王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

141 / 182
トイレの一戦(笑)

そして、もう1つ――――――実は、繋がりがあったんです! って感じにしちゃうつもりだった話を入れました!!


漸く、本番の予選!!
これからも頑張ります!


第141話 集結・開戦

 

「うお~~、キタ。ほんとに来た~~!」

「うん」

 

 

時は2012年 10月25日。

 

時間が止まらない限り、過去へと戻らない限り、―――次元・空間を跳び超えない限り、その日はやってくる。

 

 

「仙台市体育館、再びっ!!」

 

 

全日本バレーボール高等学校選手権大会(通称:春の高校バレー)

宮城県代表決定戦

 

 

嘗ては、開催時期の関係上 3年生は出れない、3年生はIH(インターハイ)まで、とされていたが繰り下がりとなり、進学校・進路関係を除けば3年も参加する事が可能となっている。

即ち、その年の集大成をぶつける事が出来る大会、と言えるだろう。

 

 

だが、誰でも、どのチームでも参加出来る、という訳ではない。

 

 

IH(インターハイ)予選のベスト8に加えて、春高一次予選を勝ち抜いた8チーム、計16チームで1つの代表枠を争う。

 

つまり、勝ち上がってきた強豪校のみが、この春高を掛けた最後の舞台へと進む事が出来るのである。

 

 

 

「ついに、ついに来たんだ!」

「――――だな」

 

 

日向にとっては、あの小学6年の時。

たまたま、家電量販店に展示されていた大型テレビのバレーの試合。

春高本戦で烏野が戦っている場面。……小さな巨人を目の当たりにしてから、憧れ続けた舞台。

 

この時ばかりは、無粋なツッコミをする事なく静かに佇んで頷くのは火神である。

火神もまた、日向との出会いがあの場所。

ある意味では運命を感じずにはいられない、と柄にもなく悟った場面でもあった。

 

 

―――だが、それだけではない。

 

 

憧れる気持ちは、もう過去のモノになっている。

 

 

「悪い思い出は、払拭しないとな」

 

 

思い返すのは、ほんの少し前の記憶。

予選で3回戦敗退をしてしまったあの時の記憶。

 

最後の最後まで、戦い抜く事が出来ず、途中退場(リタイア)してしまった時の記憶。

 

 

「……絶対に、リベンジしてやる」

 

 

その悔しさは、繋ぎ、紡がれた想いを受け継いだ、コートの中の皆とて同じだ。

試合に少ししか出れなかった皆も等しく同じ。

 

烏野は、全員で烏野だから。

 

誰もが険しく、言葉を発する事なく仙台市体育館の全体像を見入っていたその時だ。

 

 

「うおおおおおおおお!! 絶対かぁぁぁぁつッッッ!!」

 

 

突然叫んだかと思えば、全力ダッシュで体育館へと向かう日向。

ギョッ!? っとする間もなく。

 

 

「フライングすんじゃねぇ!! ボゲェェ!!」

 

 

すかさず影山が始動した。

負けられないパワー、怒りのパワーも加わり、圧倒的に不利? なスタート地点と初動だったが、執念で日向に迫っていく影山を見て……感傷に浸りかけていた心が和らいでいく気がする。

 

いつも、いつでも初心に帰らせてくれるのが、烏野であり、彼らなのだ。

 

 

「はぁ~~、日向と影山は脊髄反射で生きてる、って感じだね」

「虫みたい」

「「ブッフォッ!!?」」

 

 

2人の行動をそう称する山口と月島。

まさにその通り、実に的確な表現、正確極まりなく、頭で考えていた事を言葉として表してくれて、思わず盛大に吹いてしまうのは、田中と西谷。

騒がしい事にかけては、この2人も負けてはいない―――が、流石に日向・影山の域には行けない。

 

 

そして、こういう時に引率の保護者が必要となってくるのだが……。

 

 

「ほらほら、子供2人暴れちゃってるよ? めーわく駆けちゃうかもよ? 止めなくて良いの?」

 

 

動く気配を見せない火神に苦言を呈する月島。

当然いつも通りに、揶揄ってやる軽い感じで聞いた月島だったが。

 

 

「出足挫かれた、からかな」

「…………まぁ、少しでも遅れたら、アイツらとっとと行っちゃうしね」

 

 

軽い笑みで返す火神。

そして日向や影山の様に表立って見えたり感じたりはしにくいかもしれないが、奥に秘めている強い感情が、そこに、その目の中にあった気がした。

 

それが分かったからこそ、月島はそれ以上何も言わず、山口も日向・影山を見て笑っていたのだが、真剣な顔つきに変わる。

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

「ギャッ!!」

 

 

日向の軽い悲鳴が聞こえてくる。

あれだけ全力疾走したのだ。こけたりぶつかったり――――怪我してないだろうな、怪我させてないだろうな、とやや心配気味に、声のする方を視線で追いかけてみると……。

 

 

 

「おおーーーーい! メガネちゃーーん!!」

 

 

 

日向の代わりに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

無論、覚えがあるのは極々少数のみ。

 

あの時、春高一次予選の時に相対した火神、日向、清水の3人のみ。

 

 

 

「今日こそ、番号教えてねーーーっ!」

 

 

 

煌びやかな笑顔を振りまいて、目の前の頭1つ分は小さな日向を押しのけて、清水に向かって手を振る。

 

条善寺高校 2年 主将 照島。

 

 

厄介な人に目をつけられた……と、いそいそと視線から外れようとする清水。

そんな清水の前にそっと立つのは火神である。

 

偶然なのか、或いは狙ってやったのか。

ただ言えるのは、火神は一度も振り向いて、清水の方を見てないので、見てから動いた訳ではない。

 

 

「――――――」

「―――――!」

 

 

ただ、何かを言い返す訳でもなく、ただただ笑みを向けていた。

確かに照島が向けた笑顔は、清水に対してのモノ。興味の対象はこの朝の時点ではまず清水と言う美人マネージャー。

 

彼氏付きじゃない、と言うのは前回ので確認しているので、番号の交換くらいは問題ないだろう、と言うポジティブシンキングで押しに押そうとしていたのだが。

 

火神と目が合った事で、あの日同様、興味の対象が変わった。

 

 

 

 

「(………あの時と一緒、だね。ありがと)」

 

 

 

 

清水は聞いてないと思うし、聞こえないとも思うが、そう言うと、小さく笑った。

直ぐ隣で谷地は居たワケだが……事情をよく解ってないので、ただただこの状況に唖然と、あんぐりと、大きく口を開けて固まっていた。だから、清水の言葉は聞いてないし、火神の行動もたまたま前に居るだけ、程度である。

 

 

ただ、その更に前に居る2人の行動は、強烈過ぎたので、唖然茫然として固まってた谷地がぎょっ!? っと動き出す。

 

 

何故なら

【メガネちゃん】と言う単語。

【番号教えて】と言う単語。

 

それらを聞いたからだ。

 

それらが一体何に向けて発せられているのか、一体何に対して言っているのか。

無礼を働いているのか、瞬時に理解したのと同時に、目の前の2人からは炎が発せられていた。

 

 

何処かのアニメ・漫画宜しく、怒りでヒートアップする口、とでもいうのだろうか、確かに カッ! っと発火っぽい擬音を放出していた。

 

 

「えっっ!??」

 

 

超常現象!? と、ぎょっと驚いた谷地。

そのおかげで、固まっていた思考解消が出来たのである。

 

但し、導火線が限りなく短い上に、その火に油……ガソリンを蒔いてくれた事も加わり、日向・影山とは違った脊髄反射を見せる2人が次の問題だ。

 

 

「(これは――――不味い)」

 

 

いち早く危険性? を察した澤村は 爆発する前に2人を――――田中&西谷を抑えようとするが、導火線が短いから。……燃料にガソリンを使ったから。燃え上がって爆発するのはあまりにも早い。

 

自分達だけならまだしも、他校の選手にまで迷惑をかけるのは頂けない。

清水に対するあまりにも軽い接触は、極めて遺憾だとは思うが、だからと言って実力行使は頂けない。正当防衛ならまだしも。

 

でも、アレは超反応。

日向の様な敏捷性、機動性で対処しなければ追いつけない速さ。

 

爆発したソレは、彼らの足に宿り、まさにドンッ!! と勢いよくロケットスタート。

 

 

「あっコラッッ!!」

 

 

止める術無く、澤村の手が空を切った。

 

 

 

もう誰にも止められない―――!?

 

 

と思ったその時だった。

 

 

「や、やめなさい! 何言ってるの!? ―――あっ!」

 

 

救世主が現る。

 

 

 

その人は、条善寺高校バレー部のマネージャー 美咲。

 

 

 

彼女は ぱっと見――――ではなく、間違いなく美人マネージャーだった。

 

偏見じゃないが、バレー部のマネージャーは全員美人or美少女なのではないか? と思ってしまう程だ。

 

そんな条善寺美人マネージャーが、怒りの炎を纏わせてる田中&西谷から、照島を身体を張って守る……のではなく。

 

 

 

 

「す、すみませんでした!」

 

 

 

 

ただただ誠心誠意、頭を下げて謝罪を口にした。

 

眼前に突然入ってくる美女の姿。

自分達が怯えさせてしまってるのでは? と一瞬で脳裏に過ったその罪。罪悪感。

 

それらが、慣性の法則を無視し、更には重力まで無視して、2人の暴走を止める……?

 

 

 

「………空中で止まった?」

「空中で固まってるー」

「スゲー」

 

 

コチーンッ! と、止まった様に見えた。

勿論、直ぐ降りてきたので、たまたまそう見えただけなのかもしれない。それに高く跳んだら、良い空中姿勢を保ったら、それだけ滞空時間を得られると言う話もあるから、2人の元々高い身体能力が更に極まったのでは?

 

と、割とどうでも良い事を考えている間に、2人は着地して固まって、只管頭を下げている美咲は、収まってくれたのに安心。

 

 

そうこうしている間に、発端である、原因である、厄介な人物照島が、興味の対象である火神に視線を向けたまま、笑った。

 

 

退屈させない(・・・・・・)―――だろ?」

「ええ。勿論」

 

 

ニコリ、と応答して見せる火神。

彼もまた、一体いつの間にあんな前に行ったの? と山口や月島が驚いていたが、茶々入れられる雰囲気ではない気がして、何も言わなかった。

 

 

 

「へへ。―――じゃあ、1回戦ヨロシク」

 

 

 

照島はそう告げると、そのまま美咲に背中を押されながら、体育館内へと入っていった。

 

 

「おい。条善寺―――……IH(インハイ)ベスト4のヤツと知り合いなのか?」

 

 

2人のやり取りに気になったのか、或いは単なる対抗心なのか、影山が火神にそう聞くが、火神は軽く笑って返す。

 

 

「いや、知り合いって程じゃないよ。一次予選の時、顔見知りになっただけ」

「………ふーん」

 

 

一緒にバレーの練習をした、とかなら、より対抗心を燃やす事になっていたが、ただ会っただけ、なら別に、と影山はそれ以上聞く事は無い。

 

 

「翔陽も、簡単に放られるなよー。ポイッ、って。なんか ぬいぐるみか何かを退かせてた、って感じだったぞ?」

「ふぐっっ、う、ウッセーな!! しょーがねーーじゃんっ!! 向こうの方がでっけーんだし! 躱す暇なんて無かったんだし!!」

 

 

スピード勝負な日向は、当然ながら力勝負は苦手。

文字通り摘まみだされる事なんて、ザラに有ったりする。

 

 

だが、日向は その程度で止まる事が無い。

主にバレーに関しては。

 

 

「でも、ここでは違うぞ。もう、違うぞ」

 

 

日向は力を入れ直した。

コートの外の更に外であれば、この程度かもしれない。

だが、コートの中なら。武器を手にした今なら……。

 

 

 

「【全員】来てる。ここに、【全員】集まってるんだから」

 

 

 

 

一次予選から勝ち上がったチーム。

IH(インターハイ)予選の結果、上位チーム。

 

 

因縁はまだまだ途切れてない。3年が抜けてもその鉄壁は健在。伊達工。

IH(インターハイ)予選で、敗れた相手であり、宮城県準優勝チームでもある青葉城西。

そして、王者 白鳥沢。

 

 

全てが集まっている。

 

 

「「全部倒―――――」」

 

 

想像しただけで、熱が入り、身体が熱く熱くなっていく2人、影山と日向だった……が。

先ほどの条善寺の照島とぶつかった、と言う前例がある。ついさっき、ほんのついさっき会ったばかり。

また、ぶつかって人様に迷惑をかけないとも限らないので。

 

 

「暴れるのは、コートの中だけで良し」

「「お、おう……」」

 

 

火神が今度はバッチリと静止させるのだった。

 

 

 

 

そんなやり取りを見ていた菅原と澤村、東峰はと言うと……。

 

 

 

「いや、大地。あの場面って、主将である大地が行かなきゃ~~、な場面じゃね? 向こう条善寺の主将っぽかったし」

「まぁ、そりゃそーなんだが……、なんだろな。テンション高いヤツ居たり、急にシリアスムードになったり、展開が二転三転してたっぽくて、完全に対応遅れた」

「えー、火神に頼っちゃった~、じゃないか?」

「旭みたいなネガティブ髭と一緒にすな。やる時はオレだってやる」

 

 

1回戦対戦相手である条善寺高校の初撃? を見事に迎え撃ってくれたも同然な火神に頼っちゃった? (田中と西谷は論外) と思われてしまったが、狙ってた訳ではない、と強く否定。

影山が聞いた様に、知り合いの様な気がした事も拍車をかける。

 

だが、それよりも、それ以上に澤村はやるべき事がある。

 

 

「ただ、お前らはもう迷惑かけるなよ?」

「「――――!!!」」

 

 

美女効果で固まっていた2人。

また復活して悪さしないとも限らないので、澤村の圧で強制解除し、念入りに釘を刺すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、所定の位置に集まって荷物を下ろして、各々が戦意を高めたり、軽くストレッチをしたり、と時間を使う時。

 

 

「……誠也、ちょっと付き合ってくれ」

「うん?」

 

 

日向に火神は連れ出された。

 

行先は、言うまでもない。

トイレだ。

 

 

 

「高校生にもなってトイレが怖いとか。つーか、今朝じゃん? オバケ出ないぞー、しょーよー?」

「ふぐっっ、そ、そんなんじゃねーーし! せ、誠也だって解ってんだろっ!? ……トイレは、トイレは……っ」

 

 

何だか、トイレを怖がる子供の様に、表情が険しい。

ただ、警戒心剥き出しな所は、子供っぽくない。

 

 

トイレ(ここ)は、危険人物と遭遇する場所なんだ―――」

「なに? 危険人物って」

 

 

誰がどう危険なのか、日向の尺度が気になる所ではある、が普通に冷静に、いつも通り考えてみれば余裕で解るので、割愛。

 

 

「それは兎も角、ほらほら、さっさと行く。時間だって余裕がある訳じゃないんだし?」

「わ、わかってるわかって! 押さないで!! ここは、ここだけは、慎重に、慎重に、が重要なんだっっ!」

 

 

気軽に放り投げられる程の軽さしかない癖に、警戒心MAXな時は、不思議な力が宿ってるのか、身体が中々重い。

下手に刺激して、怪我されるのも厄介なので、そこまで強く押したりはしていないが。

 

 

 

 

 

それに、火神は待っているから。―――この強者が集うポイント(トイレ)で。

何より誘われるまでもない。

必ず向かうと決めていたから。

 

 

 

この憧れの戦場(トイレ)に。

 

 

 

 

 

 

「お?」

「あーー、誠ちゃんじゃんっ! それに、チビちゃんも。此処で何してんの?」

 

 

 

期待を裏切らず、即座に背後より現れたのは青葉城西。

 

 

「あ、お疲れ様です、及川さん、岩泉さん」

「おう」

「お久~~!」

 

 

振り向いて、居るのが解っていたかの様に笑顔で応答する火神に、面食らいかけた2人だったが、もう火神と言う男の事はそれなりには知っているので、そこまで深く考えず、驚いたりもしない。

 

 

「だっっっっ―――!!?(大王さまぁぁぁ!?? それにエースの人もっっ!!?)」

「翔陽……、えっと、コイツがトイレを怖がっちゃって。付き添いです」

 

 

ずいっ、と、前に出して原因を教える。

日向は日向で、強敵と遭遇する、と自分で言っておいて、警戒心MAXまで上げておいて……、完全に気後れしてしまっていた。

 

 

「あっはっはっは! トイレ怖がるってなにさ? 朝っぱらなのに?」

「相変わらずよく解らんヤツだな。試合ん時の存在感といい、動きといい。その割にビビリなトコもあるし」

 

 

大笑いしてる及川と何だか呆れかえってる岩泉。

気持ちは凄く解る。青葉城西に日向タイプの1年はいないから。………日向タイプな人物って、他に居るだろうか? 近いのは木兎……、それと あの伊達工の大型セッター(・・・・・・)くらい……?

 

 

「でも、お前ら2m倒して上がって来たんだろ? ……流石だな」

「アス! ……体験してみた感じ、百沢―――彼は、バレー始めたのは高校からッポイので。怖いのは今後ですね」

「へぇ……流石は誠ちゃん、だね(相手の名前知ってるってトコを見ると、リサーチはバッチリ、って所か。………まさか、ウチの狂犬ちゃんまで知ってる、なんて事は……無いよね? 流石に)」

「――――っっ」

 

 

及川がやや慎重気味? に火神を見ていて、岩泉は純粋に賞賛。火神も普通に接していて―――なのに、日向はいつまでもフリーズ。

 

 

「コラコラ翔陽。無視すんのは失礼だぞ」

「あー、いや、その辺は気にすんなよ。オレら、歳は上かもしれねーけど、烏野の先輩って訳じゃねーし」

「うあいっ!?? ハイ!! イイエ!!」

「気にすんの? 気にしないの? どっち??」

 

 

日向テンパりモードでの返事はYESともNOとも言える。YESしか言えない日本人! ではない、という事だ。

 

 

「ふーん、今の内にチビちゃん誘拐(さら)っちゃう? 試合になったら、ほんっと、キミら1年は厄介だしさ? 戦力ダウン狙って」

「―――――っっ!!?」

「いや、翔陽? 及川さんのいつも通りだって、理解――――」

 

 

肩をぽんっ、と叩いた途端、それがスイッチだったかの様に 日向は高速移動。

 

 

 

「サ、サラワナイデ――――!」

 

 

 

びゅんっ! と、また前を見ない全力疾走。

今度は止められなかった火神は、ため息をつきつつも、岩泉・及川に軽く頭を下げて追いかける。

 

 

「へへ~~ん」

「オイ。アホ川。他校の1年イジメんな。つーか、他校の1年に、【いつも通りの及川さん】を知られてんじゃねーか。ダセェ」

「岩ちゃん!? もっとオブラートに包んで!! そんな変な風に誠ちゃんが覚えてる訳ないじゃん!」

 

 

岩泉は及川の行動・言動・わきの甘さ? に呆れかえっていたその時だ。

 

 

「ぎゃっっ!!?」

「あーもう!」

 

 

日向が止まった。

また、性懲りもなく、正面衝突。丁度、トイレから出てきた人に。

……因みに相手は側面だった様だ。そして 当たった相手も凄い。

 

 

「(ホギャアアアアアア!!!)」

「………ヒナタ、ショウヨウか」

 

 

王者:白鳥沢。

ウシワカ事、牛島若利。

 

圧倒的な存在感は、日向を一瞬で畏縮させ、及川・岩泉の警戒レベルを最高潮へと持っていく。

 

 

「カガミ、セイヤ」

「ご無沙汰してます、牛島さん」

 

 

そんな中で、いつも通りの姿勢と笑顔を絶やさない火神は、この場の誰にとっても異形に見える事だろう。事実、及川と岩泉はそう思った。

 

だが、それも一瞬だ。

 

 

「――――と、及川・岩泉か」

「うわっ、呼ばれちゃったよ。つーか、なにこのタイミング」

「知るかボゲ」

 

 

牛島にロックオンされたから。

牛島は一切悪気はないが、言い繕ったりはしない。思った事、正しいと思った事なら尚更包み隠さずストレートに話す。

 

 

 

「……お前達には高校最後の大会か。健闘を祈る」

 

 

 

話をした結果、相手がどう思うのか? などは考慮しない。

淡々と、極めて淡々と冷静に。

 

それが、益々苛立たせる結果になるのだ。

 

 

「ホンッッッット、腹立つ!!」

「全国行くんだから、まだ最後じゃねぇんだよ」

 

 

牛島のオーラと言うものは、相応にあり、普通の一般人、バレーをかじってる一般人程度なら、あっという間に委縮させてしまう強者の圧力(オーラ)が備わっている。無意識にその表情から、佇まいから、言動から、それらを撒き散らしている。

 

だが、それは何年も打倒を目指し、対戦し続けてきた及川や岩泉には通じない。

常に首を獲ろうと狙っているのだから。

 

 

「………? 全国へ行ける代表枠は1つだが?」

「「――――――ッッ!!」」

 

 

その言動の強弱、表情から簡単に読み取る事が出来る。

牛島は、敗者を愚弄したりするつもりなんか一切ない。

嫌味で言ってる訳じゃない。ただ単に、これまでの戦績、結果を考慮して言っているだけで……。

 

 

「「(だからこそ、さいっっっこうに腹立つ!!)」」

 

 

そして、それこそが、負け続けてきた2人のボルテージを更に上げる燃料になるのだ。

 

 

 

 

3人のやり取り―――に加えて火神と日向。

 

その雰囲気は周囲にまで余裕で及ぶ。

元々、白鳥沢や青葉城西と言った目立つジャージを見に纏わせている、という事もあるだろうが。

 

 

「(うわ……、白鳥沢と青城だ……)」

「(一触即発? ヤバイ空気………)」

「(つーか、真ん中のヤツ、なんで笑えてんの……? あんな位置、絶対いたくない)」

「(あれって……、あ! この前の2m倒した烏野の10番と11番!?? マジかよ、ケンカ売ってんの!? 宮城のトップ2相手に―――!?)」

 

 

観客(ギャラリー)が続々と増えている――が、それも気にならない。

一歩、前に出ようとしたが。

 

 

「かっ、勝つのはオレ達烏野――――ひぃっ!」

 

 

と、我さきにと息巻いた日向。

今の今まで、テンパってここが何処なのかすら忘れてそうだったと言うのに、勝つか負けるか、全国へ、春高へ行くか、の話になれば戻ってくる事が出来ていた。

 

勿論、日向を1人にするワケが無い。

直ぐに威圧されて黙りそうになるだろうが、その前に隣に立つ。

 

 

前も(・・)、言いましたよ? 牛島さん」

「―――――」

 

 

牛島は、火神の言葉に反応し、及川達から視線を外して火神を見た。

日向は、こっち見た! 王者がこっち見た!? とビビっていたが、直ぐ隣には火神が居るのだ。今、ほんとに傍にいる。さっきだって、逃げる必要などなかった筈だ、と踏ん張る事が出来た。

 

 

「牛島さんが言っているのは、過去(・・)の話です。……今年(・・)の話をしましょう」

 

 

自分達の勝利を信じて疑わない。

強者であるが故に、強者たれ、と身体に叩きこまれたが故に。

 

それは間違いではない。自信は持っても過信はするな、という言葉はきくが、後ろ向きになるくらいなら、自惚れた方がまだ良い。

 

 

だが、火神は、牛島は 春高に行く事、及川達に最後だと言った事、全て精神的な事を言ったのではない、という事を他の誰よりも知っているかもしれない。

確かにIH予選決勝では際どい所まで追い詰めたかもしれない。スコアを見れば明らかに接戦なのかもしれない。

 

だが、代表枠として名が残っているのは白鳥沢。

結果を見れば勝利したのは白鳥沢。

 

現在、県予選負けなしの連続出場中。

 

 

未来(さき)は、まだ誰にも解らないです」

 

 

 

笑顔で、それでいてその笑顔の奥にある……誰にでも見れるワケではない不敵な感覚を、牛島はハッキリと見た。そして、及川や岩泉も同様だ。

 

 

「そりゃそうだ。……勝負はやってみねーと解らねぇ。此処に来た以上、これまでの成績はいわば全部過去だ。白鳥沢(そっち)にすりゃ、過去の栄光ってヤツだ」

 

 

岩泉は同調してくれた様だ。

 

 

「全く、格好良い後輩に育ってくれちゃって。及川さんが、誠ちゃんを育てたかった、って言うのに」

「お前じゃ、逆に真人間に育てられるわ。―――つーか、火神。是非ともコイツ育て直してくれ」

「なんでさ!?」

 

 

及川も軽く肩の力を抜いた様だ。

いい具合に力が抜けた、解れた。色んな事に気付いて、色んな事に対する切っ掛けが来るのは、今年に入っては明らかに火神と言う男の存在がデカいだろう、と改めて思った。

 

それだけに、やっぱり一緒にやりたかった、という気持ちもそれなりに有る。……が、直ぐに払拭。今は対戦相手、敵なのだから。

 

 

「青根さん」

「!!」

「………………」

 

 

そんな中、新たな来訪者が来た。

伊達工、鉄壁の1人青根。

言葉を交わす訳でも無いが、ただただ目だけで会話に入ってきている様にも思えた。……当の本人は本当にただ、たまたまこの場に来ただけなのだが、それはまた別の話。

 

 

本命と呼ばれる強者たちが、日向の言う危険地帯に集ったのだ。

 

 

 

「ふ―――――そうだな。いう通りだ。オレは未来を視れる訳ではない。知れる訳でもない」

 

 

 

牛島が笑った。

それに驚くのは、及川や岩泉だ。

 

彼が笑う所を見た事は一度もないから。

 

見たい訳ではない、が……試合に勝っても一度も笑った姿を見ていない。

そんな男が笑った事に驚きを隠せない。

 

 

 

「だが、オレ達が勝ってきたのも事実。――――だからこそ」

 

 

 

そう言うと、牛島は全員に背を向けた。

 

 

 

「―――誰であろうと、受けて立つ」

 

 

 

王者の誇り(プライド)を胸に、牛島はそれだけ言い残すと去っていった。

 

 

岩泉、及川も同様に。

それ以上は言葉を交わす事なく、火神にも特に言う事なく、簡単な会釈だけ交わして去っていく。

 

 

「…………」

 

 

青根だけは、残って日向や火神に頭を下げた。

 

 

「あっっ、ど、どーも!」

「スミマセン、邪魔してしまいましたね」

 

 

ひょい、っと日向を連れてトイレの扉から離れる……と、別にトイレに来た訳ではない様で。

 

 

「……必ず、お前達を止める」

 

 

短くそう告げる。

止める、と宣言された以上畏縮してるワケにはいかない。あの場で、最後まで言えなかったのが悔しかったから。

 

 

「お、オレも負けません! 打ち抜きます!!」

「……全力で、やりますよ」

「…………」

 

 

 

そう返答すると、再度のお辞儀。

こちらもお辞儀で返して――――青根は離れていった。

 

 

「やっぱ、怖い……、言った通り、だろ? 誠也ぁ……」

「ふふ。トイレって言うより、翔陽に引き寄せられてる、って言うのが正しいのかもね? 翔陽がトイレ行こうとしたから、そこに集まった、みたいな?」

「うげぇ!? な、ならオレどーしたら良いんだよっ!」

 

 

そんなワケあるか! と抗議する日向だったが、火神は不敵なままだ。

 

 

「……バレーで相手を倒せば良い。それだけだ」

 

 

そう、倒す為にここに来たのだ。

そして、今日のこの場所は強者しかいない。全員いる場所なのだ。

 

日向はそれを思い出した様で、顔にあった怯えの色は全部一蹴。

 

 

「! おおよっ!!」

 

 

元気よく返事をして――――そそくさとトイレ内へと入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トイレの大決戦! を終えた後も当然バレー関係。

他のチームの試合を見るのも重要な事だからだ。

 

 

烏野(ウチ)は3試合目だったよな?」

「おう。Aコートで伊達工の後だな」

 

 

そして、試合も少し空いた後。他のチームを見る事が出来る良い時間だ。

 

 

澤村は軽くコートを見渡す。

大きな仙台市体育館のメインアリーナにはA,B,Cの3つのバレーコートが備わっており、3つの試合、合計6チームを見る事が出来る。

 

 

「ん、第1試合はAコートが白鳥沢、Bコートが青城。おっ、Cコートは【女王】が来たな」

 

 

菅原がコートを見下ろし、目立ったチームの名を連ねていくと―――。

 

 

「女王、ってなんですか?」

 

 

日向が喰いついた。

響きが気に入ったのだろうか? 王者の女性verだし。

 

 

「あれ? 知らない? もう何年も連続で女子の代表やってるチームだよ」

「翔陽……知ってる筈だけど。中学時代の時、女子に混ざってやってて、あそこに行く、って先輩や同級生何人かいたじゃん?」

「え、そーだっけ?」

 

 

菅原の説明、その前に女王と言う事は、宮城県で一番強いと言う事。つまり一番強い女子チーム。

男子メンバーがおらず女子に混ざって練習させてもらってた事も多数あるから、その手の話題は幾らか上がっていたんだけど……。

 

 

「ははは。なーんか目に浮かぶ。女子相手であがっちゃってたか、若しくはバレーやれる貴重な時間でもあるから、夢中になり過ぎてた、って所かな?」

「流石菅原さん! どっちも正解です」

 

 

わー、とパチパチパチ、と拍手喝采すると、日向が怒った。

 

「うぅ、うるさいなっ! しょーがねーだろっ!!」

「はっはっは。まぁ、今は普通にバレー出来てるもんな。全力で」

「アス!! 今ですよ、今! 昔にはもう戻れません! 今を全力です!!」

 

 

それっぽい事を言って誤魔化してる間に、女王のメンバー達が全員出てきた。

 

 

それと同時に、その高校名の大合唱が始まる。

 

 

「あれが女王。―――新山女子高校だよ」

 

 

スラっとした身体。

無駄な肉など1つもなく、精錬された姿。

勿論、歳相応の異性への興味と言うモノはあるから、アイドルの様な女の子が、テレビに映ったりすると、興味深々になる。……だが、彼女達の美は、また違う種のモノだと思えた。

 

 

「わぁ……、モデルみたい………」

 

 

谷地が言う様に、モデル体型。

ただ、バレーで見せる、魅せる身体なので、美しさの中に威圧……力強さを感じられるのだ。

 

 

「凄い……、なんか、強そう……」

 

 

女子相手には幾らかやってきた。

おばちゃん相手にも、ママさんバレー相手にも、烏養前監督の元では、女子大生たちともやってきた。

それなりには知っているつもりだったのだが、それが甘々だった、という事を痛感させられる。

 

常勝高校と言って良い、宮城県女子バレーの女王 新山女子高校のメンバーは、誰もが凄まじい。凄まじい美女軍団、という訳だ。

 

 

そんな美女軍団の中に、驚くべき人物が声をかけ始めた。

 

 

「あっ、あれだ! おーーーい!!」

 

 

 

女子に免疫ゼロじゃ!? って言いたくなる男……田中。

比較的慣れている清水や同じクラスの女子相手ならば、何とか会話になるかもしれないが、初対面相手、後輩の谷地であっても、声を一切掛けられなかった事だってあるから。

 

それらが有るからか、あまりにも自然にフランクに声をかける田中の姿はまさに異常!? っと、割りと失礼な事を考えてたりするのである。

 

 

「叶―――!」

 

 

と、名を呼ぼうとまでしたのは良かったが、試合前で気合と殺気立っている女王の足を止めようとする無礼者? を赦す訳もなく。

 

 

 

 

「「――――――」」

 

 

 

 

先頭を歩いている、チームを率いているであろう主将と、副主将だろうか、振り返ってギロリ。

 

 

「ホェッ!??」

 

 

一瞬で、一発で田中を黙らせてしまったのである。

 

 

「ふおおおお!! 田中さん!? 女王に気軽に話しかけようとしてました!?? まさか、知り合いがっ!??」

「だから、知り合いって意味じゃ、翔陽だって話した事ある人いるって。結構失礼だぞ、ソレ」

「う、し、仕方ないだろっ。……忘れちゃってるんだし……」

 

 

本当に思い出せない様なので、火神はこれ以上追及は無し。

中学時代の話で、2~3度、女子の練習試合、合同練習に付き合った時に会った事柄なので、仕方ないと言えばそうなのかもしれない。

 

ただ、火神の場合は別だった。

 

何故なら、そこで知り合った――― 一緒に練習した相手は、良く知る人物だったから。

 

 

「女子を忘れるなんて、風上にもおけんやつだぞ、日向!」

「うぅ……」

「まぁ、それはそれとして! どうだ、聞いて驚け、見て感じろ! オレは新山女子の次期エースを育てた男!! ―――と言っても過言ではないのだっ!」

「えええええええ!! ほんとですかーーーー!!?」

 

 

さっきまで しゅん……としてたのに、もう立ち直った。変わり身の速さはすさまじい男日向、である。

 

それ程までに田中の発表が強烈過ぎた、というのもあるだろう。

何せ、宮城県最強の女王を育てた、となると……。

 

 

でも、ズバッと切って捨ててくる。

 

 

「いやいや、過言だべ」

「昔スポ少で一緒だった、ってだけだろ?」

「!!!」

 

 

昔の話、新山女子に居ると言う話を事前に知っていた澤村、菅原が一蹴。

図星だったのか、田中は引き攣った顔をしていた。

 

 

でも、その流れを変えるのは火神だったりする。

 

 

「え? でも、田中先輩に教えて貰った―――って聞いてますよ」

 

 

まさかの想定外からの一言に、一瞬場が止まり。

 

 

「へ??」

「は??」

「マジか!? なんだとっ!??」

 

 

皆一斉に火神の方に驚きながら見ていた。

 

 

「いや、田中がなんで驚くんだよ。自分で【育てた】って言っといて。あっ! あれかな? 何で火神が知ってる? かな? いや、でも一緒に練習してたって言ってたし……でも、よく田中だって解ったな? 結構ありきたりな苗字なのに」

「あ、ありきたりて……、スガさんヒドッ」

 

 

確かに、田中と言う苗字は、日本でもトップクラスに多い苗字だと言って良い。佐藤や鈴木には敵わないかもしれないが、それでも多い。

 

田中と言う名から、烏野の先輩である田中龍之介に何でつながったのか? という素直な疑問が菅原にはあって、澤村もそれは同様な様だ。

苗字がありきたり~、的な弄られ方は田中も身に覚えがあったりするが、当然の如く、先輩方には頭が上がらない。

 

 

「あ、はい。【龍ちゃんは 強豪行く、烏野絶対行く】って、先輩は言ってました。田中先輩から聞いた、とも言ってましたしね。田中先輩は、名前が龍之介ですし。……ある意味カマかけになっちゃったのかもしれませんね。100%の確信を持って、という訳ではないので」

「カマかけにしちゃ、自然過ぎるよ、火神。パーフェクトな駆け引きってヤツ?」

 

 

苦笑いする火神と菅原。

そして、火神は、改めて田中の方を見て。

 

 

「えと―――天内先輩、ですよね?」

 

 

確認として聞いてみた。

 

勿論知っているし、解っている。間違いないと断言できる。

 

でも それは知り過ぎてておかしい! とならない範囲内で結構心掛けたり、ストッパーを無意識下で引いたりしているのだ。

 

今回は、清水の時の様に 実際に中学時代に会った事がある事、田中(龍ちゃん)の事も聞いていると言う事も合わさった為、ちょっと隙があったかもしれない。

 

天内に火神は田中の事をフルネームで聞いた訳ではないから。

 

 

「わっはっはっはっは! そうだ! 叶歌だ! 天内叶歌! オレが見出し、育ててやったのだ! さぁさぁ、火神も傅いてやろうぞ!?」

 

 

火神も知ってる、実は過言じゃなかったかも? と、勢い付いた田中は盛大に大笑い。

 

 

「田中が難しい単語言ってる」

(かしず)くって意味解って言ってんのかなぁ?」

「おとーさん相手に、そりゃ悪手と言うか、ミスマッチと言うか……」

 

傅く。

かしず‐く。

 

世話をする、大切に育てる、保護をする~ などなどの意味があるが、まさにお父さんの名を欲しいままにしている(いない!)火神にこそ使うに相応しい言葉だと思うが、田中は解っているのか解ってないのか、変わる様子は無し。

 

ただただ、間違ってなかった! と大喜びしていた。

 

 

「いや、何処で繋がってるのか解らないもんだな、火神。そりゃ、宮城なんか狭いか」

「あははは……ですね。田中先輩が新山女子の人を呼ぼうとした事も合って気付けたんですが」

「だべだべ。……やっぱ、凄かったりする? 女王って。相手してみて(・・・・・・)

 

 

菅原の興味は女王を育てた田中! ではなく、実際にお相手した火神に向けられている。

ただ、菅原の言葉はあまり良くなかった。

 

 

【相手してみて】

 

 

というのはあまり良くなかった。

 

 

 

 

 

 

「――――菅原。これ、武田先生から」

 

 

 

 

 

 

丁度傍にやってきた清水が、頼まれた物を菅原に渡している。

何だか、雰囲気が黒く感じるのは気のせいだろうか?

普通だと思うが、何かが違う。違う気がするのに、確信出来る気もして、色々混乱する。

 

 

「お、おう! サンキュー清水。??????」

 

 

ただ原因系統が一切わからないので、何も言えないが。

 

 

それは兎も角、わかってない筆頭、当然な火神は続けた。

 

 

「天内先輩は、……そうですね。技術も凄いと思いましたし、何より長身の選手でしたので。当時のオレも170超えてたんですが、オレよりも背が高かったです。合同練習中の選手の中でも一番背が高い選手でしたよ」

「うはー、スゲーな……火神より高かった、かぁ。火神も180あんべ?」

「はい。180丁度、ですね」

「……下から見た感じ、やっぱ女王のチーム、背の高いの多いし……。チビ男子はどうすれば良いんだよ、って感じだよなー」

「あっ、菅原さん! ソレ(・・)翔陽の前で言うのは………」

 

 

少し遅かった。

身長を人一倍気にしているのが日向。

 

 

「うぅ……チビ……、で、でもオレは跳べる。飛べる……、羽をはやして、飛ぶんだ……。この、たかい、たかいそら……青空……」

 

「ああ……」

「あ、不味かった……? いや、でも月島とかに色々と……それに、合宿でも色々あったし……」

「えと、キーワード? に反応するっぽいんです。その意味と言うより。……つまりチビって言葉だけならまだ、ムカつく! で感じなんですけど、【チビ男子】って言うのは……」

「成る程」

 

 

いじけ出した日向について、火神は説明。

単なる身長の話なら、ここまではならないのだが、《チビ男子》と言われるのはハートがかなりきつくなる。

 

昔、小学校・中学校の頃、その手の弄りはやっぱりそれなりには、あったから。相手は男子ではなく……女子。結構可愛がられてしまった。

 

女子バレー部の中で無かったのは、一先ず幸いだったが。

 

 

「ぐるおおおおおおお!!!」

 

 

そして、もう1人。

 

 

「チビがなんだ!! オレはソンナモン、どーって事ねぇ!! 全部拾ってやるぜ!!」

 

 

身長を人一倍……いや、或いは日向より背が低いから、更に倍くらいは気にし出してる男、西谷も加わってしまった。

 

それにしても、何を拾う(・・)んだろう?

 

 

 

 

「はいはい、お前ら。思い出話はその辺にしとけ。―――白鳥沢、青城の試合、始まるぞ」

 

 

 

そして、澤村のこの一言で、何とか終息。

王者とその本命対抗馬である白鳥沢と青葉城西の試合。

 

それを浮ついた気持ちで見る訳にはいかないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果。

 

 

白鳥沢 vs 荒井川

セットカウント

2-0

 

25‐15

25-12

 

 

青葉城西 vs 新山工

セットカウント

2-0

25‐20

25‐21

 

 

順当に2回戦へと歩を勧めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、烏野 vs 条善寺まで後少し。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。