王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

135 / 182
ショーセツバンネタです。

しれーーっと、家族出演してますが、あまり深く考えて無かったりします(笑)


これからも頑張ります!


第135話 忘れ物

 

烏養前監督の家にて、新たな来訪者有り。

 

それは、一繋が教えている小学から大学生たち……ではなく、日向や火神も良く知る人物。

 

 

「あっ、日向いた!」

「……………」

 

 

烏野高校、谷地と影山の2人である。

丁度、その後ろには滝ノ上も一緒だ。どうやら、ここまで乗せてきてもらった様子。

 

2人が来た事に日向も火神もどうやら気付いていない様だ。

 

 

「翔くん、そろそろこのへんにしとかない?」

「あのっ、もう1本、もう1本だけっ!!」

「はぁ、翔陽。オレがトス上げてやるから……」

「ダメだ!! 誠也はブロック!! 何本も止められて悔しい! ラス1ラス1!」

 

 

いつも通りのエンドレス練習。

火神が居るからある程度は大丈夫……と思っていたのだが、火神がブロックで参加しだしてから雲行きが怪しくなりだした。

 

囮として十全に機能している日向ならまだしも、この正面からの1対1での勝負では はっきり言えば、日向にまだまだ分が悪い。

 

 

「くっそーーー! さっきのヤツ、手はじけたと思ったのに、誠也‼ 手に何か仕込んでるだろっ!?」

「……いや、どーやって手に仕込むんだよ。手袋付けてる訳でもない素手状態で?」

 

 

ブロックアウト狙い。

 

火神が幾度となく日向の目の前で披露し続けている技法であり、今回公式戦にて 百沢と言う超高度の壁相手に初めて成功させた。

 

練習で何度か成功させるより、一度でも大舞台(公式戦)で成功させた方がより、出来る(・・・)と言うイメージを自分自身に持たせやすくなる。

そして何より自信にも繋がって成功率も向上するだろう。

 

 

―――と、日向は火神から聞いていて、最近嬉々と練習して成功もちょこちょこする様になってきているのだが……。

 

 

「誠也が何本も止めるから、オレ、なんか止められるイメージの方が強くなった………」

「そのイメージ持たなくて良いから。それに気持ちよく打たせる為に、手抜き~~とか、もっと翔陽怒るヤツじゃん?」

「む、っむむむむ……!! 手ぇ抜いたら誠也でも怒るからな!! 絶対打ち抜いてやる!」

「オレが1回でも手を抜いた事があるんなら、ソレ言って良いぞ。……さ、後、ラス1だって事も頭に入れといて。山下さんだって予定あるんだし」

 

 

火神と日向のやり取りを見ていて、朗らかに笑うのは山下だ。

 

確かに、日向のエンドレスに付き合うのは骨が折れる……が、それ以上に2人のやり取りを見ているのは楽しい。自分の練習にもなって一石二鳥。―――が、やっぱり体力の限界もあるし、予定というモノもあるから、いつまでも付き合う、って言うのは不可能なのだ。

 

 

「ほらほら、翔くん。ラスト、誠くんから点獲っちゃおう!」

「アス!!」

 

 

 

 

 

 

賑やかな練習風景。

日向が居れば……、そこに火神まで一緒だと、どの場所で練習していても、日向は日向だと言う事が良く解る場面だった。

 

「日向らしいね。火神君も」

「…………」

 

火神にも日向と同じ事が言える事だろう。――――いや、色んな所で合わせる器用さを持ち合わせているから、火神だけだったら、物凄く溶け込みそうな気もするが……と、谷地は考えていたが、それは一先ず置いておく。

 

 

「……………」

 

 

谷地の隣で、影山が身を乗り出して、あからさまに目を輝かせてウズウズさせているから。

谷地はこの顔を知っている。

 

 

―――そう、あの合宿のBBQの時の顔だ。

 

 

美味しそうな肉を前にした時の顔。お預け喰らっている時の顔。

何時までもお預けさせておくのは可哀想な気もしてきたから、谷地は思い切っていった。

 

 

「……そんなにやりたいなら、影山君も一緒に練習してきたら? あのお姉さんもそろそろ上がりそうだし」

「そ、そうか? いや、でも……」

 

 

影山は、パっ! と嬉しそうな顔になる。

強面だけど、子供の様に喜んでるのが解る―――が、何だか一瞬だけ喜んだと思ったら、

今度はらしくない遠慮をし出した。

 

なので、ここは谷地が一肌脱ぐ事にした。

 

ちょっと笑うと、【これもマネの仕事ッス!】と意気込み1つ入れて。

 

 

「おーい! 日向―――! 火神く―――んっ!」

 

 

丁度それは、またドシャット食らった場面。

火神のブロックが、日向のスパイクを捕らえて跳ね返し、身体に当てて【ホギャア!】ってなった場面。

 

悔しそうに歯ぎしりしていたが、谷地の声は届いていたのだろう。日向は振り向いて驚く。それは火神も同様。

 

火神の場合はネット挟んだ向こう側に居たので、日向よりも先に気付く事が出来た。

 

 

「アレ? 谷地さんが此処にいるのって珍しい。飛雄はともかく」

「谷地さん!? 影山も!! なんでここに!?」

 

 

部活の練習を終えると、アイスを我慢してでも練習したかった日向は、火神と一緒にロケットスタートで烏養前監督の家に来たのだ。

影山にも何も言わなかったし、居るなんて考えてもいなかった。

 

そんな日向の混乱を他所に、谷地は手をぶんぶん振りながら告げた。

 

 

「影山君が仲間に入れて欲しいって!」

「なっ!? オレは別に……!!」

 

 

ムキになる影山だったが、その顔がどういう顔なのか、遠目でもはっきりと解る

もういい加減付き合いも長くなってきたのだから尚更解る。

 

影山と、ここまで濃い付き合いをしたのは、日向や火神、そして烏野のメンバーだから、ある意味では、北川第一の同級生たちよりももよく解っているのではないか? とも思えてしまう。

 

 

「山下さん。ありがとうございました。……どうやら、助っ人が来たみたいなので」

「ほほぅ。影山君。火神君に次ぐ天才君その②だね~~?」

「あ、はい。飛雄は天才だと思いますよ? ……でも、オレは天才じゃ……」

「あっはっはっは! そんな謙遜しないの。試合見せて貰ったケド凄かったじゃんっ!」

 

 

笑いながら火神の頭を撫でる山下、そして気恥ずかしそうに顔を赤らめる火神。

 

山下と楽しそうに話をしている火神を見て、谷地は【火神君と美女!! 絵になるなぁ……】と、何処か絵画でも見てるのか? ッと言うノリで観察していた。

 

ついさっきまでは、影山に対してお節介を焼いていたと言うのに。

 

 

だけど、このタイミングで清水の顔が浮かび―――どことなく悪寒が走ったので、直ぐに影山を宛がう。

 

 

「ほらほら、影山君! 皆OKだって!」

「!」

 

 

谷地が背を押しながら前へと向かわせると―――あっという間だった。

皆がOKだと言うのは見ていて明らか。日向も手を上げて【おーう! 来いよ!】と言ってる。火神も火神で、セッター役の山下と交渉して、場所を開けて貰ってる。

 

もう、遠慮も何も要らない、と言わんばかりに一目散。

 

カバンを投げ捨ててネットに駆け寄っていき、その速さに谷地は目を丸くさせた。

だけど、背中にまだ感じる悪寒? に四苦八苦。

 

 

「う、う~~ん、やっぱし悪寒は………」

 

 

 

合宿を経て、色んな意味で鈍い谷地も、何となくではあるが(ほぼ、他校のマネのおかげ)清水の意中の人物が……と認識しだした。

 

だけど、傍にいても解らなかったくらいの鈍感な谷地だから、気を抜くと霧散してしまう……が、本能的に怒らせてはヤバイ系統は察する事が出来る様で、今回の様に悪寒と言う形となって現れたのである。……谷地もある意味ではスゴいマネなのだ。

 

 

 

そんなこんなで、最終的に、影山と火神、日向の3人で練習を再開させたタイミングで、谷地の悪寒は解消されるのだった。

 

その代わり―――。

 

 

「あ、やっちゃん!」

「そーいえば、やっちゃんに聞いてみたい事があったんだ!」

「翔ちゃんと誠兄ちゃん、あともう1人! やっちゃんは誰の彼女なの!?」

「ファッ!?」

 

 

まさかの対応に追われる事になる。

 

 

「ち、ちがうっ! キミたち何を……!」

 

「わーー、やっちゃんがムキになったーー!」

「怪しんだーー!」

「誠兄ちゃんとか、優しくて素敵だーー、ってお姉ちゃんたち言ってたよねー」

 

 

囃し立てる子供達を谷地は追いかける。

日向や影山―――よりも、火神の名だけは不味い! と過剰反応気味。

 

あんな美人と主人公(谷地談)の間に割り込むだけの器量も能力も美貌も何一つ持ち合わせてない、と谷地は大混乱である。

 

 

「ままま、まってーーー! 違うの違うの違うのーーーーーー!!」

「わわっ、やっちゃん早くなった!?」

「スゲーー、やっぱ、からすのってスゲーんだっ!!」

 

 

暫くの間、谷地と子供達は、鬼ごっこ(傍から見たら)に勤しむのだった。

 

 

「おお……、谷地さんってあんなに俊敏だったんだ……スゲーな」

「(あんなに早く走れたんだな)」

「翔陽に褒められたら、谷地さんだって嬉しいだろうね」

 

 

 

速度の領域においては、やはり日向が烏野でもトップクラスに位置する。

そんな日向に褒められたら、谷地だって嬉しいだろう……、と火神は何処かズレた感想を持っていた。

 

 

「それに、子供達と仲良くなるのも早くね!? 勉強教えるのも上手だったしさ、先生とか向いてるんじゃないかなぁ? どう思う?」

「うーーん、谷地さんは恥ずかしがり屋と言うか、色んなとこで緊張しちゃう癖があるからなぁ……。どうだろ?」

「つーか、他人の事より自分の練習に集中しやがれ。火神は兎も角、日向(テメェ)は」

「ぐっっ!」

 

 

影山の辛辣なコメントが日向に突き刺さる。

続けざまに追い打ち開始。

 

 

「サーブ下手、レシーブも下手、セットアップ、ブロック諸共中の下、良くて中の中。身体能力に頼ってばっかで全然活かし切れてねぇ」

「はふぐっっ!! そ、そこまで言わなくてもい―だろっっ!?」

「うわ……、飛雄厳し……」

 

 

影山の視線は今度は火神の方へ向く。

 

 

「全国に行くには、もう1試合だって負けられないんだぞ。この段階で厳しいも何もあるか」

「そりゃごもっともだ。飛雄が正しい」

「うぐぐ!! わ、解ってるさ! 解ってるよ! うっさいな!」

 

 

コートの中でも外でも。

今日も烏養邸は賑やかだ。

 

 

 

そして、更に賑やかになってきた。

その切っ掛けは、見た目自分達の両親くらいだろう年配の女性が、パート先から頂いたと言う大量のアイスが配られた時だ。

 

 

「わっ、アイス祭りだ……!」

【えっっ!!?】

 

 

谷地の言葉に、他の子供達も一斉に飛んでくる。

今の今まで谷地から逃げていたのにも関わらず、コロッと忘れて飛んでくる。

 

 

「アイス!? アイス!!」

「ガリガリ君ある!?」

「オレ、チョコのやつ! チョコとって!!」

 

 

群がってきた子供達の波に溺れそうになる谷地だったが、どうにか身体を起こした。

華奢な身体とはいえ、相手は小学生。高校生な自分は負けんっ! と踏ん張りながら身体を起こし―――。

 

 

「おぉぉぃ~~! 日向も火神君も影山君も、ちょっと休んで一緒にアイスいただこう!!」

「おう」

 

 

意外な事に、谷地のアイス発言に真っ先に返事したのは影山だった。

練習を一時中断して、(ボール)を持ったまま、縁側に向かった。

 

今の今まで説教を受けていた。珍しく、火神もされる側だったのにも関わらず、180度踵を返していく影山に、日向が【待てよ】と追いかけた。

 

 

「珍しく、影山クンは誠也にまで偉そうなこと言っといて、自分は練習より、アイスに夢中になるんですね~~」

「これ見よがしに、煽るんじゃないよ、翔陽も。大人げない」

 

 

日向・影山の後ろについた火神は、日向の煽りに苦笑いしながら言い、影山はと言うと、一瞬だけ日向を見て、直ぐに視線を逸らせ……。

 

 

「水分補給だ」

 

 

と、割りと無理のあるコメントを頂いた。

 

 

「流石に、それも無いんじゃない? 飛雄。素直にアイス欲しくなったから、で良いと思うケド。澤村さんのオゴリ、今回は飛雄も遠慮したみたいだし」

「う、うっせーな! 水分補給って言ったら、水分補給なんだよっ!」

「ほほぅ、認めないみたいッスねぇ、影山クン! それなら、アイスじゃなくて、水道水で十分ですな!」

「テメェもうっせぇ!!」

 

 

 

何時、何処に来ても、あの3人は賑やかだ。

ケンカする程仲が良い、を見事に体現していると思う。

そして、それを諫め、時には纏め、色々世話をやいてあげる者もいて、極めてバランスが取れている3人組だと言えるだろう。

 

 

「3人とも~~、アイス、溶けちゃうよーー!」

 

 

谷地は困った様に笑っていたが、アイスが溶けてしまって、3人だけお預け、になるのは可哀想だ、と思い、もう一声かけて呼ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、烏養邸での練習も無事終了。

子供達が先に帰り、続いて大学生たちもそれぞれ帰路に就いたので、最後に烏野メンバーもお暇する形だ。

 

 

「谷地さん、ここまで歩いて来ようとしたんだね。次来る時は自転車推奨だよ。流石に」

「う、ウス」

「ははははは! 火神、そらしょーがねーって。谷っちゃんは、烏養のバカが、てきとーに書きなぐった地図頼りにここに来ようとしてたんだ。アイツ、子供の頃から通い慣れ過ぎて、距離とか道順とか目印とか、全部、何にも考えてねーから。そんなもん地図にした日にゃ、歩いて来ようって思ったって何ら不思議じゃねーよ」

「影山も道とか覚えるの、絶対苦手だろうしなー、影山道案内じゃ、更に迷う」

「うっせー! 日向ボゲェ!」

 

 

滝ノ上が、ここまで来た経緯を軽く説明してくれた。

烏養に場所を聞いて、影山と共に―――までは良かったのだが、完全に道が解らなくなって、軽く遭難してたらしい。

 

更に聞けば、反対方向に一直線だったとか。

 

それでも何とか到着して良かった、とホッとしたのは火神である。

皆あっけらかんとしている様だが、滝ノ上が見つけてくれてなかったら、何処まで行っていたか、想像出来ないから……。

途中で諦めて帰れれば良いんだけど、谷地と影山の珍しいコンビでは、正直心許ない……と思えるから。

 

だけど、終わった事であり、結局滝ノ上が送ってくれるようだから、大丈夫だ、と安堵もする。

 

 

 

 

そして、滝ノ上の車も発進し、日向・火神の自転車も同じく付いて行く。

夜も深まった山道。車通りもほぼ無い通り。滝ノ上も自転車で行く2人をそれなりに気遣ったのか、並走する形で一緒に帰っていた。

 

 

「あ、ゴメン谷地さん!! 練習長引いちゃって、最後まで付き合わせちゃったね! 言うの忘れてた!」

「オレからも! ……翔陽達と付き合ってたら、基本時間幾らあっても足りないって言ってなかった」

 

 

日向、火神の言葉に、谷地は車の窓から顔を出して、大きく振った。

 

 

「ううん、わたしが勝手に来たんだし! それにすごい楽しかったよ!」

「それは……、良かったケド……」

「よかった!! ん? ケド、何? 誠也」

「いいや、何でもないよ」

 

 

もうすっかり夜も深まる山道。

 

正直、谷地の様な女の子が出歩いて良い時間ではない……、と思ってしまうのは、何だか高校生らしくないかな? と思ってしまう火神だったりする。

それを指摘したら指摘したらで、また保護者(おとーさん)か! と突っ込まれてしまいそうなので、事前に口を噤んだ。

 

日向は、特に気にした様子は無く、改めて谷地の方……即ち、滝ノ上の車を見てみると、ゴツンッ! と言う音? が聞こえてきた。

 

その音の正体、その衝撃音の正体は――――。

 

 

「あ! もう寝てやがる!!」

 

 

影山である。

 

影山は、窓ガラスにゴツンゴツン、と頭をぶつけていたのだ。自傷衝動……と言う訳ではない。ただただ、舗装も乏しい山道だから、車が揺れに揺れて、その反動で頭をぶつけているの様だ。……一切起きる気配なく、完全に熟睡。

 

その寝顔を窓越しに見て、日向は呆れていた。

 

 

「コイツ、すぐ寝るんだ! 誠也も聞いてくれよ。冴子姉さんの車でもずっと寝てたんだぜ!」

「へぇ~。まぁ、どんな場所、環境でも寝れる事は良い特技だな。休息って必要だし。オレはそれ、持ってないなぁ」

「誠也が持ってないもんを、影山(コイツ)は………」

「(あ、日向が悔しそうにしてる………。それ程?)」

 

 

いつでもどこでも寝れるのは良い事だ。睡眠は身体の修復は勿論、精神的な切替にも使える―――んだけど、競ったり、悔しがったりするのは、また違うと思う………と谷地は思えた。

 

そんな日向に苦笑いをしながらも、火神は何か思いついたのか片手ハンドルで、空いた方の手の指を立てながら説明。

 

 

「でも、翔陽。オレ達は今自転車乗ってるだろ?」

「うん? おう!」

「影山寝てるだろ?」

「おう! ぜってー起きないヤツだ、コレ」

「つまり、影山が眠ってる(休んでる)間も、オレ達は体力づくり、……影山より練習できてる、って思わない?」

「!!! 確かに!!」

 

 

日向は、それを聞いた途端 目を輝かせた。

山道で危ないと言うのに、両手離しをして足も上げて喜ぶ。やや下り坂だったから速度を落とさずに済んだが、あまり褒められたものじゃない。

 

 

「影山より練習してる!!!」

「しょ、翔陽翔陽、安全運転!」

「……ムガッ!?」

 

 

「やっぱ、引率者(かがみん)は大変だね~~色々」

「あ、あははは………、マッタクです」

「オレらん時も居てくりゃ色々助かってたのかもな」

 

 

聞き耳を立ててた(立てなくても聞こえるが)滝ノ上。

熟睡している筈なのに、反応した?? 様な寝言をしている影山と日向、火神の3人。間に挟まれている火神。

 

大変だ~~、と笑いながら火神の一連の対応を総括するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「翔陽、ほらほら、前」

「あ、オレこっちだった!」

 

 

道中も退屈しない帰路だったが、だからと言って目的地を見間違えてはならない。

交差点に差し掛かり、赤信号で止まっていたが、滝ノ上はウインカーを出してないので、直進。……でも、日向は右折しなければならない。因みに火神は左折。

 

 

「かがみん、日向を迷子にさせない様に頼むぜ?」

「あははは……、オレ左何で……。でも まぁ、1人になったら大丈夫ですよ。流石に話す相手居ないと、ちゃんと帰れると思うんで」

「失礼な! 最初っから ふつーーに帰れます!!」

「ふふふふっ」

 

 

すっかりと涼しくなった月夜の下。

人通り・車通りの少ない交差点で陽気な声が響く。

赤信号が青へと代わり―――それが合図だ。

 

 

 

「お疲れ様でした!」

「じゃー! 皆また明日!」

「また明日ね!」

「気ィつけろよーー」

 

 

それぞれが手を振る(熟睡中の影山以外)。

やっと、それぞれの家路へついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火神家。

 

 

火神家では、基本的に皆が帰るのが遅い。

父母共に、物心ついた時には共働きであり、まだ40代とバリバリ働いている故に、自然と夕食は遅くなってしまう。

 

今日も少々遅れ気味だったが、食卓を囲むのは皆同じ時間。

 

 

「ほー……、って 女の子と居たのか? こんな夜遅くに? 色気付きやがってな~~、コイツ」

「いや、マネージャーだよ。理由はよくわからないケド、部員と一緒に烏養さんの家に来たみたいなんだ」

 

 

兄に小突かれて味噌汁を零しそうになったが、取り合えず反論をしておく。

 

 

「誠也は竜也と違って色恋系に関しちゃ、てんで疎いからねぇ。そう言った方面期待しちゃったよ、母さん」

「だな。彼女の1人や2人、連れてきても別に全然良いからな。特に竜也はもう22だろ? 父ちゃん、その頃にゃ母ちゃんと一緒だったぞ」

「………親のそんな話、あんま聞きたくないんだけど」

「や、親の~ってのには右に同じ。あ、オレ近々結婚考えてるから、また説明するよ」

 

 

兄、火神竜也。

誠也より少々歳が離れた兄だ。

 

因みに今独り暮らしをしている。

 

でも、たまに戻ってきて一緒に食卓を囲む。

時折、御飯をご馳走してくれたり、色々援助してくれる優しい兄……なのだが、色恋関係については、ウザいくらい絡んでくるのが玉に瑕だ。

 

そんな兄から、結婚(・・)と言う爆弾発言が飛び出したが――――、突拍子もない事を突然言う、重大な事を突然言うのが兄なので、そこまで驚かず順応する家族。

 

 

それでもめでたい事なので、お祭り騒ぎになったのは言うまでもない。

 

 

「次は誠也だな!!」

「気が滅茶苦茶早い。オレ高1だよ? 相手もいないし」

「何を言う! 元服ってしってっか?」

「……明治の時代で、成人年齢20になったから」

 

 

はぁ、とため息。

 

テンション上がって酒も入って、饒舌になってる父親。

ほんと、良い家族なのだ。贅沢な家族だ。―――生前の家族、前世の家族を思い出せなくても、……寂しくない。心の隙間を十分埋めるに足る家族。そんな事を考える事すら、両親・家族に申し訳ない、と思ってしまう程に良い家族。

 

なんだけど――――、こういう場においては、面倒くさい。

 

 

 

「同級のマネちゃんと良い感じになったりしねーの? ベタで定番なヤツ?」

「バレーが大変だし、でも楽しいし、今そっちに夢中だから。目指せ春高! それ以外の隙なんて、無いよ。……一部の先輩たち以外は」

 

 

田中や西谷の事を思い返し、火神は苦笑いをする。

だけど、谷地の事を言われているから、火神は助かっていたりするのだ。

 

 

もし―――家族が、もう1人(・・・・)のマネージャーの事を知っていたら?

 

 

この手の事に関して、物凄く鋭い家族の皆さんは簡単に勘づいてしまうだろう。断言出来るレベルで。

まだまだ疎い誠也は、これでもか! と言われるくらい弄り倒されてしまう未来(パラレル)があったりするのである。

 

 

そんなこんなで、母がお茶をそっと飲むと……ちょっと真剣な顔つきになって言った。

 

 

「でもねぇ、そのマネージャーさんは、こんな遅くまで一緒に残ってやってくれてたんだろう?」

「え? うん。家は白鳥沢の方だから―――オレよりちょっと遅くなるかも? あ、いや 車で送って貰ってるから、ちょっと早い、かな……?」

「そう言う問題じゃないよ。娘を持つ親の気持ち。私は男ばっかで本当の意味じゃ解んないケド、ちょっとくらいなら解るのさ。……残るって本人の意思だったにしても、親御さんに心配かけさせない様にしときなさいよ」

「あ………」

 

 

誠也は言われてハッ、とした。

谷地の母親とは会った事は無いが、娘の事を大切に思っている人だと言う事は良く知っている。

 

自ら歩き出そうと、村人Bでも戦えると、母に進言した時、涙を流した事も――――知っている。

 

そんな親なのだ。心配しないワケが無い。

こんな夜遅くになったら。

 

電話の1つでもさせておけばよかった、と若干後悔。付きっ切りで見ていたから、連絡している様子も無かった。………谷地がその辺マメに伝えているか? と問われれば、多分伝えてない、って思ってしまうから。

 

 

「……うん。これからは気にかけておくよ………」

「そうしときな。相手両親に好印象持って貰ってた方が、後々助かる、ってもんさ。お父さんなんて、その辺てんで駄目で、柔道4段の爺ちゃんに投げ飛ばされそうになってたんだから」

「うへぇぇ……、かーちゃん、思い出させんなよぉぉ……、酔いが一気にさめちまう……」

「って、一体なんの話してんの!」

「くっくっくっく……誠也もソロソロ……」

「無いから!!」

 

 

真面目な話をしていた筈なのに、谷地と自分をあれこれ引っ付けようとしてる両親を見て、呆れを通り越してしまった誠也だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに、谷地はと言うと―――。

 

 

「ぶええっくしょんっっ!!」

 

 

盛大にクシャミをしていた。

姿形からは、ちょっと想像がつかない中々男らしいクシャミ。

 

 

「ちょっと、仁花。聞いてんの?」

「うん、聞いてる―――」

 

 

たった今、母親に怒られていた。

火神母が言っていた通り、心配をしていた様だ。

 

 

 

「まぁ、あんたが頑張ってるのはわかるけど、遅くなるなら連絡くらいしときなさい。報告、連絡、相談は社会生活において最低限の責任でしょう」

 

 

すっかり遅くなってしまった仁花。

谷地家の夕食時間を余裕でオーバーしてしまったのである。

 

玄関に立ったまま、しょげ返る仁花。仁王立ちの母。

 

 

―――当然、娘を心配する親心からやって来ているのだが、それでも頑張っているのは間違いない、と軽くため息を吐いて……、すぅ っと息を吸うと、顔を顰めた。

 

 

「……なんか、仁花。今日凄い汗臭いわよ?」

「ええ! 私が!? ……あ!」

 

 

仁花は漸く右手に握り締めていた紙袋に気付いた。

それは日向の忘れ物――――。

 

 

 

今日、烏養前監督の家へと向かった目的。

日向に忘れ物を届ける事だった。

 

 

 

 

いつもは、誰よりもしっかりしてる火神が、何だかんだとやってくれてるので、安心しきっていたが、万能と言う訳ではないのだ。

 

日向の忘れ物を確認した後、火神も一緒に向かっていると言う情報も得て、マネージャーとしての使命感、火神に頼ってばっか(谷地談)な自分卒業! と息巻いて、持っていこう……となったのだが……、今の今ままで忘れてしまっていた。

 

 

「こ、これを、届けに行ったのに……、ううーー、役に立った! って勝手に盛り上がってまで……、うううう! 私のバカ!! オケラ!!」

「は? オケラ? ……またワケの解らない事を……。いいから、手を洗ってごはんになさい。私が作ったから、味は保証しないからね!」

「はぁい……」

 

 

空回りしてしまった自分に、自己嫌悪。

すっかり落ち込んでしまった仁花は、靴を脱いで洗面台へと向かう。

 

 

「これ、洗わなきゃ………」

 

 

そう言って、ため息交じりに紙袋の中を見た。

あの春高一次予選の時、最後の忘れ物チェックを火神に、清水に頼ってしまい、ここで名誉挽回だ! っと息巻いていただけに、ダメージは甚だデカい。……主に1人で勝手に盛り上がってしまってるだけなのだが……、つまり、仁花だから仕方ない、なのだ。

 

 

それに当然それだけではない。

 

 

紙袋の中にあるくたびれたタオルとサポーターが、物語っている。

嫌でも体育館内の事を思い出させる。

 

何度も何度も(ボール)に跳び付く姿。走って跳んでの繰り返し。試行錯誤したり声を出したり、と皆頑張っている。

 

そんな頑張ってる姿をいつもいつも見ていて……、更にバレーだけじゃなく、マネ―ジャーの仕事じゃ? って思ってしまう事まで手を貸してくれるのが火神だったりするから、仁花だから、とはならないのかもしれない。

 

それも、田中や西谷の様に……何処か定番化してしまったやり取りではなく、自然に溶け込む様に手助けをしてくれている。

何だか、色んな意味で経験豊富。人生経験を自分より遥かに熟してきたような貫禄……、それが垣間見えたりしているのだ。

 

 

「さ、流石主人公………。でも……、村人Bだって……!」

 

 

なので、仁花は改めて火神をそう称する。

称すると同時に、奮起もする。

 

洗面台の鏡を見て、大宣言。

 

 

「ううーーー! 私だって、何時か! 何時か! 清水先輩の様に! 火神君だって唸るくらいの気の利くマネージャーになって見せる!!」

 

 

ぐおお! っと両手を振り上げて声を上げる仁花。

 

 

「コラ! 大きな声を出さないの!」

 

 

そして、それは近所迷惑。

台所から聞こえてきたであろう母親の声にも、応えなければならないだろう、と仁花は大きな声で言った。

 

 

 

「あス!!」

 

 

 

大声出すな、と言われているのに……。

本末転倒――――と言うツッコミは置いておこう。

 

 

 

 

 

 

……そして翌日。

 

 

 

 

 

火神にそれとなく気を使われた谷地。

昨夜の1件、鏡の前で宣言した事を、火神の前で思い出し、まるで空手家? かの如く、両手を交差させて、【オス!!】ではなく、【あス!!】と返事を返し、火神を困惑させるのだった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。