王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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漫画では、ほんの数ページしか描写されなかった一次予選後の合宿in音駒!

ショーセツバンにて、沢山描写されておりましたので、補填させて頂きました(*^▽^*)


これからも頑張ります!


第137話 音駒合宿

8月末 (土)

 

思う存分、バレーに打ち込む事が出来る夏休みももう後僅か。最後の土日。

 

烏野は音駒高校へとやって来ていた。

それは勿論、梟谷学園グループ内による合宿の続きだ。

 

梟谷は、全国出場チーム故に既に一次予選は免除されているが、他の、音駒、森然、生川、そして烏野の4校は、一次予選を見事に勝ち抜いてきて、この合宿の場へと戻ってきたのである。

 

前回の合宿の最後に、主将達が誓い合った通り。

必ず生き残ると誓い合った通りの結果を残し、この場へと戻ってきたのだ。

 

 

何処かほっとする気持ちを澤村は持ち合わせていたが、それでも決して表情には出すまい、と奥へと引っ込める。主将として情けない姿を皆に見せる訳にはいかないからだ。

 

何より。

 

 

「チワーーース!!」

「ッシャ……、またここで、あのセットを間近で見れる」

「音駒高校も思ったより遠かったな……、って、ホラ翔陽。毎度毎度バスん中に忘れモンしない」

 

 

いつも何処でも、どんな場面でも、いつも通り(・・・・・)を出す事が出来る優秀過ぎる後輩たちが居るのだ。

それだけでも背を叩かれる気分になる。

 

 

そして―――もっとも驚いた事が起きた。

 

 

 

「ヘイヘイヘーーーイ! 誠也&ツッキー、ヘーーイ! 今日もブロック跳んでくれーー!」

 

 

 

木兎もいつも通り、いつも通りの様子で、まるで同じチームメイトかの様に接してくる。初日からだ。

そして、それは火神にも言える事。会ったばかりの合宿初日から意気投合して競い合っていた姿はまだ新しい。

 

 

「アス!! 宜しくお願いします」

「たまには、断っても良いからね? 火神」

「おうよ。木兎、とうとうフラれて引かれるの巻。を見てみたかったりする。玉砕したー みたいな」

「お前ら、ヒデ――こと言わないで!! ウチの誠也は、そんなヒドイ事する子じゃありません!!」

 

 

赤葦と小見は火神側についてぼそぼそ、と言ってるが、はっきり言って聞こえてるので、意味がない。

当然、木兎にも聞こえているので盛大に憤慨。

 

 

「おい、それは聞き捨てならないな、木兎」

「そうそう」

 

 

何故か参戦する構えを見せるのは……烏野の澤村(主将)&菅原(副将)

 

 

 

 

「「火神は、烏野(ウチ)お父さん(モン)だ!」」

 

 

 

 

ウチのモンだ、と言ってくれて嬉しい気分になるのは間違いないんだけど、何処か釈然としない気分にもなってしまうのは何故だろうか?

火神は最早、あまりにも慣れ過ぎているので遠回しに言われた方が違和感を感じ取る様になっちゃったのである。

 

 

 

 

 

 

少々遅れたが、そんな喜劇を楽しんでいる最中に、驚く事が起きた。

 

 

 

 

「ツッキーも頼むぜーーー! わーーっはっはっはっは!!」

「………ハイ。宜しくお願いします」

 

 

 

一歩引いていた月島が、いつの間にか間合いにまで踏み込んできていたのだ。

背が高く、目立つ筈なのに、声を発するまで気付かなかった。

そして、気付いた時には驚いた。とてつもなく驚いた。

もれなく見ていた全員が驚いた。

 

 

「「!!?」」

 

 

呼ばれてなくて、それなりに悔しさを滲ませていた影山と日向も思わず二度見してしまう程に。

 

月島は、自己主張も殆どしないも同然で、何処となく淡泊感、そつなく熟す、と言った感覚が近い。

普段の月島は、火神が知っていた(・・・・・)月島とは別だと思える程の姿勢は見せているモノの、言動まで前向きか? と問われれば……素直に頷けない。

 

木兎の誘いに、毒1つ吐かず、素直に従う所に驚きを隠せれないのである。

 

 

「!??」

「いや、自分で頼んどいて何ビックリしてるんですか……」

 

 

そして、それはまだまだ短い付き合い木兎でさえ、驚愕させる程のものだった。

 

 

「ツッキー覚醒中って事で。乞うご期待ですよ、皆さま方」

「うるさい、腕回すな」

「あっ!! 火神ツッキーにっ!!」

 

 

驚かず受け入れる姿勢を見せる器の大きい、我らがお父さん(火神)

勿論、見据える先に居るのは木兎、そしてちゃっかり来ていた黒尾。今合宿の2トップの主将達である。

 

不敵な笑みを浮かべて腕を回す火神を見て、宣戦布告と取ったのだろう、同じく笑みを向けていた。

言うなら、【受けて立つ】と無言で言っているかの様だ。

 

 

因みに、何やらヤキモチ? でも妬いたのか 山口がクレームを入れてくる&流石の月島もそこまでのスキンシップを赦す事は無かったので、火神は早々に両手を上げて離れた。

 

それでも、良い具合に燃料投下は出来たと満足している。

 

 

 

 

―――そして、忘れてはいけないが、この音駒高校には来たばかりだ。

ちゃんと挨拶も終わってないので、呼ばれたから、受けたから、さぁ練習。という訳には当然ながらいかない。

 

思う存分バレーをするためには、きっちりきっかり、先生達に挨拶をした後で、だ。

 

 

 

 

「ええ~~……10月の代表決定戦までの間、関東へ練習試合に来れるのは、今回も含め、都合2回程です。貴重なチャンス、有意義に使っていきましょう」

【ハイ!】

 

 

 

武田の言葉に力強く返事をする面々。

烏養がその中でも目を見張っている、注目しているのは、なんと言っても月島だ。

 

先ほどのやり取りを傍から見ていた、と言うのもあるが、それ以上の事が前日にあったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間を少し遡り―――前日の練習終盤。

 

 

 

個人練習のみを残し、後は各々が重点的に鍛える箇所を決めて練習に取り組んでいた時間、月島は烏養の元へと来ていた。

 

 

「高さでも、パワーでも自分より圧倒的に【上】な相手のスパイクを止める方法はあるんですか」

 

 

月島は考えに考え抜いた。

兄がプレイしている社会人チームに紛れ込ませてもらって、練習参加させてもらった。

 

当然、相手は社会人。大人だ。身長こそは五分と言って良いが、高さやパワー、経験においては圧倒的に劣っている。

 

月島の兄、明光は相手を挑発。【今に弟がドシャットしますから】と、囃し立ててくれてるが、何度も弾かれて、吹っ飛ばされて、ただただストレスだけが溜まる一方だ。

 

 

 

改善に改善、試行錯誤を繰り返していく中で、自分の中で、どうすれば止めれるか、どんなブロックが自分の理想像か? 

それを考える様になる。

当然、高校生の範囲に収まる事は無い。

 

テレビで確認出来た中で、一番の理想は。……自分にとっての理想は何なのか? を懸命に探った。闇雲にするだけでなく、考えに考え、自分自身の糧にする為に。

 

それこそが、ブロック力向上に繋がる……と確実には言えないかもしれないが、自然と考える様になる。

 

この解けない難問。

 

火神だったら答えを知っているのではないか? と月島も何度も思った。

だが、自分より遥かに練習量が多く、体力も圧倒的。常に前を向き上を向き、前進し続けてるその姿を見ている。

立ち止まって貰って、自分を見て貰う――――なんて真似が月島には出来そうに無い。

 

ただただ、只管に目で盗む事を続けた。

 

見ていて改めて解る。

火神は凄い。

 

それは月島はとっくの昔に認めている。

 

特に凄いと感じる所、それは火神は 影山・日向と言ったトンデモナイ事をしてのけてる訳じゃない、と言う事に尽きる。

 

ただ、その場その場に応じた最適解を常に導き出す事に長けている。……いや、長け過ぎている男だ。

そしてそれを咄嗟に行う事が出来るのを可能にするだけの技術(スキル)身体(フィジカル)も持ち合わせてる。

 

神業と言って良い程の人外の技術(スキル)を持つ影山。

背丈こそ無いが人外の速度と跳躍といった突出した身体能力(アビリティ)を持つ日向。

 

突出し過ぎているそんな2人よりも明らかに()である、と言う認識。追いかける、追いつく、と言わせるのが火神。

 

 

【つまり―――頭をフルに使い、それに連携させる事が出来る身体を持つ事が出来れば……人間(・・)だって戦える】

 

 

なんて事無い。

月島にとっての理想は、本人は自覚してないだけでもう既に目と鼻の先に居る。

 

どんなに足掻いても藻掻いても、掴む事が出来なかった、高校時代(あの頃)の兄の姿を見ている月島。

身体が小さいだけのモンスターに喰われた兄の姿を見てきた。

諦める癖がついてしまった。

 

 

それが今は払拭されている。

モンスターに勝つ男を、月島は知ったのだから。

 

 

 

 

 

因みに、この間僅か0.5秒。

 

 

 

 

「(おおおお……!? 月島が、自分からオレに聞きに来おった~~!!)」

 

 

コーチ冥利に尽きる……とはこの事なのだろうか。

何処となく、自分達で解決してしまいそうな様子。

 

祖父の一繋に、何度も何度も痛い所(・・・)を突かれながら投げられ続けた事は、頭にも身体にも刻まれているのだ。

 

自分なりにではあるかもしれないが、日々考えに考え続けて、烏野と言うチームの一員として、精進をあの日から誓っていた矢先の月島の行動に、烏養は思わず感涙しそうになった。どうにか堪えたが。

 

 

「?」

「! おほんっ! あ~~、そうだな。ブロックで一番重要な事って、何だと思う?」

「高さ、ですか?」

 

 

高く無ければ(ボール)に届かない。当然の事だ。力も勿論必要だと思うが、まず高さで競えなければ話にならない。どれだけのパワーを持っていても、その上の高さから叩きつけられたら、勝負さえ出来ないのだから。

 

だが、烏養は首を横に振った。

 

 

「いいや。タイミングだ」

 

 

月島が考えていた事とはまるで違う答えが返ってきた。

 

 

「極端な話、最低限 掌がネットから出ていれば、小学生だって、小細工抜き、猪突猛進、パワー勝負一直線な田中のスパイクだって止める事が出来る」

「えええっ!??」

「タイミングさえ、ドンピシャであればな」

 

 

いきなりのディスり発言に、自然と耳に入っていた田中は思わず振り向いた。

例えの話なので、深く考える事なく烏養は続けた。

 

パワーを増そう増そうと常日頃からレギュラーを虎視眈々……な田中には痛い一言。

だが、それでも言われたから凹む……なんてメンタルはしてない。

 

今は小学生に止められる程度かもしれないが、それでも力をつけて業も身に着け―――やるべき事が多過ぎる、と上半身裸になって【ウオオオオオ!】と雄叫び。

 

当然ながら、縁下を筆頭に辛辣なコメントを突きさされはしていたのである。

 

 

 

 

そんな事は露知らず、烏養は話を続けた。

 

 

「タイミングがドンピシャ、以外にも、手の出し方やらコースの読み合いだって重要だ。ただなぁ、口では色々言えても、オレはお手本になれる程上手くねぇ」

 

 

元セッターだった烏養。

当然ブロックもそれなりに練習してきたつもりだが、背丈の事も有り、得意分野だった、とはお世辞にも言えない。

 

その後、烏野のメンバーを1人1人視線で追い―――止まるのはやっぱり火神。

 

 

「烏野ん中でブロックが上手い、って思えるのは、お前も解ってると思うが、火神だ―――が、それでもブロックの司令塔か? って言われれば、安易に縦には振らねーよ。極めて基本に忠実だと思える火神だが、ここぞって場面じゃ臨機応変に対応。局所局所で最善を選び、最善最高をし続ける火神(アイツ)も、ある意味型に嵌ってない。だから、正統派(オーソドックス)な司令塔ってヤツはもう1人位欲しいトコなんだ」

 

 

そこで改めて月島を見た。

 

 

「ブロックの司令塔として、身近で優れてるのは、やっぱ音駒の黒尾あたりだな。―――誰を目指すか、誰を手本とするかは、月島に任せる。オレが言えんのはこのくらいだ」

 

 

 

 

月島にとっての理想は確かにいる。

だが、一足飛び足でそこまでたどり着けれるか? わらわらと追い縋ろう、追いつこうとしてるモンスターたちを蹴散らして、自分がそこに辿り着けるか? と問われれば、そこまで自惚れてはいない。

 

自分に出来る事を地道に、そして確実に伸ばしていく。

 

その為には、―――視野を広げて、まず目で盗む。無自覚かもしれないが、月島の中で意識を変えた今、以前よりもまた違った感覚で見える筈だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間は元に戻り、音駒での合宿。

 

 

昨日の事があったからこそ―――月島は毒を吐く事なく、頷いたのである。

 

 

 

 

 

ブロックの練習。

眼前に見えるのは、音駒の黒尾とリエーフの攻防。

 

高さでは圧倒的にリエーフが上。パワーは黒尾。

普通に考えれば、高い位置から打ってくるリエーフに分があると見えるが……。

 

 

「(タイミング……)」

 

 

烏養に言われた事を頭に思い浮かべた。

一番重要なタイミングを見極める。ほんの一瞬の空中戦、ほんの一瞬の情報を全て掬い取る。

 

 

リエーフは、まだまだセンスだけでプレイしている節がある。巧みにコース打ち分けは出来ない。それは当然黒尾はよく解っているだろう。

 

 

 

―――相手が打ち下ろしてくる瞬間に、ブロックはてっぺんに差し掛かる。そして、狙いは利き腕の正面。

 

 

 

ガガンッ! と強烈な音が響いた。それは、スパイクを見事決めて見せた時の音ではなく、完全に跳ね返された時の音。

 

黒尾の勝ち。

 

見事に嵌ったブロックは、リエーフのスパイクを完全にドシャットしてみせた。

 

 

「ウェーイ!」

「フガーー!!」

 

 

これ見よがしに、リエーフの前で煽りを入れる黒尾。

当然ムキになれば成る程、ドツボに嵌っていくのだが、早々御する事が出来るリエーフじゃない様子。

 

 

「っしゃー、次、ねがいしアーーす!!」

「うはっ、コッチは余計に頭使うから、一番しんどいんだよな~~」

「えええ!!」

「なにぃぃっ!?」

 

 

次のスパイク相手は火神。

リエーフは勿論、木兎も聞き捨てならぬ! と声を荒げつつも、認めるトコは認めてるので、直ぐに【負けねぇ!!】的な顔つきになった。

 

 

「かがみん。フェイント~なんてズルは駄目だからね? ブロック練習なんだから」

「流石に、それはしません、て。後ろにレシーバーが居るならまだしも……」

 

 

軽口をたたきながらも、自分のペースに持っていこうとする。

 

3年であり主将でもある黒尾が大人気ない! と思われがちになるが、それでも小細工を弄してでも勝ちたい相手であり、小細工を弄するだけの価値のある相手だと言う事だろう。

 

 

軽口をたたきながらも、ピン――――と張りつめた空気が立ち込める。

 

 

「じゃあ、行きますっ!」

「おう」

 

 

そんな緊張感の有る空気でさえ、楽しんでしまう節の有る火神に半ば感心を通り越して呆れてしまう今日この頃だ。

 

 

「(――ったく、やりにくいったら、ありゃしない。勝っても負けても、楽しそうな顔してんだからなぁ。……リエーフや木兎みたいに、凹んでくれりゃ、ヤリ甲斐ってのも湧くんだが)」

 

 

勿論、その笑みが真剣じゃない、不真面目、なんてワケが無い事くらいは解っている。即座に吸収し、インプットし、改善していく器用さと上手さを持ってるのだから、当然だ。

 

 

 

 

「――――……((ボール)、やや高い……? でも、火神なら十分届く範囲内。黒尾さん、冷静に見極めてる)」

 

 

オープントス、山なり(ボール)。サードテンポで、スパイカーもブロッカーも余裕を持って出来る時間のある攻撃。

助走から跳躍まで淀みなく流れる所作。黒尾も火神の最高到達点、(ボール)の位置を見極めながら跳躍。

 

火神が打ち下ろす瞬間に、自身のブロックが最高到達点。

 

タイミングは完璧だった。

 

 

タイミングは、だ。

 

 

「―――(こっからは、読み合い(・・・・))」

 

 

火神と黒尾の攻防は幾度も見てきている。

タイミングに関しては、どちらも合わせてくるので申し分ない程上手い。双方とも出来るからこそ、重要となってくるのは、その後だ。

 

 

「(クロス―――? と見せて………!)」

 

 

黒尾は、開いているストレート側を意識。

 

 

ストレート(こっち)は、打ちやすいよ? 

ストレート(こっち)の方がお得だよ?

 

 

言わば、撒き餌を撒いたのだ。

ややクロス側を締めて、ストレートに道を残した。

 

「(ストレート!!)」

 

火神が放つインパクトの刹那、黒尾はストレート側を閉じる。両腕をぶん回し、先回りする様に閉じる。

 

捕らえた! と思った。

本当に残像が見えた―――そんな気配。

 

 

「んんッッ!!」

「あ゛!!」

 

 

今度の轟音は、リエーフの時とは違う。

連続した音ではなく、一度 ドッ! と(スパイク)が放たれた轟音が響いた後、その後は何にも触れる事なく、コートに ドンッ! と叩きつけられた。

 

 

「っしゃあ!」

「くっそーーー!! ぜってー、ストレート側だ、って思ったのに!」

 

 

ぐあああ、と黒尾は、着地と同時に頭を抱えた。

そんな黒尾を見て火神は。

 

 

「流石にアレはあからさま過ぎですよ、黒尾さん。アレだけストレート側が開いてたら警戒しますって」

「ぬぐぐぐ、そんなそこまで拡げたつもりねーんだけどな」

 

 

1対1とはいえ、悔しそうにしてる黒尾を見て、やっぱり珍しい場面なので、驚くリエーフと大笑いする木兎。

 

「おぉ……、やっぱ黒尾さんのあの姿新鮮だ……」

「わーーーっはっはっはっは! 黒尾ザマァ!! 誠也の勝ち~~!」

「うっせーーぞ、リエーフ木兎! それに次は木兎だ! 直ぐしょぼくれモードにしてやっからな!」

「がっはっはっはっは! 受けてた―――つっ!」

 

 

極めて高度な駆け引きを魅せて貰った。

傍から見ても、月島の目から見ても、……片や空中、片や地上。圧倒的に落ち着いてみる事が出来る月島であっても、あの瞬間、火神はストレート側を抜いてくると思った。それでも気付いたら、クロスへと打ち抜いていた。

 

 

「……………」

「! おいツッキー!! いつまで【見る専】やってる!?」

「黒尾さーーん、八つ当たりは情けないですよーー」

「うっせーー!!」

 

 

見る事が沢山ある―――と思いつつあった月島だが、それでも見てるだけでは駄目だ、と言う事も解ってる。

 

自分もやらなければならない、と強く想っている。

 

 

「……すみません。お願いします」

 

 

軽く頭を下げると、コートの中へと入っていった。

これまでの情報を頭の中で整理しながら―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ食堂閉めるみたいですよ~~~」

 

 

 

白熱していたブロック練習、個人練習だったが、その一声で夜の体育館に響いていた音がピタリ、と止んだ。

梟谷のマネージャー、白福がひょこっと顔を出してるのを確認。先ほどの声の内容も改めて脳内で再確認&再生。

 

 

「うわっ、もうこんな時間!」

「それはヤベェ!?」

 

 

と、慌てだして、漸く今日一日の後片付けが始まった。

 

バレーには貪欲だが、当然ながら食事にも超がつく程貪欲。身体を作ってくれる何よりも大切な練習とも言って良いのが食事である事を良く知っているからだ。

 

 

「ごはんだ、ごはんっっ!!」

 

 

一際忙しなく、一際子供の様に、練習後とは思えない元気さと速度を持って走り回る日向。

まだまだ全選手中でも下から数えた方が早い位の技量しかない日向だが、―――あの速攻を除いたとするなら、やはり その無尽蔵なスタミナは、驚嘆に値する、舌を巻く、と言って良いだろう。

 

両手には、いくつもの(ボール)。跳ぶ様に(ボール)カゴへと向かってる日向に気付いたのは影山だ。

同じく負けじと探しては拾い集めて……。

 

 

「日向のヤツ、4つだな……、それならオレは5つだ!!」

 

 

子供がもう1人増えた。

今度は図体だけは一人前にデカい男、人相も子供に見えない怖さを持つ子供が日向に迫る。

 

 

「待てぇぇぇぇぇぇッ!!!」

「うわっ!? 影山!? 負けるかァッ!!」

 

 

必至に追い上げる影山。

追撃? に気付いてスピードを上げる日向。

 

 

 

 

 

 

 

「………混ざらないの?」

「はい混ざりません」

 

 

そんなお祭り騒ぎをしてる間、苦笑いしながら後片付けをしていた火神に、ボソリと呟くのは清水である。

 

 

「よく競ってるのに?」

「アレは競うって言うんですかね? 流石に無意味ですから。競争心は悪く無いとは思うんですが」

「ふふ」

「それに、あんな両手塞がった状態で、やってると―――――ホラ」

「?」

 

 

清水は火神が指さした方向、日向や影山が居るであろう方向に改めて視線を向けると。

 

 

「……あっ、ヤベ」

 

 

追撃? を再確認しようとした日向が後ろを振り返った瞬間にバランスが崩れたのだろう。腕の中にあった(ボール)がボロボロと影山に向かって転がった。

マリオカートか? と思っちゃったのは言うまでもない。

 

そして、全力疾走、後少しまで迫っていた影山が、そんな妨害を察知して防げるわけもなく。

 

 

「うわ!!」

 

 

転がってきた(それ)を真正面から向かえ打つかの如く、踏みつけ――――当然の出来事が起きた。

 

ゴロンッビタンッ! と派手に転んでしこたま身体を打ち付けたのである。

流石の日向も妨害と言う反則、卑怯な真似をしてでも、勝とうとは思ってなかった。正々堂々勝たなきゃ意味ない、と思ってたから、床でピクリとも動かない影山に駆け寄った。

 

 

「だ、大丈夫か影山!? 今の、鼻だな! 絶対スゲーー痛いヤツだったな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声が響き――――そして、少し離れた所に居る火神は軽くため息。

 

 

「決まってああなるんですよ。それに、火に油を注ぐんですよね……、翔陽って」

「ふふふ。成る程。ここまで読んでて……、後は火神が仲裁に入る、って所。……かな?」

 

 

清水はクスクス、と笑いながらも、この先についてを夢想した。

すると、火神は軽く頭を掻きながら頷くと。

 

 

「余所様の夜の学校に迷惑をかける訳にはいきませんからね……」

 

 

苦笑いをすると同時に、小走りで駆け寄っていった。

 

 

「……頑張れ」

 

 

全部員(一部を除く)が感涙し、号泣した至高の一声。

気合120%入る。

 

清水にしか聞こえてないかもしれないが、間違いなく、火神に向けて言われたのだった。

 

 

この瞬間―――某3人組は、何か身体に電流が、否雷で打たれたかの様な感覚に見舞われたらしい。

 

聞こえる筈も無いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、スマン。わざとじゃ、ないんデス。わざとでは……」

「わざとでたまるか………」

 

 

よろよろ、と鼻に受けたダメージは頗る大きい影山だったが、確実ににじり寄ってくる。

 

そんな重圧に、日向は思わず身構えていた時、足が浮いた。何なら身体が宙に浮いた。……何ならシャツをぐいーーっと伸ばされてる?

 

影山は、大きな大きな手。顔1つすっぽり隠される程の大きな手で、鷲掴み……ではなく、顔面を押された

 

 

「全く、お前らはメシの時間無くなっても良いのか?」

「わーー、ヤメレーー!」

「ぬぐっ!!」

 

 

日向を摘まみ上げ、影山を抑え込む。

 

そんな事が出来る(やらされてる?)男は1人しかいない。

そう、火神である。

 

緊迫した空気に包まれてた2人。

完全に霧散し、消えた。そこを狙ったのか或いは元々止める気だったのか、日向や影山が入れようとしていた(ボール)カゴが、ガラガラ~~とローラーの音を奏でながら、やってきた。

 

 

「ハイ、キミたち。かがみんの言う通りだよ。遊んでる暇あったら、とっとと片付けて終わらせ様なーー。ほら、幾ら保護者さんがいるとはいえ、部の長さんもいるわけだし? ご心配おかけしたくないからね~」

 

 

音駒主将、黒尾である。

音駒もそれなりに問題児を抱えている様であり、更に言えば烏野と同じく、3年が少ない。色々苦労も気負いもあるだろう。

その飄々とした、何処か掴ませない、気付いたら欺かれてしまう、そんな黒尾にも、潜ってきた場数の違いからか、朗らかな声の中に怒気がある様に思えた。

火神は、【保護者じゃないっス………】とボソッと突っ込んだが、時間の無駄と判断してひょい、と黒尾の前に2人を出した。(厳密には、(ボール)カゴの前)

 

 

至近距離から見る黒尾。

 

 

ブロッカーとしての威圧感もとんでもなく大きくある守りの音駒の鉄壁。

それを至近距離から浴びてしまい―――益々怒気を感じた。それと同時に、部長。即ち澤村の幻覚もそこに見えた気がして、思わずピッ! と背筋を伸ばす。

 

 

「ハッ! ハイッ! 直ぐ片付けます!!」

「サーセン!!」

「どうもすみません」

 

 

日向影山、そして連帯責任と言わんばかりに、火神も片付けを手伝い、終えた後カゴを押して用具室へ。

 

しかもその間も何やら言い合ってる2人。間に割って入る1人。

 

 

「……あいつらと3年間付き合うんかーーー、……なーんであんな笑顔で居られるんだい?」

 

 

黒尾はかつてない程の疑問に苛まれる。

 

 

「それに、あの2人は学習しない……と言うか、騒がしくしてないと死ぬ病なのかね? リエーフと同じ」

 

 

疑問が浮かんだのと同時に、身体から力が抜ける感覚に見舞われる黒尾。

因みに、リエーフは先ほどの最後のブロック練習が相当に堪えたのか……、いや スパイクを止められた数、ブロックで止められなかった数、地上で待ってた? 夜久にレシーブ練習追加、と言われて、更に追い込まれていたからか、体育館のすみに、ヒョロリと長い体を横たえて。―――――返事がない。ただのしかばねのようだ。となっていた。

 

 

だが、普通に考えてみたら、あの3人の体力が異常なのだろうと言う事は解る。

黒尾自身も相当に疲れているのは実感しているから。……勿論、隠しているが。

 

 

「ほら、早く片付けろリエーフ。メシ抜きになるぞ!」

「ぅっ……、は、はい……」

 

 

レシーブ特訓を追加した鬼軍曹、夜久が倒れたリエーフを無慈悲にたたき起こした。

 

リエーフはよろしと立ち上がると、チラリと体育館入り口を見た。

 

 

 

【やっとごはんだ! ごはーーん! ごはんだ、ごはんだーーっ♪】

【なんか、昔のCMソング思い出すな、そのリズム……】

【日向ボゲェ! 今日のは反則だからな!!】

【どうどう、飛雄もそろそろ落ち着いて。飢えた肉食獣みたいな目しないで】

 

 

 

実に賑やかな3羽のカラスがそこには居た。

到底真似できない、届かない、と心から思ってしまった。

 

 

「あいつら……、なんであんな元気なんだ……?」

「オメーも少しは見習え! おりゃっ!」

「痛ぇぇっ!?」

 

 

鬼軍曹、夜久のローキックを受けて、猫背になりかかっていたリエーフの身体がまた、ぴんっ! と伸びる。

その会話に黒尾は眉をひそめた。

 

 

「まぁ……うん。見習われても……。いや、3人足して3で割って? いやいや、3引く2、イコールがいいや。言わずもがな」

「「??」」

 

 

ぼそぼそと独り言を言う黒尾に、首をかしげるリエーフと夜久だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃーーー、ごっは~~んっ♪ はっははんっ、ごっはーーんっ!」

「はいはい、歌はもう良いからさっさと行く」

「………………じゅるり」

 

食堂へとやって来て、最初こそは歌も自重しつつあったのだけれど、食堂から流れ出てくる香りが、食欲を誘う香りが、日向の煩悩を刺激し、止められなかった様子。

かく言う火神も、涎を今にも垂らしてしまいそうな影山、ごはんの歌を歌ってる日向と同等くらいには腹が減ってる。

 

 

「あ、待って!」

 

 

そんな時、マネージャーの谷地、そして後ろに清水が、こっちこっち、と手を振っていた。

 

 

「お疲れ様。やっと来たね! 3人とも! 今日は音駒の父兄の方から差し入れを頂いたから、夕食、すっごい豪華だったんだよ。なんと、スイカもある!!」

「おおおっ!」

「スイカ!?」

「夏と言えば、だよね……」

 

 

匂いだけでなく、豪華な情報まで明らかにされて、最早3人はお預けをくらってる犬も同然。

この時ばかりは、日向と影山の不毛な争いも無くなり、共にメシを喰う同志? と言う事で休戦状態になった。

 

 

「……あれ? ひょっとして谷地さんも清水先輩も、食べ終わってて、オレ達が来るのを待っててくれたんですか?」

「!! ええ!! ほんとですか!?」

「サーセン! アザス!」

 

 

火神の疑問からくる答えに一遍の疑いも持たなかった日向と影山は直ぐに頭を下げた……が、清水は静かに立ち上がって言う。

 

 

「見張って無いト、キミ達のスイカ、なくなるけど?」

「あ、あはは……、狩り場の獲物を全て喰いつくそうと集まるケダモノたちを、清水先輩がちぎっては投げ、ちぎっては投げ………」

 

 

そう補足? をした谷地はどこか遠い目をしていた。

眼前に広がるテーブルのあちこちで、飢えた男子高校生、それも超ハードな運動部所属男子高校生たちが、どんぶりに山盛りのごはんをガツガツ。

決して山盛りごはんをテーブルに置いたりせず、空いた更に補充しては食らいつく、トンカツ、薄切りハム、唐揚げ、卵焼き等々を勢いよくかきこむ。

 

まさに欲望の渦中、食うか食われるかの弱肉強食の世界真っ只中。

 

 

特に数に限りがあるスイカは極めて危険。

【1人一切れ】

と言うルールをどうにか犯し、より多く食べれないか、とギラギラと鋭い眼光を今も向けてきてるのだが……、それは清水の、そして他のマネージャー達の支援の前には無意味だ。

 

 

「BBQのお肉争奪戦を思い出すな……これ」

「す、すごい……、まるで戦場……。投げてくれてありがとうございますっ!!」

 

 

火神は、前回のBBQを思い出して何処か遠い目をし、日向は谷地の言葉通り、感謝の意を込めて清水に頭を下げた。

 

清水は表情は変えずに言い添える。

 

 

「投げては、いないけど」

「それでも、カバーしてくれてありがとうございます。晩御飯お預け、なんてなったら、明日が大変……」

「先輩たちが守ってくれた晩ごはんっ! ありがたくいただきますっ!!」

 

 

と、夫々が感謝を伝えていたんだけど、なんかいつの間にか1人足りない。

 

 

そう、気付いていたら既に影山はテーブルについていて、もぐもぐと夕食を食べていた。

 

 

「ああっっ!! いつの間にッ!?」

「……せめて感謝を伝えておけよ? 飛雄。谷地さんと清水先輩に」

「ふごっ? ふご、ふご」

 

 

口いっぱいに肉やらごはんやら、キャベツやらを頬張ったままの影山が顔を上げて、日向は無視して、谷地と清水の方に視線を向けて二度、三度と頭を下げた。

 

 

「あ、影山クン、ほっぺがエサためこんだリスみたいに膨らんでるよ!」

「………だね」

 

 

楽しそうに笑う谷地と、同じく仄かに笑みをみせる清水。

まぁ、感謝を伝える態度ではない気もするが……、谷地も、それに清水も笑顔だから良し、かな、と火神は頷くと。

 

 

「改めまして、ありがとうございます。谷地さん、清水先輩」

「良い。じゃあ、火神も日向も食べて。私たち行くから」

「じゃーね。また明日!」

 

 

小さく手を振って食堂を出ていくマネージャー達。親愛なる晩御飯の守護神、守護()神たち。

 

 

「お疲れ様です」

「お疲れ様でーーーす!」

「モゴーっふ!」

 

 

火神はお辞儀を、日向をブンブンと手を振って、影山は座ったまま頭を下げたのだった。

 

 

 




ツッキーはブロックについて、烏養コーチに聞いたみたいですw

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