王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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うちわ0096様より、火神くんのイラストを描いて頂きました!
ありがとうございます!


【挿絵表示】





原作で言う12巻終了です!

まだまだ先は長い……(  ̄- ̄)


第140話 目前

合宿にも熱が入る。

 

 

 

当然ながら、熱が入らないワケが無いが、より熱く熱く、高く高く、お互い高揚し高め合ってるからこそ、その熱量が常に向上し続けている様に、感じるのだ。

 

少なくとも―――外から見ている限りでは、そう思う。

 

 

「おお!! 今の凄いカバーでしたね! 流石火神君です。日向君と影山君の速攻のミス、見事にカバーして見せましたよ!」

「ありゃ、予想してたんだろうな。……そろそろ失敗する頃じゃね? って感じで、アタリ(・・・)をつけてたんだと思うぜ先生。あんな、早い攻撃を目で見てからフォローに入る、何て出来る訳がねーからな。………その辺の読みは確かに流石だ。因みに、その辺の読みは澤村も上手い」

 

 

全体的に見れば、ディグの成功率、レシーブAパス返球率等は、守備を得意としているリベロの西谷を始め、澤村や火神が拮抗していると言って良い……が、ここ一番の流れを持ってくる、呼び寄せてくる、といった場面での1本。ここしかない、頼みます、といった1本を拾う、上げてくるのは火神だ。

嗅覚がとんでもない、とでも言えば良いのだろうか、やってる事は説明が余裕で出来るのに、色々と説明が出来ないのがコーチ泣かせと言うモノだろうか。

 

 

「んで、色々とフォローしてくれる、背を守ってくれるから、思い切りやれる……って事で、アイツらの変人速攻成功率も徐々に向上していってやがる」

「今日は、8割を超えましたからね! 何だか良い流れが来てる様に見えます」

「まぁ、な(―――良い流れ(ソレ)を、まるで通常運転の様にしようとしてる、って思っちまうのが怖いトコだよなぁ、オイ)」

 

 

成功率を上げるには、反復練習しかない。

試合のつもりで練習をする。公式戦のつもりで練習試合をする。もう後1点しかない、1点取られたら負ける。常に緊張感を持って練習をする。

口で言うのは容易いが実際に実演出来るか? と問われれば限りなく難しいと言わざるを得ない。

 

だが、目の前で躍動している者たちにとっては、まさに愚問と言って良い。

 

 

 

「行ける。―――――いや、行くぜ(・・・)、先生」

「! ………はい!」

 

 

 

何処に? 

とは武田は返さなかった。

 

聞くまでも無い、聞き返すまでも無い、確認するまでも無い。

 

まだまだ遥か彼方先。霞がかっている頂きへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿も終わり、あの熱が冷めるか? という心配は皆無だった。

 

 

 

 

日捲りカレンダーが捲られ、代表決定戦10月25日まで 後僅か。

 

 

 

 

 

 

「(――――……無回転を意識、でも威力が無かったら意味ない。狙った場所に、……あんな風(・・・・)に)」

 

 

 

 

 

個人練習でサーブを磨く。

精度・威力向上を目指す山口。

 

練習の中でも特に気合と力を入れているのがサーブだ。……他が疎かになっている、という訳ではないが、自分の持てる武器を更に研ぎ澄ませる為に、より力が入っている、という事だ。

 

 

頭の中で、理想像をイメージし、直ぐ横で時折 見せてくれるその姿を目に焼き付けつつ――――自分の中では自分専用にカスタマイズ。

あの日に、言われた事を……自分だけの自分だけが出来る無回転の軌道をイメージし……。

 

 

「うぉっ……!? 山口―――! 今のヤベェ! 気合入れてなかったら、獲れてねーヤツだったぞ!!」

「!! は、ハイ!!」

 

 

無回転サーブ、ジャンプフローターサーブを打った。

サーブを試合中に打つ事が出来ない西谷(リベロ)が只管サーブレシーブの練習をしていたから、タイミングを計って、西谷の居る付近へと狙いを定めて―――……西谷は体勢を崩しつつも見事に拾い上げてみせた。

 

 

「クッソ……(威力が思ったより出てない。……フォームと回転殺す事ばっかり気にして、跳躍(ジャンプ)が疎かだった)」

 

 

何が悪かったのか、瞬時に把握する。

頭の中のイメージと現実に起こったイメージの差、その違いを把握する。

 

最初こそ、助言を求めたり、時折口を挟んだりしていた火神だったが、今ではその必要は全くない、と言っても良い程だ。

 

 

「―――……うーん、山口の場合 自分の事 過小評価が過ぎると思うんだけどなぁ。自信もってがつんっ、といけば……。普通に今のは取りにくいサーブだけど。西谷先輩がスゲー、だよ」

「強烈な才能を前に、色々と削がれてないダケ、凄いデショ。山口(アイツ)は」

「ツッキーが言うと、メチャクチャ皮肉って感じがして、何かヤだ」

火神(おとーさん)が、ツッキーって呼ぶ事も、ヤだから安心して」

「いや、何がどう安心なのか分かんないけど。……その辺はおとーさん呼びが定着したツッキー自身のせいでもあるから」

 

 

同じくサーブ練習をしている月島との会話も思った以上に弾む。

月島も、表には出さないが相応の気合が入っているのが解る。

 

表に出さないが、解る事はある。

月島の指先に巻かれたテーピングだ。

最近ずっと巻かれているが、巻きっぱなしと言ったワケではない。そんなずぼらな性格じゃないし。

 

烏野以外ででも、練習を重ねている事を……火神は知っている。知ってるからこそ、自然と笑顔になる。

何で知ってるのか? 知ってる方が異常なので(月島から当然ながら教えて貰ってない)口には出さないが。

 

 

「ただ、怪我(・・)だけは注意しような、お互い」

「………ふん」

 

 

火神は、知らないフリはしつつも、それと無く匂わせたりはしていたりするのである。

 

散々月島には色々とヤラれている分、ちょっとした仕返しの気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も更に進み―――9月25日(金)

 

 

 

今日は町内会チームがメンバー揃ってくれたおかげで、練習試合が行われている。

 

 

「今日こそ、かがみんぎゃふんっ! だぜ!」

「ぎゃふんて。今日日聞かねぇよー、滝ノ上」

 

いつも応援に駆けつけてくれるメンバー達中心のいつものメンバー。

そして、選手達の成長を肌で感じてくれるメンバーでもある。

 

 

 

 

「うおっ! 田中、ヤベーな! ジャンプサーブ十分モノにしてんじゃん!」

「アザーース!!」

 

 

烏養がコーチとして入ってきたばかりの時とは比べ物にならない。

粗削りだったが……、否 今も確かにまだまだ粗削りではあるが、底が全く見えない。

 

 

「くぅぅぅ、オレの必殺サーブが悉く……」

「そりゃ、もうジャンフロは烏野(アイツら)ん中じゃ、珍しくもなんともねーし」

 

 

以前は存分に翻弄してくれた嶋田のジャンプフローターも、練習相手が居る。火神は勿論、山口も日に日に威力・精度共に増してきているから、対応できつつあるのだ。

 

 

「んでも、やっぱ目立って苦手そうなのは、西谷だよな……」

「リベロ、って立ち位置もあって、かなり目立つよな。オーバー苦手だって」

 

 

散々苦手意識があり、散々練習を重ねてはいるモノの、やはり目立ってしまう西谷。

だが、それはある意味仕方が無い事なのだ。

 

西谷の場合、回転レシーブと言ったアンダーを使用したレシーブの技術が極めて高いが故に、まだ粗削りで不格好なオーバーハンドが余計に目立ってしまう、と言う。

 

 

「オーライ!」

「チッ……!! 影山スマンっっ!!」

 

 

Aパスで返球出来なかった事、セッターを動かしてしまった事。

音駒の守備を常に意識している、音駒の品質を意識している。……音駒の夜久を意識しているが故に、西谷は何度も何度も舌打ちをする結果になってしまうのだ。

 

 

「ひぇっ! 西谷さんの舌打ち、何か迫力ありますね……」

「………だね。悔しさがスゴク伝わってくる」

 

 

外で見ていた谷地は、体格こそチームで一番小さいと言うのに、存在感はそれに反比例している。その圧に驚きを隠せれない。

 

清水も清水で、普段の西谷ならスルー一択かもしれないが、バレーに集中し、自分を、自分達を高めている姿を見るのは好ましい限りなのだ。

 

本人の前で言うとつけあがるから、絶対に言わないが。

 

 

「田中さん!」

「っしゃあ!!」

 

 

繋がった(ボール)

影山であれば、仮にAパスじゃなくてもある程度の高さが有れば、全く問題ない。

そう言わんばかりの、トリハダハイ・セット。

 

田中も田中で、影山であれば必ず上げる。此処しかない、此処がベストだと思う場所に、必ず(ボール)を持ってきているのを知っているから、信じて入っていける。

 

 

信じて跳ぶ事。

 

 

それは、最早日向・影山の代名詞ではなくなっている。

烏野で空中戦を行う全員に出来る、言える事なのだ。………一部、ひねくれ者が居るが、それはそれで大丈夫、である。

 

 

 

「ブロック2枚!」

「フォロー!!」

 

 

滝ノ上、菅原がブロック2枚付いているのを田中はハッキリと視認。

その後ろ、ライト側には―――レシーブの鬼の1人火神が控えている。

一挙一動、全てを見据えている様な視線を田中は感じていた。

 

 

「(度胆……抜いたらぁー――!!)」

「!!」

 

 

腕を、肩に捻りを入れながら、それでいて威力は決して殺す事なく関節を柔らかく、鞭の様に放つ。

ストレート側に居る菅原は勿論、クロス側に居る滝ノ上も交わして……着弾!

 

 

「アゥ―――トぉぉぉ!!」

 

 

完全に見送ってしまったコースだった。

入っていても不思議じゃない程のモノを、火神はそこに感じる。

 

 

「超インナー……」

 

 

木兎が初めて見せた時は、ここぞと言う場面で反応出来たと言うのに、思わず魅入ってしまった程の完成度を、そこに見た……が。結果はアウトだ。

(ボール)2つ分は外に着弾した。

 

 

「くっそーーーー!!!」

 

 

田中は地団駄を踏んでいる、が見る者が見れば、驚く。

木兎と散々練習試合を重ねてきたが故に、あの取りづらいコース打ちを覚えている。身に染みている。

 

 

「スゲーな。アウトだったけど、あとほんの少しで……」

「うん。……威力は、やっぱ木兎の方があるかもだけど」

 

 

澤村と東峰も同様だった。

だが、それを澤村達は田中に言ったりはしてない。

無粋な真似はしない。

 

田中自身が、全くと言って良い程、満足していないのだから。

 

 

「今のは、肩が柔らかく無いと出来ない、ってやつ、ですか!?」

「…………うん。梟谷のキャプテンも同じコースの打ってた。ただ、あの時は3枚ブロックの内側で、今回は2枚ブロックだったから、厳密には違うかも知れないけど、惜しい……ね」

「ふぉぉぉぉぉ!」

 

 

清水は、谷地に対しては誠実に正確に返事を返しつつ……田中に対しても西谷同様の気持ちになったが、本人の前では当然何も言わない。

ただ見守るのみ、である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習試合は続き、影山のサーブ。

 

 

「………あ~~、嫌なヤツのターンになった」

 

 

影山の強打はもう当然だが身に染みている。

特に、ネットを挟んで火神とやり合うパターンの場合は威力が倍増になる(と錯覚)程だ。

あのあくどい顔が歪み、笑み? を見せ始めれば要注意。

 

それを解ってるのか居ないのか、日向は全力で後頭部を守っている。

因みに、基本日向&影山はセットでのローテだ。

 

 

 

 

「(……行くぞ!)」

「――――来い」

 

 

 

 

あからさまに、狙いを定めてきている影山。

影山は精度も半端じゃないんだから、ある程度狙いどころを狙え~~と言いたい所ではある。

 

守備力高い相手を選んで狙うのは、愚の骨頂―――! と言いたい所ではある、が、練習試合だ。精度と言う意味では、火神を狙ったとしてもその練習にもなる。正確に狙えた、と言う事であれば他を狙う事だって出来るのだから。

 

 

そして、影山のサーブも烏野ではトップクラスだから、良い練習になるのも事実。

 

 

―――何より、一番は無粋な真似はしたくない、と言うのが本音かもしれない。

 

 

「――――ッ!!」

 

 

ドンッ! と打たれたのは極めてエグイコース。

サイドラインぎりぎり、エンドラインもギリギリ、コートの(コーナー)部分。

 

正直、狙われていると言うのが解って無かったら―――。

 

 

「んんんッッ!!」

 

 

如何にレシーブが得意な火神でも解らない。

狙ってきてるのが解った。視線も見えた。だからこそ、反応出来た。

影山クラスでどこの誰を狙っているのか解らない打球だったら、解らない。

 

 

「ちっ……!」

 

 

 

解るのは、今回はバッチリ捕られてしまった、と言う事に尽きる。

 

Aパスとはならなかったが。

 

 

「スミマセン菅原さん!!」

「オッケー! オーライ!」

 

 

影山程の技量や派手さはない。

だが、基本は十分出来ている菅原。

 

そして、乱れた時こそ基本に戻ってエースに託す―――と言いたい所ではあるが、今は練習試合。

 

 

「(ここ、試したい―――!)」

 

 

練習で出来ない事は試合でも出来ない。

やろうとしなければ、そもそも出来ない。

 

無理、出来ないと思う前に、1歩前に進む。

それを、学んできた。

 

何よりも、トンデモ1年達に比べたら、この程度はまだ温い。

 

 

やや離れた位置からの――――セットアップ、滝ノ上が入ってきてるのが解った。滝ノ上自身はたまたまなのか、単なる囮なのかはわからないが、その姿と打点をしっかりと見ての平行トス。

 

 

ぎょっっ!

 

 

としたのは無理もない事。

だが、如何に現役を退いておっさんになりつつある滝ノ上とはいっても、先輩だ。大先輩だ。烏野町内会バレーボールチームの一員! 栄えある烏野のOB。

 

 

「んんっっ、がーーーぃ!!」

 

 

最初打つ気無かったでしょ? と思われても良い。

 

何とか決める事が出来たから。

 

 

 

「うぉっ!?」

「スガの強引なセット―――!? 初めてかも」

 

 

 

影山で見慣れているせいか、どんなプレイでも強引なプレイと言うのは最高峰の変人速攻だ、と思っている。

だが、長らく共にプレイしてきた菅原となれば話は別だ。

 

レフト一択に任せたオープンでも良い気がする場面で、強気の速攻。

おまけに。

 

 

「ビックリしたわぁ! 今の!」

「ナイスキーです! 滝ノ上さん!」

「うははは! 確かに後ろから見たら、丸わかりってな感じの慌てっぷりだったな! それに、流石かがみん! 影山のアレ取っちまうとか、マジでやべー」

「アス!」

 

 

決めた後のやり取りを見ても、突発的に行った事であり、示し合わせたセットプレイ、と言う訳でもない。

ほんの一瞬の刹那の時間しかない状況下で、視野を広く持ち、あの場で最高の攻撃を菅原が選択、そして成功させたのだ。

 

 

 

「―――負けてらんねーぞ、絶対」

「……当然」

 

 

菅原のその姿勢が、常に上を向いている姿勢が、より澤村達の熱を入れる。ギアを上げる切っ掛けとなる。

 

 

 

「翔陽、飛雄。さっきのセット。……成功率9割以上だ」

「っしゃああ!!」

「おう!」

 

 

新型・変人速攻の完成度も極めて高い。

 

 

「最後の1つは、(ボール)が滑っちゃったからですから。ほぼ100%、ですね!」

「ああ。悪い運気、ってヤツも練習で払拭して欲しいモンだ。(ボール)が滑ってミスるなんて、どんな時でも起こりえるからな」

 

 

そして―――、重ね重ね練習を続けている火神の武器も威力・精度共に上げ続けている。

 

 

 

 

「くわっっ! 左打にスイッチされると、ブロック困るよ、かがみんっ!」

「ヤベーよな! 獲る方も大変だよ、全く。ツッキーもそう思うだろ!?」

「………ヤメテ下さい」

 

 

火神スパイクの左打。

右程は精度・威力共に劣るが、両手撃ち(スイッチヒッター)と呼んでも構わない、と思える程には合わせる事が出来る様になってきた。

 

 

「はぁ―――、咄嗟に右と左を変えただけで、相手は混乱するんですねぇ……」

「普通に考えりゃ、バレーで両利きでプレイする、なんて聞いた事がねぇ。無理に両手練習するくらいなら、利き手を鍛えに鍛えてコースの打ち分けや強弱やら緩急自在にすれば良いだけだからな。………ただ、ありゃ、火神の器用さと寸分違わず精密なトスを上げれる影山がいてこそ成立するヤツだ」

 

 

苦笑いをしながら答える烏養。

ブロックは確かに混乱する。外から見ていても解る程に。

 

 

「ブロックは、厳密にいや相手の利き腕の正面に跳ぶんだ。それをここぞ、ってタイミングでスイッチされちまったら、肩1個分変わってくる。空中戦はほんの一瞬の攻防だ。ほんの些細な違いが致命的な隙に成り得る。……加えて、右打ちの回転で慣れてる所に、左打ちの回転がくりゃ、ブロッカーだけじゃなく、レシーバ―泣かせでもあるな」

「ほおおおお!」

 

 

 

武田はメモを取る手の回転を上げた。

烏養は苦笑いを続ける。

 

武器を搭載し続け、飽くなき探求・鍛錬を続けて、進化し続けていくカラス達に身体を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

そして―――10月。

 

 

 

最後の梟谷グループとの合同練習。

 

最後の最後、最後の1滴まで出しつくし、後は片付けるだけ。個人練習もいい加減終われ! と怒られたので、本当に帰るだけとなった。

 

 

「へーーっくしっ!!」

「! 翔陽、こんな時期に風邪とかひくなよ? いやマジで」

「解ってるってば! うぷっ!?」

 

 

動いて動いて汗まみれ。

身体が火照って暑いとさえ思っていたのだが、もう10月だ。汗を掻いてある程度時間が経てば――――もう身体は冷えてくる。

 

なので、火神は汗拭きタオルとジャージの上を日向の頭から被せる様に渡した。

 

 

「汗で冷える前に、上着ないから……」

「あはは……、研磨さん。それ、実はこれまでにも結構言ってまして。今回も言ったつもりなんですが……」

「子供みたい……」

「なんだとっっ!!」

 

 

一緒に片付けをしている孤爪が苦笑いをしながら日向の子供は風の子っぷりな姿を見て……改めて、自分じゃ無理、と思っていた。

 

 

「それにしても、この辺りは結構冷え込むんですね。天気予報の気温より、体感的に低いって感じるくらい」

「だよなー、東京でも夜は寒いっ!」

「ん………、ふつー、だと思うケド。宮城(そっち)に比べたらどう、かな……?」

 

 

東北と関東を比べたら、イメージ的には東北の方が寒いと言えるだろう。

だが、東北を主戦場としてる2人の意見を考えてみると……どっちも寒い様だ……と割と嬉しくない、いやいや、どうでも良い情報を孤爪は手にする。直ぐに忘れるが。

 

 

「でも、10月だ! もう直ぐ試合だ!! 代表決定戦だ!!」

「……おう! 分かったから服きなさい」

「……ふふ。そうだね」

 

 

いつまでたっても、頭からぶら下げた状態のままでいる日向に苦言を呈する火神と、それを見て軽く笑う孤爪。

 

 

「そうだ。最近……よく思う」

「??」

「お、なになに!?」

「翔陽達。翔陽とか、誠也とか、面白いからさ。練習じゃない試合、やってみたいかも、って」

「え!!」

 

 

孤爪の言葉を聞いて、嬉しそうに手を上げる日向。

そんな中、いつもより――――と言うより、日向よりリアクションが大きく、表情に出ているのは火神だったりする。

 

 

「え……? どう、したの?」

「あ、いや……。研磨さんって、オレの事 チートとか、ズルは駄目だ、とかよく言っていたので………。面白いって言ってくれたのが何だか嬉しく感じちゃって……」

「………そこまで感動しなくても良いじゃん」

 

 

目に涙を~~まではいかないが、感激のあまり目を光らせてる火神を見て顔を孤爪は顰めた。あくまで比喩的な表現に過ぎないのに、と。

当然、孤爪も楽しんでる風なのは解ったから、乗っかる事にした。ゲーム関連な用語が加わってる内容だから、饒舌になると言うものである。

 

 

 

「……まぁ、不正者(チーター)を見つけたら、即通報してBANに持っていくのも選手(ユーザー)の使命の1つだとは思ってる。それもまた、楽しいのかもしれないし。正攻法で倒すって言うのも」

「ヤメテ下さい! 不正なんてこれっぽっちもしてません! 混じりっけなしの正攻法です」

 

 

「研磨のヤツ、なんの会話してんだ?」

「バレー……じゃねーだろーねー。チーターだのバンだのユーザーだの聞こえてくるし。多分、モンスタをかがみんしてる、って言ってたからゲームの話じゃね?」

 

 

火神と孤爪の話は、聞こえていても何言ってるか解らないのである。

 

 

 

 

「研磨が面白い! って言ってくれんのオレも嬉しい!! 絶対やろーぜ!」

 

 

日向も子供の様に飛び跳ねながら、孤爪と火神の間に割って入った。

孤爪は日向の突進? に驚きながらも、軽く笑いながら――告げる。

 

 

 

「うん。……やろう。―――負けたら、即ゲームオーバーの試合」

 

 

 

 

不敵に笑う孤爪。

その姿に、表情に身体が騒めくのを日向は感じた。

 

まだ、音駒と烏野では 戦績を言えば音駒が上だ。勝利する事は出来た。勝ち数も増えてきた。……だけど、圧倒的に負け越している。

 

だが、それは全部―――練習試合の話。

 

 

 

 

「【もう1回】が無い試合、だな」

「春高。キラキラでピカピカな体育館で。―――やりましょう、最高の舞台で。ネコとカラス。……ゴミ捨て場の決戦を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに決意を新たにする。

互いに上がって来い、と鼓舞し合う。

それはいつもいつでも騒がしい木兎も例外ではない。

 

少々動機が不純な気がするが。

 

 

「ヘイヘイヘイ、ツッキー!! お前ぜってーウシワカ止めてこいよ! 勝って来いよ!!」

「……なんでですか………」

「なんかゴメン」

 

 

近くに火神はいない。

日向もいない。

 

必然的に、相手をするのは、月島(自分)か……とげんなりした様子で訊き返す月島。

何せ、とことんまで追い詰めた。体力オバケじゃない、バケモノ達にはやはり及ばない。イラつきながらも、持てる全てを出し切ったと言える。

 

つまり、ヘロヘロな所に、テンションMAXな木兎に来られたら、想像を絶するくらいには疲れるのだ。

改めて、木兎(この人)といつまでも練習(騒ぐ)……悪寒が走る思いである。

 

月島に謝るのは赤葦である。

 

この場では誰よりも木兎の事を知っており、誰よりも合わせてきた。だからこそ、気持ちは解るのだ。

 

そんなそれぞれの葛藤の事なぞ、知る由もなく木兎は意気揚々と続けた。

 

 

「だってよぉ! オレは今、ツッキーに圧勝中だから! ツッキーがウシワカに圧勝したらオレはウシワカに圧々勝じゃん!!」

「「スミマセン。ちょっと意味が解りません」」

 

 

一概には言えない。

戦いには相性という分野もあるのだから、本当に一概には言えないのだが、いきなり王者と比べられるのも困る月島。

 

 

「でも木兎さん。圧勝と言いますが、散々止められたじゃないですか。………火神に」

「むぐっっ!?」

「それに、呼応する様に、月島もブロックで阻む様になってきました。勝率は梟谷(ウチ)が上かもしれませんが、決して圧勝とは呼べないかもしれませんよ。白福さんに持ってきてもらいましょうか?」

「いらんトコじょうぜつか! 赤葦!! ………じょうぜつ、ってなんだっけ!?」

「―――木兎さんみたいな人の事ではないでしょうか」

 

 

合宿当初の時のスコアから、ぐんぐん目を見張る程の力をつけてきたのが、烏野だ。

当然、他のチームもレベルアップを図ってるのは解るが、この梟谷グループの中に入ったばかりの頃と比べたら……一番変化が大きいのは紛れもなく、このカラス達だ。

 

 

「くっそーーー! 火神(あのバケガラス)はどこじゃーーー!」

 

 

折角月島に絡んで上機嫌だったと言うのに、赤葦に落とされて、カラスに啄まれて………兎に角叩き落されてしまった。

普段ならば、しょぼくれモードに突入しても何ら不思議じゃないのだが、どうやら テンションはそのままに、絡む相手を変えた様だ。

 

 

 

「あ……、なんか悪い事したかな?」

「いえ。大丈夫デショ。おとーさんなら」

 

 

 

ふと、赤葦は自分がした事、木兎を押し付けてしまった様な気がして、罪悪感が生まれたが、全く問題ない、と月島に言われたので、納得する事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「―――東京体育館で会うぞ」

「ああ」

 

 

 

そして、烏野と音駒、澤村と黒尾(主将同士)の誓い。

 

 

「――ゴミ捨て場の決戦だ」

「オレ達にはラストチャンスだからな」

 

 

そう言い合うと、2人はゴツンッ! と拳を当て合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――それは帰りのバスでの事。

 

 

「え―――疲れてるとは思いますが、ちょっとした会議をしたいと思います」

「なんだなんだ田中~~」

「寝させろ~~~!」

「議題は、【何故、ウチの火神クンはモテるのか】で行いたいと思います。―――しっかり起きとく様に」

「イタタタタタタタ! 痛いです痛いです、田中さんっっ!!」

 

 

田中の隣、田中が隣に座った理由を漸く察した火神。

行きがけは、影山と相席だったのだが、別に席順決めてたワケでもないので、何ら気にも留めてなかったのが災いとなった。

 

 

「疲れてる後輩イジメて楽しいのかー」

「僻み妬みいれてんじゃねーぞーー」

「このはげー」

 

「悪口混ぜたヤツ誰だぁぁ! オレはハゲじゃねーー! 兎も角だ!! 丁度今、梟谷グループのマネちゃんズ達と、楽しそうに火神君は話していたのです! 彼の生態を、皆で等しく平等に、分け隔てなく、配布する事が出来るならば、我々にも恩恵が生まれようかと思われますが!」

「結果! 潔子さんからも恩恵が! 天の恵みを授かる事が出来るっ! 女神とは皆平等に有るべきなのだが、いかが思われるだろうか!」

 

 

田中に加えて西谷まで。

元気も極まれり、である。

 

 

 

「誠也、中学の時からモテてました! 背も高くて、勉強も出来て、何より良いヤツだからだと思いますっ!」

「よ、よけーな事いわな―――あた、あたたたたたたた!!」

 

「何か、どっかの攻撃みたいになってる」

「大変だね~、おとーさん。………んしょ」

「あ、ツッキーが睡眠モードに入ろうとしてる!?」

 

 

ヘッドフォンを耳に着けて、就寝モードに移行する月島。

と言うより、真面目に疲れてるので。非常に眠たい。

 

ここは、すかさず寝るな! と御叱りを受けて当然な場面に移行しても良い―――のだが、田中の尋問は続く。

 

 

「美女たちに囲まれて、ナニしてたんだい? 火神君!」

「な、何もしてないですってば! ただ、片付け手伝ったのと、西谷先輩が食堂に忘れてたタオル、預かっただけで」

「!」

 

 

なんと、火神が女子マネと話す切っ掛けは西谷が与えた? と判明した。

 

 

「おいおーーい、つまり西谷が悪いって事で決着じゃねーかー」

「冤罪事件だぞーー」

「げーはー」

 

「げーはー!?」

「ウグッッ」

 

 

結局は、発端は西谷だった事と……何より疲れ切っていた事も加わって、いつも通りに澤村の雷が、2人をあっという間に鎮圧して、最後の合同練習が本当の意味で、終わりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――代表決定戦、目前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(清水先輩、あの時ちょっと圧が凄かったよね………。美女は圧もすさまじい……)」

「(アレ、西谷のタオルの件、だったんだ………)」

 

 

 

 

実は、聞き耳を立てちゃったりしていた、烏野マネージャー達、である。

 

 

 

 

 


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