお!! オレも負けーーんっっ!」

「しゃあああああああ!!!」

「らああああああああ!!!」

 

 

「………うるさいのが増えた」

「ははは……。でも、ゲッソリしてたちょっと前とは比べ物にならないよなぁ翔陽。ほんと、頼りになるよ」

 

 

シレっと聞いていた日向が、そしてそれに続く様に西谷や田中が、内容は聞いてなくとも、その雰囲気に呼応したようで、吼えに吼えた。

 

火神は、本番前だと面白い位畏縮し続けてきた日向の成長、変わり様を間近で見ていて、嬉しそうに笑い。

月島は呆れた様子を見せていた……が、その表情は1本の決意に満ちている様だった。

 

 

 

そんな1年達を(ついでに田中や西谷も)見ていた澤村達は軽く肩の力を抜いた。

 

 

 

「1年の方が頼もしい顔してるって、どういう事だってばよ」

火神(おとーさん)率いる1年、って考えりゃ 割と納得できる節があるから、あーら不思議」

「それでも、詐称なく掛け値なしに3年のオレ達がビビってらんねぇべ!」

 

 

 

良い具合に力が抜けた。

最後は互いに笑みを浮かべて、【シャ!】と声を合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮城県代表決定戦

Aコート第3試合

 

 

条善寺高校 vs 烏野高校

開始。

 

 

 

【お願いしアーース!!】

 

 

 

 

 

選手紹介(スターティングオーダー)

 

 

 

 

 

 

 

烏野高校

 

 

 

WS(ウィングスパイカー)3年 澤村

 

WS(ウィングスパイカー) 3年 東峰

 

WS(ウィングスパイカー) 1年 火神

 

MB(ミドルブロッカー) 1年 日向

 

MB(ミドルブロッカー) 1年 月島

 

Li(リベロ) 2年 西谷

 

S(セッター) 1年 影山

 

 

 

 

条善寺高校

 

 

WS(ウィングスパイカー)2年 照島

 

WS(ウィングスパイカー)2年 沼尻

 

WS(ウィングスパイカー)2年 東山

 

MB(ミドルブロッカー) 2年 母畑

 

MB(ミドルブロッカー) 2年 飯坂

 

Li(リベロ)2年 土湯

 

S(セッター) 2年 二岐

 

 

 

 

 

「うっし。まぁ色々確認出来たかもしれねぇが、見るのと実際に体感するのとじゃ、全くもって違う。気ぃ引き締めていけよ!」

【アス!】

 

 

条善寺の試合を確認し、どういうチームなのか理解出来たのは間違いない。

試合を見ただけで、解る―――なんて、通常であればあり得ないと言えるかも知れないが、条善寺だけは()なのだ。ある意味ベスト4の4校中、一番目立っていると言って良い。

 

 

「東峰、一発目だ。兎に角一発目。おもいっきり行けよ!」

「ウス!」

 

 

サーブ権は貰った。

最初の一発を入れられるのは烏野だ。

 

初っ端のサーブだ。余計な緊張感もなく全力で打ち込む事が出来るだろう。勿論、ミスするかもしれない事が頭にはあるかもしれないが、景気よく吹き飛ばす為には、やはり思いっきり行くに限る。

 

東峰は烏養の言葉を聞いて、力強く頷いた。

 

 

「行くぞ!! 烏野ファイ!!」

【オーース!!】

 

 

「オース!」

 

 

2階で観戦している谷地も、皆に合わせて声を出した。

その隣には、映像提供者である滝ノ上も居る。

 

紛れもなく強豪。一次予選の相手よりもレベルは上の相手だ。

 

 

「さぁ……、どーなるか」

 

 

情報を渡す事は出来た。

練習には可能な限り付き合った。

そして、合宿等を越えて強豪達と鎬を削り合って、ここまで来た。

出来うる全てを熟してきた、と言える筈だ。

 

だが、公式戦ともなれば、春高予選ともなれば、やはり安心して見ていられる――――なんて、心境になれる訳はない。

 

相手はベスト4にくい込むチーム。

間違いなく文句無しに強豪だから。

 

 

「(まぁ、()っちゃんの前じゃ、ある程度自重しとかねーとな……)」

 

 

日向レベルのビビリな部分がある谷地。

不安や心配事などはきっと伝染するだろうから。そう思いながら、滝ノ上は視線をコートに戻した。

 

丁度、東峰がサーブを打つためにエンドラインへと向かっている。

 

 

 

 

そして―――笛の音と共に、試合は開始された。

 

 

「アサヒさんナイッサー!!」

「ナイッサー!!」

 

 

 

仲間たちの声援を受けて、集中力を高める。

 

東峰は仲間たちの声もそうだが、勿論主審の笛の音もしっかり聞いた後、与えられた8秒と言う時間を十分に活用。

 

何度か(ボール)を叩き、そして目を閉じる。

頭の中で何度も何度も理想的なイメージを、その姿を重ねた。

 

思い浮かべるは練習してきた姿。何本も何本も打ち続けてきた姿。

 

負けてられない。負けるつもりは無い。それらは全部嘘じゃない。

 

安定した強サーブを打てるのがたった2人(・・・・・)じゃ話にならない。

全国を目指すチームなのだから。

 

 

 

そして、烏野のエースは――――自分自身なのだ。

 

 

 

約5秒程たった所で、東峰は目を大きく見開いた。

(ボール)を高く上げて、助走から跳躍、空中姿勢。全てがイメージ通り。

何一つ恥じる事等無い自他共に認めるスパイクサーブ。

 

 

「ッッ!!」

 

 

向かった先は、後衛のレフト……より、ややセンターより。

守備範囲内に居た沼尻が、そのサーブのコースに入る事は出来た……が、想定以上の威力だった為、殺しきる事も(ボール)をしっかり面で捕えきる事も出来ず、弾かれてしまった。

 

 

「うわっっ! キョーレツッッ!!」

 

 

自分が受けた訳ではないが、照島は見ただけではっきりとわかった。

条善寺で一番のビッグサーバーが照島自身だが、確実にそれ以上の威力がある、と。

 

 

 

「「よしっっ!!」」

 

 

 

初っ端のサーブで相手を崩す事に成功した事に、谷地と滝ノ上は共に揃ってガッツポーズ。

出足好調なのは間違いない。余計な力が入ってないのも解った。

 

 

だが、まだ点を獲れたと言う訳ではない。

 

 

「つち!! 頼む!!」

「っっ!!」

 

 

リベロの土湯が、弾かれた(ボール)に対して追いつく事が出来た。

但し、追いつく事が出来ただけであり、上手く繋げたか? と問われれば縦に首を振る事は出来ない。エンドライン付近より僅かに外、そこに大きく上げただけだから

 

ガムシャラに手を伸ばして振り上げただけだから、仕方が無いと言えばそうだ。

だが、失点は間違いなく防いだ。

 

 

「ナイスカバー!!」

「照島―――! ラスト!」

「おう!!」

 

 

照島は、ダッシュで(ボール)を追いかける。

その瞬発力。敏捷性(アジリティ)は見事なモノで、問題なく追いつく事が出来るだろう、と傍目から見たら一目瞭然。

 

 

「おっ、何とか繋いだなー、届くだろアレ」

「でも、返すので精一杯だ。烏野攻撃力ヤバイから、最初の点は烏野かなぁー」

 

 

と、言う意見が観客から出るのも当然。

こう言うパターンでは、アンダーで大きく高く返して、なるべくその滞空時間を利用して、相手の攻撃に備える時間を作る……というのが一般的だと言えるが、生憎 条善寺には当てはまらない。

 

 

「飛雄」

「ああ、解ってる」

 

 

本来なら、チャンスボールの場面。

後ろに下がり、攻撃準備を整える、というのが正解……と言える。

 

だが、全員知っているのだ。条善寺がどういうチームなのか、しっかり見たから。

だからこそ、誰もが緊張感をもって望んでいる。

チャンスボールの時、少なからず気を抜く事がある。それは当然、攻撃に備えて一呼吸を置くと言う事も重要だからだ。

 

 

そして―――その呼吸の間を狙ったかの様に、攻撃をしてくるのが条善寺と言うチーム。

 

 

 

「ふんっっ!!」

 

 

 

照島は、(ボール)の落下点と自身の到達点を見据えつつ、思いっきり踏み込んで跳び上がった。

そして、振り向きざまに大きく腕を回して、腕と肩の回転、遠心力を利用し、ドライブサーブの要領で強打で打ち返す。

 

(ボール)の位置、そしてネットの位置、見ているのはほんの一瞬に過ぎないと言うのに、正確に打ち返してくる。

型破りではあるが、偶然やマグレの類ではない、と言うのがハッキリわかるプレイだ。

 

これは、知らなければ確実に虚を突かれる。

チャンスボールで返ってくると思ってしまった時点で。

 

 

―――だが、知っている。

 

 

「――――!!」

「およっ!??」

 

 

バチンッ!! と強打が来る事を読んでいた火神は、照島のエンドラインぎりぎりからの振り向きざま強打を見事にブロックしてのけた。

レシーブに専念しても良いかと一瞬頭に過った……が、あの一瞬で判断を変えて、実行に移した。

 

一枚ブロックだった為、止められない可能性だって十分高かったが、ブロックの面積、止める事が出来る範囲内での攻撃だったのは、火神にとって幸運だと言えるだろう。

 

そして、運も実力の内ともいう。

 

 

「っしゃあああ!!!」

「ナイスブロック!! 火神―――!!」

「うおおおおおおお!! ナイス誠也ぁぁぁ!! まけねーーーぞ!!」

「ナイスブロック!!(日向、応援しながら張り合ってる。……まぁ、MB(ミドルブロッカー)だし、当然かな……。でも、オレだって……っ)」

 

 

中から、外から歓声と声援が入り乱れた。

火神のプレイにいつも通り触発された者もいれば、負けず嫌いモードになった者も数名。

 

 

 

「よく止めたな、火神!」

「アス! 滝ノ上さんのおかげですね。試合動画を見てなかったら(・・・・・・・)、あの位置からあんな強打が来る、なんて正直思わないです」

「……普通はアンダーで安全に返すトコだしね」

 

 

月島は、火神に張り合ってる節がある(本人は認めないが)ので、ファーストブロックポイントをとった時点で、何だか形容し難い顔になってたのは言うまでもない。

 

火神は火神で、知っていたとはいえ 実際に体感する事の違いを改めて実感していた。

ブロックで止める事が出来たのは、半分は運だ。手に残る衝撃やその痺れ。照島の身体を操るセンスに脱帽すると同時に、目を輝かせていた。

 

 

 

「おおお! あちらの選手の身のこなしに驚きましたが、それを止めて見せた火神君は流石ですね!」

「ああ。こんなのが来る、こういうプレイしてくる、って事前に予習出来てたとしても、見るのと体感するのとじゃ、訳が違う」

 

 

盛大にガッツポーズを見せる武田、そして烏養も唸る。

 

 

「見ただけで、直ぐに対応できるか、止めれるか? って言われりゃ普通早々出来る様なモンじゃねぇ。徐々に慣れて~って事なら話は別だが。初っ端だ。だからこそ、いきなりカマす事が出来たのはデケェぞ、先生」

 

 

奇襲を早々に拾われた~、となれば 相手にも相応のプレッシャーとなって、後のプレイにも影響が出ると思われる―――が。

 

 

 

「おいおいお~~~い! 止められてんじゃん!!」

「くっはーーーー! イイ感じだと思ったんだけどなぁぁぁ、でもありゃ、オレ責めるより、向こう褒めてやってくれ!! ナイスブロックだ!」

「あ、それ異議なしだわ! あの一瞬、オレ固まっちまったもんっ! まさか、いきなりブロックされるなんて、思わねーじゃん!!」

 

 

ウェーーーイ!

 

と兎に角テンションが高かった。

それを見て、烏養は表情を顰める。

 

 

「……アレだけテンション高けりゃ、引き摺る、なんて早々無ぇかもな……」

「あはは……ですね。彼はあのプレイだけでも、あの軽やかなプレイを見ただけでも、運動神経が抜群だ、と言う事が解りますから」

「ああ。アソビ(・・・)がモットーだ、って言うだけの事はあるぜ、全く」

 

 

初見のプレイだけで、センスが極めて高いのは解る。

そして、烏養が云う様に、アソビをモットーにしている条善寺。

 

アソべる(・・・・)だけの身体はしっかり作り上げてきていると言うのも解る。

 

 

 

「へぇ……」

 

 

照島は、一頻り騒ぎ合った後に、改めて火神の方を見た。

そして、あの日火神が言っていた事を思い返す。

 

 

 

―――退屈はさせませんよ。

 

 

 

 

「期待通り、面白えな! っしゃーー、ガンガンいくぜーーー!!」

 

 

 

そう言うと両腕を振り回しながら、定位置に戻っていった。

 

 

 

 

「……こっちが点入れたんだよね? なんか、向こうの得点! みたいなテンションで逆に怖いんだけど」

「何ここでネガティブ出してんだ、しっかりしろ旭! まだお前のサーブだぞ!」

「わ、解ってるって!」

 

 

照島のテンション爆上げ。否、条善寺高校全体のテンションの高さに面食らった様だ。

動画でその辺りも確認し、解っていた筈なのだが……、やはり実際に体験して改めて解る、と言うモノである。

 

だが、実際に気落ちした、という訳ではない。

たった1本で満足する筈も無い。

 

東峰は戻ってきた(ボール)を受け取ると、再度気合を入れ直してエンドラインへと下がっていった。

 

 

「今のは、運が良かった面もある。……正直、ブロックするか否か、判断するのは難しいと思うけどまぁ、ツッキーには愚問かな」

「ふん。……メチャクチャな事してくるヤツなんて、正直見慣れてるんで」

「―――そん中にオレ、入ってないよね?」

「………さぁ? 王様にでも聞いてみれば」

 

 

メチャクチャな事してくる、と言うポイント。

自分では入ってない、と思いたいのだが、月島の言葉には引っかかる。

なので、火神は異議を唱えたくなった……が、一先ずそれは置いといた。

 

 

笛の音が響いたから。

 

 

 

東峰の2本目のサーブ。

1本目同様に強烈なサーブが条善寺を襲う。

 

 

「んがぁっっ!!」

 

 

再び沼尻の元へと向かった。

2連続で吹き飛ばされてなるモノか、と気合を入れてどうにかレシーブに食らいつく事は出来たのだが―――、Aパスには程遠い。

 

 

威力を殺す事が出来ず、そのまま跳ね返してしまった。

(ボール)を前に跳ね返し、勢いよくネットに当たる。

 

 

「くっ―――!」

 

 

セッターの二岐が賢明に手を伸ばすが、どうしても届かない。後ほんの少しで届きそうで……届かない。

 

 

「ん、なろっっ!!」

 

 

手では(・・・)届かない。

咄嗟に取った行動は、右足を大きく蹴り上げる事だった。つま先部分で(ボール)を落下させず、下から掬い上げる様に。

 

 

 

【足っっ!??】

 

 

 

ネットから零れた(ボール)を足で掬い上げた事に対して、体育館内にどよめきが走った。

 

普通に考えて、足での(ボール)操作は当然難しい。サッカー部なら兎も角だ。

だが、足も身体の一部、と言わんばかりに掬い上げて見せた(ボール)は、見事に緩やかな山なりのトスとなり、間髪入れずに、そこに飯坂が入ってきた。

 

タイミングも位置も完璧のドンピシャ。

 

 

ドパンッ! と景気よく叩きつけて、見事に点を獲り返した。

 

 

 

「うおっっ、今、足であげたっ!?」

「いや、それより咄嗟に打つ方が凄くね? オープンっぽく無かったし! あんなの来るって分かって無かったら絶対無理だって!!」

 

 

見事に決めてのけた条善寺のプレイ。

照島のエンドラインぎりぎりの攻撃にも、場がどよめいたが、今回はまさにそれ以上。火神に止められてしまったから、と言う理由もあるかもしれないが、何よりも型破りなプレイは、見る者を魅了する、と言う事だろう。

 

 

「すごい……ですね。まるで(ボール)が来るのが分かってたみたいだ……」

「あんなもんサインプレイでどーとか出来るもんじゃねぇ。恐らく、個々に身体に染みついてるんだ。アソビがモットー。……それでも臨機応変さはとんでもねぇ。初っ端で止めたヤツを引き摺る様子もやっぱ一切無ぇし」

 

 

県内ベスト4に入るだけの実力を持ちながらも、このアソビを存分に発揮する事で、自分達は十全に機能させながら、相手のリズムを崩してくる。

武田も烏養も、しっかりと条善寺について見てきた筈なのだが―――。

 

 

「なんかこう……体育ですげぇ運動神経、運動能力が高い野球部やサッカー部と試合してるみたいだよな。動画見た時から思ってたケド」

「確かに! 型に嵌ってないですよね。……動画の中では、オーバーヘッドシュートか! って思っちゃったプレイも有りましたし。……まぁ、流石に手で取れる(ボール)を足で取ったりは無かったけど」

「むむ―――、ちょーたのしいアソビ……」

「??」

 

 

条善寺との試合を実際に間近で見て、……対戦して改めて知る事が出来るその厄介さ。

日向は日向で、照島が言っていた《ちょーたのしいアソビ》と言う単語が頭の中を巡っていた。

確かに、彼らは楽しそうだ。1つ1つ何かする度に笑顔がはち切れんばかりで、テンションが高くて……、どう言い表せればよいか? と問われれば《遊んでる》がしっくりくる。

 

 

 

「アイツらは、もれなく全員バレーの枠を超えて、身体を自由自在に操る事が出来る。つまり、アレはマグレなんかじゃねぇ。日向影山の変人速攻みたいな感じでな。不確定要素は条善寺にとって普通の事。それで相手を攪乱し、点を重ねてくる。―――それは条善寺の一番の武器ってヤツだ。……だが」

 

 

烏養は、ニヤリと笑った。

不安はある、見ている側でさえ乱される感覚に見舞われる。

だが、それ以上に信じている。

 

 

 

「解ってた事、だろ? 呑まれるなよ―――お前ら」

 

 

 

バレーを楽しそうにする事に関しては、絶対に負けてない。

 

 

 

「(……まぁ、お前は(・・・)言われるまでも無ぇ、かな?)」

 

 

 

烏野の中で、誰よりも笑顔で、活き活きとしている男の顔が烏養の視界の中に入る。

その姿勢はどんな時でも変わらない。

練習だろうと合宿だろうと……そして、試合だろうと。

 

いつも変わらない。だからこそ、見ている側も安堵する事が出来ると言うものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……」

「飛雄、今のは仕方ない仕方ない。……んで、オレにじゃなくて、相手に対抗心燃やして」

 

 

ブロックポイントを初っ端に取った。

だからこそ、我もと影山が続こうとしたのだが……、止められなかった事に対して自分に、何より止めちゃってくれた火神に対して、思うトコあり、なのである。

 

 

「よしよし、火神の言う通りだ。拾えなかったオレらも次次。……今のは相手がスゲーで十分。だが、次は食らいつくぞ!」

 

 

 

澤村の言葉で再度気を引き締める烏野だった。

 


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